特許第6726577号(P6726577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6726577シトラール劣化抑制剤及びシトラール含有液状食品
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  • 6726577-シトラール劣化抑制剤及びシトラール含有液状食品 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6726577
(24)【登録日】2020年7月1日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】シトラール劣化抑制剤及びシトラール含有液状食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20200713BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20200713BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20200713BHJP
   C12P 7/00 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
   A23L2/00 B
   A23L27/10 C
   A23L27/00 Z
   C12P7/00
【請求項の数】11
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-177369(P2016-177369)
(22)【出願日】2016年9月12日
(65)【公開番号】特開2017-55760(P2017-55760A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2019年7月31日
(31)【優先権主張番号】特願2015-180924(P2015-180924)
(32)【優先日】2015年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】毛笠 秀昭
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−017467(JP,A)
【文献】 特開平09−095672(JP,A)
【文献】 特開平06−108087(JP,A)
【文献】 'Honey Lemon & Ginger Tea', (ID#)2907195, Mintel GNPD[online] 2015年1月, [検索日2019.04.23],インターネット,URL, http://www.portal.mintel.com
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/FSTA(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトラールを0.0075〜15ppm含有する液状食品であって、
レモンマートルの葉及び/又は枝を水または含水率が50重量%以上の有機溶媒で抽出した抽出物A、および、ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝を有機溶媒で抽出した後に水溶化した抽出物Bを、式1から算出されるP値が0.4〜55、式2から算出されるQ値が7〜3600となるように含有する液状食品。
式1:P=(X1×Y1)/(X2×Y2)
式2:Q=〔(X1×Y1)+(X2×Y2)〕/100
X1:前記液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Aの量(重量部)
X2:前記液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Bの量(重量部)
Y1:抽出物AのBrix(%)
Y2:抽出物BのBrix(%)
【請求項2】
抽出物Aの抽出に用いる有機溶媒が、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及びトリアセチンの群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の液状食品。
【請求項3】
抽出物Bが、ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝を有機溶媒で抽出し、得られた抽出物に、ガラクトース残基転移活性を有する酵素を、ガラクトース残基転移源の存在下で作用させて水溶化したものである請求項1または請求項2に記載の液状食品。
【請求項4】
シトラールを0.0075〜15ppm含有する液状食品の製造方法であって、
レモンマートルの葉及び/又は枝を水または含水率が50重量%以上の有機溶媒で抽出した抽出物Aと、
ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝を有機溶媒で抽出した後に水溶化した抽出物Bとを、
式1から算出されるP値が0.4〜55、式2から算出されるQ値が7〜3600となるように、液状食品基材に添加する、液状食品の製造方法。
式1:P=(X1×Y1)/(X2×Y2)
式2:Q=〔(X1×Y1)+(X2×Y2)〕/100
X1:前記液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Aの量(重量部)
X2:前記液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Bの量(重量部)
Y1:抽出物AのBrix(%)
Y2:抽出物BのBrix(%)
【請求項5】
抽出物Aの抽出に用いる有機溶媒が、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及びトリアセチンの群から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の液状食品の製造方法。
【請求項6】
レモンマートルの葉及び/又は枝を水または含水率が50重量%以上の有機溶媒で抽出した抽出物A、および、ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝を有機溶媒で抽出した後に水溶化した抽出物Bを、式1′から算出されるP値が0.4〜55となるように含有する水溶性シトラール劣化抑制剤。
式1′:P=(X1′×Y1)/(X2′×Y2)
X1′:抽出物Aの量(重量部)
X2′:抽出物Bの量(重量部)
Y1:抽出物AのBrix(%)
Y2:抽出物BのBrix(%)
【請求項7】
抽出物Aの抽出に用いる有機溶媒が、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及びトリアセチンの群から選ばれる少なくとも1種である請求項6に記載の水溶性シトラール劣化抑制剤。
【請求項8】
抽出物Bが、ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝を有機溶媒で抽出し、得られた抽出物に、ガラクトース残基転移活性を有する酵素を、ガラクトース残基転移源の存在下で作用させて水溶化したものである請求項6または請求項7に記載の水溶性シトラール劣化抑制剤。
【請求項9】
水溶性シトラール劣化抑制剤の製造方法であって、レモンマートルの葉及び/又は枝を水または含水率が50重量%以上の有機溶媒で抽出した抽出物Aと、
ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝を有機溶媒で抽出した後に水溶化した抽出物Bとを、
式1′から算出されるP値が0.4〜55となるように混合する、水溶性シトラール劣化抑制剤の製造方法。
式1′:P=(X1′×Y1)/(X2′×Y2)
X1′:抽出物Aの量(重量部)
X2′:抽出物Bの量(重量部)
Y1:抽出物AのBrix(%)
Y2:抽出物BのBrix(%)
【請求項10】
抽出物Aの抽出に用いる有機溶媒が、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及びトリアセチンの群から選ばれる少なくとも1種である請求項9に記載の水溶性シトラール劣化抑制剤の製造方法。
【請求項11】
シトラールを0.0075〜15ppm含有する液状食品の製造方法であって、請求項6〜8のいずれか1項に記載の水溶性シトラール劣化抑制剤を、式2から算出されるQ値が7〜3600となるように、液状食品基材に添加する、液状食品の製造方法。
式2:Q=〔(X1×Y1)+(X2×Y2)〕/100
X1:前記液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Aの量(重量部)
X2:前記液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Bの量(重量部)
Y1:抽出物AのBrix(%)
Y2:抽出物BのBrix(%)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シトラール含有液状食品用のシトラール劣化抑制剤、及び、シトラール含有液状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
シトラールは、ハーブや柑橘類などに含まれる香味成分であって、柑橘調の香味が強いため、柑橘系の香味を有する飲食品に用いられているが、熱や光に不安定であり、オフフレーバーに変化してしまうといった問題がある。
【0003】
特許文献1では、熱や光等に対して安定性が高く、長期間、オフフレーバーの発生を抑えることができる、レモンマートル抽出物からなるシトラール香味剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−17467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1ではレモンマートル抽出物のみを含むシトラール香味剤が記載されているにすぎない。また、レモンマートル抽出物としては、含水率が最高で40重量%のエタノールを用いて得た抽出物しか開示されていない(実施例)。特許文献1に記載のシトラール香味剤をシトラール含有飲食品に添加しても、シトラールの劣化を抑制する効果は十分なものではなかった。
【0006】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、シトラールの劣化を抑制する効能に優れた、シトラール含有液状食品用のシトラール劣化抑制剤、及びシトラール含有液状食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の条件で抽出したレモンマートル抽出物とヤマモモ属植物抽出物の水溶化物を、特定割合で組み合わせて特定量使用することで、格段にシトラールの劣化を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第一は、シトラールを0.0075〜15ppm含有する液状食品であって、レモンマートルの葉及び/又は枝を水または含水率が50重量%以上の有機溶媒で抽出した抽出物A、および、ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝を有機溶媒で抽出した後に水溶化した抽出物Bを、式1から算出されるP値が0.4〜55、式2から算出されるQ値が7〜3600となるように含有する液状食品である。
【0009】
式1:P=(X1×Y1)/(X2×Y2)
式2:Q=〔(X1×Y1)+(X2×Y2)〕/100
X1:前記液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Aの量(重量部)
X2:前記液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Bの量(重量部)
Y1:抽出物AのBrix(%)
Y2:抽出物BのBrix(%)
好ましくは、抽出物Aの抽出に用いる有機溶媒が、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及びトリアセチンの群から選ばれる少なくとも1種である。
【0010】
好ましくは、抽出物Bが、ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝を有機溶媒で抽出し、得られた抽出物に、ガラクトース残基転移活性を有する酵素を、ガラクトース残基転移源の存在下で作用させて水溶化したものである。
【0011】
本発明の第二は、シトラールを0.0075〜15ppm含有する液状食品の製造方法であって、レモンマートルの葉及び/又は枝を水または含水率が50重量%以上の有機溶媒で抽出した抽出物Aと、ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝を有機溶媒で抽出した後に水溶化した抽出物Bとを、式1から算出されるP値が0.4〜55、式2から算出されるQ値が7〜3600となるように、液状食品基材に添加する、液状食品の製造方法である。
【0012】
式1:P=(X1×Y1)/(X2×Y2)
式2:Q=〔(X1×Y1)+(X2×Y2)〕/100
X1:前記液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Aの量(重量部)
X2:前記液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Bの量(重量部)
Y1:抽出物AのBrix(%)
Y2:抽出物BのBrix(%)
好ましくは、抽出物Aの抽出に用いる有機溶媒が、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及びトリアセチンの群から選ばれる少なくとも1種である。
【0013】
本発明の第三は、レモンマートルの葉及び/又は枝を水または含水率が50重量%以上の有機溶媒で抽出した抽出物A、および、ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝を有機溶媒で抽出した後に水溶化した抽出物Bを、式1′から算出されるP値が0.4〜55となるように含有する水溶性シトラール劣化抑制剤である。
【0014】
式1′:P=(X1′×Y1)/(X2′×Y2)
X1′:抽出物Aの量(重量部)
X2′:抽出物Bの量(重量部)
Y1:抽出物AのBrix(%)
Y2:抽出物BのBrix(%)
好ましくは、抽出物Aの抽出に用いる有機溶媒が、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及びトリアセチンの群から選ばれる少なくとも1種である。
【0015】
好ましくは、抽出物Bが、ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝を有機溶媒で抽出し、得られた抽出物に、ガラクトース残基転移活性を有する酵素を、ガラクトース残基転移源の存在下で作用させて水溶化したものである。
【0016】
本発明の第四は、水溶性シトラール劣化抑制剤の製造方法であって、レモンマートルの葉及び/又は枝を水または含水率が50重量%以上の有機溶媒で抽出した抽出物Aと、ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝を有機溶媒で抽出した後に水溶化した抽出物Bとを、式1′から算出されるP値が0.4〜55となるように混合する、水溶性シトラール劣化抑制剤の製造方法である。
【0017】
式1′:P=(X1′×Y1)/(X2′×Y2)
X1′:抽出物Aの量(重量部)
X2′:抽出物Bの量(重量部)
Y1:抽出物AのBrix(%)
Y2:抽出物BのBrix(%)
好ましくは、抽出物Aの抽出に用いる有機溶媒が、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及びトリアセチンの群から選ばれる少なくとも1種である。
【0018】
本発明の第五は、シトラールを0.0075〜15ppm含有する液状食品の製造方法であって、前記水溶性シトラール劣化抑制剤を、式2から算出されるQ値が7〜3600となるように、液状食品基材に添加する、液状食品の製造方法である。
【0019】
式2:Q=〔(X1×Y1)+(X2×Y2)〕/100
X1:前記液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Aの量(重量部)
X2:前記液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Bの量(重量部)
Y1:抽出物AのBrix(%)
Y2:抽出物BのBrix(%)
【発明の効果】
【0020】
本発明に従えば、シトラールの劣化を抑制する効能に優れた、シトラール含有液状食品用のシトラール劣化抑制剤、及び、シトラール含有液状食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例及び比較例に関して、各飲料のQ値と、各飲料を55℃で7日間保存した後の官能評価点との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0023】
本発明のシトラールを含有する液状食品とは、シトラール、抽出物A及び抽出物Bを含有する流動性を有する食品をいう。
【0024】
前記シトラールとは、レモンやオレンジに含まれるモノテルペンアルデヒドの一種で、強いレモンの香りをもつ油性液体である。本発明の液状食品におけるシトラールの含有量は、0.0075〜15ppmが好ましく、0.01〜15ppmがより好ましく、0.05〜12ppmが更に好ましい。含有量が0.0075ppmより少ないと、シトラールの劣化臭が発生してもそもそも液状食品の風味に影響のない場合があるので本発明を適用する意義が小さい。含有量が15ppmより多いと、シトラールの強い香りによって液状食品の風味バランスが崩れる場合がある。なお、本発明の液状食品におけるシトラールの含有量とは、本発明の液状食品に添加物として配合されたシトラールの量と、食品基材が本来的に含有しているシトラールの量と、抽出物Aや他の添加物に含まれるシトラールの量とを合算したものを指す。
【0025】
<抽出物A>
抽出物Aとは、レモンマートルの葉及び/又は枝を、水又は含水有機溶媒で抽出したものをいう。ここでレモンマートルとは、フトモモ科バクホウシア属の植物をいう。本発明では、レモンマートルの葉及び/又は枝から得た抽出物を使用するが、レモンマートルの葉から得た抽出物を使用することが好ましい。また、前記レモンマートルの葉及び/又は枝は、生の状態、乾燥された状態、冷凍された状態など、原料の状態に関わらず利用することができる。
【0026】
抽出溶媒としては水又は含水有機溶媒を使用するが、水が抽出溶媒としてより好ましい。含水有機溶媒の含水率は高いほど好ましいが、少なくとも含水率が50重量%以上の有機溶媒を使用する。含水率は60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上が更に好ましく、90重量%以上が最も好ましい。含水率が50重量%未満の有機溶媒を抽出溶媒として使用すると、得られる抽出物A中のシトラール含量が高くなり、シトラールの劣化臭を抑制できない場合がある。抽出物Aの含水有機溶媒の基材となる有機溶媒としては、水溶性の有機溶媒が好ましく、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、トリアセチンなどが例示でき、それらの群より選ばれる少なくとも1種を使用できる。中でもグリセリン、プロピレングリコール、トリアセチン、エタノールが好ましく、グリセリン、プロピレングリコール、エタノールがより好ましく、エタノールが最も好ましい。
【0027】
抽出物Aは、レモンマートルの葉及び/又は枝と、水又は含水有機溶媒とを混合し、抽出を行った後、固液分離を行い、液相部を回収して得られる。具体的な抽出条件は以下の通りである。
【0028】
レモンマートルの葉及び/又は枝は、そのまま、あるいは粉砕された状態など、いかなる状態のものでも抽出に使用できるが、抽出効率の向上、取扱いの容易さなどの観点から、0.1〜50mm程度の大きさに粉砕された状態のものが好ましい。また、抽出溶媒を加える前に粉砕してもよいし、抽出溶媒を加えた後に粉砕してもよい。粉砕を行う手段としては特に限定されず、フードプロセッサー、カッターミキサー、粉砕機、磨砕機、ホモジナイザーなどの公知の手段を用いることができる。
【0029】
レモンマートルと水又は含水有機溶媒の混合割合は、レモンマートル100重量部(乾燥重量)に対して、水又は含水有機溶媒100〜5000重量部が好ましく、200〜3000重量部がより好ましく、400〜1000重量部が更に好ましい。水又は含水有機溶媒の混合割合が100重量部より少ないと抽出効率が著しく悪くなる場合があり、5000重量部より多いと抽出物AのBrix値が低くなり、食品への抽出物Aの添加量が著しく増加してしまう場合がある。
【0030】
抽出を行う際の温度は、0〜100℃が好ましく、20〜80℃がより好ましく、40〜60℃が更に好ましい。抽出温度が0℃より低いと抽出効率が低下する場合があり、100℃より高いと、焦げた香味、不快な後味などの好ましくない香味が生成される場合がある。
【0031】
抽出を行う際には加圧を行うことが好ましく、その際の加圧条件は、0.01〜50MPa(ゲージ圧)が好ましく、0.05〜5MPa(ゲージ圧)がより好ましく、0.1〜0.5MPa(ゲージ圧)が更に好ましい。加圧条件が0.01MPa(ゲージ圧)より低いと抽出効率が低下する場合があり、50MPa(ゲージ圧)より高いと製造設備が大掛かりになり製造コストが高くなる場合がある。なお、ゲージ圧とは、大気圧をゼロとする相対的な圧力のことである。
【0032】
抽出時に加圧を行うための方法としては特に限定されず、食品分野で一般的に使用される高温高圧調理殺菌装置などで利用されている水での加圧、窒素ガスなどでの加圧、配管抵抗を利用した移送による加圧など公知の方法を用いることができる。また、抽出効率の観点より、加圧抽出時に撹拌することが好ましい。
【0033】
抽出に要する時間は、30秒間〜600分間が好ましく、5〜120分間がより好ましく、30〜60分間が更に好ましい。抽出時間が30秒間より短いと抽出効率が悪くなる場合があり、600分間より長くても抽出効率が頭打ちになる場合がある。
【0034】
抽出後に行う固液分離の方法としては特に限定されず、デカンテーション、遠心分離、ろ紙によるろ過、フィルタープレス、スクリュープレスなどの公知の分離手段を使用できる。また、加圧下でろ過することにより、ろ過をより効率的に行ってもよい。
【0035】
固液分離により得られた液相部は必要に応じて濃縮を行ってもよい。濃縮の方法としては特に限定されず、蒸発濃縮、膜濃縮、凍結濃縮などの公知の濃縮手段を使用できる。また、必要に応じて溶媒を添加し、希釈を行ってもよい。希釈に用いる溶媒としては特に限定されず、水、グリセリン、プロピレングリコール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、トリアセチンなどが例示でき、それらの群より選ばれる少なくとも1種を使用できる。
【0036】
<抽出物B>
抽出物Bとは、ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝を有機溶媒で抽出した後に水溶化したものをいう。具体的には、抽出物Bは、粉砕した前記樹皮及び/又は枝と有機溶媒とを混合し、抽出を行った後、固液分離を行い、固相部を除いた液相部を回収し、該液相部を濃縮及び/又は乾固して水難溶性の抽出物を得、それを水溶化して得られる。具体的な抽出及び水溶化の条件は以下の通りである。
【0037】
前記ヤマモモ科ヤマモモ属植物の樹皮及び/又は枝は、粉砕機などを用いて粉砕したものを使用することができる。
【0038】
抽出物Bの抽出に使用する有機溶媒としては、水溶性の有機溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、グリセリン等の炭素数1〜5の脂肪族アルコール;アセトン、2−ブタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン等の炭素数3〜5のカルボニル化合物;ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の水溶性酸アミド;ピリジン、ブチルアミン等の水溶性アミン;ジメチルスルホキシド等を使用でき、それらの群より選ばれる少なくとも1種を使用できる。
【0039】
前記ヤマモモ科ヤマモモ属植物と前記有機溶媒の混合割合は、ヤマモモ科ヤマモモ属植物100重量部(乾燥重量)に対して、有機溶媒100〜5000重量部が好ましく、200〜3000重量部がより好ましく、400〜1000重量部が更に好ましい。有機溶媒の混合割合が100重量部より少ないと抽出効率が悪くなる場合があり、5000重量部より多いと溶媒の乾燥に時間を要する場合がある。
【0040】
抽出を行う際の温度は、0〜100℃が好ましく、20〜80℃がより好ましく、40〜60℃が更に好ましい。抽出温度が0℃より低いと抽出効率が低下する場合があり、100℃より高いと、焦げた香味、不快な後味などの好ましくない香味が生成される場合がある。
【0041】
抽出時に、抽出効率を高める目的で、0.01〜50MPa(ゲージ圧)で加圧することもできる。また、抽出効率の観点より、加圧抽出時に撹拌することが好ましい。
【0042】
抽出に要する時間は、10〜2000分間が好ましく、30〜1000分間がより好ましく、120〜500分間が更に好ましい。抽出時間が10分間より短いと抽出効率が悪くなる場合があり、2000分間より長くても抽出効率が頭打ちになる場合がある。
【0043】
前記ヤマモモ科ヤマモモ属植物を前記有機溶媒で抽出した後、固液分離を行って液相部を回収し、該液相部に含まれる有機溶媒を、蒸発または他の一般的な手段により除去する。この操作により得た濃縮液または濃縮乾固物に水を添加、混合して、カテキン、タンニン、縮合型タンニンや糖質などの水溶性の物質を水相側に移行させて除去し、水難溶性の抽出物を得る。該抽出物は、必要に応じて、さらに水または熱水で洗浄精製してもよいし、クロマトグラフィー、液液向流抽出法、あるいは、有機溶媒または含水有機溶媒からの再結晶法などにより精製してもよい。
【0044】
以上の手順により得た抽出物は水難溶性であり、このままでは液状食品に添加できず、シトラール劣化抑制効果を達成できないので、該抽出物の水溶化を行う。水溶化の方法としては、例えば、該抽出物に、ガラクトース残基転移活性を有する酵素を、ガラクトース残基転移源の存在下で作用させて水溶化する方法;該抽出物を水中油型に乳化して水溶化する方法;該抽出物に、包接機能を有する水溶性成分を添加して水溶化する方法などが挙げられる。
【0045】
前記ガラクトース残基転移活性を有する酵素を作用させて水溶化する方法としては、例えば、前記水難溶性抽出物及びガラクトース残基転移源を含有する混合物に、ガラクトース残基転移活性を有する酵素を添加し、前記酵素の至適pH付近で、かつ前記酵素の至適温度付近で酵素反応させればよい。
【0046】
前記ガラクトース残基転移源としては、乳糖やガラクトオリゴ糖などを例示できる。1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記ガラクトース残基転移源の添加量は、前記混合物全体中、1〜80重量%が好ましく、10〜70重量%がより好ましく、20〜60重量%が更に好ましい。添加量が1重量%より少ないと酵素反応が十分に進まない場合があり、80重量%より多いと、反応混合物中の水難溶性抽出物の含有量が相対的に少なくなり、生産性が悪くなる場合がある。
【0047】
前記ガラクトース残基転移活性を有する酵素としては、β−D−ガラクトシドガラクトヒドラーゼ(EC 3.2.1.23、以下β−ガラクトシダーゼという)を例示できる。市販の酵素製剤(例えば、大和化成株式会社製、商品名BIOLACTA G10等)を使用してもよい。前記ガラクトース残基転移活性を有する酵素の添加量は、前記混合物100gに対して、100〜500000Uが好ましく、1000〜200000Uがより好ましく、10000〜150000Uが更に好ましい。添加量が100Uより少ないと酵素反応が十分に進まない場合があり、500000Uよりも多いと効果が頭打ちになる場合がある。
【0048】
前記酵素反応時のpHは、2〜9が好ましい。pHが2より低い、あるいは9よりも高いと反応が十分に進まない場合がある。
【0049】
前記酵素反応時の温度は、20〜70℃が好ましい。温度が20℃より低いと、反応が十分に進まない場合があり、70℃より高いと酵素が失活する場合がある。
【0050】
前記ガラクトース残基転移活性を有する酵素を前記水難溶性抽出物に作用させて水溶化した抽出物Bは、所望により、イオン交換樹脂又はイオン交換膜等による処理;ポーラスポリマー構造を有する樹脂、シリカゲル、アルミニウムオキシド、セルロース等を吸着剤とする吸着クロマトグラフ処理;活性炭、アルキルシリル化シリカゲル又はアリールシリル化シリカゲル等を吸着剤とする逆相分配クロマトグラフ処理等によって精製してもよい。また、エタノールやグリセリンなどの溶媒に再溶解又は希釈して使用することもできる。
【0051】
前記水中油型に乳化して水溶化する方法としては、例えば、界面活性剤を添加して水中油型エマルジョンを形成させて、水難溶性抽出物を可溶化状態にする方法を例示でき、例えば、特開2006−306879号公報に記載の方法に準拠して行えばよい。
【0052】
前記包接機能を有する水溶性成分を添加して水溶化する方法としては、例えば、水難溶性抽出物を、αシクロデキストリンや水溶性を高めた分岐型シクロデキストリンで包接することで可溶化させる方法を例示でき、例えば、特開2003−268005号公報に記載の方法に準拠して行えばよい。
【0053】
これら3種の方法は単独で使用してもよいし、2種以上の方法を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0054】
本発明の液状食品は、抽出物Aと抽出物Bを、式1から算出されるP値が0.4〜55の範囲内に収まるような比率で含有する。P値は0.5〜3が好ましく、0.7〜1.8がより好ましい。P値が0.4より少ない、もしくは55より多いとシトラールの劣化を抑制できない場合がある。
【0055】
式1:P=(X1×Y1)/(X2×Y2)
ここでX1は、本発明の液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Aの量(重量部)を表し、X2は本発明の液状食品中のシトラール100重量部に対する抽出物Bの量(重量部)を表す。また、Y1は、抽出物AのBrix(%)を表す。抽出物AのBrix(%)とは、抽出物AをBrix計で測定した値から、抽出物Aに含まれている水または含水有機溶媒をBrix計で測定した値を減算した値である。Y2は、抽出物BのBrix(%)を表す。抽出物BのBrix(%)とは、抽出物BをBrix計で測定した値から、抽出物Bに含まれている溶媒をBrix計で測定した値を減算した値である。抽出物Bに含まれている溶媒とは、濃縮および/または乾固の過程を経て最終的に抽出物Bに残った抽出溶媒、再溶解に用いた溶媒、ならびに希釈に用いた溶媒が含まれる。
【0056】
なお、前記Brix(%)とは、20℃のショ糖溶液の重量%に相当する値と定められており、ショ糖1gのみを溶質として含む水溶液100gをBrix屈折計で測定したとき、その水溶液のBrixが1%となる。Brix屈折計としては株式会社アタゴ製のPR−201α、PR−301α等が挙げられる。
【0057】
Brix値は、糖に起因する屈性率だけではなく、糖以外の固形分が測定対象物に含まれている場合にはその量に応じた屈折率を含むものとなるので、測定対象物に固形分がどの程度含まれているかを知る指標となり得る。また、各抽出物の固形分濃度は有効成分濃度に近似すると推測される。従って、本発明では、各抽出物における有効成分濃度の指標としてBrix値を使用している。
【0058】
このことから、式1中の「X1×Y1」および「X2×Y2」はそれぞれ、液状食品に含まれている抽出物Aおよび抽出物Bの有効成分量に対応する値と考えられ、式1で表されるP値は、液状食品に含まれている抽出物Aの有効成分量と、液状食品に含まれている抽出物Bの有効成分量との割合を示す指標と位置づけられる。
【0059】
さらに、本発明の液状食品は、抽出物Aと抽出物Bを、式2から算出されるQ値が7〜3600の範囲内に収まるような量で含有する。Q値は250〜3600が好ましく、280〜3600がより好ましく、700〜3600がさらに好ましい。Q値が7より小さい、もしくは3600より大きいとシトラールの劣化を抑制できない場合がある。
【0060】
式2:Q=〔(X1×Y1)+(X2×Y2)〕/100
式2中のX1、X2、Y1、およびY2は式1中のものと同じである。式2で表されるQ値は、液状食品に含まれている抽出物Aの有効成分量と、液状食品に含まれている抽出物Bの有効成分量との合計を示す指標と位置づけられる。
【0061】
本発明の水溶性シトラール劣化抑制剤は、抽出物A及び抽出物Bを、式1から算出されるP値が0.4〜55となるような混合比率で含有したものである。P値は0.5〜3が好ましく、0.7〜1.8がより好ましい。P値が0.4より少ない、もしくは55より多いとシトラールの劣化を抑制できない場合がある。なお、水溶性シトラール劣化抑制剤におけるP値を算出する際、X1およびX2は、それぞれ、シトラール100重量部に対する相対量ではなく、水溶性シトラール劣化抑制剤に含まれる抽出物Aの量(重量部)と抽出物Bの量(重量部)を表す。このようにX1およびX2の定義を変更しても、式1はX1/X2という比率を含むので、算出されるP値に変更はない。
【0062】
本発明の液状食品を製造するためには、抽出物A及び抽出物Bを食品基材に添加する方法と、本発明の水溶性シトラール劣化抑制剤を食品基材に添加する方法とがある。いずれの方法でも、シトラールの劣化抑制効果を得ることができる。前記食品基材がシトラールを十分に含有しない場合は、さらにシトラールを前記食品基材に添加する。しかし、前記食品基材が所望量のシトラールをすでに含有している場合にはシトラールを別途添加する必要はない。また、抽出物A及び抽出物B、又は、水溶性シトラール劣化抑制剤を食品基材に添加する場合には、あらかじめ香料等と混合した後に食品基材に添加してもよい。
【0063】
本発明の水溶性シトラール劣化抑制剤を食品基材に添加する際には、優れたシトラール劣化抑制効果を得るため、式2から算出されるQ値が7〜3600となるような量で添加することが好ましい。また、該水溶性シトラール劣化抑制剤を添加する際に、さらに抽出物A及び/又は抽出物Bを前記食品基材に添加することもできる。この場合、水溶性シトラール劣化抑制剤に含まれる抽出物A及び抽出物Bの量と、前記食品基材に直接添加する抽出物A及び/又は抽出物Bの量を合算して、式2から算出されるQ値が7〜3600となるように、各添加物を添加すればよい。
【0064】
本発明の液状食品の具体的態様としては、例えば、果汁飲料、無果汁飲料、果肉飲料、機能性飲料、透明炭酸飲料、果汁入り炭酸飲料、果実着色炭酸飲料、ノンアルコールチューハイなどの清涼飲料;紅茶などの嗜好飲料;チューハイなどのアルコール飲料;バタークリーム、カスタードクリーム、ホイップドクリーム、ゼリー、プリン、ババロア、ムース、ヨーグルト、パンナコッタ、アイスクリームなどの洋菓子;スムージー、カキ氷などの氷菓;レモン果汁などの柑橘果汁;レモン等の果肉・果皮加工物;ママレード、ジャム、フラワーペースト、フルーツペーストなどのペースト状食品;ドレッシング、ポン酢などの調味料;レモンフレーバー、オレンジフレーバー、グレープフルーツフレーバー、柚子フレーバー、ライムフレーバーなどのシトラールを含有する天然香料、合成のシトラー
ルを含有する合成香料又は半合成香料を含有した香味食品などが挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
<抽出物A中のシトラール含有割合の測定方法>
(測定手順)
10mLメスフラスコに製造例1〜7、9〜15の抽出物A500mgを量り込み、蓋をしてよく振り混ぜた後、希釈溶剤(水/アセトニトリル=1/1(vol/vol))でメスアップした。得られた各サンプル溶液10μLを下記の高速液体クロマトグラフィーに注入して分析を行った。各サンプルにおけるシトラールのエリア面積(シス体のZ−シトラール、トランス体のE−シトラールの合計エリア面積)を、下記のシトラール標準溶液[濃度:190mg/L]が同条件で示すシトラールのエリア面積と比較して各サンプルに含まれるシトラール含有割合を算出した。
【0067】
(高速液体クロマトグラフィー条件)
分析機器:高速液体クロマトグラフィー(島津製作所 LC−20AD)
カラム:ナカライテスク COSMOSIL 5C18−AR−II 4.6φ×250mm
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
検出波長:UV検出器 235nm
分析時間:20分
移動相:水/アセトニトリル=1/1(vol/vol)
注入量:10μL
希釈溶剤:水/アセトニトリル=1/1(vol/vol)
(シトラール標準溶液の調製)
50mLメスフラスコにシトラール100mgを量り込み、アセトニトリルで希釈し、メスアップした(A液)。別の50mLメスフラスコにA液5mLを量り込み、希釈溶剤(水/アセトニトリル=1/1(vol/vol))で希釈し、メスアップし、シトラール標準溶液[濃度:190mg/L]を得た。
【0068】
<抽出物Aおよび抽出物BのBrixの測定方法>
Brixの測定には株式会社アタゴ製のPR−201α(測定範囲0.0〜60.0%)又はPR−301α(測定範囲45.0〜90.0%)を使用した。また、サンプルの測定は自動温度補正が適応される20℃前後で実施した(PR−201α、PR−301α共に5〜40℃の間で自動温度補正)。Brixのゼロ点補正については、PR−201αは蒸留水、PR−301αは付属品の標準液を用いて行った。
【0069】
(溶媒込みの抽出物のBrix測定)
抽出物Aまたは抽出物Bを直接Brix計のプリズム面に少量滴下し、Brixを測定した。
【0070】
(抽出物に含まれている溶媒のBrix測定)
抽出物Aまたは抽出物Bに含まれている溶媒と同組成の溶媒を新たに調製し、その溶媒をBrix計のプリズム面に少量添加し、Brixを測定した。
【0071】
(抽出物のBrix算出)
上記の抽出物Aまたは抽出物Bを直接Brix計で測定したBrixから、抽出物Aまたは抽出物Bに含まれている溶媒と同組成の溶媒のBrixを減算し、これを抽出物Aまたは抽出物BのBrixとした。
【0072】
<シトラール含有飲料の官能評価方法>
実施例及び比較例で作製したシトラール含有飲料を、熟練した10名のパネラーが試飲し、シトラールの劣化臭を評価した。その際の評価基準は以下の通りである。各パネラーが採点した評価点の平均値を各表に掲載した。
5点:劣化臭が全く感じられない(抽出物A及び抽出物Bを添加せず、食品中のシトラール含有量が同量になるようにシトラールを添加して調製した以外は同一配合の飲料を作製した直後に感じられる風味と同等)。
4点:劣化臭がほとんど感じられない(5点の飲料と3点の飲料を1:1の重量比で混合して得た飲料の風味と同等)。
3点:劣化臭がやや感じられる(前述した同一配合の飲料を55℃で3日間保存した後に感じられる風味と同等)。
2点:劣化臭が感じられる(3点の飲料と1点の飲料を1:1の重量比で混合して得た飲料の風味と同等)。
1点:劣化臭が強く感じられる(前述した同一配合の飲料を55℃で7日間保存した後に感じられる風味と同等)。
【0073】
(製造例1)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に水6重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いてから水で希釈して、抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは2.7%、シトラール含有割合は0.03重量%であった。
【0074】
【表1】
【0075】
(製造例2)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に、含水率が80重量%のエタノール6重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いてから水で希釈して、抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは2.6%、シトラール含有割合は0.18重量%であった。
【0076】
(製造例3)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に、含水率が重量60%のエタノール6重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いてから水で希釈して、抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは2.5%、シトラール含有割合は0.33重量%であった。
【0077】
(製造例4)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に、含水率が50重量%のエタノール6重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いてから水で希釈して、抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは2.4%、シトラール含有割合は0.38重量%であった。
【0078】
(製造例5)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に、含水率が45重量%のエタノール6重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いてから水で希釈して、抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは2.2%、シトラール含有割合は0.41重量%であった。
【0079】
(製造例6)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に、含水率が40重量%のエタノール6重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いてから水で希釈して、抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは2.1%、シトラール含有割合は0.44重量%であった。
【0080】
(製造例7)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に、含水率が0.5重量%のエタノール6重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いてから水で希釈して、抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは1.7%、シトラール含有割合は0.48重量%であった。
【0081】
(製造例8)抽出物Bの作製
ヤマモモの樹皮1重量部にメタノール10重量部を加え60℃で5時間保持した後、濾過して抽出し、減圧乾燥により乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末1重量部を水20重量部で懸濁した後、濾過し、再度減圧乾燥によりヤマモモ乾燥粉末を得た。
【0082】
0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)5重量部に乳糖12.5重量部を加えて溶解させ、これに、ヤマモモ乾燥粉末1重量部とβ-ガラクトシダーゼ(酵素力価20,000)0.05重量部を含むジメチルスルホキシド液5重量部を加え、60℃で4時間撹拌した。反応終了物1重量部を水50重量部で希釈し、スチレン−ジビニールベンゼン共重合体からなるポーラスポリマー35重量部を充填したカラムに通液し、次いで水250重量部を通液した。次いで、40%(v/v)メタノール100重量部を通液して吸着物を溶出し、これを乾燥させた後、乾燥粉末3重量部にエタノール50重量部、グリセリン47重量部を加えて溶解させ、抽出物Bを得た。得られた抽出物BのBrixは2.6%であった。
【0083】
(製造例9)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に、含水率が80重量%のプロピレングリコール10重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いて抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは2.2%、シトラール含有割合は0.05重量%であった。
【0084】
(製造例10)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に、含水率が60重量%のプロピレングリコール10重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いて抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは1.5%、シトラール含有割合は0.1重量%であった。
【0085】
(製造例11)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に、含水率が50重量%のプロピレングリコール10重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いて抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは1.3%、シトラール含有割合は0.15重量%であった。
【0086】
(製造例12)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に、含水率が80重量%のグリセリン10重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いて抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは2.1%、シトラール含有割合は0.03重量%であった。
【0087】
(製造例13)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に、含水率が60重量%のグリセリン10重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いて抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは1.5%、シトラール含有割合は0.03重量%であった。
【0088】
(製造例14)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に、含水率が50重量%のグリセリン10重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いて抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは1.4%、シトラール含有割合は0.03重量%であった。
【0089】
(製造例15)抽出物Aの作製
表1に示す配合に従い、レモンマートルの葉1重量部に、含水率が95重量%のトリアセチン10重量部を加え、0.18MPaに加圧して40℃で30分間保持した後、固形分を除いて抽出物Aを得た。得られた抽出物AのBrixは1.9%、シトラール含有割合は0.04重量%であった。
【0090】
<レモンマートル抽出物(抽出物A)における含水エタノールの含水率とシトラールの劣化抑制効果の関係>
抽出物Aにおける含水エタノールの含水率がシトラール劣化抑制効果に与える影響を明らかにするために以下の試験を実施した。
(実施例1)シトラール含有飲料の作製
表2に示す配合に従い、シトラール含有飲料を作製した。即ち、ショ糖7.48重量部、クエン酸0.2重量部、クエン酸三ナトリウム二水和物0.04重量部、水92.0725重量部の混合物を90℃で10分間殺菌し、5℃まで冷却した後、クリーンベンチ内でシトラール0.00075重量部、抽出物A(製造例1)0.1重量部及び抽出物B(製造例8)0.1重量部を添加して、シトラール含有飲料を得た。得られたシトラール含有飲料は遮光して55℃で7日間保存した後、上述した手法により風味を評価し、その結果を表2に示した。
【0091】
(実施例2〜4、比較例1〜3)シトラール含有飲料の作製
表2に示す配合に従い、製造例1の抽出物Aに代えて、飲料中のP値及びQ値がほぼ同じになるように製造例2〜7の抽出物Aを添加し、飲料中のシトラール含有量が同じになるようにシトラールの配合量を調整し、全体量を水で調整した以外は、実施例1と同様にシトラール含有飲料を作製し、風味を評価して、その結果を表2に示した。
【0092】
【表2】
【0093】
表2中、液状食品中のシトラール含有量は、シトラールの配合量(純分)と、抽出物Aに含まれるシトラール量(抽出物Aの配合量×抽出物A中のシトラール含有割合)とを合計した量である。以下の表でも同様である。
1)和光純薬工業株式会社製「スクロース」
2)和光純薬工業株式会社製「クエン酸」
3)和光純薬工業株式会社製「くえん酸三ナトリウム二水和物」
4)和光純薬工業株式会社製「シトラール(cis-,trans-混合物)」(純度95%)
【0094】
表2から明らかなように、55℃で7日間保存後の風味評価において、水、又は、含水率が50重量%以上のエタノールを使用して抽出した抽出物Aと抽出物Bとを配合した実施例1〜4に顕著なシトラールの劣化抑制効果が見られ、特に水を使用して抽出した抽出物Aと抽出物Bとを配合した実施例1が最も効果が高かった。抽出物Aの抽出に用いる有機溶媒の含水率の高さがシトラール劣化抑制効果の向上に寄与していることは明らかである。
【0095】
<レモンマートル抽出物(抽出物A)における含水有機溶媒の種類とシトラールの劣化抑制効果の関係>
抽出物Aにおける含水有機溶媒の種類がシトラール劣化抑制効果に与える影響を明らかにするために以下の試験を実施した。
(実施例5〜11)シトラール含有飲料の作製
表3に示す配合に従い、製造例1の抽出物Aに代えて、飲料中のP値及びQ値がほぼ同じになるように製造例9〜15の抽出物Aを添加し、飲料中のシトラール含有量が同じになるようにシトラールの配合量を調整し、全体量を水で調整した以外は、実施例1と同様にシトラール含有飲料を作製し、風味を評価して、その結果を表3に示した。
【0096】
【表3】
【0097】
表3から明らかなように、55℃で7日間保存後の風味評価において、含水率が50重量%以上のプロピレングリコールを使用して抽出した抽出物Aと抽出物Bとを配合した実施例5〜7に顕著なシトラールの劣化抑制効果が見られ、特に含水率の高いプロピレングリコールで抽出した抽出物Aほど効果が高かった。
また、含水率が50重量%以上のグリセリンを使用して抽出した抽出物Aと抽出物Bとを配合した実施例8〜10にシトラールの劣化抑制効果が見られた。
更に、含水率が95重量%のトリアセチンを使用して抽出した抽出物Aと抽出物Bとを配合した実施例11にシトラールの劣化抑制効果が見られた。
【0098】
<レモンマートル抽出物(抽出物A)とヤマモモ抽出物(抽出物B)の比率とシトラール劣化抑制効果の関係>
シトラールの劣化抑制効果が高まる、抽出物Aと抽出物Bの混合比率を明らかにするため以下の試験を実施した。
【0099】
(実施例12〜16、比較例4〜5)シトラール含有飲料の作製
表4に示す配合に従い、飲料中のQ値がほぼ同じになるように製造例1の抽出物Aと製造例8の抽出物Bの合計添加量を0.2重量部に固定しつつ両抽出物の比率を変え、飲料中のシトラール含有量が同じになるようにシトラールの配合量を調整し、全体量を水で調整した以外は、実施例1と同様にシトラール含有飲料を作製し、風味を評価して、その結果を表4に示した。
【0100】
(参考例1)シトラール含有飲料の作製
表4に示す配合に従い、製造例1の抽出物Aと製造例8の抽出物Bを添加せず、飲料中のシトラール含有量が同じになるようにシトラールの配合量を調整し、全体量を水で調整した以外は、実施例1と同様にシトラール含有飲料を作製し、風味を評価して、その結果を表4に示した。
【0101】
【表4】
【0102】
表4の風味評価から明らかなように、P値が0.4〜55の範囲内にある実施例1、実施例12−16の飲料は劣化臭をほとんど感じず、対して比較例4、5の飲料は劣化臭をやや感じた。参考例1は、シトラール含有飲料の官能評価方法の基準点(1点)であり、抽出物A、抽出物Bを添加せずに55℃で7日間保存すると劣化臭が強く感じられることが確認された。
【0103】
以上の結果から、抽出物Aに含まれる有効成分と抽出物Bに含まれる有効成分との比率を示す指標となるP値を0.4〜55に調整することでシトラールの劣化を抑制できることが明らかになった。
【0104】
<レモンマートル抽出物(抽出物A)とヤマモモ抽出物(抽出物B)の添加量とシトラール劣化抑制効果の関係>
シトラールの劣化抑制効果が十分に感じられる添加量を明らかにするため、以下の試験を実施した。
【0105】
(実施例17〜22、比較例6)シトラール含有飲料の作製
表5に示す配合に従い、飲料中のP値がほぼ同じになるように製造例1の抽出物Aと製造例8の抽出物Bの比率を1:1に固定しつつ両抽出物の添加量を変え、飲料中のシトラール含有量が同じになるようにシトラールの配合量を調整し、全体量を水で調整した以外は、実施例1と同様にシトラール含有飲料を作製し、風味を評価して、その結果を表5に示した。
【0106】
【表5】
【0107】
表5の風味評価から明らかなように、Q値が7〜3600の範囲内にある実施例1、実施例17〜22の飲料は劣化臭をほとんど感じず、対して比較例6の飲料は劣化臭を感じた。
【0108】
以上の結果から、抽出物Aと抽出物Bに含まれる有効成分の合計量を示す指標となるQ値を7〜3600に調整することでシトラールの劣化を抑制できることが明らかとなった。
【0109】
<飲料中のシトラール量とシトラール劣化抑制効果の関係>
飲料中のシトラール量が、抽出物Aと抽出物Bのシトラール劣化抑制効果に影響しないことを明らかにするため、以下の試験を実施した。
【0110】
(実施例23〜26)シトラール含有飲料の作製
表6に示す配合に従い、飲料中のP値がほぼ同じになるように製造例1の抽出物Aと製造例8の抽出物Bの比率を1:1に固定し、シトラールの添加量を変えて全体量を水で調整した以外は、実施例1と同様にシトラール含有飲料を作製し、風味を評価して、その結果を表6に示した。
【0111】
【表6】
【0112】
表6の風味評価から明らかなように、シトラール含有量が0.0075〜15ppmの範囲内にある実施例1、実施例23−26の飲料は劣化臭をほとんど感じなかった。
【0113】
以上の結果から、飲料中のシトラール量に関わらず、表5の結果と同様に、抽出物Aと抽出物Bに含まれる有効成分の合計量を示す指標となるQ値を7〜3600に調整することでシトラールの劣化を抑制できることが明らかとなった。
【0114】
レモンマートル抽出物(抽出物A)のみ、ヤマモモ抽出物(抽出物B)のみ、又は、P値が1.04となるように1:1の比率で混合した抽出物Aと抽出物Bの混合物におけるシトラール劣化抑制効果の違いを明らかにするために試験を実施した。
【0115】
<レモンマートル抽出物(抽出物A)のみのシトラール劣化抑制効果>
抽出物Aのみでシトラールの劣化をどれだけ抑制できるのか明らかにするために以下の試験を実施した。
【0116】
(比較例7〜17)シトラール含有飲料の作製
表7に示す配合に従い、製造例8の抽出物Bを添加せず、製造例1の抽出物Aの添加量を変え、飲料中のシトラール含有量が同じになるようにシトラールの配合量を調整し、全体量を水で調整した以外は、実施例1と同様にシトラール含有飲料を作製し、風味を評価して、その結果を表7に示した。
【0117】
【表7】
【0118】
表7から明らかなように、Q値が363以上になるように製造例1の抽出物Aを添加しても、シトラールの劣化抑制効果は頭打ちとなり、しかも、官能評価点は3.3点であり劣化臭をやや感じた(比較例15−17)。Q値が182以下になると徐々にシトラール劣化抑制効果が弱まり(比較例7−14)、Q値が3.6(添加量0.001%)になると官能評価点は1.3まで低下し、劣化臭を強く感じた(比較例7)。
【0119】
<ヤマモモ抽出物(抽出物B)のみのシトラール劣化抑制効果>
抽出物Bのみでシトラールの劣化をどれだけ抑制できるのか明らかにするために以下の試験を実施した。
【0120】
(比較例18〜28)シトラール含有飲料の作製
表8に示す配合に従い、製造例1の抽出物Aを添加せず、製造例8の抽出物Bの添加量を変え、飲料中のシトラール含有量が同じになるようにシトラールの配合量を調整し、全体量を水で調整した以外は、実施例1と同様にシトラール含有飲料を作製し、風味を評価して、その結果を表8に示した。
【0121】
【表8】
【0122】
表8から明らかなように、Q値が350以上になるように製造例8の抽出物Bを添加しても、シトラールの劣化抑制効果は頭打ちとなり、しかも、官能評価点は2.0点であり、劣化臭を感じた(比較例26−28)。Q値が175以下になると徐々にシトラール劣化抑制効果が弱まり、Q値が35.1になると官能評価点は1.0まで低下した(比較例23−25)。Q値が35.1以下の場合は、官能評価点は1.0となり、劣化臭を強く感じた(比較例18−23)。
【0123】
表7、8の結果から、製造例1の抽出物A又は製造例8の抽出物Bを単独でシトラール含有飲料に添加しても十分なシトラール劣化抑制効果を得られないことが明らかとなった。
【0124】
<P値が1.04となるように1:1の比率で混合した抽出物Aと抽出物Bの混合物におけるシトラール劣化抑制効果>
製造例1の抽出物Aと製造例8の抽出物BをP値が1.04になるように混合したシトラール含有飲料は、Q値が7以上で官能評価点が3.5以上の高い値となり、シトラールの劣化臭をほとんど感じなかった(実施例1、17−22)。
【0125】
特に実施例1、20−22は官能評価点が4.0以上の高い値となり、抽出物Aまたは抽出物Bの単独添加ではなし得なかった、強いシトラールの劣化抑制効果を確認した。
【0126】
図1では、実施例1、17−22(P値1.04)、実施例12(P値0.45)、実施例16(P値50.9)、比較例7〜17(抽出物Aのみ)、比較例18〜28(抽出物Bのみ)に関して、Q値と官能評価結果との関係を示している。この図より、各実施例が各比較例より優れた官能評価を示すことが明らかである。
図1