(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6726512
(24)【登録日】2020年7月1日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】マイクロニードルアプリケータ
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20200713BHJP
【FI】
A61M37/00 510
A61M37/00 530
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-82457(P2016-82457)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-185162(P2017-185162A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】501296380
【氏名又は名称】コスメディ製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】権 英淑
(72)【発明者】
【氏名】樋口 清恒
(72)【発明者】
【氏名】神山 文男
【審査官】
村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2015/0367117(US,A1)
【文献】
特開2016−030072(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/138206(WO,A1)
【文献】
特開2011−194189(JP,A)
【文献】
特開2010−046548(JP,A)
【文献】
特開2013−090808(JP,A)
【文献】
特表2007−511318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン、ばね、ラッチ及びパッチ保持部を有するシリンダーと、
該シリンダー先端はマイクロニードルパッチを保持するための該パッチ保持部を備えており、
該シリンダー内は該ピストンと該ばねを備え、さらに該ピストンの動きを制御する該ラッチを備え、
該ピストンを該シリンダーの下方に引くと該ばねが圧縮され、そのまま引き続けると該ラッチにより圧縮された状態で保持される構造を有し、ここで下方は該シリンダー先端の方向を示し、
該シリンダー内の気密は該ピストンにより保持され、
該シリンダーの内部は、マイクロニードルパッチを該パッチ保持部に密着させ、該ピストンを上に引くと減圧されるような気密構造である、該シリンダーと、
液体容器とから構成されるマイクロニードルアプリケータであって、
該液体容器は該シリンダー外部若しくは内部に付属されており、刺入後のマイクロニードルパッチに注水する液体を貯留しており、
該液体容器と該シリンダー先端とは該液体を搬送する細管で結ばれており、該細管は該シリンダー内の該ピストンの内部若しくは外部、又は該シリンダー外部を通過しているマイクロニードルアプリケータ。
【請求項2】
減圧により前記マイクロニードルパッチを吸引保持できることを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【請求項3】
前記液体容器内に化粧水を保持している請求項1に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【請求項4】
前記細管が前記ピストンの内部を通過していることを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【請求項5】
前記液体容器がスポイト状であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルパッチを皮膚に投与する際のアプリケータに関する。
【背景技術】
【0002】
薬物を人の体内に投与する手法として、経口的投与と経皮的投与がよく用いられている。注射は代表的な経皮的投与法であるが、煩わしく苦痛を伴い、更に感染もあり得る歓迎すべからざる手法である。経皮的投与のさい皮膚角質層は薬物透過のバリアとして働き、単に皮膚表面に薬物を塗布するだけでは透過性は必ずしも十分ではない。これに対し微小な針、すなわちマイクロニードルを用いて角質層を穿孔することにより、塗布法より薬物透過効率を格段に向上させることができる。このマイクロニードルを基板上に多数集積したものがマイクロニードルアレイである。また、マイクロニードルアレイを皮膚に付着させるための粘着シートや、粘着シートを保護しマイクロニードルアレイを皮膚に貼付するさいの支えとするための保護離型シートなどを付加して使用しやすい製品としたものをマイクロニードルパッチという。
【0003】
マイクロニードルアレイを皮膚に投与するさい、マイクロニードルアレイを指で押さえるだけではマイクロニードルを皮膚内に刺入することは容易ではない。これは一般に皮膚は柔軟であり弾力性のある組織であるから、マイクロニードルのとがった先端を皮膚に押しつけても、皮膚がその衝撃を吸収し変形することによりマイクロニードルの皮膚内侵入を妨げるためである。
【0004】
マイクロニードルアレイを衝撃吸収能のある皮膚に投与するには、マイクロニードルアレイを皮膚方向に衝撃することが適切である。この具体的方法として、これまで、ばね(特許文献1−6、8)、空気圧(特許文献5)や磁力(特許文献7)などを用いたマイクロニードル投与装置(マイクロニードルアプリケータ)が提案されてきた。ばねを女性や小児にも容易に使用できるようにするには、ばね圧縮方法とトリガー方法に工夫を要する。また、空気圧や磁力の利用も、必ずしも簡便とは言えない。従来のマイクロニードルアレイ投与装置は実用上の問題を残しており、利用者からはより簡便でかつ刺入が確実に実現できる装置が求められていた。
【0005】
水溶性の素材で作られたマイクロニードルは刺入後皮膚内の水分で溶解していくが、これには相当な時間を要し、特に化粧品を目的とする場合はこのため被投与者に対する利便性を著しく損なう。水溶性の素材でマイクロニードルアレイを作成し、皮膚へ刺入後その背面から水分を供給すると、マイクロニードルは迅速に溶解する(特許文献9)。しかしながらマイクロニードルパッチを皮膚に投与した状態で水分を供給し、マイクロニードルの皮膚内溶解を早めうるような、投与と水分供給を共に行いうるアプリケータはこれまで存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】特表2004−510530号公報(特許4198985号公報)
【特許文献2】特表2004−510534号公報(特許4104975号公報)
【特許文献3】特表2004−510535号公報(特許4659332号公報)
【特許文献4】特表2005−533625号公報
【特許文献5】特表2006−500973号公報
【特許文献6】特表2007−509706号公報(特許4682144号公報)
【特許文献7】特開2011−078711号公報
【特許文献8】特開2014−42788号公報
【特許文献9】特開2011−194189号公報(特許5408592号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、マイクロニードルパッチ収納容器からマイクロニードルパッチを極めて簡易かつ衛生的な操作で取り出すことができ、衝撃吸収能を有する皮膚に確実にマイクロニードルパッチを投与でき、マイクロニードルアレイの背面から水分を供給することができる、簡便で使いやすいマイクロニードルアプリケータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明に係わるマイクロニードルアプリケータは、ピストン、ばね、ラッチ及びパッチ保持部を有するシリンダーと、液体容器とから構成されることを特徴とする。
【0009】
本発明のアプリケータは、シリンダー内にピストンとバネを備え、さらにピストンの動きを制御するラッチを備えている。ピストンはシリンダー内の気密を保持できる。シリンダー先端には、マイクロニードルパッチを保持するためのパッチ保持部を備えている。
【0010】
液体容器はシリンダー外部若しくは内部に付属されており、刺入後のマイクロニードルパッチに注水する減菌した水又は化粧水を貯留している。液体容器とシリンダー先端とは液体を搬送する細管で結ばれているが、この細管はシリンダー内のピストンの内部を通ってもピストンの外部を通っても、あるいはシリンダー外部を通っても、水又は化粧水をシリンダー先端まで漏れなく導くことができればいずれでも差し支えない。
さらに、液体容器からの液体の供給を制御するバルブを備えていることが望ましい。
【0011】
本発明のアプリケータは、マイクロニードルパッチをその収納容器から減圧を利用して吸引してアプリケータ先端に保持し、そのマイクロニードルパッチをそのまま皮膚に貼付できるのが第一の機能である。すなわちマイクロニードルパッチをその収納容器から取り出す際に、さらにマイクロニードルパッチを皮膚表面に貼付する際に、マイクロニードルパッチを直接手で触れる必要がなく、安全かつ衛生的に取り扱うことができる。また、この操作の間にアプリケータが被投与者の皮膚に接触することもなく、安全かつ衛生的である。
【0012】
本発明のアプリケータは、先端部に保持したマイクロニードルパッチを皮膚面に均等な力で押しつけ、マイクロニードルを皮膚内へあるいは角質内へ刺入できることが第二の機能である。
マイクロニードルの刺入に際しては、バネを利用したピストンでマイクロニードルパッチの背面を衝撃することもできる。
【0013】
本発明のアプリケータは、刺入されたマイクロニードルパッチの背面から水を供給できるのが第三の機能である。刺入したアプリケータの背面から水分を供給すれば、水溶性高分子を素材とするマイクロニードルは迅速に溶解することはすでに知られている(特許文献9)。迅速に溶解できれば、被投与者の処置が迅速に進行し、投与者と被投与者双方の利便性が向上する。なお、背面から供給する水は、化粧水を好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアプリケータは、マイクロニードルパッチの取り出し、刺入、給水という3つの機能を順次実行することができ、マイクロニードルパッチの刺入のみを行う公知のアプリケータ(特許文献7)より機能が充実している。その結果、マイクロニードルパッチの取り扱いをアプリケータのみで行うことができ、使用方法の簡易化により投与者及び被投与者の双方に利益となる。
【0015】
本発明のアプリケータは、刺入に際し使い捨てのマイクロニードルパッチ保持具を使用しないにもかかわらず、マイクロニードルアレイを直接手で取り扱うことがなく、アプリケータは被投与者の皮膚に接触しないので、マイクロニードルパッチの取り扱いが安全かつ衛生的となる。その結果、複数の被投与者に連続的に投与する際、そのたびにアプリケータを消毒する必要がなく、投与が容易となる。これは美容院等においてマイクロニードルアプリケータを使用する際便利な特徴である。
【0016】
刺入されたマイクロニードルパッチに水分を供給し迅速に溶解させることができるので、使用に便利である。特に美容院等において投与する際、一人の被投与者に長い時間をかける必要がないので、便利である。
【0017】
マイクロニードルパッチの取り出し、刺入、給水という3つの機能を順次実行できるアプリケータは知られていない。特に、マイクロニードルパッチを減圧を利用してアプリケータに吸引して収納容器から取り出し、皮膚に密着させる機構は従来知られていない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図4】第1実施例のアプリケータがマイクロニードルパッチを保持している状態の図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。しかし、本発明は実施例の内容に限定されるわけではない。
【実施例】
【0020】
(マイクロニードルアレイの製造)
リソグラフィ法により感光性樹脂に光照射して所定形状のマイクロニードルパターンを形成した後、電鋳加工により所定形状のマイクロニードルパターンを転写したマイクロニードル形成用凹部が形成された鋳型10を製造した。この鋳型10と、この鋳型10の上面に流し込まれたマイクロニードル素材(水溶性高分子)の水溶液12を
図1に示す。
このマイクロニードル形成用凹部11は、入口直径が0.2mm、底部直径が0.04mm、深さ0.8mmの円錐形状であり、0.6mm間隔に格子状に配列されており、1cm
2あたり250個形成されている。
【0021】
この鋳型10により形成されるマイクロニードルアレイは、
図2に断面図を示すように、マイクロニードル14と基板13から構成される。マイクロニードルは基板の一方の面に設けられている。この図において、各マイクロニードルは、ニードル根元の直径(b)0.2mm、先端直径(c)0.04mm、高さ(a)0.8mmの円錐台状であり、間隔(d)0.6mmで格子状に配列されている。このマイクロニードルアレイを円形に形成したとき、1cm
2に約250個のマイクロニードルを含んでいる。
以下の試験においては、水溶性高分子であるヒアルロン酸を素材として作成された直径1.5cmの円形のマイクロニードルパッチを使用した。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施例1のアプリケータを
図3に示す。この図において、シリンダー20は断面図で示されている。
本アプリケータはシリンダー20の内部にピストン21、バネ22及びラッチ23を備えている。アプリケータの下部の先端には、やや先が広がった平面状をなしているパッチ保持部24が設けられている。
以下の説明の便宜上、このアプリケータの使用時に皮膚に近い方(
図3の下方)を下、その逆の方向(
図3の上方)を上と定義する。また、マイクロニードルパッチはマイクロニードルのある方を表面、その逆の面を背面と定義する。
【0023】
アプリケータ上部には、液体容器30、そのバルブ31、そのバルブを開閉するためのツマミ32が接続されている。バルブ31からシリンダー内部を通って細管33が延びており、パッチ保持部24まで続いている。液体容器には滅菌した水を入れても良いが、通常は化粧水を入れておく。
【0024】
ピストン21をその引き手を用いてシリンダー20の下方に引くとバネ22が圧縮されるが、そのまま引き続けるとやがてラッチ23により圧縮された状態で保持される。パッチ保持部24をマイクロニードルパッチ収納容器内のマイクロニードルパッチ40の背面に密着させ、ラッチ23を押す。するとピストンは上へ飛び跳ね、シリンダー20の内部は減圧され、マイクロニードルパッチ40はパッチ保持部24に吸い付けられて保持される。このためシリンダー20は減圧を保つ必要があり、気密に製作されている。この状態を
図4に示す。
図4は断面図で示されている。
また
図4にはマイクロニードルが4本記載されているが、これはわかりやすくするためマイクロニードルを拡大して書いたものであり、実際はマイクロニードルの高さは0.8mmであり、本数は数百本である。
【0025】
アプリケータにより吸引保持されたマイクロイードルパッチを収納容器から取り出し、アプリケータを被投与者の皮膚に向かって強く押し付けることによりマイクロニードルパッチは角質へ刺入され、針が長い場合は角質を通過して皮膚内へ挿入される。この間、マイクロニードルパッチは全く人の手に触れないので、衛生的に保たれる。
【0026】
なお、マイクロニードルパッチを収納容器から取り出し、皮膚に接触させ、マイクロニードルパッチ付属の粘着テープで皮膚に固定後、アプリケータをいったん取り外し、再度ピストンを圧縮し、逆向きにしてマイクロニードルパッチ裏面上に置き、ラッチを引いてピストンでマイクロニードルパッチの背面を衝撃し、刺入させることもできる。この場合も、マイクロニードルパッチは全く人の手に触れず、かつアプリケータも被投与者の身体に触れないので、マイクロニードルパッチの刺入は衛生的に行われる。
なお、この場合、細管33はピストンの内部を通ることはできない。
【0027】
マイクロニードルパッチが皮膚に刺入された後もアプリケータはマイクロニードルパッチに押しつけたままとしておく。この状態で、ツマミ32を操作してバルブ31を開ければ、液体容器30から化粧水が細管33を通ってマイクロニードルアレイ背面に注がれる。
この時の注水量は、バルブ31を一瞬開けたとき0.05〜0.1mLとなるように調節しておく。多くの場合この程度の水量で充分であるが、必要に応じ、バルブ開時間を延長すれば、より大量の水を注水することができる。
1回当たりの化粧水注入量は多くないので、液体容器は小さくても良いが、複数の被投与者に連続的に投与する際は、大きい方が便利である。
【0028】
ヒアルロン酸は水を加えれば容易に溶解するので、マイクロニードルパッチは注水により急速に溶解し、マイクロニードルは皮膚内で溶解し吸収される。
アプリケータを皮膚から離し皮膚に適用されたマイクロニードルパッチをよくマッサージして溶解をさらに促進することができる。
本アプリケータはマイクロニードルパッチの皮膚投与後の溶解を早めて経皮吸収を促進するために極めて有効である。
【実施例2】
【0029】
本発明のアプリケータの他の実施形態を示す。
実施例2のアプリケータの断面図を
図5に示すが、細管34がシリンダー外部を経由しているのが特徴である。その使用方法は、実施例1の場合と同様である。実施例1と同様な部品については、番号の記載を省略している。
図5において、左側の図は始状態の図であり、右側の図はマイクロニードルパッチを吸引保持している状態の図である。右側の図は左側の図に対し、90°回転した状態である。
【実施例3】
【0030】
本発明のアプリケータの第3の実施形態を示す。
実施例3のアプリケータの断面図を
図6に示すが、液体容器35がシリンダーから取り外し可能なスポイト状であることが特徴である。液体容器35はゴム製とするのが便利である。その他の部分は実施例1と同様であり、
図6において番号の記載を省略している。なお、
図6は液体容器35が空の場合の図である。
【0031】
液体容器35に化粧水を充填するには、いったん取り外し、スポイトの原理で充填し、ピンチコックなどで化粧水が流出しないようにして、その後再びシリンダーに取り付ける。マイクロニードルパッチの取り出しと刺入は、実施例1と同様に行うことができる。化粧水をマイクロニードルパッチに注ぐ際は、ピンチコックを開け、スポイトのゴム部分を押さえれば化粧水がシリンダー先端部24から放出される。実施例3のアプリケータは、実施例1、2のアプリケータより構造が簡単であり、従ってより安価に製造でき、1日1〜2回程度の使用が想定される個人的使用に便利と考えられる。