(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6728532
(24)【登録日】2020年7月6日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】加圧式膜屋根構造
(51)【国際特許分類】
E04H 15/22 20060101AFI20200713BHJP
【FI】
E04H15/22
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-82420(P2017-82420)
(22)【出願日】2017年4月18日
(65)【公開番号】特開2018-178615(P2018-178615A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】517064843
【氏名又は名称】河野 久米彦
(73)【特許権者】
【識別番号】502410196
【氏名又は名称】株式会社 横河システム建築
(74)【代理人】
【識別番号】100158883
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 哲平
(72)【発明者】
【氏名】河野 久米彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼柳 隆
(72)【発明者】
【氏名】朱 大立
(72)【発明者】
【氏名】松下 昌司
(72)【発明者】
【氏名】村岡 真
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−109880(JP,A)
【文献】
特開2014−218785(JP,A)
【文献】
米国特許第05381634(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 15/20 − 15/22
E04B 1/342
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の支持梁と、前記支持梁間に張設された膜材と、からなる膜屋根体と、
前記膜材を内側から加圧する加圧手段と、を備え、
前記膜屋根体にあらかじめ定めた閾値を超える荷重が作用する可能性があると判断されたときは、前記膜材が内側から前記加圧手段によって加圧され、
前記膜屋根体に荷重が作用しない、又は前記閾値を下回る荷重が作用するときは、前記加圧手段は加圧しない、
ことを特徴とする加圧式膜屋根構造。
【請求項2】
前記膜屋根体が、固定領域と可動領域とで構成され、
前記可動領域の前記膜屋根体が、駆動手段によって移動することで、屋根の一部が開閉する、
ことを特徴とする請求項1記載の加圧式膜屋根構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、屋根構造に関するものであり、より具体的には、加圧手段を備えた膜屋根構造に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
競技場やイベント会場など多くの観客を収容する施設は、雨天時でも実施できるように屋根が取り付けられることがある。競技場等に設置される屋根(以下、総称して「競技場屋根」という。)は、屋根の開閉に着目すると、開閉式のものと固定式(非開閉式)のものに大別することができる。従来では固定式の屋根が主流であったが、昨今では、好天時に自然環境で競技等が実施できるように、あるいは競技場の天然芝に日光を当てるために、開閉式の屋根を採用する施設も増えている。
【0003】
また、その構造に着目すると、競技場屋根はフレーム自立式構造と加圧依存構造に分けることができる。競技場屋根には、強風による風圧力や積雪荷重など特殊な荷重(以下、「異常時荷重」という。)が作用するほか、弱い風荷重や雨による荷重など比較的高い頻度で生じる荷重(以下、「常時荷重」という。)が作用する。この常時荷重と異常時荷重を、主に鉄骨等による構造骨組で負担するのがフレーム自立式構造である。
【0004】
一方の加圧依存構造は、内側から加圧することで屋根形状を維持し、荷重に抵抗する構造である。競技場屋根を加圧依存構造とする場合、通常、屋根全体に膜材が展張される。この膜材の強度と剛性は鋼材等に比べると比較的小さいことから、異常時荷重が作用すると膜材にはシワや窪み(ポンディング)が生じ、さらにはその荷重に耐えられず膜材に破損や座屈が生じることもある。したがって、膜材に作用する常時荷重と異常時荷重を軽減するため、屋内側から膜材に対して加圧するわけである。
【0005】
フレーム自立式構造の競技場屋根は、鉄骨等を密な配置とし鉄骨間に高強度の材料を設置することで、相当に堅牢な構造とすることができるが、その分材料費、施工費ともに大きな費用が必要となる。一方、加圧依存構造の競技場屋根は、主に膜材で構成されることからそれほど大きな建設費を必要としないが、施設内を高圧状態に維持する密閉設備(例えば、回転ドアなど)を要するうえに、常時加圧しなければならないため運用にかかる費用が大きくなる。
【0006】
そこで特許文献1では、大規模施設における加圧依存構造の屋根が有する問題に着目し、この問題を解決する技術(空気膜構造物)について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−159391
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、外気圧よりも高い空気圧(常時空気圧)を常に屋内から加圧することを問題として取り上げ、これを解決するためケーブルトラスを併用した空気膜構造を提案している。しかしながら特許文献1の技術では、軽量性や柔軟性を確保するが故に補強材としてケーブルが採用されており、そのため十分に膜材を補強することができず、結果的に(その圧力を低減したとしても)常時加圧を完全に回避することは実現できていない。
【0009】
このように従来の加圧依存構造による競技場屋根は、常時加圧する必要があるため運用に相当の費用がかかるという問題を抱えている。また、既述のとおり近年では開閉式の屋根が好まれる傾向にあるものの、加圧依存構造による競技場屋根はその構造上あるいは運用上(常時加圧)、これを開閉式とすることが難しいという問題も指摘されていた。
【0010】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することであり、すなわち常時加圧を回避することがきる加圧依存構造の膜屋根を提供することである。また、開閉を可能にする加圧依存構造の膜屋根を提供することも、本願発明の課題の一つである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、常時荷重に対しては複数の支持梁で負担し、強風や積雪による異常時荷重に対してのみ膜材を加圧する、という点に着目して開発されたものであり、従来にはない発想に基づいて行われた発明である。
【0012】
本願発明の加圧式膜屋根構造は、膜屋根体と加圧手段を備えた構造である。この膜屋根体は、複数の支持梁と、これら支持梁間に張設された膜材によって構成される。また加圧手段は、膜材を屋内側から加圧するものである。
【0013】
本願発明の加圧式膜屋根構造は、異常時荷重が作用するときだけ加圧する構造とすることもできる。すなわち、あらかじめ定めた閾値を超える荷重(すなわち、「異常時荷重」)が膜屋根体に作用するときは加圧手段によって膜材が加圧され、荷重が作用しない(あるいは、異常時荷重を下回る荷重が作用する)ときは加圧手段によって膜材は加圧されない。
【0014】
本願発明の加圧式膜屋根構造は、膜屋根体が固定領域と可動領域とで構成される構造とすることもできる。この場合、可動領域の膜屋根体が駆動手段によって移動することで、屋根の一部が開閉する。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の加圧式膜屋根構造には、次のような効果がある。
(1)膜材を利用するため、極めて軽量な競技場屋根を構築することができ、また建設コストも低減することができる。
(2)異常時荷重のときのみ加圧すれば足りることから、従来に比して大幅に運用コストを抑えることができる。
(3)屋根の一部に可動領域を設けることによって、一部が開閉する競技場屋根を構築することができる。この結果、青空の下で競技が実施できるうえ、好天時には競技場の芝生に日光を当てることができる。
(4)可動屋根が軽量化されるため、開閉にかかるイニシャルコストとランニングコストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は実施形態の一例としてのドーム式施設の屋根を示す側面図、(b)は上方から見た実施形態の一例としてのドーム式施設の屋根を示す平面図。
【
図2】本願発明の加圧式膜屋根構造を示すブロック図。
【
図4】異常時荷重が作用するときのみ加圧手段により加圧をすることを説明するモデル図。
【
図5】加圧式膜屋根構造の運用手順の流れを示すフロー図。
【
図6】(a)は可動領域が途中まで移動した状態のドーム式施設の屋根を示す側面図、(b)は可動領域が途中まで移動した状態のドーム式施設の屋根を上方から見た平面図。
【
図7】(a)は可動領域が完全に移動した状態のドーム式施設の屋根を示す側面図、(b)は可動領域が完全に移動した状態のドーム式施設の屋根を上方から見た平面図。
【
図8】(a)は開口部が形成された状態のドーム式施設の屋根を側面から見たモデル図、(b)は完全に閉鎖された状態のドーム式施設の屋根を側面から見たモデル図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明の加圧式膜屋根構造の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。なお本願発明の加圧式膜屋根構造は、比較的規模が大きな施設の屋根として特に好適に利用することができ、例えば
図1に示すようなドーム式施設の屋根(以下、「ドーム式屋根DR」という。)として利用することができる。
【0018】
本願発明の加圧式膜屋根構造100は、
図2のブロック図に示すように、膜屋根体200と加圧手段300を備えており、さらに膜屋根体200は支持梁210と膜材220で構成される。
【0019】
図3は、膜屋根体200の一部を示す平面図である。この図に示すように膜屋根体200は、複数の支持梁210が配置され、これら支持梁210の間に膜材220が張設されることで形成される。支持梁210は、比較的剛性の高い材料を用いて形成されるものであり、例えばH形鋼や溝形鋼といった形鋼、あるいは鋼管などを材料として形成される。また膜材220は、基布をガラス繊維とするA種やB種、基布を合成繊維とするC種といった材料を使用して形成するとよい。なお
図3では、複数の支持梁210が鋭角に交差して(つまり斜交して)配置され、三角形状のメッシュMs(区画)が形成されているが、これに限らず、複数の支持梁210を直交配置し、四角形状のメッシュMsを形成することもできる。
【0020】
加圧手段300は、施設の屋内側から膜材220に対して圧力を加えるものであり、例えば空気を強制送気することで膜材220に対して加圧する。ただし
図4に示すように、加圧手段300によって加圧する(加圧荷重を付与する)のは、膜屋根体200に異常時荷重(強風荷重や積雪荷重など)が作用するときのみであり、膜屋根体200に常時荷重が作用するとき、あるいは荷重が作用しないときには加圧手段300は稼働しない。
【0021】
図5は、加圧式膜屋根構造100の運用手順の流れを示すフロー図である。この図に示すように加圧式膜屋根構造100の運用中は、特に風や降雪に関する気象情報(外部環境)の監視を継続して行い(Step10)、異常時荷重の可能性があると判断された場合(Step20)は、加圧手段300によって膜材220に対して加圧する(Step30)。なお異常時荷重は、あらかじめ閾値を定めておくことで判断することができる。例えば、風荷重であれば風速の閾値をあらかじめ設定しておき、積雪荷重であれば積雪深の閾値をあらかじめ設定しておくわけである。
【0022】
加圧手段300を稼働すると、その後は継続して強風や積雪深の状況(つまり異常時荷重)を監視し、異常時荷重が解除されたと判断されると(Step40)、加圧手段300の稼働を停止する(Step50)。加圧手段300による加圧を停止した後は、引き続き気象情報の監視を継続して行う(Step10)。
【0023】
加圧式膜屋根構造100は、膜屋根体200を固定領域200Fと可動領域200Mで構成することによって、
図6〜
図8に示すようにその一部が開口する構造とすることもできる。この固定領域200Fと可動領域200Mは、やはり
図3に示すように支持梁210と膜材220で構成される。
図6は可動領域200Mが途中まで移動した状態のドーム式屋根DRを示す図であり、(a)はその側面図を、(b)は上方から見た平面図を示している。
図7は可動領域200Mが完全に移動した状態のドーム式屋根DRを示す図であり、(a)はその側面図を、(b)は上方から見た平面図を示している。また
図8は、ドーム式屋根DRの開閉を説明するモデル図であり、(a)は開口部が形成された状態のドーム式屋根DRを側面から見たモデル図、(b)は完全に閉鎖された状態のドーム式屋根DRを側面から見たモデル図である。
【0024】
図6や
図7に示すように、膜屋根体200のうち可動領域200Mが移動することによって、膜屋根体200の一部(移動前に可動領域200Mが位置していた範囲)に開口部が形成される。具体的には、可動領域200Mが固定領域200Fに沿って順方向に移動することで開口部が形成され(
図8(a))、また可動領域200Mが逆方向に移動することで膜屋根体200は閉鎖される(
図8(b))。この可動領域200Mは、ウィンチ等の駆動手段で牽引するなど、従来から用いられている種々の手法を用いて移動することができる。なお、加圧手段300によって加圧されている状態で可動領域200Mが移動すると、屋内にある物が屋外に散乱し、あるいは可動領域200Mなどが破損するおそれもある。そのため、加圧手段300の稼働を検知すると駆動手段が稼働しないように制限する制御部を設けるとよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本願発明の加圧式膜屋根構は、野球場、サッカー競技場、陸上競技場といった種々の競技場や、コンサートをはじめ種々のイベントを行う興行施設、スポーツとコンサート等を実施できる複合施設、あるいは大規模工場、アーケード等をもつ商業施設などで採用することができる。
【符号の説明】
【0026】
100 本願発明の加圧式膜屋根構造
200 (加圧式膜屋根構造の)膜屋根体
200F (膜屋根体のうちの)固定領域
200M (膜屋根体のうちの)可動領域
210 (膜屋根体の)支持梁
220 (膜屋根体の)膜材
300 (加圧式膜屋根構造の)加圧手段
Ms (膜屋根体に形成される)メッシュ
DR ドーム式屋根