特許第6727852号(P6727852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6727852
(24)【登録日】2020年7月3日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】ヘッドホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20200713BHJP
【FI】
   H04R1/10 101Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-38864(P2016-38864)
(22)【出願日】2016年3月1日
(65)【公開番号】特開2017-158006(P2017-158006A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年12月5日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 博道
【審査官】 堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−042382(JP,A)
【文献】 特開2010−263460(JP,A)
【文献】 特開平06−113384(JP,A)
【文献】 特開2010−087993(JP,A)
【文献】 特開2015−005852(JP,A)
【文献】 特開2015−088777(JP,A)
【文献】 特開2010−093482(JP,A)
【文献】 特開2005−311448(JP,A)
【文献】 特開2012−065083(JP,A)
【文献】 特開2007−235389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッフル板と、前記バッフル板に取り付けられるドライバユニットと、前記バッフル板及び前記ドライバユニットの背面側にバックキャビティを形成するハウジングと、前記バッフル板の前面側の周縁部に取り付けられ、該バッフル板の前面側にフロントキャビティを形成するイヤパッドと、を備え、
前記バッフル板は、
前記バッフル板の前記周縁部から前記ドライバユニットが配置される中央部に向かって前記ハウジング側に傾斜する傾斜面を有し、前記ハウジング側に凸な山型で、
前記バッフル板と前記ドライバユニットとの前面側に前記フロントキャビティと音響的に連通する前面側空間を形成し、
前記バックキャビティと前記前面側空間とを音響的に連通させる連通孔を有する、
ことを特徴とするヘッドホン。
【請求項2】
記連通孔は、前記傾斜面に配置される、
請求項1に記載されたヘッドホン。
【請求項3】
前記バッフル板は、
前記周縁部と前記傾斜面との間を接続する円筒状の周面、
を有し、
前記前面側空間は、前記ドライバユニットと、前記傾斜面と、前記周面と、により形成される、
請求項2に記載されたヘッドホン。
【請求項4】
前記ドライバユニットから前記バックキャビティに放射された音波は、前記連通孔と前記前面側空間とを通過して前記フロントキャビティに伝播する、
請求項2または3のいずれかに記載されたヘッドホン。
【請求項5】
前記バッフル板の前記連通孔を覆う音響抵抗材を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載されたヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドホンに関し、例えばダイナミック型のヘッドホンにおいて、全音域における音質を低下させることなく、特に低域の音質調整を容易に行うことができるようにしたヘッドホンに関する。
【背景技術】
【0002】
図3に従来の密閉型ヘッドホンの断面図を示す(例えば特許文献1)。図3において、皿形のハウジング20の開放端部にはバッフル板2が嵌められ、バッフル板2に開けられた孔にはドライバユニット3が嵌め込まれている。ドライバユニット3は、周知のとおり、スピーカユニットとほぼ同じ構成となっている。即ち、ドライバユニット3は、図示しないが、ヨーク、磁石、ポールピースなどからなる磁気回路部と、ダイヤフラム状の振動板と、この振動板に固着されて前記磁気回路部に形成されている磁気ギャップ中に配置されるボイスコイルとを有している。
【0003】
前記ドライバユニット3は、振動板が配置されている側が前側(図において下側)になり、前記ハウジング20は、バッフル板2の背面側とドライバユニット3の背面側とを覆い密閉している。ハウジング20の内面とバッフル板2及びドライバユニット3の背面との間には、適宜容積のバックキャビティ4が形成されている。
また、バッフル板2の前面側外周部にはリング状のイヤパッド5が固着されている。イヤパッド5で囲まれる空間はフロントキャビティ6となっており、ユーザが使用しているとき、ユーザの側頭部にイヤパッド5が押し当てられ、フロントキャビティ6にユーザの耳が収容される。
【0004】
また、図3に示す密閉型ヘッドホンにおいて、主として低音域の音質調整を行うために、バックキャビティ4内に音響抵抗材7を装着している。また、図示するようにバックキャビティ4とフロントキャビティ6とを連通させるためにバッフル板2に孔8を形成し、この孔8を制動材すなわち高い音響抵抗をもつ音響抵抗材で覆うことも有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許5253072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図3に示した従来のヘッドホンにあっては、ドライバユニット3の背面側(バックキャビティ4)に放射された逆位相の音波は、バックキャビティ4とフロントキャビティ6とを連通するための孔8を通過してフロントキャビティ6側に伝播することになる。
【0007】
しかしながら、前記孔8はイヤパッド5の近傍に配置されるため、バックキャビティ4から孔8を通過した音波の殆どはイヤパッド5を介してフロントキャビティ6側に伝播する。このため、低域の音波が充分にフロントキャビティ6側に抜けることができず、フロントキャビティ6側において低域成分が効果的にキャンセルされず、低域の音質が悪化するという課題があった。
【0008】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、ドライバユニットの背面側にバックキャビティが形成されるとともに前記ドライバユニットの前面側にフロントキャビティが形成されるヘッドホンにおいて、前記ドライバユニットからバックキャビティに放音された音波をフロントキャビティ側において効果的にキャンセルし、低域の音質を改善することのできるヘッドホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するために、本発明に係るヘッドホンは、バッフル板と、前記バッフル板に取り付けられるドライバユニットと、前記バッフル板及び前記ドライバユニットの背面側にバックキャビティを形成するハウジングと、前記バッフル板の前面側の周縁部に取り付けられ、該バッフル板の前面側にフロントキャビティを形成するイヤパッドと、を備え、前記バッフル板は、前記バックキャビティと前記フロントキャビティとを音響的に連通させる連通孔を有し、前記ドライバユニットから前記バックキャビティに放射された音波は、前記連通孔を通過し、前記ドライバユニットから前記フロントキャビティに放射された音波と連通することに特徴を有する。
【0010】
尚、前記バッフル板において、その周縁部から前記ドライバユニットの取り付け位置までの高さを確保することにより、前記バッフル板の連通孔と、前記イヤパッドとの間には、前記フロントキャビティと音響的に連通する空間が形成されていることが望ましい。
また、前記バッフル板が有する連通孔は、前記イヤパッドから離間した位置に形成され、前記ドライバユニットから前記バックキャビティに放射された音波は、前記連通孔を通過し、前記空間を介して前記フロントキャビティに音響的に連通することが望ましい。
また、前記バッフル板の連通孔を覆う音響抵抗材を備えることが望ましい。
【0011】
このような構成によれば、バックキャビティとフロントキャビティとを連通するための連通孔が、イヤパッドから離間した位置に形成され、バッフル板の前面側には、前記バックキャビティが前記連通孔を介して音響的に連通する前面側空間が形成される。これにより、バックキャビティから連通孔を通過した音波は、イヤパッドを介さず、前記前面側空間を通ってフロントキャビティに伝播することになる。
その結果、バックキャビティに放音された逆位相の低域の音波を前面側空間又はフロントキャビティにおいて効果的にキャンセルすることができ、音質を改善することができる。
【発明の効果】
【0012】
ドライバユニットの背面側にバックキャビティが形成されるとともに前記ドライバユニットの前面側にフロントキャビティが形成されるヘッドホンにおいて、前記ドライバユニットからバックキャビティに放音された音波をフロントキャビティ側において効果的にキャンセルし、低域の音質を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係るヘッドホンの断面図である。
図2図2は、図1のヘッドホンにおける音波の伝播を説明するための断面図である。
図3図3は、従来のヘッドホンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1は、本発明に係るヘッドホンの断面図である。本実施の形態においては、密閉型のダイナミック型ヘッドホンに本発明を適用する場合を例に説明する。
尚、本発明に係るヘッドホンにあっては、そのドライバユニット等は、図3に示した構成と同様の構成を用いることができる。そのため、図1図2において、図3の構成と共通可能な部材は同じ符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0015】
図1に示すダイナミック型のヘッドホン1はドライバユニット3を備え、このドライバユニット3は、振動板10、磁気回路部11、及び磁気回路部11に形成された磁気ギャップ中に配置されるボイスコイル12などを有している。
また、ヘッドホン1は、略皿形状状のハウジング20の開放側端部に対し、ドライバユニット3を保持する山型のバッフル板13が凸側をハウジング20側に向けて嵌められる。前記ハウジング20とドライバユニット3の背面側とにより形成される空間はバックキャビティ4である。
また、前記バッフル板14の前面側(図において下側)には、リング状のイヤパッド5が設けられる。このイヤパッド5により囲われた空間はフロントキャビティ6である。
【0016】
前記バッフル板13は、前記のように山型であり、その周縁部から中央部までの高さが、従来のバッフル板の構成よりも大きく確保され、前記中央部にドライバユニット3が配置されている。
具体的には、図2に示すように、バッフル板13の周縁部からケース20の頂部までの距離Lに対し、バッフル板13の周縁部からドライバユニット3のボイスコイル12の位置(ボイスコイル12が振動板10に取り付けられる位置)までの距離が、例えばL/2となるように配置される。
これによりバッフル板13の周縁部からドライバユニット3までの高さが確保され、図示するように前面側空間18が形成されている。
【0017】
また、磁気回路部11のフレーム11aには振動板10の背面側から放射された音波をバックキャビティ4に通すための連通孔15が形成されている。前記バッフル板13には、バックキャビティ4と前記前面側空間18とを連通するための連通孔14が形成されている。尚、この連通孔14は、低域の音質を微調整するために制動材すなわち高い音響抵抗をもつ音響抵抗材16で覆われている。連通孔14、15はバッフル板13とフレーム11aにそれぞれ複数個形成される。
【0018】
したがって、振動板10の背面側から放射された逆位相の音波は、連通孔15を通ってバックキャビティ4側に伝播し、さらにバッフル板13の連通孔14を通って前記前面側空間18に伝播するように構成されている。このため、前記バックキャビティ4側に伝播した逆位相の音波のうち、指向性を持たない低域の音波が、前面側空間18及びフロントキャビティ6側において効果的にキャンセルされるようになっている。
【0019】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、バックキャビティ4とフロントキャビティ6とを連通するための連通孔14が、イヤパッド5から離間した位置に形成され、バッフル板13の前面側には、前記バックキャビティ4が前記連通孔14を介して音響的に連通する前面側空間18が形成される。これにより、バックキャビティ4から連通孔14を通過した音波は、イヤパッド5 を介さず、前記前面側空間18を通ってフロントキャビティ6に伝播することになる。
その結果、バックキャビティ4に放音された逆位相の低域の音波を前面側空間18又はフロントキャビティ6において効果的にキャンセルすることができ、音質を改善することができる。
【0020】
尚、前記実施の形態においては、本発明に係るヘッドホンの例として、ダイナミック型のヘッドホンを例に説明したが、本発明にあっては、これに限定されるものではなく、その他の駆動方式のヘッドホンにも適用することができる。
また、前述したバッフル板の周縁部からドライバユニットのボイスコイルの位置までの距離はL/2に限定されるものではない。
【0021】
また、前記実施の形態においては、本発明が最も有効と思われる密閉型のヘッドホンについて説明したが、本発明にあっては、これに限定されるものではなく、開放型のヘッドホンにも適用することができる。
【符号の説明】
【0022】
1 ヘッドホン
3 ドライバユニット
4 バックキャビティ
5 イヤパッド
6 フロントキャビティ
12 ボイスコイル
13 バッフル板
14 連通孔
15 連通孔
16 音響抵抗材
18 前面側空間(空間)
20 ハウジング
図1
図2
図3