(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車体中央に対して左右いずれか一方にオフセットして着座する乗員の車幅方向外側の肩部付近と車幅方向内側の腰部付近との間にわたして配置されるショルダベルト部、及び、前記乗員の車幅方向内側の腰部付近と車幅方向外側の腰部付近との間にわたして配置されるラップベルト部を有するシートベルトと、
前記乗員の車幅方向内側の腰部付近に設けられたバックルに着脱可能に取り付けられ、前記シートベルトが通されるとともに、前記ショルダベルト部と前記ラップベルト部との間で前記シートベルトが移動することを許容するアンロック状態と前記移動を規制するロック状態とを切り替え可能なロッキングタングと、
前記ショルダベルト部を牽引して張力を与えることが可能なショルダベルト牽引部と、
前記ラップベルト部を牽引して張力を与えることが可能なラップベルト牽引部と、
側面衝突又はその前兆を検出する側面衝突検出手段と
を備える乗員保護装置であって、
前記側面衝突検出手段が前記乗員側とは反対側からの側面衝突又はその前兆を検出した場合に、前記ロッキングタングを前記ロック状態としかつ前記ラップベルト牽引部に前記ラップベルト部を牽引させることで前記乗員の上体が車幅方向内側に移動する挙動を許容する第1の牽引状態とし、その後前記ショルダベルト牽引部に前記ショルダベルト部を牽引させることで前記乗員の上体を車幅方向外側の肩部が後退する方向に回動させる第2の牽引状態とする制御部を有すること
を特徴とする乗員保護装置。
車体中央に対して左右いずれか一方にオフセットして着座する乗員の車幅方向外側の肩部付近と車幅方向内側の腰部付近との間にわたして配置されるショルダベルト部、及び、前記乗員の車幅方向内側の腰部付近と車幅方向外側の腰部付近との間にわたして配置されるラップベルト部を有するシートベルトと、
前記乗員の車幅方向内側の腰部付近に設けられたバックルに着脱可能に取り付けられ、前記シートベルトが通されるとともに、前記ショルダベルト部と前記ラップベルト部との間で前記シートベルトが移動することを許容するアンロック状態と前記移動を規制するロック状態とを切り替え可能なロッキングタングと、
前記ショルダベルト部を牽引して張力を与えることが可能なショルダベルト牽引部と、
前記ラップベルト部を牽引して張力を与えることが可能なラップベルト牽引部と、
側面衝突又はその前兆を検出する側面衝突検出手段と
を備える乗員保護装置であって、
前記側面衝突検出手段が前記乗員側とは反対側からの側面衝突又はその前兆を検出した場合に、前記ロッキングタングを前記ロック状態としかつ前記ラップベルト牽引部に前記ラップベルト部を牽引させるとともに、前記ショルダベルト牽引部に前記ショルダベルト部を所定の予備牽引力で牽引させることで前記乗員の上体が車幅方向内側に移動する挙動を許容する第1の牽引状態とし、その後前記ショルダベルト牽引部に前記ショルダベルト部を前記予備牽引力よりも大きな牽引力で牽引させることで前記乗員の上体を車幅方向外側の肩部が後退する方向に回動させる第2の牽引状態とする制御部を有すること
を特徴とする乗員保護装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用した乗員保護装置の第1実施形態について説明する。
第1実施形態の乗員保護装置は、例えば、乗用車等の自動車の前席(運転席又は助手席)に着座した乗員を保護するものである。
図1は、第1実施形態の乗員保護装置の構成を示すブロック図である。
図2は、第1実施形態の乗員保護装置を有する車両の車室前部を側方から見た状態を示す模式図であって、通常状態(衝突又はその前兆が検出されない状態)を示すものである。
図2において、左側が車両前方側を示している。(
図6乃至7において同じ)
図3は、
図2のIII−III部矢視断面図である。
図4は、
図2のIV−IV部矢視断面図である。
【0015】
図1に示すように、乗員保護装置1は、ステレオカメラ装置11、ミリ波レーダ装置12、レーザスキャナ装置13、環境認識ユニット20、乗員保護装置制御ユニット30、エアバッグ制御ユニット40、ショルダプリテンショナ50、ラッププリテンショナ60、ロッキングタング70、バックルプリテンショナ80等を有する。
【0016】
ステレオカメラ装置11は、左右一対のカメラ及びステレオ画像処理ユニット等を有する。
左右のカメラは、レンズ群等の光学系や、CMOS等の固体撮像素子及びその駆動装置、画像処理エンジン、入出力インターフェイス等を有する撮像装置である。
カメラは、左右方向に離間した状態で、車両前方に向けて取り付けられている。
カメラは、例えば、ルーフ130の前端部から車室内に吊り下げられ、フロントガラス140越しに自車両前方の画像を撮像するようになっている。
左右カメラがそれぞれ撮像した画像に係るデータは、ステレオ画像処理ユニットに逐次提供されるようになっている。
ステレオ画像処理ユニットは、撮像された画像のデータに公知のステレオ画像処理を施し、自車両に対する被写体の相対位置を算出するとともに、被写体の種類(車両、歩行者、建造物、地形等)を判別する。
【0017】
ミリ波レーダ装置12は、例えば24GHz帯や79GHz帯のミリ波レーダを用いて、自車両の周囲に存在する物体を検出し、検出された物体の自車両に帯する相対位置、相対速度を判別するものである。
【0018】
レーザスキャナ装置13は、自車両の周囲をレーザ光で照射し、レーザ光が物体に当たった際の散乱光を利用して、自車両の周囲に存在する物体の位置や形状を三次元的にスキャンする3D LiDARである。
レーザスキャナ装置13は、例えば、自車両の全方位(周囲360°)において物体の形状検出を行うことが可能となっている。
【0019】
環境認識ユニット20は、ステレオカメラ装置11、ミリ波レーダ装置12、レーザスキャナ装置13による自車両周辺の物体検出結果等を利用して、自車両周辺の環境を認識するものである。
環境認識ユニット20は、ステレオカメラ装置11、ミリ波レーダ装置12、レーザスキャナ装置13が認識した他車両、建築物等のうち、自車両に対する相対位置、相対速度などから、自車両と衝突する可能性が高いリスク対象物を認識する。
【0020】
環境認識ユニット20は、リスク対象物の自車両に対する相対位置、相対速度(接近速度)などから、リスク対象物と自車両との衝突が不可避であると判定した場合(プリクラッシュ判定が成立した場合)には、そのリスク対象物に関する情報を乗員保護装置制御ユニット30に伝達する。
ここで、リスク対象物に関する情報として、例えば、リスク対象物の種類、衝突予想箇所、衝突エネルギの入力方向、衝突までの予想時間、衝突時の予想相対速度等が挙げられる。
【0021】
乗員保護装置制御ユニット30は、自車両のリスク対象物(他車両等)との前面衝突、側面衝突の前兆等に応じて、エアバッグ制御ユニット40、ショルダプリテンショナ50、ラッププリテンショナ60、ロッキングタング70、バックルプリテンショナ80等に対して指令を出し、これらを制御するものである。
乗員保護装置制御ユニット30には、加速度センサ31が接続されている。
加速度センサ31は、例えば、車体における前後方向加速度、及び、車幅方向加速度をそれぞれ検出する加速度ピックアップを有する。
加速度センサ31は、自車両が他車両等のリスク対象物と実際に衝突したことを検出する手段として機能する。
乗員保護装置制御ユニット30は、加速度センサ31、環境認識ユニット20、ステレオカメラ装置11、ミリ波レーダ装置12、レーザスキャナ装置13等と協働し、衝突又はその前兆を検出するとともに、衝突方向を検出可能な側面衝突検出手段として機能する。
乗員保護装置制御ユニット30の機能、動作については、後に詳しく説明する。
【0022】
エアバッグ制御ユニット40は、運転席前面衝突用エアバッグ、助手席前面衝突用エアバッグ、膝部保護エアバッグ、サイドエアバッグ、カーテンエアバッグ、シートクッションエアバッグ等の各エアバッグ装置を統括的に制御するものである。
各エアバッグ装置は、展開用ガスを発生するインフレータが、エアバッグ制御ユニット40からの指令に応じて作動することにより、ナイロン等の基布パネルにより袋状に形成されたバッグが内装部材等に収容された格納状態から展開膨張し、乗員の身体の一部を拘束する。
【0023】
ショルダプリテンショナ50、ラッププリテンショナ60は、後述するシートベルト230のショルダベルト部230S、ラップベルト部230Lをそれぞれ牽引し、張力を与える牽引装置(シートベルトプリテンショナ)である。
ロッキングタング70は、シートベルト230の中間部が挿通されるとともに、バックル232に着脱可能に取り付けられる部分であって、後述するロック機能を備えている。
シートベルト230において、ロッキングタング70よりもスリップジョイント233側の領域がショルダベルト部230Sとなり、ロッキングタング70よりもラッププリテンショナ60側の領域がラップベルト230Lとなる。
【0024】
バックルプリテンショナ80は、ロッキングタング70が着脱可能に取り付けられるバックル232に設けられ、ロッキングタング70を例えば下向きに牽引し、ショルダベルト部230S、ラップベルト部230Lに同時に張力を与える牽引装置(シートベルトプリテンショナ)である。
ショルダプリテンショナ50、ラッププリテンショナ60、ロッキングタング70、バックルプリテンショナ80の機能については、後に詳しく説明する。
【0025】
図2、
図3、
図4に示すように、車室100は、フロア110、トーボード120、ルーフ130、フロントガラス140、インストルメントパネル150、サイドドア160、センターコンソール170、Bピラー180等を有して構成されている。
車室100は、乗員P等が収容される空間部である。
【0026】
フロア110は、車室の床面部を構成する部分である。
フロア110は、車室100の下部に、実質的に水平方向に沿って配置されている。
図3に示すように、フロア110には、フロアトンネル111が形成されている。
フロアトンネル111は、フロア110の車幅方向中央部を上方へ突出させて形成され、車両前後方向に延在している。
フロアトンネル111の内部(床下側)には、図示しないトランスミッション、プロペラシャフト、エキゾーストパイプ等が収容される。
【0027】
フロア110には、フロントサイドフレーム112、サイドシル113、シートクロスメンバ114等が接合されている。
フロントサイドフレーム112は、閉断面を有する梁状に形成され、フロアトンネル111の下面部に沿って車両前後方向に延在する構造部材である。
フロントサイドフレーム112は、フロアトンネル111の左右に一対設けられている。
【0028】
サイドシル113は、閉断面を有する梁状に形成され、フロア110の側端部に沿って車両前後方向に延在する構造部材である。
サイドシル113は、サイドドア160が設けられるドア開口の下縁部を構成する。
シートクロスメンバ114は、フロア110の上面から突出して設けられ、車幅方向に沿って延在する構造部材である。
シートクロスメンバ114の両端部は、フロアトンネル111、サイドシル113にそれぞれ連結されている。
シートクロスメンバ114は、シート200を支持するシートレール211が取り付けられる基部となる。
【0029】
トーボード120は、車室100の下部における前面部を構成する部分である。
トーボード120は、フロア110の前端部から上方へ立ち上げて形成されている。
トーボード120は、車室100と図示しないエンジンルームとの隔壁として機能する。
【0030】
ルーフ130は、車室100の天井部分を構成する部分である。
ルーフ130は、車室100の上部に実質的に水平方向に沿って配置されている。
図3に示すように、ルーフ130の左右両端部には、ルーフサイドフレーム131が設けられている。
ルーフサイドフレーム131は、ルーフ130の側端部に沿って前後方向に延在する構造部材である。
ルーフサイドフレーム131の前端部は、フロントガラス140の側端部に沿って配置されるAピラーの上端部と接合される。
ルーフ130の下側には、内装部材であるルーフトリム132が設けられる。
【0031】
フロントガラス140は、車室100の前部において、乗員Pの上体UBの正面に設けられている。
フロントガラス140は、上端部が下端部に対して後方側となるように後傾して配置されている。
フロントガラス140の上端部は、ルーフ130の前端部に取り付けられている。
フロントガラス140の下端部は、インストルメントパネル150の上端部近傍において、図示しないカウル部に取り付けられている。
【0032】
インストルメントパネル150は、例えば計器類、空調装置、ナビゲーション装置、グローブボックス等が設けられる内装部材である。
インストルメントパネル150は、トーボード120の上部から後方側(乗員P側)に張り出して形成されている。
【0033】
サイドドア160は、車室100の側部に設けられ乗員Pの乗降等に用いられる扉状の部材である。
サイドドア160は、アウタパネル161、ドアトリム162、ドアガラス163等を有する。
アウタパネル161は、車体外板の一部を構成する部分であって、例えば鋼板等の金属板をプレス加工して成型されている。
アウタパネル161の内側には、図示しないインナパネルが取り付けられる。
ドアトリム162は、サイドドア160の車室100内側に取り付けられる内装材であって、例えば樹脂系材料等によって形成されている。
ドアガラス163は、アウタパネル161の上端部から上方に突出しかつ昇降可能となっている。
ドアガラス163が閉状態(上限まで上昇した状態)においては、ドアガラス163の上端部は、ルーフサイドフレーム131に近接して配置されている。
【0034】
センターコンソール170は、車室100内においてフロアトンネル111の上部に設けられた内装部材である。
センターコンソール170は、例えば、樹脂系材料等によって形成され、小物を収容する空間部等が設けられる。
【0035】
Bピラー180は、ルーフサイドフレーム131とサイドシル113との間にわたして設けられる柱状の部材である。
Bピラー180は、サイドドア160の後端部に沿って配置され、サイドドア160の図示しないラッチ機構と係合するストライカが設けられている。
Bピラー180には、シートベルト230のスリップジョイント233、リトラクタ231、及び、ラッププリテンショナ60が上方側から順次取り付けられている。
【0036】
車室100内には、前席(運転席、助手席)乗員が着座するシート200が設けられている。
シート200は、シートレール211を介して、前後方向に位置を調節可能な状態でフロア100の上部に固定されている。
シート200は、座面210、シートバック220を有するとともに、シートベルト230が設けられている。
【0037】
座面210は、乗員Pの大腿部Fから臀部までが載置される実質的に平板状の部分である。
座面210において乗員Pと接する上面部は、通常時においては、水平方向にほぼ沿いかつ前端部側が後端部側よりも高くなるようわずかに傾斜している。
座面210は、シートレール211を介して、フロア110のシートクロスメンバ114に取り付けられている。
シートレール211は、フロア110に対して、座面210を前後方向に相対変位可能に支持する。
【0038】
シートバック220は、乗員Pの上体UBの背部を保持する背もたれ部である。
シートバック220は、座面210の後端部近傍から上方へ立ち上げられている。
シートバック220において乗員Pと接する前面部は、上端部が下端部に対して車両後方側となるようにやや後傾している。
座面210及びシートバック220は、例えば金属製の枠体であるシートフレームの内部に、スプリング等の弾性体を配置し、その周囲をウレタンフォーム等の弾性体で被覆し、表皮部分を構成する織物、編物等の布地や、天然皮革、合成皮革等でカバーして構成されている。
【0039】
図4に示すように、シートバック220の左右方向(車幅方向)における両端部には、車両前方側に突出したサイドサポート221が設けられている。
サイドサポート221は、乗員Pの脇腹部を支持することにより、乗員Pの上体UBが旋回時の求心加速度や側面衝突時の衝突加速度によって車幅方向に振られることを防止する機能を有する。
【0040】
シートベルト230は、布製のウェビングにより乗員Pを拘束するものである。
シートベルト230は、乗員Pの上体UBの前部(胸部)に袈裟掛け状にかけ渡されるショルダベルト部230S、及び、乗員Pの腰部に左右方向にかけ渡されるラップベルト部230Lを有する3点式のものである。
【0041】
シートベルト230には、上述したショルダプリテンショナ50、ラッププリテンショナ60、ロッキングタング70、バックルプリテンショナ80に加え、リトラクタ231、バックル232、スリップジョイント233等が設けられる。
【0042】
ショルダベルト部230S、ラップベルト部230Lは、共通のベルト(ウェビング)によって構成され、ロッキングタング70よりもリトラクタ231側がショルダベルト部230S、ラッププリテンショナ60側がラップベルト230Lとなる。
リトラクタ231は、シートベルト230の一方の端部が、巻き上げ可能に取り付けられるものである。
リトラクタ231は、Bピラー180の上下方向における中間部に取り付けられている。
ショルダプリテンショナ50は、リトラクタ231に内蔵されている。
リトラクタ231は、通常時は乗員Pの上体UBの動きを妨げない程度の弱い牽引力でシートベルト230を牽引するとともに、シートベルト230が所定以上の速度で引き出された場合にはシートベルト230をロックするエマージェンシーロッキングリトラクタ(ELR)機能を備えている。
【0043】
バックル232は、シートベルト230の中間部が挿通されるロッキングタング70が着脱可能に取り付けられるものである。
バックル232は、例えば、シート200の座面210における車幅方向内側かつ後端部近傍において、図示しないシートフレームに取り付けられている。
バックル232には、ロッキングタング70を牽引してショルダベルト部230S、ラップベルト部230Lに張力を付与するバックルプリテンショナ80が設けられている。
【0044】
スリップジョイント233は、リトラクタ231の上方においてBピラー180に取り付けられ、リトラクタ231から上方へ引き出されたシートベルト230の方向を、バックル232側へ転換させるものである。
シートベルト230は、スリップジョイント233を自由に通過可能となっている。
【0045】
シートベルト230のリトラクタ231側とは反対の端部は、ラッププリテンショナ60に接続されている。
ラッププリテンショナ60は、Bピラー180の下端部近傍に取り付けられている。
【0046】
ショルダプリテンショナ50、ラッププリテンショナ60、バックルプリテンショナ80は、乗員保護装置制御ユニット30からの指令に応じて、シートベルト230を牽引して張力を付加する機能を備えている。
ショルダプリテンショナ50、ラッププリテンショナ60、バックルプリテンショナ80は、例えば、火薬式のガス発生器が発生するガス圧力を用いてシートベルト230を牽引するガス圧式のアクチュエータを有する。
【0047】
ロッキングタング70は、シートベルト230のウェビングが挿通された状態で、バックル232に着脱可能に取り付けられる。
シートベルト230のウェビングにおいて、ロッキングタング70よりもスリップジョイント233側の領域がショルダベルト部230Sとして機能し、ロッキングタング70よりもラッププリテンショナ60側の領域がラップベルト部230Lとして機能する。
ロッキングタング70は、ショルダベルト部230Sの領域と、ラップベルト230部Lの領域との間で、ウェビングが自由に通過可能な開放状態(アンロック状態)と、ウェビングの通過が拘束された拘束状態(ロック状態)とを、乗員保護装置制御ユニット30からの指令に応じて切替可能となっている。
【0048】
図5は、車両のファーサイド側面衝突時における乗員の挙動の一例を模式的に示す図である。
ショルダプリテンショナ50、ラッププリテンショナ60、ロッキングタング70、バックルプリテンショナ80等の制御を行わない場合、
図5に示すように、車両の右側面部に側面衝突を受け、左側のシート200に乗員Pが着座しているファーサイド側面衝突の場合、衝突による入力によって車体が左側に変位する際に、乗員Pは慣性力によって車体に対して右側に相対変位する。
このとき、乗員の腰部はラップベルト部230Lによって拘束され、また、車幅方向に変位した場合であってもセンターコンソール170との干渉によって変位が制限されることから、上体UBが右側(車幅方向内側)に大きく振られることになる。
このような上体UBの揺動が大きいと、それ自体が傷害を発生させるほか、隣席の乗員や車室内装部材との衝突による傷害も懸念される。
【0049】
そこで、第1実施形態の乗員保護装置においては、以下説明する制御により、側面衝突時の乗員保護を図っている。
図6は、第1実施形態の乗員保護装置におけるファーサイド側突時の制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0050】
<ステップS01:ファーサイド側面衝突判定>
乗員保護装置制御ユニット30は、加速度センサ31及び環境認識ユニット20から取得した情報に基づいて、ファーサイド側面衝突又はその前兆が検出されたか否かを判別する。
ファーサイド側面衝突又はその前兆が検出された場合、ファーサイド側面衝突判定を成立させ、ステップS02に進む。
その他の場合は、一連の処理を終了する。
【0051】
<ステップS02:ロッキングタングロック・ラッププリテンショナ作動>
乗員保護装置制御ユニット30は、ロッキングタング70を、アンロック状態からロック状態に移行させ、その後直ちにラッププリテンショナ60を作動させる。
ラッププリテンショナ60は、シートベルト230を牽引し、ラップベルト部230Lに張力を与える第1の牽引状態とする。
このときのラップベルト部230Lの張力は、乗員Pの上体UBが腰部回りに車幅方向内側に回動した際に、腰部の回転を抑制し、臀部が座面210から浮き上がらない程度に設定される。
一方、ショルダベルト部230Sは、リトラクタ231のELR機能によりロックされるが、この時点ではショルダプリテンショナ50による牽引を受けることはない。
その後、ステップS03に進む。
【0052】
<ステップS03:ラッププリテンショナ作動後経過時間カウントアップ>
乗員保護装置制御ユニット30は、ステップS02においてラッププリテンショナ60を作動させた後の経過時間を計時するタイマ手段のカウンタ値を加算(カウントアップ)する。
その後、ステップS04に進む。
【0053】
<ステップS04:所定時間経過判断>
乗員保護装置制御ユニット30は、ラッププリテンショナ60作動後の経過時間が予め設定された所定時間を経過(閾値を超過)したか否かを判別する。
この所定時間(閾値)は、車両の側面衝突後、ファーサイド側の乗員Pの上体UBの車幅方向内側へ所定量以上移動するとともに、背部がシートバック220から浮き上がった状態(後述する
図7参照)となるまでの時間を考慮して設定されている。
経過時間が所定時間を経過している場合はステップS05に進み、経過していない場合はステップS03に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0054】
<ステップS05:ショルダ・バックルプリテンショナ作動、ロッキングタングアンロック>
乗員保護装置制御ユニット30は、ショルダプリテンショナ50、バックルプリテンショナ80を作動させるとともに、ロッキングタング70をロック状態からアンロック状態へ移行させる。
ショルダプリテンショナ50、バックルプリテンショナ80は、それぞれショルダベルト部230S、ロッキングタング70を牽引する第2の牽引状態とする。
さらにロッキングタング70のアンロック状態への移行により、ラップベルト230Lの張力の一部もショルダベルト部230Sに伝達されることによって、ショルダベルト部230Sの張力は、急激に増加する。
その後、一連の処理を終了する。
【0055】
上述したステップS05において、ショルダベルト部230Sの張力を急激に増加させることによる効果について、以下詳細に説明する。
図7は、第1実施形態の乗員保護装置におけるショルダプリテンショナ作動直前の状態を示す図である。
図8は、第1実施形態の乗員保護装置におけるショルダプリテンショナ作動直後の状態を示す図である。
図7、
図8は、いずれも
図4に相当する箇所を示している。
【0056】
図7に示すように、ファーサイド側面衝突の発生直後には、乗員Pの上体UBは、背部がシートバック220から離間した状態で、腰部回りに車幅方向内側へ振られて移動した状態となる。
このような挙動が過度に大きくなると、乗員Pの頭部Hが、衝突側(ニアサイド側)の乗員や、内装部材等と衝突することによる傷害の発生等が問題となる。
【0057】
そこで、第1実施形態においては、乗員Pの上体UBが
図7に示す状態となった後に、ショルダプリテンショナ50等を作動させてショルダベルト部230Sを牽引し、張力を高めるようにしている。
これによって、
図8に示すように、上体UBは車幅方向外側(
図8においては左側)の肩部が車両後方側に強く引かれる。
また、上体UBは、背部がシートバック220に押し付けられることによって、背部における車幅方向内側の領域は、サイドサポート221に乗り上がった状態となり、車幅方向内側の肩部は、車幅方向外側の肩部に対して相対的に前進する。この前進量は、上体UBがシートバック220に対して車幅方向内側に滑ることによってさらに大きくなる。
その結果、乗員Pの上体UBは、上下方向に延在する回転中心軸回りに、車幅方向外側の肩部が後退する方向の回動を開始する。
上体UBが車幅方向内側に変位する際の運動エネルギの一部は、この回転方向の運動エネルギに変換されることから、上体UB及び頭部Hの車幅方向内側への移動量が抑制される。
【0058】
以上説明したように、第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ファーサイド側面衝突時に、ラップベルト部230Lを牽引することによって、乗員Pの腰部の挙動を安定化させて、乗員Pの上体UBが、背部がシートバック220から浮き上がった状態で車幅方向内側に移動する挙動を発生させることができる。
その後、このような状態からショルダベルト部230Sを牽引することによって、乗員Pの車幅方向外側の肩部を車両後方側へ引き、乗員Pの上体UBが持つ運動エネルギを、車幅方向内側へ倒れ込む方向の揺動から、上下方向に延在する軸周りに、車幅方向外側の肩部が後退する方向の回動に変換することができる。
その結果、乗員Pの上体UBの車幅方向内側への揺動を抑制することができ、頭部Hの移動量を低減して乗員Pの傷害を軽減することができる。
また、衝突初期におけるショルダベルト部230Sの張力を抑制しつつラップベルト部230Lの張力を高めて乗員Pの臀部が座面210から浮き上がらないよう腰部の回転抑制を図り、その後ショルダベルト部230Sを、上体UBをひねることが可能な程度の力で牽引することにより、衝突初期から3点式シートベルトの張力を全体的に高めて腰部の拘束を図る場合に対して、衝突初期のショルダベルト部230Sの張力が過剰となることを防止し、乗員Pの胸部傷害を抑制しつつ乗員Pの上体UBの車幅方向内側への揺動を抑制することができる。
(2)第2の牽引状態に以降する際にロッキングタングをアンロック状態へ移行することにより、ラップベルト部の張力の一部もショルダベルト部に伝達されることから、ショルダベルト部の張力をより迅速に高めることができる。
(3)ショルダベルト部230Sの牽引時にバックルプリテンショナ80も併用し、ショルダベルト部230Sを両側から牽引することにより、ショルダベルト部230Sの張力を迅速に高め、上述した効果を促進できる。
(4)側面衝突の発生後直ちに作動するラッププリテンショナ60の作動後経過時間が所定値以上となったときにショルダベルト部230Sの牽引を開始することにより、側面衝突後の経過時間を用いた簡単な制御で上述した効果を得ることができる。
【0059】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した乗員保護装置の第2実施形態について説明する。
以下説明する各実施形態において、従前の実施形態と実質的に共通する箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0060】
第2実施形態の乗員保護装置においては、ショルダプリテンショナ50は、以下説明するように、予備牽引、本牽引の2段階の牽引が可能となっている。
本牽引においては、ショルダプリテンショナ50は、第1実施形態のショルダプリテンショナ50の作動時と実質的に同等の牽引力を発生する。
一方、予備牽引においては、本牽引よりも弱い牽引力を発生する。
【0061】
図9は、第2実施形態の乗員保護装置におけるファーサイド側突時の制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0062】
<ステップS11:ファーサイド側面衝突判定>
乗員保護装置制御ユニット30は、加速度センサ31及び環境認識ユニット20から取得した情報に基づいて、ファーサイド側面衝突又はその前兆が検出されたか否かを判別する。
ファーサイド側面衝突又はその前兆が検出された場合、ファーサイド側面衝突判定を成立させ、ステップS12に進む。
その他の場合は、一連の処理を終了する。
【0063】
<ステップS12:ロッキングタングロック・ラッププリテンショナ作動・ショルダプリテンショナ予備牽引>
乗員保護装置制御ユニット30は、ロッキングタング70を、アンロック状態からロック状態に移行させ、その後直ちにラッププリテンショナ60を作動させる。
ラッププリテンショナ60は、シートベルト230を牽引し、ラップベルト部230Lに張力を与える第1の牽引状態とする。
また、乗員保護装置制御ユニット30は、ショルダプリテンショナ50に予備牽引を行わせる。
これにより、ショルダベルト部230Sは、本牽引時に対して比較的弱い牽引力で牽引され、張力が与えられる。
その後、ステップS13に進む。
【0064】
<ステップS13:ラッププリテンショナ作動後経過時間カウントアップ>
乗員保護装置制御ユニット30は、ステップS12においてラッププリテンショナ60を作動させた後の経過時間を計時するタイマ手段のカウンタ値を加算(カウントアップ)する。
その後、ステップS14に進む。
【0065】
<ステップS14:所定時間経過判断>
乗員保護装置制御ユニット30は、ラッププリテンショナ60作動後の経過時間が予め設定された所定時間を経過(閾値を超過)したか否かを判別する。
経過時間が所定時間を経過している場合はステップS15に進み、経過していない場合はステップS13に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0066】
<ステップS15:ショルダプリテンショナ本牽引、バックルプリテンショナ作動、ロッキングタングアンロック>
乗員保護装置制御ユニット30は、バックルプリテンショナ80を作動させるとともに、ロッキングタング70をロック状態からアンロック状態へ移行させる。
また、乗員保護装置制御ユニット30は、ショルダプリテンショナ50を、予備牽引状態から、牽引力が増加した本牽引状態へ移行させる。
ショルダプリテンショナ50、バックルプリテンショナ80は、それぞれショルダベルト部230S、ロッキングタング70を比較的強力に牽引する第2の牽引状態とする。
さらにロッキングタング70のアンロック状態への移行により、ラップベルト230Lの張力の一部もショルダベルト部230Sに伝達されることによって、ショルダベルト部230Sの張力は、急激に増加する。
その後、一連の処理を終了する。
【0067】
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と実質的に同様の効果に加えて、第1の牽引状態であるときにショルダプリテンショナ50によりショルダベルト部230Sに比較的小さな予備牽引力を与えることにより、乗員Pの上体UBが過度に前進するような挙動を防止し、第2の牽引状態に移行する際の乗員Pの体勢を安定化させてより確実に乗員保護効果を得ることができる。
【0068】
<第3実施形態>
次に、本発明を適用した乗員保護装置の第3実施形態について説明する。
図10は、第3実施形態の乗員保護装置の構成を示すブロック図である。
図10に示すように、第3実施形態においては、乗員保護装置制御ユニット30には、乗員モニタリング装置32が接続されている。
乗員モニタリング装置32は、例えば、乗員Pを撮像するカメラや、乗員Pの挙動を検出する近接センサ等を備え、乗員Pの上体UBが腰部回りに車幅方向に振れる方向に回動する移動量を検出可能となっている。
検出された移動量は、逐次乗員保護装置制御ユニット30に伝達される。
【0069】
図11は、第3実施形態の乗員保護装置におけるファーサイド側突時の制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0070】
<ステップS21:ファーサイド側面衝突判定>
乗員保護装置制御ユニット30は、加速度センサ31及び環境認識ユニット20から取得した情報に基づいて、ファーサイド側面衝突又はその前兆が検出されたか否かを判別する。
ファーサイド側面衝突又はその前兆が検出された場合、ファーサイド側面衝突判定を成立させ、ステップS22に進む。
その他の場合は、一連の処理を終了する。
【0071】
<ステップS22:ロッキングタングロック・ラッププリテンショナ作動>
乗員保護装置制御ユニット30は、ロッキングタング70を、アンロック状態からロック状態に移行させ、その後直ちにラッププリテンショナ60を作動させる。
ラッププリテンショナ60は、シートベルト230を牽引し、ラップベルト部230Lに張力を与える第1の牽引状態とする。
その後、ステップS23に進む。
【0072】
<ステップS23:乗員挙動検出>
乗員モニタリング装置32は、乗員Pの上体UBの挙動、特に、車幅方向の移動量を検出し、検出結果を逐次乗員保護装置制御ユニット30に伝達する。
その後、ステップS24に進む。
【0073】
<ステップS24:上体移動量判断>
乗員保護装置制御ユニット30は、乗員Pの上体UBの車幅方向における車体に対する相対移動量が予め設定された所定値(閾値)以上となったか否かを判別する。
上体UBの移動量が、所定値以上である場合はステップS25に進み、所定値未満である場合はステップS23に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0074】
<ステップS25:ショルダ・バックルプリテンショナ作動、ロッキングタングアンロック>
乗員保護装置制御ユニット30は、ショルダプリテンショナ50、バックルプリテンショナ80を作動させるとともに、ロッキングタング70をロック状態からアンロック状態へ移行させる。
ショルダプリテンショナ50、バックルプリテンショナ80は、それぞれショルダベルト部230S、ロッキングタング70を牽引する第2の牽引状態とする。
さらにロッキングタング70のアンロック状態への移行により、ラップベルト230Lの張力の一部もショルダベルト部230Sに伝達されることによって、ショルダベルト部230Sの張力は、急激に増加する。
その後、一連の処理を終了する。
【0075】
以上説明した第3実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と実質的に同様の効果に加えて、乗員Pの上体UBの実際の挙動に基づいて第2の牽引状態への移行を行うことにより、制御の精度を高め、より確実に乗員保護効果を得ることができる。
【0076】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)乗員保護装置及びこれが搭載される車両の構成は、上述した実施形態に限らず適宜変更することができる。
例えば、上述した各プリテンショナ、ロッキングタングの制御によるショルダベルト部、ラップベルト部の張力制御に加えて、エアバッグ等の他の乗員拘束装置を組み合わせて利用し、乗員保護を行うようにしてもよい。
(2)実施形態において、乗員保護装置は一例として乗用車の前席に設けられるものであったが、これに限らず、後席(複数列を有する車両における2列目以降)に設けることも可能である。