(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態に係る被覆発泡性樹脂ビーズは、発泡性樹脂ビーズと、発泡性樹脂ビーズを被覆する単一のコーティング層とを備える。単一の、とは、コーティング層が組成の異なる二以上の層を含まないことを意味する。なお、被覆発泡性樹脂ビーズがコーティング層以外の層を更に含むことは妨げられない。コーティング層は、コーティング組成物の乾燥物又は半硬化物である。コーティング組成物は、レゾール、硬化促進剤、無機粉末、並びに50〜130℃の範囲内の融点を有する有機化合物を含有する。
【0013】
被覆発泡性樹脂ビーズを発泡させながら被覆発泡性樹脂ビーズの粒子同士を接着させることで、発泡プラスチックを製造できる。被覆発泡性樹脂ビーズの粒子同士の接着は、接し合う各粒子のコーティング層が軟化又は溶融してから硬化することで起こる。被覆発泡性樹脂ビーズは、発泡プラスチックに難燃性を付与でき、被覆発泡性樹脂ビーズから製造された発泡プラスチックは、高温に曝された場合に炭化はしても燃焼及び溶融はしにくく、その形状が保持されやすい。そのため、発泡プラスチックを建材における断熱材として好ましく使用できる。また、発泡プラスチックの製造時には、被覆発泡性樹脂ビーズは粒子間の良好な接着性を示し、そのため発泡プラスチックは高い強度を有することができる。また、コーティング層にはタックが生じにくく、そのため被覆発泡性樹脂ビーズにはブロッキングが生じにくい。そのため、被覆発泡性樹脂ビーズの流動性が良好であり、被覆発泡性樹脂ビーズを空気輸送すること、被覆発泡性樹脂ビーズを型に充填することなどが、容易である。また、被覆発泡性樹脂ビーズは良好な保存安定性を有することができ、被覆発泡性樹脂ビーズを保存しても、コーティング層が硬化してしまって接着性が低下してしまう事態は起こりにくい。さらに、発泡性樹脂ビーズに単一のコーティング層を設けることで被覆発泡性樹脂ビーズを製造できるので、被覆発泡性樹脂ビーズを効率良く製造でき、しかも前記のような利点を有する被覆発泡性樹脂ビーズを歩留まり良く製造できる。
【0014】
被覆発泡性樹脂ビーズについて、更に詳細に説明する。
【0015】
被覆発泡性樹脂ビーズにおける発泡性樹脂ビーズは、例えばほぼ球状の粒子である。発泡性樹脂ビーズは、樹脂材料から作製され、圧縮されたガスを内蔵している。樹脂材料は、例えばポリスチレン、スチレンアクリル共重合体、アクリル樹脂及びポリエチレンからなる群から選択される少なくとも一種の材料を含む。樹脂材料は、特にポリスチレンとスチレンアクリル共重合体とのうち、いずれか一方又は両方を含むことが好ましい。発泡性樹脂ビーズが内蔵するガスは、例えばプロパン、ブタン及びペンタンからなる群のうち少なくとも一種を含む。
【0016】
発泡性樹脂ビーズは、例えば樹脂材料からなる粒子にガスを圧入して作製された未発泡の原料粒子を、加熱して予備発泡させることで、製造できる。樹脂材料に対するガスの割合は、例えば5〜7質量%の範囲内である。なお、ここで予備発泡と呼ぶのは、発泡プラスチックの製造時には被覆発泡性樹脂ビーズを更に発泡させるからである。原料粒子に対する発泡性樹脂ビーズの体積の倍率(発泡倍率)は、例えば10〜70倍の範囲内である。発泡性樹脂ビーズの粒径は、例えば2〜7mmの範囲内である。
【0017】
コーティング組成物の成分について説明する。
【0018】
レゾールは、コーティング層のバインダーとして機能して無機粉末を発泡性樹脂ビーズに保持させ、発泡プラスチックの製造時には硬化することで接着性を発現する。レゾールの硬化物は高温に曝されても燃焼及び溶融することなく炭化しやすいため、レゾールは発泡プラスチックの難燃性向上に寄与できる。
【0019】
レゾールは、例えばフェノールとホルムアルデヒド水溶液をアルカリ触媒下で反応させることで合成される。レゾールの分子量は特に制限されないが、比較的低分子量であることが好ましい。
【0020】
硬化促進剤は、例えば有機酸であり、具体的には例えばパラトルエンスルホン酸とベンゼンスルホン酸とのうちいずれか一方又は両方を含む。硬化促進剤は、発泡プラスチックの製造時に、レゾールの硬化反応を促進する。
【0021】
無機粉末は、発泡プラスチックに難燃性を付与する。無機粉末は、例えば水酸化アルミニウム、赤リン、水酸化マグネシウム、ほう酸、ほう酸亜鉛、リン酸アルミニウム、ポリリン酸アンモニウム、及び酸化アンチモンからなる群から選択される少なくとも一種の材料を含有する。無機粉末は、特に水酸化アルミニウムと赤リンとのうちいずれか一方又は双方を含むことが好ましい。水酸化アルミニウム及び赤リンは、発泡プラスチックに高い難燃性を付与でき、しかもレゾールの硬化反応を阻害しにくい。
【0022】
無機粉末の平均粒径は、1〜100μmの範囲内であることが好ましい。この場合、無機粉末がコーティング層内に良好に分散しやすい。平均粒径が1〜50μmの範囲内であればより好ましい。なお、平均粒径は、レーザー回折散乱法による測定結果から算出される体積基準の算術平均値である。
【0023】
有機化合物は、上記のように、熱可塑性を有する。有機化合物は、50〜130℃の範囲内の融点を有することが好ましい。有機化合物の融点は、示差走査熱量測定による測定結果から求められる。有機化合物は、コーティング層のタックの低減に寄与できる。しかも、有機化合物は、コーティング層内に存在しても、接着性を阻害しにくい。このため、有機化合物は、被覆発泡性樹脂ビーズのタックの低減と良好な接着性とをバランス良く達成することに寄与する。有機化合物の融点は、70〜100℃の範囲内であることが好ましく、80〜100℃の範囲内であれば特に好ましい。
【0024】
なお、有機化合物を使用せずに無機粉末の量を調整してタックを低減することもできるが、その場合は接着性が大きく低下してしまう。
【0025】
有機化合物は、例えば低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンブテン共重合体、ノボラック、及びエポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。有機化合物がノボラックを含有する場合、コーティング組成物はヘキメチレンテトラミン等の硬化剤及び架橋剤を含有しないことが好ましい。有機化合物がエポキシ化合物を含有する場合、コーティング組成物はエポキシ化合物と反応する硬化剤を含有しないことが好ましい。
【0026】
有機化合物は、コーティング組成物中で粉末であることが好ましい。この場合、有機化合物はコーティング組成物中及びコーティング層中で良好に分散でき、このため有機化合物がその機能を効果的に発揮できる。この粉末の平均粒径は、200μm以下であることが好ましい。この場合、コーティング組成物中及びコーティング層中での有機化合物の分散性が特に良好である。この平均粒径が1μm以上であることも好ましく、この場合も有機化合物の分散性が特に良好である。この平均粒径が1〜150μmの範囲内であればより好ましく、1〜40μmの範囲内であれば更に好ましい。なお、平均粒径は、レーザー回折散乱法による測定結果から算出される体積基準の算術平均値である。
【0027】
コーティング組成物は溶媒を含有してもよい。溶剤は、例えば水、親水性有機溶媒、又は水と親水性溶媒とを含有する混合溶媒である。親水性溶媒は例えばメタノールである。溶剤は、溶剤以外の成分が溶剤に良好に分散又は溶解するように選択される。例えば有機化合物が低密度ポリエチレンを含有する場合には、溶剤はメタノールといった親水性溶媒を含有することが好ましい。有機化合物がノボラックを含有する場合には、溶剤は水を含有することが好ましい。
【0028】
コーティング組成物を調製するためには、例えばレゾールと上記溶剤とを含有する溶液を用意し、この溶液に硬化促進剤、無機粉末及び有機材料を加えて撹拌する。
【0029】
コーティング組成物中のレゾールの量は、発泡性樹脂ビーズ100質量部に対して30〜100質量部の範囲内であることが好ましい。レゾールの量が30質量部以上であれば、発泡プラスチックの難燃性が特に向上し、かつ高温下で発泡プラスチックの形状が特に保持されやすくなる。また、レゾールの量が100質量部以下であれば、発泡プラスチックの密度を適度に低く保つことができる。レゾールの量は、40〜85質量部の範囲内であればより好ましく、45〜72質量部の範囲内であれば更に好ましい。
【0030】
コーティング組成物中の無機粉末の量は、コーティング組成物中のレゾール100質量部に対して、100〜220質量部の範囲内であることが好ましい。無機粉末の量が100質量部以上であると、発泡プラスチックに特に良好な難燃性を付与でき、かつコーティング層のタックを特に効果的に抑制できる。また、無機粉末の量が220質量部以下であると、被覆発泡性樹脂ビーズは特に良好な接着性を有することができ、かつ被覆発泡性樹脂ビーズからの無機粉末の脱落及びそれによる金型の汚染を抑制できる。無機粉末の量は、150〜170質量部の範囲内であれば更に好ましい。
【0031】
コーティング組成物中の有機化合物の量は、コーティング組成物中のレゾール100質量部に対して、10〜40質量部の範囲内であることが好ましい。有機化合物の量が10質量部以上であることで、被覆発泡性樹脂ビーズは、特に良好な保存安定性と特に良好な接着性とを有することができる。また、有機化合物の量が40質量部以下であると、発泡プラスチックが特に良好な難燃性を有することができ、かつ高温下で発泡プラスチックの形状が特に保持されやすくなる。有機化合物の量は、15〜31質量部の範囲内であれば更に好ましい。
【0032】
コーティング組成物中の硬化促進剤の量は、コーティング組成物中のレゾール100質量部に対して、3〜3.5質量部の範囲内であることが好ましい。この量が3質量部以上であると、コーティング組成物を加熱してコーティング層を作製するにあたり、コーティング組成物の硬化を適度に進行させることができてコーティング層のタックを特に効果的に抑制でき、かつ被覆発泡性樹脂ビーズを成形するにあたっては被覆発泡性樹脂ビーズに特に良好な接着性を付与できる。また、この量が3.5質量部以下であると、コーティング組成物を加熱してコーティング層を作製するにあたり、硬化反応の過度の進行を抑制でき、そのため被覆発泡性樹脂ビーズを成形するにあたっては被覆発泡性樹脂ビーズに特に良好な接着性を付与できる。
【0033】
発泡性樹脂ビーズとコーティング組成物とから被覆発泡性樹脂ビーズを製造する場合、例えばまず発泡性樹脂ビーズとコーティング組成物とを混合して撹拌することで、発泡性樹脂ビーズにコーティング組成物を付着させる。続いて、コーティング組成物を加熱することで乾燥させ又は半硬化させることで、コーティング層を作製する。コーティング組成物の加熱は、例えばコーティング組成物に温風を吹き付けることで行われる。この場合、例えば加熱温度(温風の温度)は30〜80℃の範囲内、加熱時間は2〜15分の範囲内である。なお、加熱方法はこれに限られない。これにより、被覆発泡性樹脂ビーズを製造できる。
【0034】
このように一種類のコーティング組成物を発泡性樹脂ビーズに付着させてから加熱するだけで、被覆発泡性樹脂ビーズを製造できるので、被覆発泡性樹脂ビーズを効率良く製造できる。また、発泡性樹脂ビーズの粒子の表面の全体にわたってコーティング組成物を付着させることは容易であり、そのため発泡性樹脂ビーズの粒子の表面全体を覆うようにコーティング層を作製することが容易である。このため、被覆発泡性樹脂ビーズの製造時の歩留まりを良好にできる。
【0035】
発泡プラスチックを製造する場合には、被覆発泡性樹脂ビーズを、型に充填して加熱する。そうすると、発泡性樹脂ビーズは発泡し、コーティング層は軟化又は溶融してから硬化することで被覆発泡性樹脂ビーズの粒子同士を接着させる。これにより、発泡プラスチックを製造できる。発泡プラスチックは、被覆発泡性樹脂ビーズに由来する複数の粒子が接着して構成される集合体である。被覆発泡性樹脂ビーズの加熱は、例えば過熱水蒸気を用いて行われる。加熱温度は好ましくは100〜130℃の範囲内であり、加熱時間は好ましくは20〜60秒の範囲内である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の具体的な実施例を提示する。なお、本発明は下記の実施例のみに制限されるものではない。
【0037】
1.原料
表1及び2の組成の欄に示す原料を用意した。
【0038】
発泡ポリスチレンビーズは、ブタンガスを内蔵した直径0.8〜1.2mmの発泡性ポリスチレンビーズ原粒を、予備発泡機で加熱することで50倍の発泡倍率に発泡させることで、作製した。
【0039】
表1及び2に示す原料の詳細は次の通りである。
【0040】
レゾールメタノール溶液(濃度65質量%)は、旭有機材株式会社製の品番TS−10である。
【0041】
レゾール水溶液(濃度70質量%)は、旭有機材株式会社製の品番HP−3000Aである。
【0042】
水酸化アルミニウム・赤リン混合粉末は、平均粒径8μmの水酸化アルミニウム粉末と平均粒径30μmの赤リン粉末とを10:4の質量比で含有する混合物である。
【0043】
ポリエチレン粉末は、住友精化株式会社製の品名フローセンUF−80であり、その融点は105℃、その平均粒径は30μmである。
【0044】
エチレン酢酸ビニル共重合体粉末は、住友精化株式会社製の品名フローバックであり、その融点は98℃、その平均粒径は50μmである。
【0045】
共重合ポリエステル粉末は、東京インキ株式会社製の品番PRG−100KCであり、その融点は97℃、その平均粒径は100μmである。
【0046】
エポキシ化合物粉末は、新日鉄住金化学株式会社製の品名エポトートYD−014であり、その融点は100°、その平均粒径は100μmである。
【0047】
ノボラック粉末は、旭有機材株式会社製の品番CP506Fであり、その融点は80°、その平均粒径は60μmである。
【0048】
2.被覆発泡性樹脂ビーズ及び発泡プラスチックの製造
表1及び2に示す原料のうち、発泡ポリスチレンビーズ以外の成分を混合することで、コーティング組成物を調製した。
【0049】
このコーティング組成物と発泡ポリスチレンビーズとを混合して撹拌することで、発泡ポリスチレンビーズにコーティング組成物を付着させた。続いて、コーティング組成物に温風を吹き付けてから、篩いにかけることで、被覆発泡性樹脂ビーズを得た。
【0050】
蒸気加熱成形機を用いて、被覆発泡性樹脂ビーズを加熱温度120℃、加熱時間1分間の条件で成形することで、50mm×500mm×500mmの寸法の発泡プラスチックを作製した。
【0051】
3.評価試験
3−1.流動性
ガラス製の三角漏斗(上部開口内径120mm、足長70mm、下部開口内径18mm、容積約230cc)の下部開口を塞いだ状態で、三角漏斗内を被覆発泡性樹脂ビーズで満たし、この状態で下部開口を開放することで被覆発泡性樹脂ビーズを自然落下させた。
【0052】
この操作を10回繰り返し行い、三角漏斗内の被覆発泡性樹脂ビーズが全て落下した回数で、流動性を評価した。
【0053】
3−2.保存安定性
被覆発泡性樹脂ビーズを製造した日から、3日保存した場合、10日保存した場合、及び20日保存した場合の各々において、被覆発泡性樹脂ビーズから発泡プラスチックを製造した。
【0054】
発泡プラスチックを人の手で折り曲げることで破断させ、破断面を観察し、破断面に現れる被覆発泡性樹脂ビーズに由来する粒子の総数に対する、破壊された粒子の数の割合を調査した。接着性が高いほど、粒子が破壊されずに隣合う粒子同士が分離する頻度が低くなるため、破壊された粒子の数の割合は高くなる。保存期間が長くなっても、破壊された粒子の数の割合が低下しにくい場合は、保存安定性が高いと判断できる。
【0055】
3−3.成形品酸素指数
JIS K7201に従って、発泡プラスチックの酸素指数(燃焼を持続するのに必要な最低酸素濃度)を測定した。
【0056】
3−4.成形品高温形状保持性
発泡プラスチックから、厚み50mm×幅100mm×長さ100mmの寸法の試験片を切り出した。試験片を200℃の恒温器に30分間入れてから、試験片の厚み寸法の収縮量を確認した。
【0057】
3−5.UL94垂直燃焼試験
発泡プラスチックから、125mm×13mm×13mmの寸法の試験片を切り出し、この試験片に対して、UL94に基づく垂直燃焼試験を実施した。
【0058】
3−6.成形品密度
発泡プラスチックの重量を測定し、その結果から密度を算出した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】