特許第6726481号(P6726481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6726481
(24)【登録日】2020年7月1日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】回路基板及び電子部品搭載基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/05 20060101AFI20200713BHJP
   H01L 23/15 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
   H05K1/05 A
   H01L23/14 C
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-35530(P2016-35530)
(22)【出願日】2016年2月26日
(65)【公開番号】特開2017-152610(P2017-152610A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2019年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 伸也
【審査官】 ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−100816(JP,A)
【文献】 特開2011−124244(JP,A)
【文献】 特開平10−107172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/05
H01L 23/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製で板状の基材と、基材の一方の面に積層された絶縁層と、絶縁層に積層された導体層を有する回路基板であって、絶縁層を形成する樹脂がポリジメチルシロキサン骨格からなるシリコーン樹脂であり、絶縁層中の無機充填材が45〜60体積%であり、無機充填材の25質量%以上が結晶性シリカである回路基板。
【請求項2】
無機充填材の平均粒子径が6〜20μmである請求項1記載の回路基板。
【請求項3】
前記シリコーン樹脂のうち、重量平均分子量が80,000以上であるシリコーン樹脂をシリコーン樹脂の25質量%以上含む請求項1又は2記載の回路基板。
【請求項4】
結晶性シリカ以外の無機充填材が、アルミナ、窒化アルミ、窒化珪素及び窒化ホウ素から選択される1種以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の回路基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の回路基板と、この回路基板上に搭載された電子部品を有する電子部品搭載基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板に関するものであり、特に、チップ抵抗、チップコンデンサ、半導体チップ等電子部品を搭載するのに適した回路基板及び電子部品搭載基板に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基板は、使用環境の温度変化により搭載部品とアルミ基材との線膨張係数差による熱応力が搭載部品と導体箔を接続している、はんだに集中することではんだクラックが発生することがある。近年、車載用電子機器については、小型化が進み、モーターとの一体化したモジュールとして、より過酷な環境であるエンジンルームに搭載されるケースが増えてきた。
また、搭載部品と導体箔の接続に用いるはんだは、従来は鉛を含有する共晶はんだが使用されていたが、鉛の人体への有害性や廃棄時の自然環境への悪影響から溶融温度の高い鉛フリーはんだが使用されることが多い。よって、急熱急冷を繰り返す過酷な使用環境であるエンジンルーム内で且つ熱応力によるクラックが発生しやすい鉛フリーはんだにおいてもはんだクラックを抑制でき、さらに導体箔と絶縁層の界面の接着性に優れた金属基板が要求されている。
【0003】
この要求に対し、絶縁層を低弾性率化し冷熱サイクル時の搭載部品とアルミ基材の線膨張率差による熱応力を緩和する手法として、特許文献1に示されるダイマー酸グリシジルエステルからなる組成や、特許文献2に示されるエポキシ樹脂を主体としシリコーン微粒子を有する組成、特許文献3に示されるシリコーンゴム硬化体と樹脂組成層の多層構造を有する絶縁層が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−298248号公報
【特許文献2】特開2002−76549号公報
【特許文献3】特開平11−150345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されるダイマー酸グリシジルエステルからなる組成は、樹脂の構造から加水分解を起こしやすいため耐湿信頼性に問題があり、エンジンルームなどの過酷な急熱急冷を繰り返す使用環境で使用できる高いハンダクラック耐性も得られない。特許文献2に示されるエポキシ樹脂を主体としシリコーン微粒子を有する組成および特許文献3に示されるシリコーンゴム硬化体と樹脂組成層の多層構造を有する絶縁層については絶縁層にポリジメチルシロキサン骨格を有することで、文献1に示される組成よりはんだクラック耐性は良好であるが、熱応力によるはんだクラックの生じやすい鉛フリーはんだではクラックの発生を抑制することができない。
【0006】
本発明の目的は、エンジンルームなどの過酷な急熱急冷を繰り返す使用環境で使用できる高いはんだクラック耐性を有し、且つ車載用プリント配線板で必要とされる導体箔の接着強度8.5N/cm以上を満足する回路基板を供給することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)金属製で板状の基材と、基材の一方の面に積層された絶縁層と、絶縁層に積層された導体層を有する回路基板であって、絶縁層を形成する樹脂がポリジメチルシロキサン骨格からなるシリコーン樹脂であり、絶縁層中の無機充填材が45〜60体積%であり、無機充填材の25質量%以上が結晶性シリカである回路基板、
(2)無機充填材の平均粒子径が6〜20μmである(1)の回路基板、
(3)前記シリコーン樹脂の重量平均分子量が80,000以上である(1)又は(2)の回路基板、
(4)結晶性シリカ以外の無機充填材が、アルミナ、窒化アルミ、窒化珪素及び窒化ホウ素から選択される1種以上である回路基板である(1)〜(3)のいずれかの回路基板、
(5)(1)〜(4)のいずれかの回路基板と、この回路基板上に搭載された電子部品を有する電子部品搭載基板、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、エンジンルームなどの過酷な急熱急冷を繰り返す使用環境で使用できる高いハンダクラック耐性を有し、且つ車載用プリント配線板で必要とされる導体箔の接着強度8.5N/cm以上を満足する回路基板である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(絶縁層)
本発明で使用される絶縁層を形成する樹脂は、冷熱サイクル時の搭載部品とアルミ基材の線膨張率差による熱応力を緩和するため、ポリジメチルシロキサン骨格からなるシリコーン樹脂が好適である。この樹脂には、硬化調整材として、遅延剤や架橋剤を配合するこができる。
【0010】
本発明では、絶縁層を形成する樹脂に無機充填材を配合することが好ましい。無機充填剤としては、電気絶縁性に優れかつ熱伝導率の高いものが用いられる。例えば、結晶性シリカ、アルミナ、窒化アルミ、窒化珪素及び窒化硼素のいずれか単独又は複数を組み合わせることができる。導体箔の接着強度の見地から、無機充填材の25質量%以上が結晶性シリカであることが好ましい。
無機充填材の充填率は、絶縁層を形成する樹脂全体のうちの45〜60容量%が好ましく、50〜57容量%であることがより好ましい。充填率が低いと回路基板の熱伝導性が低下する傾向にあり、充填率が高いと絶縁剤の粘度が高くなり基材への塗布が困難になる。
【0011】
無機充填材の平均粒子径は、6〜20μmであることが好ましい。平均粒子径が小さいと絶縁剤の粘度が上昇し基材への塗布が困難となるため、好ましくない。また平均粒子径が大きい場合は、絶縁層の耐電圧が低くなる傾向になるため好ましくない。
なお、本発明において、「平均粒子径」とは、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0012】
本発明では、前期シリコーン樹脂の重量平均分子量は80,000以上であるシリコーン樹脂をシリコーン樹脂の25質量%以上含むことが好ましい。重量平均分子量が80,000以下の場合、プリント配線板に要求される接着強度が得られない場合がある。また、この重量平均分子量が80,000以上のシリコーン樹脂の配合割合がシリコーン樹脂の25質量%未満の場合も同様にプリント配線板に要求される接着強度を得られない場合がある。
なお、本発明において、重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーにてトルエン溶媒でスチレン換算により求めた値を意味する。
また、絶縁層を形成する樹脂には、硬化調整剤、無機充填材以外にも、適宜、添加剤を配合することができる。
【0013】
(金属製で板状の基材)
本発明で使用される金属製で板状の基材としては、アルミ基材が好ましい。アルミ基材は、純アルミ(JIS呼称;1000系)、Al−Si合金(JIS呼称;4000系)、Al−Mg合金(JIS呼称;5000系)など従来公知のアルミニウム合金を使用することができ、搭載部品との線膨張率差を小さくできるAl−Si合金が好ましい。
また、絶縁層とアルミ基材界面の接着性改善のため、アルマイト処理したアルミ基材を用いることもできる。
【0014】
(導体層)
本発明で使用される導体層としては、銅、アルミニウム、鉄、錫、金、銀、モリブデン、ニッケル、チタニウムの単体又はこれら金属を二種類以上含む合金があり、なかでも汎用性の高い銅が好ましい。形状としては、板、シート、箔や、これらの積層体がある。導体層の厚さは特に制限はなく、10〜300μmが好ましい。導体層の表面にニッケルメッキや、ニッケル−金メッキ等のメッキ処理をしても良い。
【0015】
(回路基板の製造方法)
本発明の回路基板の製造方法は、従来公知の回路基板の製造方法で良く、例えば、基材に絶縁剤を塗布した後に加熱半硬化させ、さらに絶縁層の表面に導体層としての金属箔をラミネート又は熱プレスする製造方法、あるいは、絶縁剤をシート状にしたものを介して基材と導体層としての金属箔を貼り合わせる製造方法などがある。
【実施例】
【0016】
以下に示す方法で、本発明の回路基板を作製し、評価を行った。
【0017】
(絶縁層)
絶縁層を形成する絶縁剤は次のように作製した。シリコーン樹脂と無機充填材とを自転公転式ミキサー「あわとり練太郎」ARE−310(株式会社シンキー製、登録商標)で3分間撹拌混合し、絶縁剤を作製した。シリコーン樹脂は、以下に示すものを表1から表5に示す比率で用いた。無機充填材は、以下のアルミナまたはシリカを表1から表5に示す充填率・比率で混合したものを用いた。表1から表5において充填率は体積%を示し、シリコーン樹脂、無機充填材の比率はそれぞれの全体を100質量%としたときのそれぞれの質量%を示す。
【0018】
(シリコーン樹脂)
モメンティブ社製TSE3033 Mw A剤/B剤=27500/36000
モメンティブ社製XE14−B2324 Mw A剤/B剤=87900/101200
モメンティブ社製TSE3331K Mw A剤/B剤=21900/21200
【0019】
(無機充填材)
結晶性シリカ:龍森社製 A−1 d50=12μm
アルミナ(1):昭和電工社製 AA−18 d50=18μm
アルミナ(2):デンカ社製 DAW05 d50=5μm
アルミナ(3):デンカ社製 DAW10 d50=10μm
アルミナ(4):デンカ社製 DAW45S d50=45μm
【0020】
(回路基板)
作製した絶縁剤を基材1として厚さ2.0mmのアルミニウム板(材質:1050昭和電工社製)上にスクリーン印刷法で乾燥後の厚さが100μmとなるように塗布して絶縁層2を形成した。絶縁層2の上に導体層3として厚さ70μmの銅箔(GTS−MP 古河サーキットフォイル社製、商品名)を貼り合わせ、180℃で3時間の加熱を行い、絶縁層2を硬化させた。
この導体層3をエッチングして回路パターンを形成し、回路基板を得た。
【0021】
(評価)
得られた回路基板について、以下の方法に従って、耐はんだクラック性、耐電圧、及びピール強度の評価を行った。得られた結果を表1から表5に示す。
【0022】
<耐はんだクラック性の評価方法>
この回路パターン上にR1608(1.6×0.8mm)のチップ抵抗を錫−銀−銅系の鉛フリーはんだ(千住金属工業社製)、で搭載した。
この電子部品搭載基板を用い、−40℃〜+125℃(各20分)の気槽熱衝撃試験を3000サイクル実施した。顕微鏡にて熱衝撃試験後の半田接続部の断面観察を行い、クラック発生状況を調べ、次のように判定した。
○;クラック長がはんだ接合部全体の長さの50%未満
×;クラック長が、はんだ接合部全体の長さの50%以上
【0023】
<耐電圧の測定方法>
エッチング法により、回路基板上に直径が20mmの円形電極を作成し、JISC 2110に規定された20秒段階昇圧試験に基づき、円形電極とアルミニウム板との間の耐電圧を測定した。測定器には、菊水電子工業社製、TOS5101を用いた。
【0024】
<ピール強度の評価方法>
幅10mmの銅箔を残すように回路基板を加工して試料とした。銅箔と基板を90度の角度とし、50mm/minの引っ張り速度で剥離し、引き剥し強度を測定した。その他の条件はJISC6481に基づいた。測定機としては、エー・アンド・デイ社製、テンシロンRTG1210を用いた。
【0025】
<熱伝導率の評価>
絶縁層2の熱伝導率の測定は厚さ1mmにて180℃で3時間硬化させた硬化体を用い、キセノンフラッシュ法(NETZSCH社製LFA 447 Nanoflash)にて評価した。
【0026】
<印刷性の評価>
作製した絶縁剤を基材1として厚さ2.0mmのアルミニウム板(材質:1050昭和電工社製)上にスクリーン印刷法で乾燥後の厚さが100μmとなるように塗布し、アルミ板上に塗布された絶縁剤にカスレがあるか評価した。印刷機は、ニューロング社製、15GTNを用い、目視にてかすれの発生の有無を判断した。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示した実験例1から実験例6は、フィラー充填率を40体積%から65体積%に変えたほかは、すべて同様に評価した。実験例1のフィラー充填率が40体積%の場合は十分な熱伝導率が得られなかった。実験例6のフィラー充填率が65体積%の場合は、目標とした耐はんだクラック性が得られず、さらにスクリーン印刷時にカスレが生じ、それにより耐電圧が低い結果となった。また、十分なピール強度も得られなかった。実験例2から実験例5では、耐はんだクラック性、耐電圧、ピール強度、熱伝導率ともに良好な結果が得られた。
【0029】
【表2】
【0030】
表2に示した実験例3および実験例7から実験例10は、無機充填材のアルミナとシリカの配合比率を変えたほかは、すべて同様に評価した。実験例7のアルミナ単独の場合は、ピール強度が低い結果となったが、実験例8から実験例10および実験例3のシリカの配合比率が25質量%以上の場合には、十分なピール強度が得られ、耐はんだクラック性、耐電圧、熱伝導率を含め、良好な結果が得られた。
【0031】
【表3】
【0032】
表3に示した実験例3および実験例11から実験例13は、無機充填材の粒径を変えたほかは、すべて同様に評価した。いずれも耐はんだクラック性は目標値を満足したが、実験例11の平均粒径5μmのアルミナを使用した場合は、スクリーン印刷時にカスレが生じた。また、実験例13の平均粒径45μmのアルミナを用いた場合は、耐電圧が著しく低くなった。実験例12および実験例3のアルミナの平均粒径が10μm、18μmの場合は、耐はんだクラック性、耐電圧、ピール強度、熱伝導率ともに良好な結果が得られた。
【0033】
【表4】
【0034】
表4に示した実験例14から実験例16は、重量平均分子量の異なるシリコーン樹脂を用いたほかは、すべて同様に評価した。いずれも耐はんだクラック性は目標値を満足したが、実験例14および実験例15では、ピール強度が低くなったが、実験例16は十分なピール強度が得られ、耐電圧、熱伝導率を含め、良好な結果が得られた。
【0035】
【表5】
【0036】
表5に示した実験例3および実験例17から実験例20は、重量平均分子量の異なる二種類のシリコーン樹脂の配合割合を変えたほかは、すべて同様に評価した。いずれも耐はんだクラック性は目標値を満足したが、実験例17の重量平均分子量が小さいシリコーン樹脂を単独で使用した場合は、十分なピール強度が得られなかった。実験例18から実験例20および実験例3の重量平均分子量が大きいシリコーン樹脂を25質量%以上加えた場合は、十分なピール強度が得られ、耐電圧、熱伝導率を含め、良好な結果が得られた。