【実施例】
【0013】
この発明に係る第一実施例を添付図面に基づいて説明する。
図2に示すように、第一実施例に係るシール付軸受1は、軸受内部を外部に対して密封するシール2と、シール2を保持するシール装着部3をもった外輪4と、外輪4と同軸に配置された内輪5とを備える。ここで、外輪4の中心軸と、内輪5の中心軸とは同軸に設定されている。以下、「軸方向」とは、外輪4及び内輪5の中心軸に沿った方向のことをいい、「径方向」とは、その軸方向に直角な方向のことをいい、「周方向」とは、その中心軸周りの円周方向のことをいう。
【0014】
外輪4は、環状部材からなり、その内周に軌道面6をもっている。外輪4は、他装置のハウジングに取り付けられる。内輪5は、環状部材からなり、その外周に軌道面7をもっている。外輪4の軌道面6及び内輪5の軌道面7間に複数の転動体8が介在している。転動体8間の周方向間隔は、保持器9によって保たれている。外輪4、内輪5、複数の転動体8は、主としてラジアル荷重を支持する転がり軸受を構成している。外輪4は、他装置の静止部材に取り付けられる。内輪5は、他装置によって回転駆動される軸に取り付けられる。なお、外輪4及び内輪5は、周方向全周に亘って図示の断面形状をもっている。
【0015】
外輪4及び内輪5は、それぞれ鋼、例えば軸受鋼によって形成されている。
【0016】
シール2は、概ね径方向に向けて舌片状に形成されたシールリップ部10と、シール装着部3に嵌合する環部11と、概ね軸方向に向けて舌片状に形成された塵除けリップ部12とを有する。環部11がシール装着部3に圧入嵌合されることにより、シール2がシール装着部3によって、
図2に示す所定の姿勢で所定位置に保持された状態となる。
【0017】
シールリップ部10、塵除けリップ部12は、それぞれエラストマにより形成されている。シールリップ部10は、ゴム材料又は樹脂材料のいずれで形成してもよい。環部11は、芯金13で補強されている。シールリップ部10、塵除けリップ部12等のエラストマは、加硫成型によって形成されると共に芯金13に接着されている。
【0018】
図3にシールリップ部10付近を拡大図示する。同図に示すように、シールリップ部10の表面は、シールリップ部10の径寸を規定する部位であるリップ先端14と、リップ先端14から内部側の表面部分からなる内部側面15と、リップ先端14から外部側の表面部分からなる外部側面16とで構成されている。内部側面15のリップ先端14付近は、回転する内輪5とすべり接触して密封作用を奏する。外部側面16及び塵除けリップ部12は、内輪5との間にラビリンスすきま17を形成する。
【0019】
シール装着部3は、外輪4の内周端部で周方向全周に亘る溝状に形成されている。
【0020】
内輪5は、周方向全周に亘る内部側溝壁18及び外部側溝壁19によって規定されたシール溝部20を有する。外部側溝壁19とシール装着部3とが、シール2を軸方向に挿入可能なシール入口を形成している。図示例では、外部側溝壁19の溝肩が、内部側溝壁18よりも低くなっており、シール溝部20の溝深さは、溝底から外部側溝壁19の溝肩までとなっている。シール溝部20の溝内側面は、その溝底から当該溝深さ内にある内部側溝壁18及び外部側溝壁19の表面からなる。
【0021】
シール溝部20の溝内面のうち、内部側溝壁18の表面部分は、シールリップ部10に対応のリップ当り面になっている。シールリップ部10のリップ先端14は、シール溝部20の内側に位置し、内部側面15のリップ先端14は、径方向の締め代をもって内部側溝壁18の表面部分に接触している。
【0022】
外部側溝壁19の径寸Aは、溝肩での径であり、図示例では溝肩の外径となる。シールリップ部10の径寸Bは、リップ先端14での径であり、図示例ではシール2の内径となる。シールリップ部10と外部側溝壁19間の締め代は(B−A)に相当する。
【0023】
シールリップ部10の径寸Bは、外部側溝壁19の径寸Aに対して100%未満に設定されている。比率B/Aを100%以上に設定すると、外部側溝壁19を利用してラビリンスすきま17を形成することができず、また、外部側溝壁19によってシールリップ部10のリップ先端14を外部に対して軸方向に遮蔽することもできないため、異物がリップ先端14付近と内部側溝壁18の表面部分との接触箇所へ到達し易くなってしまう。比率B/Aは、一般に、97%以上に設定されている。比率B/Aを97%未満に設定すると、シールリップ部10と外部側溝壁19間の締め代設定がきつくなり過ぎ、シール2の装着困難化を招く懸念がある。
【0024】
図1(a)は、同軸に配置された外輪4及び内輪5間のシール挿入空間へシール2を軸方向に挿入し、環部11をシール装着部3に圧入することによって環部11とシール装着部3を嵌合状態とするシール嵌合工程において、シールリップ部10が内輪5に接触する直前の様子を示す。
図1(b)は、
図1(a)の位置からシール2の挿入がさらに進み、シールリップ部10が外部側溝壁19にすべり接触する様子を示す。
図4に、自然状態のシールリップ部10付近を内部側から軸方向に視た様子を示す。
【0025】
図1(a)、
図4に示すように、シールリップ部10のうち、リップ先端14を境とした内部側面15には、環部11とシール装着部3の嵌合時に外部側溝壁19及びシールリップ部10間に隙間21を確保するための複数の突条22が形成されている。これら突条22は、互いに径の異なる円形状に形成されており、径方向に均等間隔で並んでいる。各突条22は、図示の断面形状で周方向全周に亘っている。シール2の最も内径寄りに位置する突条22は、締め代(B−A)に対応の径方向領域に存在しており、前述の嵌合時に外部側溝壁19と軸方向に向き合う。
図1(b)から明らかなように、シール2の軸方向への挿入に伴って、突条22が外部側溝壁19に外部側から接触したとき、その突条22に沿って外部側溝壁19との間に隙間21が生じる。
【0026】
図1(a)、
図3から明らかなように、突条22は、締め代(B−A)に対応の径方向領域から外径側に寄った径方向領域にも分布している。これは、
図1(b)に示すように、シールリップ部10の内部側面15が外部側溝壁19に強く擦り付けられることでシールリップ部10が全体的に外部側へ倒れたときでも、シールリップ部10と外部側溝壁19の接触箇所を突条22のみに制限するためである。
【0027】
図示例の突条22の断面形状は中実半円状になっている。これは、環部11とシール装着部3の嵌合時に突条22と外部側溝壁19が当該断面上で点接触様になるようにすると共に、シールリップ部10が外部側溝壁19を滑る方向の変化に応じて当該点接触様を維持可能とするためである。突条22の突出量の基準は、リップ先端14を形成する二つの周面のうち、内部側の周面23から設定されている。突条22の断面形状及び突出量は、外部側溝壁19と接触している間、自己に沿って隙間21を生じさせ得るように適宜に定めればよい。
【0028】
上述のような突条22の分布態様の採用により、環部11とシール装着部3の嵌合時におけるシールリップ部10と外部側溝壁19のすべり接触は、シールリップ部10を外部側溝壁19に接触させてからシール溝部20の内側に至らせるまでの全期間において、突条22及び外部側溝壁19間のみで生じるように制限されている。
【0029】
このシール付軸受1は、上述のようなものであり、
図2に示す外輪4のシール装着部3にシール2の環部11を嵌合する際、
図1(a)に示すように、シールリップ部10が内輪5のシール溝部20の外部側溝壁19に対して外部側から軸方向に接近し、先ず、最も内径寄りの突条22のみが外部側溝壁19の溝肩面取り付近に接触する。そして、さらにシール2の挿入が進むと、
図1(b)に示すように、シールリップ部10が外部側へ大きく倒れながら、外部側溝壁19の溝肩を乗り越えていく。倒れたシールリップ部10の二つ以上の突条22において外部側溝壁19と接触し、これら隣り合う突条22、22に沿って隙間21が生じる。円形状の突条22は外部側溝壁19と周方向に均等に接触するため、突条22によってシール2の姿勢崩れが生じ易くなる懸念はない。円形状の突条22に沿ってシールリップ部10及び外部側溝壁19間に隙間が生じることでシールリップ部10と外部側溝壁19間のすべり面積が少なくなり、シール挿入に抵抗する摩擦力が低減する。したがって、このシール付軸受1は、シール2の装着時にシールリップ部10がシール溝部20の内側へ至るまでのシール挿入性を向上させることができる。
【0030】
例えば、従来シールとして、比率B/Aを99.7%に設定したものがあるが、これを1%程度小さく設定変更しただけでも、シール挿入が著しく困難となる。本願発明者が、その従来シールにおいて比率B/Aを98.5%に設定変更すると共に第一実施例のような複数の突条を採用した試作品で確認したところ、それでも良好なシール装着性を得ることができた。このように、この発明によれば、比率B/Aを従来から1%程度小さく設定可能な程度にシール挿入性を向上させることができ、例えば、比率B/Aを97%未満に設定することも可能となる。
【0031】
また、このシール付軸受1は、突条22をシールリップ部10に形成するため、シールリップ部10と一体に成形することで簡単に形成可能であり、外部側溝壁19の溝肩付近の表面形状を従来と同様に簡単な円筒面状、面取り状にすることができる。
【0032】
なお、突条22の摩擦係数を低くすることが好ましいのは勿論であり、突条22を形成するエラストマへの表面処理、例えば、当該エラストマよりも硬い熱硬化塗料等の被膜で突条22を覆って摩擦係数を低くしてもよい。
【0033】
この発明の第二実施例に係るシール付軸受を説明する。
第二実施例に係るシール付軸受は、シールを非接触式シールに変更した点でのみ第一実施例と相違している。このため、以下では、第一実施例の説明で用いた図面を引き続き適宜に参照すると共に、共通の符号を用いる。第二実施例の
図2の状態でのシールリップ部付近の拡大図を
図5に示す。
【0034】
図2、
図5に示すように、第二実施例においては、外輪4に保持されたシール2は、内輪5と非接触の姿勢になっている。そのシール2のシールリップ部10及び内輪5間の最小すきまgは、シールリップ部10のリップ先端14と内輪5の内部側溝壁18との間において生じるようになっている。
【0035】
第二実施例においては、シールリップ部10の径寸Bと外部側溝壁19の径寸Aの比率B/Aを、良好なシール挿入性が確認された98%以上99%未満に設定している。これにより、外輪4に保持されたシール2の姿勢について最小すきまgを0.1mm未満に設定可能としている。軸受運転中、通常、シール2と内輪5が接触せず、シールトルクが零の状態に保たれる。
【0036】
また、シールリップ部10と内輪5のシール溝部20が形成するラビリンスシールは、シールリップ部10と内輪5間の最小すきまgを0.1mm未満に設定しているので、内部側溝壁18とシールリップ部10間で特に狭くなっている。このため、リップ先端14を境とした外部側から異物が最小すきまgを通過することは非常に困難となる。したがって、非接触式のシール2を採用しても、軸受寿命に悪影響を及ぼす心配のない程度に異物侵入を抑制することができる。
【0037】
このように、第二実施例に係るシール付軸受は、シール2のシールトルクを通常、零にして低フリクション化を図ることと、異物侵入の抑制とを両立させることができ、トランスミッション用途に好適なシール付軸受となる。
【0038】
このシール付軸受1は、例えば、自動車用のトランスミッションに備わる軸の支持に利用することができる。
図6に例示するトランスミッション100は、マニュアル式のものであり、ハウジング101内にインプットシャフト102、アウトプットシャフト103およびパイロットシャフト104を直列に配置し、さらにカウンターシャフト105とリバースシャフト106をアウトプットシャフト103と平行に配置した構造になっている。リバースシャフト106は、アウトプットシャフト103とも係合するようになっている。各シャフト102〜106には多数のギア群が設けられており、外部からの操作でシフトされるクラッチハブ107で、これらのギア群の噛み合わせを変えることにより、インプットシャフト102からアウトプットシャフト103へのトルク伝達経路が適切に選択されるようになっている。このトランスミッション100では、インプットシャフト102、アウトプットシャフト103、パイロットシャフト104、カウンターシャフト105、およびカウンターシャフト105の一端側に取り付けられたギア部材108が、それぞれシール付軸受1で支持されている。なお、シール付軸受1の用途として、トランスミッション100に組み込まれている例を示したが、シール付軸受1の他の用途として、例えば、車両のディファレンシャル、等速ジョイント、プロペラシャフト、ターボチャージャ、工作機械、風力発電機、又はホイール軸受への適用が挙げられる。
【0039】
今回開示された実施形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。