特許第6726746号(P6726746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6726746
(24)【登録日】2020年7月1日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】鉄道車両の水抜構造
(51)【国際特許分類】
   B61D 17/00 20060101AFI20200713BHJP
【FI】
   B61D17/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-530260(P2018-530260)
(86)(22)【出願日】2016年7月27日
(86)【国際出願番号】JP2016072034
(87)【国際公開番号】WO2018020612
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2019年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】麻生 和夫
【審査官】 諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−025608(JP,A)
【文献】 特開2014−005646(JP,A)
【文献】 特開2010−202025(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0038231(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第01683742(EP,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102014217733(DE,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102008007748(DE,A1)
【文献】 特開2014−098305(JP,A)
【文献】 特開2011−163553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床板を貫通して上端部が車内に開口し下端部が台枠内ないし台枠下に開口することで、通常時には車内に溜まった水を車外へと排出する水抜管を有する鉄道車両の水抜構造であって、
外部からの熱を受けて前記水抜管の下端部開口を閉鎖するように動作する閉鎖手段を備えることを特徴とする鉄道車両の水抜構造。
【請求項2】
前記閉鎖手段は、外部からの熱を受けて、前記水抜管を変形させることなく前記水抜管の下端部開口を閉じるものであることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両の水抜構造
【請求項3】
前記閉鎖手段は、前記水抜管の少なくとも下端部を覆う箱体であって、該箱体の側壁に開口が形成されており、該箱体が所定温度を超える温度に加熱されたときに、自重により動作して前記開口を閉鎖するシャッター部を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の鉄道車両の水抜構造
【請求項4】
床板を貫通して上端部が車内に開口し下端部が台枠内ないし台枠下に開口する水抜管を有する鉄道車両の水抜構造であって、
外部からの熱を受けて前記水抜管の下端部開口を閉じる閉鎖手段を備え
前記閉鎖手段は、前記水抜管の少なくとも下端部を覆う箱体であって、該箱体の側壁に開口が形成されており、該箱体が所定温度を超える温度に加熱されたときに、自重により動作して前記開口を閉鎖するシャッター部を備えることを特徴とする鉄道車両の水抜構造。
【請求項5】
前記閉鎖手段は、前記水抜管の少なくとも下端部を覆う内外二重構造の箱体であって、該箱体を構成する外箱及び内箱のうち、
前記外箱は天板と、底板と、側壁とを有し、前記天板には前記水抜管が貫通した状態で前記水抜管が固定され、前記側壁の下端から上方に向かう所定範囲に開口が形成されており、
前記内箱は、少なくとも底板と側壁とを有し、前記底板に前記水抜管が挿通される開口が形成され、前記外箱内部で前記水抜管の挿通方向に摺動可能であり、
前記外箱に対する前記内箱の摺動範囲の最下方位置において、前記外箱の側壁に形成された開口が、前記内箱の側壁によって閉鎖され、
前記最下方位置よりも上方位置に前記内箱を保持し、所定温度を超える温度に加熱されたときに、前記内箱を前記最下方位置へと落下させる保持手段を備えることを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の鉄道車両の水抜構造。
【請求項6】
前記保持手段は、熱溶融性素材を介して一対の部材が固定された継手であって、前記一対の部材の一方が前記外箱に固定され他方が前記内箱に固定されてなることを特徴とする請求項記載の鉄道車両の水抜構造。
【請求項7】
前記内箱の内部に、前記水抜管の貫通孔が形成された熱膨張性充填材が配置されていることを特徴とする請求項又は項記載の鉄道車両の水抜構造。
【請求項8】
前記外箱の側壁は、前記水抜管の挿通方向と交差する方向の断面形状がハット形をなし、該ハット形を構成するフランジ部が前記台枠の構成部材との接合部をなしていることを特徴とする請求項からのいずれか1項記載の鉄道車両の水抜構造。
【請求項9】
前記内箱の側壁は、前記水抜管の挿通方向と交差する方向の断面形状がチャネル形をなし、該チャネル形を構成する底部が前記外箱に形成された開口に面していることを特徴とする請求項記載の鉄道車両の水抜構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の水抜構造に関するものであり、特に、車内に溜まった水を車外へと排出するための水抜構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車室には、雨天時等に乗客が持ち込んだ傘に付着した雨水が溜まる等により、車内の床面等に溜まった水を、車外へと排出する必要がある。このため、車内の排水のための水抜構造が側扉の靴摺り部等に設けられている(例えば、特許文献1、2参照)。
図7には、従来の鉄道車両の水抜構造100が示されている。図7に示された水抜構造100は、水抜管102を有している。この水抜管102は、上端部102aが車内の側扉の靴摺り部に開口し、床板104及び台枠106を貫通して、下端部102bが台枠106の下方に開口するように設置されている。そして、下端部102bを覆うカバープレート108が、台枠底板105に固定されている。このカバープレート108は、水抜管102の下端部102bに対して若干の隙間を確保しており、水抜管102の水抜機能を損なうことなく、水抜管102を介しての、車外から車内への異物の侵入や不要な空気の流入を防止している。又、同様の水抜構造は、鉄道車両の側引戸の戸袋部や窓部、便所、化粧室等の、水が溜まり得る場所にも設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−025608号公報
【特許文献2】特開2000−203422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、鉄道車両の水抜構造を介して、火災発生時の煙や炎が車内に流入することを防止し、防火防煙対策をより強化するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)床板を貫通して上端部が車内に開口し下端部が台枠内ないし台枠下に開口することで、通常時には車内に溜まった水を車外へと排出する水抜管を有する鉄道車両の水抜構造であって、外部からの熱を受けて前記水抜管の下端部開口を閉鎖するように動作する閉鎖手段を備える鉄道車両の水抜構造(請求項1)。
本項に記載の鉄道車両の水抜構造は、通常時には、上端部が車内に開口し床板を貫通して下端部が台枠内ないし台枠下に開口する水抜管により、車内に溜まった水を車外へと排出するものである。そして、この水抜管の下端部には、外部からの熱を受けて水抜管の下端部開口を閉鎖するように動作する閉鎖手段を備えるものである。このため、火災時にはその熱を受けて、水抜管の下端部開口が閉じられ、水抜管を介して外部から車内へと煙や炎が侵入することを防ぐものとなる。
(2)上記(1)項において、前記閉鎖手段は、外部からの熱を受けて、前記水抜管を変形させることなく前記水抜管の下端部開口を閉じるものである鉄道車両の水抜構造(請求項2)。
【0007】
(3)上記(1)(2)項において、前記閉鎖手段は、前記水抜管の少なくとも下端部を覆う箱体であって、該箱体の側壁に開口が形成されており、該箱体が所定温度を超える温度に加熱されたときに、自重により動作して前記開口を閉鎖するシャッター部を備える鉄道車両の水抜構造(請求項3)。
本項に記載の鉄道車両の水抜構造は、上記(1)項の閉鎖手段が、側壁に開口が形成された、水抜管の少なくとも下端部を覆う箱体により構成されているものである。そしてこの箱体が所定温度を超える温度に加熱されたときに、シャッター部は自重によって箱体の開口を閉鎖するように動作することで、水抜管を介して外部から車内へと煙や炎が侵入することを防ぐものとなる。なお、「所定温度」は、常温よりも高く、通常起こり得る温度上昇、例えば夏季の気温の上昇や、鉄道車両の搭載機器が発する熱を受ける場合の温度を超えて、火災等の異常時の熱を受けて上昇し得る温度が該当するものであり、実験等を通じて適切な温度が定められるものである。
(4)床板を貫通して上端部が車内に開口し下端部が台枠内ないし台枠下に開口する水抜管を有する鉄道車両の水抜構造であって、外部からの熱を受けて前記水抜管の下端部開口を閉じる閉鎖手段を備え、 前記閉鎖手段は、前記水抜管の少なくとも下端部を覆う箱体であって、該箱体の側壁に開口が形成されており、該箱体が所定温度を超える温度に加熱されたときに、自重により動作して前記開口を閉鎖するシャッター部を備える鉄道車両の水抜構造(請求項4)。
【0008】
)上記(1)から()項において、前記閉鎖手段は、前記水抜管の少なくとも下端部を覆う内外二重構造の箱体であって、該箱体を構成する外箱及び内箱のうち、前記外箱は天板と、底板と、側壁とを有し、前記天板には前記水抜管が貫通した状態で前記水抜管が固定され、前記側壁の下端から上方に向かう所定範囲に開口が形成されており、前記内箱は、少なくとも底板と側壁とを有し、前記底板に前記水抜管が挿通される開口が形成され、前記外箱内部で前記水抜管の挿通方向に摺動可能であり、前記外箱に対する前記内箱の摺動範囲の最下方位置において、前記外箱の側壁に形成された開口が、前記内箱の側壁によって閉鎖され、前記最下方位置よりも上方位置に前記内箱を保持し、所定温度を超える温度に加熱されたとき、前記内箱を前記最下方位置へと落下させる保持手段を備える鉄道車両の水抜構造(請求項)。
【0009】
本項に記載の鉄道車両の水抜構造は、上記(1)から()項の閉鎖手段が、水抜管の下端部からの所定範囲を覆う、外箱及び内箱からなる内外二重構造の箱体により構成されているものである。そして、外箱は天板と、底板と、側壁とを有し、天板には水抜管が貫通した状態で水抜管が固定されている。このため、水抜管は外箱内部を上方から下方へと向けて延び、その下端部が底板の上方に位置している。又、内箱は、少なくとも底板と側壁とを有して、底板に形成された開口に水抜管が挿通されている。この内箱は、外箱内部で水抜管の挿通方向に摺動することにより、上下方向に移動可能となっており、外箱に対する内箱の摺動範囲の最下方位置において、外箱の側壁に形成された開口が、内箱の側壁によって閉鎖される。この状態では、水抜管の下端部は外箱と内箱とに覆われ、水抜管を介して外部から車内へと煙や炎が侵入することを防ぐものとなる。
【0010】
又、最下方位置よりも上方位置に内箱を保持し、所定温度を超える温度に加熱されたときに、内箱を最下方位置へと落下させる保持手段を備えることにより、通常時は、水抜管の下端部は、外箱の側壁に形成された開口を介して外箱の外部と流体連通可能につながっており、車内に溜まった水を、水抜管を介して車外へと排出するものである。一方、火災時において、保持手段が、所定温度を超える温度に加熱されたときに、内箱を最下方位置へと落下させることで、上述のごとく、水抜管の下端部は外箱と内箱とに覆われ、水抜管を介して外部から車内へと煙や炎が侵入することを防ぐものとなる。
【0011】
)上記()項において、前記保持手段は、熱溶融性素材を介して一対の部材が固定された継手であって、前記一対の部材の一方が前記外箱に固定され他方が前記内箱に固定されてなる鉄道車両の水抜構造(請求項)。
本項に記載の鉄道車両の水抜構造は、上記()項の保持手段が、熱溶融性素材を介して一対の部材が固定された継手であり、一対の部材の一方が外箱に固定され他方が内箱に固定されてなるものである。このため、通常時には、この継手を介して外箱と内箱とが、外箱に対する内箱の摺動範囲の最下方位置よりも上方位置となるように、保持される。一方、火災時においては、継手が所定温度を超える温度に加熱されて、熱溶融性素材が溶融し一対の部材が分離することで、内箱を最下方位置へと落下させるものとなる。
【0012】
)上記()()項において、前記保持手段は、熱溶融性素材からなるねじであり、該ねじによって前記外箱と前記内箱とが友締めされてなる鉄道車両の水抜構造。
本項に記載の鉄道車両の水抜構造は、上記()()項の保持手段が、熱溶融性素材からなるねじであり、このねじによって外箱と内箱とが友締めされて、通常時には、外箱と内箱とが、外箱に対する内箱の摺動範囲の最下方位置よりも上方位置となるように、保持される。一方、火災時においては、ねじが所定温度を超える温度に加熱されて溶融し、内箱を最下方位置へと落下させるものとなる。
【0013】
)上記()から()項において、前記内箱の内部に、前記水抜管の貫通孔が形成された熱膨張性充填材が配置されている鉄道車両の水抜構造(請求項)。
本項に記載の鉄道車両の水抜構造は、内箱の内部に配置されている熱膨張性充填材に、水抜管の貫通孔が形成されていることから、外箱内部を上方から下方へと向けて延びる水抜管は、熱膨張性充填材の貫通孔内に位置するものである。又、火災時において、保持手段が、所定温度を超える温度に加熱されたときに、熱膨張性充填材の貫通孔により、内箱がその摺動範囲の最下方位置へと落下することを阻害されることもない。そして、内箱が最下方位置へと落下し、水抜管の下端部が外箱と内箱とに覆われると共に、熱膨張性充填材も熱を受けて膨張し、内箱及び外箱の内部空間が塞がれる。又、内箱が最下方位置へと落下した状態で、熱膨張性充填材の水抜管の貫通孔も、自らの膨張によって塞がれる。その結果、水抜管の下端部の開口は、膨張した熱膨張性充填材によって塞がれることとなり、水抜管を介して外部から車内へと煙や炎が侵入することを防ぐものとなる。
【0014】
)上記()から()項において、前記外箱の側壁は、前記水抜管の挿通方向と交差する方向の断面形状がハット形をなし、該ハット形を構成するフランジ部が前記台枠の構成部材との接合部をなしている鉄道車両の水抜構造(請求項)。
本項に記載の鉄道車両の水抜構造は、外箱の側壁の、水抜管の挿通方向と交差する方向の断面形状がハット形をなし、ハット形を構成するフランジ部が台枠の構成部材との接合部をなしていることから、このフランジ部を介して外箱が台枠に固定されるものである。この場合、台枠構成部材の壁面も、外箱内部において内箱を摺動可能に収容するための、空間を構成する要素として用いられるものとなる。
【0015】
10)上記()項において、前記内箱の側壁は、前記水抜管の挿通方向と交差する方向の断面形状がチャネル形をなし、該チャネル形を構成する底部が前記外箱に形成された開口に面している鉄道車両の水抜構造(請求項)。
本項に記載の鉄道車両の水抜構造は、内箱の側壁の、水抜管の挿通方向と交差する方向の断面形状がチャネル形をなし、チャネル形を構成する底部が外箱に形成された開口に面していることから、内箱の側壁は、上記()項の、水抜管の挿通方向と交差する方向の断面形状がハット形をなす外箱の側壁に位置決めされ、かつ、摺動案内されるものである。そして、火災時において、保持手段が、所定温度を超える温度に加熱されたときに、内箱が摺動範囲の最下方位置へと落下することで、内箱のチャネル形を構成する底部が前記外箱に形成された開口を閉鎖するものとなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明はこのように構成したので、鉄道車両の水抜構造を介して、火災発生時の煙や炎が車内に流入することを防止し、防火防煙対策をより強化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の水抜構造を概略的に示すものであり、(a)は(b)のA−A断面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
図2図1に示される鉄道車両の水抜構造を構成する外箱を示すものであり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
図3図1に示される鉄道車両の水抜構造を構成する内箱を示すものであり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
図4図1に示される鉄道車両の水抜構造を構成する水抜管を示すものであり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
図5図1に示される鉄道車両の水抜構造を構成する熱膨張性充填材を示すものであり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
図6図1に示される鉄道車両の水抜構造を模式的に示す断面図であり、(a)は通常時、(b)は火災発生時を示すものである。
図7】従来の鉄道車両の水抜構造を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは、相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
【0019】
図1には、本発明の実施の形態に係る鉄道車両の水抜構造10が概略的に示されている。この水抜構造10は、上端部12aが車内に開口し床板(図7の符号104参照)を貫通して下端部12bが台枠(図7の符号106参照)内、ないし、台枠下に開口する水抜管12を有している。そして、外部からの熱を受けて水抜管12の下端部開口を閉じる閉鎖手段14を備えるものである。この水抜構造10は、図7に示される従来の鉄道車両の水抜構造100を置き換える態様で用いられるものであり、従来の水抜管102の位置に本実施の形態に係る水抜管12が配置され得るものである。
【0020】
閉鎖手段14は、水抜管12の少なくとも下端部を覆う箱体15であって、箱体15の側壁に開口16aが形成されており、箱体15が所定温度を超える温度に加熱されたときに、自重により動作して開口16aを閉鎖するシャッター部18を備えるものである。
又、本実施の形態では、水抜管12の少なくとも下端部12bを覆う外箱16、及び、シャッター部としての内箱18からなる内外二重構造の箱体が用いられており、なおかつ、後述する保持手段20を備えている。図示の例では、この閉鎖手段14は水抜管12の下端部12bから100〜150mm程度の範囲を覆うようにして設置されている。
【0021】
そして、外箱16は天板161と、底板162と、側壁163とを有している。天板161には水抜管12が貫通した状態で固定されている。又、側壁163の下端から上方に向かう所定範囲(図示の例では側壁163の下端から50mm程度)に開口16aが形成されている。又、本実施の形態では、図2にも示されるように、外箱16の側壁は、平面視で概略矩形をなし、かつ、水抜管12の挿通方向(上下方向)と交差する方向(水平方向)の断面形状がハット形(図2(a)参照)をなして、三面に側壁163を有し、一面が解放されている。そして、ハット形を構成するフランジ部16bが台枠106(図7参照)の構成部材106aとの接合部をなしている。フランジ部16bを台枠構成部材106aの壁面に固定する手法としては、適宜、図1(a)に示されるようにねじ止めとしても良く、溶接や接着により固定しても良い。
なお、本実施の形態では、天板161は、外箱16とは別体をなし、図4に示されるように水抜管12と一体になっている。そして、外箱16の側壁163に対して、ねじ止め等の適切な手法により天板161を固定することで、外箱16が構成されるものである。
【0022】
内箱18は、図3にも示されるように、少なくとも底板181と側壁182とを有している。そして、底板181に水抜管12が挿通される開口18aが形成されている。なお、開口18aの直径は、水抜管12の外壁に対して接触することのないように十分な隙間を持ったものである。そして、内箱18は、外箱16の内部で水抜管12の挿通方向に摺動可能となっている。
なお、本実施の形態では、図3にも示されるように、平面視で概略矩形をなし、かつ、内箱18の側壁182は、水抜管の挿通方向と交差する方向の断面形状がチャネル形(図3(a))をなしており、三面に側壁182を有し、一面が解放されている。また、平面視で、外箱16の側壁163で囲まれた部分と相似形をなしている。なお、天板は備えていない。そして、このチャネル形を構成する底部18bが、外箱16に形成された開口16aに面するように配置されている。
【0023】
そして、外箱16に対する内箱18の摺動範囲の最下方位置(図6(b)参照)において、外箱16の底板162の上面に内箱18の底板181の下面が当接し、外箱16の側壁163に形成された開口16aが、内箱18の側壁182によって閉鎖されるものである。このとき、内箱18の底板181に形成された開口18aも、外箱16の底板162により閉鎖される。
又、閉鎖手段14は、外箱16に対する内箱18の摺動範囲の最下方位置よりも上方位置(図6(a)参照)に内箱18を保持し、所定温度を超える温度に加熱されたときに、内箱18を最下方位置へと落下させる保持手段20を備えている。
【0024】
保持手段20は、一対の部材が熱溶融性素材で固定されてなる継手である。具体例としては、矩形の金属板からなる一対の部材20a、20bを熱溶融性素材としてのはんだ21(図1(b)に符号のみ示す)で固定したものである。図示の例では、一方の部材20aが外箱16に固定され、他方の部材20bが内箱18に固定されている。又、外箱16の側壁163および内箱18の側壁182の双方に、ねじ22が設けられており、このねじ22とナット24とによって、保持手段20が固定されている。火災発生時には、保持手段20が火災の熱に曝されることで、一対の部材20a、20bを固定するはんだ21は溶融温度以上に加熱され、はんだ21が溶融して一対の矩形の金属板20a、20bが分離する。よって、内箱18は自重により外箱16内を落下するものである。一対の部材20a、20bの形状は一例であり、他の形状としてもよい。又、一対の部材20a、20bを外箱16及び内箱18に固定する手法や位置についても、適切なものに変更可能である。
又、保持手段20の別例として、図示は省略するが、溶融性素材からなるねじを用い、このねじによって外箱16の側壁163と内箱18の側壁182とを友締めすることとしても良い。例えば、熱溶融性素材からなるねじとして、アクリルねじを用いる場合には、150℃以下でアクリルねじが溶けることで、外箱16と内箱18との友締め状態が解除され、内箱18は自重により落下するものである。更に、ねじに替えてリベット等の軸状の、熱溶融性素材からなる固定要素を用いることとしてもよい。
【0025】
更に、内箱18の内部には、熱膨張性充填材26が配置されている。この熱膨張性充填剤26には、図5にも示されるように、水抜管12の貫通孔26aが形成されている。貫通孔26aの直径は、水抜管12の外壁に対して接触することのないように十分な隙間を持ったものである。又、熱膨張性充填材26の外形は、図1図6(a)に示されるように、外箱16に対して内箱18が摺動範囲の上方位置に保持された状態で、外箱16及び内箱18により構成される室内に収まるように形成されている。熱膨張性充填剤26は、耐火性を有するスポンジ状、ゴム状の素材であって、例えば、200℃以上で熱膨張を開始し、常温時の3〜4倍に膨張するものが用いられる。この膨張により、外箱16及び内箱18の内部が熱膨張性充填剤26で満たされるように、常温時の熱膨張性充填剤26の体積ないし形状が設定されることが望ましい。
【0026】
本実施の形態に係る鉄道車両の水抜構造10の作動試験として、この水抜構造10を843℃の温度雰囲気に30分間曝したところ、保持手段20は溶融して内箱18は外箱16内の最下方位置へと落下した。又、熱膨張性充填剤26は、外箱16及び内箱18の全体にわたって、更には水抜管12の貫通穴内部にも膨張することが確認された。又、保持手段20は外箱16の外部に露出し、熱膨張性充填材26は外箱16及び内箱18の内部に収容されていることから、保持手段20は早期に温度上昇して溶融し、内箱18を落下させ、その後に熱膨張性充填材26が熱の影響を受けて膨張することが確認された。
【0027】
なお、熱膨張性充填剤26については、必要に応じて採用することとしてもよい。又、図示の例では、外箱16及びシャッター部としての内箱18からなる内外二重構造の箱体を採用しているが、適宜、内箱18を単なる板状のシャッター板としてもよい。又、熱膨張性充填剤26を採用する際に、熱膨張性充填剤26が、シャッター板の昇降スペースを確保して、外箱16に固定されていてもよく、シャッター板に固定されて、シャッター板と共に昇降するものであってもよい。更に、水抜管12は必ずしも外箱16の内部にまで延びている必要はない。この場合、熱膨張性充填剤26の水抜管12の貫通孔26aは、通常時には単なる通水孔として機能するものとなる。
【0028】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。
すなわち、本発明の実施の形態に係る鉄道車両の水抜構造10は、通常時には、床板104(図7)を貫通して上端部12aが車内に開口し下端部12bが台枠106(図7)の内部または台枠106の下方に開口する水抜管12により、車内に溜まった水を車外へと排出することが可能である。そして、この水抜管12の下端部12bには、外部からの熱を受けて水抜管12の下端部12bの開口を閉じる閉鎖手段14を備えるものである。閉鎖手段14は、側壁163に開口16aが形成された、水抜管12の少なくとも下端部12bを覆う箱体15により構成されている。そして、箱体15が所定温度を超える温度に加熱されたときに、シャッター部18は自重によって箱体15の開口16aを閉鎖するように動作する。このため、火災時にはその熱を受けて、水抜管12の下端部12bの開口が閉じられることとなり、水抜管12を介して外部から車内へと煙や炎が侵入することを、より確実に防ぐことが可能となる。
【0029】
又、本実施の形態では、閉鎖手段14が、水抜管12の下端部12bからの所定範囲を覆う、外箱16及び内箱18からなる内外二重構造の箱体により構成され、外箱16は、天板161と、底板162と、側壁163とを有し、天板161には水抜管12が貫通した状態で水抜管12が固定されている。このため、水抜管12は外箱16の内部を上方から下方へと向けて延び、その下端部12bが底板162の上方に位置している。又、内箱18は、底板181と側壁182とを有して、底板181に形成された開口18aに水抜管12が挿通されている。この内箱18は、外箱16の内部で水抜管12の挿通方向に摺動することにより、上下方向に移動可能となっている。そして、外箱16に対する内箱18の摺動範囲の最下方位置(図6(b)参照)において、外箱16の側壁163に形成された開口16aが、内箱18の側壁182によって閉鎖される。この状態では、水抜管12の下端部12bは外箱16と内箱18とに覆い隠され、水抜管12を介して外部から車内へと煙や炎が侵入することを、より確実に防ぐことが可能となる。
【0030】
又、外箱16に対する内箱18の摺動範囲の最下方位置よりも上方位置(図6(a)参照)に内箱18を保持し、閉鎖手段14が所定温度を超える温度に加熱されたときに、内箱18を最下方位置へと落下させる保持手段20を備えることにより、通常時は、水抜管12の下端部12aは、外箱16の側壁163に形成された開口16aを介して外箱16の外部と流体連通可能となっている。このため、車内に溜まった水を水抜管12を介して車外へと排出することが可能である。一方、火災時において、保持手段20が、所定温度を超える温度に加熱されたときに、内箱18を最下方位置へと落下させることで、上述のごとく、水抜管12の下端部12bは外箱16と内箱18とに覆われ、水抜管12を介して外部から車内へと煙や炎が侵入することを、より確実に防ぐことが可能となる。
【0031】
又、保持手段20は、一対の部材20a、20bが熱溶融性素材で固定された継手であり、一対の部材の一方20aが外箱に固定され他方20bが内箱18に固定されてなるものである。このため、通常時には、この継手を介して外箱16と内箱18とが、外箱16に対する内箱18の摺動範囲の最下方位置よりも上方位置(図1図6(a)参照)となるように、保持される。一方、火災時においては、継手が所定温度を超える温度に加熱されて、熱溶融性素材が溶融し一対の部材20a、20bが分離することで、内箱18を最下方位置へと落下させることが可能となる。
又、保持手段20として、熱溶融性素材からなるねじ等を用いた場合にも、同様の作用効果を得ることが可能である。
【0032】
又、内箱18の内部に配置されている熱膨張性充填材26に、水抜管12の貫通孔26aが形成されていることから、外箱16の内部を上方から下方へと向けて延びる水抜管12は、熱膨張性充填材26の貫通孔26a内に位置することとなる。又、火災時において、保持手段20が、所定温度を超える温度に加熱されたときに、熱膨張性充填材26の貫通孔26aにより、内箱18がその摺動範囲の最下方位置へと落下することを阻害されることもない。そして、内箱が最下方位置へと落下し、水抜管12の下端部12bが外箱16と内箱18とに覆われると共に、熱膨張性充填材26も熱を受けて膨張する。その結果、図6(b)に示されるように、外箱16及び内箱18の内部空間が熱膨張性充填材26によって塞がれる。又、内箱18が最下方位置へと落下した状態で、熱膨張性充填材26の水抜管12の貫通孔26aも自らの膨張によって塞がれる。その結果、水抜管12の下端部12bの開口は、膨張した熱膨張性充填材26によっても塞がれることとなり、水抜管12を介して外部から車内へと煙や炎が侵入することを、より確実に防ぐことが可能となる。
【0033】
又、外箱16の側壁163の、水抜管12の挿通方向と交差する方向の断面形状がハット形をなし、ハット形を構成するフランジ部16bが台枠106の構成部材106a(図1(a)参照)との接合部をなしていることから、このフランジ部16bを介して外箱16が台枠106に固定されるものである。この場合、台枠構成部材106aの壁面についても、外箱16の内部において内箱18を摺動可能に収容するための、空間を構成する要素として用いられるものとなる。なお、本構成については、必要に応じて、外箱16の側壁163の、水抜管12の挿通方向と交差する方向の断面形状を矩形として、別途、台枠構成部材106aの壁面に対する取り付けフランジを設けてもよい。
【0034】
又、内箱18の側壁182の、水抜管12の挿通方向と交差する方向の断面形状がチャネル形をなし、チャネル形を構成する底部18bが外箱16に形成された開口16aに面していることから、内箱18の側壁182は、外箱16の側壁163に位置決めされ、かつ、摺動案内されるものである。そして、火災時において、保持手段20が、所定温度を超える温度に加熱されたときに、内箱18が摺動範囲の最下方位置へと落下することで、内箱18のチャネル形を構成する底部18bによって、外箱16に形成された開口16aを閉鎖することが可能となる。本構成についても、適宜、内箱18の側壁182の、水抜管12の挿通方向と交差する方向の断面形状が、矩形であってもよい。
【0035】
なお、図示の例では、外箱16及び内箱18は平面視で概略矩形をなしているが、これに限定されるものではなく、平面視で円形、半円形、楕円形、四角以外の多角形等、あるいは更に別の、台枠106への固定に適した形状に構成することとしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10:鉄道車両の水抜構造、 12:水抜管、 12a:上端部、 12b:下端部、 14:閉鎖手段、 16:外箱、 161:天板、 162:底板、 163:側壁、 16a:開口、 16b:フランジ部、 18:内箱、 181:底板、 182:側壁、 18a:底部、 20:保持手段、21:熱溶融性素材(はんだ)、 20a:一方の部材、 20b:他方の部材、26:熱膨張性充填材、 26a:貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7