特許第6726557号(P6726557)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6726557-スポット溶接機及びスポット溶接方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6726557
(24)【登録日】2020年7月1日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】スポット溶接機及びスポット溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/11 20060101AFI20200713BHJP
【FI】
   B23K11/11 520
   B23K11/11 510
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-150523(P2016-150523)
(22)【出願日】2016年7月29日
(65)【公開番号】特開2018-15807(P2018-15807A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】渥美 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 陽介
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−128552(JP,A)
【文献】 特開2004−280529(JP,A)
【文献】 特開2012−71333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 − 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わされたワークに一対の電極を当接させ、前記電極間に溶接電流を通電させることによりスポット溶接部を形成するスポット溶接機であって、
一方の前記電極を前記ワークに対して移動させるサーボシリンダと、
前記サーボシリンダの動作、及び前記電極間の前記溶接電流を制御する制御部と、
前記一方の電極と前記ワークとの接触状態を検出する検出部と、を備え、
前記制御部は、
溶接開始時の初期位置において前記一方の電極が前記ワークに予め設定された加圧力で押し当てられるように前記サーボシリンダを制御すると共に、
溶接開始後、前記電極間に前記溶接電流が流れている間、前記一方の電極の位置が前記初期位置に維持されるように前記サーボシリンダを制御し、
前記一方の電極の位置を維持する制御の実行中に前記一方の電極と前記ワークとが非接触となったことが前記検出部によって検出された場合には、前記溶接電流の通電を停止させる、スポット溶接機。
【請求項2】
重ね合わされたワークに一対の電極を当接させ、前記電極間に溶接電流を通電させることによりスポット溶接部を形成するスポット溶接方法であって、
溶接開始時の初期位置において一方の前記電極が前記ワークに予め設定された加圧力で押し当てられるようにサーボシリンダを制御するステップと、
溶接開始後、前記電極間に前記溶接電流が流れている間、前記一方の電極の位置が前記初期位置に維持されるように前記サーボシリンダを制御するステップと、を含み、
前記一方の電極の位置を維持する制御の実行中に前記一方の電極と前記ワークとが非接触となったことが検出部によって検出された場合には、前記溶接電流の通電を停止させる、スポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接機及びスポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重ね合わされたワークを溶接する方法の一つとして、スポット溶接が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の溶接方法は、インダイレクトスポット溶接と称され、ワークの一方面側とワークの他方側とに電極をそれぞれ当接させ、電極間に溶接電流を通電させることによりスポット溶接部を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4209570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スポット溶接では、例えば、エアシリンダの加圧力によって電極をワークに押し当てた状態で溶接が行われる。しかしながら、スポット溶接では、通電による温度上昇で軟化したワークに電極が押し込まれることで、ワークに圧痕が生じることが課題となっていた。ワークに圧痕が目立つ場合、ワークの外観品質が低下してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、ワークの圧痕を抑制できるスポット溶接機及びスポット溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスポット溶接機は、重ね合わされたワークに一対の電極を当接させ、電極間に溶接電流を通電させることによりスポット溶接部を形成するスポット溶接機であって、一方の電極をワークに対して移動させるサーボシリンダと、サーボシリンダの動作、及び電極間の溶接電流を制御する制御部と、を備え、制御部は、溶接開始時の初期位置において一方の電極がワークに予め設定された加圧力で押し当てられるようにサーボシリンダを制御すると共に、溶接開始後、電極間に溶接電流が流れている間、一方の電極の位置が初期位置に維持されるようにサーボシリンダを制御する。
【0007】
このスポット溶接機では、溶接開始時の初期位置において一方の電極がワークに予め設定された加圧力で押し当てられるようにサーボシリンダが制御され、溶接開始後、電極間に溶接電流が流れている間は、一方の電極の位置が溶接開始時の初期位置に維持されるようにサーボシリンダが制御される。このようにサーボシリンダを制御することにより、通電による温度上昇で軟化したワークに一方の電極が押し込まれていくことを回避できる。したがって、電極の押し込みによるワークの圧痕を抑制できる。
【0008】
また、一方の電極とワークとの接触状態を検出する検出部を更に備え、制御部は、一方の電極の位置を維持する制御の実行中に一方の電極とワークとが非接触となったことが検出部によって検出された場合には、溶接電流の通電を停止させてもよい。この場合、不健全な溶接部の形成を防止できる。
【0009】
本発明のスポット溶接方法は、重ね合わされたワークに一対の電極を当接させ、電極間に溶接電流を通電させることによりスポット溶接部を形成するスポット溶接方法であって、溶接開始時の初期位置において一方の電極がワークに予め設定された加圧力で押し当てられるようにサーボシリンダを制御するステップと、溶接開始後、電極間に溶接電流が流れている間、一方の電極の位置が初期位置に維持されるようにサーボシリンダを制御するステップと、を含む。
【0010】
このスポット溶接方法では、溶接開始時の初期位置において一方の電極がワークに予め設定された加圧力で押し当てられるようにサーボシリンダを制御し、溶接開始後、電極間に溶接電流が流れている間は、一方の電極の位置が溶接開始時の初期位置に維持されるようにサーボシリンダを制御する。このようにサーボシリンダを制御することにより、通電による温度上昇で軟化したワークに一方の電極が押し込まれていくことを回避できる。したがって、電極の押し込みによるワークの圧痕を抑制できる。
【0011】
また、一方の電極の位置を維持する制御の実行中に一方の電極とワークとが非接触となったことが検出部によって検出された場合には、溶接電流の通電を停止させてもよい。この場合、不健全な溶接部の形成を防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ワークの圧痕を抑制できるスポット溶接機及びスポット溶接方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係るスポット溶接機を示す概略図である。
図2】スポット溶接機による処理を示すフローチャートである。
図3】溶接時のスポット溶接機を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0015】
図1に示されるスポット溶接機1は、重ね合わされた板状のワーク2,3に一対の電極4,5を当接させ、電極4,5間に溶接電流Cを通電させることによりスポット溶接部W(図3)を形成する溶接機である。ワーク2は、例えば鉄道車両構体の側部を構成する側構体であり、ワーク3は、例えば鉄道車両構体の底部を構成する台枠である。ワーク3は、ワーク2との重ね合わせ部分から延出してワーク2と反対側に向けて湾曲した延出部を有している。ここでのスポット溶接機1は、インダイレクトスポット溶接を行うための溶接機として構成されており、ワーク2の一方面2aとワーク3の一方面3aとに電極4,5をそれぞれ当接させて溶接を行う。ワーク2,3は、図示しない保持手段により保持されている。
【0016】
スポット溶接機1は、第1のサーボシリンダ11と、第2のサーボシリンダ12と、検出部13と、制御部14と、を備えている。第1のサーボシリンダ11、第2のサーボシリンダ12及び検出部13のそれぞれは、制御部14に電気的に接続されている。
【0017】
第1のサーボシリンダ11は、シリンダ部11aと、ピストンロッド11bと、を有している。ピストンロッド11bの先端には電極4(一方の電極)が設けられており、第1のサーボシリンダ11は、ピストンロッド11bをシリンダ部11aに対して進退させることにより電極4をワーク2に対して移動させる。第1のサーボシリンダ11は、例えばサーボモータを用いた電動シリンダであり、制御部14からの制御信号に従って、電極4の加圧力制御(ピストンロッド11bに作用する軸方向の荷重の制御)及び電極4の位置制御(シリンダ部11aからのピストンロッド11bの突出量の制御)を行う。
【0018】
第2のサーボシリンダ12は、例えば第1のサーボシリンダ11と同様に構成され、シリンダ部12aと、電極5が先端に設けられたピストンロッド12bと、を有している。第2のサーボシリンダ12は、ピストンロッド12bをシリンダ部12aに対して進退させることにより電極5をワーク3に対して移動させる。第2のサーボシリンダ12は、例えばサーボモータを用いた電動シリンダであり、制御部14からの制御信号に従って、電極5の加圧力制御及び位置制御を行う。第1のサーボシリンダ11及び第2のサーボシリンダ12は、例えば、図示しない支持機構に固定されている。
【0019】
検出部13は、電極4とワーク2との接触状態を検出する。検出部13は、例えば、電極4とワーク2との接触位置を撮像する撮像部(カメラ)を含んで構成され、取得した画像を解析することにより電極4とワーク2との接触状態を検出する。検出部13は、検出結果を制御部14に逐次出力する。なお、撮像部から受け付けた画像に基づいて制御部14が電極4とワーク2との接触状態を判定してもよい。この場合、撮像部と制御部14とが電極4とワーク2との接触状態を検出する検出部を構成する。また、検出部13は、撮像部以外の検出手段により実現されてもよい。
【0020】
制御部14は、例えば、CPU、メモリ、通信インタフェイス及びハードディスク等を備えたコンピュータである。制御部14は、スポット溶接機1の各部の動作を制御する。例えば、制御部14は、第1のサーボシリンダ11及び第2のサーボシリンダ12の動作を制御する。また、制御部14は、図示しない電源装置を制御することにより、電極4,5間を流れる溶接電流Cのオンオフを制御する。
【0021】
続いて、図2及び図3を参照しつつ、溶接時に実行される処理フローを説明する。図2に示される処理の開始時には、保持手段によってワーク2,3が保持されており、電極4,5はワーク2,3から離間している。
【0022】
処理開始後、制御部14は、まず、電極4がワーク2に押し当てられるように第1のサーボシリンダ11を制御する(ステップS1)。これにより、電極4がワーク2に当接する。ステップS1と並行して、制御部14は、電極5がワーク3に押し当てられるように第2のサーボシリンダ12を制御する。これにより、電極5がワーク3に当接する。なお、この第2のサーボシリンダ12の制御は、処理開始後、後述するステップS4の通電開始時までの任意のタイミングで実行されてよく、例えばステップS1よりも前に実行されてもよい。或いは、処理開始時に予め電極5がワーク3に当接していてもよい。
【0023】
続いて、制御部14は、電極4に作用する加圧力が予め設定された割合で増加するように第1のサーボシリンダ11を制御する(ステップS2)。例えば、ステップS2では、電極4に作用する加圧力が所定値だけ増加するように第1のサーボシリンダ11が制御される。この所定値は、溶接条件や第1のサーボシリンダ11の仕様等に基づいて予め設定されている。
【0024】
続いて、制御部14は、電極4に作用する加圧力が目標値と等しいか否かを判定する(ステップS3)。この目標値は、後述するステップS4の通電開始時に電極4に作用する加圧力を規定する値であり、溶接条件や第1のサーボシリンダ11の仕様等に基づいて予め設定されている。なお、ステップS4では、制御部14は、電極4に作用する加圧力が目標範囲内であるか否かを判定してもよい。
【0025】
ステップS3の判定の結果、制御部14は、電極4に作用する加圧力が目標値と等しいと判定した場合(ステップS3でYES)、ステップS4に進み、電極4に作用する加圧力が目標値と等しくない(目標値よりも低い)と判定した場合(ステップS3でNO)、ステップS2に戻る。これにより、ステップS4の通電開始時、すなわち溶接開始時には、電極4がワーク2に予め設定された加圧力で押し当てられた状態となる。
【0026】
ステップS4では、制御部14は、電極4,5間への溶接電流Cの通電が開始されるように電源装置を制御する。これにより、ワーク2,3の溶接が開始される。また、制御部14は、ステップS4において溶接電流Cの通電を開始させると同時に、電極4の位置を維持する制御を開始する(ステップS5)。
【0027】
この制御の実行中には、制御部14は、電極4の位置が溶接開始時の初期位置に維持されるように第1のサーボシリンダ11を制御する。例えば、通電による温度上昇によりワーク2が溶接箇所において膨脹しようとし、ワーク2から電極4に作用する荷重が増加した場合でも、電極4に作用する加圧力を増加させることにより、電極4の位置が溶接開始時の初期位置に維持(固定)されるように第1のサーボシリンダ11を制御する。また、仮にワーク2が溶接箇所において収縮した場合でも、電極4に作用する加圧力の増減にかかわらず、電極4の位置が溶接開始時の初期位置に維持されるように第1のサーボシリンダ11を制御する。
【0028】
続いて、制御部14は、検出部13の検出結果に基づいて、電極4とワーク2とが接触しているか否かを判定する(ステップS6)。判定の結果、電極4とワーク2とが非接触であると判定した場合には(ステップS6でNO)、ステップS7に進み、電極4とワーク2とが接触していると判定した場合には(ステップS6でYES)、ステップS8に進む。ステップS7では、制御部14は、電極4,5間への溶接電流Cの通電を停止させると共に、電極4の位置を維持する制御を停止する。
【0029】
ステップS8では、制御部14は、通電開始後、所定時間が経過したか否かを判定する。判定の結果、通電開始後、所定時間が経過したと判定した場合(ステップS8でYES)には、ステップS9に進み、通電開始後、所定時間が経過していないと判定した場合(ステップS8でNO)には、ステップS6に戻る。この所定時間は、溶接時間であり、溶接条件等に基づいて予め設定されている。
【0030】
ステップS9では、制御部14は、電極4,5間への溶接電流Cの通電を停止させる。これにより、ワーク2,3の溶接が終了する。続いて、制御部14は、電極4の位置を維持する制御を停止し、電極4がワーク2から離間するように第1のサーボシリンダ11を制御する(ステップS10)。ステップS10と並行して、制御部14は、電極5がワーク3から離間するように第2のサーボシリンダ12を制御する。なお、この第2のサーボシリンダ12の制御は、通電停止後の任意のタイミングで実行されてよい。
【0031】
以上の一連の処理により、第1のサーボシリンダ11の加圧力によって電極4をワーク2に押し当てた状態で溶接が行われ、ワーク2,3にスポット溶接部Wが形成される。
【0032】
以上説明したスポット溶接機1では、溶接開始時の初期位置において電極4がワーク2に予め設定された加圧力で押し当てられるように第1のサーボシリンダ11が制御され(ステップS1〜S3)、溶接開始後、電極間に溶接電流Cが流れている間は、電極4の位置が溶接開始時の初期位置に維持されるように第1のサーボシリンダ11が制御される(ステップS4〜S10)。このように第1のサーボシリンダ11を制御することにより、通電による温度上昇で軟化したワーク2に電極4が押し込まれていくことを回避できる。したがって、電極4の押し込みによるワーク2の圧痕を抑制できる。
【0033】
また、スポット溶接機1では、制御部14は、電極4の位置制御の実行中に電極4とワーク2とが非接触となったことが検出部13によって検出された場合(ステップS6でNOの場合)には、溶接電流Cの通電を停止させる(ステップS7)。これにより、不健全な溶接部の形成を防止できる。
【0034】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、ワーク2,3として側構体と台枠を例示したが、ワーク2,3は、鉄道車両構体の他部を構成するものであってもよい。また、ワーク2,3は、鉄道車両構体を構成するものに限られず、本発明は、重ね合わされたワークのスポット溶接に広く適用可能である。また、上記実施形態では、スポット溶接機1は、インダイレクトスポット溶接を行う溶接機として構成されていたが、例えば、重ね合わされたワークを一対の電極で挟んで溶接するダイレクトスポット溶接を行うものとして構成されてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…スポット溶接機、2,3…ワーク、4…電極(一方の電極)、5…電極、11…第1のサーボシリンダ、11a…シリンダ部、13…検出部、14…制御部、C…溶接電流、W…スポット溶接部。
図1
図2
図3