特許第6728579号(P6728579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6728579
(24)【登録日】2020年7月6日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】二次電池用外装材
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/02 20060101AFI20200713BHJP
【FI】
   H01M2/02 K
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-117618(P2015-117618)
(22)【出願日】2015年6月10日
(65)【公開番号】特開2017-4765(P2017-4765A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】臺 洋
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−173558(JP,A)
【文献】 特開2014−127258(JP,A)
【文献】 特開2013−093182(JP,A)
【文献】 特開2002−319378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M2/02−2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材層、基材接着剤層、バリア層及びシーラント層をこの順に備え、
前記バリア層は金属箔からなり、前記バリア層は、少なくとも前記シーラント層側に腐食防止処理層を有しており、
前記シーラント層は前記腐食防止処理層上に直接形成されており、前記シーラント層の厚さは5〜30μmであり、前記シーラント層は単一のポリオレフィン系樹脂層から形成され、前記シーラント層は融点が220℃以上である高融点物質の粒子を含有し、
前記高融点物質の粒子の平均粒子径が、前記シーラント層の厚さの40〜70%であり、前記高融点物質が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、ガラス、ナイロン、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含む、
二次電池用外装材。
【請求項2】
前記シーラント層が単一の酸変性ポリオレフィン系樹脂層から形成される、請求項1に記載の二次電池用外装材。
【請求項3】
前記シーラント層が、融点が100〜165℃である樹脂から形成される、請求項1又は2に記載の二次電池用外装材。
【請求項4】
前記シーラント層の単位体積当たり、前記高融点物質の数が100〜1500万個/cmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の二次電池用外装材。
【請求項5】
前記シーラント層において、前記高融点物質の粒子が偏りなく分散している、請求項1〜4のいずれか一項に記載の二次電池用外装材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の二次電池用外装材の製造方法であって、
前記バリア層の少なくとも一方の面に、前記腐食防止処理層を形成する工程と、
前記バリア層の前記一方の面とは反対側の面に、基材接着剤層を介して前記基材層を貼り合わせる工程と、
前記バリア層に形成された前記腐食防止処理層上に、シーラント樹脂材料を塗布及び乾燥することで前記シーラント層を形成する工程と、を備える製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池用外装材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やスマートフォン、音楽再生携帯機器などの携帯機器やハイブリッド電気自動車、電気自動車などの普及が進んでいる。その電源、動力源である電気を供給するための電池として、ニッケル−水素電池やリチウムイオン電池などに代表される二次電池が用いられている。二次電池は、携帯機器用途においては軽量、コンパクト化が求められ、また車載用途においては高エネルギー化、高出力化のため並列、直列に接続されて多層化が進み、さらに軽量、コンパクト化が求められている。
【0003】
ところで、二次電池は、用途や使用環境によって金属缶やラミネートフィルム外装材が使い分けられているが、軽量化や形状自由度の観点からラミネートフィルム外装材が注目されている。
【0004】
二次電池の外部からの水分の浸入を防ぐため、ラミネートフィルム外装材におけるバリア層には一般的にアルミニウム箔やステンレス箔などに代表される金属箔が使われている。その金属箔の中でも軽量で延展性があり、材料コストの面などから、アルミニウム箔をバリア層にしたアルミニウム箔ラミネートフィルムが多く使われている。
【0005】
アルミニウム箔ラミネートフィルムは、アルミニウム箔と樹脂との積層体であり、一般には、電池要素に近い内層から順にシーラント層、接着剤層、腐食防止処理層、アルミニウム箔層、腐食防止処理層、基材接着剤層、基材層(ナイロン、PET等)の構成となっている。
【0006】
例えば、リチウムイオン二次電池の電池要素としては、正極材、負極材とその電極同士の接触を防ぐためのセパレーターと共に、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルなどの非プロトン性の溶媒に、電解質(リチウム塩)を溶解した電解液、もしくは該電解液を含浸させたポリマーゲルからなる電解質層が挙げられ、それらの電池要素に蓄えられた電力を、金属端子(以下タブリードとする)を介して電池外部に供給している。
【0007】
軽量且つコンパクトでより高容量な二次電池にするため、このようなラミネートフィルム外装材の薄膜化は重要であるが、最内層となるシーラント層の膜厚を薄くしすぎると、バリア層に使われる金属箔とタブリードとが接触し、二次電池が短絡するおそれがある。
【0008】
このような二次電池端部の短絡を防止する方法として、例えば、特許文献1に記載されているように、バリア層とシーラント層との間に中間層を設けることでヒートシール部の膜厚を保ち、タブリードとバリア層に使われる金属箔との接触(短絡の発生)を防止する方法などがこれまでにも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−138793
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法では、タブリードと外装材のバリア層に使われる金属箔との短絡を防止することはできるものの、中間層が1層加わることで膜厚が厚くなってしまう。
【0011】
近年普及が進んでいるリチウムイオン二次電池では、電気絶縁性が保てないことからくる電池の性能の低下や、発熱や発火を起こすといった危険があるため、二次電池の短絡を防ぐことは必須である。しかし一方で、このように外装材を薄膜化しながら、タブリードと二次電池用外装材との短絡を防止するための有効な手段は、今現在十分に得られていないことが実情である。
【0012】
上記問題に鑑み、本発明は、十分な薄さと優れた電気絶縁性を両立することのできる二次電池用外装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、少なくとも基材層、バリア層及びシーラント層をこの順に備え、前記バリア層は金属箔からなり、前記バリア層は、少なくとも前記シーラント層側に腐食防止処理層を有しており、前記シーラント層は前記腐食防止処理層上に直接形成されており、前記シーラント層の厚さは5〜30μmであり、前記シーラント層は高融点物質を含有する、二次電池用外装材を提供する。
【0014】
このようにバリア層の第一の面の腐食防止処理層上に接着剤を介さず直接シーラント層を設け、シーラント層の厚さを5〜30μmとし、シーラント層中に高融点物質を含有させることで、薄膜でも電気絶縁性に優れた二次電池用外装材を提供することができる。
【0015】
本発明の二次電池用外装材においては、シーラント層が酸変性ポリオレフィン系樹脂から形成されることが好ましい。
【0016】
シーラント層を酸変性ポリオレフィン系樹脂を用いて形成することで、シーラント層とバリア層とを強固に密着させることができる。また、二次電池用外装材のシーラント層を内側にしながら袋状にし、ヒートシールすることにより、シーラント層同士をより強固に密着することができる。
【0017】
本発明の二次電池用外装材においては、シーラント層は、融点が100〜165℃である樹脂から形成されることが好ましい。
【0018】
シーラント樹脂の融点が100〜165℃であることで、より安定したヒートシール特性を得ることができる。
【0019】
本発明の二次電池用外装材においては、高融点物質の平均粒子径が、シーラント層の厚さの30〜80%であることが好ましい。
【0020】
シーラント層中に、シーラント層の厚さに対し30〜80%の粒径サイズの高融点物質が含有されていることで、ヒートシール部のシーラント層の厚さが保持し易くなり、短絡のない優れた電気絶縁性を得易くなる。
【0021】
本発明の二次電池用外装材においては、高融点物質の融点が220℃以上であることが好ましい。
【0022】
高融点物質の融点が220℃以上であることで、ヒートシールを行っても高融点物質が溶け難く、シーラント層の層厚が保持され、短絡のない優れた電気絶縁性を得易くなる。
【0023】
本発明の二次電池用外装材においては、シーラント層の単位体積当たり、高融点物質の数が100〜1500万個/cmであることが好ましい。
【0024】
シーラント層の単位体積当たり、高融点物質の数が100〜1500万個/cmであることで、高融点物質が偏りなく分散し、安定して優れた電気絶縁性を得易くなる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、十分な薄さと優れた電気絶縁性を両立することのできる二次電池用外装材を提供することができる。具体的には、本発明の二次電池用外装材によれば、シーラント層を薄膜化しても、タブリードとの短絡を抑制でき、優れた電気絶縁性を保つことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る二次電池用外装材を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る二次電池用外装材を用いて得られる、二次電池を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<二次電池用外装材>
以下、本発明の一実施形態に係る二次電池用外装材について図面を参照して説明する。まず、図1に示すように、本実施形態の二次電池用外装材1は、少なくとも基材層15、バリア層13、及びシーラント層11をこの順に備え、バリア層13は金属箔からなり、バリア層13は、少なくともシーラント層11側に腐食防止処理層12を有しており、シーラント層11は腐食防止処理層12上に直接形成された構成を有している。すなわち、本実施形態の二次電池用外装材1は、バリア層13の片側の面(第二の面)が少なくとも基材層15を有する積層体で構成され、基材層15とは反対側のもう一方の面(第一の面)がバリア層13上に形成された腐食防止処理層12上にシーラント層11が接着層を介さず直接形成された積層体で構成される。なお、同図に示すとおり、バリア層13の基材層側にも腐食防止処理層12が設けられていてもよく、また基材層15が基材接着剤層14を介してバリア層13と接着されていてもよい。
【0028】
二次電池用外装材1は、基材層15が最外層、シーラント層11が最内層である。すなわち、二次電池用外装材1は基材層15を二次電池の外部側、シーラント層11を二次電池の内部側にして使用される。以下、二次電池用外装材1を構成する各層の詳細について説明する。
【0029】
[シーラント層11]
シーラント層11は、二次電池用外装材1においてヒートシールによる密封性を付与する層である。シーラント層11は所定の樹脂から形成され、バリア層13の基材層15とは反対面(第一の面)の腐食防止処理層12上に、接着剤等を介さずに直接形成されている。このようなシーラント層11の形成は、シーラント層11となる樹脂材料をバリア層13上に形成された腐食防止処理層12上に塗布または塗工することにより形成することができる。
【0030】
シーラント層11を形成するために使用される樹脂としてはポリオレフィン系樹脂が挙げられる。ただし、バリア層であるバリア層13との密着をより高めるために、好ましくはポリオレフィン系樹脂に不飽和カルボン酸又はその無水物等の酸をグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン系樹脂が用いられる。ポリオレフィン系樹脂としては、低密度、中密度、高密度のポリエチレン、ホモ、ブロック、又はランダムポリプロピレンなどが挙げられる。シーラント層11を形成するために使用される樹脂としては、特に耐熱性のあるポリプロピレンが好ましい。
【0031】
ポリプロピレンは、プロピレンに対し、他のα−オレフィン、例えばエチレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテンなどが1ないし10モル%ランダム共重合したものである。グラフトされる不飽和カルボン酸又はその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、などの不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラニコン酸、アリルコハク酸、メサコン酸、グルタコン酸、ナジック酸、メチルナジック酸、テトラヒドロフタール酸、メチルヘキサヒドロフタル酸などの不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水アリルコハク酸、無水グルタコン酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、無水テトラヒドロフタール酸、無水メチルテトラヒドロフタール酸などの不飽和ジカルボン酸無水物などがあげられる。グラフト変性にはこれらの2成分以上の混合成分を用いてもよい。これらの不飽和カルボン酸あるいはその酸無水物のうちでは、マレイン酸、無水マレイン酸、ナジック酸または無水ナジック酸を使用することが好ましい。
【0032】
グラフト変性の方法としては周知の方法を採用することができる。例えば、前記ポリプロピレンと前記不飽和カルボン酸等、さらにラジカル開始剤を所定の溶媒に添加して、高温に加熱することによって行われる。
【0033】
シーラント層11に使われる樹脂としては、二次電池に収められている電池要素が熱を帯びた場合でもヒートシール部が開放しないことや、良好なヒートシール性を確保することができるものが好ましい。このような観点から、シーラント層が、(示差熱分析で測定した)融点が100〜165℃である樹脂から形成されることが好ましい。なお、高耐熱性や生産性をより向上する観点から、当該融点は120〜160℃であることがより好ましい。
【0034】
シーラント層11には、スリップ剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、造核剤、顔料、染料等の各種添加剤が含有されていてもよい。これらの添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
シーラント層11に使われる樹脂(塗液)は、前記ポリオレフィン系樹脂が有機溶剤に固体状態で分散されたものである。有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族系炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、デカン等の脂肪族炭化水素等を用いることができる。また、安定した貯蔵を達成するため、アルコール類、ケトン類、エーテル類、酸無水物、エステル類、セルソルブ類等の貧溶媒を加えることができる。貧溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、プロパンジオール、フェノール、水、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンタノン、ヘキサノン、イソホロン、アセトフェノン、無水酢酸、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、ギ酸ブチル、エチルセルソルブ、メチルセルソルブ等を用いることができる。
【0036】
シーラント層11は、バリア層13の基材層15が積層される面とは反対面(第一の面)の腐食防止処理層12上に、特に限定されないがダイレクトグラビアコート、オフセットグラビアコート、バーコーターなど公知のコート方法により接着層を等を介さず直接形成される。これにより得られた二次電池用外装材1をシーラント層11側に折り返してシーラント層11同士を向かい合わせにし、シーラント層11の端部を融解温度以上でヒートシールすることで、二次電池の電池要素を密閉することができる。
【0037】
シーラント層11の厚さは、5〜30μmである。層厚が薄くなるとシーラント層11にピンホールが発生し易くなったり、あるいは電気絶縁性低下、ヒートシールをした際の密着不良等を起こしたりする傾向がある。一方、層厚を厚くしすぎると材料コストが高くなる。このような観点から、当該厚さは7〜20μmであることが好ましい。
【0038】
[高融点物質16]
図1に示すように、シーラント層11には高融点物質16が含有される。なお、図1では高融点物質16の形状を模式的に球状としているが、当該形状は必ずしも球状に限定されるものではない。高融点物質16の材料としては、フィラーやグラスファイバー、不織布等があるが、形状やサイズ、シーラント樹脂への分散性等の観点からフィラーが好ましい。
【0039】
高融点物質16としては、酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、ガラス等の無機粒子や、ナイロン、エポキシ樹脂等の有機粒子(耐熱粒子)が用いられる。これらの中でも、コストの観点から酸化アルミニウムの粒子が好ましい。
【0040】
高融点物質16としては、ヒ−トシール時に溶融しない物質であれば特に指定されないが、融点が220℃以上のものが好ましい。なお、ヒートシール温度条件による溶融を抑えるため、当該融点が250℃以上のものがより好ましい。なお、当該融点の上限は特に限定されるものではないが、2050℃程度とすることができる。
【0041】
高融点物質16は、シーラント層を形成する樹脂との密着性を高めるため、シランカップリング剤などで表面処理を施すことができる。
【0042】
高融点物質16は、平均粒子径が小さすぎるとヒートシール時にシーラント層11の膜厚を確保できずに電気絶縁性が低下し、また、平均粒子径が大きくなりすぎると、ヒートシール性の確保からシーラント層11の膜厚を厚くしなくてはならず、薄膜化に不利となる。そのため、当該平均粒子径は、シーラント層の厚さに対し30〜80%であることが好ましく、40〜70%であることがより好ましい。あるいは、当該平均粒子径は、1.5〜24μmであることが好ましく、2.8〜14μmであることがより好ましい。高融点物質16の平均粒子径は、例えば、レーザー回折、散乱法により測定できる。
【0043】
シーラント層11の単位体積当たり、高融点物質16の数(含有量)が100個/cmを下回るとヒートシール端部の電気絶縁性が低下し短絡の恐れがあり、1500万個/cmを超えるとヒートシール力が低下する恐れがある。そのため、シーラント層11の単位体積当たり、高融点物質16の数が100〜1500万個/cmであることが好ましく、1万〜1000万個/cmであることがより好ましい。シーラント層11の単位体積当たりの高融点物質16の数は、X線CTを用いて計測することができる。具体的には、塗工した積層フィルムのシーラント層11を10mm×塗工膜厚で切り出し、X線CT撮影により立体像化し、その立体像の高融点物質及び塗工樹脂に対し2値化を行う。その後、2値化したデータから高融点物質のみを抽出してその数をカウントした後、単位体積当たりの数を算定することで、高融点物質16の数を計測することができる。
【0044】
[腐食防止処理層]
腐食防止処理層12は、バリア層13の少なくともシーラント層11側に形成される。腐食防止処理層12は、例えばリチウムイオン二次電池では、電解質と水分の反応により発生するフッ酸によるバリア層13表面の腐食を防止するため、シーラント層11側に形成することが必要である。
【0045】
なお、腐食防止処理層12は、必要に応じてバリア層13の基材層15側に形成してもよい。この場合、腐食防止処理層12は、腐食防止機能だけでなく、シーラント層11及び基材接着剤層14のアンカー層としても機能する。
【0046】
腐食防止処理層12の形成には、例えば、クロム酸塩、リン酸塩、フッ化物と各種熱硬化性の樹脂からなる腐食防止処理剤を用いたクロメート処理、希土類元素の酸化物である酸化セリウム、リン酸塩と各種熱硬化性樹脂からなる腐食防止処理剤を用いたセリアゾル処理などを使用することができる。腐食防止処理層12は、バリア層13の耐食性を満たす塗膜であれば、上記処理で形成した塗膜には限定されず、例えば、リン酸塩処理、ベーマイト処理などを使用してもよい。また、腐食防止処理層12は、単層であることに限定されず、腐食防止機能をもつ塗膜上にオーバーコート剤として樹脂をコーティングするなど2層以上で耐食性を有する構成を採用してもよい。
【0047】
腐食防止処理層12の厚さは、腐食防止機能とアンカーとしての機能の点から、5nm〜11μmが好ましく、10〜200nmがより好ましい。
【0048】
[バリア層13]
バリア層13は、基材層15(あるいは必要に応じて設けられる基材接着剤層14)とシーラント層11との間に形成される。バリア層13は、水分の電池内への浸入を防止するために高い水蒸気バリア性、及び延伸性などの機能が求められる。
【0049】
バリア層13としては、アルミニウム、ステンレス鋼、又は銅等の各種金属箔を使用することができるが、重量(比重)、防湿性、コストの面から、アルミニウム箔が好ましい。アルミニウム箔としては、公知の軟質アルミニウム箔が使用でき、耐ピンホール性、及び成型時の延展性の点から、鉄を含むアルミニウム箔が好ましい。アルミニウム箔中の鉄の含有量は、0.1〜9.0質量%が好ましく、0.5〜2.0質量%がより好ましい。鉄の含有量が下限値以上であれば耐ピンホール性、延伸性が向上する傾向があり、上限値以下であれば、柔軟性が向上する傾向がある。
【0050】
バリア層13の厚さは、バリア性、耐ピンホール性、加工性の点から、10〜100μmが好ましく、15〜80μmがより好ましい。
【0051】
バリア層13には、未処理の金属箔を用いてもいいが、脱脂処理を施した金属箔を用いることが好ましい。脱脂処理としては、大きく区分するとウェットタイプとドライタイプが挙げられる。
【0052】
ウェットタイプの脱脂処理としては、例えば、酸脱脂やアルカリ脱脂などが挙げられる。酸脱脂に使用する酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸などの無機酸が挙げられる。これらの酸は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、金属箔のエッチング効果が向上する点から、必要に応じて鉄(III)イオンやセリウム(III)イオンなどの供給源となる各種金属塩を配合してもよい。アルカリ脱脂に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウムなどの強エッチングタイプのアルカリが挙げられる。また、弱アルカリ系や界面活性剤を配合したものを用いてもよい。ウェットタイプの脱脂処理は浸漬法やスプレー法で行われる。
【0053】
ドライタイプの脱脂処理としては、例えばバリア層をアルミニウム箔とした場合、アルミニウムを焼鈍処理する工程において、その処理時間を長くすることで脱脂処理を行う方法が挙げられる。また、該脱脂処理の他にも、フレーム処理やコロナ処理などが挙げられる。さらには特定波長の紫外線を照射して発生する活性酸素により、汚染物質を酸化分解・除去する脱脂処理を採用してもよい。
【0054】
[基材接着剤層14]
基材接着剤層14は、基材層15とバリア層13間に必要に応じて形成される。基材接着剤層14は、基材層15とバリア層13を強固に接着するのに必要な密着力を有する。基材接着剤層14の形成には、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールなどを主剤とし、芳香族系や脂肪族系のイソシアネートを硬化剤とした2液硬化型接着剤を使用することができる。基材接着剤層14には、熱可塑性エラストマーや粘着付与剤、フィラー、顔料、又は染料など添加することができる。
【0055】
基材接着剤層14の厚さは、接着強度や、追随性、加工性などの点から、0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。
【0056】
[基材層15]
基材層15は、バリア層13上に、場合により基材接着剤層14を介して形成される。基材層15は二次電池を製造する際のシール工程における耐熱性を付与し、加工や流通の際に起こりうるピンホールの発生を抑制する役割を果たす。また、成型加工時のバリア層13の破断防止や、バリア層13と他の金属との接触を防止する電気絶縁性などの役割を果たす。
【0057】
基材層15としては、バリア層13上に基材接着剤層14を介して、例えば、延伸フィルム等をラミネートすることにより形成したものでもよく、あるいはバリア層13上に液体状の樹脂を塗布することにより直接形成したもの(被覆層)でもよい。基材層15の形成方法はこれらどちらかに特に限定されるものではないが、例えば前者の場合には深絞り成形性がよく、後者の場合には、二次電池用外装材1の総厚を薄くすることができるため、より薄い電池を作ることができるという傾向がある。
【0058】
上記の延伸フィルム等としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂又はポリオレフィン樹脂等の延伸又は未延伸フィルム等が挙げられる。なかでも成型性、耐熱性、耐突き刺し性、電気絶縁性を向上させる点から2軸延伸ポリアミドや2軸延伸ポリエステルが好ましい。これらのフィルムは、1枚を単独で用いてもよく、2枚以上を貼り合わせた複合フィルムとして用いてもよい。
【0059】
また、上記の液体状の樹脂(塗液樹脂)としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。なかでも機械的特性や耐薬品性、絶縁性、コストの面からポリエステル樹脂が好ましい。また、架橋方法については、公知のイソシアネートなどの硬化剤により架橋させてもよく、メラミンやエポキシなどにより焼付けで架橋させてもよく、架橋方法については特に限定されない。
【0060】
基材層15には、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤、帯電防止剤等の添加剤が内部に分散、又は表面に塗布されてもよい。スリップ剤としては、脂肪酸アミド(例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミドなど)などが挙げられる。アンチブロッキング剤としては、シリカなどの各種フィラー系アンチブロッキング剤が好ましい。添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
基材層15の厚さは、耐突き刺し性、電気絶縁性、成型加工性などの点から、6〜50μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。
【0062】
基材層15の表面に、耐擦傷性や滑り性改善などのために、凹凸形状を形成することができる。
【0063】
<二次電池用外装材の製造方法>
以下、二次電池用外装材1の製造方法について、実施形態の一例を示して説明する。下記内容は一例であり、二次電池用外装材1の製造方法は下記の内容に限定されない。
【0064】
二次電池用外装材1の製造方法としては、例えば、下記工程(I)〜(III)を備える方法が挙げられる。なお、以下では基材層15として基材樹脂フィルムを用いる場合を記載する。
工程I:バリア層13の一方の面(第一の面)に、腐食防止処理層12を形成する工程。
工程II:バリア層13における第一の面と反対側の面(第二の面)に、基材接着剤層14を介して基材層15を貼り合わせる工程。
工程III:バリア層13に形成された腐食防止処理層12上に、シーラント樹脂材料を用いてシーラント層11を形成する工程。
【0065】
[工程I]
バリア層13の第一の面に、腐食防止処理剤を塗布、乾燥して腐食防止処理層12を形成する。この時、場合によりバリア層13の第二の面にも、同様にして腐食防止処理層12を形成してもよい。なお、腐食防止処理剤としては、例えば、前記したセリアゾル処理用の腐食防止処理剤、クロメート処理用の腐食防止処理剤等が挙げられる。腐食防止処理剤の塗布方法は特に限定されず、グラビアコート、リバースコート、ロールコート、バーコート等、各種方法を採用できる。
【0066】
[工程II]
バリア層13の第二の面に、基材接着剤層14を介して基材層15を形成する基材樹脂フィルムをドライラミネート法により貼り合わせ、基材層15を形成する。ラミネート後は、例えば60℃、7日間のエージング処理を行い、腐食防止処理層12、バリア層13、基材接着剤層14及び基材層15を備える積層体を得る。
【0067】
[工程III]
基材層15、基材接着剤層14、バリア層13及び腐食防止処理層12がこの順に積層された積層体の腐食防止処理層12上に、シーラント層となる樹脂材料を塗布、乾燥することで、バリア層13の第一の面上にシーラント層11を形成する。塗布方法は特に限定されず、グラビアコート、リバースコート、ロールコート、バーコート等、各種方法を採用できる。
【0068】
以上説明した工程(I)〜(III)を実施することにより、二次電池用外装材1が得られる。なお、二次電池用外装材1の製造方法の工程順序は、前記(I)〜(III)を順次実施する方法に限定されない。例えば、バリア層13の第二の面には腐食防止処理層12を形成しない場合は、工程(II)を行ってから工程(I)を行ってもよい。
【0069】
<二次電池の作製方法>
以下、二次電池2の製造方法について説明する。二次電池2の製造方法としては、例えば、下記工程(I)〜(III)を備える方法が挙げられる。
工程I:二次電池用外装材1の半分の領域に、電池要素を配置するための成型加工部を形成する工程。
工程II:二次電池用外装材1の成型加工部に電池要素を配置する。そして二次電池用外装材1のもう半分の領域を、シーラント層11が内面になるようにして折り返して3辺を重ね合せ、リードとタブシーラントからなるタブを挟持する1辺のみを加圧熱融着する工程。
工程III:残りの2辺のうち1辺を残して加圧熱融着する。その後、残りの1辺から電解液を注入し、真空状態で加圧熱融着する工程。
【0070】
以上説明した工程(I)〜(III)を実施することにより、二次電池2が得られる。ただし、二次電池2の製造方法は以上に記載される方法には限定されない。
【0071】
このようにして得られる本実施形態の二次電池2は、図2に示すように、二次電池用外装材21により蓄電デバイス要素を収納し、かつ蓄電デバイス要素の正極及び負極に各々接続されたリード22とタブシーラント23からなるタブ24を加圧熱融着部25で挟持した構造を持つ。
【0072】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例によって本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0074】
[使用材料]
実施例及び比較例の二次電池用外装材の作製に使用した材料を以下に示す。
【0075】
(シーラント層)
【表1】

【0076】
(腐食防止処理層)
酸価セリウム(厚さ100nm)
【0077】
(バリア層)
軟質アルミニウム箔8079材(厚さ30μm)
【0078】
(基材接着剤層)
ポリウレタン系接着剤(厚さ3μm)
【0079】
(基材層)
ナイロンフィルム(厚さ25μm)
【0080】
(高融点物質)
酸化アルミニウムフィラー
【0081】
[評価]
実施例及び比較例の二次電池用外装材に対し、以下の評価を行った。
【0082】
(電気絶縁性評価)
各実施例及び比較例の二次電池用外装材1を、120mm×60mmサイズに切り出し、シーラント層が内側になるように半分に折りたたんだ。次に、折りたたんだ部分を底辺にして左右両端部を190℃/0.5MPa/3sec、5mm幅でヒートシールをし、袋上のパウチを作製した。残った一辺よりエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート(1/1/1:重量比)と電解質にLiPFのLi塩を混ぜた混合溶液を注入し、ニッケル製で厚さ50μm、幅12mm、長さ50mmサイズのタブリードを挟み、「190℃/0.5MPa/3sec」、又は「200℃/0.5MPa/3sec」、の2条件で10mm幅にヒートシールし、電気絶縁性評価用サンプルを製作した。このサンプルを用いて、AC/DC耐電圧・絶縁抵抗試験機(菊水電子株式会社製)による電気絶縁性評価を行った。
【0083】
(電気絶縁性評価基準)
サンプルのタブリードと外装材のバリア層に電極を設置し、下記基準にて電気絶縁性評価を行った。結果を表2に示す。
基準:電圧25Vを5秒間印加し、測定値が25Ω以上であればOK、25Ω未満であればNGとした。
「A」:190℃:OK、200℃:OK
「B」:190℃:OK、200℃:NG
「C」:190℃:NG、200℃:NG
【0084】
(ヒートシール強度評価)
前記製造法により得た二次電池用外装材1を、120mm×60mmサイズに切り出し、シーラント層が内側になるように半分に折りたたみ、折りたたんだ部分とは反対側の端部を190℃/0.5MPa/3secで10mm幅にヒートシールした。その後、ヒートシール部の長手方向中央部を幅15mm×長さ300mmで切り出し、ヒートシール強度測定用サンプルを製作した。このサンプルを用いて、引張試験機(株式会社島津製作所社製)によるヒートシール強度評価を行った。
【0085】
(ヒートシール強度評価基準)
サンプルのヒートシール部に対し、引張速度 50mm/minの条件にてT字剥離試験を行い、以下の基準にて評価を行った。結果を表2に示す。
「A」:ヒートシール強度が120N以上
「B」:ヒートシール強度が90N以上、120N未満
「C」:ヒートシール強度が90N未満
【0086】
【表2】
【0087】
本実施例においては、十分な薄さと優れた電気絶縁性を両立できることが分かった。また、本実施例においては、シーラント層を薄くしたとしても、ヒートシール強度が損なわれないことが分かった。
【符号の説明】
【0088】
1…二次電池用外装材、11…シーラント層、12…腐食防止処理層、13…バリア層、14…基材接着剤層、15…基材層、16…高融点物質、2…二次電池、21…二次電池用外装材、22…リード、23…タブシーラント、24…タブ、25…加圧熱融着部。
図1
図2