特許第6727657号(P6727657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6727657
(24)【登録日】2020年7月3日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】液晶波長可変フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20200713BHJP
   G02F 1/1347 20060101ALI20200713BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20200713BHJP
   G01J 3/447 20060101ALN20200713BHJP
【FI】
   G02F1/13 505
   G02F1/1347
   G02F1/1335 510
   !G01J3/447
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-214044(P2017-214044)
(22)【出願日】2017年11月6日
(65)【公開番号】特開2019-86631(P2019-86631A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2019年9月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若生 一広
(72)【発明者】
【氏名】寺島 康平
【審査官】 竹村 真一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−197518(JP,A)
【文献】 特開2005−031007(JP,A)
【文献】 特開2005−115205(JP,A)
【文献】 特開2012−133270(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0139772(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0048049(US,A1)
【文献】 特開2013−257408(JP,A)
【文献】 特開2006−317645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13−1/1347
G01J 3/447
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の波長を透過させ前記特定の波長以外を遮断するようにフィルタリングして撮像範囲を撮像した画像であるフィルタ画像と、前記撮像範囲をフィルタリングせずに撮像した元画像との両方を撮像可能な撮像装置の前段に設けられ、前記フィルタリングに用いられる液晶波長可変フィルタであって、
偏光子と、検光子と、一対の前記偏光子および前記検光子の間に配置される液晶素子とを含むユニットと、
前記液晶素子に電圧を印加する電圧源と、
前記元画像の撮像のために前記ユニットが要求波長範囲の全域に渡って入射光を遮断せずに透過させる第1モードと、前記フィルタ画像の撮像のために前記ユニットが前記入射光のうち前記要求波長範囲の前記特定の波長の光を透過させるとともに前記特定の波長以外の波長の光を遮断する第2モードとを含む複数の動作モードの中から選択された動作モードに基づいて、前記電圧源が前記液晶素子に印加する電圧を制御する電圧制御部と、
を備えることを特徴とする液晶波長可変フィルタ。
【請求項2】
前記電圧制御部が前記第1モードに対応する第1電圧を前記液晶素子に印加したときに、前記ユニットで生じるリタデーションの値である第1の値は、前記要求波長範囲の全域に渡って、半波長の整数倍であって前記検光子に入射する光の偏光方向が前記検光子の透過軸の方向となるよう定められたリタデーションの基準値との差異が閾値以下であることを特徴とする請求項1に記載の液晶波長可変フィルタ。
【請求項3】
複数の前記ユニットを備え、
前記電圧制御部が前記第1電圧を複数の前記液晶素子のそれぞれに印加したとき、複数の前記ユニットのそれぞれにおいて、前記第1の値は、前記要求波長範囲の全域に渡って、前記基準値との差異が前記閾値以下であることを特徴とする請求項2に記載の液晶波長可変フィルタ。
【請求項4】
前記電圧制御部が前記第1電圧を複数の前記液晶素子のそれぞれに印加したときに、同じユニットに含まれる複数の前記液晶素子のリタデーションの合計は、前記要求波長範囲の全域に渡って、前記基準値との差異が前記閾値以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の液晶波長可変フィルタ。
【請求項5】
前記偏光子および前記検光子の間に、複数の前記液晶素子が配置されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液晶波長可変フィルタ。
【請求項6】
前記偏光子および前記検光子の間に配置される複数の前記液晶素子は、同一の種類の液晶材料を含むことを特徴とする請求項5に記載の液晶波長可変フィルタ。
【請求項7】
前記偏光子および前記検光子の間に、一対の前記液晶素子が配置されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の液晶波長可変フィルタ。
【請求項8】
前記一対の液晶素子は、光学軸が互いに直交することを特徴とする請求項7に記載の液晶波長可変フィルタ。
【請求項9】
前記一対の液晶素子の液晶層の厚みは同一であることを特徴とする請求項7または8に記載の液晶波長可変フィルタ。
【請求項10】
前記電圧制御部は、前記第2モードが選択されたとき、前記一対の液晶素子の一方のリタデーションが、半波長の整数倍であって前記検光子に入射する光の偏光方向が前記検光子の透過軸の方向となるよう定められたリタデーションの基準値に近づくように、前記一対の液晶素子の一方に印加する電圧を制御し、設定された透過波長に基づいて、前記一対の液晶素子の他方に印加する電圧を制御することを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の液晶波長可変フィルタ。
【請求項11】
前記電圧制御部は、前記一対の液晶素子の一方のリタデーションの値と前記基準値との差異に基づいて、前記一対の液晶素子の他方に印加する電圧を調整することを特徴とする請求項10に記載の液晶波長可変フィルタ。
【請求項12】
複数の前記ユニットを備え、
複数の前記ユニットのうちの第1のユニットの前記検光子の機能と、前記第1のユニットから光が入射する第2のユニットの前記偏光子の機能とを併せ持つ偏光板を備えることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の液晶波長可変フィルタ。
【請求項13】
前記要求波長範囲は400nmから750nmまでの範囲であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の液晶波長可変フィルタ。
【請求項14】
前記第1モードにおける前記ユニットの透過率は、前記要求波長範囲の全域にわたって10%以上であることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の液晶波長可変フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、要求波長範囲の全域に渡って入射光を同時に透過させる機能を有する液晶波長可変フィルタおよび光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶波長可変フィルタ(LCTF:Liquid Crystal Tunable Filter)は、画像情報を保持しながら任意の波長の光を透過させる光学フィルタである。液晶素子に印加する電圧を変更することで液晶波長可変フィルタの透過波長を容易に変更することが可能である。
【0003】
例えば、特許文献1には、偏光板と、偏光板の間に挟まれる液晶素子と、液晶素子に電圧を印加する電圧源とを備える液晶波長可変フィルタが開示されている。このような液晶波長可変フィルタは、分光イメージングの分野において用いることが可能である。分光イメージングは、撮像範囲から入射される光を、特定の波長を透過させるフィルタでフィルタリングすることによりフィルタ画像を得る技術である。分光イメージングでは、様々な波長のフィルタ画像を解析することで、対象物に関する肉眼では認識が困難な情報を得ることができる。分光イメージングは、農林水産、航空宇宙、医療、食品、工業をはじめとする多くの分野において様々な用途で用いることが可能である。分光イメージングが用いられる多くの用途において、フィルタ画像に加えて、フィルタリングする前の画像である元画像が必要とされる。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の液晶波長可変フィルタは、元画像を出力することができない。元画像を出力することができないフィルタを用いた観測装置において、元画像を取得するための方法としては、フィルタ自体を光路上から退避させる特許文献2に記載の方法、入射光を分岐させる特許文献3に記載の方法などが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03−282417号公報
【特許文献2】特開2014−163722号公報
【特許文献3】特開2010−193380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、液晶波長可変フィルタを光路上から退避させる場合、液晶波長可変フィルタを移動させるための機構とスペースとが必要となる。また、入射光を分岐させる場合、フィルタ画像用の光学系および撮像系に加えて、元画像用の光学系および撮像系が必要となる。このため、液晶波長可変フィルタを搭載する観測装置が大型化するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、液晶波長可変フィルタを搭載する観測装置が元画像を取得する機能を有する場合でも、観測装置の大型化を抑制することが可能な液晶波長可変フィルタおよび光学部品を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一つの実施形態によれば、液晶波長可変フィルタは、偏光子と、検光子と、一対の偏光子および検光子の間に配置される液晶素子とを含むユニットと、液晶素子に電圧を印加する電圧源と、ユニットが要求波長範囲の全域に渡って入射光を透過させる第1モードと、ユニットが入射光のうち要求波長範囲の一部の波長の光を遮断する第2モードとを含む複数の動作モードの中から選択された動作モードに基づいて、電圧源が液晶素子に印加する電圧を制御する電圧制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液晶波長可変フィルタを搭載する観測装置が元画像を取得する機能を有する場合でも、観測装置の大型化を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施形態にかかる液晶波長可変フィルタの機能を示す図である。
図2図1に示す液晶波長可変フィルタの機能構成を示す図である。
図3図2に示す光学部品の物理的な構成を示す図である。
図4図2に示す電圧制御部の動作の一例を示すフローチャートである。
図5図2に示す液晶波長可変フィルタがフィルタモードで動作するときの動作原理を示す図である。
図6図2に示す液晶波長可変フィルタがオープンモードで動作するときの波長に対する透過率特性のシミュレーション結果を示す図である。
図7図2に示す液晶波長可変フィルタがフィルタモードで動作するときの波長に対する透過率特性のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態にかかる液晶波長可変フィルタを図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる液晶波長可変フィルタ1の機能を示す図である。液晶波長可変フィルタ1は、撮像範囲からの入射光が入射されると、設定された透過範囲の波長の光を透過させて、透過範囲以外の波長の光を遮断する。液晶波長可変フィルタ1は、要求波長範囲の全域を透過範囲とするオープンモードと、要求波長範囲の一部を透過範囲として、透過範囲以外の光を遮断するフィルタモードとを有する。なお本明細書中では、要求波長範囲のうち一部の波長の光を透過範囲に含まない場合、透過範囲に含まれない波長の光を「遮断する」と表現する。光の透過率をX%未満にすることを、光の「遮断」と定義することができる。Xは、液晶波長可変フィルタ1の用途に応じて要求される性能を満たすように予め定められた値であり、例えばX=10とすることができるが、Xの値はこれに限定されない。オープンモードにおいても、液晶の状態によっては一部の光が液晶波長可変フィルタ1を透過できないことはあるが、光の透過率がX%以上である場合、液晶波長可変フィルタ1を透過できない光は遮断された光とは言わない。つまり、オープンモードは、要求波長範囲の全域に渡って光を遮断しないモードと定義することができる。要求波長範囲は、液晶波長可変フィルタ1の動作範囲として要求される波長範囲であり、例えば400nm−750nmの可視光範囲である。
【0013】
撮像装置2は、液晶波長可変フィルタ1の透過光を撮像して、画像データを生成する。オープンモードの液晶波長可変フィルタ1から出力される第1の透過光を撮像装置2が撮像すると、元画像が生成される。フィルタモードの液晶波長可変フィルタ1から出力される第2の透過光を撮像装置2が撮像すると、フィルタ画像が生成される。
【0014】
上記のような機能を奏するための本実施形態にかかる液晶波長可変フィルタ1の構成について、以下説明する。図2は、図1に示す液晶波長可変フィルタ1の機能構成を示す図である。
【0015】
液晶波長可変フィルタ1は、複数のユニット10から構成される光学部品40と、各ユニット10に電圧を印加する電圧源20と、各電圧源20がユニット10に印加する電圧の値を指示する電圧制御部30とを有する。
【0016】
以下、複数のユニット10のそれぞれを区別する場合、符号の後にハイフンと各ユニット10を識別する数字とを付する。具体的には、液晶波長可変フィルタ1は、3つのユニット10−1、ユニット10−2、およびユニット10−3を有する。複数のユニット10のそれぞれは、偏光子11、検光子12、偏光子11および検光子12の間に配置される液晶素子13を有している。一対の偏光子11および検光子12の間には、一対の液晶素子13Aおよび液晶素子13Bが配置されている。一対の液晶素子13Aおよび液晶素子13Bは、同一の種類の液晶材料を含み、液晶層の厚みdが同一である。液晶素子13の液晶層は、誘電率異方性がプラスのポジ型液晶であってもよいし、誘電率異方性がマイナスのネガ型液晶であってもよい。
【0017】
各ユニット10に備わる構成要素を、符号の後にハイフンと各ユニット10を識別する数字とを付して示す。例えば、ユニット10−1に備わる偏光子11を偏光子11−1と称し、ユニット10−2に備わる偏光子11を偏光子11−2と称する。
【0018】
液晶波長可変フィルタ1は、各液晶素子13に接続される複数の電圧源20を有する。液晶素子13Aに接続されている電圧源20を電圧源20Aと称し、液晶素子13Bに接続されている電圧源20を電圧源20Bと称する。ユニット10−1に備わる液晶素子13A−1には電圧源20A−1が接続されており、液晶素子13B−1には電圧源20B−1が接続されている。ユニット10−2に備わる液晶素子13A−2には電圧源20A−2が接続されており、液晶素子13B−2には電圧源20B−2が接続されている。ユニット10−3に備わる液晶素子13A−3には電圧源20A−3が接続されており、液晶素子13B−3には電圧源20B−3が接続されている。
【0019】
液晶波長可変フィルタ1は、複数の電圧源20と接続された電圧制御部30を有する。電圧制御部30は、各電圧源20が液晶素子13に印加する電圧の値を指示することによって、ユニット10ごとに光学部品40の光学特性を制御している。
【0020】
図3は、図2に示す光学部品40の物理的な構成を示す図である。光学部品40は、複数の偏光板15と、複数の偏光板15の間に配置された一対の液晶素子13Aおよび液晶素子13Bとを有する。具体的には、光学部品40は、偏光板15−1、偏光板15−2、偏光板15−3および偏光板15−4を有する。偏光板15−1および偏光板15−2の間には、一対の液晶素子13A−1および液晶素子13B−1が配置されている。偏光板15−2および偏光板15−3の間には、一対の液晶素子13A−2および液晶素子13B−2が配置されている。偏光板15−3および偏光板15−4の間には、一対の液晶素子13A−3および液晶素子13B−3が配置されている。
【0021】
複数の偏光板15のそれぞれの透過軸は互いに平行である。一対の液晶素子13Aおよび液晶素子13Bの光学軸は、直交している。偏光板15−1の透過軸に対して、一方の液晶素子13Aの光学軸は135度の角度をなし、他方の液晶素子13Bの光学軸は45度の角度をなしている。偏光板15は、図2に示す偏光子11および検光子12の少なくともいずれかとして機能する。具体的には、偏光板15−1は、図2に示す偏光子11−1として機能する。偏光板15−2は、図2に示すユニット10−1の検光子12−1の機能と、ユニット10−1から光が入射するユニット10−2の偏光子11−2の機能とを併せ持つ。偏光板15−3は、図2に示すユニット10−2の検光子12−2の機能と、ユニット10−2から光が入射するユニット10−3の偏光子11−3の機能とを併せ持つ。偏光板15−4は、図2に示す検光子12−3として機能する。
【0022】
図4は、図2に示す電圧制御部30の動作の一例を示すフローチャートである。電圧制御部30は、選択された動作モードがオープンモードであるかフィルタモードであるか判断する(ステップS101)。動作モードの選択は、例えば、液晶波長可変フィルタ1を搭載する観測装置に設けられた操作部、通信路を介して観測装置と通信可能な端末装置に設けられた操作部などをユーザが操作することで行われる。オープンモードは、各ユニット10が要求波長範囲の全域に渡って入射光を透過させる第1モードであり、フィルタモードは、各ユニット10が入射光のうち要求波長範囲の一部の波長の光を遮断する第2モードである。
【0023】
オープンモードが選択された場合、電圧制御部30は、オープンモードに対応して予め定められた第1電圧を、各液晶素子13に印加する(ステップS102)。第1電圧は、オープンモードに対応して、液晶素子13ごとに定められている。液晶波長可変フィルタ1を透過する光が最大となるためには、各ユニット10において、検光子12に入射する光が直線偏光であり、且つ直線偏光の偏光方向が検光子12の透過軸の方向となる必要がある。以下、各ユニット10において、検光子12に入射する光が直線偏光となり、且つ直線偏光の偏光方向が検光子12の透過軸の方向となるようなリタデーションRの値を基準値と称する。オープンモードに対応する第1電圧は、要求波長範囲の全域に渡って、各ユニット10で生じるリタデーションRの値である第1の値と基準値との差が閾値以下となるように予め定められている。
【0024】
ここで、基準値について検討する。検光子12に入射する光を直線偏光にするためには、リタデーションRが半波長の整数倍となる必要がある。リタデーションRが半波長の奇数倍のときと、リタデーションRが半波長の偶数倍、つまり波長の整数倍のときとでは、直線偏光の偏光方向は異なる。リタデーションRが半波長の奇数倍のとき、検光子12に入射する光の偏光方向は、偏光子11の透過軸と直交し、リタデーションRが半波長の偶数倍のとき、検光子12に入射する光の偏光方向は、偏光子11の透過軸の方向となる。第1の実施形態では検光子12の透過軸の方向は、偏光子11の透過軸の方向と平行であるため、基準値は、要求波長範囲の全域に渡って、波長の整数倍となる。
【0025】
液晶素子13のリタデーションRは、液晶素子13を通過後の常光および異常光の光路差を示す物理量であり、下記の数式(1)に示すように、液晶素子13の液晶層の厚みdと、常光および異常光の屈折率差Δnとの積で表される。
R=dΔn (nm) ・・・(1)
【0026】
常光および異常光の位相差δは、下記の数式(2)に示すように、リタデーションRを波長で除することで求めることができる。
δ=dΔn×360/λ (deg) ・・・(2)
【0027】
屈折率差Δnは、液晶素子13に印加する電圧に応じて変化する。基準値は、偏光子11および検光子12の透過軸の方向に基づいて定まる。また第1電圧は、基準値と、液晶素子13の液晶層の厚みdと、複数の液晶素子13の光学軸の方向とに基づいて定まる。
【0028】
第1の実施形態では、各ユニット10に備わる一対の液晶素子13Aおよび液晶素子13Bの厚みdおよび液晶材料が同一である。このため、同一の電圧を印加したときに生じるリタデーションRの値は、理論的には同一である。液晶素子13Aの光学軸と液晶素子13Bの光学軸とは直交しているため、電圧制御部30が、液晶素子13Aおよび液晶素子13Bのそれぞれに印加する第1電圧を、同一とすると、液晶素子13Aで生じるリタデーションRと液晶素子13Bで生じるリタデーションRとが打ち消し合い、ユニット10ごとのリタデーションRの合計は、理論的にはゼロとなる。ここで同一の電圧とは、0Vも含む。
【0029】
しかしながら、実際には、同一の第1電圧を印加したときに一対の液晶素子13Aおよび液晶素子13Bのそれぞれで生じるリタデーションRの値は異なることがある。例えば、液晶素子13Aの温度と液晶素子13Bの温度とが異なる場合、液晶素子13Aで生じるリタデーションRの値と液晶素子13Bで生じるリタデーションRの値は異なる。また本実施形態では液晶素子13の液晶層の厚みdは同一であることとしたが、液晶層の厚みdに製品毎のわずかなばらつきがある場合、液晶素子13Aで生じるリタデーションRの値と液晶素子13Bで生じるリタデーションRの値は異なる。さらに本実施形態では液晶素子13Aの液晶材料と液晶素子13Bの液晶材料とは同一であることとしたが、液晶材料が異なる場合、液晶素子13Aで生じるリタデーションRの値と液晶素子13Bで生じるリタデーションRの値とは異なる。このように同一の電圧を印加したときに生じるリタデーションRの値が液晶素子13毎に異なる場合、液晶素子13Aおよび液晶素子13Bのそれぞれに印加する第1電圧の値を調整することで、合計のリタデーションRの値を、基準値に近づける。電圧制御部30が液晶素子13Aおよび液晶素子13Bのそれぞれに調整後の第1電圧を印加したとき、ユニット10で生じるリタデーションRの値と基準値との差は、閾値以下となる。
【0030】
フィルタモードが選択された場合、電圧制御部30は、フィルタモードに対応して定められた第2電圧を一方の液晶素子13Aに印加する(ステップS103)。液晶素子13Aに印加する第2電圧は、フィルタモードに対応して予め定められている。電圧制御部30は、設定された透過波長λ0に基づいて、他方の液晶素子13Bに印加する電圧を算出する(ステップS104)。電圧制御部30は、一方の液晶素子13Aに残存するリタデーションRに基づいて、ステップS104で算出した電圧を調整する(ステップS105)。電圧制御部30は、ステップS105で調整後の電圧を他方の液晶素子13Bに印加する(ステップS106)。
【0031】
上記の例では、フィルタモードにおいて、電圧制御部30は、液晶素子13AのリタデーションRの値が基準値に近づき、液晶素子13Bを透過する光が、設定された透過波長λ0にピークを有する光となるように、液晶素子13Bに印加する第2電圧を制御する。さらに、第2電圧を印加したときに、液晶素子13AのリタデーションRの値と基準値との差が閾値以上となる場合、電圧制御部30は、液晶素子13AのリタデーションRの値と基準値との差を打ち消すように、液晶素子13Bに印加する第2電圧の値を調整する。
【0032】
また上記では、電圧制御部30は、フィルタモードにおいて、液晶素子13AのリタデーションRの値が基準値に近づき、液晶素子13Bを透過する光が、設定される透過波長λ0にピークを有する光となるように第2電圧を制御したが、本実施形態はかかる例に限定されない。フィルタモードにおいて、各ユニット10を透過する光が、設定された透過波長λ0にピークを有する光となり、液晶波長可変フィルタ1がバンドパスフィルタとして機能するように液晶素子13Aおよび液晶素子13Bに印加される電圧が制御されればよい。また、上記の例の液晶素子13Aの役割と液晶素子13Bの役割とを入れ替えてもよく、電圧制御部30は、液晶素子13Aを透過する光が、設定される透過波長λ0にピークを有する光となり、液晶素子13BのリタデーションRの値が基準値に近づくように、第2電圧を制御することができる。
【0033】
図5は、図2に示す液晶波長可変フィルタ1がフィルタモードで動作するときの動作原理を示す図である。液晶波長可変フィルタ1がフィルタモードで動作するとき、設定された透過波長λ0がピークとなるように、各ユニット10の液晶素子13Bに印加する電圧が決定される。ユニット10ごとに、透過スペクトルの幅は異なる。各ユニット10の透過スペクトルのピークは、波長λ0で重なる。
【0034】
3つのユニット10の透過特性を重ね合せると、図5の下図に示されるように、設定された透過波長λ0にピークを有するフィルタ特性となる。上記の例では、フィルタモードにおいて、液晶素子13Aは透過する光への影響を少なくするように制御され、液晶素子13Bは液晶波長可変フィルタ1がバンドパスフィルタとして機能するように制御される。このため、液晶素子13Aに印加する第2電圧は、液晶素子13AのリタデーションRの値が基準値に近づくように制御され、液晶素子13Bに印加する第2電圧は、設定された透過波長λ0に基づいて制御される。
【0035】
なお上記では、電圧制御部30が、設定された透過波長λ0に基づいて、液晶素子13Bに印加する電圧を算出した後、液晶素子13Aに残存するリタデーションRの値に基づいて、算出した電圧を調整することとしたが、本実施形態はかかる例に限定されない。液晶素子13Aに残存するリタデーションRの値に基づいて、電圧の調整量を予め算出しておき、設定される透過波長λ0と、調整量を考慮した電圧値とを対応づけたルックアップテーブルを予め作成しておくこともできる。周辺温度によって電圧とリタデーションRとの対応関係は変化するため、ルックアップテーブルは温度ごとに準備することが望ましい。
【0036】
図6は、図2に示す液晶波長可変フィルタ1がオープンモードで動作するときの波長に対する透過率特性のシミュレーション結果を示す図である。図6の横軸は波長であり、縦軸は、波長400nmから750nmの範囲内で最大の透過率を「1」として規格化した透過率である。波長400nmから750nmの可視光範囲において、第1の実施形態にかかる液晶波長可変フィルタ1は、良好な透過特性を実現することができることを確認した。なお図6では、波長ごとに透過率特性が変化しているが、これは偏光板15自体の分光特性によるものである。
【0037】
図7は、図2に示す液晶波長可変フィルタ1がフィルタモードで動作するときの波長に対する透過率特性のシミュレーション結果を示す図である。図7の横軸は波長であり、縦軸は、図6と同様に、波長400nmから750nmの範囲内で最大の透過率を「1」として規格化した透過率である。波長400nmから750nmの可視光範囲において、第1の実施形態にかかる液晶波長可変フィルタ1は、良好なフィルタ特性を実現することができることを確認した。また、図7に示す透過率特性からノイズ量を解析し、波長λ0の光の透過率を100%としたとき、ノイズ2.0%未満の基準を達成することができることを確認した。
【0038】
なお、液晶素子13に電圧を印加することによるリタデーションRの変化は限られている。液晶素子13のセルギャップを厚くすれば、リタデーションRの値を増加させることができる。しかしながら、セルギャップを厚くすると、液晶素子13の電気的な応答速度が低下してしまう。そこで、複数の液晶素子13を積層して、セルギャップを厚くした場合と同様にリタデーションRを増加させる効果を得ることができる。
【0039】
(変形例)
上記の第1の実施形態では、要求波長範囲の全域に渡って入射光を透過させる機能を備える液晶波長可変フィルタ1の構成の一例を示したが、本発明はかかる例に限定されない。以下、液晶波長可変フィルタ1の構成の変形例を示す。
【0040】
例えば、第1の実施形態では、3つのユニット10を有する液晶波長可変フィルタ1について説明したが、ユニット10の数は、3つに限らない。比較的狭い透過スペクトルを有するバンドパスフィルタを得るためには、3つから7つのユニット10が用いられることが多いが、単数、2つまたは8つ以上のユニット10を有する液晶波長可変フィルタ1に本発明の技術が適用されてもよい。
【0041】
また第1の実施形態では、一対の偏光子11および検光子12の間に配置される液晶素子13の数は、2つとしたが、本発明はかかる例に限定されない。一対の偏光子11および検光子12の間には、3つ以上の液晶素子13が配置されてもよい。
【0042】
また、一対の偏光子11および検光子12の間に1つの液晶素子13が配置されてもよい。一対の偏光子11および検光子12の間に1つの液晶素子13が配置される場合、オープンモードでは、液晶素子13のリタデーションRが基準値に近づくように電圧を制御し、フィルタモードでは、設定された透過波長λ0に基づいて電圧を制御すればよい。一対の偏光子11および検光子12の間に1つの液晶素子13が配置される場合と比較して、複数の液晶素子13を用いる場合には、複数の液晶素子13のリタデーションRを調整することで、偏光特性を打ち消し合うことができる。このため、所望の特性を有するフィルタを実現することが容易であるという利点がある。
【0043】
第1の実施形態では、一対の液晶素子13Aおよび液晶素子13Bの光学軸は直交することとしたが、本発明はかかる例に限定されない。偏光子11および検光子12の間には、光学軸の向きが互いに異なる複数の液晶素子13が配置され、ユニット10ごとのリタデーションRの合計が基準値に近づくように、光学軸の向きおよび各液晶素子13に印加する電圧の値が調整されればよい。
【0044】
第1の実施形態では、複数の偏光板15の透過軸は互いに平行であることとしたが、本発明はかかる例に限定されない。液晶素子13を透過した光が、偏光板15を透過することができればよい。
【0045】
第1の実施形態では、一対の液晶素子13Aおよび液晶素子13Bの液晶層に使用される液晶材料は同一であることとしたが、本発明はかかる例に限定されない。液晶素子13Aの液晶材料は、液晶素子13Bの液晶材料と異なってもよい。
【0046】
また第1の実施形態では、一対の液晶素子13Aおよび液晶素子13Bの液晶層の厚みdは同一であることとしたが、本発明はかかる例に限定されない。液晶素子13Aの液晶層の厚みdは、液晶素子13Bの液晶層の厚みdと異なってもよい。
【0047】
また一対の偏光子11および検光子12の間に、3つ以上の液晶素子13が配置される場合、同一のユニット10内の複数の液晶素子13を2つのグループに分けて、一方のグループの液晶素子13に含まれる液晶層の厚みdの合計と、他方のグループの液晶素子13に含まれる液晶層の厚みdの合計とを等しくすることもできる。複数の液晶素子13に含まれる液晶材料の種類が同一の場合、一方のグループの液晶素子13で生じるリタデーションRの値は、他方のグループの液晶素子13で生じるリタデーションRの値と概ね等しくなる。
【0048】
第1の実施形態では、電圧源20は、液晶素子13ごとに設けられているが、本発明はかかる例に限定されない。各動作モードで複数の液晶素子13のそれぞれに印加する電圧の値が同じになるように設計する場合、複数の液晶素子13に共通する電圧源20が設けられてもよい。例えば、各動作モードで複数の液晶素子13Aのそれぞれに印加する電圧が同じであれば、複数の液晶素子13Aに共通する電圧源20を設けることができる。
【0049】
以上説明したように、本発明の実施形態にかかる液晶波長可変フィルタ1は、液晶素子13に印加する電圧の値を変化させることで出力する画像を切り替えることができる。このため、液晶波長可変フィルタ1自体を光路上から退避させる場合と比較して、出力する画像を切り替える際の応答性が向上する。また、出力する画像を切り替える際に、液晶波長可変フィルタ1の機械的な移動を伴わないため、液晶波長可変フィルタ1の位置ずれが生じ難く、信頼性を向上することができる。液晶波長可変フィルタ1によれば、フィルタを光路上に進退させる機構およびスペースを設ける必要や、フィルタ画像用の光学系と別に元画像用の光学系を設ける必要がないため、液晶波長可変フィルタ1を搭載する観測装置の大型化を抑制することができる。
【0050】
上記の液晶波長可変フィルタ1は、医療分野において、染色体の識別、血糖値の測定、腫瘍および変質細胞部位の検出、血中酸素濃度の測定、薬剤組織検査などに用いることができる。また工業分野では、上記の液晶波長可変フィルタ1は、製品の不良解析などに用いることができる。農業、林業、漁業分野では、液晶波長可変フィルタ1は、農作物、森林の生育状況の解析、樹木の種類の判別、漁場探索などに用いることができる。また環境分野では、特定物質の分布を解析することで地質、水質を解析したり、地形解析などにも用いることができる。また美容分野では、肌質解析などに用いることもできる。
【0051】
液晶波長可変フィルタ1を用いることで、省スペース且つ軽量にフィルタ画像と元画像とを取得することができる。用途によって、広い撮像範囲の画像を取得する必要がある場合、液晶波長可変フィルタ1をドローン、人工衛星などに搭載して上空からの画像を取得する場合があるが、ドローン、人工衛星などに搭載する場合、搭載する機器の重量、スペースの制約が大きい。このため、ドローン、人工衛星などの観測装置を用いて分光イメージングの技術を用いる場合に液晶波長可変フィルタ1を用いることは望ましい。また、液晶波長可変フィルタ1を用いることで、省スペース且つ軽量にフィルタ画像と元画像とを取得することができるため、スマートフォン、タブレット端末などの携帯端末に液晶波長可変フィルタ1を搭載することもできる。携帯端末に搭載することで、さらに多様な分野に分光イメージングの技術を用いることが容易になる。
【符号の説明】
【0052】
1 液晶波長可変フィルタ、2 撮像装置、10,10−1,10−2,10−3 ユニット、11,11−1,11−2,11−3 偏光子、12,12−1,12−2,12−3 検光子、13,13A,13A−1,13A−2,13A−3,13B,13B−1,13B−2,13B−3 液晶素子、15,15−1,15−2,15−3,15−4 偏光板、20,20A,20A−1,20A−2,20A−3,20B,20B−1,20B−2,20B−3 電圧源、30 電圧制御部、40 光学部品、d 厚み、λ0 透過波長、Δn 屈折率差、δ 位相差。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7