(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6726650
(24)【登録日】2020年7月1日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強剤、食品への白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強方法、並びに白濁した畜肉だしの乳化感を有する食品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20200713BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20200713BHJP
A23L 5/40 20160101ALI20200713BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/10 B
A23L5/40
【請求項の数】28
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-205782(P2017-205782)
(22)【出願日】2017年10月25日
(65)【公開番号】特開2019-76022(P2019-76022A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2019年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 道長
(72)【発明者】
【氏名】原口 賢治
(72)【発明者】
【氏名】山田 晴久
【審査官】
小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−105706(JP,A)
【文献】
特開2017−018025(JP,A)
【文献】
特開2012−161268(JP,A)
【文献】
長谷川香料技術レポート,2017年 9月,No.36,p.24-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルを有効成分として含む、白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強剤。
【請求項2】
(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを有効成分として含む、白濁した畜肉だしの白濁感及び乳化感の付与乃至増強剤(ただし、4,5―エポキシー(E)―2―デセナールを含むものを除く)。
【請求項3】
(Z)−8−ペンタデセナールを有効成分として含む、白濁した畜肉だしの白濁感及び乳化感の付与乃至増強剤。
【請求項4】
(E)―6−ノネナールを有効成分として含む、白濁した畜肉だしの白濁感及び乳化感の付与乃至増強剤。
【請求項5】
(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される2種以上を有効成分として含む、白濁した畜肉だしの白濁感及び乳化感の付与乃至増強剤。
【請求項6】
前記付与乃至増強剤の全質量を基準として、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルを10ppt〜10ppm含む、請求項1に記載の付与乃至増強剤。
【請求項7】
前記付与乃至増強剤の全質量を基準として、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを100ppt〜100ppm含む、請求項2に記載の付与乃至増強剤。
【請求項8】
前記付与乃至増強剤の全質量を基準として、(Z)−8−ペンタデセナールを1ppt〜1ppm含む、請求項3に記載の付与乃至増強剤。
【請求項9】
前記付与乃至増強剤の全質量を基準として、(E)―6−ノネナールを1ppt〜1ppm含む、請求項4に記載の付与乃至増強剤。
【請求項10】
飲食品の全質量を基準として、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの濃度が、0.01ppt〜10ppbの範囲となるように添加される、請求項1又は6に記載の付与乃至増強剤。
【請求項11】
飲食品の全質量を基準として、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの濃度が、0.1ppt〜100ppbの範囲となるように添加される、請求項2又は7に記載の付与乃至増強剤。
【請求項12】
飲食品の全質量を基準として、(Z)−8−ペンタデセナールの濃度が、0.001ppt〜1ppbの範囲となるように添加される、請求項3又は8に記載の付与乃至増強剤。
【請求項13】
飲食品の全質量を基準として、(E)―6−ノネナールの濃度が、0.001ppt〜1ppbの範囲となるように添加される、請求項4又は9に記載の付与乃至増強剤。
【請求項14】
飲食品に白濁した畜肉だしの乳化感を付与乃至増強する方法であって、該方法が(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルを飲食品に添加する工程を含む方法。
【請求項15】
飲食品に白濁した畜肉だしの白濁感及び乳化感を付与乃至増強する方法であって、該方法が(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを飲食品に添加する工程を含む方法(ただし、4,5―エポキシー(E)―2―デセナールは添加しない)。
【請求項16】
飲食品に白濁した畜肉だしの白濁感及び乳化感を付与乃至増強する方法であって、該方法が(Z)−8−ペンタデセナールを飲食品に添加する工程を含む方法。
【請求項17】
飲食品に白濁した畜肉だしの白濁感及び乳化感を付与乃至増強する方法であって、該方法が(E)―6−ノネナールを飲食品に添加する工程を含む方法。
【請求項18】
飲食品に白濁した畜肉だしの白濁感及び乳化感を付与乃至増強する方法であって、該方法が(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される2種以上を飲食品に添加する工程を含む方法。
【請求項19】
飲食品への(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの添加が、該飲食品において(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの濃度が0.01ppt〜10ppbの範囲となるように行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
飲食品への(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの添加が、該飲食品において(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの濃度が0.1ppt〜100ppbの範囲となるように行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
飲食品への(Z)−8−ペンタデセナールの添加が、該飲食品において(Z)−8−ペンタデセナールの濃度が0.001ppt〜1ppbの範囲となるように行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
飲食品への(E)―6−ノネナールの添加が、該飲食品において(E)―6−ノネナールの濃度が0.001ppt〜1ppbの範囲となるように行われる、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
白濁した畜肉だしの白濁感及び乳化感を有する飲食品を製造する方法であって、該方法が(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを飲食品に添加する工程を含む方法(ただし、4,5―エポキシー(E)―2―デセナールは添加しない)。
【請求項24】
白濁した畜肉だしの白濁感及び乳化感を有する飲食品を製造する方法であって、該方法が(Z)−8−ペンタデセナールを飲食品に添加する工程を含む方法。
【請求項25】
白濁した畜肉だしの白濁感及び乳化感を有する飲食品を製造する方法であって、該方法が(E)―6−ノネナールを飲食品に添加する工程を含む方法。
【請求項26】
飲食品への(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの添加が、該飲食品において(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの濃度が0.1ppt〜100ppbの範囲となるように行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
飲食品への(Z)−8−ペンタデセナールの添加が、該飲食品において(Z)−8−ペンタデセナールの濃度が0.001ppt〜1ppbの範囲となるように行われる、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
飲食品への(E)―6−ノネナールの添加が、該飲食品において(E)―6−ノネナールの濃度が0.001ppt〜1ppbの範囲となるように行われる、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強剤、食品への白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強方法、並びに白濁した畜肉だしの乳化感を有する食品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豚骨を長時間炊き出すと、豚骨から溶け出したコラーゲンは高温下でゲル化して水溶性のゼラチンに変化し、このゼラチンの乳化作用により豚骨から溶け出した油が取り囲まれ、白濁した豚骨スープが出来上がる。我々はこのスープを飲むと、口腔内でコクのある濃厚でクリーミーな味わいの感覚を得る(本件明細書では、この感覚を「乳化感」という。)。この乳化感は、我々に食の満足感や充足感を与え、コクのある美味しさを認識させる。また、豚骨スープは、油が乳化して全体が白濁しているため、スープ表面に油が浮いたスープとは異なる。この豚骨スープを使った豚骨ラーメンは日本だけでなく、海外においても多くの人から支持されている。
【0003】
近年、豚骨スープだけではなく鶏ガラや牛骨などを長時間炊き込むことで白濁させた鶏白湯スープや牛白湯スープにも注目が集まっている。しかしながら、例えば、即席麺用の豚骨スープの製造においては、コストの問題から豚骨エキスを十分に使用することができず、そのため、本物の豚骨スープのような、白濁した乳化感のあるスープの再現は難しかった。
【0004】
従来、豚脂を構成する油脂中の脂肪酸を組み合わせた豚骨フレーバーを添加することで、本物の豚骨スープの風味を再現しようと試みがなされてきた。ところが、豚脂を構成する油脂中の脂肪酸成分の定量分析データを基にした豚骨フレーバーを使用しても、通常、本物の豚骨スープ様の白濁した乳化感のあるスープを得ることはできなかった。
【0005】
一方、食品に肉系のコク味や風味を付与するための検討がなされてきており、例えば、食品にコク味を付与できる調味料として、2−メチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン、2,3,5−トリメチルピラジン、テトラメチルピラジン、2,5−ジエチルピラジン、2,6−ジエチルピラジン、2,3−ジエチル−5−メチルピラジン、2−エチル−3,5−ジメチルピラジンから選択されるピラジン化合物類を含有してなる調味料が提案されている(特許文献1)。
【0006】
その他、肉の風味付け等に使用されるミート系フレーバー組成物として、(1)(A)ピロール類、(B)ピリジン類、(C)ピラジン類、(D)オキサゾール類、(E)オキサゾリン類、(F)アミン類、(G)チアゾール類、(H)チアゾリン類、(I)チアゾリジン類、(J)チオール類、(K)スルフィド類、(L)チオエーテル類、(M)含硫カルボン酸類、(N)キノキサリン類、及び(O)フラノン類、からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の香料、及び、(2)エキス類、を含有するミート系フレーバー組成物が提案されている(特許文献2)。
【0007】
また、豚骨風味、鶏ガラ風味の増強に関する技術としては、(a)グルタミン酸ナトリウムを10全質量%以上(好ましくは15%以上)、(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを、総量で1全質量%以上(好ましくは1.5%以上)、並びに(c)2−フランメタノール及び5−メチル−2−フランメタノールを含む酵母エキスを有効成分とする、豚骨スープ又は鶏ガラスープの、風味増強剤が提案されている(特許文献3)。
【0008】
しかしながら、これらの技術を用いて種々検討しても、豚骨を炊き込むことで得られる白濁感や乳化感を十分に付与するには至らなかった。したがって、上述の従来提案は、白濁した乳化感のある豚骨スープと同様のスープを再現するという点では満足できるものではなかった。
【0009】
前述したように、豚骨スープを使用した豚骨ラーメンは多くの人に支持されており、また、消費者の嗜好性の多様化により、食品に対して豚骨スープや鶏白湯スープのような白濁感や乳化感、すなわち、白濁した畜肉だしの乳化感を付与できる素材が求められている。しかしながら、従来の香料物質を組み合わせても、リアルな白濁感や乳化感を付与する点において満足できるものはなく、白濁した畜肉だしの乳化感を再現する要望に十分対応できているとは言い難いのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11―313635号公報
【特許文献2】特開2005−15683号公報
【特許文献3】特開2012−161268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、白濁した畜肉だしの乳化感を付与することができる、白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強剤、食品への白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強方法、並びに白濁した畜肉だしの乳化感を有する食品を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前述の課題を解決するために鋭意検討した結果、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールが、白濁した畜肉だしの乳化感を付与乃至増強できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
かくして本発明は、以下のものを提供する。
[1](Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルを有効成分として含む、白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強剤。
[2](E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを有効成分として含む、白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強剤(ただし、4,5―エポキシー(E)―2―デセナールを含むものを除く)。
[3](Z)−8−ペンタデセナールを有効成分として含む、白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強剤。
[4](E)―6−ノネナールを有効成分として含む、白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強剤。
[5](Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される2種以上を有効成分として含む、白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強剤。
[6]前記付与乃至増強剤の全質量を基準として、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルを10ppt〜10ppm含む、前記[1]に記載の付与乃至増強剤。
[7]前記付与乃至増強剤の全質量を基準として、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを100ppt〜100ppm含む、前記[2]に記載の付与乃至増強剤。
[8]前記付与乃至増強剤の全質量を基準として、(Z)−8−ペンタデセナールを1ppt〜1ppm含む、前記[3]に記載の付与乃至増強剤。
[9]前記付与乃至増強剤の全質量を基準として、(E)―6−ノネナールを1ppt〜1ppm含む、前記[4]に記載の付与乃至増強剤。
[10]飲食品の全質量を基準として、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの濃度が、0.01ppt〜10ppbの範囲となるように添加される、前記[1]又は[6]に記載の付与乃至増強剤。
[11]飲食品の全質量を基準として、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの濃度が、0.1ppt〜100ppbの範囲となるように添加される、前記[2]又は[7]に記載の付与乃至増強剤。
[12]飲食品の全質量を基準として、(Z)−8−ペンタデセナールの濃度が、0.001ppt〜1ppbの範囲となるように添加される、前記[3]又は[8]に記載の付与乃至増強剤。
[13]飲食品の全質量を基準として、(E)―6−ノネナールの濃度が、0.001ppt〜1ppbの範囲となるように添加される、前記[4]又は[9]に記載の付与乃至増強剤。
[14]飲食品に白濁した畜肉だしの乳化感を付与乃至増強する方法であって、該方法が(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルを飲食品に添加する工程を含む方法。
[15]飲食品に白濁した畜肉だしの乳化感を付与乃至増強する方法であって、該方法が(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを飲食品に添加する工程を含む方法(ただし、4,5―エポキシー(E)―2―デセナールは添加しない)。
[16]飲食品に白濁した畜肉だしの乳化感を付与乃至増強する方法であって、該方法が(Z)−8−ペンタデセナールを飲食品に添加する工程を含む方法。
[17]飲食品に白濁した畜肉だしの乳化感を付与乃至増強する方法であって、該方法が(E)―6−ノネナールを飲食品に添加する工程を含む方法。
[18]飲食品に白濁した畜肉だしの乳化感を付与乃至増強する方法であって、該方法が(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される2種以上を飲食品に添加する工程を含む方法。
[19]飲食品への(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの添加が、該飲食品において(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの濃度が0.01ppt〜10ppbの範囲となるように行われる、前記[14]に記載の方法。
[20]飲食品への(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの添加が、該飲食品において(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの濃度が0.1ppt〜100ppbの範囲となるように行われる、前記[15]に記載の方法。
[21]飲食品への(Z)−8−ペンタデセナールの添加が、該飲食品において(Z)−8−ペンタデセナールの濃度が0.001ppt〜1ppbの範囲となるように行われる、前記[16]に記載の方法。
[22]飲食品への(E)―6−ノネナールの添加が、該飲食品において(E)―6−ノネナールの濃度が0.001ppt〜1ppbの範囲となるように行われる、前記[17]に記載の方法。
[23]白濁した畜肉だしの乳化感を有する飲食品を製造する方法であって、該方法が(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルを飲食品に添加する工程を含む方法。
[24]白濁した畜肉だしの乳化感を有する飲食品を製造する方法であって、該方法が(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを飲食品に添加する工程を含む方法(ただし、4,5―エポキシー(E)―2―デセナールは添加しない)。
[25]白濁した畜肉だしの乳化感を有する飲食品を製造する方法であって、該方法が(Z)−8−ペンタデセナールを飲食品に添加する工程を含む方法。
[26]白濁した畜肉だしの乳化感を有する飲食品を製造する方法であって、該方法が(E)―6−ノネナールを飲食品に添加する工程を含む方法。
[27]白濁した畜肉だしの乳化感を有する飲食品を製造する方法であって、該方法が(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される2種以上を飲食品に添加する工程を含む方法。
[28]飲食品への(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの添加が、該飲食品において(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの濃度が0.01ppt〜10ppbの範囲となるように行われる、前記[23]に記載の方法。
[29]飲食品への(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの添加が、該飲食品において(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの濃度が0.1ppt〜100ppbの範囲となるように行われる、前記[24]に記載の方法。
[30]飲食品への(Z)−8−ペンタデセナールの添加が、該飲食品において(Z)−8−ペンタデセナールの濃度が0.001ppt〜1ppbの範囲となるように行われる、前記[25]に記載の方法。
[31]飲食品への(E)―6−ノネナールの添加が、該飲食品において(E)―6−ノネナールの濃度が0.001ppt〜1ppbの範囲となるように行われる、前記[26]に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、食品に、白濁した畜肉だしの乳化感を付与することができる白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強剤、食品への白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強方法、並びに白濁した畜肉だしの乳化感を有する食品を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強剤
本発明の白濁した畜肉だしの乳化感の付与乃至増強剤(以下、「本発明付与乃至増強剤」ということがある。)は、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される少なくとも1種以上を有効成分として含むことを特徴とする。これらの化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明付与乃至増強剤によれば、食品に対して実際の畜肉類の骨スープと同様のリアルな白濁感及び乳化感を付与乃至増強することができるため、豚骨エキス等の畜肉類エキスの使用量を減らすことができる。すなわち、低コスト化が可能になる。
【0016】
本発明で使用される(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルは、公知文献による方法で合成することができ、例えば、Journal of Chemical Ecology(1995),21(8),1191−1215に記載の以下の方法で合成することができる。一例としては、まず、2−オクチン−1−オ−ルをリンドラ−触媒により部分的に水素添加してブロム化しZ体の1−ブロモ−2−オクテンを得る。一方で、1−ブロモ−3−テトラヒドロピラニルオキシプロパンとアセチレン化ナトリウムをアンモニア存在下で反応させて5−テトラヒドロピラニルオキシプロパニル−1−ペンチンを得て、次いで、グリニャ−ル誘導体とし、先に得られた1−ブロモ−2−オクテンと塩化銅存在下でカップリングして1−テトラヒドロピラニルオキシ−7−トリデセン−1−インとする。次いで、リンドラ−触媒により部分的に水素添加した後、保護基であるテトラヒドロピラニル基を脱離し、生じた水酸基を酸化することで(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルを得ることができる。
【0017】
本発明で使用される(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルは、公知文献による方法で合成することができ、例えば、2−オクチン−1−オ−ルを出発物質としてブロム化した後、(E)−2−ペンテン−4−イン−1−オ−ルのグリニヤ−ル誘導体と銅触媒を用いてカップリングし、リンドラ−触媒を用いて部分的に水素添加した後、二酸化マンガンにより酸化して合成することができる(J.Agric.Food Chem.2001,49,2959−2965)。また、(Z,Z)−2,5−ウンデカジエン−1−オ−ルに、二酸化マンガン及びトリフェニルホスホラニリデン酢酸アルキルにてワンポット酸化ウィッティヒ反応させ、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエン酸アルキルエステルを生成させた後、ヒドリド還元剤の存在下で還元して(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエノ−ルとした後、酸化することで(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを合成することができる(特許第5473867号)。
【0018】
本発明で使用される(Z)−8−ペンタデセナールは、キュウリの揮発性成分として知られており、公知文献による方法で合成することができる。例えば、市販されている1−オクチン及び7−ブロモ−1−ヘプタノールを出発原料として用いたカップリング反応、続くリンドラ−還元、IBX酸化といった工程を経て合成することができる。
【0019】
本発明で使用される(E)―6−ノネナールは、ヤギのような香気、腐った脂肪のような香気、メロン的ムスク香気を有することは知られており、公知文献による方法で合成することができる。例えば、(E)−3−ヘキセニルクロリドと2−(2−ブロモエチル)−1,3―ジオキソランとのカップリング反応により合成できる。
【0020】
本発明付与乃至増強剤の有効成分である(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、特にこれらの化合物の全てを組み合わせると、よりリアルな白濁感及び乳化感を付与乃至増強することができるため好ましい。
【0021】
本発明付与乃至増強剤には、本発明の効果を損なわない限り、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される少なくとも1種以上に加えて他の成分を含めることにより、他の成分を含んだ組成物の形態としてもよい。他の成分は、該付与乃至増強剤の形態等に応じて適宜選択できるが、例えば、豚骨エキス等の畜肉エキス、各種の合成香料、天然香料、調味料、天然精油、植物エキス、保留剤、溶剤、懸濁化剤、溶解補助剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等が挙げられる。なお、本発明付与乃至増強剤が前記有効成分のうち(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを含む場合、特に(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルのみを有効成分とするものである場合には、畜肉だしの乳化感を減弱させないようにするため、4,5―エポキシー(E)―2―デセナールを本発明付与乃至増強剤に含めないようにすることが好ましい。
【0022】
本発明付与乃至増強剤における(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの含有量は、所望の効果が付与される限りにおいて任意に設定することができるが、前記付与乃至増強剤の全質量を基準として、通常10ppt以上、好ましくは100ppt以上、より好ましくは1ppb以上である。一方、上限値は、100質量%以下であり、通常10ppm以下、好ましくは2ppm以下、より好ましくは1ppm以下とすることができる。(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの含有量が10pptを下回る場合は、本発明特有の白濁感及び乳化感付与乃至増強効果が十分に得られなくなる恐れがある。
【0023】
本発明付与乃至増強剤における(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの含有量は、所望の効果が付与される限りにおいて任意に設定することができるが、前記付与乃至増強剤の全質量を基準として、通常100ppt以上、好ましくは1ppb以上、より好ましくは10ppb以上である。一方、上限値は、100質量%以下であり、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下、より好ましくは10ppm以下とすることができる。(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの含有量が100pptを下回る場合は、本発明特有の白濁感及び乳化感付与乃至増強効果が十分に得られなくなる恐れがある。
【0024】
本発明付与乃至増強剤における(Z)−8−ペンタデセナールの含有量は、所望の効果が付与される限りにおいて任意に設定することができるが、前記付与乃至増強剤の全質量を基準として、通常1ppt以上、好ましくは10ppt以上、より好ましくは100ppt以上である。一方、上限値は、100質量%以下であり、通常1ppm以下、好ましくは200ppb以下、より好ましく100ppb以下とすることができる。(Z)−8−ペンタデセナールの含有量が1pptを下回る場合は、本発明特有の白濁感及び乳化感付与乃至増強効果が十分に得られなくなる恐れがある。
【0025】
本発明付与乃至増強剤における(E)―6−ノネナールの含有量は、所望の効果が付与される限りにおいて任意に設定することができるが、前記付与乃至増強剤の全質量を基準として、通常1ppt以上、好ましくは10ppt以上、より好ましくは100ppt以上である。一方、上限値は、100質量%以下であり、通常1ppm以下、好ましくは200ppb以下、より好ましくは100ppb以下とすることができる。(E)―6−ノネナールの含有量が1pptを下回る場合は、本発明特有の白濁感及び乳化感付与乃至増強効果が十分に得られなくなる恐れがある。
【0026】
(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルを有効成分とする本発明付与乃至増強剤の食品への添加量は、食品に添加することにより所望の効果が付与される有効量であればよく、食品の種類や形態に応じて任意に設定することができるが、食品の全質量を基準として、通常0.01ppt以上、好ましくは0.1ppt以上、より好ましくは1ppt以上である。一方、上限値は、通常10ppb以下、好ましくは2ppb以下、より好ましくは1ppb以下とすることができる。これらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができる。飲食品における(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの濃度が0.01pptを下回る場合は、白濁感及び乳化感を十分に感じることができず、本発明特有の白濁感及び乳化感付与乃至増強効果が十分に得られない恐れがあり、10ppbを上回る場合は、不快臭が強くなってしまい好ましくない。
【0027】
(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを有効成分とする本発明付与乃至増強剤の飲食品への添加量は、飲食品に添加することにより所望の効果が付与される有効量であればよく、飲食品の種類や形態に応じて任意に設定することができるが、飲食品の全質量を基準として、通常0.1ppt以上、好ましくは1ppt以上、より好ましくは10ppt以上である。一方、上限値は、通常100ppb以下、好ましくは20ppb以下、より好ましくは10ppb以下とすることができる。これらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができる。飲食品における(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの濃度が0.1pptを下回る場合は、白濁感及び乳化感を十分に感じることができず、本発明特有の白濁感及び乳化感付与乃至増強効果が十分に得られない恐れがあり、100ppbを上回る場合は、不快臭が強くなってしまい好ましくない。
【0028】
(Z)−8−ペンタデセナールを有効成分とする本発明付与乃至増強剤の飲食品への添加量は、飲食品に添加することにより所望の効果が付与される有効量であればよく、飲食品の種類や形態に応じて任意に設定することができるが、飲食品の全質量を基準として、通常0.001ppt以上、好ましくは0.01ppt以上、より好ましくは0.1ppt以上である。一方、上限値は、通常1ppb以下、好ましくは0.2ppb以下、より好ましくは0.1ppb以下とすることができる。これらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができる。飲食品における(Z)−8−ペンタデセナールの濃度が0.001pptを下回る場合は、白濁感及び乳化感を十分に感じることができず、本発明特有の白濁感及び乳化感付与乃至増強効果が十分に得られない恐れがあり、1ppbを上回る場合は、不快臭が強くなってしまい好ましくない。
【0029】
(E)―6−ノネナールを有効成分とする本発明付与乃至増強剤の飲食品への添加量は、飲食品に添加することにより所望の効果が付与される有効量であればよく、飲食品の種類や形態に応じて任意に設定することができるが、飲食品の全質量を基準として、通常0.001ppt以上、好ましくは0.01ppt以上、より好ましくは0.1ppt以上である。一方、上限値は、通常1ppb以下、好ましくは0.2ppb以下、より好ましくは0.1ppb以下とすることができる。これらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができる。飲食品における(E)―6−ノネナールの濃度が0.001pptを下回る場合は、白濁感及び乳化感を十分に感じることができず、本発明特有の白濁感及び乳化感付与乃至増強効果が十分に得られない恐れがあり、1ppbを上回る場合は、不快臭が強くなってしまい好ましくない。
【0030】
(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される2種以上を有効成分とする本発明付与乃至増強剤の飲食品への添加量は、飲食品に添加することにより所望の効果が付与される有効量であればよく、上述した各有効成分の前記添加量を参考にしつつ、飲食品の種類や形態に応じて適宜決定すればよい。
【0031】
本発明付与乃至増強剤は様々な使い方が可能であり、例えば、食品(食品を作るときの原材料を含む。)に添加することによって、白濁した畜肉だしの乳化感を食品に付与することができる。食品の具体例としては何ら限定されるものではなく、本発明の付与乃至増強剤は、例えば、豚骨スープ、鶏ガラを用いる鶏白湯スープ、牛骨を用いる牛骨スープ等の白濁した畜肉スープのほか、白濁した畜肉だしの乳化感を付与乃至増強したいコンソメ、ブイヨン、ラーメンスープ、ちゃんぽんスープ、うどんスープ、煮込み用のスープ、水炊き用のスープ、鍋料理用のスープ、おでん用のスープ、トマトスープ、コンソメスープ、ポタージュスープ、コーンスープ、ワンタンスープ、シーフードスープ、カレースープ、シチュー、各種スープの素、フリーズドライ固形スープ等のスープ並びにこれらのスープを使用した調理品、ドレッシング、醤油、たれ、ソース、スパゲッティソース、カレー等の調味料並びにこれらの調味料を使用した調理品、ハンバーグ、ミートボール、メンチカツ、コロッケ、餃子、焼売、ハム、ソーセージ、ベーコン等の獣鳥肉類加工品、たこ焼きやお好み焼きの生地、スナック菓子に添加することができる。
【0032】
本明細書において、用語「畜肉」とは、動物の肉を意味し、例えば、家畜であるウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギの肉、の他、ニワトリ、ウズラ、アヒル、カモ、キジ、シチメンチョウ、アイガモ(野生のマガモとアヒルの交配種)の肉、を意味し、骨(ガラ)や臓器も含まれる。
【0033】
本明細書において、用語「畜肉だし」とは、家畜や家禽であるブタ、ウシ、ニワトリ、カモなどの前記畜肉を水性媒体中で長時間煮込んで作る乳化状のスープを意味する。したがって、用語「白濁した畜肉だしの乳化感」とは、乳化感が、前記畜肉を水性媒体中で長時間煮込んで得られる白濁した乳化状のスープと同様の乳化感であることを意味する。
【0034】
本明細書において、用語「白濁感及び乳化感の付与」とは白濁感及び乳化感を有しない食品に白濁感及び乳化感を新たに付与することであり、「白濁感及び乳化感の増強」とは既に存在する白濁感及び乳化感に更に白濁感及び乳化感を付与して増強することを意味する。
【0035】
2、食品に白濁した畜肉だしの乳化感を付与乃至増強する方法
本発明の食品に白濁した畜肉だしの乳化感を付与乃至増強する方法(以下、「本発明付与乃至増強方法」ということがある。)は、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される少なくとも1種以上を食品に添加する工程を含むことを特徴とする。
【0036】
本発明付与乃至増強方法において、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールは、単独又は2種以上を組み合わせて食品に添加することができるが、特にこれらの化合物の全てを組み合わせて添加すると、よりリアルな白濁感及び乳化感を付与乃至増強することができるため好ましい。なお、本発明付与乃至増強方法が上記成分のうち(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを食品に添加する工程を含む場合、特に(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルのみを食品に添加する工程を含む場合には、畜肉だしの乳化感を減弱させないようにするため、4,5―エポキシー(E)―2―デセナールを食品に添加しないようにすることが好ましい。
【0037】
本発明付与乃至増強方法において、飲食品への(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの添加量は、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルを飲食品に添加することにより白濁感及び乳化感が付与乃至増強される有効量であればよく、飲食品の種類や形態に応じて任意に設定することができるが、飲食品の全質量を基準として、通常0.01ppt以上、好ましくは0.1ppt以上、より好ましくは1ppt以上である。一方、上限値は、通常10ppb以下、好ましくは2ppb以下、より好ましくは1ppb以下とすることができる。これらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができる。飲食品における(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの濃度が0.01pptを下回る場合は、白濁感及び乳化感を十分に感じることができず、本発明特有の白濁感及び乳化感付与乃至増強効果が十分に得られない恐れがあり、10ppbを上回る場合は、不快臭が強くなってしまう恐れがある。
【0038】
本発明付与乃至増強方法において、飲食品への(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの添加量は、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを飲食品に添加することにより白濁感及び乳化感が付与乃至増強される有効量であればよく、飲食品の種類や形態に応じて任意に設定することができるが、飲食品の全質量を基準として、通常0.1ppt以上、好ましくは1ppt以上、より好ましくは10ppt以上である。一方、上限値は、通常100ppb以下、好ましくは20ppb以下、より好ましくは10ppb以下とすることができる。これらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができる。飲食品における(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの濃度が0.01ppbを下回る場合は、白濁感及び乳化感を十分に感じることができず、本発明特有の白濁感及び乳化感付与乃至増強効果が十分に得られない恐れがあり、100ppbを上回る場合は、不快臭が強くなってしまう恐れがある。
【0039】
本発明付与乃至増強方法において、飲食品への(Z)−8−ペンタデセナールの添加量は、(Z)−8−ペンタデセナールを飲食品に添加することにより白濁感及び乳化感が付与乃至増強される有効量であればよく、飲食品の種類や形態に応じて任意に設定することができるが、飲食品の全質量を基準として、通常0.001ppt以上、好ましくは0.01ppt以上、より好ましくは0.1ppt以上である。一方、上限値は、通常1ppb以下、好ましくは0.2ppb以下、より好ましくは0.1ppb以下とすることができる。これらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができる。飲食品における(Z)−8−ペンタデセナールの濃度が0.001pptを下回る場合は、白濁感及び乳化感を十分に感じることができず、本発明特有の白濁感及び乳化感付与乃至増強効果が十分に得られない恐れがあり、1ppbを上回る場合は、不快臭が強くなってしまう恐れがある。
【0040】
本発明付与乃至増強方法において、飲食品への(E)―6−ノネナールの添加量は、(E)―6−ノネナールを飲食品に添加することにより白濁感及び乳化感が付与乃至増強される有効量であればよく、飲食品の種類や形態に応じて任意に設定することができるが、飲食品の全質量を基準として、通常0.001ppt以上、好ましくは0.01ppt以上、より好ましくは0.1ppt以上である。一方、上限値は、通常1ppb以下、好ましくは0.2ppb以下、より好ましくは0.1ppb以下とすることができる。これらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができる。飲食品における(E)―6−ノネナールの濃度が0.001pptを下回る場合は、白濁感及び乳化感を十分に感じることができず、本発明特有の白濁感及び乳化感付与乃至増強効果が十分に得られない恐れがあり、1ppbを上回る場合は、不快臭が強くなってしまう恐れがある。
【0041】
本発明付与乃至増強方法において、飲食品への(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される2種以上の添加量は、飲食品に添加することにより所望の効果が付与される有効量であればよく、上述した各有効成分の前記添加量を参考にしつつ、飲食品の種類や形態に応じて適宜決定すればよい。
【0042】
本発明付与乃至増強方法において、白濁感及び乳化感を付与乃至増強する「食品」は、本発明付与乃至増強剤において説明した内容と同様である。
【0043】
(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される少なくとも1種以上を食品に添加する方法は特に制限されない。また、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される少なくとも1種以上を食品に添加する時期についても特に制限されない。食品を製造した後に行ってもよいし、食品を製造する際に食品の原料に(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される少なくとも1種以上を添加し、その後に食品を製造してもよい。(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される少なくとも1種以上は加熱しても、それらの白濁感及び乳化感付与乃至増強効果に対して特段の影響を受けない。
【0044】
3.白濁した畜肉だしの乳化感を有する食品を製造する方法
本発明の白濁した畜肉だしの乳化感を有する食品を製造する方法(以下、「本発明製造方法」ということがある。)は、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される少なくとも1種以上を食品に添加する工程を含むことを特徴とする。
【0045】
本発明製造方法において、食品への(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される少なくとも1種以上の添加については、前述した本発明付与乃至増強方法と同様にして行えばよい。なお、本発明製造方法が上記成分のうち(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを食品に添加する工程を含む場合、特に(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルのみを食品に添加する工程を含む場合には、畜肉だしの乳化感を減弱させないようにするため、4,5―エポキシー(E)―2―デセナールを食品に添加しないようにすることが好ましい。
【0046】
本発明製造方法において、「食品」は、本発明付与乃至増強剤において説明したものと同様のものが挙げられる。
【0047】
本発明製造方法は、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ル、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ル、(Z)−8−ペンタデセナール、及び(E)―6−ノネナールからなる群から選択される少なくとも1種以上を食品に添加する工程を除いては、通常の食品を製造する方法と同様である。通常の食品を製造する方法で採用される原料、工程、条件等が適宜採用される。
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
(実施例1)豚骨様調合香料組成物への(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルの添加効果
豚骨様調合香料組成物として、下記の各成分(質量部)を調合した。
【0050】
【表1】
【0051】
上記豚骨様調合香料組成物(対照品1)100gに、(Z,Z)−4,7−トリデカジエナ−ルを0.1ng(1ppt:比較品1)、1ng(10ppt:本発明品1)、10ng(100ppt:本発明品2)、100ng(1ppb:本発明品3)、1μg(10ppb:本発明品4)、10μg(100ppb:本発明品5)、100μg(1ppm:本発明品6)、1mg(10ppm:本発明品7)、10mg(100ppm:比較品2)混合して、比較品1及び2、本発明品1〜7の豚骨様調合香料組成物を調製した。それぞれの香料組成物を良く訓練されたパネル10人により風味評価を行った。本発明品無添加の対照品1をコントロール品とした。パネルの平均的な香気評価を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2の結果から明らかなように、本発明品を加えた本発明品1〜7は、豚骨スープの白濁感が付与されていた。特に本発明品2〜5は、豚骨スープの白濁感が付与され、厚みのある乳化感が増強しており、パネル全員が好ましいとの評価を得た。一方、比較品1は対照品1と大差なく、比較品2は化合物独特のアルデヒド臭が突出し、バランスが大きく崩れているとの評価であった。
【0054】
(実施例2)豚骨様調合香料組成物への(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルの添加効果
上記豚骨様調合香料組成物(対照品1)100gに、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナ−ルを1ng(10ppt:比較品3)、10ng(100ppt:本発明品8)、100ng(1ppb:本発明品9)、1μg(10ppb:本発明品10)、10μg(100ppb:本発明品11)、100μg(1ppm:本発明品12)、1mg(10ppm:本発明品13)、10mg(100ppm:本発明品14)、100mg(1000ppm:比較品4)混合して、比較品3及び4、本発明品8〜14の豚骨様調合香料組成物を調製した。それぞれの香料組成物を良く訓練されたパネル10人により風味評価を行った。本発明品無添加の対照品1をコントロール品とした。パネルの平均的な香気評価を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3の結果から明らかなように、本発明品を加えた本発明品8〜14は、豚骨スープの白濁感が付与されていた。特に本発明品9〜12は、豚骨スープの白濁感が付与され、厚みのある乳化感が増強しており、パネル全員が好ましいとの評価を得た。一方、比較品3は対照品1と大差なく、比較品4は化合物自体のロースト臭が突出し、バランスが大きく崩れているとの評価であった。
【0057】
(実施例3)豚骨様調合香料組成物への(Z)−8−ペンタデセナールの添加効果
上記豚骨様調合香料組成物(対照品1)100gに、(Z)−8−ペンタデセナールを0.01ng(0.1ppt:比較品5)、0.1ng(1ppt:本発明品15)、1ng(10ppt:本発明品16)、10ng(100ppt:本発明品17)、100ng(1ppb:本発明品18)、1μg(10ppb:本発明品19)、10μg(100ppb:本発明品20)、100μg(1ppm:本発明品21)、1mg(10ppm:比較品6)混合して、比較品5及び6、本発明品15〜21の豚骨様調合香料組成物を調製した。それぞれの香料組成物を良く訓練されたパネル10人により風味評価を行った。本発明品無添加の対照品1をコントロール品とした。パネルの平均的な香気評価を表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表4の結果から明らかなように、本発明品を加えた本発明品15〜21は、豚骨スープの白濁感が付与されていた。特に本発明品16〜19は、豚骨スープの白濁感が付与され、余韻のある乳化感が増強しており、パネル全員が好ましいとの評価を得た。一方、比較品5は対照品1と大差なく、比較品6は化合物自体の青臭い金属臭が突出し、バランスが大きく崩れているとの評価であった。
【0060】
(実施例4)豚骨様調合香料組成物への(E)―6−ノネナールの添加効果
上記豚骨様調合香料組成物(対照品1)100gに、(E)―6−ノネナールを0.01ng(0.1ppt:比較品7)、0.1ng(1ppt:本発明品22)、1ng(10ppt:本発明品23)、10ng(100ppt:本発明品24)、100ng(1ppb:本発明品25)、1μg(10ppb:本発明品26)、10μg(100ppb:本発明品27)、100μg(1ppm:本発明品28)、1mg(10ppm:比較品8)混合して、比較品7及び8、本発明品22〜28の豚骨様調合香料組成物を調製した。それぞれの香料組成物を良く訓練されたパネル10人により風味評価を行った。本発明品無添加の対照品1をコントロール品とした。パネルの平均的な香気評価を表5に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
表5の結果から明らかなように、本発明品を加えた本発明品22〜28は、豚骨スープの白濁感が付与されていた。特に本発明品23〜26は、豚骨スープの白濁感が付与され、舌に纏わりつく乳化感が増強しており、パネル全員が好ましいとの評価を得た。一方、比較品7は対照品1と大差なく、比較品8は化合物独特のアルデヒド臭が突出し、バランスが大きく崩れているとの評価であった。
【0063】
(比較例1)豚骨様調合香料組成物への4,5―エポキシー(E)―2―デセナールの添加効果
上記豚骨様調合香料組成物(対照品1)100gに、4,5―エポキシー(E)―2―デセナールを100μg(1ppm:比較品9)混合して、比較品9の豚骨様調合香料組成物を調製した。該香料組成物を良く訓練されたパネル10人により風味評価を行った。パネルの平均的な香気評価を表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
(実施例5)豚骨様調合香料組成物の豚骨スープへの添加効果
実施例1〜4で得られた豚骨様調合香料組成物(本発明品4、本発明品11、本発明品18、本発明品25、対照品1)を下記処方の豚骨スープに添加し、常法により豚骨スープを調製した。本発明品4を添加した豚骨スープを本発明品29、本発明品11を添加した豚骨スープを本発明品30、本発明品18を添加した豚骨スープを本発明品31、本発明品25を添加した豚骨スープを本発明品32、本発明品4、11、18、及び25を添加した豚骨スープを本発明品33、対照品1を添加した豚骨スープを比較品10、比較品9を添加した豚骨スープを比較品11、本発明品4、11、18、25及び比較品9を添加した豚骨スープを比較品12とした。豚骨スープ配合処方を表7に示す。これらの豚骨スープを専門パネル20人により官能評価を行った。
【0066】
【表7】
【0067】
その結果、専門パネル20人での評価の結果、発明品29〜32のいずれも、比較品10に比べ、 豚骨スープの乳化感が付与されており、さらに発明品33に関しては、 よりいっそう濃厚でコクのある、満足感のある乳化感が付与されてるとの評価であった。
一方で、比較品11、12は比較品10に比べ、ともに豚骨スープの乳化感が若干減弱しているとの評価だった。