【実施例】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0021】
[構成]
図1は、本発明の情報処理装置を適用したライダユニット100のブロック図である。
図1に示すライダユニット100は、TOF(Time Of Flight)方式のライダ(Lidar:Light Detection and Ranging、または、Laser Illuminated Detection And Ranging)であって、水平方向の全方位における物体の測距を行う。ライダユニット100は、例えば、先進運転支援システムの一部として、車両の周辺環境認識補助の目的で用いられる。ライダユニット100は、主に、走査部L1〜L4と、光送受信部TR1〜TR4と、信号処理部SPと、を有する。なお、以下の説明においては、走査部L1〜L4の各々を区別しない場合には単に「走査部L」と記し、光送受信部TR1〜TR4の各々を区別しない場合には単に「光送受信部TR」と記す。
【0022】
走査部L1〜L4は、それぞれ車両の前後左右の4か所に配置される。
図2は、走査部L1〜L4を配置した車両を示す。
図2(A)、(B)に示すように、車両の前後左右の四隅に走査部L1〜L4が設けられる。
図2(A)に示すように、走査部L1〜L4は、それぞれ全方位(360°)にレーザパルス(以下、「送信光パルス」とも呼ぶ。)を出射する。好適には、車両前方の走査部L1、L2は車両のヘッドライトユニット内に設けられ、車両後方の走査部L3、L4は、車両のテールライトユニット内に設けられる。なお、その代わりに、走査部L1〜L4を車両の前後の他のライトのユニット内に設けても良い。
【0023】
走査部L1〜L4はそれぞれ車両の前後左右の4か所に設けられているので、各走査部Lから出射される送信光パルスは部分的に自車両(車両の本体)により遮られることとなる。例えば、車両前方の走査部L1から全方位に出射された送信光パルスうち、車両の後方よりの部分は車両の本体により遮られる。即ち、走査部L1〜L4のそれぞれから出射された全方位の送信光パルスは、実際には、車両の本体により形成される数度の死角を有することとなる。
【0024】
光送受信部TRは、出射方向を徐変させながら水平方向の360°の全方位を対象に送信光パルスを出射する。このとき、光送受信部TRは、水平方向の360°の全方位を等角度により区切ったセグメント(本実施例では900セグメント)ごとに送信光パルスを出射する。そして、光送受信部TRは、送信光パルス出射後の所定期間内に当該送信光パルスの反射光(以下、「受信光パルス」とも呼ぶ。)を受光することで生成したセグメントごとの受光強度に関する信号(「セグメント信号Sseg」とも呼ぶ。)を、信号処理部SPへ出力する。
【0025】
信号処理部SPは、光送受信部TRから受信したセグメントごとのセグメント信号Ssegに基づいて、対象物までの距離又は対象物の角度の少なくとも一方を含む周辺環境情報を出力する。周辺環境情報は、ライダユニット100が搭載された車両の周辺環境を示す情報であり、具体的には、車両を中心とする全方位に存在する対象物の距離及び角度を示す情報である。
【0026】
図3は、光送受信部TRの概略的な構成例を示す。
図3に示すように、光送受信部TRは、主に、水晶発振器10と、同期制御部11と、LDドライバ12と、レーザダイオード13と、モータ制御部15と、受光素子16と、電流電圧変換回路(トランスインピーダンスアンプ)17と、A/Dコンバータ18と、セグメンテータ19とを有する。
【0027】
水晶発振器10は、同期制御部11及びA/Dコンバータ18にパルス状のクロック信号「S1」を出力する。本実施例では、一例として、クロック周波数は、1.8GHzであるものとする。また、以後では、クロック信号S1が示すクロックを「サンプルクロック」とも呼ぶ。
【0028】
同期制御部11は、パルス状の信号(「トリガ信号S2」とも呼ぶ。)をLDドライバ12に出力する。本実施例では、トリガ信号S2は、131072(=2
17)サンプルクロック分の周期で周期的にアサートされる。以後では、トリガ信号S2がアサートされてから次にアサートされるまでの期間を「セグメント期間」とも呼ぶ。また、同期制御部11は、後述するセグメンテータ19がA/Dコンバータ18の出力を抽出するタイミングを定める信号(「セグメント抽出信号S3」とも呼ぶ。)をセグメンテータ19に出力する。トリガ信号S2及びセグメント抽出信号S3は、論理信号であり、後述する
図3に示すように同期している。本実施例では、同期制御部11は、セグメント抽出信号S3を、2048サンプルクロック分の時間幅(「ゲート幅Wg」とも呼ぶ。)だけアサートする。
【0029】
LDドライバ12は、同期制御部11から入力されるトリガ信号S2に同期してパルス電流をレーザダイオード13へ流す。レーザダイオード13は、例えば赤外(905nm)パルスレーザであって、LDドライバ12から供給されるパルス電流に基づき光パルスを出射する。本実施例では、レーザダイオード13は、5nsec程度の光パルスを出射する。
【0030】
走査部Lは、例えば送出及び受信光学系を含むスキャナとして構成され、レーザダイオード13が出射する送信光パルスを水平面で360°走査すると共に、出射された送信光パルスが照射された物体(「対象物」とも呼ぶ。)で反射された戻り光である受信光パルスを受光素子16に導く。本実施例では、走査部Lは回転するためのモータを含み、モータは、900セグメントで一回転するように、モータ制御部15により制御される。この場合の角度分解能は、1セグメントあたり0.4°(=360°/900)となる。
【0031】
受光素子16は、例えば、アバランシェフォトダイオードであり、走査部Lにより導かれた対象物からの反射光、即ち受信光パルスの光量に応じた微弱電流を生成する。受光素子16は、生成した微弱電流を、電流電圧変換回路17へ供給する。電流電圧変換回路17は、受光素子16から供給された微弱電流を増幅して電圧信号に変換し、変換した電圧信号をA/Dコンバータ18へ入力する。
【0032】
A/Dコンバータ18は、水晶発振器10から供給されるクロック信号S1に基づき、電流電圧変換回路17から供給される電圧信号をデジタル信号に変換し、変換したデジタル信号をセグメンテータ19に供給する。以後では、A/Dコンバータ18が1クロックごとに生成するデジタル信号を「サンプル」とも呼ぶ。1サンプルは、極座標空間フレームの1ピクセル分のデータに相当する。
【0033】
セグメンテータ19は、セグメント抽出信号S3がアサートされているゲート幅Wg分の期間における2048サンプルクロック分のA/Dコンバータ18の出力であるデジタル信号を、セグメント信号Ssegとして生成する。セグメンテータ19は、生成したセグメント信号Ssegを信号処理部SPへ供給する。
【0034】
図4は、トリガ信号S2及びセグメント抽出信号S3の時系列での波形を示す。
図4に示すように、本実施例では、トリガ信号S2がアサートされる1周期分の期間であるセグメント期間は、131072サンプルクロック(図面では「smpclk」と表記)分の長さに設定され、トリガ信号S2のパルス幅は64サンプルクロック分の長さ、ゲート幅Wgは2048サンプルクロック分の長さに設定されている。
【0035】
この場合、トリガ信号S2がアサートされた後のゲート幅Wgの期間だけセグメント抽出信号S3がアサートされているため、セグメンテータ19は、トリガ信号S2がアサート中の2048個分のA/Dコンバータ18が出力するサンプルを抽出することになる。そして、ゲート幅Wgが長いほど、ライダユニット100からの最大測距距離(測距限界距離)が長くなる。
【0036】
本実施例では、セグメント期間の周波数は、約13.73kHz(≒1.8GHz/131072)となり、信号処理部SPがセグメント信号Ssegに基づき生成する極座標空間フレームのフレーム周波数(即ち走査部Lの回転速度)は、1フレームが900セグメントで構成されることから、約15.36Hz(≒13.73kHz/900)となる。また、最大測距距離は、単純計算した場合、ゲート幅Wgに相当する時間幅で光が往復する距離に相当する170.55m(≒{2048/1.8GHz}・c/2、「c」は光速)となる。
【0037】
上記の構成において、レーザダイオード13は本発明における「出射部」の一例であり、受光素子16、電流電圧変換回路17及びA/Dコンバータ18は、本発明における「受光部」の一例である。また、信号処理部SPは本発明における「情報処理部」の一例である。
【0038】
[動作]
次に、ライダユニット100の動作について説明する。
【0039】
(第1実施例)
図5は、第1実施例に係る走査部L1の動作を示す平面図である。車両の進行方向をθ
1=0とすると、図示のように、走査部L1は、θ
a=−60°からθ
b=150°までの210°の水平視野角度範囲を持つ。一方、走査部L1は、150°<θ
1<180°および−180°<θ
1<−60°の範囲は車両本体による死角となる。走査部L1は、この水平視野角度範囲で送信光パルスを走査し、対象物により反射された光を受信光パルスとして受信して光送受信部TR1へ送る。
【0040】
図6は、走査部L1の位置を原点とする極座標系と車両の中心を原点とする極座標系の位置関係を示す。走査部L1の位置(以下、「中心L1」とも記す。)を原点とする極座標系は、走査角「θ
1」と距離「r
1」により規定され、これを「r1θ1座標系」と呼ぶ。信号処理部SPは、光送受信部TR1から供給されたセグメント信号Ssegに基づいて、走査部L1の位置を原点としたr1θ1座標フレームのデジタル波形群(以下、「フルフレーム信号」とも呼ぶ。)を生成する。このフルフレーム信号の走査角θ
1の範囲は、−60°<θ
1<150°である。なお、r1θ1座標系において生成されるフレームを「r1θ1座標フレーム」と呼ぶ。一方、車両の中心Vを原点とする極座標系は、走査角「θ」と距離「r」により規定され、これを「rθ座標系」と呼ぶ。また、rθ座標系において生成されるフレームを「rθ座標フレーム」と呼ぶ。
【0041】
図6に示すように、走査部L1〜L4が車両の四隅に設置されており、車両の長さを「Lv」、幅を「Wv」とし、すると、rθ座標フレームとr1θ1座標フレームとは、原点が図中のX方向にLv/2、Y方向にWv/2だけずれている。このため、両座標フレームは当然に同じXY空間の座標を示さない。但し、距離rが遠方になる程、相対的には両座標フレーム間のずれは小さくなる。
【0042】
本実施例では、信号処理部SPは、走査部L1により取得された信号、即ち、r1θ1座標フレームでサンプリングされた信号を、適切なリサンプリング(Resampling)処理等によって、rθ座標フレームでサンプリングされた信号に変換する。即ち、r1θ1座標系からrθ座標系への座標変換を行う。なお、この場合、距離rが短いほど、変換により生じる距離r及び走査角θの歪は大きくなる。
【0043】
図7は、r1θ1座標系で取得した走査部L1の受信波形群(フルフレーム信号)の例を示す。横軸は原点、中心L1からの距離r
1を示し、本例では0〜50mの範囲としている。縦軸は走査角θ
1を示し、実質的に−180°〜180°の範囲となっている。
図5に示すように、走査部L1は−60°〜150°の210°の水平視野角度範囲を走査するため、走査部L1の走査に基づいて、信号処理部SPからは
図7に示すように−60°〜150°の210°の水平視野角度範囲のフルフレーム信号が得られる。
【0044】
図8(A)は、r1θ1座標系におけるr1θ1座標フレームの範囲を示す。走査部L1は−60°〜150°の210°の水平視野角度範囲を走査するため、r1θ1座標フレームは−60°〜150°の範囲のフルフレーム信号となる。一方、
図8(B)は、
図8(A)に示すr1θ1座標フレームをrθ座標系で表現したものであり、ほぼ−60°〜150°の範囲のフルフレーム信号となっている。
【0045】
図9は、r1θ1座標フレームからrθ座標フレームへの変換を示す。
図9(A)に示すr1θ1座標フレームのグリッドをrθ座標フレームにマッピングすると
図9(B)のグリッドが得られる。なお、以下では走査部L1の走査により得られるr1θ1座標フレームを単に「L1フレーム」と呼ぶ。同様に、走査部L2の走査により得られるr2θ2座標フレームを「L2フレーム」と呼び、走査部L3の走査により得られるr3θ3座標フレームを「L3フレーム」と呼び、走査部L4の走査により得られるr4θ4座標フレームを「L4フレーム」と呼ぶ。
【0046】
図10は、x1y1座標フレームからxyフレームへの変換を示す。なお、「x1y1座標フレーム」は走査部L1の位置を原点とするxy座標系において生成されるフレームであり、「xy座標フレーム」は車両中心Vを原点とするxy座標系において生成されるフレームである。
図10(A)に示すx1y1座標フレームのグリッドをxy座標フレームにマッピングすると
図10(B)に示すグリッドが得られる。
図10(C)は
図10(A)における走査部L1の位置近傍の拡大図であり、
図10(D)は
図10(B)における車両中心Vの近傍の拡大図である。
【0047】
信号処理部SPは、走査部L2〜L4により生成されるL2〜L4フレームのフルフレーム信号も同様にrθ座標フレームのフルフレーム信号に変換する。具体的に、L2フレームのフルフレーム信号は−150<θ
2<60°の範囲となり、L3フレームのフルフレーム信号は120°<θ
3<180°および−180°<θ
3<−30°の範囲となり、L4フレームのフルフレーム信号は30°<θ
4<180°および−180°<θ
4<−120°の範囲となる。そして、信号処理部SPは、L1〜L4フレームのフルフレーム信号を合成する合成処理を行う。なお、「合成処理」とは、各フレームのフルフレーム信号を足し合わせて全方位のデータを作る処理をいう。合成処理により、走査部L1〜L4の走査により個別に得られたフルフレーム信号から、全方位のフルフレーム信号(以下、「合成信号」とも呼ぶ。)を生成することができる。
【0048】
図11は、L1〜L4フレームのフルフレーム信号を合成した状態を模式的に示す。なお、車両の直近にはL1〜L4フレームによりカバーされていない検出不可能領域が存在する。
図12は、
図11より遠距離までの範囲(距離rが大)のL1〜L4フレームのフルフレーム信号を合成した状態を模式的に示す。図示のように、2つのフレームの合成領域と、3つのフレームの合成領域とが存在する。
【0049】
図13は、合成処理により得られた合成信号をrθ座標系に示したものである。合成信号には、2つのフレームの合成領域と、3つのフレームの合成領域とが存在する。信号処理部SPは、複数のフレームの合成領域については、複数のフルフレーム信号を平均化する平均化処理を行う。即ち、信号処理部SPは、各光送受信部TRから供給されたセグメント信号Ssegを加算して平均化する。これにより、各光送受信器TRの受光素子16に個別に現れたノイズを低減することができる。
【0050】
(第2実施例)
図14は、第2実施例に係る走査部L1の動作を示す平面図である。車両の進行方向をθ=0とすると、図示のように、走査部L1は、θ
a=−90°からθ
b=180°までの270°の水平視野角度範囲を持つ。一方、−180°<θ
1<−90°の範囲は車両本体による死角となる。信号処理部SPは、この水平視野角度を持つL1フレームのフルフレーム信号を取得する。
【0051】
信号処理部SPは、走査部L2〜L4により生成されるL2〜L4フレームのフルフレーム信号も同様にrθ座標フレームのフルフレーム信号に変換する。第2実施例では、L2フレームのフルフレーム信号は−180°<θ
2<90°の範囲となり、L3フレームのフルフレーム信号は90°<θ
3<180°および−180°<θ
3<0°の範囲となり、L4フレームのフルフレーム信号は0°<θ
4<270°の範囲となる。そして、信号処理部SPは、L1〜L4フレームのフルフレーム信号を合成する合成処理を行う。
【0052】
図15は、L1〜L4フレームのフルフレーム信号を合成した状態を模式的に示す。
図11と比較するとわかるように、第2実施例では、車両の近傍に検出不可能領域は存在しない。
図16は、
図15より遠距離までの範囲(距離rが大)のL1〜L4フレームのフルフレーム信号を合成した状態を模式的に示す。
【0053】
[先行技術との比較]
図17は、特許文献1のように、車両のルーフ取り付けたライダで対象物を検出する様子を示す。
図17(A)に示すように、ルーフに多層ライダ40を取り付けた場合でも、車両から近距離で低位置にある対象物42を検出することはできない。また、
図17(B)のように車両のルーフに単層ライダ41を取り付けた場合、車両から遠距離で低位置にある対象物43も検出することができない。
【0054】
図18は、上記実施例のように車両のライトユニットに組み込んだ走査部Lを用いて対象物を検出する様子を示す。実施例によれば、単層ライダを用いて、
図18(A)に示すように車両から近距離で低位置にある対象物42を検出することができ、
図18(B)に示すように車両から遠距離で低位置にある対象物43を検出することもできる。
【0055】
次に、特許文献1、2について述べる。特許文献1に開示されているとおり、通常、ライダは全方位の情報が取得できるように車両の高い位置に設置される。しかし、その場合には、
図17に示すように低い位置の情報を取得することができない。一方、特許文献2は車両の2つのヘッドライトユニットにレーザーレーダーを搭載した例を開示しているが、これでは車両本体の影響で全方位(主に後方)の情報を得ることができない。
【0056】
さらに、特許文献2のレーザーレーダーは、衝突回避等を行うために前方に存在する障害物の有無を検出するものであるため、全方位の情報を取得したいという要求は起こりえない。言い換えれば、進行方向の情報を取得できれば十分ということになる。これに対し、ライダは、特許文献2で想定されているレーザーレーダーよりも取得できる情報量が多く、例えば周囲の地物の細かな形状等まで認識できる。よって、衝突回避以外にも、例えば地図情報の更新等に用いることができるため、全方位の情報を取得したいという要求がある。
【0057】
特許文献2のレーザーレーダーは、広角のレーザー光を一方向に出射して、返ってきた光の強度を検出して、対象物などの存在(光の跳ね返り)の有無を検出するものであると推測され、走査部に相当する構成は無いものと考えられる。したがって、対象物までの距離は計れたとしても、具体的な対象物までの角度や点群の情報まで取得することはできないと推測される。特許文献2は、各々のレーザーレーダーが独立して障害物の検出を行うに止まると考えられる。
【0058】
[変形例]
上記の実施例では、走査部L及び光送受信部TRを有する単層ライダを車両の四隅に設けているが、その代わりに、多層ライダを設けてもよい。この場合に対象物を検出する様子を
図19に示す。
図19(A)に示すように近距離で低位置の対象物42を検出することができ、
図19(B)に示すように遠距離で低位置の対象物43を検出することもできる。