(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明による工作機械の第一実施形態の研削盤の平面図である。
【
図2】
図1に示すII−II線に沿った研削盤の断面図である。
【
図3】
図1に示す研削盤に第二流路が設けられていない場合における第一熱変位量、第二熱変位量および相対変位量を示すタイムチャートである。
【
図4】
図1に示す研削盤における第一熱変位量、第二熱変位量および相対変位量を示すタイムチャートである。
【
図5】本発明による工作機械の第二実施形態の研削盤の断面図である。
【0009】
<第一実施形態>
(1.工作機械の概要)
本発明の工作機械の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態における工作機械は、
図1に示す研削盤1である。研削盤1は、具体的には、軸状の工作物Wの研削が可能なテーブルトラバース型円筒研削盤である。なお、
図1において、Z軸方向は、トラバース方向である。また、X軸方向は、トラバース方向と直角な水平方向であり、かつ、工作物Wに対する切込み方向である。そして、Y軸方向は、トラバース方向と直角な鉛直方向である。
図1に示すように、研削盤1は、主として、ベッド10、テーブル20、主軸台30、心押台40、砥石台50、砥石車70(本発明の工具に相当)および制御装置80を備える。
【0010】
ベッド10は、工作物Wを支持するものである。ベッド10は、設置面(床)上に固定される。このベッド10の上面には、テーブル20を、静圧案内方式にて摺動可能とする一対のZ軸静圧案内面11a,11bが、Z軸方向に延びるように、且つ、相互に平行に配置固定されている。一対のZ軸静圧案内面11a,11bの間には、テーブル20をZ軸方向に駆動するためのZ軸ボールねじ11cが配置され、このZ軸ボールねじ11cを回転駆動するZ軸モータ11dが配置固定されている。このZ軸モータ11dには、Z軸モータ11dの回転角を検出可能なエンコーダ(図示なし)が備えられている。
【0011】
また、ベッド10の上面には、砥石台50を、静圧案内方式にて摺動可能とする一対のX軸静圧案内面12a,12bが、X軸方向に延びるように、且つ、相互に平行に配置固定されている。一対のX軸静圧案内面12a,12bの間には、砥石台50をX軸方向に駆動するためのX軸ボールねじ12cが配置されている。X軸ボールねじ12cは、ベッド10の上面に固定されたねじ支持部12c1,12c2に軸受によって回転可能に支持されている(
図2参照)。また、一対のX軸静圧案内面12a,12bの間には、X軸ボールねじ12cを回転駆動するX軸モータ12dが配置されている。このX軸モータ12dには、X軸モータ12dの回転角を検出可能なエンコーダ(図示なし)が備えられている。ベッド10の詳細は後述する。なお、テーブル20および砥石台50の案内方式は、静圧案内方式であるが、例えば、すべり案内方式や転がり案内方式としても良い。
【0012】
テーブル20は、長尺状に形成され、ベッド10のZ軸静圧案内面11a,11b上にZ軸方向に移動可能に設けられる。テーブル20は、Z軸ボールねじ11cのナット部材(図示なし)に連結されており、Z軸モータ11dの駆動により一対のZ軸静圧案内面11a,11bに沿って移動される。テーブル20の一端側に主軸台30が固定され、テーブル20の他端側に心押台40が固定される。そして、工作物は、Z軸周りに回転可能となるように、主軸台30および心押台40によって支持される。
【0013】
主軸台30は、主軸台本体31、主軸32、主軸モータ33および主軸センタ34を備えている。主軸台本体31には、主軸32が回転可能に挿通支持されている。主軸台本体31は、主軸32の軸方向がZ軸方向を向き、且つ一対のZ軸静圧案内面11a,11bと平行になるようにテーブル20の上面に固定されている。
【0014】
主軸32の左端には、主軸モータ33が設けられ、主軸32は、主軸モータ33により主軸台本体31に対してZ軸回りに回転駆動される。この主軸モータ33には、主軸モータ33の回転角を検出可能なエンコーダが備えられている。また、主軸32の右端には、軸状の工作物Wの軸方向一端を支持する主軸センタ34が取り付けられている。
【0015】
心押台40は、心押台本体41および心押センタ42を備えている。心押台本体41には、心押センタ42が回転可能に挿通支持されている。心押台本体41は、心押センタ42の軸方向がZ軸方向を向くように、且つ心押センタ42の回転軸が主軸32の回転軸と同軸となるようにテーブル20の上面に固定されている。すなわち、心押センタ42は、主軸センタ34と工作物Wの軸方向他端を支持してZ軸回りに回転可能なように配置されている。心押センタ42は、工作物Wの長さに応じて心押台本体41の右端面からの突出量の変更が可能に構成されている。
【0016】
砥石台50は、ベッド10の上面の一対のX軸静圧案内面12a,12b上を摺動可能に配置されている。砥石台50は、X軸ボールねじ12cのナット部材12e(
図2参照)に連結されており、X軸モータ12dの駆動により一対のX軸静圧案内面12a,12bに沿って移動される。このように、砥石台50は、工作物Wに対して相対的に移動可能にベッド10に設けられている。砥石台50の詳細は、後述する。
砥石車70は、工作物Wを加工するものである。砥石車70は、円盤状に形成されている。
【0017】
制御装置80は、各モータを制御して、工作物Wおよび砥石車70をZ軸回りに回転させ、且つ、工作物Wに対する砥石車70のZ軸方向およびX軸方向の相対的な位置を変更することにより、工作物Wの外周面の研削を行う装置である。
【0018】
(2.砥石台50の詳細)
砥石台50は、
図2に示すように、砥石台本体51(本発明の支持台に相当)、回転軸部材52、軸受53、タンク54、第一外部流路55、第一内部流路56(本発明の第一流路に相当)、ポンプ57(本発明の液体供給装置に相当)、圧力調整弁58を備えている。
【0019】
砥石台本体51は、回転軸部材52を軸受53により回転可能に支持するものである。
回転軸部材52は、砥石車70を保持し、回転駆動されるものである。回転軸部材52は、砥石台本体51の上面にて、Z軸周りに回転可能に支持されている。回転軸部材52の一端には、円盤状の砥石車70が同軸で取り付けられている(
図1参照)。また、砥石台本体51の上面には、ベルト・プーリ機構59(
図1参照)を介して回転軸部材52を砥石車70とともに回転駆動するための砥石回転用モータ60が固定されている。
【0020】
軸受53は、回転軸部材52を回転可能に支持するものである。軸受53は、静圧軸受である。軸受53には、タンク54に貯留されている油(本発明の液体に相当)が供給される。
タンク54は、砥石台本体51に設けられ、油を貯留するものである。タンク54は、砥石台本体51の上部に設けられている。タンク54は、具体的には、砥石台本体51の上面から下方に向かって凹むように形成されている。また、タンク54は、上側が蓋部材(図示なし)にて覆われている。また、タンク54は、軸受53の下方に位置する部位を有するように形成されている。
【0021】
第一外部流路55は、砥石台本体51の外部に設けられ、一端にタンク54が接続されるとともに、他端に第一内部流路56の一端が接続されている管である。第一外部流路55は、タンク54からの油を第一内部流路56に供給する。
【0022】
第一内部流路56は、砥石台本体51に形成され、タンク54に貯留される油を軸受53に供給するとともにタンク54に還流させる流路である。第一内部流路56は、一端に第一外部流路55の他端が接続されるとともに、他端がタンク54に向けて開口する。第一内部流路56上に軸受53が設けられている。
【0023】
ポンプ57は、第一外部流路55上に設けられ、タンク54に貯留された油を軸受53に供給するものである。ポンプ57は、具体的には、砥石台本体51に固定され、吸込口57aをタンク54に貯留された油に浸漬させている。ポンプ57は、吸込口57aからタンク54に貯留された油を吸い込んで、第一外部流路55および第一内部流路56を介して、
図2に矢印にて示すように、軸受53に油を供給する。ポンプ57は、制御装置80と電気的に接続されている。ポンプ57は、制御装置80によって回転数を制御されることによって、第一外部流路55および第一内部流路56を流通する油の流量(単位時間当たりの流量)を調整する。
【0024】
圧力調整弁58は、第一外部流路55における分岐点55aより軸受53側に設けられ、軸受53に供給される油の圧力値を所定圧力値に調整するものである。圧力調整弁58は、例えば、直動式減圧弁である。
【0025】
ここで、砥石台50の熱変形について説明する。制御装置80は、研削盤1の運転を開始した時点から、ポンプ57を制御して、タンク54から軸受53に油を供給する。軸受53が静圧軸受であるため、回転軸部材52の回転によって油が繰り返しせん断されることにより、油の温度が上昇する。この油が軸受53からタンク54に排出され、さらに軸受53とタンク54との間を循環することにより、タンク54に貯留している油の温度が上昇する。これら上昇した油の熱が砥石台本体51に伝達するため、砥石台本体51に温度勾配が生じる。これにより、回転軸部材52が工作物Wに近づく方向に、砥石台本体51の熱変位が生じる。
【0026】
砥石台本体51の熱変位については、砥石車70の工作物Wに対する切込み方向であるX軸方向(本発明の第一方向に相当)の熱変位量が問題となる。回転軸部材52の回転軸心Prと基準位置とのX軸方向の、研削盤1の運転開始時点からの熱変位量を第一熱変位量ΔL1と定義する。基準位置は、熱変位量を算出するための基準とする位置である。基準位置が、ナット部材12eにおけるX軸ボールねじ12cの軸線上の中心点(以下、ナット中心点Pn(
図2参照)とする。)に設定された場合、第一熱変位量ΔL1は、式(1)によって算出することができる。
【0027】
[数1]
ΔL1=α1×L1×ΔT1 ・・・(1)
【0028】
α1は、砥石台本体51におけるナット中心点Pnと、回転軸部材52の回転軸心Prとの間のX軸方向に沿った部位の線膨張係数である。L1は、ナット中心点Pnと回転軸心PrとのX軸方向に沿った長さである。ΔT1は、研削盤1の運転開始時点からの、砥石台本体51におけるナット中心点Pnと回転軸心Prとの間のX軸方向に沿った部位の温度変化量(以下、第一温度変化量ΔT1とする。)である。この温度変化量は、砥石台本体51におけるナット中心点Pnと回転軸心Prとの間のX軸方向に沿った部位の温度を平均化することにより得られる平均温度の変化量である。油の温度が高くなるにしたがって、第一温度変化量ΔT1ひいては第一熱変位量ΔL1が大きくなる。
【0029】
(3.ベッド10の詳細)
ベッド10には、
図2に示すように、第二外部流路13および第三外部流路14が接続されている。また、ベッド10には、第二内部流路15(本発明の第二流路に相当)および温度センサ16が設けられている。
第二外部流路13は、砥石台50およびベッド10の外部に設けられ、一端に第一外部流路55に設けられた分岐点55aが接続されるとともに、他端に第二内部流路15の一端が接続されている。第二外部流路13は、タンク54からの油を第二内部流路15に供給する。
【0030】
第三外部流路14は、砥石台50およびベッド10の外部に設けられ、一端に第二内部流路15の他端が接続されるとともに、他端がタンク54に向けて開口する。第三外部流路14は、第二内部流路15からの油をタンク54に還流させる。
【0031】
第二内部流路15は、ベッド10に形成され、タンク54に貯留される油が供給されるとともに、タンク54に還流する流路である。第二内部流路15は、第二外部流路13からタンク54に貯留された油が供給され、第三外部流路14に油を導出する。
【0032】
第二内部流路15は、ベッド10の砥石台50側の端部からX軸方向に沿ってテーブル20側の端部に向かって延びるともに、工作物Wの支持位置Pwより反砥石台50側にて砥石台50側に向くように折り返され、砥石台50側の端部までX軸方向に沿って延びるように形成されている。このように、第二内部流路15は、ベッド10おける回転軸部材52の回転軸心Prと工作物Wの支持位置Pwとの間に形成されている。
【0033】
また、第二内部流路15は、第二内部流路15を流通する油の温度上昇によるベッド10の熱変位が、構造体である砥石台50の熱変位によって生じる工作物Wと砥石車70との相対変位を抑制するように、形成されている(後述する)。
【0034】
温度センサ16は、ベッド10の所定位置に設けられ、設けられた部位の温度を検出するものである。所定位置は、ベッド10おける回転軸部材52の回転軸心Prと工作物Wの支持位置Pwとの間に、かつ、第二内部流路15より上方の部位である。温度センサ16の検出結果は、制御装置80に送信される。
【0035】
(4.工作物と砥石台50の相対変位)
工作物Wと砥石車70との相対変位について、本実施形態との比較のため、ベッド10に第二内部流路15が設けられていない場合について、
図3を参照して説明する。工作物Wと砥石車70の相対変位は、研削盤1においては、工作物Wの支持位置Pwと、回転軸部材52の回転軸心PrとのX軸方向に沿った相対変位量ΔLs1が問題となる。はじめに、回転軸部材52の回転軸心Prおよび工作物Wの支持位置PwのX軸方向に沿った熱変位量について説明する。
【0036】
上述したように、基準位置がナット中心点Pnに設定された場合、油の温度上昇による、回転軸心PrのX軸方向における熱変位量は、第一熱変位量ΔL1となる。第一熱変位量ΔL1は、
図3に示すように、運転開始時点(時刻t1)以降の油の温度上昇に伴って大きくなる。
【0037】
一方、工作物Wの支持位置Pwと基準位置とのX軸方向の、研削盤1の運転開始時点からの熱変位量を第二熱変位量ΔL2と定義する。基準位置がナット中心点Pnに設定された場合、第二熱変位量ΔL2は、次の式(2)によって算出することができる。
【0038】
[数2]
ΔL2=α2×L2×ΔT2 ・・・(2)
【0039】
α2は、ベッド10におけるナット中心点Pnと工作物Wの支持位置Pwとの間のX軸方向に沿った部位の線膨張係数である。L2は、ナット中心点Pnと工作物Wの支持位置PwとのX軸方向に沿った長さ(以下、第二長さL2とする。)である(
図2参照)。ΔT2は、研削盤1の運転開始時点からの、ベッド10におけるナット中心点Pnと支持位置Pwとの間のX軸方向に沿った部位の温度変化量(以下、第二温度変化量ΔT2とする。)である。この温度変化量は、ベッド10におけるナット中心点Pnと支持位置Pwとの間のX軸方向に沿った部位の温度を平均化することにより得られる平均温度の変化量である。なお、テーブル20、主軸台30および心押台40の熱変位量は無視できる量であるため、ベッド10の熱変位量のみが考慮されている。
【0040】
ベッド10と砥石台50の接触部位が比較的少なく、かつ、ベッド10に第二内部流路15が設けられていないため、温度上昇した油の熱が、ベッド10に伝達しにくい。よって、第二内部流路15が設けられていない場合、第二熱変位量ΔL2は、第一熱変位量ΔL1に比べて立ち上がりが遅く、かつ、各時刻において第一熱変化量より小さくなる。
【0041】
そして、工作物Wの支持位置Pwと、回転軸部材52の回転軸心PrとのX軸方向に沿った相対変位量ΔLs1は、式(3)に示すように、第一熱変位量ΔL1と第二熱変位量ΔL2との差によって表される。なお、式(3)は、X軸ボールねじ12cの熱変位が無視できる量である場合のものである。
【0042】
[数3]
ΔLs1=ΔL1−ΔL2 ・・・(3)
【0043】
相対変位量ΔLs1は、研削盤1の運転開始時点から第一熱変位量ΔL1の変化に伴って大きくなった後、第二熱変位量ΔL2の変化に伴って小さくなるように推移する。このように、相対変位量ΔLs1が一定値にて推移しないことにより、工作物Wに対する砥石車70の位置が変動する場合、工作物Wの加工精度が低下する。
【0044】
(5.第二内部流路15の詳細)
これに対し、第二内部流路15は、相対変位量ΔLs1を抑制するように形成されている。具体的には、第二内部流路15は、相対変位量ΔLs1を所定変位量ΔPLsとするように形成されている。
【0045】
本実施形態における工作物Wと砥石車70との相対変位について、
図4を参照して説明する。第一熱変位量ΔL1は、上述したように、研削盤1の運転開始時点(時刻t1)から、油の温度上昇に伴って大きくなる。一方、第二内部流路15には、研削盤1の運転開始時点から、ポンプ57の駆動によりタンク54から油が供給される。よって、第二熱変位量ΔL2は、運転開始時点(時刻t1)から、油の温度上昇に伴って大きくなる。そして、相対変位量ΔLs1が所定変位量ΔPLsとなる(時刻t2)。
【0046】
また、第二内部流路15は、第一熱変位量ΔL1の応答時間と、第二熱変位量ΔL2の応答時間との差を抑制するように形成されている。第一熱変位量ΔL1の応答時間は、第一温度変化量ΔT1が所定温度変化量となった時点から、第一熱変位量ΔL1が、式(1)の第一温度変化量ΔT1に所定温度変化量を代入することによって得られる第一熱変位量ΔL1となる時点までの時間である。また、第二熱変位量ΔL2の応答時間は、第二温度変化量ΔT2が所定温度変化量となった時点から、第二熱変位量ΔL2が、式(2)の第二温度変化量ΔT2に所定温度変化量を代入することによって得られる第二熱変位量ΔL2となる時点までの時間である。
【0047】
第一熱変位量ΔL1の応答時間と第二熱変位量ΔL2の応答時間との差が、第二内部流路15によって抑制された場合、第二内部流路15が形成されていないときに比べて、油の温度が変化したときの相対変位量ΔLs1が早期に安定する。よって、研削盤1の運転開始時点(時刻t1)から、比較的早期に、相対変位量ΔLs1が所定変位量ΔPLsとなる(時刻t2)。さらに、第二内部流路15が、所定変位量ΔPLsを比較的小さくするように、すなわち、第一熱変位量ΔL1と第二熱変位量ΔL2とを等しくするように形成されている場合には、さらに早期に、相対変位量ΔLs1が所定変位量ΔPLsとなる。このように、第二内部流路15は、第二内部流路15を流通する油の温度上昇によるベッド10の熱変位が、砥石台50の熱変位によって生じる工作物Wと砥石車70との相対変位を抑制するように形成されている。
【0048】
(6.制御装置80の処理)
制御装置80は、所定部位の温度が所定温度範囲内となるように、ポンプ57によって油の流量を調整する。制御装置80は、具体的には、温度センサ16の検出温度が所定温度範囲内となるように、ポンプ57の回転数を制御するフィードバック制御を行う。所定部位の温度が所定温度範囲内である場合、相対変位量ΔLs1が所定変位量ΔPLsとなるように、第二内部流路15が形成されている。よって、制御装置80によって、所定部位の温度が所定温度範囲内となるように制御されることにより、相対変位量ΔLs1が所定変位量ΔPLsにて安定して推移する。所定温度範囲は、実験等により実測されて予め導出されている。
【0049】
(7.まとめ)
本第一実施形態によれば、研削盤1は、工作物Wを支持するベッド10と、工作物Wを加工する砥石車70を保持し、回転駆動される回転軸部材52と、工作物Wに対して相対的に移動可能にベッド10に設けられ、回転軸部材52を軸受53により回転可能に支持する砥石台50と、砥石台50に設けられ、油を貯留するタンク54と、砥石台50に形成され、タンク54に貯留される油を軸受53に供給するとともにタンク54に還流させる第一内部流路56と、ベッド10に形成され、かつ、回転軸部材52の回転軸心Prと工作物Wの支持位置Pwとの間に形成され、タンク54に貯留される油が供給されるとともにタンク54に還流する第二内部流路15と、を有する研削盤1であって、第二内部流路15を流通する油によるベッド10の熱変位は、砥石台50の熱変位によって生じる工作物Wと砥石車70との相対変位を抑制する。
研削盤1の運転が開始されると、タンク54に貯留されている油が第一内部流路56を介して軸受53に供給されることにより、油の温度が高くなるため、砥石台50の熱変位が生じる。一方、温度上昇した油がベッド10に形成された第二内部流路15に流れるため、ベッド10に熱変位が生じる。第二内部流路15は、砥石台50の熱変位によって生じる工作物Wと砥石車70との相対変位を抑制するように、ベッド10の熱変位が生じるように形成されている。よって、砥石台50の熱変位による工作物Wと砥石車70との相対変位を抑制することができる。したがって、工作物Wの加工精度の低下が抑制される。
【0050】
また、第二内部流路15は、工作物Wの支持位置Pwと基準位置とのX軸方向の熱変位量を第一熱変位量ΔL1と定義し、回転部材の回転軸心Prと基準位置とのX軸方向の熱変位量を第二熱変位量ΔL2と定義する場合、第一熱変位量ΔL1と第二熱変位量ΔL2とが等しくなるように形成されている。
これによれば、砥石台50の熱変位による工作物Wと砥石車70との相対変位が、早期かつ確実に抑制される。
【0051】
また、第一熱変位量ΔL1および第二熱変位量ΔL2は、研削盤1の運転開始時点からの熱変位量である。
これによれば、砥石台50の熱変位による工作物Wと砥石車70との、運転開始時点からの相対変位が抑制される。
【0052】
また、第二内部流路15は、第一熱変位量ΔL1の応答時間と、第二熱変位量ΔL2の応答時間との差を抑制するように形成されている。
これによれば、砥石台50の熱変位による工作物Wと砥石車70との、運転開始時点からの相対変位が、さらに早期に抑制される。
【0053】
また、ベッド10の所定部位の温度を検出する温度センサ16と、第二内部流路15に油を供給するとともに、油の流量を調整するポンプ57と、前記温度センサ16の検出温度が所定温度範囲内となるように、ポンプ57によって第二内部流路15に供給される油の流量を調整する制御装置80と、をさらに備えている。
これによれば、温度センサ16の検出温度が所定温度範囲内となるように、ポンプ57によって第二内部流路15に供給される油の流量が調整されるため、所定部位の温度が所定温度範囲内となる。これにより、相対変位量ΔLs1が所定変位量PLsにて安定して推移する。よって、相対変位量ΔLs1が、安定して抑制される。
【0054】
<第二実施形態>
次に、本発明の工作機械の第二実施形態について、主として上述した第一実施形態と異なる部分について説明する。上述した第一実施形態において、基準位置は、ナット中心点Pnに位置しているが、本第二実施形態においては、基準位置は、
図5に示すように、ねじ支持部12c1におけるX軸ボールねじ12cの軸線上のねじ支持部12c1の中心点(以下、支持部中心点Psとする。)に位置している。
【0055】
この場合、基準位置から回転軸部材52の回転軸心PrまでのX軸方向の第一熱変位量は、支持部中心点Psとナット中心点Pnとの間のX軸ボールねじ12cのX軸方向の熱変位量と、砥石台本体51におけるナット中心点Pnと回転軸心Prとの間のX軸方向に沿った熱変位量との差である。X軸ボールねじ12cの熱変位量が無視できるとき、本第二実施形態の第一熱変位量は、砥石台本体51におけるナット中心点Pnと回転軸部材52の回転軸心Prとの間のX軸方向に沿った熱変位量となる。すなわち、本第二実施形態の第一熱変位量は、上述した第一実施形態の第一熱変位量ΔL1同じとなる。
【0056】
一方、本第二実施形態において、基準位置から工作物Wの支持位置PwまでのX軸方向の第二熱変位量ΔL12は、式(4)によって算出することができる。
【0057】
[数4]
ΔL12=α12×L12×ΔT12 ・・・(4)
【0058】
α12は、ベッド10における支持部中心点Psと工作物Wの支持位置Pwとの間のX軸方向に沿った部位の線膨張係数である。L12は、支持部中心点Psと工作物Wの支持位置PwとのX軸方向に沿った長さである。ΔT12は、研削盤1の運転開始時点からの、ベッド10における支持部中心点Psと支持位置Pwとの間のX軸方向に沿った部位の温度変化量である。
【0059】
そして、本第二実施形態において、相対変位量ΔLs11は、式(5)のように表される。本第二実施形態における第二内部流路15は、相対変位量ΔLs11を抑制するように形成される。
【0060】
[数5]
ΔLs11=ΔL1−ΔL12 ・・・(5)
【0061】
(8.変形例)
なお、上述した実施形態において、工作機械の一例を示したが、本発明はこれに限定されず、他の構成を採用することもできる。例えば、上述した各実施形態において、工作機械は、テーブルトラバース型円筒研削盤であるが、これに代えて、砥石台トラバース型円筒研削盤、旋盤やマシニングセンタとしても良い。
【0062】
また、上述した各実施形態において、タンク54は、砥石台本体51に設けられているが、これに代えて、ベッド10に設けるようにしても良い。すなわち、タンク54は、ベッド10および砥石台50の一方に設けられる。
【0063】
また、上述した各実施形態において、温度センサ16は、ベッド10に設けられているが、これに代えて、砥石台本体51に設けるようにしても良い。また、温度センサ16を砥石台本体51およびベッド10に設けるようにしても良い。これらの場合、制御装置80は、ベッド10に設けられた温度センサ16の検出温度に基づいて第二内部流路15に供給される油に流量を調整するとともに、砥石台本体51に設けられた温度センサ16の検出温度に基づいて、第一内部流路56に供給される油の流量を調整する。
【0064】
また、上述した各実施形態において、制御装置80は、温度センサ16の検出温度に基づいて、第二内部流路15に供給される油の流量を調整しているが、これに代えて、ベッド10が温度センサ16を備えないとともに、制御装置80が、油を一定流量にて、かつ、相対変位量ΔLs1,ΔLs11を抑制するように、第二内部流路15に供給するようにしても良い。
【0065】
また、上述した各実施形態において、第二内部流路15は、第一熱変位量ΔL1の応答時間と、第二熱変位量ΔL2,ΔL12の応答時間との差を抑制するように形成されているが、これに代えて、第二内部流路15が、第一熱変位量ΔL1の応答時間と、第二熱変位量ΔL2,ΔL12の応答時間との差を抑制しないように形成されるようにしても良い。この場合、相対変位量ΔLs1,ΔLs11が比較的大きいために、所望の加工精度が得られないときには、相対変位量ΔLs1,ΔLs11が安定して推移する時刻以降に、工作物Wの加工を開始する。
【0066】
また、上述した各実施形態において、相対変位量ΔLs1,ΔLs11は、X軸ボールねじ12cのX軸方向の熱変位量である、ねじ熱変位量ΔLbが無視できる場合のものである。しかしながら、ねじ熱変位量ΔLbが無視できない場合については、第一実施形態においては、相対変位量ΔLs1は、式(3)に代えて、式(6)にて算出される。また、第二実施形態においては、相対変位量ΔLs11は、式(5)に代えて、式(7)にて算出される。ねじ熱変位量ΔLbは、式(8)によって算出される。
【0067】
[数6]
ΔLs1=(ΔL1−ΔLb)−ΔL2 ・・・(6)
[数7]
ΔLs11=(ΔL1−ΔLb)−ΔL12 ・・・(7)
[数8]
ΔLb=αb×Lb×ΔTb ・・・(8)
【0068】
αbは、X軸ボールねじ12cの線膨張係数である。Lbは、支持部中心点Psとナット中心点PnとのX軸方向に沿った長さである(
図2,
図5参照)。ΔTbは、研削盤1の運転開始時点からの、X軸ボールねじ12cにおける支持部中心点Psとナット中心点Pnとの間のX軸方向に沿った部位の温度変化量である。
【0069】
また、上述した各実施形態において、各熱変位量ΔL1,ΔL2,L12は、式(1),(2),(4)によって算出されているが、これに代えて、他の演算方法によって算出するようにしても良い。例えば、各熱変位量ΔL1,ΔL2,L12を、有限要素法などの数値シミュレーションを用いて導出するようにしても良い。この場合、ベッド10または砥石台50における、基準位置と、回転軸心Prおよび支持位置Pwとの間の温度を平均化せずに、各熱変位量ΔL1,ΔL2,L12を算出するようにしても良い。
【0070】
また、上述したように、ねじ熱変位量ΔLb(式(8))が無視できない場合においては、式(6),(7)によって相対変位量ΔLs1,ΔLs11が算出されている。これに代えて、各熱変位量ΔL1,ΔL2,L12の計算式にX軸ボールねじ12cの熱変位量を考慮するようにしても良い。具体的には、第一熱変位量ΔL1においては、式(1)に代えて、式(9)によって算出されるようにしても良い。式(9)は、式(1)の右辺に補正値qを乗じたものである。
【0071】
[数9]
ΔL1=α1×L1×ΔT1×q ・・・(9)
【0072】
qは、補正値であり、予め実験等により実測されて導出されている。熱変位量ΔL2,L12についても同様に、式(2),(4)の右辺に補正値qを乗じるようにしても良い。さらに、この場合、例えば、X軸ボールねじ12cを常温時に張力を加えた状態で支持部12c1,12c2に固定することによって、X軸ボールねじ12cの熱変位量を抑制するようにしても良い。
また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、タンク54の形状、温度センサ16の配設位置や個数、第一内部流路56および第二内部流路15を設ける位置を変更しても良い。