(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記流出側部分は、その前記リングギアの半径方向に延びる基準線に対して前記リングギアの周方向一方側に傾けて前記リングギアに形成されている、請求項1又は2に記載のプラネタリ型の遊星歯車装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の遊星歯車装置では、サンギアに対してリングギアが回転不能に構成されている場合(即ち、プラネタリ型の遊星歯車装置)と、サンギアの周りをリングギアが回転するように構成されている場合(即ち、スター型の遊星歯車装置)についても言及されている。スター型の遊星歯車装置の場合、リングギアに導かれた潤滑油に対して、リングギアの回転により遠心力が作用する。この遠心力により、環状溝に溜まった潤滑油が前記排出通路に押し込まれ、排出通路からリングギアの外方へと排出される。
【0006】
他方、プラネタリ型の遊星歯車装置の場合、リングギアに導かれた潤滑油に対して、遠心力が作用することがない。それ故、環状溝の潤滑油を排出通路に押し込むことができずに、リングギアの内周面に溜まりやすくなる。そうすると、プラネタリ型の遊星歯車装置における掻き混ぜ抵抗の抑制機能は、スター型の遊星歯車装置のそれに比べて小さくなる。
【0007】
そこで本発明は、掻き混ぜ抵抗を抑制する機能を向上させることができるプラネタリ型の遊星歯車装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプラネタリ型の遊星歯車装置は、外歯列を有するサンギアと、前記サンギアの周りに配置され、且つ前記サンギアと噛合う外歯列を有する複数のプラネタリギアと、前記複数のプラネタリギアが回転可能に設けられ、前記複数のプラネタリギアと共に前記サンギアを中心に回転する、プラネタリキャリアと、前記複数のプラネタリギアを内側に配置し、且つ前記複数のプラネタリギアの全てと噛合う一対の内歯列を有するリングギアと、を備え、前記プラネタリキャリアは、前記複数のプラネタリギアのうち少なくとも1つに潤滑油を与える給油通路を有し、前記リングギアは、互いに異なる方向に傾斜する一対の内歯列が軸線方向に並んでいるダブルヘリカルギアであって、少なくとも1つの排出通路を有し、前記少なくとも1つの排出通路は、前記リングギアの内周面において前記一対の内歯列の間に開口する流入口側にある流入側部分と、前記リングギアの外周面において開口する流出口側にある流出側部分とを有し、前記流入口側部分は、前記リングギアの半径方向に延びる基準線に対して前記プラネタリキャリアの回転方向に傾けて前記リングギアに形成されているものである。
【0009】
本発明に従えば、給油通路から与えられた潤滑油がプラネタリギアに沿って流れてリングギアの一対の内歯列の間に導かれる。導かれた潤滑油は、プラネタリキャリアと共に複数のプラネタリギアがサンギア周りを回転することによって、リングギアの内周面に沿って且つプラネタリキャリアが回転する方向と同じ方向に流れる。リングギアには複数の排出通路が形成されており、各排出通路の流入口が一対の内歯列の間で開口し且つプラネタリキャリアの回転方向に傾けられている。それ故、リングギアの内周面に沿って流れる潤滑油をその流れる力によって流入口に押し込むことができ、従来技術の遊星歯車装置のように排出通路が半径方向に延びている場合に比べて、より多くの潤滑油をリングギアの外側へと排出することができる。これにより、リングギアの内周面に溜まることを抑制し、掻き混ぜ抵抗を抑制する機能を向上させることができる。
【0010】
上記発明において、前記流入側部分は、前記リングギアの内周面の接線方向に同じ方向に延在していてもよい。
【0011】
本発明に従えば、流入側部分がリングギアの内周面に沿うように繋がり、リングギアの内周面に沿って流れる潤滑油をそのまま流入側部分に流すことができる。これにより、従来技術の遊星歯車装置のように排出通路が半径方向に真直ぐ延びている場合に比べて更に多くの潤滑油を排出通路に流入させることができ、リングギアの内周面に潤滑油が溜まることを更に抑制することができる。
【0012】
上記発明において、前記流出側部分は、その前記リングギアの半径方向に延びる基準線に対して前記リングギアの周方向一方側に傾けて前記リングギアに形成されていてもよい。
【0013】
本発明に従えば、リングギアの外側に周方向一方に旋回する旋回流が発生している場合、その旋回流によって流出口から潤滑を引き出すことができる。これにより、従来技術の遊星歯車装置のように排出通路が半径方向に真直ぐ延びている場合に比べて、より多くの潤滑油をリングギアの外側に排出させることができる。
【0014】
上記発明において、前記少なくとも1つの排出通路は、湾曲させて前記リングギアに形成されていてもよい。
【0015】
本発明に従えば、傾けて且つ直線的に形成する場合に比べて、流路の長さを短くすることができる。これにより、排出通路の流路抵抗を、上記の場合よりも小さくすることができる。
【0016】
上記発明において、前記少なくとも1つの排出通路は、複数の排出通路を含み、前記リングギアは、周方向全周にわたって形成され且つ半径方向外側に突出するフランジを有し、前記フランジは、複数の締結部材によってケーシングに締結され、前記複数の排出通路は、間隔をあけて前記フランジに形成され、前記複数の締結部材は、隣り合う2つの排出通路間に夫々設けられていてもよい。
【0017】
本発明に従えば、隣接する2つの排出通路の間隔を確保しつつ、排出通路が形成される数を増加させることができる。これにより、隣接する2つの排出通路間に設けられる締結部材の数を増加させることができ、リングギアとケーシングとの締結力を向上させることができる。
【0018】
上記発明において、前記リングギアは、前記一対の内歯列の各々を有する一対のヘリカルギアを有し、前記一対のヘリカルギアは、互いに合わせて前記リングギアを構成する合せ面を夫々有し、前記合せ面の各々において互いに対向する排出溝が形成され、前記少なくとも1つの排出通路は、前記排出溝同士を突合せることによって形成されてもよい。
【0019】
本発明に従えば、排出通路の設計の自由度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、プラネタリ型の遊星歯車装置において掻き混ぜ抵抗を抑制する機能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る第1乃至第3実施形態のプラネタリ型の遊星歯車装置(以下、単に「遊星歯車装置」という)1,1A,1Bについて図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる方向の概念は、説明する上で便宜上使用するものであって、発明の構成の方向等をその方向に限定するものではない。また、以下に説明する遊星歯車装置1,1A,1Bは、本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【0023】
<第1実施形態>
図1に示すような遊星歯車装置1は、プラネタリ型の遊星歯車装置があり、例えば航空機エンジンの動力伝達機構(減速機構)に用いられる。なお、遊星歯車装置1は、必ずしも航空機エンジンの動力伝達機構に設けられている必要はなく、それ以外の動力伝達機構又は機器に設けられてもよい。このような遊星歯車装置1は、サンギア2と、複数のプラネタリギア3と、リングギア4と、プラネタリキャリア6とを有している。サンギア2は、いわゆるダブルヘリカルギアであり、やま歯を構成する一対の外歯2aの列を有している。サンギア2は、入力軸5の外周面に互いに相対回転不能に嵌合されている。また、サンギア2には、その周りに複数のプラネタリギア(本実施形態において、5つのプラネタリギア)3が配置されている。
【0024】
プラネタリギア3は、サンギア2の軸線(即ち、軸線L1)を中心とする周方向に等間隔をあけて配置されている。各プラネタリギア3もまた、いわゆるダブルヘリカルギアであり、やま歯を構成する一対の外歯3aの列を有している。各プラネタリギア3の一対の外歯3aの列は、サンギア2の一対の外歯2aに夫々噛合っている。なお、
図1では、図面の都合上、外歯2a及び外歯3aに関してそれらのうちの一部分のみを符号で示している。その他、遊星歯車装置1において複数備わる構成(例えば、後述する内歯4a,締結用孔8a,及び排出通路26等)についても同様である。また、5つのプラネタリギア3の外側には、5つのプラネタリギア3を内側に配して囲むようにリングギア4が配置されている。
【0025】
図2に示すように、リングギア4は、一対のヘリカルギア11,12を有している。一対のヘリカルギア11,12は、互いに異なる方向(本実施形態では、鏡面対称となるよう)に延びる内歯4a,4bの列を夫々有しており、互いに突き合わされてリングギア4を構成している。即ち、リングギア4は、ダブルヘリカル方式のギアとして構成されている。更に詳細に説明すると、一対のヘリカルギア11,12は、リム13,14と、フランジ15,16を夫々有している。本実施形態において、一対のヘリカルギア11,12は、互いに鏡面対称に構成されている。以下では、基本的に一方のヘリカルギア11の構成について説明し、他方のヘリカルギア12については一方のヘリカルギア11の説明を参照する。なお、一対のヘリカルギア11,12は、必ずしも鏡面対称に構成されている必要はなく、2つのヘリカルギアの歯が互いに位相をずらして配置されたり、後述するリム13,14が互いに異なる形状で形成されたりしてもよい。
【0026】
ヘリカルギア11の本体部分であるリム13は、円環状に形成されており、その内周面に多数の内歯4aが周方向に間隔をあけて形成されている。各内歯4aは、互いに平行であって、且つリングギア4の軸線L1に対して傾斜して延びている。即ち、リム13の内周面には、内歯4aの列が形成されている。また、リム13は、軸線方向一方側の端部であってその外周面にフランジ15が形成されている。フランジ15は、リム13の外周面から半径方向外方に突出しており、リム13の外周面において周方向全周にわたって延びている。
【0027】
一対のヘリカルギア11,12は、リム13,14同士、及びフランジ15,16を夫々突き合わされており、これによりリム7及びフランジ8を有するリングギア4が構成されている。このように構成されるリングギア4には、フランジ8に複数の締結用孔8aが形成されている。この複数の締結用孔8aは、フランジ8を軸方向に貫通している。複数の締結用孔8aは、例えば、互いに隣り合う2つの排出通路26(後述参照)の間に夫々形成されている。複数の締結用孔8aには、締結部材10が夫々挿通されており、複数の締結部材(例えば、ボルト)10によってリングギア4が動力伝達機構のケーシング9に締結されている。
【0028】
このように締結されるリングギア4は、一対のヘリカルギア11,12の内歯4a,4bが互いに異なる方向(本実施形態では、鏡面対称)に延びるように周方向に列をなすように並んでおり、これにより、ダブルヘリカル型のリングギア4が構成されている。このように配される内歯4a,4bは、プラネタリギア3の外歯3aと噛合っている。
【0029】
また、2つの歯4a,4bの列が互いに軸線方向に隙間をあけて配置されており、その隙間には
図1に示すような環状溝17が形成されている。即ち、環状溝17は、リングギア4の内周面であって2つの歯4a,4bの列の間に形成されている。環状溝17は、リングギア4の内周面において周方向全周にわたって延在しており、半径方向外方に凹むようにリングギア4の内周面に形成されている。また、リングギア4には、後で詳述する複数の排出通路26が形成されており、これら複数の排出通路26の流入口31が環状溝17に開口している。
【0030】
このように構成される遊星歯車装置1では、入力軸5に回転力が入力されると、サンギア2が回転し、それに伴ってプラネタリギア3が自転しながらサンギア2の周りを公転する。これにより、プラネタリギア3が取り付けられるプラネタリキャリア6が軸線L1周りに周方向一方に回転し、プラネタリキャリア6から回転力を出力させることができる。
【0031】
このような機能を有するプラネタリキャリア6は、軸線方向に見た正面視で、円環状に形成されている。プラネタリキャリア6は、
図3に示すように一対のプレート20,21と、複数の固定支軸22とを有している。一対のプレート20,21は、円環状の板状部材であり、プラネタリギア3の軸線方向一方側及び他方側に夫々配置されている。一対のプレート20,21の間には、複数の固定支軸22(本実施形態では、プラネタリギア3の数に対応させて5つ)が架け渡されている。固定支軸22には、プラネタリ軸18が回転可能に外装され、更にプラネタリ軸18には、軸受19を介してプラネタリギア3が外装されている。このようにして、各プラネタリギア3は、その軸線L2を中心に回転可能にプラネタリキャリア6に取り付けられている。また、一対のプレート20,21の内孔には、入力軸5が挿通されており、入力軸に対してプラネタリキャリア6が相対回転可能に構成されており、プラネタリキャリア6は、プラネタリギア3と共にサンギア2周りを回転するようになっている。更に、プラネタリキャリア6は、隣り合う2つのプラネタリギア3,3の間であってサンギア2とリングギア4とに挟まれている領域に夫々配置されているバッフルユニット23を有している。
【0032】
バッフルユニット23は、正面視で前述する領域と同じ形状を有する。即ち、バッフルユニット23は、半径方向両側の面が円弧状に形成され、且つ周方向両側の面もまた内側に凹むように円弧状に形成されている。周方向両側の面は、隣り合う2つのプラネタリギア3の形状に合わせて円弧状に形成されており、各プラネタリギア3は、2つの隣り合うバッフルユニット23の間に配置されている。このような形状を有するバッフルユニット23には、
図4に示すような少なくとも1つの給油通路(本実施形態では、2つの給油通路)24が形成されている。
【0033】
給油通路24は、バッフルユニット23の半径方向内側に形成されている。給油通路24は供給口24aを有している。本実施形態において、各給油通路24の供給口24aは、バッフルユニット23の周方向一方及び他方の両方へ向けて形成されている。なお、供給口24aは、必ずしも前述の方向に向いている必要はなく、別の方向に向いていてもよい。
【0034】
給油通路24についてより詳細に説明すると、給油通路24の供給口24aは、周方向一方及び他方に夫々位置する2つのプラネタリギア3とサンギア2との噛合い部分に夫々向いている。なお、給油通路24の供給口24aは、バッフルユニット23の周方向一方及び他方の何れかのみへ向けて形成されていてもよい。また、給油通路24は、遊星歯車装置1の外部にある潤滑油の供給源、例えばタンク等に繋がっており、そこにある潤滑油が導かれるようになっている。導かれた潤滑油は、給油通路24の供給口24aからプラネタリギア3とサンギア2との噛合い部分に噴射される。噴射された潤滑油は、噛合い部分を潤滑した後、プラネタリギア3の回転に伴って、リングギア4へ到達する。その後、一対の内歯4a,4bの間にある環状溝17に流入する。
【0035】
リングギア4には、環状溝17に流入する潤滑油をリングギア4の外方に放出すべく排出通路26が形成されている。なお、排出通路26は、リングギア4に少なくとも1つ形成されていればよく、単数であってもよいし、複数であってもよい。排出通路26を複数形成する場合、後述するが複数の排出通路26の各々が互いに別形状であっても同じ形状であってもよい。また、複数の排出通路26は、全てが同じ形状である必要はなく、異なる形状のものを混合させてリングギア4に形成されていてもよい。なお、本実施形態の複数の排出通路26は、全て同じ形状で形成されている。
【0036】
排出通路26は、2つの排油溝27,28によって構成されている。2つの排油溝27,28は、
図3に示すように一対のヘリカルギア11,12の突合せる際の突合せ面11a,12aにおいて互いに対応させて形成されている。それ故、一対のヘリカルギア11,12の突合せると、2つの排油溝27,28同士が合わさって排出通路26を形成するようになっている。このように形成することによって、排出通路26の設計の自由度を向上させることができる。また、排油溝27,28の流路断面は、半楕円形状としてもよい。これらを合わせて形成される排出通路26の流路断面は、楕円形状になる。これにより、リングギア4のリム7及びフランジ8の厚みを抑制することができる。
【0037】
排出通路26は、リングギア4のリム7を貫通する。また、本実施形態では、排出通路26は、フランジ8も貫通している。排出通路26は、リングギア4の内周面に流入口31、リングギア4の外周面に流出口32を有している。流入口31は、環状溝17に繋がっている。排出通路26は、環状溝17に流入する潤滑油を流入口31から取り込んで流出口32からリングギア4の外側に排出する。
【0038】
本実施形態において、排出通路26は、直線的に形成されている。排出通路26は、半径方向に延びる基準線L3に対して周方向一方側(即ち、プラネタリギア3の公転方向)に傾いている。これにより、排出通路26は、基準線L3に対して周方向一方側に傾いた流入側部分33を有する。ここで流入側部分33には、排出通路26において少なくとも排出通路26の流入口31側の部分が含まれている。このような流入側部分33が基準線L3に対して周方向一方側に傾けてリングギア4に形成されている。即ち、流入側部分33の中心線L4が基準線L3に対して周方向一方側に傾斜している。ここで、基準線L3は、
図1及び4のように遊星歯車装置1を軸線方向に見た状態で、流入口31の開口位置(即ち、流入口31の中心位置)と軸線L1とを結んだ線であって、半径方向に延びる線である。
【0039】
このように排出通路26の流入側部分33を周方向一方に傾けて形成することによって、潤滑油が環状溝17において流れる方向(即ち、プラネタリキャリア6の回転方向)と反対側に流入口31を向けることができる。即ち、流入口31を流れてくる潤滑油に向けることができる。これにより、環状溝17を流れる潤滑油に対して遠心力等が作用しなくとも、潤滑油の流れる力によって潤滑油を流入口31に押し込むことができる。これにより、プラネタリ型の遊星歯車装置1であっても、従来技術の遊星歯車装置のように排出通路が半径方向に延びている場合に比べてより多くの潤滑油を排出通路26に流入させてリングギア4の外側に排出することができる。即ち、環状溝17(即ち、リングギア4の内周面)に潤滑油が溜まることを抑制することができる。それ故、プラネタリ型の遊星歯車装置1における掻き混ぜ抵抗の増加を抑えることができ、プラネタリ型の遊星歯車装置1において掻き混ぜ抵抗を抑制する機能を更に向上させることができる。
【0040】
更に詳細に説明すると、流入口31は、周方向に長い楕円形状に形成されており、流入側部分33は、周方向一方においてリングギア4の環状溝17の予め定められた交差位置C(即ち、
図1及び4のように遊星歯車装置1を軸線方向に見た状態で流入口31が最も周方向他方側でリングギア4の環状溝17と交差している位置)における接線の延びる方向と同じ方向に延びている。なお、同じ方向とは、必ずしも真に同じ方向だけである必要はなく、基準となる方向や線等に対して角度が±15度の範囲内でずれたものも含む。以下における「同じ方向」についても同様である。
【0041】
このように形成することによって、前記交差する点において、流入側部分33は、環状溝17に沿うように繋がり、環状溝17に沿って流れる潤滑油をそのまま流入側部分33に流れるようになる。これにより、遊星歯車装置1では、従来技術の遊星歯車装置のように排出通路が半径方向に真直ぐ延びている場合に比べて更に多くの潤滑油を排出通路26に流入させることができ、環状溝17に潤滑油が溜まることを更に抑制することができる。
【0042】
また、排出通路26が流入口31から流出口32まで直線状に形成され且つ基準線L3に対して周方向一方側に傾いている。これにより、流入側部分33に対して、排出通路26の流出口32側の部分である流出側部分34が周方向一方にずらして配置されている。また、排出通路26の流出側部分34は、リングギア4の外周面における流出口32の開口位置(即ち、流出口32の中心位置)における垂線L5(即ち、流出口32の開口位置と軸線L1とを結んだ半径方向に延在する線)に対して周方向一方側に傾けてリングギア4に形成されている。
【0043】
このように排出通路26の流出側部分34を周方向一方側に傾けて形成することによって以下のような機能を奏する。即ち、遊星歯車装置1が航空機エンジンの動力伝達機構に用いられている場合、遊星歯車装置1の周りには、プラネタリキャリア6の回転方向と同じ方向に旋回する旋回流が発生している。それ故、排出通路26の流出口32の開口方向を垂線L5に対して周方向一方側に向けることによって、潤滑油を旋回流によって引き出すことができる。これにより、従来技術の遊星歯車装置のように排出通路が半径方向に真直ぐ延びている場合に比べて、より多くの潤滑油をリングギア4の外側に排出させることができる。
【0044】
<第2実施形態>
第2実施形態の遊星歯車装置1Aは、第1実施形態の遊星歯車装置1と構成が類似している。従って、第2実施形態における遊星歯車装置1Aの構成に関する説明については、第1実施形態の遊星歯車装置1と異なる構成について主に説明する。同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略する。第3実施形態の遊星歯車装置についても同様である。
【0045】
第2実施形態の遊星歯車装置1Aは、リングギア4Aに複数の排出通路26Aが形成されている。排出通路26Aは、第1実施形態の排出通路26と同様に基準線L3に対して周方向一方側に傾いているが、基準線L3に対する角度αが第1実施形態の排出通路26に比べて小さくなっている。
【0046】
リングギア4Aに複数の排出通路26Aを形成する場合、このように排出通路26Aの角度αを小さくすることによって、第1実施形態の排出通路26のように角度を大きくとった場合に比べて、ヘリカルギア11Aの突合せ面11aにおいて隣り合う2つの排出通路26A間の間隔を拡げつつ、排出通路26Aの数を増やすことができる。これにより、隣り合う2つの排出通路26A間に形成する締結用孔8aの数を増やすことができる、即ち、隣り合う2つの排出通路26A間に配置する締結部材10の数を増やすことができ、遊星歯車装置1Aとケーシング9との締結力を向上させることができる。
【0047】
また、遊星歯車装置1Aでは、排出通路26Aの角度αを小さくすることによって、排出通路26Aの長さを短くすることができる。これにより、排出通路26Aの流路抵抗を、第1実施形態の排出通路26より小さくすることができる。即ち、排出通路26Aの流れる潤滑油の速度低下を抑えることができ、多くの潤滑油を排出通路26Aを介してリングギア4の外側へと排出することができる。
【0048】
なお、排出通路26Aの基準線L3に対する角度αは、例えば30度以上90度以下であればよい。角度αを小さくすることによって排出通路26Aが短くなって流路抵抗を小さくすることができる。他方、角度αを大きくすることによって、第1実施形態の排出通路26のように潤滑油を排出通路26Aの方に導きやすくすることができる。
【0049】
その他、第2実施形態の遊星歯車装置1は、第1実施形態の遊星歯車装置1と同様の作用効果を奏する。
【0050】
<第3実施形態>
第3実施形態の遊星歯車装置1Bでは、リングギア4Bに複数の排出通路26Bが形成されている。各排出通路26Bは、流入口31B及び流出口32Bを有している。排出通路26Bの流入側部分33Bは、第1実施形態の流入側部分33と同様に、基準線L3に対して周方向他方側を傾けてリングギア4Bに形成されている。より詳細に説明すると、流入側部分33Bは、リングギア4Bの内周面の交差位置Cにおける接線と同じ方向に延びている。
【0051】
他方、流出側部分34Bは、垂線L5と同じ方向に延在している。従って、排出通路26Bでは、流入側部分33Bと流出側部分34Bとは、互いに延在する方向が約90度ずれており、流入側部分33Bと流出側部分34Bとを繋ぐ排出通路26Bの通路部分が、それらを繋ぐように湾曲して形成されている。本実施形態では、例えば排出通路26Bの通路部分が弧状に湾曲している。
【0052】
リングギア4Bに複数の排出通路26Bを形成する場合、このように構成される遊星歯車装置1Bは、第2実施形態の排出通路26Aと同様に、隣り合う2つの排出通路26Bの間隔を維持しつつ、第1実施形態の遊星歯車装置1の場合に比べて排出通路26Bの数を増やすことができる。これにより、リングギア4Bのフランジ8に形成する締結用孔8aの数を増やすことができ、遊星歯車装置1Bとケーシング9との締結力を向上させることができる。
【0053】
また、遊星歯車装置1Bでは、排出通路26Bを湾曲させることによって、排出通路26Bの長さを第1実施形態の排出通路26の長さより短くすることができる。これにより、排出通路26Bの流路抵抗を、第1実施形態の排出通路26より小さくすることができる。
【0054】
更に、遊星歯車装置1Bでは、第1実施形態の排出通路26と同様に流入側部分33Bの延在する方向がリングギア4Bの内周面の接線方向と一致している。それ故、従来技術の遊星歯車装置の流入口に比べて、潤滑油が流入口31Bに入り込みやすい。これにより、従来技術の遊星歯車装置の流入口に比べてより多くの潤滑油を排出通路26Bに流入させることができ、環状溝17に潤滑油が溜まることを抑制することができる。
【0055】
その他、第3実施形態の遊星歯車装置1は、第1実施形態の遊星歯車装置1と同様の作用効果を奏する。
【0056】
<その他の実施形態>
第1乃至第3実施形態の遊星歯車装置1、1A、1Bにおいて、複数の排出通路26,26A,26Bを形成する場合、全て同じ形状で形成されているが、必ずしもそのようである必要はない。即ち、リングギア4において、異なる形状の排出通路26,26A,26Bを組みわせて配置してもよい。例えば、第2実施形態の排出通路26Aと第3実施形態の排出通路26Bとが交互に配置されるようにリングギア4に形成されてもよく、3種類の排出通路26,26A,26Bが順番に配置されるようにリングギア4に形成されてもよい。また、排出通路26,26A,26Bの通路部分の形状は、必ずしも直線状又は弧状に限定されず、S字状又は直角に形成されてもよい。例えば、S字状の場合、排出通路の流入側部分をリングギア4の内周面の接線方向と同じ方向に延在させ、流出部分をリングギア4の周方向に向けるように形成することができる。更に、排出通路26,26A,26Bは、必ずしも突合せ面11a,12bに沿って形成される必要はなく、突合せ面11a,12bに対して傾斜する方向に延びていてもよい。また、リングギア4,4A,4Bは、一対のヘリカルギア11,12を突合せるようにして構成されているが、1つの部材から構成してもよく、その構造は問わない。
【0057】
また、排出通路26,26A,26Bの流路断面も同様であり、必ずしも楕円形状である必要はなく、円形及び多角形でもよい。また、排出通路26,26A,26Bの流路断面は、通路全体にわたって一定である必要はない。例えば、流出口32,32A,32Bに対して流入口31,31A,31B側の方が大きくなるようにテーパ状に形成したり、またその逆で流出口32,32A,32Bに対して流入口31,31A,31B側の方が小さくなるようにテーパ状に形成したりしてもよい。
【0058】
また、第1乃至第3実施形態の遊星歯車装置1、1A、1Bでは、プラネタリギア3とサンギア2との噛合い部分に対して一対の給油通路24が夫々対応させて配置されているが、必ずしもそのような数の給油通路24を必要としない。例えば、各プラネタリギア3に対して少なくとも1つの給油通路24だけであってもよく、また各プラネタリギア3に対して給油通路24を1つずつ配置するようにしてもよい。