特許第6727182号(P6727182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6727182
(24)【登録日】2020年7月2日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】水硬性組成物用の添加剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/16 20060101AFI20200713BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20200713BHJP
   C04B 24/18 20060101ALI20200713BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20200713BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20200713BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20200713BHJP
   C04B 28/08 20060101ALI20200713BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
   C04B24/16
   C04B22/08 B
   C04B22/08 Z
   C04B24/18 A
   C04B24/22 A
   C04B24/02
   C04B24/12 A
   C04B28/08
   B28C7/04
【請求項の数】19
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-224261(P2017-224261)
(22)【出願日】2017年11月22日
(65)【公開番号】特開2018-90476(P2018-90476A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-231261(P2016-231261)
(32)【優先日】2016年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】佐川 桂一郎
(72)【発明者】
【氏名】川上 博行
(72)【発明者】
【氏名】浜口 剛吏
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−117142(JP,A)
【文献】 特開平09−156977(JP,A)
【文献】 特開昭60−021840(JP,A)
【文献】 特開2016−056083(JP,A)
【文献】 特開2015−086130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 24/16
B28C 7/04
C04B 22/08
C04B 24/02
C04B 24/12
C04B 24/18
C04B 24/22
C04B 28/08
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)チオ硫酸又はその塩、(B)チオシアン酸又はその塩、(C)α−ヒドロキシアルカンスルホン酸又はその塩、並びに(D)リグニンスルホン酸又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体、及びナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物又はその塩から選ばれる混和剤を含有する、高炉スラグセメントを用いた水硬性組成物用の添加剤。
【請求項2】
高炉スラグセメントが、セメントを5質量%以上95質量%以下、高炉スラグを5質量%以上70質量%以下含有する、請求項1記載の添加剤。
【請求項3】
(A)チオ硫酸又はその塩、(B)チオシアン酸又はその塩、(C)α−ヒドロキシアルカンスルホン酸又はその塩、(D)リグニンスルホン酸又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体、及びナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物又はその塩から選ばれる混和剤、高炉スラグセメント、並びに水を含有する、水硬性組成物。
【請求項4】
高炉スラグセメントが、セメントを5質量%以上95質量%以下、高炉スラグを5質量%以上70質量%以下含有する、請求項3記載の水硬性組成物。
【請求項5】
高炉スラグセメントに対して、(A)チオ硫酸又はその塩を0.001質量%以上3.0質量%以下含有する、請求項3又は4記載の水硬性組成物。
【請求項6】
高炉スラグセメントに対して、(B)チオシアン酸又はその塩を0.001質量%以上3.0質量%以下含有する、請求項3〜5の何れか1項記載の水硬性組成物。
【請求項7】
高炉スラグセメントに対して、(C)α−ヒドロキシアルカンスルホン酸又はその塩を0.0001質量%以上3.0質量%以下含有する、請求項3〜6の何れか1項記載の水硬性組成物。
【請求項8】
高炉スラグセメントに対して、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体を0.001質量%以上5.0質量%以下含有する、請求項3〜7の何れか1項記載の水硬性組成物。
【請求項9】
ポリオールを含有する、請求項3〜8の何れか1項記載の水硬性組成物。
【請求項10】
高炉スラグセメントに対して、ポリオールを0.001質量%以上1.0質量%以下含有する、請求項9記載の水硬性組成物。
【請求項11】
ポリオールがグリセリンである、請求項9又は10記載の水硬性組成物。
【請求項12】
アルカノールアミンを含有する、請求項3〜11の何れか1項記載の水硬性組成物。
【請求項13】
高炉スラグセメントに対して、アルカノールアミンを0.001質量%以上1.0質量%以下含有する、請求項12記載の水硬性組成物。
【請求項14】
アルカノールアミンがメチルジエタノールアミンである、請求項12又は13記載の水硬性組成物。
【請求項15】
骨材を含有する、請求項3〜14の何れか1項記載の水硬性組成物。
【請求項16】
高炉スラグセメントと水とを、水/高炉スラグセメントの質量比が40質量%以上60質量%以下となるように含有する、請求項3〜15の何れか1項記載の水硬性組成物。
【請求項17】
請求項3〜16の何れか1項記載の水硬性組成物の製造方法であって、(A)チオ硫酸又はその塩、(B)チオシアン酸又はその塩、(C)α−ヒドロキシアルカンスルホン酸又はその塩、(D)リグニンスルホン酸又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体、及びナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物又はその塩から選ばれる混和剤、高炉スラグセメント、並びに水を混合する、水硬性組成物の製造方法。
【請求項18】
(A)チオ硫酸又はその塩、(B)チオシアン酸又はその塩、(C)α−ヒドロキシアルカンスルホン酸又はその塩、(D)リグニンスルホン酸又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体、及びナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物又はその塩から選ばれる混和剤、並びに水を含有する混合物と、高炉スラグセメントとを混合する、請求項17記載の水硬性組成物の製造方法。
【請求項19】
請求項17又は18記載の製造方法で水硬性組成物を製造する工程と、
得られた水硬性組成物を型枠に充填して硬化させる工程と、
硬化した水硬性組成物を型枠から脱型して水硬性組成物の硬化体を得る工程と、を有する、水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉スラグセメントを用いた水硬性組成物用の添加剤、水硬性組成物、水硬性組成物の製造方法、及び水硬性組成物の硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントや高炉スラグなどの水硬性粉体は、水と反応して硬化する性質があり、砂と混合することでモルタル、さらに砂利と混合することでコンクリートと呼ばれる。これらの材料は、硬化前は容易にその形態を変えることができるため、様々な構造物に用いられてきた。硬化前のコンクリートなどに、化学薬剤を添加することで、硬化体の強度の調整、作業可能時間の改善、ワーカビリティの改善などを行うことができる。
【0003】
特許文献1には、グリセリン等の特定の化合物(1)と、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩から選ばれる1種以上の無機塩Aとからなる水硬性組成物用早強剤であって、化合物(1)と無機塩Aのモル比が化合物(1)/無機塩Aで5/95〜45/55である水硬性組成物用早強剤が開示されている。
【0004】
特許文献2には、グリセリンと、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩から選ばれる1種以上の無機塩Aと、ナフタレン系分散剤とを含有し、グリセリンと無機塩Aのモル比がグリセリン/無機塩Aで5/95〜55/45である、水硬性組成物用添加剤組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、グリセリンと、ヒドロキシメタンスルフォン酸又はその塩と、分散剤と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有し、グリセリンの含有量が水硬性粉体100質量部に対し0.040質量部以上、0.280質量部以下であり、ヒドロキシメタンスルフォン酸又はその塩の含有量が水硬性粉体100質量部に対し0.010質量部以上、0.420質量部以下である、水硬性組成物が開示されている。
【0006】
特許文献4には、アルデヒド及び亜硫酸水素塩又は該アルデヒドと亜硫酸水素塩との付加化合物、並びに、水溶性チオシアン酸塩を含むセメント組成物が開示されている。
【0007】
一方、鉄鋼産業では、鉱石からの鉄製錬時の副産物として、冶金対象とする金属から溶融によって分離された鉱物成分を含む物質が発生する。この物質は、スラグと呼ばれている。従来、スラグは、主に建材分野の原料、製品の一部として積極的に活用されてきており、特にセメント分野においては、原料としてだけではなく、セメントに配合した製品、混合材としても使用されている。
特許文献5には、α−ヒドロキシスルホン酸又はその塩、水硬性粉体及び水を含有し、水硬性粉体中、スラグの割合が60質量%以上である、水硬性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−153068号公報
【特許文献2】特開2011−162400号公報
【特許文献3】特開2014−208574号公報
【特許文献4】特開昭61−117142号公報
【特許文献5】特開2016−56083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高炉スラグセメントを用いた水硬性組成物用の添加剤であって、適切な作業性を有し、硬化体の強度および耐久性に優れた水硬性組成物が得られる、水硬性組成物用の添加剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(A)チオ硫酸又はその塩、(B)チオシアン酸又はその塩、(C)α−ヒドロキシアルカンスルホン酸又はその塩、並びに(D)リグニンスルホン酸及びその誘導体、リグニンスルホン酸塩及びその誘導体、及びナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物及びその塩から選ばれる混和剤を含有する、高炉スラグセメントを用いた水硬性組成物用の添加剤に関する。
【0011】
また、本発明は、(A)チオ硫酸又はその塩、(B)チオシアン酸又はその塩、(C)α−ヒドロキシアルカンスルホン酸又はその塩、(D)リグニンスルホン酸又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体、及びナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物又はその塩から選ばれる混和剤、高炉スラグセメント、並びに水を含有する、水硬性組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、前記本発明の水硬性組成物の製造方法であって、(A)チオ硫酸又はその塩、(B)チオシアン酸又はその塩、(C)α−ヒドロキシアルカンスルホン酸又はその塩、(D)リグニンスルホン酸又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体、及びナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物又はその塩から選ばれる混和剤、高炉スラグセメント、並びに水を混合する、水硬性組成物の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、
前記本発明の製造方法で水硬性組成物を製造する工程と、
得られた水硬性組成物を型枠に充填して硬化させる工程と、
硬化した水硬性組成物を型枠から脱型して水硬性組成物の硬化体を得る工程と、
を有する、水硬性組成物の硬化体の製造方法に関する。
【0014】
以下、(A)チオ硫酸又はその塩を(A)成分、(B)チオシアン酸又はその塩を(B)成分、(C)α−ヒドロキシアルカンスルホン酸又はその塩を(C)成分として、(D)リグニンスルホン酸又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体、及びナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物又はその塩から選ばれる混和剤を(D)成分として説明する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高炉スラグセメントを用いた水硬性組成物用の添加剤であって、適切な作業性を有し、硬化体の強度および耐久性に優れた水硬性組成物が得られる、水硬性組成物用の添加剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<水硬性組成物用の添加剤>
〔(A)成分〕
強度と流動性の観点から、(A)成分のうち、チオ硫酸の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が好ましい。(A)成分としては、具体的には、チオ硫酸ナトリウム(Na)、チオ硫酸カリウム(K)、チオ硫酸リチウム(Li)が挙げられる。
【0017】
〔(B)成分〕
(B)成分のうち、チオシアン酸の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩が挙げられる。強度と流動性の観点から、アルカリ金属塩が好ましい。
【0018】
〔(C)成分〕
α−ヒドロキシアルカンスルホン酸は、下記式で表される化合物である。
【0019】
【化1】
【0020】
ここで、R、Rは、それぞれ独立に、プロトン又はヒドロキシ基を有していても良い炭化水素基、例えば、ヒドロキシ基を有していても良い炭素数1以上10以下のアルキル基である。
α−ヒドロキシスルホン酸としては、炭素数1以上、そして、好ましくは10以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは4以下のものが挙げられる。具体的には、ヒドロキシメタンスルホン酸、1,2−ジヒドロキシプロパン−2−スルホン酸が挙げられる。
α−ヒドロキシスルホン酸の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が挙げられる。α−ヒドロキシスルホン酸の塩は、化合物の安定性の観点から、好ましくはα−ヒドロキシスルホン酸塩であり、より好ましくはα−ヒドロキシスルホン酸のアルカリ金属塩であり、更に好ましくはα−ヒドロキシスルホン酸のナトリウム塩である。
【0021】
α−ヒドロキシスルホン酸又はその塩は、ヒドロキシメタンスルホン酸、1,2−ジヒドロキシプロパン−2−スルホン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。
【0022】
α−ヒドロキシスルホン酸又はその塩は、市販品を用いることができる。
【0023】
〔(D)成分〕
(D)成分は、リグニンスルホン酸及びその誘導体、リグニンスルホン酸塩及びその誘導体、並びにナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物及びその塩から選ばれる混和剤である。
(D)成分は、水硬性組成物において、分散剤、減水剤、AE剤としての機能を有するものであってよい。
【0024】
(D)成分は、市販品を用いることが出来る。リグニンスルホン酸及びその塩並びにそれらの誘導体では、例えば、減水剤およびAE減水剤として、BASFジャパン社のマスターポゾリスNo.70、マスターポリヒード15Sシリーズ、フローリック社のフローリックSシリーズ、フローリックRシリーズ、グレースケミカル社のダーレックスWRDA、日本シーカ社のプラスクリートNC、プラスクリートR、山宗化学社のヤマソー80P、ヤマソー90シリーズ、ヤマソー98シリーズ、ヤマソー02NL−P、ヤマソー02NLR−P、ヤマソー09NL−P、ヤマソーNLR−P、竹本油脂社のチューポールEX60シリーズ、チューポールLS−Aシリーズ、リグエース社のリグエースUAシリーズ、リグエースURシリーズ、リグエースVFシリーズなどが挙げられる。
【0025】
リグニンスルホン酸の誘導体、及びリグニンスルホン酸塩又はその誘導体の具体例を以下に挙げる。
(I)リグニンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、又はアミン塩
(II)リグニンスルホン酸塩にアミン化合物又はアミノ基が導入されたリグニン誘導体(例えば、特開2016-108183号)
(III)リグニンスルホン酸塩とホルムアルデヒドと反応させたリグニン誘導体(例えば、特開2015-229764号)
(IV)酸化リグニン、スルホン化リグニンなどの変性リグニン(例えば、特開2003-2714号)
(V)リグニンスルホン酸化合物ポリオール複合体(例えば、特開2007-105899号)
(VI)下記1)〜3)のリグニンスルホン酸塩変性物(例えば、特開2007-261119号)
1)リグニンスルホン酸又はその塩と、官能基を有するアクリル系モノマーとをグラフト共重合したリグニンスルホン酸塩変性物
2)リグニンスルホン酸又はその塩と、官能基を有するビニル系モノマーとをグラフト共重合したリグニンスルホン酸塩変性物
3)リグニンスルホン酸又はその塩にナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物を付加したリグニンスルホン酸塩変性物
(VII)リグニンスルホン酸塩にポリアルキレングリコール化合物を導入したリグニン誘
導体(例えば、特開2015-193804号)
(VIII)リグニンスルホン酸系化合物と水溶性単量体との反応物(例えば、特開2011-240224号)
ここで、リグニンスルホン酸系化合物としては、リグニンのヒドロキシフェニルプロパン構造の側鎖α位の炭素が開裂してスルホン基が導入された骨格を有する化合物が挙げられる。
また、水溶性単量体としては、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン基、ニトロキシル基、カルボニル基、リン酸基、アミノ基、エポキシ基などのイオン性官能基、その他極性基を少なくとも1種類以上有する化合物が挙げられる。
(IX)下記4)〜5)のリグニンスルホン酸誘導体(例えば、特開2015-212216号)
4)リグニンスルホン酸系化合物に含まれるフェノール性ヒドロキシル基、アルコール性ヒドロキシル基、チオール基などの官能基に、少なくとも1種の水溶性単量体を反応させて得られるリグニン誘導体
5)リグニンスルホン酸系化合物に(通常は該化合物の官能基に)、少なくとも1種の水溶性単量体を、ラジカル開始剤を用いてラジカル共重合することによって得られるリグニン誘導体
ここで、リグニンスルホン酸系化合物は、特に限定されないが、木材を亜硫酸法によって蒸解して得られるものが例示される。
また、水溶性単量体のうち、リグニンスルホン酸系化合物に含まれるフェノール性ヒドロキシル基および/またはアルコール性ヒドロキシル基と反応し得る水溶性単量体として、エチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドなどが挙げられる。
また、水溶性単量体のうち、リグニンスルホン酸系化合物に含まれるチオール基と反応し得る水溶性単量体として、エチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシド、エチレンイミンやプロピレンイミンなどのアルキレンイミンなどが挙げられる。
また、ラジカル共重合に用いる水溶性単量体として、特開2015-212216号の[0071]〜[0074]に記載の単量体、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸への炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドの1〜500モル付加物類、アリルアルコールにアルキレンオキシドを2〜300モル付加して得られるアルキレンオキシド付加化合物類等が挙げられる。
【0026】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物又はその塩である。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は、性能を損なわない限り、単量体として、例えばメチルナフタレン、エチルナフタレン、ブチルナフタレン、ヒドロキシナフタレン、ナフタレンカルボン酸、アントラセン、フェノール、クレゾール、クレオソート油、タール、メラミン、尿素、スルファニル酸及び/又はこれらの誘導体などのような、ナフタレンスルホン酸と共縮合可能な芳香族化合物と共縮合させても良い。
【0027】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、例えば、マイテイ150、デモール N、デモール RN、デモール MS、デモールSN−B、デモール SS−L(いずれも花王株式会社製)、セルフロー 120、ラベリン FD−40、ラベリン FM−45(いずれも第一工業株式会社製)などのような市販品を用いることができる。
【0028】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、遠心成型性及び/又は硬化体の強度発現の観点と水硬性組成物の流動性向上の観点から、重量平均分子量が、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは80,000以下、より更に好ましくは50,000以下、より更に好ましくは30,000以下である。そして、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、遠心成型性及び/又は硬化体の強度発現の観点と水硬性組成物の流動性向上の観点から、重量平均分子量が、好ましくは1,000以上、より好ましくは3,000以上、更に好ましくは4,000以上、より更に好ましくは5,000以上である。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は酸の状態あるいは中和物であってもよい。
【0029】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩の分子量は下記条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定することができる。
[GPC条件]
カラム:G4000SWXL+G2000SWXL(東ソー株式会社)
溶離液:30mM CHCOONa/CHCN=6/4
流量:0.7ml/min
検出:UV280nm
サンプルサイズ:0.2mg/ml
標準物質:西尾工業(株)製 ポリスチレンスルホン酸ソーダ換算(単分散ポリスチレンスルホン酸ナトリウム:分子量、206、1,800、4,000、8,000、18,000、35,000、88,000、780,000)
検出器:東ソー株式会社 UV−8020
【0030】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩の製造方法は、例えば、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとを縮合反応により縮合物を得る方法が挙げられる。前記縮合物の中和を行ってもよい。また、中和で副生する水不溶解物を除去してもよい。具体的には、ナフタレンスルホン酸を得るために、ナフタレン1モルに対して、硫酸1.2〜1.4モルを用い、150〜165℃で2〜5時間反応させてスルホン化物を得る。次いで、該スルホン化物1モルに対して、ホルムアルデヒドとして0.93〜0.99モルとなるようにホルマリンを85〜105℃で、3〜6時間かけて滴下し、滴下後95〜105℃で縮合反応を行う。更に、得られる縮合物の水溶液は酸性度が高いので貯槽等の金属腐食を抑制する観点から、得られた縮合物に、水と中和剤を加え、80〜95℃で中和工程を行うことができる。中和剤は、ナフタレンスルホン酸と未反応硫酸に対してそれぞれ1.0〜1.1モル倍添加することが好ましい。また、中和により生じる水不溶解物を除去することができ、その方法として好ましくは濾過による分離が挙げられる。これらの工程によって、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶性塩の水溶液が得られる。この水溶液は、そのまま(D)成分の水溶液として使用することができる。更に必要に応じて該水溶液を乾燥、粉末化して粉末状のナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩を得ることができ、これを粉末状の(D)成分として使用することができる。
乾燥、粉末化は、噴霧乾燥、ドラム乾燥、凍結乾燥等により行うことができる。
【0031】
〔添加剤の組成等〕
本発明の水硬性組成物用の添加剤は、(A)成分を、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは70質量%以下含有する。
【0032】
本発明の水硬性組成物用の添加剤は、(B)成分を、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは70質量%以下含有する。
【0033】
本発明の水硬性組成物用の添加剤は、(C)成分を、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは70質量%以下含有する。
【0034】
本発明の水硬性組成物用の添加剤は、(D)成分を、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは70質量%以下含有する。
【0035】
本発明の添加剤は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を含有する添加剤組成物であってよい。
本発明の添加剤は、水を含有することが好ましい。
【0036】
本発明の水硬性組成物用の添加剤は、凝結促進の観点から、ポリオールを含有することができる。ポリオールとしては、2価以上6価以下のポリオールが挙げられる。具体的には、グリセリン、グリセリンのエチレンオキサイド付加物等のグリセリンのアルキレンオキサイド付加物、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、糖類等が挙げられる。ポリオールは、強度発現性の観点から、グリセリンが好ましい。
本発明の水硬性組成物用の添加剤がポリオールを含有する場合、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは70質量%以下含有する。
【0037】
本発明の水硬性組成物用の添加剤は、アルカノールアミンを含有することができる。アルカノールアミンは、炭素数1以上5以下のアルカノール基を1個以上3個以下有するアルカノールアミンが挙げられる。具体的には、アルカノールアミンは、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールモノエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン等が挙げられる。アルカノールアミンは、強度発現性の観点からメチルジエタノールアミンが好ましい。
本発明の水硬性組成物用の添加剤がアルカノールアミンを含有する場合、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは70質量%以下含有する。
【0038】
本発明の水硬性組成物用の添加剤は、所定の空気量を連行するため、更にその他の成分を含有することもできる。例えば、樹脂石鹸、飽和もしくは不飽和脂肪酸、ラウリルサルフェート、アルキルベンゼンスルホン酸又はその塩、アルカンスルホネート、ポリオキシアルキレンアルキル(又はアルキルフェニル)エーテル、ポリオキシアルキレンアルキル(又はアルキルフェニル)エーテル硫酸エステル又はその塩、ポリオキシアルキレンアルキル(又はアルキルフェニル)エーテルリン酸エステル又はその塩、蛋白質材料、アルケニルコハク酸、α−オレフィンスルホネート等のAE剤が挙げられる。
【0039】
また、本発明の水硬性組成物用の添加剤は、グルコン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、クエン酸等のオキシカルボン酸系遅延剤、デキストリン、単糖類、オリゴ糖類、多糖類等の糖系遅延剤、糖アルコール系遅延剤等の遅延剤;起泡剤;増粘剤;珪砂;塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、沃化カルシウム等の可溶性カルシウム塩、塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物等、炭酸塩、蟻酸又はその塩等の早強剤又は促進剤;発泡剤;樹脂酸又はその塩、脂肪酸エステル、油脂、シリコーン、パラフィン、アスファルト、ワックス等の防水剤;流動化剤;ジメチルポリシロキサン系、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル系、鉱油系、油脂系、オキシアルキレン系、アルコール系、アミド系等の消泡剤を含有することもできる。
【0040】
また、本発明の水硬性組成物用の添加剤は、亜硝酸塩、燐酸塩、酸化亜鉛等の防錆剤;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系、β−1,3−グルカン、キサンタンガム等の天然物系、ポリアクリル酸アミド、ポリエチレングリコール、オレイルアルコールのエチレンオキシド付加物もしくはこれとビニルシクロヘキセンジエポキシドとの反応物等の合成系等の水溶性高分子;(メタ)アクリル酸アルキル等の高分子エマルジョンを含有することもできる。
【0041】
本発明の添加剤は、高炉スラグセメントを用いた水硬性組成物用である。高炉スラグセメントは、セメントを5質量%以上95質量%以下、高炉スラグを5質量%以上70質量%以下含有することが好ましい。セメントと高炉スラグの含有量は、後述する範囲も好ましい。
【0042】
<水硬性組成物>
本発明の水硬性組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、高炉スラグセメント、及び水を含有する。(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の具体例及び好ましい態様は、本発明の添加剤と同じである。
また、本発明の水硬性組成物は、ポリオール、アルカノールアミンを含有することが好ましい。ポリオール、アルカノールアミンの具体例及び好ましい態様は、本発明の添加剤と同じである。
【0043】
高炉スラグセメントは、セメントと、高炉スラグとを含有する。高炉スラグセメントは、材料の混合時に、セメントと高炉スラグとを別々に用いてもよい。更に、石膏等の刺激剤を加えてもよい。セメントは、ポルトランドセメントが好ましい。
高炉スラグセメントは、セメントを、好ましくは5質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下含有する。
高炉スラグは、徐冷スラグと急冷スラグとが知られている。急冷スラグは、高炉水砕スラグとしても知られている。本発明では、急冷スラグが好ましい。
高炉スラグセメントは、高炉スラグを、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは60質量%未満含有する。
高炉スラグセメントとして、高炉スラグの含有量が5質量%以上30質量%未満である高炉スラグセメントが挙げられる。また、高炉スラグセメントとして、高炉スラグの含有量が30質量%以上60質量%未満である高炉スラグセメントが挙げられる。また、高炉スラグセメントとして、高炉スラグの含有量が60質量%以上70質量%未満である高炉スラグセメントが挙げられる。
【0044】
高炉スラグセメントは、JIS R 5211に規定される高炉セメントA種、高炉セメントB種、高炉セメントC種を使用することができる。高炉スラグセメントは、高炉セメントB種、C種が好ましく、高炉セメントB種がより好ましい。JIS R 5211では、高炉セメントは、高炉スラグの分量によって、A種、B種、C種の3種類が規定されている。それらは,ポルトランドセメント及び高炉スラグで構成されるものと、クリンカー、せっこう、少量混合成分及び高炉スラグで構成されるものとがある。本発明でJIS R 5211の高炉セメントを用いる場合、当該高炉セメント全体を高炉スラグセメントの量とする。
【0045】
本発明の水硬性組成物は、高炉スラグセメントに対して、(A)成分のチオ硫酸又はその塩を、強度と流動性の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、そして、作業性の観点から、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下含有する。
【0046】
本発明の水硬性組成物は、強度と流動性の観点から、高炉スラグセメントに対して、(B)成分のチオシアン酸又はその塩を、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、そして、作業性の観点から、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下含有する。
【0047】
本発明の水硬性組成物は、高炉スラグセメントに対して、(C)成分のα−ヒドロキシアルカンスルホン酸又はその塩を、強度と流動性の観点から、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上、そして、作業性の観点から、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下、更により好ましくは0.5質量%以下含有する。
【0048】
本発明の水硬性組成物は、作業性の観点から、高炉スラグセメントに対して、(D)成分のリグニンスルホン酸又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体、及びナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物又はその塩から選ばれる混和剤を、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、そして、強度の観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下含有する。
【0049】
本発明の水硬性組成物がポリオールを含有する場合、高炉スラグセメントに対して、強度と流動性の観点から、ポリオールを、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、そして、作業性の観点から、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.25質量%以下含有する。ポリオールの量は、0質量%であっても良い。
【0050】
本発明の水硬性組成物がアルカノールアミンを含有する場合、高炉スラグセメントに対して、7日強度向上の観点から、アルカノールアミンを、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、そして、作業性の観点から、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下含有する。アルカノールアミンの量は、0質量%であっても良い。
【0051】
本発明の水硬性組成物は、高炉スラグセメントと水とを、水/高炉スラグセメントの質量比が40質量%以上60質量%以下で含有することが好ましい。水/高炉スラグセメントの質量比は、より好ましくは42質量%以上、更に好ましくは45質量%以上、そして、より好ましくは58質量%以下、更に好ましくは55質量%以下である。ここで、水/高炉スラグセメントの質量比は、水硬性組成物の調製のために混合する高炉スラグセメントと水の質量百分率(質量%)であり、水の質量/高炉スラグセメントの質量×100により算出される。
【0052】
本発明の水硬性組成物は、骨材を含有することができる。骨材としては、細骨材や粗骨材等が挙げられ、細骨材は、山砂、陸砂、川砂、砕砂が好ましく、粗骨材は山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が好ましい。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。骨材の含有量は、通常に用いられるモルタルやコンクリートでの範囲で用いることができる。
【0053】
本発明の水硬性組成物は、本発明の添加剤で述べた、他の任意の成分を含有することもできる。
【0054】
本発明の水硬性組成物は、流動性などの作業性に関与する物性が良好で、硬化時の強度と耐久性が向上されたものとなる。一般に、硬化体の耐久性は、水硬性組成物に適切な空気を混入させることで確保されるが、本発明の水硬性組成物は、空気量の確保が容易であり、AE剤の添加量を低減することが可能となる。また、空気量が同程度の場合では、従来のものよりも同等以上の圧縮強度が得られる。なお、強度の対象となる期間(例えば7日後)は、水硬性組成物の調製の際、最初に高炉スラグセメントと水とが接触した時点を起点とする。
【0055】
本発明の水硬性組成物は、コンクリート構造物やコンクリート製品の材料として用いることができる。本発明の水硬性組成物を用いたコンクリートは、例えば、通常のセメントを用いたコンクリートと同様の脱型時間を得ることが出来る。また、普通ポルトランドセメントや高炉スラグセメントと比較して長期強度の向上が望める、化学抵抗性が向上する等の利点を有する。更に、接水後の初期材齢強度が低い水硬性粉体(フライアッシュ、シリカフューム、石灰石等)を、水硬性粉体中のスラグの割合を損なわない範囲で配合、置換しても、同等以上の初期強度を得ることが出来る、等の利点を有する。
【0056】
本発明の水硬性組成物としては、モルタル、コンクリートが挙げられる。また、本発明の水硬性組成物は、ボックスカルバート(壁)用、橋梁下部工用、トンネル覆工用、海洋構造物用、PC構造物用、地盤改良用、グラウト用、寒中用等の何れの分野においても有用である。
【0057】
<水硬性組成物の製造方法>
本発明の水硬性組成物の製造方法は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、高炉スラグセメント、及び水を混合する。(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の具体例及び好ましい態様は、本発明の添加剤と同じである。
また、本発明の水硬性組成物の製造方法では、ポリオール、アルカノールアミンを混合することが好ましい。ポリオール、アルカノールアミンの具体例及び好ましい態様は、本発明の添加剤と同じである。
本発明の水硬性組成物の製造方法は、本発明の水硬性組成物の製造方法として好適である。
【0058】
水硬性組成物を調製する工程では、高炉スラグセメントに、(A)成分のチオ硫酸又はその塩と、(B)成分のチオシアン酸又はその塩と、(C)成分のα−ヒドロキシアルカンスルホン酸又はその塩と、(D)成分のリグニンスルホン酸又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体、及びナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物又はその塩から選ばれる混和剤と、水と、任意にグリセリンと、任意にアルカノールアミンと、任意に骨材とを添加し混合することにより、水硬性組成物が得られる。本発明では、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分及び水を含有する混合物と、高炉スラグセメントとを混合することが好ましい。安定した物性を有する水硬性組成物を得る観点から、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分と、任意にグリセリンと、任意にアルカノールアミンとを含有する混合物や、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分と、(D)成分と、任意にグリセリンと、任意にアルカノールアミンと、任意にAE剤と、を含有する混合物を用いることが好ましい。
【0059】
高炉スラグセメント、(A)成分のチオ硫酸又はその塩、(B)成分のチオシアン酸又はその塩、(C)成分のα−ヒドロキシアルカンスルホン酸又はその塩、(D)成分のリグニンスルホン酸又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体、及びナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物又はその塩から選ばれる混和剤、グリセリン、アルカノールアミン、骨材、及び水を混合する場合、これらを円滑に混合する観点から、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、グリセリン、アルカノールアミン及び水を予め混合し、高炉スラグセメントと骨材に混合することが好ましい。また、高炉スラグセメントと骨材とを予め混合することが好ましい。
高炉スラグセメント、骨材、及び水との混合は、モルタルミキサー、傾動型、水平二軸型、パン型等のミキサーを用いて行うことができる。水に、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、グリセリン、アルカノールアミンを添加した混合物を用いることが好ましい。
また、前記の成分及び材料を、好ましくは30秒間以上、より好ましくは1分間以上、そして、好ましくは10分間以下、より好ましくは5分間以下混合する。
【0060】
本発明の製造方法では、得られた水硬性組成物中の空気量が増加する傾向を示す。一般に、水硬性組成物中の空気量が増えると、硬化体の強度は低下するが、本発明の水硬性組成物は、空気量の多寡に関わらず硬化体の強度が向上する。そのため、例えば、空気量が従来の水準と同じ程度でよい場合は、AE剤やAE減水剤の添加量を減らしつつ、強度の高い硬化体を得ることができる。
【0061】
<水硬性組成物の硬化体の製造方法>
本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法は、
前記本発明の製造方法で水硬性組成物を製造する工程と、
得られた水硬性組成物を型枠に充填して硬化させる工程と、
硬化した水硬性組成物を型枠から脱型して水硬性組成物の硬化体を得る工程と、
を有する。
【0062】
前記本発明の製造方法で水硬性組成物を製造する工程については、前記の通りである。
【0063】
水硬性組成物を型枠に充填し硬化させる工程では、調製後の未硬化の水硬性組成物を型枠に充填し養生を行い硬化させる。型枠として、構造物の型枠、コンクリート製品用の型枠等が挙げられる。型枠への充填方法として、ミキサーから直接投入する方法、水硬性組成物をポンプで圧送して型枠に導入する方法等が挙げられる。型枠に充填する際及び充填後には、充填性を向上させる観点から、振動を付加しても良い。
【0064】
本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法では、水硬性組成物の養生の際、硬化を促進するために蒸気加熱等の追加的なエネルギーを加えても良い。本発明では、型枠に充填した水硬性組成物の養生温度は、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、そして、50℃未満が好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下が更に好ましい。養生として室温での気中養生などを行うことができる。
【0065】
蒸気等の加熱養生をする場合でも、エネルギーを削減する観点から、加熱養生の時間は短いことが好ましい。加熱養生の時間は0時間であってもよい。つまり加熱養生を行わなくても良い。
【0066】
硬化した水硬性組成物を型枠から脱型して水硬性組成物の硬化体を得る工程では、型枠から脱型して水硬性組成物の硬化体を得る。得られた硬化体は、水硬性組成物で述べた用途に用いることができる。
【0067】
本発明では、水硬性組成物の調製で水硬性粉体に水を接触させてから脱型するまでの時間は、脱型に必要な強度を得る観点と製造サイクルを向上する観点から、4時間以上14日以下が好ましい。本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法は、水硬性組成物の硬化が促進されるため、水硬性組成物の調製から脱型するまでの時間を短縮することも可能である。
【実施例】
【0068】
<実施例1及び比較例1>
モルタル及びその硬化体を製造し、モルタルの流動性及び硬化体の強度を評価した。モルタルの配合、調製、評価について、それぞれ以下に記載した。
【0069】
(1)モルタルの調製
表1に示す配合条件で、各成分を、JIS R 5201に準拠して混練し、モルタルを得た。モルタルミキサーは、株式会社ダルトン製 万能混合撹拌機(型式:5DM-03-γ)を用いた。ここで、練り水は、表2の各成分(便宜的に添加剤と表示した)及び混和剤(1)を含む混合物と水とを混合して得た。
また、チオ硫酸ナトリウムは、表中、Naと表記した。チオシアン酸ナトリウムは、表中、NaSCNと表記した。α−ヒドロキシメタンスルホン酸ナトリウムは、表中、HMSと表記した。
【0070】
・セメント(C):普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製、密度3.16g/cm、表中、OPCと表記した。)と、高炉スラグ(高炉スラグ微粉末、石膏入り、エスメント関東株式会社製、ブレーン比表面積4,000cm/g、表中、BFSと表記した。)とを、50/50質量比で混合した高炉セメント。
・細骨材(S):セメント強さ試験用標準砂(一般社団法人セメント協会製)
・水(W):水道水に、添加剤及び下記混和剤(1)を含む混合物を添加して得た練り水
・混和剤(1):リグニンスルホン酸を含むAE減水剤、BASFジャパン株式会社製、マスターポゾリスNo.70
【0071】
(2)モルタル流動性の評価
モルタルの流動性を、JIS R 5201に従って測定を行った。なお、JIS R 5201記載の落下運動は行っていない。
【0072】
(3)モルタル硬化体の評価
上記で得られたモルタルについて、以下に示す試験法にしたがって、モルタル硬化体の3日後の強度を評価した。結果を表3に示した。
JIS A 1132に基づき、プラスチック製のコンクリート供試体成形型枠(商品名プラモールド、株式会社マルイ、円柱型、底面の直径5cm、高さ10cm)の型枠に、二層詰め方式によりモルタルを充填し、20℃の室内にて気中(20℃)養生を行い硬化させ供試体を作製した。モルタル調製から1日後に硬化した供試体を型枠から脱型し、3日後まで水中(20℃)養生を行った。
圧縮強度は、JIS A 1108に基づいて測定した。モルタル調製からの日数は、モルタル調製の際に、最初に水とセメントが接した時点を起点とした。基準品の強度に対する相対値を強度比(%)として表3に併記した。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
表3中、混和剤(1)の添加量は、セメント(C)(OPCとBFSの合計)に対する見かけの添加量(質量%)である。また、表3中、添加剤(I)の添加量は、セメント(C)(OPCとBFSの合計)に対する固形分の添加量(質量%)である。
【0077】
表3の比較例1−1〜1−6の結果から、混和剤を用いない場合は、本発明の添加剤を全て添加しても、流動性が向上しないことがわかる。
表3の比較例1−1〜1−6と実施例1−1〜1−2の結果から、高炉スラグセメントを用いた場合は、混和剤と本発明の添加剤を添加することで、流動性が向上することがわかる。
【0078】
<実施例2及び比較例2>
モルタルを製造し、流動性を評価した。モルタルの配合、調製、評価について、それぞれ以下に記載した。
【0079】
(1)モルタル配合
モルタルの配合条件を表4に示す。
モルタルの配合成分及びモルタルミキサーは以下のものである。
・水(W):水道水に、添加剤(I)、(II)又は(III)、及び混和剤(1)、(2)、又は(3)を添加して得た練り水
・セメント(C):普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製、密度3.16g/cm、表中、OPCと表示した。)又は高炉セメントB種(太平洋セメント株式会社製、密度3.04g/cm、表中、BBと表示した。)
・細骨材(S):城陽産、山砂、FM=2.67、密度2.56g/cm
・モルタルミキサー:株式会社ダルトン製 万能混合撹拌機 型式:5DM−03−γ
【0080】
(2)添加剤及び混和剤
添加剤(I)、(II)又は(III)は、表2のものを用いた。
混和剤(1)は、実施例1と同じものを用いた。
混和剤(2)、(3)は、以下のものである。
・混和剤(2):ポリカルボン酸系分散剤、マイテイ21HP、花王株式会社製
・混和剤(3):ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物、高性能減水剤、マイテイ150、花王株式会社製
【0081】
(3)モルタルの調製
表4に示す配合条件で、モルタルミキサーに、セメント(C)、細骨材(S)を投入し空練りを10秒行い、表5の成分(添加剤及び/又は混和剤)を含有する水(W)を加え、低速回転(回転数63rpm)にて120秒間混練した。ここで、練り水は、表5の各成分(添加剤及び/又は混和剤)と水とを含む混合物と水とを混合して得た。
なお、各成分のセメント(C)に対する添加量(質量%)は表5の通りであり、表5に示す添加量となるように練り水に添加して用いた。
【0082】
(4)モルタル流動性の評価
モルタルの流動性を、JIS R 5201に従って測定を行った。なお、JIS R 5201記載の落下運動は行っていない。
なお、流動性の相対値は、試験群ごとに、添加剤を使用しない比較例を基準として示した。
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
表5中、混和剤(1)、(2)、又は(3)の添加量は、セメント(C)(OPC又はBB)に対する見かけの添加量(質量%)である。また、表5中、添加剤(I)、(II)、(III)の添加量は、セメント(C)(OPC又はBB)に対する固形分の質量%である。
【0086】
表5の結果から、セメントが高炉セメントであり、混和剤がリグニンスルホン酸ナトリウム塩(混和剤(1))又はナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩(混和剤(3))であるモルタル配合に、本発明の添加剤(I)、(II)又は(III)を添加することにより、流動性が向上することがわかる。
【0087】
<実施例3及び比較例3>
コンクリート及びその硬化体を製造し、コンクリートのスランプと硬化体の強度を評価した。コンクリートの配合、調製、評価について、それぞれ以下に記載した。
【0088】
(1)コンクリート配合
コンクリートの配合条件を表6に示す。
コンクリートの配合成分は以下のものである。
・練り水(W):水道水
・セメント(OPC):太平洋セメント株式会社製、普通ポルトランドセメント、密度3.16g/cm
・高炉スラグ(BFS):エスメント関東株式会社製、高炉スラグ微粉末(石膏入り)、ブレーン比表面積4,000cm/g
・細骨材(S1): 砕砂、粗粒率=2.97、密度2.63g/cm
・細骨材(S2): 砕砂、粗粒率=1.67、密度2.60g/cm
・粗骨材(G1): 砕石、20−10mm 実績率62.0%、密度2.65g/cm
・粗骨材(G2): 砕石、10−5mm 実績率62.1%、密度2.65g/cm・添加剤(I):実施例1で用いたものと同じものを用いた。
・混和剤(1):実施例1で用いたものと同じものを用いた。
・混和剤(4):AE剤、BASF株式会社製、マスターエア202
【0089】
(2)コンクリートの調製
表6に示す配合条件で、コンクリートミキサーに、高炉スラグを含む水硬性粉体(OPCとBFSの混合物)、細骨材、粗骨材を投入し、空練りを15秒間行い、添加剤(I)、混和剤(1)、混和剤(4)の少なくとも何れかを含む練り水(W)を加えて、30秒間混練した後、かき落としを行い、更に60秒混練し、コンクリートを得た。混和剤(1)、混和剤(4)は、水硬性粉体(P)(OPCとBFSの合計)に対する見かけの添加量が表7の通りとなるように水に加えた。また、添加剤(I)は、水硬性粉体(P)(OPCとBFSの合計)に対する固形分の添加量が表7の通りとなるように水に加えた。
なお、未硬化のコンクリートのスランプを、JIS A 1101「コンクリートのスランプ試験方法」に準拠して測定した。結果を表7に示した。
また、未硬化のコンクリートの空気量を、JIS A 1128「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法」に準拠して測定した。結果を表7に示した。
【0090】
(3)コンクリート硬化体の評価
コンクリートを、JIS A 1132「コンクリートの強度試験用供試体の作り方」に基づいて、20度の条件で養生、脱型後、硬化体を室温(20℃)で放置し、水硬性組成物の調製の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点から1日後、3日後、及び7日後に、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に基づいて、硬化体の圧縮強度を測定した。結果を表7に、1日強度、3日強度、7日強度として示した。
【0091】
【表6】
【0092】
【表7】
【0093】
表7中、混和剤(1)及び、混和剤(4)の添加量は、水硬性粉体(P)(OPCとBFSの合計)に対する見かけの添加量(質量%)である。また、表7中、添加剤(I)の添加量は、水硬性粉体(P)(OPCとBFSの合計)に対する固形分の質量%である。
【0094】
表7の結果から、本発明の添加剤を添加すると、空気量が増え、流動性が向上することが分かる。実施例3−1では、混和剤(4)の添加量を低減しているが、比較例3−1よりも空気量が増えており、しかも、3日後、7日後の圧縮強度が向上している。
【0095】
<実施例4及び比較例4>
実施例3と同様にコンクリート及びその硬化体を製造し、スランプと強度を評価した。ただし、コンクリートの配合条件は表8の通りとした。また、強度は、1日強度、及び3日強度を測定した。結果を表9に示した。
【0096】
【表8】
【0097】
【表9】
【0098】
表9中、混和剤(1)、混和剤(4)の添加量は、水硬性粉体(P)(OPCとBFSの合計)に対する見かけの添加量(質量%)である。また、表9中、添加剤(I)の添加量は、水硬性粉体(P)(OPCとBFSの合計)に対する固形分の質量%である。
【0099】
表9の結果、中でも比較例4−1と実施例4−3との対比から、空気量を同じにしても、本発明の添加剤を加えた方が流動性と3日強度が向上することが分かる。
【0100】
<実施例5及び比較例5>
実施例3と同様にコンクリート及びその硬化体を製造し、スランプと強度を評価した。また、コンクリートのフローを、JIS A 1150「コンクリートのスランプフロー試験方法」に準拠して測定した。ただし、コンクリートの配合条件は表10の通りとした。セメントは、実施例2と同じBB(高炉セメントB種)を用いた。また、添加剤は、実施例2の添加剤(II)を表11の量で用いた。また、JIS A 1123「コンクリートのブリーディング試験方法」に準拠して凝結時間を表11に示した。尚、コンクリート調製時の室温、及び、養生温度は10℃であった。また、強度は、12時間強度、18時間強度、及び24時間強度を測定した。結果を表11に示した。
・混和剤(5):AE減水剤(標準形)、花王株式会社製、マイテイ 1000S(ポリカルボン酸型特殊界面活性剤及び天然樹脂酸誘導体)
【0101】
【表10】
【0102】
【表11】
【0103】
表11中、混和剤(1)及び、混和剤(5)の添加量は、セメント(BB)に対する見かけの添加量(質量%)である。また、表11中、添加剤(II)の添加量は、セメント(BB)に対する固形分の質量%である。
【0104】
表11の結果から、本発明の添加剤を加えると、流動性が向上し、凝結時間を短くし、短期強度を向上できることが分かる。