特許第6726491号(P6726491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6726491
(24)【登録日】2020年7月1日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】糸道摩耗試験機および糸道摩耗試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/56 20060101AFI20200713BHJP
【FI】
   G01N3/56 M
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-46304(P2016-46304)
(22)【出願日】2016年3月9日
(65)【公開番号】特開2017-161369(P2017-161369A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2019年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日鉄日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】藤原 勝
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 大
【審査官】 島田 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−291467(JP,A)
【文献】 特開2000−191235(JP,A)
【文献】 特開昭55−067068(JP,A)
【文献】 特開2004−292999(JP,A)
【文献】 特開2015−190036(JP,A)
【文献】 特開平04−252938(JP,A)
【文献】 特開2014−040325(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02573537(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00−3/62
B65H 54/00
B65H 57/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に糸を接触させた状態で摺動させて摩耗させる糸道摩耗試験機であって、
糸供給手段と、
糸供給手段からの糸を巻取可能な巻取リールと、
巻取リールの外周面に接触して設けられ、糸供給手段から糸を巻取リールへ案内する巻取ドラムと、
糸供給手段と巻取ドラムとの間の糸の経路で糸を案内する対をなす支持部材を備え、これら支持部材の間隔に応じて糸のテンションを調整するテンション調整手段と、
糸供給手段からの巻取リールに巻き取られて移動する糸の経路における支持部材の間の位置にて試料を所定の荷重で糸に接触させた状態で保持する試料保持手段と、
巻取リールと巻取ドラムとが接触した状態を保持する接触保持手段と
を具備することを特徴とする糸道摩耗試験機。
【請求項2】
巻取ドラムは、その外周面に糸供給手段からの糸を巻取リールへ案内するガイド溝部が設けられ、
ガイド溝部は、糸が巻取リールの軸方向に沿って順次巻き付けられるように巻取ドラムの周方向に対して傾斜状である
ことを特徴とする請求項1記載の糸道摩耗試験機。
【請求項3】
接触保持手段は、巻取リールと巻取ドラムとの一方を他方に押し付ける荷重を付与する重錘を備える
ことを特徴とする請求項1または2記載の糸道摩耗試験機。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか一記載の糸道摩耗試験機を用いた糸道摩耗試験方法であって、
糸供給手段からの糸を巻取リールで巻き取って移動させ、
この移動する糸に対しテンション調整手段の支持部材の間の位置にて所定の荷重で試料を接触させて保持し、試料と糸とを摺動させて試料を摩耗させる
ことを特徴とする糸道摩耗試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
糸等の繊維による鋼板の摩耗試験のための糸道摩耗試験機および糸道摩耗試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩耗は、その発生メカニズムによって種々の形態に分類される。二部材間の接触や摺動等によって生じる摩耗は、アブレシブ摩耗、凝着摩耗および疲れ摩耗等がある。そして、いずれの摩耗が生じているかは、実機の形態や運転状況によって異なる。
【0003】
例えば編み機や織り機等の繊維機械部品は、糸等の繊維が摺動するため、繊維に含まれるAlやSiO等の夾雑物との摺動によってアブレシブ摩耗が生じる。また、近年では、TiOによる艶消しやAgによる消臭効果等の高機能な化学繊維が多く開発されており、これらの化学繊維に含まれる微粒子によって摩耗が著しくなっている。
【0004】
したがって、繊維機械用部品を形成する素材では、一般的な耐摩耗性だけでなく、特に繊維の摺動に対する耐糸摩耗性が求められている。
【0005】
このような耐糸摩耗性を評価する方法としては、例えば特許文献1の実施例に示す方法や、特許文献2の実施例に示す方法等がある。
【0006】
特許文献1および2では、所定の糸を多くの試験片に押し付け、糸に所定の張力を付与した状態で、試験片を往復移動させることにより、糸と試験片とを摺動させた後、試験片の摩耗量を測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−286852号公報
【特許文献2】特開2003−105504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の特許文献1および2の方法では、一定張力の糸を供試材の表面に一定時間通過させて、摩耗を形成する旨が記載されているが、具体的な方法や試験機の構成が不明である。また、繊維一本毎と供試材とを接触させることから、多くの供試材を準備する必要があるとともに、糸と試料とを往復して摺動させるため、摩耗試験の進行にともなって糸に損傷や切断が発生する可能性があり、安定して摩耗試験を行うことができないのが現状である。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、安定して糸による摩耗試験を行うことができる糸道摩耗試験機および糸道摩耗試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載された糸道摩耗試験機は、試料に糸を接触させた状態で摺動させて摩耗させる糸道摩耗試験機であって、糸供給手段と、糸供給手段からの糸を巻取可能な巻取リールと、巻取リールの外周面に接触して設けられ、糸供給手段から糸を巻取リールへ案内する巻取ドラムと、糸供給手段と巻取ドラムとの間の糸の経路で糸を案内する対をなす支持部材を備え、これら支持部材の間隔に応じて糸のテンションを調整するテンション調整手段と、糸供給手段からの巻取リールに巻き取られて移動する糸の経路における支持部材の間の位置にて試料を所定の荷重で糸に接触させた状態で保持する試料保持手段と、巻取リールと巻取ドラムとが接触した状態を保持する接触保持手段とを具備するものである。
【0011】
請求項2に記載された糸道摩耗試験機は、請求項1記載の糸道摩耗試験機において、巻取ドラムは、その外周面に糸供給手段からの糸を巻取リールへ案内するガイド溝部が設けられ、ガイド溝部は、糸が巻取リールの軸方向に沿って順次巻き付けられるように巻取ドラムの周方向に対して傾斜状であるものである。
【0012】
請求項3に記載された糸道摩耗試験機は、請求項1または2記載の糸道摩耗試験機において、接触保持手段は、巻取リールと巻取ドラムとの一方を他方に押し付ける荷重を付与する重錘を備えるものである。
【0013】
請求項に記載された糸道摩耗試験方法は、請求項1ないし3いずれか一記載の糸道摩耗試験機を用いた糸道摩耗試験方法であって、糸供給手段からの糸を巻取リールで巻き取って移動させ、この移動する糸に対しテンション調整手段の支持部材の間の位置にて所定の荷重で試料を接触させて保持し、試料と糸とを摺動させて試料を摩耗させるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、試料に接触して摺動する糸のテンションを支持部材の間隔に応じて調整でき、巻取リールと巻取ドラムとの接触状態が保持できるため、長期間安定して糸による摩耗試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態に係る糸道摩耗試験機の構成を概略的に示す模式図である。
図2】同上糸道摩耗試験機における巻取リールおよび巻取ドラムを示す斜視図である。
図3】同上糸道摩耗試験機における接触保持手段の構成を概略的に示す側面図である。
図4】同上糸道摩耗試験機におけるテンション調整手段を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態の構成について詳細に説明する。
【0017】
図1において、1は糸道摩耗試験機であり、この糸道摩耗試験機1は、試料としての試験片2に糸3を接触させた状態で摺動させて、試験片2を摩耗させる摩耗試験を行うものである。
【0018】
糸道摩耗試験機1は、糸供給手段4から引き出されて供給される任意の材質の糸3が巻き取られる巻取部5と、糸供給手段4からの糸3を巻取部5へ向けて案内する案内部6とを備えている。
【0019】
糸供給手段4は、外周面に糸3が巻き付けられており、この巻き付けられた糸3の先端部側を引き出すことができる。
【0020】
巻取部5は、床面に設置された基体11の上部に巻取リール12および巻取ドラム13がそれぞれ回転可能に設置されている。
【0021】
巻取リール12は、例えばポリ塩化ビニル等の合成樹脂で軸方向の一方側が細くいわゆるコーン形に形成されたリール本体14を有し、このリール本体14内に軸部15が固定されている。そして、基体11に対して基端部22を中心に先端部23側が回動可能となるように取り付けられた第1の腕部21の先端側に軸部15が回転可能に軸支されることで、リール本体14が軸部15を中心にして回転可能となる。
【0022】
また、巻取リール12は、糸供給手段4から引き出された糸3の先端部をリール本体14に固定した状態で回転させることで、リール本体14の外周面に糸3が巻き付けられる。
【0023】
巻取ドラム13は、合成樹脂で円筒状に形成されたドラム本体16を有し、このドラム本体16内に軸部17が固定されている。そして、軸部17が基体11の上部に回転可能に軸支されることで、ドラム本体16が軸部17を中心に回転可能となる。
【0024】
また、巻取ドラム13は、ドラム本体16の軸方向がリール本体14の軸方向とはややずれるように設置されるとともに、ドラム本体16の外周面がリール本体14の外周面に接触するように設置されている。そして、このようにドラム本体16とリール本体14とが接触した状態で、巻取ドラム13を例えばモータ等の駆動手段によって回転させると、接触しているリール本体14もドラム本体16とは反対方向に回転する。
【0025】
図2に示すように、ドラム本体16の外周面には、糸供給手段4からの糸3を係合可能で、その糸3をリール本体14へ案内するガイド溝部18が設けられている。
【0026】
このガイド溝部18は、ドラム本体16の周方向に対して傾斜状にのび、外周面状で交差している。
【0027】
そして、糸供給手段4からの糸3がガイド溝部18に係合されその糸3の先端部がリール本体14に固定された状態にて、ドラム本体16を回転させると、リール本体14もドラム本体16とは反対方向へ回転するとともに、その回転によってリール本体14に巻き取られる糸3が、傾斜状のガイド溝部18に沿って案内されて、リール本体14の軸方向に沿って往復するように順次巻き付けられる。
【0028】
ここで、巻取リール12による糸3の巻取量が多くなってくると、巻取リール12が巻取ドラム13から離間する方向へ持ち上げられるため、巻取リール12と巻取ドラム13との接触状態が不安定になってガタツキ等が生じ、糸3の巻き取り中の振動が大きくなる。また、振動が大きくなると、その振動が糸3に伝わって、糸3と試験片2との接触角すなわち摩耗箇所にずれが生じて、摩耗状態に悪影響を与える可能性がある。
【0029】
そこで、巻取リール12と巻取ドラム13との接触状態を保持する接触保持手段24が設けられている。
【0030】
図3に示すように、接触保持手段24は、巻取リール12が取り付けられた第1の腕部21の基端部22に対して接続部25を介して接続された第2の腕部26を有している。
【0031】
第2の腕部26は、接続部25に接続された基端部27を中心に先端部28側が回動可能である。この第2の腕部26の先端部28側には、取付部材29を介して所定の質量(例えば8kg)の重錘30が設けられている。
【0032】
また、第1の腕部21と第2の腕部26とは接続部25において、てこの原理を利用して接続されている。すなわち、重錘30によって第2の腕部26の先端部28側が押し下げられるように荷重が付与されると、てこの原理によって、第1の腕部21の先端部23側に設けられた巻取リール12が、下方である巻取ドラム13側に押し下げられるように荷重が付与され、巻取リール12と巻取ドラム13とが接近する方向へ押し付けられて接触状態が保持される。
【0033】
案内部6は、床面に設置された固定台31の上部に固定されたガイド部材32と、固定台31の上部に取外可能に取り付けられた支持部材33,34とが設けられている。
【0034】
そして、糸供給手段4からの糸3は、ガイド部材32および支持部材33,34に順次係合されて巻取部5へ向かって案内され、基体11に設けられたガイド部材36に係合されて巻取リール12および巻取ドラム13へ向かって案内される。すなわち、糸供給手段4からの糸3は、ガイド部材32にて支持部材33へ向かって方向転換され、支持部材33にて支持部材34へ向かって方向転換され、支持部材34にてガイド部材36へ向かって方向転換されて、ガイド部材36にて巻取ドラム13へ向かって方向転換されて、巻取ドラム13のガイド溝部18を通って巻取リール12に巻き付けられる。
【0035】
また、固定台31には、図示しないロードセルが接続された試料保持手段35が固定され、この試料保持手段35には試験片2が位置調整可能に固定されている。
【0036】
このように試料保持手段35に固定された試験片2は、支持部材33,34間の糸3に所定の荷重で接触された状態で保持される。
【0037】
そして、試験片2が糸3に接触された状態で、糸3が巻取リール12に巻き取られることで、糸供給手段4から巻取リール12へ向かって糸3が一方方向に移動されて、糸3と試験片2とが所定の荷重で摺動する。
【0038】
ここで、図4に示すように、固定台31における支持部材33,34の取付位置を変更することにより、糸供給手段4と巻取リール12との間で試験片2が接触した状態の糸3のテンションを調整できる。すなわち、固定台31の複数の開口部37と支持部材33,34とがテンション調整手段として作用する。
【0039】
次に、上記糸道摩耗試験機1を用いた糸道摩耗試験方法について説明する。
【0040】
まず、糸供給手段4から糸3を引き出して、この糸3を、ガイド部材32、支持部材33,34およびガイド部材36に順次係合させ、巻取ドラム13のガイド溝部18を通して巻取リール12に固定して、糸供給手段4から巻取リール12に糸3を巻き掛ける。
【0041】
また、試料保持手段35に試験片2を固定し、必要に応じて支持部材33,34の取付位置を変更して糸3のテンションを調整するとともに、試験片2の糸3への押し付け荷重を調整する。
【0042】
さらに、第2の腕部26の取付部材29に重錘30を取り付け、巻取リール12が巻取ドラム13側へ押し付けられるように荷重を付与する。
【0043】
そして、所定の送り速度となるように巻取ドラム13の回転速度を設定するとともに、所定の摩耗距離となるように巻取ドラム13の回転時間を設定する。
【0044】
その後、巻取ドラム13を回転させて、試験片2に対して糸3を摺動させ、糸3による摩擦によって試験片2を摩耗させる。
【0045】
摩耗試験終了後には、重量変化や体積変化によって摩耗量を測定する。例えば、試験片2の形状をレプリカ樹脂に転写し、摩耗部分をレーザ顕微鏡で観察する。また、レーザ顕微鏡での観察により、摩耗痕深さ等を測定し比摩耗量を算出して、試験片2に関する糸3による耐摩耗性を評価する。
【0046】
上記一実施の形態によれば、支持部材33,34の固定台31における取付位置を調整することで試験片2に接触して摺動する糸3のテンションを容易に調整できるため、試験片2の素材や糸3の種類に応じて、摩擦状態を適切に設定でき、摩耗試験中の糸3の損傷や破断等の不具合を防止できる。
【0047】
また、重錘30によって巻取リール12を巻取ドラム13へ向けて押し付けるように荷重を付与した状態で摩耗試験を行うため、巻取リール12による糸3の巻き取りが進行しリール本体14の外周面に巻き付けられた糸3の厚みが厚くなっても、巻取リール12と巻取ドラム13との接触状態を保持できる。したがって、巻取リール12による糸3の巻取状態が安定し、巻き取りの進行にともなう糸3のずれ等の不具合が生じにくく、その不具合によって糸3のテンションや糸3に対する試験片2の押し付け荷重が変化してしまうことを防止でき、一定の試験条件で摩耗を進行できる。
【0048】
したがって、例えば比較的長期間で糸3による摩耗試験を行う場合であっても、安定して、摩耗試験を行うことができる。
【0049】
また、数mm角程度で摩耗試験の試験片としては非常に小さな試験片であっても、摩耗試験を実施できる。
【0050】
さらに、糸の送り速度、試験片への荷重、糸のテンションおよび糸の種類を変更可能であるため、これらの条件を適宜変更することで加速試験が可能となる。
【0051】
なお、上記一実施の形態では、試験片2が固定される固定台31における支持部材33,34の取付位置を変更することにより、糸3のテンションを調整する構成としたが、このような構成には限定されず、テンション調整手段は、糸供給手段4と巻取リール12および巻取ドラム13との間の糸3のテンションを調整できる構成であれば、適宜変更できる。
【0052】
また、接触保持手段24は、てこの原理を利用して、重錘30によって巻取リール12を巻取ドラム13側へ押し付けるように荷重を付与することで接触状態を保持する構成としたが、このような構成には限定されず、巻取リール12および巻取ドラム13の少なくとも一方を、これら巻取リール12と巻取ドラム13とが接触した状態を保持するように押し付ける構成であればよい。
【符号の説明】
【0053】
1 糸道摩耗試験機
2 試料としての試験片
3 糸
4 糸供給手段
12 巻取リール
13 巻取ドラム
18 ガイド溝部
24 接触保持手段
30 重錘
33,34 支持部材
35 試料保持手段
図1
図2
図3
図4