特許第6727984号(P6727984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6727984
(24)【登録日】2020年7月3日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/08 20060101AFI20200713BHJP
   C25B 1/10 20060101ALI20200713BHJP
   C25B 9/00 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
   C25B15/08 302
   C25B1/10
   C25B9/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-159367(P2016-159367)
(22)【出願日】2016年8月15日
(65)【公開番号】特開2018-28116(P2018-28116A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2019年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014579
【氏名又は名称】デノラ・ペルメレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100079614
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 敏弘
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 明義
(72)【発明者】
【氏名】大原 正浩
【審査官】 西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2019/049265(WO,A1)
【文献】 特開2009−191333(JP,A)
【文献】 特開平09−003680(JP,A)
【文献】 特開平04−254596(JP,A)
【文献】 特開昭63−210288(JP,A)
【文献】 特開平09−010781(JP,A)
【文献】 特開2010−029841(JP,A)
【文献】 特開2016−014179(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0107932(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/08
C25B 1/10
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極を収容する陽極室と、陰極を収容する陰極室と、前記陽極室と前記陰極室とを区画する隔膜と、を備える電解槽と、
前記陰極室に接続し、水素ガスを含む陰極側電解液を前記陰極室から排出する陰極側電解液排出ラインと、
前記陰極側電解液排出ラインに接続し、前記陰極側電解液から前記水素ガスを分離する陰極側気液分離手段と、
前記陰極側気液分離手段に接続し、前記陰極側気液分離手段により分離された前記水素ガスを前記陰極側気液分離手段から排出する水素ガス排出ラインと、
前記水素ガス排出ラインに接続する気体圧縮手段と、
を備え、
前記気体圧縮手段は、
前記水素ガス排出ラインに接続する陰極側エジェクタと、
前記水素ガスと前記気体圧縮手段内を流通する陰極側循環用液体とを貯留する陰極側貯留タンクと、
前記陰極側エジェクタと前記陰極側貯留タンクとを連結し、前記陰極側エジェクタから前記陰極側貯留タンクに前記陰極側循環用液体と前記水素ガスとの混合流体を搬送する陰極側混合流体搬送パイプと、
前記陰極側貯留タンクと前記陰極側エジェクタとを連結し、前記陰極側貯留タンクから前記陰極側エジェクタに前記陰極側循環用液体を搬送する陰極側循環パイプと、
前記陰極側循環パイプに設置される陰極側循環ポンプと、
前記陰極側貯留タンクに接続し、前記陰極側貯留タンクから前記水素ガスを排出する水素ガス排出パイプと、
前記水素ガス排出パイプに設けられる第1のバルブと、
を有し、
前記陰極側循環ポンプ、前記陰極側混合流体搬送パイプ及び前記陰極側循環パイプにより、前記陰極側循環用液体を前記陰極側貯留タンクから前記陰極側エジェクタに循環させることにより前記水素ガスを前記水素ガス排出ラインから前記陰極側エジェクタ内に流入させ、前記陰極側エジェクタ内で前記水素ガスと前記陰極側循環用液体とを混合させて、前記水素ガス中の不純物を前記陰極側循環用液体に移行させて前記水素ガスから前記不純物を除去するとともに、
前記陰極側貯留タンクから前記陰極側エジェクタへ循環させる前記陰極側循環用液体の流速と、前記第1のバルブの開閉とを制御することにより、前記陰極側貯留タンク内に貯留される前記水素ガスの圧力を昇圧することを特徴とする電解装置。
【請求項2】
前記陽極室に接続し、陽極ガスを含む陽極側電解液を前記陽極室から排出する陽極側電解液排出ラインと、
前記陽極側電解液排出ラインに接続し、前記陽極側電解液から陽極ガスを分離する陽極側気液分離手段と、
前記陽極側気液分離手段に接続し、前記陽極側気液分離手段により分離された前記陽極ガスを前記陽極側気液分離手段から排出する陽極ガス排出ラインと、
前記陽極ガス排出ラインに接続する不純物除去手段と、
を備え、
前記不純物除去手段は、
前記陽極ガス排出ラインに接続する陽極側エジェクタと、
前記陽極ガスと前記不純物除去手段内を流通する陽極側循環用液体とを貯留する陽極側貯留タンクと、
前記陽極側エジェクタと前記陽極側貯留タンクとを連結し、前記陽極側エジェクタから前記陽極側貯留タンクに前記陽極側循環用液体と前記陽極ガスとの混合流体を搬送する陽極側混合流体搬送パイプと、
前記陽極側貯留タンクと前記陽極側エジェクタとを連結し、前記陽極側貯留タンクから前記陽極側エジェクタに前記陽極側循環用液体を搬送する陽極側循環パイプと、
前記陽極側循環パイプに設置される陽極側循環ポンプと、を有し、
前記陽極側循環ポンプ、前記陽極側混合流体搬送パイプ及び前記陽極側循環パイプにより、前記陽極側循環用液体を前記陽極側貯留タンクから前記陽極側エジェクタに循環させることにより前記陽極ガスを前記陽極ガス排出ラインから前記陽極側エジェクタ内に流入させ、前記陽極側エジェクタ内で前記陽極ガスと前記陽極側循環用液体とを混合させて、前記陽極ガス中の不純物を前記陽極側循環用液体に移行させて前記陽極ガス中の前記不純物を除去する請求項1に記載の電解装置。
【請求項3】
前記不純物除去手段が、
前記陽極側貯留タンクに接続し、前記陽極側貯留タンクから前記陽極ガスを排出する陽極ガス排出パイプと、
前記陽極ガス排出パイプに設けられる第2のバルブと、
を更に備え、
前記陽極側貯留タンクから前記陽極側エジェクタへ循環させる前記陽極側循環用液体の流速と、前記第2のバルブの開閉とを制御することにより、前記陽極側貯留タンク内に貯留される前記陽極ガスの圧力を昇圧する請求項2に記載の電解装置。
【請求項4】
前記陰極側電解液がアルカリ性水溶液であり、前記水素ガス中の前記不純物がアルカリ性ミストを含む請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電解装置。
【請求項5】
前記陽極側電解液がアルカリ性水溶液であり、前記陽極ガス中の前記不純物がアルカリ性ミストを含む請求項2または請求項3に記載の電解装置。
【請求項6】
前記陽極側電解液が塩化物水溶液であり、前記陽極ガス中の前記不純物が酸性ミストを含む請求項2又は3に記載の電解装置。
【請求項7】
前記陽極側電解液が塩酸であり、前記陽極ガス中の前記不純物が酸性ミストを含む請求項2又は3に記載の電解装置。
【請求項8】
前記陽極側電解液が臭素酸水溶液であり、前記陽極ガス中の前記不純物が酸性ミストを含む請求項2又は3に記載の電解装置。
【請求項9】
前記陽極側電解液が硫酸水溶液であり、前記陽極ガス中の前記不純物が酸性ミストを含む請求項2又は3に記載の電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解により水素ガスを生成する電解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリ水電解、非精製水の電解、食塩電解、塩化物水溶液、臭素酸水溶液、塩酸、硫酸水溶液の電解等では、電解により陰極室から水素ガスが発生する。
水素ガスを発生する電解装置及び電解方法の一例として、特許文献1に記載されるアルカリ水電解装置及びアルカリ水電解方法がある。特許文献1の電解装置及び電解方法では、陽極室及び陰極室で生成する気液混合流体よりなる陽極液及び陰極液を共通の循環タンクに回収し、該循環タンク内において混合した後、陽極室と陰極室との両電解室に循環供給する。循環タンクで陽極液及び陰極液を混合することにより、両電解室内に供給する電解液の濃度を同じ濃度にするとともに、常に一定濃度に維持しながら連続電解を行っている。
【0003】
近年、地球温暖化防止のため化石燃料からの脱却が重要となっており、代替えエネルギー源として水素ガスの利用が広く検討されている。上記の電解により生成した高純度の水素ガスは、例えば特許文献2に開示されているように、貯蔵等の次の工程に移送するため、圧縮機により加圧することが要求されている。
【0004】
アルカリ水電解、非精製水の電解、食塩電解、塩化物水溶液、臭化物水溶液、塩酸水溶液、硫酸水溶液等の電解では、電解により陰極室より水素ガスが生成されるとともに陽極室より酸素ガス、オゾンガス及び又は塩素ガスが生成される。酸素ガスは大気放出される場合もあれば、回収して別用途に供される場合もあり、オゾンガス及び塩素ガスは、回収されて使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−29921号公報
【特許文献2】特開2010−143778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したような従来の電解装置では、大気圧下において生成された気体を加圧するために、圧縮機が使用されている。圧縮機には、ターボ圧縮機と容積圧縮機があり、いずれも大型の装置である。従って、広い設備面積が必要であり、設備費用が高く、更に騒音が問題となっていた。
【0007】
また、上記従来の電解装置においては、気液分離装置によって水素ガスや酸素ガスが電解液から分離される。アルカリ水電解装置においては、循環タンクにおいて混合されたアルカリ電解液が混合され、陽極室及び陰極室において循環使用されるため、この時、水素ガス及び酸素ガスには、アルカリ性ミストやパーティクル等の不純物が含有されている。
また、食塩電解においては、陽極液と陰極液は、循環せずに使用される場合と、循環使用される場合とがあるが、いずれの場合においても、陰極室においては、電解液はアルカリ性となり、陰極室で生成される水素ガスには、アルカリ性ミスト等の不純物が含有されるとともに、陽極室においては、電解液は酸性となり、陽極室で生成される酸素ガスには、酸ミスト等の不純物が含有される。
電解液から分離された水素ガスや酸素ガスは、水洗塔により洗浄されて、アルカリ性ミスト、酸ミスト等の不純物が除去されていた。しかしながら、水洗塔とライン中のミストセパレータなどの簡単な設備では、アルカリ性ミスト等の不純物を十分に除去することができなかった。このため、圧縮機の部品にアルミニウムを使用した場合、アルカリ性ミストによってアルミニウムが腐食されるという問題があった。また、ガスに含まれるパーティクルが圧縮機の運転に影響を与えていた。
また、生成ガス中のアルカリ性ミスト、酸性ミストの除去が不十分であると、環境基準を超えるアルカリや酸が大気放出される恐れがあった。
【0008】
本発明の目的は、これらの従来技術の問題点を解消し、設置面積が小さく安価な設備により、電解装置によって生成された水素ガスを加圧するとともに、生成された水素ガス中のアルカリ性ミスト等の不純物を除去することができる電解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における第1の解決手段は、上記の目的を達成するため、
陽極を収容する陽極室と、陰極を収容する陰極室と、前記陽極室と前記陰極室とを区画する隔膜と、を備える電解槽と、
前記陰極室に接続し、水素ガスを含む陰極側電解液を前記陰極室から排出する陰極側電解液排出ラインと、
前記陰極側電解液排出ラインに接続し、前記陰極側電解液から前記水素ガスを分離する陰極側気液分離手段と、
前記陰極側気液分離手段に接続し、前記陰極側気液分離手段により分離された前記水素ガスを前記陰極側気液分離手段から排出する水素ガス排出ラインと、
前記水素ガス排出ラインに接続する気体圧縮手段と、
を備え、
前記気体圧縮手段は、
前記水素ガス排出ラインに接続する陰極側エジェクタと、
前記水素ガスと前記気体圧縮手段内を流通する陰極側循環用液体とを貯留する陰極側貯留タンクと、
前記陰極側エジェクタと前記陰極側貯留タンクとを連結し、前記陰極側エジェクタから前記陰極側貯留タンクに前記陰極側循環用液体と前記水素ガスとの混合流体を搬送する陰極側混合流体搬送パイプと、
前記陰極側貯留タンクと前記陰極側エジェクタとを連結し、前記陰極側貯留タンクから前記陰極側エジェクタに前記陰極側循環用液体を搬送する陰極側循環パイプと、
前記陰極側循環パイプに設置される陰極側循環ポンプと、
前記陰極側貯留タンクに接続し、前記陰極側貯留タンクから前記水素ガスを排出する水素ガス排出パイプと、
前記水素ガス排出パイプに設けられる第1のバルブと、
を有し、
前記陰極側循環ポンプ、前記陰極側混合流体搬送パイプ及び前記陰極側循環パイプにより、前記陰極側循環用液体を前記陰極側貯留タンクから前記陰極側エジェクタに循環させることにより前記水素ガスを前記水素ガス排出ラインから前記陰極側エジェクタ内に流入させ、前記陰極側エジェクタ内で前記水素ガスと前記陰極側循環用液体とを混合させて、前記水素ガス中の不純物を前記陰極側循環用液体に移行させて前記水素ガスから前記不純物を除去するとともに、
前記陰極側貯留タンクから前記陰極側エジェクタへ循環させる前記陰極側循環用液体の流速と、前記第1のバルブの開閉とを制御することにより、前記陰極側貯留タンク内に貯留される前記水素ガスの圧力を昇圧することを特徴とする電解装置を提供することにある。
【0010】
本発明における第2の解決手段は、上記の目的を達成するため、
前記陽極室に接続し、陽極ガスを含む陽極側電解液を前記陽極室から排出する陽極側電解液排出ラインと、
前記陽極側電解液排出ラインに接続し、前記陽極側電解液から陽極ガスを分離する陽極側気液分離手段と、
前記陽極側気液分離手段に接続し、前記陽極側気液分離手段により分離された前記陽極ガスを前記陽極側気液分離手段から排出する陽極ガス排出ラインと、
前記陽極ガス排出ラインに接続する不純物除去手段と、
を備え、
前記不純物除去手段は、
前記陽極ガス排出ラインに接続する陽極側エジェクタと、
前記陽極ガスと前記不純物除去手段内を流通する陽極側循環用液体とを貯留する陽極側貯留タンクと、
前記陽極側エジェクタと前記陽極側貯留タンクとを連結し、前記陽極側エジェクタから前記陽極側貯留タンクに前記陽極側循環用液体と前記陽極ガスとの混合流体を搬送する陽極側混合流体搬送パイプと、
前記陽極側貯留タンクと前記陽極側エジェクタとを連結し、前記陽極側貯留タンクから前記陽極側エジェクタに前記陽極側循環用液体を搬送する陽極側循環パイプと、
前記陽極側循環パイプに設置される陽極側循環ポンプと、を有し、
前記陽極側循環ポンプ、前記陽極側混合流体搬送パイプ及び前記陽極側循環パイプにより、前記陽極側循環用液体を前記陽極側貯留タンクから前記陽極側エジェクタに循環させることにより前記陽極ガスを前記陽極ガス排出ラインから前記陽極側エジェクタ内に流入させ、前記陽極側エジェクタ内で前記陽極ガスと前記陽極側循環用液体とを混合させて、前記陽極ガス中の不純物を前記陽極側循環用液体に移行させて前記陽極ガス中の前記不純物を除去する電解装置を提供することにある。
【0011】
本発明における第3の解決手段は、上記の目的を達成するため、
前記不純物除去手段が、
前記陽極側貯留タンクに接続し、前記陽極側貯留タンクから前記陽極ガスを排出する陽極ガス排出パイプと、
前記陽極ガス排出パイプに設けられる第2のバルブと、
を更に備え、
前記陽極側貯留タンクから前記陽極側エジェクタへ循環させる前記陽極側循環用液体の流速と、前記第2のバルブの開閉とを制御することにより、前記陽極側貯留タンク内に貯留される前記陽極ガスの圧力を昇圧する電解装置を提供することにある。
【0012】
本発明における第4の解決手段は、上記の目的を達成するため、
前記陰極側電解液がアルカリ性水溶液であり、前記水素ガス中の前記不純物がアルカリ性ミストを含む電解装置を提供することにある。
【0013】
本発明における第5の解決手段は、上記の目的を達成するため、
前記陽極側電解液がアルカリ性水溶液であり、前記陽極ガス中の前記不純物がアルカリ性ミストを含む電解装置を提供することにある。
【0014】
本発明における第6の解決手段は、上記の目的を達成するため、
前記陽極側電解液が塩化物水溶液であり、前記陽極ガス中の前記不純物が酸性ミストを含む電解装置を提供することにある。
【0015】
本発明における第7の解決手段は、上記の目的を達成するため、
前記陽極側電解液が塩酸であり、前記陽極ガス中の前記不純物が酸性ミストを含む電解装置を提供することにある。
【0016】
本発明における第8の解決手段は、上記の目的を達成するため、
前記陽極側電解液が臭素酸水溶液であり、前記陽極ガス中の前記不純物が酸性ミストを含む電解装置を提供することにある。
【0017】
本発明における第9の解決手段は、上記の目的を達成するため、
前記陽極側電解液が硫酸水溶液であり、前記陽極ガス中の前記不純物が酸性ミストを含む電解装置を提供することにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来の圧縮機を用いる気体圧縮と比較して設置面積が小さく安価な設備によって、水素ガスを昇圧することができるとともに、水素ガス中に含まれるアルカリ性ミストやパーティクルと言った不純物も除去することができる。
陽極側においても同様に、設置面積が小さく安価な設備によって、陽極ガス中に含まれる不純物を除去することができる。例えば、電解により発生した酸素ガスを大気中に放出する場合でも、環境中へのアルカリ性ミストや、酸性ミスト、パーティクルの放出を抑制することができる。更に、簡易な設備にて陽極ガスを昇圧することも可能である。
また、本発明によれば、従来の大型圧縮機を用いる必要がないため、設備容積を削減することができる。又、振動、騒音、長期運転時の機械的損傷がなく、長期にわたって安定して稼働することが可能となり、装置のメンテナンス費が大幅に低減される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態に係るアルカリ水電解装置を示すフロー図。
図2】本発明の第1実施形態に係るアルカリ水電解装置に用いるエジェクタの1例の詳細を示す断面図。
図3】本発明の他の実施形態に係るアルカリ水電解装置の一部(不純物除去手段)を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る電解装置の1例を示すフロー図である。ここではアルカリ水電解装置を例に挙げて説明する。但し本発明は、アルカリ水電解のほか、非精製水の電解、食塩電解、塩化物水溶液、臭化物水溶液、塩酸水溶液、硫酸水溶液電解等、電解により水素ガスが発生する電解装置にも適用可能である。
図1において、アルカリ水電解装置は電解槽1を有する。2は陰極を収容する陰極室、3は陽極を収容する陽極室、4は陰極室2と陽極室3とを区画する隔膜である。隔膜4は、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜、高分子多孔層と不織布からなる複合膜などである。
【0021】
陰極側での電解液の搬送経路として、陰極側電解液循環手段と、陰極ガス分離手段が設けられる。陰極側ガス分離手段は、陰極側電解液排出ライン9と、陰極側気液分離手段10と、水素ガス排出ライン12とを有する。陰極側電解液循環手段は、循環タンク5と、陰極側電解液供給ライン7と、循環ポンプ8と、陰極側電解液回収ライン11とを有する。
陰極側電解液供給ライン7は、陰極室2と循環タンク5とを接続し、循環ポンプ8により、循環タンク5内に収納された電解液6を陰極室2に供給する配管である。陰極側電解液排出ライン9は、陰極室2と陰極側気液分離手段10とを接続し、陰極室2内の電解液(陰極側電解液)と水素ガスとを陰極側気液分離手段10に搬送する配管である。陰極側気液分離手段10は、電解液から水素ガスを分離する。陰極側電解液回収ライン11は、陰極側気液分離手段10と循環タンク5とを接続し、陰極側気液分離手段10により分離された電解液を循環タンク5に搬送する配管である。水素ガス排出ライン12は、陰極側気液分離手段10と後述する気体圧縮手段101とを接続し、陰極側気液分離手段10により分離された水素ガスを気体圧縮手段101に搬送する配管である。陰極側電解液供給ライン7に熱交換器13が設置される。
【0022】
陽極側での電解液の搬送経路として、陽極側電解液循環手段と、陽極ガス分離手段が設けられる。陽極ガス分離手段は、陽極側電解液排出ライン16と、陽極側気液分離手段17と、陽極ガス排出ライン19とを備える。陽極側電解液循環手段は、循環タンク5と、陽極側電解液供給ライン14と、循環ポンプ15と、陽極側電解液回収ライン18と、を有する。
陽極側電解液供給ライン14は、陽極室3と循環タンク5とを接続し、循環ポンプ15により、循環タンク5内に収納された電解液6を陽極室3に供給する配管である。陽極側電解液排出ライン16は、陽極室3と陽極側気液分離手段17とを接続し、陽極室3内の電解液(陽極側電解液)と陽極ガス(アルカリ水電解の場合は酸素ガス)とを陽極側気液分離手段17に搬送する配管である。陽極側気液分離手段17は、電解液から陽極ガスを分離する。陽極側電解液回収ライン18は、陽極側気液分離手段17と循環タンク5とを接続し、陽極側気液分離手段17により分離された電解液を循環タンク5に搬送する配管である。陽極ガス排出ライン19は、陽極側気液分離手段17に接続し、陽極側気液分離手段17により分離された陽極ガスを系外に排出する配管である。陽極側電解液供給ライン14に熱交換器20が設置される。
【0023】
図1の例では、電解液はアルカリ水溶液(例えばアルカリ金属水酸化物の水溶液、具体的にKOH水溶液又はNaOH水溶液)である。
【0024】
本実施形態の電解装置は、電解液補充手段と水補充手段とを備える。電解液補充手段は、高濃度のアルカリ水22を貯留するアルカリ水タンク21と、ポンプ23とを備える。水補充手段は、純水25を貯留する純水タンク24と、ポンプ26とを備える。
【0025】
アルカリ水電解装置では、図1に示すように陽極側と陰極側とで循環タンクが共通する。従って、陰極側電解液循環手段と陽極側電解液循環手段では、陽極側電解液と陰極側電解液とが混合された電解液が、陰極室2と循環タンク5との間及び陽極室3と循環タンク5との間をそれぞれ循環する。
【0026】
水素ガス排出ライン12の下流側に、気体圧縮手段101が設けられる。気体圧縮手段101は、陰極側エジェクタ110と、陰極側混合流体搬送パイプ102と、陰極側貯留タンク103と、陰極側循環ポンプ104と、陰極側循環パイプ105と、水素ガス排出パイプ106とを備える。
【0027】
図2は、陰極側エジェクタ110の1例の詳細を示す断面図である。111はノズル、112はディフューザ、113は吸入口、114はサクションチャンバである。ノズル111は、循環パイプ105に接続する。吸入口113は、水素ガス排出ライン12に接続する。ディフューザ112の出口112aは、陰極側混合流体搬送パイプ102に接続する。
【0028】
陰極側混合流体搬送パイプ102は陰極側エジェクタ110と陰極側貯留タンク103とを接続し、陰極側エジェクタ110から排出された混合流体を陰極側貯留タンク103に搬送する。
【0029】
陰極側貯留タンク103は、循環用液体(陰極側循環用液体)を内部に収容する。この循環用液体は水であり、水素ガスに含まれていた不純物(後述)を含んでいる。陰極側貯留タンク103の上部空間には、陰極側エジェクタ110から搬送された混合流体から分離した水素ガスが貯留される。陰極側貯留タンク103の底部に陰極側循環パイプ105が接続する。陰極側貯留タンク103の上部に水素ガス排出パイプ106が接続する。水素ガス排出パイプ106にバルブV1(第1のバルブ)が設置される。
【0030】
陰極側循環パイプ105に、陰極側循環ポンプ104及び陰極側熱交換器107が設置される。陰極側循環ポンプ104により、陰極側貯留タンク103内の循環用液体が陰極側循環パイプ105を経由して陰極側エジェクタ110に循環される。
【0031】
本実施形態の電解装置では、陰極側循環パイプ105に陰極側循環用液体取出しパイプ120が接続されても良い。陰極側循環用液体取出しパイプ120に、バルブV2及びポンプ121が設置される。陰極側循環用液体取出しパイプ120は、循環用液体の一部を系外に放出するように構成されていても良く、循環用液体の一部を電解液に循環するように構成されていても良い。循環用液体を電解液に用いるための構成としては、陰極側での電解液の搬送経路及び陽極側での電解液の搬送経路のいずれかの場所に、陰極側循環用液体取出しパイプ120が接続される。図1の例では、陰極側循環用液体取出しパイプ120が循環タンク5に接続される。その他、陰極側循環用液体取出しパイプ120は、陰極側電解液供給ライン7、陰極側電解液排出ライン9、陰極側電解液回収ライン11、陽極側電解液供給ライン14、陽極側電解液排出ライン16、陽極側電解液回収ライン18のいずれかの箇所にも接続することができる。
【0032】
図1の電解装置を用いて電解及び水素ガスの圧縮を行う工程を以下で説明する。
電解開始前及び初期において、電解液補充手段はポンプ23によりアルカリ水22をアルカリ水タンク21から循環タンク5に供給する。水補充手段は、ポンプ26により純水25を純水タンク24から循環タンク5に供給する。アルカリ水及び純水が循環タンク5内で混合され、電解液6は所定の濃度に制御されている。循環タンク5内には、純水25と共に、新たな電解用の原料水を添加することもできる。
【0033】
電解液6は、循環ポンプ8により陰極側電解液供給ライン7を経由して電解槽1の陰極室2に供給される。電解液は熱交換器13を通過することにより、所定温度に冷却される。また電解液6は、循環ポンプ15により陽極側電解液供給ライン14を経由して電解槽1の陽極室3に供給される。電解液は熱交換器20を通過することにより、所定温度に冷却または加熱される。
【0034】
陰極室2及び陽極室3内で電解液が電解される。これにより、陰極室2内で水素ガスが生成され、陽極室3内で陽極ガス(酸素ガス)が生成される。
【0035】
生成した水素ガスは、電解液と共に、陰極側電解液排出ライン9を介して陰極側気液分離装置10に搬送される。陰極側気液分離装置10により、水素ガスと電解液とが気液分離される。分離された電解液は、陰極側電解液回収ライン11を介して循環タンク5に循環される。分離された水素ガスは、陰極ガス排出ライン12を介して気体圧縮手段101に搬送される。
【0036】
生成した酸素ガスは、電解液と共に、陽極側電解液排出ライン16を介して陽極側気液分離装置17に搬送される。陽極側気液分離装置17により、酸素ガスと電解液とが気液分離される。分離された電解液は、陽極側電解液回収ライン18を介して循環タンク5に循環される。酸素ガスは、陽極ガス排出ライン19を介して系外に排出される。
【0037】
陰極室2及び陽極室3内のアルカリ濃度をコントロールするため、電解で消失する水の相当量が純水補充手段から供給される。純水を連続的に供給することで、電解液の濃度等の電解条件を一定に維持しながら電解を継続する。なお、循環タンクの容量に依存するが、純水を間欠的に供給することも可能である。
【0038】
気体圧縮手段101において、陰極側循環ポンプ104が作動することにより、循環用液体が陰極側混合流体搬送パイプ102及び陰極側循環パイプ105を介して循環している。陰極側エジェクタ110内で、循環用液体がノズル111からディフューザ112に向かって流れる。これにより、水素ガス排出ライン12より排出された水素ガスが、吸入口113からサクションチャンバ114に引き込まれる。サクションチャンバ114で循環用液体と水素ガスとが激しく混合し、混合流体がディフューザ112から排出される。
【0039】
陰極側混合流体搬送パイプ102から陰極側貯留タンク103内に混合流体が噴出される。陰極側エジェクタ110内で循環用液体(水)と水素ガスとが激しく混合し、陰極側貯留タンク103内で水素ガスと循環用液体とが分離する。これにより、水素ガス排出ライン12を流通する水素ガスに含まれていたアルカリ性ミスト(アルカリ水溶液のミスト)やパーティクル等の不純物は循環用液体に移行して、水素ガスと不純物とが分離する。
【0040】
更に、図2に示した陰極側エジェクタ110と陰極側貯留タンク103との間に、内部に充填物を充填した充填塔(図示せず)を設けると、水素ガスと陰極側循環液体との気液接触面積が大きくなり、水素ガスと陰極側循環液体とが充填塔を通過する際に両者の衝突も激しくなるため、水素ガスから不純物が除去される割合も大きくなる。該充填物としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂等を各種サイズに成型したプラスティック充填物、金属製線構造充填物などを使用することができる。プラスティック充填物の一例としては、テラレット(テラレットは、月島環境エンジニアリング株式会社の登録商標)があり、金属製線構造充填物の一例として、ラシヒリングスーパーリンク(ラシヒリングスーパーリンクは、ラシヒ社(ドイツ)の登録商標)がある。
該充填塔は、陰極側エジェクタ110の外部に設けることが好ましいが、陰極側エジェクタ110のディフューザ112の出口112aの内部に設けてもよく、或いは、充填塔の代わりに、その内部に充填されている充填物のみをディフューザ112の出口112aの内部に設けてもよい。
【0041】
陰極側貯留タンク103に貯留された、不純物を含む循環用液体は、陰極側循環ポンプ104により陰極側循環パイプ105を介して陰極側エジェクタ110に循環される。この途中で、陰極側熱交換器107により循環用液体が冷却または加熱される。
【0042】
陰極側貯留タンク103から陰極側エジェクタ110へ循環する陰極側循環用液体の循環速度(流速)と、バルブV1の開閉とを制御することにより、陰極側貯留タンク103内に貯留される水素ガスが昇圧される。例えば、電解装置の運転を開始する際には、バルブV1を閉とし、気体圧縮手段101内を閉ループとする。この状態で陰極側循環用液体の流速を上げると、水素ガスは加圧状態で陰極側貯留タンク103内に貯留される。水素ガスが所定の圧力まで上昇したところで、バルブV1を開放し、定常運転とする。
陰極側循環用液体の流速を上げるほど、陰極側エジェクタ110の吸引力が増加する。この結果、気体圧縮手段101に流入する水素ガス量が増加し、水素ガスの圧力が上昇する。本発明では、水素ガスを最大で1MPa(10bar)まで加圧する。例えば、陰極側循環用液体の循環速度を150m3/hに上げることにより、陰極側貯留タンク103内に貯留される水素ガスは、0.6MPa(6bar)〜1MPa(10bar)に加圧される。
【0043】
エジェクタの機能は、一般にガス並びに液を速度の速い流体を流すことで、その流れに伴いガスまたは液体を吸引するものである。本発明では、陰極側エジェクタ110に陰極側循環用液体を流すことにより、水素ガス排出ライン12を通じて水素ガスを陰極側エジェクタ110内に吸引する。陰極側エジェクタ110では、狭い管内で水素ガスと循環用液体が激しくぶつかる。
この現象の中、高圧を達成する為、更に水素ガス内の不純物であるアルカリ性ミストは、循環用液体である水にぶつかり、循環用液体である水に溶解する確率が増大する。
【0044】
本発明においては、陰極側貯留タンク103から陰極側エジェクタ110への陰極側循環用液体の循環速度と、バルブV1の開閉とを制御することにより、水素ガスの圧力を制御することができる。本発明の気体圧縮手段101により水素ガスを最大で1MPa(10bar)まで加圧するので、高圧設備を必要としない。このため、設備を簡略化することができるとともに、メンテナンスが容易となる。
本発明の気体圧縮手段101では大型の圧縮機を用いる必要がないため、設置面積を大幅に削減できる。また、圧縮機の冷却補機などの設置が不要である。本発明による陰極側エジェクタ110には駆動部がないため、振動、騒音、長期運転時の機械的損傷がなく、長期にわたって安定して使用することができる。この結果、装置のメンテナンス費が大幅に低減される。
【0045】
これに対して、従来から実施されている水洗塔による洗浄においては、例えば100Nm3/hの水素発生量に対して洗浄水の供給量は5m3/hである。洗浄水と処理すべき発生水素量との比から考慮しても、水洗塔による洗浄では不純物除去効率は低い。また、水洗塔による洗浄では水素ガスの加圧は行われない。
【0046】
不純物が除去され昇圧された水素ガスは、水素ガス排出パイプ106を経由して電解装置の系外に排出される。排出された水素ガスは、例えばタンクに貯留された後、他の用途(燃料電池など)で使用される。より高圧の水素ガスを製造する場合、本発明の電解装置を用いて圧縮された水素ガスを用いれば、大気圧から昇圧する場合に比べてエネルギーを削減できるので有利である。
【0047】
気体圧縮手段101内で循環用液体が循環されることにより、循環用液体中にアルカリ性ミストが溶解し、循環用液体のpHが上昇する。気体圧縮手段101の系内中に循環用液体のpHを計測する手段(図1では不図示)を設置し、バルブV2と連動させる。pH計測手段は例えば陰極側貯留タンク103や循環パイプ105に設置される。循環用液体のpHが所定値に到達した場合に、バルブV2が開放される。バルブV2の開放により、循環用液体の一部が陰極側循環用液体取出しパイプ120を流通する。
陰極側循環用液体は循環用液体取出しパイプ120を経由して系外に排出されても良い。あるいは、陰極側循環用液体は、陰極側循環用液体取出しパイプ120を経由して陰極側での電解液の搬送経路及び陽極側での電解液の搬送経路のいずれかの場所において電解液に添加し、電解液として利用することもできる。例えば図1に示すアルカリ水電解装置では、気体圧縮手段101から排出された陰極側循環用液体は、陰極側循環用液体取出しパイプ120を経由して循環タンク5に供給されて電解液と混合する。
【0048】
〔第2実施形態〕
図3は、本発明の第2の実施形態に係る電解装置の1例であり、電解装置の一部である不純物除去手段を示したフロー図である。本実施形態においても、アルカリ水電解装置を例に挙げて説明する。
【0049】
第2の実施形態の電解装置は、図1に示した第1の実施形態に係る電解装置の陽極ガス排出ライン19の下流側に、更に不純物除去手段201が設けられている例である。不純物除去手段201の構成は、基本的に気体圧縮手段101と同じである。すなわち、不純物除去手段201は、陽極側エジェクタ210と、陽極側混合気体搬送パイプ202と、陽極側貯留タンク203と、陽極側循環ポンプ204と、陽極側循環パイプ205と、陽極ガス排出パイプ206とを備える。陽極ガス排出パイプ206にバルブV3(第2のバルブ)が設置される。
【0050】
陽極側エジェクタ210は第1の実施形態で説明した陰極側エジェクタ101と同じ構成である。陽極側エジェクタ210のノズル211は陽極側循環パイプ205に接続する。陽極側エジェクタ210の吸入口213は陽極ガス排出ライン19に接続する。陽極側エジェクタ210のディフューザ出口は陽極側混合流体搬送パイプ202を介して陽極側貯留タンク203に接続する。
更に、陽極側エジェクタ210においても、陽極側エジェクタ210と陽極側貯留タンク203との間に、内部に充填物を充填した充填塔(図示せず)を設けると、陽極ガスと陽極側循環液体との気液接触面積が大きくなり、陽極ガスと陽極側循環液体とが充填塔を通過する際に両者の衝突も激しくなるため、陽極ガスから不純物が除去される割合も大きくなる。
該充填塔は、陽極側エジェクタ210の外部に設けることが好ましいが、陽極側エジェクタ210のディフューザの出口の内部に設けてもよく、或いは、充填塔の代わりに、その内部に充填されている充填物のみをディフューザの出口の内部に設けてもよい。
【0051】
陽極側循環パイプ205に、陽極側循環ポンプ204及び陽極側熱交換器207が設置される。陽極側循環ポンプ204により、陽極側貯留タンク203内の循環用液体(水)が陽極側循環パイプ205及びノズル211を経由して陽極側エジェクタ210に循環される。
【0052】
陽極側においても、陽極側循環パイプ205に陽極側循環用液体取出しパイプ220が接続されても良い。陽極側循環用液体取出しパイプ220は、陽極側循環用液体取出しパイプ220により循環用液体を系外に放出するように構成されていても良い。あるいは、陰極側での電解液の搬送経路及び陽極側での電解液の搬送経路のいずれかの場所に陽極側循環用液体取出しパイプ220が接続されて、循環用液体の一部を電解液に添加するように構成されていても良い。具体的に、陽極側循環用液体取出しパイプ220は、循環タンク5、陰極側電解液供給ライン7、陰極側電解液排出ライン9、陰極側電解液回収ライン11、陽極側電解液供給ライン14、陽極側電解液排出ライン16、陽極側電解液回収ライン18のいずれかの箇所に接続することができる。陽極側循環用液体取出しパイプ220に、第4のバルブV4及びポンプ221が設置される。
【0053】
図3に示す不純物除去手段で不純物の除去及び陽極ガスの圧縮を行う工程を以下に説明する。
不純物除去手段201において、陽極側循環ポンプ204が作動することにより、循環用液体が陽極側混合流体搬送パイプ202及び陽極側循環パイプ205を介して循環している。陽極側エジェクタ210内で、循環用液体がノズル211からディフューザに向かって流れることにより、陽極ガス排出ライン19を流通する陽極ガス(酸素ガス)が陽極側エジェクタ210内に引き込まれる。陽極側エジェクタ210内で循環用液体と陽極ガスとが激しく混合し、混合流体が陽極側エジェクタ210から排出される。
【0054】
陽極側混合流体搬送パイプ202から陽極側貯留タンク203内に混合流体が噴出される。陽極側エジェクタ210内で循環用液体(水)と陽極ガスとが激しく混合し、陽極側貯留タンク203内で陽極ガスと循環用液体とが分離することによって、アルカリ性ミストやパーティクル等の不純物は循環用液体に移行して、陽極ガスと不純物とが分離する。
【0055】
陽極側貯留タンク203に貯留された循環用液体は、陽極側循環ポンプ204により陽極側循環パイプ205を介して陽極側エジェクタ210に循環される。
【0056】
昇圧せずに陽極ガスを大気放出する場合は、バルブV3を全開にする。
陽極ガスを昇圧する場合には、陽極側貯留タンク203から陽極側エジェクタ210への陽極側循環用液体の循環速度(流速)とを制御することにより、陽極側貯留タンク203内に貯留される陽極ガスが昇圧される。例えば、運転開始時にバルブV3を閉として不純物除去手段201内を閉ループとする。この状態で陽極側循環用液体の流速を上げると、陽極ガスは加圧状態で陽極側貯留タンク203内に貯留される。陽極ガスが所定の圧力まで上昇したところで、バルブV3を開放し、定常運転とする。
陽極側循環用液体の流速を上げるほど、陽極ガスの圧力が上昇する。例えば陽極側循環用液体の循環速度を150m3/h以下とすることにより、電解により生成する陽極ガスは、0.6MPa(6bar)以下の低圧とすることができる。一方、陽極側循環用液体の循環速度を150m3/h以上とすることにより、電解により生成する陽極ガスを、0.6MPa(6bar)〜1MPa(10bar)に加圧することができる。すなわち、本実施形態の不純物除去手段201は、気体圧縮手段101と同じ効果を奏することができる。
【0057】
不純物除去手段201内で循環用液体中にアルカリ性ミストが溶解することにより、循環用液体のpHが上昇する。不純物除去手段201の系内中に循環用液体のpHを計測する手段(図3では不図示)を設置し、バルブV4と連動させる。pH計測手段は、例えば陽極側貯留タンク203や陽極側循環パイプ205に設置される。循環用液体のpHが所定値に到達した場合にバルブV4が開放され、循環用液体の一部が陽極側循環用液体取出しパイプ220を経由して不純物除去手段201から排出される。排出された循環用液体は陽極側循環用液体取出しパイプ220を経由して系外に排出されても良い。循環用液体は、循環用液体取出しパイプ220を経由して陰極側での電解液の搬送経路及び陽極側での電解液の搬送経路のいずれかの場所において電解液に添加されて、電解液として利用されても良い。例えばアルカリ水電解装置では、陽極側循環用液体取り出しパイプ220が図1に示す循環タンク5に接続する構成として、陽極側循環用液体が循環タンク5に供給されて電解液と混合されても良い。
【0058】
以上の実施態様においては、陽極側電解液及び陰極側電解液は、循環タンク5を介して循環している例を示したが、これら陽極側電解液及び陰極側電解液は、循環せずに、陽極側電解液回収ライン18及び陰極側電解液回収ライン11より装置外に排出されてもよい。
【0059】
即ち、図1及び図3は、アルカリ水電解装置の1例を示したものであり、陰極側電解液及び陽極側電解液が共通の電解液として、陰極室2及び陽極室3に循環する例について説明した。しかしながら本発明は、電解液の循環を行わない場合にも適用することができる。
また、陰極側電解液循環手段及び陽極側電解液循環手段のいずれか一方のみが設置される場合もある。例えば、陰極側は陰極側電解液循環手段を設けて電解液が循環される構成とする一方で、陽極側は陽極側電解液回収ラインから装置外に排出する構成とすることもできる。
【0060】
更に本発明は、アルカリ水電解以外に、食塩電解、硫酸電解、塩酸電解、臭素酸電解等の水溶液電解にも適用することができる。これらの電解においては、図1に示される循環タンク5の代わりに、陰極側循環タンク及び陽極側循環タンクを設置する。この場合、陰極側で陰極側電解液を陰極側循環タンクと陰極室との間で循環させ、陽極側で陽極側電解液を陽極側循環タンクと陽極室との間で循環させてもよい。
また、アルカリ水電解と同様に、陰極側電解液循環手段及び陽極側電解液循環手段のいずれか一方のみが設置される場合もある。例えば、陰極側は陰極側電解液循環手段を設けて電解液が循環される構成とする一方で、陽極側は陽極側電解液回収ラインから装置外に排出する構成とすることもできる。
【0061】
アルカリ水電解においては、陰極側電解液及び陽極側電解液は、何れもアルカリ水溶液であるため、水素ガス及び陽極ガス中の不純物は、アルカリ性ミストを含む。その他の電解においては、陽極ガス中の不純物は、酸性ミストを含む。特に、食塩電解においては、陽極側電解液は、塩化物水溶液であるので、酸性ミスト中に固形物であるNaClが混入されることがある。このようなアルカリ水電解以外の電解であっても、上記で説明したアルカリ水電解と同様に、ガス中の不純物を除去できるとともに、ガスを昇圧することができる。
【符号の説明】
【0062】
1:電解槽
2:陰極室
3:陽極室
4:隔膜
5:循環タンク
6:電解液
7:陰極側電解液供給ライン
8:循環ポンプ
9:陰極側電解液排出ライン
10:陰極側気液分離手段
11:陰極側電解液回収ライン
12:水素ガス排出ライン
13:熱交換器
14:陽極側電解液供給ライン
15:循環ポンプ
16:陽極側電解液排出ライン
17:陽極側気液分離手段
18:陽極側電解液回収ライン
19:陽極ガス排出ライン
20:熱交換器
21:アルカリ水タンク
22:アルカリ水
23:ポンプ
24:純水タンク
25:純水
26:ポンプ
101:気体圧縮手段
102:陰極側混合流体搬送パイプ
103:陰極側貯留タンク
104:陰極側循環ポンプ
105:陰極側循環パイプ
106:水素ガス排出パイプ
107:陰極側熱交換器
110:陰極側エジェクタ
111:ノズル
112:ディフューザ
112a:ディフューザ112の出口
113:吸入口
114:サクションチャンバ
120:陰極側循環用液体取出しパイプ
121:陰極側ポンプ
201:不純物除去手段
202:陽極側混合流体搬送パイプ
203:陽極側貯留タンク
204:陽極側循環ポンプ
205:陽極側循環パイプ
206:陽極ガス排出パイプ
207:陽極側熱交換器
210:陽極側エジェクタ
211:ノズル
213:吸入口
220:陽極側循環用液体取出しパイプ
221:陽極側ポンプ
図1
図2
図3