特許第6727690号(P6727690)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立GEニュークリア・エナジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6727690-炉心溶融物保持装置 図000003
  • 特許6727690-炉心溶融物保持装置 図000004
  • 特許6727690-炉心溶融物保持装置 図000005
  • 特許6727690-炉心溶融物保持装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6727690
(24)【登録日】2020年7月3日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】炉心溶融物保持装置
(51)【国際特許分類】
   G21C 9/016 20060101AFI20200713BHJP
【FI】
   G21C9/016
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-224066(P2016-224066)
(22)【出願日】2016年11月17日
(65)【公開番号】特開2018-81018(P2018-81018A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 慎二
(72)【発明者】
【氏名】能島 雅史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正
(72)【発明者】
【氏名】酒井 健
【審査官】 中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表平11−508679(JP,A)
【文献】 特開2011−163829(JP,A)
【文献】 特開2012−194120(JP,A)
【文献】 特開2013−108772(JP,A)
【文献】 特開2014−025785(JP,A)
【文献】 特開2016−109503(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0070886(US,A1)
【文献】 米国特許第05946366(US,A)
【文献】 中国特許出願公開第105427900(CN,A)
【文献】 国際公開第2011/121908(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 9/016
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器の下方のペデスタル床の上に配設される炉心溶融物保持装置において、
ジルコニアを基質とする第1酸化物で構成された上部層と、
前記ジルコニアを還元したジルコニウムよりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第1元素を主体とする金属の酸化物を基質とする第2酸化物で構成された下部層と、
前記上部層と前記下部層との間に配置され、前記ジルコニウム及び前記第1元素よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第2元素を主体とする金属又はその酸化物を基質とする第3酸化物で構成された中間層とを備えた炉心溶融物保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の炉心溶融物保持装置において、
前記第1元素を主体とする金属の酸化物はアルミナであり、
前記第2元素を主体とする金属は、Fe基合金、Cr基合金、Si基合金、Cu基合金又はAu基合金であることを特徴とする炉心溶融物保持装置。
【請求項3】
原子炉圧力容器の下方のペデスタル床の上に配設される炉心溶融物保持装置において、
ジルコニアを基質とする第1酸化物で構成された上部層と、
前記上部層と前記ペデスタル床との間に配置され、前記ジルコニアを還元したジルコニウム及び前記ペデスタル床を構成しているコンクリートに含まれる酸化物を還元した元素よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第2元素を主体とする金属又はその酸化物を基質とする第3酸化物で構成された中間層とを備えた炉心溶融物保持装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の炉心溶融物保持装置において、
前記下部層の上面に凹み部が形成されたことを特徴とする炉心溶融物保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉心溶融物保持装置に係り、特に、沸騰水型原子炉プラントに適用するのに好適な炉心溶融物保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉プラント及び加圧水型原子炉プラント等の原子力プラントでは、原子炉圧力容器内に炉心が配置されており、この炉心には、核分裂性物質(例えば、ウラン235)を含む核燃料物質(例えば、UO)を充填した複数の燃料棒を含む複数の燃料集合体が装荷されている。原子力プラントの正常状態では、原子炉圧力容器内に存在する冷却水が、装荷された各燃料集合体内の各燃料棒と接触してこれらの燃料棒を冷却する。
【0003】
原子炉圧力容器内の冷却水が喪失し、さらに、非常用炉心冷却装置による原子炉圧力容器内への冷却水の注水が行われないシビアアクシデントが、万が一、原子力プラントに発生した場合には、燃料棒の温度が上昇し、やがて、各燃料棒内の核燃料物質が溶融する。核燃料物質の溶融に伴い、核燃料物質を内部に充填している、燃料棒の構造部材であるジルコニウム合金製の被覆管、燃料集合体の構造部材であるジルコニウム合金製の上部タイプレート及び下部タイプレート等、さらには、下部炉心支持板及び制御棒案内管等のステンレス鋼製の構造部材を溶融し、核燃料物質及びこれらの構造部材の溶融物を含む燃料デブリが生成される。溶融した燃料デブリは、原子炉圧力容器の底部である下鏡部の上面に落下し、この下鏡部を溶融して原子炉圧力容器を取り囲む原子炉格納容器の底部に落下する可能性もある。
【0004】
原子炉圧力容器の底部を貫通して溶融した燃料デブリが原子炉格納容器の底部に落下した場合には、原子炉格納容器の気密性を保持するために原子炉格納容器の底部に設けられた金属製のライニング部材が落下した高温の燃料デブリによって溶融され、さらに、ライニング部材の下方に存在するコンクリートも溶融され、原子炉格納容器の気密性が損なわれる可能性が有る。
【0005】
このため、原子炉格納容器の損傷を避け、原子炉格納容器の気密性を保持する目的で、原子炉圧力容器から落下する、高温の溶融した燃料デブリを受け止める炉心溶融物保持装置が、原子炉圧力容器の下方に位置するペデスタル床の上に配設される。炉心溶融物保持装置の例が、特許文献1に記載されている。
【0006】
特許文献1に記載の炉心溶融物保持装置は、原子炉圧力容器の下方でペデスタルの内側において、原子炉格納容器の床上に配設される。この炉心溶融物保持装置は、中空の円盤状に構成され、外縁部から中央部に向かって傾斜する逆円錐状の上面を有する給水容器、給水容器の上方に配置されてその上面を覆う逆円錐状の上蓋、及び上蓋の上を覆う逆円錐状の断熱材層を有し、給水容器の中央部に向かって傾斜している冷却チャンネルを給水容器と上蓋の間に形成している。断熱材層は、上蓋から上方に向かって第1耐熱層及び第2耐熱層を配置し、上蓋と第1耐熱層の間に第1目地部、及び第1耐熱層と第2耐熱層の間に第2目地部を配置して構成される。第1耐熱層は第2耐熱層よりも熱伝導性が高くなっており、第2目地部は第1目地部よりも熱伝導性が低くなっている。
【0007】
溶融している燃料デブリは、原子炉圧力容器から、断熱材層、具体的には、第2耐熱層上に落下する。燃料デブリが落下した第2耐熱層上、及びその燃料デブリ上に冷却水が注水され、冷却チャンネルにも冷却水が供給される。これにより、落下した燃料デブリが冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−062859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されているように、従来の炉心溶融物保持装置は、デブリ保持部である耐熱層(例えば、高融点の酸化物)を積層して使用している。これらの層は、機械的性質、融点などで分けられていることが多い。これは、溶融した燃料デブリが重量物であること、及び2000度近くの高温であることに起因している。特に、デブリと直接接する層には、2700度と融点が高くかつ熱衝撃性の高いジルコニアを主体とする酸化物が使用されることが多い。一方で、初期状態ではデブリと直接接しない領域には、ジルコニアに比して融点の低い酸化物(例えばアルミナ)が使用されている。
【0010】
溶融した燃料デブリが炉心溶融物保持装置のデブリ保持部のジルコニアから構成された第一層(上部層)に接触すると、燃料デブリに含まれるジルコニウム及びウランが、第一層のジルコニアを還元し、さらに、長時間保持の間還元反応が進行すると、第一層のジルコニア中の酸素濃度が低下する。さらに、第一層であるジルコニア中の酸素濃度の低下は、第二層(下部層)の還元反応を誘発する。第一層であるジルコニアが還元されてジルコニウムになっても融点1840度は維持される。しかし、第二層に還元反応が生じると、例えば融点が2050度のアルミナは融点660度のアルミニウムに還元される。すなわち、第二層が容易に溶融してしまうため、炉心溶融物の性能が大きく劣化することを発明者らが見出した。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、燃料デブリによって還元された上部層による下部層の還元反応を抑制することにより耐侵食性を維持することが可能な炉心溶融物保持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、原子炉圧力容器の下方のペデスタル床の上に配設される炉心溶融物保持装置において、ジルコニアを基質とする第1酸化物で構成された上部層と、前記ジルコニアを還元したジルコニウムよりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第1元素を主体とする金属の酸化物を基質とする第2酸化物で構成された下部層と、前記上部層と前記下部層との間に配置され、前記ジルコニウム及び前記第1元素よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第2元素を主体とする金属又はその酸化物を基質とする第3酸化物で構成された中間層とを備えたものとする。
【0013】
原子炉格納容器でシビアアクシデントが発生し、原子炉圧力容器から溶融している燃料デブリが上部層(ジルコニアを基質とする第1酸化物)に落下すると、燃料デブリに含まれている金属元素によって第1酸化物が還元され、時間の経過と共に第1酸化物中の酸素濃度が低下する。
【0014】
上述した本発明において、第2元素を主体とする金属で中間層を構成した場合は、中間層は酸素を含まないため、酸素濃度の低下した第1酸化物によって中間層が還元されることはない。また、中間層を構成する第2元素は、下部層(第2酸化物)を還元した第1元素よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する(酸素と結合し難い)ため、中間層によって下部層が還元されることはない。
【0015】
一方、上述した本発明において、第3酸化物で中間層を構成した場合は、中間層が酸素を含みかつ第3酸化物を還元した第2元素は第1酸化物を還元したジルコニウムよりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する(酸素と結合し難い)ため、酸素濃度が低下した第1酸化物によって中間層(第3酸化物)が第2元素に還元される。しかし、中間層(第3酸化物)を還元した第2元素は、下部層(第2酸化物)を還元した第1元素よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する(酸素と結合し難い)ため、この場合も中間層によって下部層が還元されることはない。
【0016】
このように、第2元素を主体とする金属又はその酸化物である第3酸化物で構成された中間層を上部層と下部層との間に配置したことにより、燃料デブリによって還元された上部層(ジルコニウム)による下部層(第2酸化物)の還元反応を抑制し、下部層の融点を高く保持することができるため、炉心溶融物保持装置の耐侵食性を保持することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、燃料デブリによって還元された上部層による下部層の還元反応を抑制することにより炉心溶融物保持装置の耐侵食性を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る炉心溶融物保持装置が適用される沸騰水型原子炉の概略構成図である。
図2】本発明の第1及び第2の実施例に係る炉心溶融物保持装置の断面図である。
図3】本発明の第3の実施例に係る炉心溶融物保持装置の断面図である。
図4】本発明の第4の実施例に係る炉心溶融物保持装置の一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明者らは、燃料デブリによる還元反応を抑制して耐熱層の侵食を防止できる炉心溶融物保持装置について、種々の検討を行った。この検討結果を以下に説明する。
【0020】
発明者らは、発明者らが見出した前述の問題を改善するために、溶融した燃料デブリによる還元反応、特に、その燃料デブリに含まれるジルコニウム及びウランによる還元反応を抑制する対策案を検討した。この検討において、発明者らは、耐熱材により構成された耐熱層である上部層と下部層との間に、上部層を構成するジルコニアを基質とする第1酸化物を還元したジルコニウム及び下部層を構成する第2酸化物を還元した第1元素よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第2元素を主体とする金属又はその酸化物を基質とする第3酸化物で構成された中間層を設置すれば良いとの発想に至った。すなわち、この場合の炉心溶融物保持装置は、ジルコニアを基質とする第1酸化物で構成された上部層と、第2酸化物で構成された下部層と、第2元素を主体とした金属又はその酸化物を基質とする第3酸化物で構成された中間層とを有する。
【0021】
上部層を構成する第1酸化物は、ジルコニア(ZrO)を基質とし、ジルコニアを安定に保つためのイットリア(Y)、カルシア(CaO)等や不可避酸化物であるハフニア(HfO)等、また、焼結工程を経て製造されるときにバインダ材として混入される二酸化ケイ素(SiO)、アルミナ(Al)及びベリリア(BeO)等から構成される。
【0022】
下部層を構成する第2酸化物は、ジルコニウムよりも高い酸化物生成エネルギーを有する元素を主体とした金属の酸化物を基質とする。第2酸化物の代表例として、アルミナ(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)、およびベリリア(BeO)を基質とする酸化物が挙げられる。これらを基質とするため、アルミナ(Al)及び二酸化ケイ素(SiO)からなるムライトのような酸化物も含むものとする。なお、ここでのケイ素(Si)は、βスズ構造のケイ素であり、金属である。
【0023】
中間層は、下部層を構成する第2酸化物を還元した第1元素よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有し、かつ第1元素よりも高い融点を有する第2元素を主体とする金属で構成される。第2元素を主体とする金属の代表例としては、Fe基合金、Cr基合金、Si基合金、Cu基合金及びAu基合金等が挙げられる。また、中間層は、それら金属の酸化物、すなわち、酸化鉄(例えば、Fe)、クロム酸化物(例えば、Cr)、二酸化ケイ素(SiO)等のうちの1つ又は2つ以上の組合せにより構成される。主な元素の1000Kにおける酸化物生成自由エネルギーは、ジルコニウム:−820kJ/mol、アルミニウム:−780kJ/mol、ケイ素:−640kJ/mol、鉄:−340kJ/molである。中間層を構成する材料は、第2酸化物を還元した元素よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第2元素を主体とした金属又はその酸化物を基質とする第3酸化物の中から選択される。
【0024】
まず、第1酸化物である安定化ジルコニアで構成された上部層と、ジルコニアを還元したジルコニウムよりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第1元素(M1)を主体とした金属の酸化物(M1O)を基質とする第2酸化物で構成された下部層と、第2酸化物の基質(M1O)を還元した第1元素(M1)よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第2元素(M2)を主体とした金属で構成された中間層とを備えた炉心溶融物保持装置を考える。
【0025】
シビアアクシデントが発生したときに原子炉圧力容器から落下した溶融した燃料デブリが最初に接触する上部層が、第1酸化物である安定化ジルコニアであり、ジルコニアは溶融デブリに含まれる金属元素(M0)(例えば、ジルコニウムやウラン)により、下記の(1)式に示すように、還元される。
ZrO+M0→ Zr+M0O …(1)
なお、燃料デブリ中のジルコニウムは、エントロピー安定化のため、(1)式のように上部層中のジルコニアを還元する。
【0026】
上部層を構成するジルコニアは、酸素伝導性が非常に高い性質を有する。このため、上部層においては、酸素濃度を空間的に一定に保つように上部層の下部領域から酸素濃度が低下したデブリ接触面近傍に向けて、酸素が拡散する。一方で、デブリ接触面においては、(1)式に示した還元反応が進行するため、上部層全体の酸素濃度は低下する。結果として、上部層の下部領域では、酸素濃度が低い状態が発生する。この領域は、未酸化のジルコニウムを含むため、強い酸化力を有する。
【0027】
もしこの酸化力を有する領域が第2酸化物に接触すると、第2酸化物は還元され、融点が著しく低下する。例えば、第2酸化物が融点2050度のアルミナからなる場合、還元されると融点660度のアルミニウムになり、容易に溶融するおそれがある。
【0028】
しかし、上部層と下部層の間に中間層を配置した場合、強い酸化力を有する上部層の下部領域は、下部層ではなく中間層に接触する。第2元素(M2)を主体とした金属で構成された中間層は酸素を含まないため、酸化力をもつ上部層は、中間層から酸素を引き抜くことができない。よって、デブリ保持部内で発生する還元反応は、中間層よりも下方へ伝わることはない。したがって、長時間にわたって上部層がどれほど還元されようとも、下部層に還元反応が生じることはなく、下部層の融点は保持される。
【0029】
次に、第1酸化物である安定化ジルコニアで構成された上部層と、ジルコニアを還元したジルコニウムよりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第1元素(M1)を主体とする金属の酸化物(M1O)を基質とする第2酸化物で構成された下部層と、ジルコニウム及び第1元素(M1)を主体とする金属よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第2元素(M2)を主体とする金属の酸化物(M2O)を基質とする第3酸化物で構成された中間層とを備えた炉心溶融物保持装置を考える。
【0030】
このように第2元素(M2)を主体とする金属の酸化物(M2O)を基質とする第3酸化物で中間層を構成した場合においても、上述した第2元素(M2)を主体とする金属で中間層を構成した場合と同様に、燃料デブリが上部層に還元反応を生じさせるため、長時間経過後では、ジルコニアを主体とする上部層下部領域において酸化力の強い状態となる。
【0031】
この場合の中間層は酸化物(第3酸化物)で構成されているため、上部層下部領域においる酸化力の強いジルコニウムは、以下の(2)式に示すように、中間層を構成している第3酸化物の基質(M2O)を還元する。
M2O+Zr→ M2+ZrO …(2)
このように、中間層を構成する第3酸化物の基質(M2O)は、上部層により還元され、第2元素(M2)を主体とする金属の状態となる。この中間層の第2元素(M2)は、下部層を構成する第2酸化物の基質(M1O)を還元した第1元素(M1)よりも高い酸化物生成エネルギーを有する(酸素と結合し難い)ため、下部層の第3酸化物の基質(M2O)に還元反応を生じさせることはない。よって、長時間にわたり上部層がどれほど還元されようとも、下部層に還元反応が生じることはなく、下部層の融点は保持される。
【0032】
上記の検討結果を反映した本発明の実施例を、図面を用いて以下に詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
本発明の第1の実施例に係る炉心溶融物保持装置を、図1及び図2を用いて説明する。図1は、本発明に係る炉心溶融物保持装置が適用される沸騰水型原子炉の概略構成図であり、図2は、本実施例に係る炉心溶融物保持装置の断面図である。
【0034】
図1に示すように、沸騰水型原子炉は、内部に炉心11を配置した原子炉圧力容器7を有する。核燃料物質を内部に充填した複数の燃料棒(図示せず)を有する複数の燃料集合体12が、炉心11に装荷されている。原子炉圧力容器7は、原子炉格納容器9によって取り囲まれており、原子炉格納容器9内で原子炉格納容器床10上に設置された円筒状のペデスタル8の内側に取り付けられている。原子炉圧力容器7の下部には、複数の制御棒14が炉心11内に挿入可能に設けられている。
【0035】
炉心11は原子炉圧力容器7内に設置された円筒状の炉心シュラウド13の内側に配置され、原子炉圧力容器7の内面と炉心シュラウド13の外面の間に環状のダウンカマが形成される。原子炉圧力容器7に設置される複数のジェットポンプ(図示せず)がダウンカマ内に配置される。再循環ポンプを有する再循環系配管の一端部が、原子炉圧力容器7の側壁に接続されてダウンカマに連絡される。再循環系配管の他端部は、ダウンカマ内に配置された上昇管であるライザー管を介してジェットポンプのノズル(図示せず)に連絡される。
【0036】
炉心溶融物保持装置1は、原子炉圧力容器7の下方に位置する、原子炉格納容器床10のうちペデスタル8で囲まれた部分(以下「ペデスタル床」という。)6の上に配設され、ペデスタル床6の上面全体とペデスタル8下端部分の内周面とを覆っている。
【0037】
図2に示すように、炉心溶融物保持装置1は、ペデスタル床6の上面全体を覆うように配置された下部層3と、この下部層3全体の上に重ねて配置された中間層4と、この中間層4の上に重ねて配置された上部層2とを備えている。
【0038】
上部層2は、中間層4の上に重ねて配置された底部2aと、この底部2aの外縁部から立設され、かつペデスタル8下端部分の内周面に沿って配置された環状部2bとを有する。このように環状部2bを設けたことより、燃料デブリ5が底部2a上に広がった場合でも、燃料デブリ5がペデスタル8の内周面に接触することを防止し、燃料デブリ5からペデスタル8への熱伝達を遅らせることが可能となる。
【0039】
上部層2は、ジルコニウムの酸化物であるジルコニアを主体とする第1酸化物で構成される。下部層3は、ジルコニウムよりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第1金属の酸化物を主体とする第2酸化物で構成される。中間層4は、ジルコニウム及び第1元素よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第2元素を主体とした金属又はその酸化物を基質とする第3酸化物で構成される。
【0040】
炉心溶融物保持装置1の上部層2及び下部層3のそれぞれは、セラミックスで構成される。セラミックスは、焼結工程を経て製造されるため、一般に、そのサイズをあまり大きくすることができない。このため、直径が10mオーダーのサイズである炉心溶融物保持装置1では、上部層2及び下部層3のそれぞれを1枚のセラミックスで製作することができない。従って、上部層2及び下部層3は、セラミックスであるの小さなタイル材(板材)又はブロック材を敷き詰め、さらに、そのタイル材又はブロック材を積層することによって製作される。
【0041】
本実施例によれば、上部層2を構成する第1酸化物の基質(ジルコニア)を還元したジルコニウム及び下部層3を構成する第2酸化物の基質を還元した第1元素よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第2元素を主体とする金属又はその酸化物を基質とする第3酸化物で構成された中間層を上部層2と下部層3との間に配置したことにより、燃料デブリによって還元された上部層2(ジルコニウム)による下部層3(第2酸化物)の還元反応を抑制し、下部層3の融点を高く保持することができるため、炉心溶融物保持装置1の耐侵食性を保持することが可能となる。
【0042】
なお、下部層3は必ずしも第2酸化物のみで構成する必要はなく、複数の材料を重ねた多層構造としても良い。例えば、第2酸化物の酸素伝達性が高くない場合は、下部層3のうち中間層4と接する上層部分のみに第2酸化物を配置し、この上層部分を除いた下層部分に第2酸化物よりも熱伝導率の低い酸化物を配置することにより、燃料デブリ5からペデスタル床6への熱伝達を遅らせることが可能となる。
【実施例2】
【0043】
本発明の第2の実施例に係る炉心溶融物保持装置について説明する。本実施例に係る炉心溶融物保持装置は、下部層3を構成する第2酸化物としてアルミナ基セラミクスを用いたものである。なお、本実施例に係る炉心溶融物保持装置1の構造は第1の実施例(図2に示す)で説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0044】
アルミナ基セラミクスの基質であるアルミナ(Al)は、融点が2000度と高く、下部層3を構成する第2酸化物として適しているが、還元されると融点660度のアルミニウムになり、容易に溶解するおそれがある。このようなアルミナ基セラミクスで下部層3が構成されている場合の中間層4に適した材料の1つとしてSUSが挙げられる。SUSは、上部層2を構成する第1酸化物の基質(ジルコニア)を還元したジルコニウム及び下部層3を構成する第2酸化物(アルミナ基セラミクス)の基質(アルミナ)を還元した第1元素(アルミニウム)よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第2元素を主体とする金属である。
【0045】
本実施例によれば、ジルコニアを基質とする第1酸化物で構成された上部層2とアルミナ基セラミクスで構成された下部層3との間にSUSで構成された中間層4を配置したことにより、燃料デブリによって還元された上部層2(ジルコニウム)による下部層3(アルミナ)の還元反応を抑制し、下部層3の融点を高く保持することができるため、炉心溶融物保持装置1の耐侵食性を維持することが可能となる。
【0046】
また、SUSの融点は1400度以上であるため、中間層4をSUSで構成することにより、炉心溶融物保持装置1の耐侵食性を向上させることが可能となる。さらに、SUSは耐食性に優れているため、中間層4をSUSで構成することは、数十年もの長期間維持する可能性のある炉心溶融物保持装置1の信頼性を確保する上でも有効である。
【0047】
その他、第2酸化物がアルミナ基セラミクスの場合の中間層4に適した材料として、四酸化三鉄(Fe)粉末をシリカ(SiO)接着剤で凝固したものが挙げられる。シリカ(SiO)を還元したケイ素(Si)も1300度を越える高い融点を有するため、中間層4を当該材料で構成することにより、炉心溶融物保持装置1の耐侵食性を向上させることが可能となる。上述した材料も含め、第2酸化物がアルミナ基セラミクスの場合の中間層に適した材料(第2元素又は第3酸化物)の例を表1に示す。
【0048】
【表1】
【実施例3】
【0049】
本発明の第3の実施例に係る炉心溶融物保持装置を、図3を用いて説明する。図3は、本実施例に係る炉心溶融物保持装置の断面図である。以下、第1又は第2の実施例に係る炉心溶融物保持装置1(図2に示す)との相違点を中心に説明する。
【0050】
本実施例に係る炉心溶融物保持装置1Aは、沸騰水型原子炉に適用される。炉心溶融物保持装置1Bは、第1及び第2の実施例に係る炉心溶融物保持装置1(図2に示す)と同様に、原子炉圧力容器7の下方に位置するペデスタル床6の上に設置され、ペデスタル床6全体とペデスタル8下端部分の内周面とを覆っている。
【0051】
第1の実施例に係る炉心溶融物保持装置1(図2に示す)は、上部層2と下部層3との間に中間層4を追加した3層構造を有するため、従来の炉心溶融物保持装置と比べて肉厚となるおそれがある。一方、沸騰水型原子炉では、図1に示すように、原子炉圧力容器7の下部に設けられた制御棒14等の装置がペデスタル床6の近傍まで伸びているため、厚肉の炉心溶融物保持装置を設置できない可能性がある。本実施例は、炉心溶融物保持装置を薄肉化することにより、ペデスタル床6上のスペースが限られている沸騰水型原子炉への適用を可能とするものである。
【0052】
図3に示すように、本実施例に係る炉心溶融物保持装置1Aは、上部層2及び中間層4のみから構成され、下部層3(図2に示す)を備えていない。
【0053】
炉心溶融物保持装置が耐熱層として上部層2しか備えていなかった場合、ペデスタル床6を構成しているコンクリートの主成分であるシリカ(SiO)やカルシア(CaO)が、燃料デブリによって還元された上部層2(ジルコニウム)によって還元され、ペデスタル床6の融点が低下するおそれがある。
【0054】
これに対し、本実施例に係る炉心溶融物保持装置1Aによれば、ペデスタル床6を構成しているコンクリートに含まれる酸化物を還元した元素よりも高い酸化物生成自由エネルギーを有する第2元素を主体とする金属又はその酸化物を基質とする第3酸化物で構成された中間層4を上部層2とペデスタル床6との間に配置したことにより、ペデスタル床6を構成しているコンクリートの還元反応を抑制し、ペデスタル床6の融点を高く保持することができるため、ペデスタル床6の耐侵食性を維持することが可能となる。なお、中間層4を構成するのに適した材料(第2元素又は第3酸化物)は、第2の実施例で挙げたもの(表1に示す)と同様である。
【実施例4】
【0055】
本発明の第4の実施例に係る炉心溶融物保持装置を、図4を用いて説明する。図4は、本実施例に係る炉心溶融物保持装置1Bの一部拡大断面図である。以下、第1又は第2の実施例に係る炉心溶融物保持装置1(図2に示す)との相違点を中心に説明する。
【0056】
上述した第1又は第2の実施例に係る炉心溶融物保持装置1(図2に示す)においては、中間層4が融点に達して溶融した場合、中間層4を構成していた部材が上部層2と下部層3との間隙部から流出して上部層2と下部層3とが接触し、上部層2により下部層3が還元されるおそれがある。これに対し、本実施例に係る炉心溶融物保持装置1Bは、中間層4が融点に達して溶融し、上部層2と下部層3との間隙から流出した場合の上部層2と下部層3との接触面積を小さくすることにより、燃料デブリによって還元された上部層2(ジルコニア)による下部層3の還元反応を抑制するものである。以下、第1又は第2の実施例との相違点を中心に説明する。
【0057】
図4(a)に示すように、下部層3の最上部を構成している耐熱材ブロックの上面には、多数の凹み部3aが形成されている。凹み部3aの数、形状及び配置は、適時選択可能である。なお、図4(a)に示す例では、中間層4が板材で構成されているため、凹み部3aの内部は空洞となっているが、中間層4の構成する材料が酸化物で粉末状の場合は、凹み部3aの内部にも中間層4を構成する材料が充填される。
【0058】
本実施例に係る炉心溶融物保持装置1Bによれば、第1又は第2の実施例と同様の効果に加えて、以下の効果が得られる。
【0059】
下部層3の上面に凹み部3aを形成したことにより、図4(b)に示すように、中間層4が溶融して上部層2と下部層3との間隙から流出した後も、上部層2と下部層3との接触面積を小さくすることができるため、燃料デブリによって還元された上部層2(ジルコニア)による下部層3(第2酸化物)の還元反応を抑制することが可能となる。また、この時、中間層4の溶融物が凹み部3aに充填されるため、凹み部3aが空洞の場合と比較して、炉心溶融物保持装置1Bの構造強度を向上させることができる。
【0060】
なお、下部層を有さない第3の実施例に係る炉心溶融物保持装置1A(図3に示す)の場合は、ペデスタル床6の上面に凹み部を形成することにより、中間層4が溶融して上部層2とペデスタル床6との間隙から流出した場合でも、上部層2と下部層3との接触面積を小さくすることができるため、上部層2によるペデスタル床6の還元反応を抑制することが可能となる。
【0061】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。例えば、上記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成の一部を加えることも可能であり、ある実施例の構成の一部を削除し、あるいは、他の実施例の一部と置き換えることも可能である。
【0062】
また、第1〜第4の実施例に係る各炉心溶融物保持装置は、原子炉格納容器9の構造をほとんど変更することなく原子炉圧力容器7の下方に設置することが可能であるため、新設の原子力プラントは勿論のこと、既設の原子力プラントにも適用することができる。
【0063】
また、第1〜第4の実施例に係る各炉心溶融物保持装置は、加圧水型原子炉にも適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1,1A,1B…炉心溶融物保持装置、2…上部層、2a…底部、2b…環状部、3…下部層、3a…凹み部、4…中間層、5…燃料デブリ、6…ペデスタル床、7…原子炉圧力容器、8…ペデスタル、9…原子炉格納容器、10…原子炉格納容器床、11…炉心、12…燃料集合体、13…炉心シュラウド、14…制御棒。
図1
図2
図3
図4