特許第6726981号(P6726981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6726981
(24)【登録日】2020年7月2日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】緑化工法及び緑化構造体
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20200713BHJP
【FI】
   E02D17/20 104B
   E02D17/20 102F
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-27489(P2016-27489)
(22)【出願日】2016年2月17日
(65)【公開番号】特開2016-153596(P2016-153596A)
(43)【公開日】2016年8月25日
【審査請求日】2019年1月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-29185(P2015-29185)
(32)【優先日】2015年2月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231431
【氏名又は名称】日本植生株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(72)【発明者】
【氏名】小竹守 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】小田 高史
(72)【発明者】
【氏名】藤嶋 泰良
【審査官】 亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−293680(JP,A)
【文献】 特開平10−077633(JP,A)
【文献】 特開平10−037199(JP,A)
【文献】 特開2005−036579(JP,A)
【文献】 特開2007−092474(JP,A)
【文献】 特開2002−146798(JP,A)
【文献】 米国特許第04304069(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
E02B 3/04−3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルタル又はコンクリートの吹き付け法面の裏側に発生している空洞に、生育基盤材と固化材とを含む充填材を充填するモルタル又はコンクリートの吹き付け法面の補修工法を行った後、モルタル又はコンクリートの吹き付け法面に地山に至る深さの穴を開け、モルタル又はコンクリートの吹き付け法面の表面に植生材料の吹き付けを行う緑化工法であって、前記充填材として、植物の根の伸長を阻害しないもので、かつ前記空洞に充填した場合に流亡しない程度に固まるものを用い、さらに、前記穴は、モルタル又はコンクリートの吹き付け法面に対し略直交する方向に開けることを特徴とする緑化工法
【請求項2】
植生材料の吹き付けを行う前工程として、モルタル又はコンクリートを前記吹き付け法面の傾斜方向並びに等高線方向に適宜の間隔を隔てて膨出させた断面形状が半円状の格子枠を形成することを特徴とする請求項に記載の緑化工法。
【請求項3】
請求項又は請求項に記載の緑化工法を用いて形成された緑化構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば地山にモルタル又はコンクリートを吹き付けて形成されたモルタル又はコンクリートの吹き付け法面の補修・補強工事に用いられるモルタル又はコンクリートの吹き付け法面の補修用充填材を用いた緑化工法及び緑化構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば地山にモルタル又はコンクリートを吹き付けて形成されているモルタル又はコンクリートの吹き付け法面(以下、単にモルタルの吹き付け法面という)の補修・補強工事にあたり、例えばサーモグラフィーや打音、目視等で検査した結果、モルタルの吹き付け法面の裏側に空洞が発生していることが確認された場合、その空洞を埋めるように、グラウト等のセメント系材料を裏込め材として充填する対応策が採られているのが一般的である。空洞は、主としてモルタルの吹き付け法面の劣化や、地盤の移動により発生するが、前記空洞にグラウト等のセメント系材料を充填する場合、緑化工法によりモルタルの吹き付け法面に植物を生育させようとすると充填材が障害となっていた。
【0003】
一方、空洞個所に植物を生育させるため空洞を埋めるように、適宜客土を注入する従来技術が下記特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3097830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているようなモルタルの吹き付け法面裏側に充填材として客土を注入する場合、客土がモルタルの吹き付け法面の裏面の湧水で流されて空洞化し、強度低下や、客土に侵入した緑化植物の根系が乾燥して枯死しやすくなるなどの問題があった。
【0006】
本発明は上述の事柄を考慮に入れてなされたものであり、緑化工法を行った際に充填材が植物の生育の障害となることをなくすことができて、且つ、湧水等で流亡しない程度に適度に固まることで、モルタル又はコンクリートの吹き付け法面の裏側に発生した空洞個所からも植物が生育することができるモルタル又はコンクリートの吹き付け法面の補修用充填材を用いた緑化工法及び緑化構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
【0008】
上記目的を達成するため、本願の請求項に係る発明は、モルタル又はコンクリートの吹き付け法面の裏側に発生している空洞に、生育基盤材と固化材とを含む充填材を充填するモルタル又はコンクリートの吹き付け法面の補修工法を行った後、モルタル又はコンクリートの吹き付け法面に地山に至る深さの穴を開け、モルタル又はコンクリートの吹き付け法面の表面に植生材料の吹き付けを行う緑化工法であって、前記充填材として、植物の根の伸長を阻害しないもので、かつ前記空洞に充填した場合に流亡しない程度に固まるものを用い、さらに、前記穴は、モルタル又はコンクリートの吹き付け法面に対し略直交する方向に開けることを特徴とする緑化工法を提供する。
【0009】
【0010】
本願の請求項に係る発明において、生育基盤材となりうる材料としては、一般的な植生基材(例えばバーク堆肥、ピートモスなどの有機質系資材、粘土鉱物などの無機質系資材、土、保水材、混和剤等)を挙げることができる。また、本願の請求項に係る発明で用いる充填材「空洞に充填した場合に流亡しない程度に固まるもの」とは、例えば、植物生育に寄与できる流動体等のスラリー状の物質であり、本発明では、モルタル又はコンクリートの吹き付け法面の裏側に空洞が発生している場合、植物生育に寄与できる前記スラリー状(流動体等)の物質を空洞に充填する。
【0011】
なお、充填の手順の一例は以下の通りである。(1)例えば図1に示すように、空洞Eを見つけるため、例えばモルタル1の吹き付け法面2の例えば土砂(図示せず)が表面に流出している個所等を打音、目視で検査したり、吹き付け法面2全般をサーモグラフィーで検査する。サーチした結果、空洞Eの発生個所、ならびに空洞Eの大方の大きさが分かる。そこで、吹き付け法面2における空洞Eの法肩側の個所に開口する孔hをドリル等の工具で形成する。続いて、(2)図2に示すように、前記孔hから充填材Gを充填する。すなわち、前記生育基盤材、前記固化材を混合した充填材Gを、例えばポンプにて圧送し、吹き付け法面2の前記孔hより、その空洞E内に注入する。
【0012】
そして、グラウトポンプで空洞Eへ充填材を圧送する際には、適宜量の水を含ませる。そして、前記生育基盤材、前記固化材、前記水を混合した好ましい充填材は、適宜の流量でグラウトポンプにより連続的に圧送され、吹き付け法面2の前記孔hより、その空洞E内に注入される。
【0013】
前記混和剤としては、充填材の圧送を容易にする減水剤等を挙げることができる。また、前記固化材としては、セメント系固化材、石灰系固化材、樹脂系固化材、マグネシウム系固化材等を挙げることができる。
【0014】
また、本願の請求項に係る発明の緑化工法を行う場合は、例えば図3に示すように、空洞Eがある個所を含む吹き付け法面2に適度に穴Hを開け、その後、図4に示すように、例えば植生基材に植物種子を加えた植生材料aを吹き付ける。
【0015】
また、本願の請求項に係る発明は、植生材料の吹き付けを行う前工程として、モルタル又はコンクリートを前記吹き付け法面の傾斜方向並びに等高線方向に適宜の間隔を隔てて膨出させた断面形状が半円状の格子枠を形成することを特徴とする請求項に記載の緑化工法を提供する。
【0016】
さらに、本願の請求項に係る発明は、請求項又は請求項に記載の緑化工法を用いて形成された緑化構造体を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、生育基盤材と固化材とを含む充填材をモルタル又はコンクリートの吹き付け法面の裏側に発生している空洞に充填するので、充填材が植物の生育に障害となったり、湧水で流されることがなく、緑化工法により植物を生育させる際に空洞があった個所からも植物を生育させることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態におけるモルタル又はコンクリートの吹き付け法面の裏側に空洞が発生している状態を示す説明図である。
図2】上記実施形態における前記空洞に、生育基盤材と固化材とを含む充填材を充填している状態を示す説明図である。
図3】上記実施形態において、補修工法を行った後、モルタル又はコンクリートの吹き付け法面に地山に至る深さの穴を開けた状態を示す説明図である。
図4】上記実施形態において、開けた前記穴を含むモルタル又はコンクリートの吹き付け法面の表面に植生材料の吹き付けを行う状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1図4を用いて、本発明の一実施形態を説明する。
【0020】
図1図2において、本発明にかかる補修工法は、地山Mにモルタル又はコンクリート1を吹き付けて形成されている既設のモルタル又はコンクリートの吹き付け法面(以下、単にモルタルの吹き付け法面という)2の裏側に発生している空洞E〔図1参照〕に、孔hを介して充填材Gを充填する〔図2参照〕ことから主してなる。そして充填材Gは、例えばバーク堆肥、ピートモスなどの有機質系資材、粘土鉱物などの無機質系資材、土、保水材、混和剤等の生育基盤材と、固化材と、水で構成される、植物生育に寄与できるスラリー状(流動体)の物質よりなる。一例として、1m3あたり、植生基盤材を400Lに対し、セメント50kg、細骨材1540kg、水150Lの配合で混練し、充填剤Gとする。充填材Gは図示しないグラウトポンプで空洞Eへ圧送される。図2における3は、充填材注入ノズルである。
【0021】
そして、前記補修工法を行った後、本発明の緑化工法では、モルタルの吹き付け法面2に地山Mに至る深さの穴H〔図3参照〕を開ける。この場合、図3に示すように、複数の前記穴Hは、空洞Eを貫通するものや、空洞E内に位置するものも含まれる。
【0022】
続いて、図3に示すように、菱形金網などの網状体4をモルタルの吹き付け法面2の全面にわたって張設するとともに、網状体4をアンカーボルト(図示せず)で固定する。次いで、モルタルの吹き付け法面2の傾斜方向並びに等高線方向に適宜の間隔を隔てて、上記の網状体4上に鉄筋(図示せず)を格子状に配置し、この鉄筋の例えば交差部分を、モルタルの吹き付け法面2を貫通して地中に達するアンカーボルトに結束固定し、また、上記鉄筋の上方部位にも鉄筋(図示せず)を格子状に配置し、この鉄筋もアンカーボルトに結束固定する。そして、これらの鉄筋を埋め込む状態で断面形状が半円状の膨出体を形成するように、モルタルを吹き付けて格子枠(図示せず)を形成する。なお、前記格子枠の形成後、必要に応じて、所定の高さ寸法を有する網状部材(図示せず)による仕切り部材を格子枠内において設置してもよい。すなわち、格子枠内において等高線方向に且つモルタルの吹き付け法面2に対してほぼ垂直に立設させるように、この網状部材の上端側と下端側とを掛け渡し鉄筋(図示せず)と前記網状体4とに結束固定して、格子枠の枠内をモルタルの吹き付け法面2の傾斜方向でほぼ二等分する仕切り部材を形成する。なお、前記仕切り部材はモルタルを吹き付ける前に格子枠の左右枠部分を横切らせるように長尺の網状部材を張設して、この網状部材の枠部分を横切る網状部分を埋め込むようにしてモルタルを吹き付けるようにしてもよい。
【0023】
このようにモルタルによる格子枠を形成するとともに、必要に応じて網状部材による仕切り部材を設置し、その後、図4に示すように、モルタルの吹き付け法面2の表面に植生材料aの吹き付けを行う。植生材料aは、例えば肥料、生育基盤材、保水材、糊材などの植生基材に植物種子を加えたもの等が適宜選択される。この場合、格子枠内に吹き付けられた植生材料aが保持されることから、植生材料aの滑落が効果的に防止される。加えて、格子枠内には、格子枠の枠内をモルタルの吹き付け法面2の傾斜方向でほぼ均等に仕切る仕切り部材が位置することから、且つこの仕切り部材が多数の孔を有する前記網状部材から成ることから、格子枠内での植生材料aの流れ移動が、仕切り部材の上方部位に余分に雨水を溜めることなく効果的に防止される。
【0024】
そして、充填材Gは、バーク堆肥、ピートモスなどの有機質系資材、粘土鉱物などの無機質系資材、土、保水材、混和剤等の生育基盤材と、固化材と、水で構成される、植物生育に寄与できるスラリー状(流動体)の物質であり、植物の生育に障害にならず、かつ湧水で流されることもないので、この緑化工法により植物を生育させる際にモルタルの吹き付け法面2に空洞Eがあった個所からも植物を良好に生育させることができる。
【0025】
なお、モルタルの吹き付け法面2に穴Hを開けた後、必要に応じて、モルタルの吹き付け法面2に適宜の間隔を隔てて帯状の繊維合成マットを固定設置するようにすれば、集・排水が円滑に行われるので好ましい。さらに、この帯状の繊維合成マットを含むモルタルの吹き付け法面2上に、必要に応じて、上述した網状部材による仕切り部材をモルタルの吹き付け法面2にほぼ垂直になるように立設固定してもよい。
【符号の説明】
【0026】
2 モルタル又はコンクリートの吹き付け法面
E 空洞
G モルタル又はコンクリートの吹き付け法面の補修用充填材
H 穴
a 植生材料
図1
図2
図3
図4