特許第6728624号(P6728624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6728624-熱転写受像シートの製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6728624
(24)【登録日】2020年7月6日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】熱転写受像シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20200713BHJP
【FI】
   B41M5/52 400
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-205331(P2015-205331)
(22)【出願日】2015年10月19日
(65)【公開番号】特開2017-77630(P2017-77630A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2018年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野 靖方
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 梓実
(72)【発明者】
【氏名】山内 由佳
(72)【発明者】
【氏名】白石 隆司
(72)【発明者】
【氏名】嶋 政人
【審査官】 川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−201262(JP,A)
【文献】 特開平05−058062(JP,A)
【文献】 特開2011−031461(JP,A)
【文献】 特開2010−149464(JP,A)
【文献】 特開2012−051222(JP,A)
【文献】 特開平05−301464(JP,A)
【文献】 特開2011−037245(JP,A)
【文献】 特開2008−214594(JP,A)
【文献】 特開昭59−212832(JP,A)
【文献】 特開平05−032065(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0118360(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/382−5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート上に少なくとも断熱層、下引き層、染料受容層を順次積層形成してなる熱転写受像シートの製造方法であって、前記染料受容層がカルボキシ基またはアセチル基またはその両基を含有するビニル系エマルションと、HLBが5以上10以下のポリエーテル変性シリコーンと、アジリジン環含有量が前記ビニル系エマルション中のカルボキシ基またはアセチル基またはその両基の含有量に対して0.2モル当量以上1.5モル当量以下である多官能性アジリジン化合物を少なくとも含む染料受容層塗布液を塗布、乾燥し形成してなることを特徴とする、熱転写受像シートの製造方法。
【請求項2】
前記染料受容層のビニル系共重合体エマルションが塩化ビニル−アクリル共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の熱転写受像シートの製造方法
【請求項3】
前記染料受容層の塩化ビニル−アクリル共重合体の塩化ビニル:アクリルの比率が50:50以上、80:20以下であることを特徴とする請求項2に記載の熱転写受像シートの製造方法
【請求項4】
前記染料受容層のポリエーテル変性シリコーンオイルの添加量が乾燥膜中の固形分比に対して0.2質量部以上15質量部以下であることを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載の熱転写受像シートの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写方式のプリンタに使用される熱転写受像シートに関するもので、基材の一方の面に、断熱層、下引き層、染料受容層を順次積層形成した熱転写受像シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱転写記録媒体は、サーマルリボンと呼ばれ、熱転写方式のプリンタに使用されるインクリボンのことであり、基材の一方の面に熱転写層、その基材の他方の面に耐熱滑性層(バックコート層)を設けた構成となっている。ここで熱転写層は、インクの層であって、プリンタのサーマルヘッドに発生する熱によって、そのインクを昇華(昇華転写方式)あるいは溶融(溶融転写方式)させ、熱転写受像シート側に転写するものである。
【0003】
現在、熱転写方式の中でも昇華転写方式は、プリンタの高機能化と合わせて各種画像を簡便にフルカラー形成できるため、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書等のカード類、アミューズメント用出力物等、広く利用されている。そういった用途の多様化と共に、小型化、高速化、低コスト化、また得られる印画物への耐久性を求める声も大きくなり、近年では基材シートの同じ側に、印画物への耐久性を付与する保護層等を重ならないように設けられた複数の熱転写層をもつ熱転写記録媒体がかなり普及してきている。
【0004】
また、環境負荷を軽減するため、染料受容層や下引き層が水系である熱熱転写受像シートが求められている。そのような状況の中、用途の多様化と普及拡大に伴い、よりプリンタの印画速度の高速化が進む一方、高い染料染着性を維持しつつ熱転写時に熱転写シートとの離型性に優れる熱転写シートの製造が検討されている。
【0005】
例えば特許文献1では、受像層を構成する少なくとも最表層が、(a)水性染着性樹脂、(b)カルボキシ変性シリコーン化合物、(c)ビニル系ポリマー微粒子、(d)多官能アジリジン誘導体化合物、および/または多官能オキサゾリン誘導体化合物を含有したことを特徴とする熱転写記録用受像シートが提案されている。
【0006】
特許文献2では、基材シート(A)上に、少なくとも中空粒子を含有する多孔質層(B)と、その上に加熱時に熱転写シートから熱移行性染料を受容する受容層(C)が形成された熱転写受像シートであって、受容層(C)が少なくともバインダー樹脂(a)、冷却ゲル化剤(b)、及び離型剤(c)を含有しており、離型剤(c)がエマルション化して添加されたシリコーンオイル、又はHLBが5以下の親水性置換基により変性されたシリコーンであることを特徴とする感熱転写受像シートが提案されている。
【0007】
また、特許文献3では、紙基材上に、ポリオレフィン樹脂が被覆され、前記ポリオレフィン樹脂上にポリエステル樹脂層を有し、かつ少なくとも1層の受容層を有する熱転写受像シートであって、前記ポリエステル樹脂層の樹脂が、実質的に無核の長尺状の空洞をその長さ方向が一方向に配向した状態で内部に含有する空洞含有樹脂形成体であり、前記受容層が少なくとも1種のポリマーラテックス、および少なくとも1種の、HLB値が5以上10以下のポリエーテル変性シリコーンを含有する熱転写受像シートが提案されている。
【0008】
また、特許文献4では熱転写受像シートが有する染料受容層の形成材料となる水性分散液であって、樹脂粒子と、水不溶性シリコーンオイル及びHLBが5〜12である水溶性ポリエーテル変性シリコーンを含有する乳化粒子とを含む、染料受容層形成要水性分散液
が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−58062号公報
【特許文献2】特開2009−190384号公報
【特許文献3】特開2011−201262号公報
【特許文献4】特開2013−1081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1から4に提案されている熱転写受像シートを用いて、昨今の高速印画プリンタにて多湿環境下で印画を行ったところ、熱転写記録媒体の種類によっては、熱転写記録媒体と熱転写受像シートが融着し、熱転写記録媒体の染料層の一部が熱転写受像シートに転写する、いわゆる異常転写が発生した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、染料受容層に用いる材料を規定することで、上記課題を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
具体的には、そのような異常転写の原因が単一の成分によるものではないことを見出したものであり、さらに具体的には、その原因がその架橋剤の種類、バインダーの種類、それに離型剤の三成分の複合要因によることを見出したものであり、そのような三成分を規定することにより解決できることを見出したものである。
【0013】
すなわち、請求項1記載の発明は、基材シート上に少なくとも断熱層、下引き層、染料
受容層を順次積層形成した熱転写受像シートであって、前記染料受容層をカルボキシ基ま
たはアセチル基またはその両基を含有するビニル系エマルションと、HLBが5以上10
以下のポリエーテル変性シリコーンと、アジリジン環含有量が前記ビニル系エマルション中のカルボキシ基またはアセチル基またはその両基の含有量に対して0.2モル当量以上1.5モル当量以下である多官能性アジリジン化合物を少なくとも含む染料受容層塗布液を塗布、乾燥により形成してなることを特徴とする、熱転写受像シートの製造方法である。
【0014】
請求項2記載の発明は、前記染料受容層のビニル系共重合体エマルションが塩化ビニル−アクリル共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の熱転写受像シートの製造方法である。
【0015】
請求項3記載の発明は、前記染料受容層の塩化ビニル−アクリル共重合体の塩化ビニル:アクリルの比率が50:50以上、80:20以下であることを特徴とする請求項2に記載の熱転写受像シートの製造方法である。
【0016】
請求項4記載の発明は、前記染料受容層のポリエーテル変性シリコーンオイルの添加量
が乾燥膜中の固形分比に対して0.2質量部以上15質量部以下であることを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載の熱転写受像シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法を用いることにより、熱転写受像シートにおいて、昨今の高速印画プリン
タにて高温高湿環境下で印画した場合でも、印画時の離型性に優れ、かつ印画欠点のなく、高い反射濃度を印画物に付与する、という効果を発現できる。
【0019】
これは、架橋剤が多官能性アジリジン化合物を少なくとも含むことにより高階調部の印画時剥離性が向上し、離型剤のポリエーテル変性シリコーンがHLBで5以上10以下とすることにより低階調部の印画時剥離性が向上し、バインダーがカルボキシ基またはアセチル基またはその両基を含有するビニル系エマルションとすることにより高い印画濃度とすることができるため、そのような三成分を規定することにより高温高湿環境下で印画した場合でも、印画時の離型性に優れ、かつ印画欠点のなく、高い反射濃度を印画物に付与する、という効果を発現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に基づく実施形態に係る熱転写受像シートの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。図1は熱転写受像シート1の模式図である。本発明の熱転写受像シート1は、少なくとも基材2、断熱層3、下引き層4及び染料受容層5から構成される。
【0022】
基材2は、従来公知のもので対応でき、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリアミド等の合成樹脂のフィルム、および上質紙、中質紙、コート紙、アート紙、樹脂ラミネート紙等の紙類等を単独で、または組み合わされた複合体として使用可能である。
【0023】
基材2の厚さは、印画物としてのコシ、強度や耐熱性等を考慮し、25μm以上250μm以下の範囲のものが使用可能であるが、より好ましくは50μm以上200μm以下程度のものが好ましい。
【0024】
次に、基材2の一方の面に設けられた断熱層3は、特に限定されるものではなく、従来公知のもので対応できる。発泡フィルムの片面または両面にスキン層を設けた複合フィルムを用いた断熱層を挙げることができるが、画質に影響を与える平滑性や光沢性等を考慮し、発泡フィルムの片面または両面にスキン層を設けた複合フィルムを用いることが好ましい。
【0025】
前記発泡フィルムとしては、断熱性とクッション性の観点から、ポリエステル樹脂、またはポリスチレン樹脂が好ましい。
【0026】
断熱層3の厚さは、10μm以上80μm以下の範囲のものが使用可能であるが、より好ましくは20μm以上60μm以下程度のものが好ましい。
【0027】
熱転写受像シート1は、断熱層3と染料受容層5の間に設けられる下引き層4は従来公知のものを使用できる。界面を成す断熱層、および染料受容層との密着性、および印画物の保存性の観点から、疎水性樹脂と親水性樹脂から成るエマルションを塗布・乾燥して形成することが好ましい。
【0028】
前記疎水性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、およびこれら樹脂の共重合体を挙げることができる。これらは単独、あるいは2種以上を混合しても良い。
【0029】
前記親水性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
【0030】
下引き層4の厚さは、0.1μm以上3μm以下の範囲のものが使用可能であるが、より好ましくは0.2μm以上1.0μm以下程度のものが好ましい。
【0031】
次に、基材2の断熱層3側の最表面に設けられた染料受容層5は、ビニル系共重合体エマルションと、HLBが5以上10以下のポリエーテル変性シリコーンと、多官能性アジリジン化合物を少なくとも含有する。
【0032】
本発明の染料受容層5は、バインダ樹脂としてカルボキシ基またはアセチル基またはその両基を含有するビニル系共重合体エマルションの適用が必須である。ビニル系共重合体エマルションとしては、塩化ビニル−アクリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル共重合体、スチレン−アクリル共重合体、塩化ビニル−アクリル−エチレン共重合体、塩化ビニル−アクリル−スチレン共重合体等を挙げることができる。
【0033】
これらは単独、あるいは2種以上を混合しても良い。これらビニル系共重合体エマルションを染料受容層5の主成分とすることで優れた印画時の離型性と印画物の高反射濃度を兼ね備えた熱転写受像シートを提供できる。
【0034】
ここで、前記主成分とは、本発明の効果を損なわない限り、前記ビニル系共重合体エマルションの他に、さらに他の成分が添加されていても良い旨を表す。染料受容層形成時の全固形分に対してビニル系共重合体エマルションが50質量部超で含まれる意味であるが、好ましくは70質量部以上である。
【0035】
前記ビニル系共重合体の構成単位の内、塩化ビニル化合物、およびスチレン化合物は印画濃度に寄与する。中でも、塩化ビニル化合物を使用することで高い印画濃度を付与することができる。また、アクリル化合物や酢酸ビニル化合物は、カルボキシ基やアセチル基が多官能性アジリジン化合物と常温下で反応し、耐熱性、すなわち印画時の離型性に寄与する。中でも、カルボキシ基を含有するアクリル化合物は多官能性アジリジン化合物との反応性が非常に高い。したがって、本発明におけるビニル系共重合体エマルションとしては、塩化ビニル−アクリル共重合体エマルションが好ましい。
【0036】
塩化ビニル−アクリル共重合体の塩化ビニル:アクリルの質量比率は50:50以上80:20以下であることが好ましい。塩化ビニルが50質量部未満であると十分な印画濃度が得られない。一方、塩化ビニルが80質量部を超えると、多官能性アジリジン化合物との反応点が少なくなり、印画時離型性が満足できるレベルに至らない不安がある。
【0037】
染料受容層5は、架橋剤として多官能性アジリジン化合物の含有が必須である。多官能性アジリジン化合物は前記ビニル系共重合体エマルションが含有するカルボキシ基やアセチル基と常温下で反応し、染料受容層の耐熱性を向上することができる。また、耐水性、耐溶剤性への効果も期待できる。本発明における使用可能な多官能性アジリジン化合物はアジリジン環を含有していれば特に限定されるものではなく、分子内に複数のアジリジン環を含有していても良い。
【0038】
多官能性アジリジン化合物の添加量は、前記ビニル系エマルション中のカルボキシ基、またはアセチル基またはその両基に対するアジリジン環含有量が0.2以上1.5モル当量以下とすることが好ましい。0.2モル当量未満では、カルボキシ基またはアセチル基またはその両基との架橋密度が小さく、異常転写の発生が懸念される。一方、1.5モル
当量を越えると、全架橋点に占めるアジリジン環同士の架橋点が増加し、印画濃度の低下が懸念される。
【0039】
染料受容層5は、離型剤としてHLBが5以上10以下のポリエーテル変性シリコーンの含有が必須である。前記ポリエーテル変性シリコーンを使用することで、前記多官能性アジリジン化合物の架橋反応では不足する懸念のある低中階調部における印画時の離型性を補うことができる。
【0040】
ここで、HLBとは界面活性剤の性質を表す指標である。親水基の全くないパラフィンはHLB=0、疎水基の全くないポリエチレングリコールはHLB=20として決めてあり、次式で算出される。(参考文献:エマルション塗料設計マニュアル、(株)アド・オール、中嶋純 著、1996年発行)
HLB=(界面活性剤中の親水性部分の分子量)/(界面活性剤の分子量)
HLB値が5未満では水溶解性が低く不安定なため、染料受容層インキ中に不溶物として残存する懸念がある。前記不溶物を含有したインキと塗布、乾燥して染料受容層を形成すると、不溶物を核とした円状の受容層未塗布部、いわゆる「ハジキ」が発生する。また、「ハジキ」は印画物上に染料が定着しない点欠陥、いわゆる「白ヌケ」を発生させる。一方、HLB値が10を越えると印画時離型性が十分に発揮されず、低中階調部において異常転写を発生する。
【0041】
ポリエーテル変性シリコーンの含有量は染料受容層中の全固形分比で0.2質量部以上15部以下とすることが好ましい。ポリエーテル変性シリコーンの含有量が0.2部未満では、熱転写記録媒体の種類によっては、印画時離型性が満足できるレベルに至らない不安がある。一方、ポリエーテル変性シリコーンの含有量が15部を超えると、塗液中で完全に分散安定化できす、印画物への点欠陥の発生が懸念される。
【0042】
染料受容層5は造膜助剤を含有しても良い。例えばトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、N−メチル−2−ピロリドン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の各種高沸点溶剤等が使用できる。その他、アセチレングリコール、アセチレングリコール等揮発性が高いものを利用することも可能であり、これらを利用した場合は残留溶剤もほとんど発生することはない。これらは単独、あるいは2種以上を混合しても良い。
【0043】
染料受容層5の厚さは、0.1μm以上10μm以下の範囲のものが使用可能であるが、より好ましくは0.2μm以上8μm以下程度のものが好ましい。また必要に応じて架橋剤や酸化防止剤、蛍光染料や、公知の添加剤を含有しても良い。
【0044】
また本発明の熱転写受像シートには、基材2と断熱層3を貼り合わせるための接着層を設けても良い。接着層に用いられる材料としては従来公知のもので対応でき、例えばポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等が使用できる。その中でもポリエチレンやウレタン系樹脂、アクリル系樹脂が好ましい。
【0045】
また本発明の熱転写受像シートには、基材2の断熱層3が設けられている側とは反対側に、裏面層を設けても良い。裏面層はプリンタ搬送性向上や、染料受容層5とのブロッキング防止、印画前後の熱転写受像シートのカール防止のために設けられる。裏面層に用いられる材料としては従来公知のもので対応でき、例えばポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド等のバインダ樹脂を用いることができる。また必要に応じてフィラーや帯電防止剤等の、公知の添加剤を含有しても良い。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の各実施例および各比較例に用いた材料を示す。なお、文中で「部」とあるのは、特に断りのない限り質量基準であり。また、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
基材として厚さ140μmの上質紙を使用し、一方の面に溶融押し出し法により厚さ30μmのポリエチレン樹脂層1を形成した。
【0048】
次に、基材のポリエチレン樹脂層1側とは反対側の面と、厚さ40μmの、発泡エチレンテレフタレートフィルムの片面にスキン層を設けた断熱層の、スキン層を設けていない面との間に、ポリエチレン樹脂を溶融押し出ししてポリエチレン樹脂層2を形成し、サンドラミ方式にて貼り合わせた。また溶融押し出ししたポリエチレン樹脂層2の厚さは15μmとなるように形成した。
【0049】
発泡ポリエチレンテレフタレートフィルムのスキン層側に、下引き層塗布液−1を、乾燥後の厚さが0.5μmとなるように塗布、乾燥することで、下引き層を形成した。更にその下引き層の上に、染料受容層塗布液−1を、乾燥後の厚さが2μmとなるように塗布、乾燥することで、染料受容層を形成し、実施例1の熱転写受像シートを得た。
【0050】
<下引き層塗布液−1>
塩化ビニル共重合体エマルション 20.0部
(ビニブラン278、日信化学工業(株)製、Tg33℃)
ポリビニルピロリドン 20.0部
(ピッツコール K−90、第一工業製薬(株)製)
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル 4.0部
純水 56.0部
これが下引き層塗布液−1の組成である。
【0051】
<染料受容層塗布液−1>
塩化ビニル−アクリル共重合体エマルション 71.0部
(ビニブラン747、日信化学工業(株)製)
多官能性アジリジン化合物 2.2部
(ケミタイトPZ−33、日本触媒(株)製)
ポリエーテル変性シリコーン 1.2部
(X−22−4515、信越化学工業(株)製)
純水 25.6部
これが染料受容層塗布液−1の組成である。
【0052】
(実施例2〜8、比較例1〜5)
実施例1で作製した熱転写受像シートにおいて、染料受容層を表1記載の材料、配合比にした以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜8、比較例1〜5の熱転写受像シートを得た。なお、各染料受容層塗布液は固形分25%で調製した。実施例2〜8、比較例1〜5の染料受容層塗布液について、実施例1の染料受容層塗布液−1との違いを以下に記載する。
【0053】
(実施例2)
ビニル系共重合体エマルションとして、塩化ビニル−アクリル共重合体エマルション(
ビニブラン743、日信化学工業(株)製、塩化ビニル:アクリル=70:30)を使用した。
【0054】
(実施例3)
ビニル系共重合体エマルションとして、塩化ビニル−アクリル共重合体エマルション(ビニブラン900、日信化学工業(株)製、塩化ビニル:アクリル=90:10)を使用した。
【0055】
(実施例4)
実施例1のポリエーテル変性シリコーンの添加量を全固形分比で1部とした。
【0056】
(実施例5)
実施例1のポリエーテル変性シリコーンの添加量を全固形分比で20部とした。
【0057】
(実施例6)
実施例1の多官能性アジリジン化合物中のアジリジン環含有量が、ビニル系エマルション中のカルボキシ基の含有量に対して0.2モル当量となるよう、多官能性アジリジン化合物の添加量を調整した。
【0058】
(実施例7)
実施例1の多官能性アジリジン化合物中のアジリジン環含有量がビニル系エマルション中のカルボキシ基の含有量に対して1.6モル当量となるよう、多官能性アジリジン化合物の添加量を調整した。
【0059】
(実施例8)
実施例1のビニル系共重合体エマルションとして、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体エマルション(ビニブラン603、日信化学工業(株)製)を使用した。
【0060】
(比較例1)
実施例1のビニル系共重合体エマルションをポリ塩化ビニルエマルション(ビニブラン985、日信化学工業(株)製)に変更した。
【0061】
(比較例2)
実施例1の多官能性アジリジン化合物を未含有とした。
【0062】
(比較例3)
実施例1の多官能性アジリジン化合物を多官能性オキサゾリン化合物(エポクロスK−3030E、日本触媒(株)製)に変更した。
【0063】
(比較例4)
実施例1のポリエーテル変性シリコーンをKF−945(信越化学工業(株)製、HLB=4)に変更した。
【0064】
(比較例5)
実施例1のポリエーテル変性シリコーンをKF−644(信越化学工業(株)製、HLB=11)に変更した。
【0065】
<熱転写記録媒体の作製>
基材として、4.5μmの片面易接着処理付きポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、その非易接着処理面に下記組成の耐熱滑性層塗布液を、乾燥後の塗布量が1.0
g/mとなるように塗布、乾燥し、耐熱滑性層付き基材を得た。次に、耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下記組成のプライマー層および熱転写層塗布液を、乾燥後の塗布量が1.0g/mとなるように塗布、乾燥して熱転写層を形成し、熱転写記録媒体を得た。
【0066】
<耐熱滑性層塗布液>
シリコーン系アクリルグラフトポリマー 50.0部
(東亜合成(株)US−350)
メチルエチルケトン 50.0部
以上が耐熱滑性層塗布液の組成である。
【0067】
<プライマー層塗布液>
ポリビニルアルコール 2.5部
イソプロピルアルコール 30.0部
純水 67.5部
以上がプライマー層塗布液の組成である。
【0068】
<熱転写層塗布液>
C.I.ソルベントブル−36 2.5部
C.I.ソルベントブル−63 2.5部
ポリビニルアセタール樹脂 5.0部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
以上が耐熱滑性層塗布液の組成である。
【0069】
<印画時離型性評価>
実施例1〜8、比較例1〜5の熱転写受像紙シート、熱転写記録媒体、および評価用サーマルプリンタを23℃80%RH環境下で2時間調湿した。熱転写受像シート、および熱転写記録媒体を使用し、印画速度が2.0msec/line、解像度が300×300DPIの評価用サーマルプリンタにて255階調を均等に16分割したグラデーション画像を23℃80%RH環境下で印画した。印画物の評価は、以下の基準にて評価を行った。評価結果を表1に示す。なお、評価結果は1〜12Stepの低中階調部、および13〜16Stepの高階調部に別けて記載した。
【0070】
○:異常転写の発生が認められないレベル
△:異常転写の発生は認められないが、線状の剥離痕が僅かに認められるレベル
×:異常転写の発生が認められるレベル
なお、△以上が実用上の問題ないレベルである。
【0071】
<印画濃度評価>
調湿、および印画環境を23℃50%RHに変更した以外は、印画時離型性評価と同様にして印画を行った。得られた印画物の最高反射濃度(16Step)をX−rite528にて測定した。また、測定結果を以下の基準にて評価した。測定結果と評価結果を表1に示す。
【0072】
○:最高反射濃度が2.05以上であるレベル
△:最高反射濃度が2.00以上2.05未満であるレベル
×:最高反射濃度が2.00未満であるレベル
なお、△以上が実用上の問題ないレベルである。
【0073】
<印画欠点評価>
評価画像を255階調のベタ画像とした以外は、印画濃度評価と同様にして印画を行った。印画欠点はJIS P 8208に基づき測定し、以下の基準にて評価を行った。
【0074】
○:0.3mm2以上の印画欠点が認められない
×:0.3mm2以上の印画欠点が認められる
評価対象を表1に、評価結果を表2に示す。
【0075】
表1に示す結果から分かるように、基材シート上に少なくとも断熱層、下引き層、染料受容層を順次積層形成し、前記染料受容層がカルボキシ基、および/またはアセチル基を含有するビニル系エマルションと、HLBが5〜10のポリエーテル変性シリコーンと、多官能性アジリジン化合物を含む実施例1〜5の熱転写受像シートは、多湿環境で印画した場合でも印画時の離型性に優れ、かつ印画欠点がなく、高い反射濃度を付与しており、本発明による効果が確認された。
【0076】
塩化ビニル−アクリル共重合体エマルションの塩化ビニル化合物とアクリル化合物の比率を塩化ビニル:アクリル=30:70とした実施例2では、実用上の問題ない範囲で最高反射濃度の低下が確認された。一方、塩化ビニル−アクリル共重合体エマルションの塩化ビニル化合物とアクリル化合物の比率を塩化ビニル:アクリル=90:10とした実施例3では、実用上の問題ない範囲で印画時離型性の低下が確認された。
【0077】
また、ポリエーテル変性シリコーンの添加量を全固形分比で1部とした実施例4においても、実用上の問題ない範囲で印画時離型性の低下が確認された。一方、ポリエーテル変性シリコーンの添加量を全固形分比で20部とした実施例5では、実用上の問題ない範囲で印画欠点が確認された。多官能性アジリジン化合物中のアジリジン環含有量が、ビニル系エマルション中のカルボキシ基の含有量に対して0.2モル当量となるよう、多官能性アジリジン化合物の添加量を調整した実施例6では、実用上の問題ない範囲で印画時離型性の低下が確認された。
【0078】
一方、多官能性アジリジン化合物中のアジリジン環含有量が、ビニル系エマルション中のカルボキシ基の含有量に対して1.6モル当量となるよう、多官能性アジリジン化合物の添加量を調整した実施例7では、実用上の問題ない範囲で最高反射濃度の低下が確認された。また、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体エマルションを用いた実施例8においても、実用上の問題ない範囲で最高反射濃度の低下が確認された。
【0079】
これに対して、比較例1の熱転写受像シートは、バインダ樹脂として、アクリル化合物を含有しないポリ塩化ビニルエマルションを使用したことで、異常転写の発生が確認された。比較例2の熱転写受像シートは、多官能性アジリジン化合物を未含有としたことで、高階調部に異常転写の発生が確認された。比較例3の熱転写受像シートは、常温下での架橋反応率が低い多官能性オキサゾリン化合物を使用したことで、高階調部に異常転写の発生が確認された。比較例4の熱転写受像シートは、HLB=4のポリエーテル変性シリコーンを使用したことで、印画物に実用不可能な大きさの点欠陥が確認された。比較例5の熱転写受像シートは、HLB=11のポリエーテル変性シリコーンを使用したことで、低中階調部に異常転写が確認された。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明により得られる熱転写受像シートは、昇華転写方式のプリンタに使用することができ、プリンタの高速・高機能化と併せて、各種画像を簡便にフルカラー形成できるため、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書等のカード類、アミューズメント用出力物等に広く利用できる。
【符号の説明】
【0083】
1:熱転写受像シート
2:基材
3:断熱層
4:下引き層
5:染料受容層
図1