(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記両面塗工ヘッドのウエブ搬送方向上流側に前記ウエブの継ぎ目を検知する位置を設定し、この検知位置から前記一対のドクター部のウエブ搬送方向上流側の所定位置までの距離を拡大タイミング距離とし、この検知位置から前記一対のドクター部のウエブ搬送方向下流側の所定位置までの距離を復帰タイミング距離とし、
前記ウエブの継ぎ目が前記検知位置を通過する時点からウエブの搬送距離を測定し始め、この搬送距離が前記拡大タイミング距離に達した時点で、前記一対のドクター部の間隙を拡げ、この搬送距離が前記復帰タイミング距離に達した時点で、前記一対のドクター部の間隙を前記所定の膜厚に計量できる間隙に戻す、請求項3の塗膜付きウエブの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されているドープ浴を通過した後、二本水平に設置した計量・平滑化治具を通過させて塗膜を形成する塗工ヘッドは、ドープ浴と計量・平滑化治具が別部材で構成されており、計量・平滑化治具上部でドープ浴下面をシールして構成されている。この場合、それぞれが別部材であることから個々の剛性が低く、ウエブの広幅化に伴い幅方向に長い長尺塗工ヘッドを製作する場合、加工精度を高精度に仕上げることが困難である。互いに精度が出ていないドープ浴と計量・平滑化治具を組み立てた際、個々が持つ精度や剛性の違いによる撓みが互いに影響しあい、間隙を形成する先端部の長手方向真直度をミクロンオーダーに抑えることが困難である。
【0008】
また、この構成では、ドープ浴と計量・平滑化治具との接触面からの液漏れは回避できるが長手方向両端部からの液漏れが生じ、塗液の無駄な消費が増える上に塗工雰囲気を汚染し、その結果、漏れた液がウエブに付着することで品質低下を招く。
【0009】
さらに、ウエブ同士が貼り合わされた継ぎ目が塗工ヘッドを通過する際、間隙を拡げて塗工ヘッドに接触せずに通過させる必要があるが、継ぎ目が通過する際に間隙を拡げたり、継ぎ目が通過した後、元の塗工時の間隙に復帰するような構造になっていないため、連続塗工を行うことができない。
【0010】
また、液漏れを考慮し計量・平滑化治具上部でドープ浴の下面をシールしているので、幅方向全幅わたり摺動抵抗がかかり、計量・平滑化治具の間隙を拡げたときに円滑に動くことができず、その摺動抵抗により計量・平滑化治具が撓んで変形する。また、塗工時の間隙に復帰する場合も同様であり、間隙の再現性が極めて乏しい。その結果、たわみによる変形でウエブ幅方向において間隙にミクロンオーダーのバラつきが生じて塗膜の厚みムラとなる上に、塗工時の間隙に復帰しないことで膜厚の絶対値が変わり、品質低下を招く。
【0011】
所定の間隙を有して対峙する二つのダイを用いる塗工方法では、ダイからの吐出量を極めて精密にコントロールしつつ、特に高速塗工においてはウエブの搬送速度に見合った高吐出量にする必要があることから、塗液供給に用いるポンプが極めて高価なものに限定されるうえに吐出量制御が困難となるので高速塗工には向かない。また、ウエブが蛇行するとウエブの幅方向において未塗工部が生じ、ウエブ全幅に対して塗工ができない。
【0012】
そこで本発明は、間隙が高精度に設定でき、ウエブの両面かつ全幅に対して連続的に高速で塗工を行える両面塗工ヘッドを提供する。また本発明は、本発明の両面塗工ヘッドを備えた両面塗工装置、およびその両面塗工装置を用いた塗膜付きウエブの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の両面塗工ヘッドは、上方から下方に向かって搬送されるウエブの両面に塗液を塗工する両面塗工ヘッドであって、
ドクター部を有する第1のリップ部材、ドクター部を有する第2のリップ部材、および2枚の側板で少なくとも構成され、
前記第1のリップ部材および第2のリップ部材が、それぞれのドクター部がウエブの搬送路を挟んで間隔をあけて対向するように配置され、
前記2枚の側板が、前記第1のリップ部材および第2のリップ部材の塗布幅方向の両端に、第1のリップ部材と第2のリップ部材に跨がって装着され、
前記第1のリップ部材、第2のリップ部材および2枚の側板で囲われた
1つの貯液部が形成される。
【0014】
また、本発明の両面塗工ヘッドは、前記2枚の側板が、前記第1のリップ部材および/または前記第2のリップ部材が塗布厚み方向に移動可能なように、前記第1のリップ部材および/または前記第2のリップ部材に摺動可能に装着されることが好ましい。
【0015】
本発明の両面塗工装置は、搬送されるウエブの両面に塗液を塗工する両面塗工装置であって、
本発明の両面塗工ヘッドと、
前記第1のリップ部材を固定する第1の固定部材、および前記第2のリップ部材を固定する第2の固定部材と、
前記第1の固定部材および/または第2の固定部材を塗布厚み方向に移動可能な固定部材移動手段と、
前記第1のリップ部材もしくは第2のリップ部材の少なくとも一方、または前記第1の固定
部材もしくは第2の固定
部材の少なくとも一方の塗布厚み方向位置を検出する位置検出手段と、
前記ドクター部の間隔が搬送されるウエブの厚みに応じた間隔となるように、前記固定部材移動手段を制御する制御手段と、を備える。
【0016】
また、本発明の両面塗工装置は、下記のような構成であることが好ましい。
・前記固定部材移動手段を 前記第1の固定部材および/または前記第2の固定部材の塗布幅方向の両側に設ける。
・搬送されるウエブの継ぎ目を検知する継ぎ目検知手段および/または搬送されるウエブの搬送長さを計測する測長手段を備える。
【0017】
本発明の塗膜付きウエブの製造方法は、本発明の両面塗工ヘッド、または本発明の両面塗工装置を用い、
前記一対のドクター部の間隙にウエブを導入し、
前記貯液部においてこの貯液部に貯めた塗液をウエブの両面に付着させ、
前記一対のドクター部の間隙を調整することで前記ウエブの両面に付着した塗液を所定の膜厚に計量しウエブの両面に塗膜を形成する。
【0018】
また、本発明の塗膜付きウエブの製造方法は、下記のような手段も行うことが好ましい。
・前記ウエブに形成された継ぎ目が前記一対のドクター部の間隙を通過する際に、一対のドクター部の間隙を継ぎ目の最厚部より大きく拡げ、前記継ぎ目が前記一対のドクター部の間隙を通過した後に、一対のドクター部の間隙を前記所定の膜厚に計量できる間隙に戻す。
・さらに、前記両面塗工ヘッドのウエブ搬送方向上流側に前記ウエブの継ぎ目を検知する位置を設定し、この検知位置から前記一対のドクター部のウエブ搬送方向上流側の所定位置までの距離を拡大タイミング距離とし、この検知位置から前記一対のドクター部のウエブ搬送方向下流側の所定位置までの距離を復帰タイミング距離とし、
前記ウエブの継ぎ目が前記検知位置を通過する時点からウエブの搬送距離を測定し始め、この搬送距離が前記拡大タイミング距離に達した時点で、前記一対のドクター部の間隙を拡げ、この搬送距離が前記復帰タイミング距離に達した時点で、前記一対のドクター部の間隙を前記所定の膜厚に計量できる間隙に戻す。
【発明の効果】
【0019】
本発明の両面塗工ヘッドを使用すれば、ウエブの両面の全幅に対して均一に塗工を行え、一対のドクター部の間隙をミクロンオーダーで高精度に設定できるので、厚みムラのない高品質な塗膜を形成できる。また、本発明の好ましい形態の両面塗工ヘッドを使用すれば、継ぎ目が通過する際に間隙を拡げ、通過した後に所定の間隙に戻せるので、ウエブの搬送を止めることなく、連続的に高速で塗工することができるので、塗膜を生産性良く形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の望ましい実施の形態について図面を参照して説明する。但し、本発明は図面に示された形態に限定されるものではない。
【0022】
[両面塗工ヘッド]
図1に、本発明の一実施形態による両面塗工ヘッドの構成の概略斜視図を、
図3に、本発明の両面塗工ヘッドを備えた両面塗工装置の一実施形態の概略側面図を示す。
図1と
図3に示す両面塗工ヘッド10は、第1のリップ部材11と第2のリップ部材11’と側板13から構成され、第1のリップ部材11はドクター部12を有し、第2のリップ部材11’はドクター部12'を有する。
【0023】
第1のリップ部材11と第2のリップ部材11’とこれら部材の塗布幅方向の両端に跨がって装着される側板13とで囲われて形成される貯液部4に塗液3を貯留し、上方から下方に向かってウエブを搬送して貯液部4の塗液3に浸漬することでウエブ1の全幅に塗液3が接触し、ドクター部12、12‘が対向する部分である間隙2を通過する際、ドクター部12、12’で計量してウエブ1の全幅に対して所望の膜厚を得る。
【0024】
対向する第1のリップ部材11と第2のリップ部材11’は塗布厚み方向に移動可能に構成される。ここで塗布厚み方向とは、ウエブが鉛直方向上側から下側に向かって搬送されるのであれば、水平方向となる。
【0025】
貯液部4に貯留した塗液3は、塗工により減っていくので貯液部4に塗液3を供給するように、第1のリップ部材11および/または第2のリップ部材11’に塗液供給口(図示せず)を設けたり、供給管を取り付けることで、貯液部4内の塗液3の液量が略一定に保つよう構成されることが好ましい。
【0026】
ドクター部12、12’の形状は、塗工対象によって適切な形状を選択すればよく、ロール形状、ナイフ形状、平面形状いかなる形状であってもよい。
【0027】
また、第1のリップ部材11、第2のリップ部材11’は、貯液部4を形成するための壁面を兼ね備えることから、自ずと
図1や
図3に示すように大きな断面形状となるので剛性が上がり、外力による変形が抑制される上に、加工時の精度も向上するのでドクター部12、12’の真直度が良好であり、高精度な間隙2を形成することができる。また、剛性が上がることにより、塗布幅方向において第1のリップ部材11、第2のリップ部材11’の撓みも抑制できることから、塗布幅の広いウエブ1に対応した長尺塗工ヘッドとすることも可能となる。
【0028】
第1のリップ部材11、第2のリップ部材11’、ドクター部12、12’の材質はいかなるものであってもよいが、塗液3の物性によっては耐食性が要求されるならステンレスであることが好ましい。また、塗液3に粒子が含まれドクター部12、12’の摩耗が懸念されるならば、高硬度な材質を選定してもよいし、ドクター部12、12’のみ高硬度な材質とし、ドクター部12、12’を第1のリップ部材11、第2のリップ部材11’にそれぞれボルトで締結する構成であってもよい。また、接液面にDLCなどの高い硬度のコーティングを行ってもよい。
【0029】
図2に、
図1の両面塗工ヘッドの側板装着部を示した概略断面図を示す。
側板13は第1のリップ部材11、第2のリップ部材11’の両端部にボルト14によって装着される。側板13には丸穴と長穴が形成されており、第1のリップ部材11に対しては丸穴で、第2のリップ部材11’に対しては長穴を用いて装着され、
図2においては、第1のリップ部材11と側板13は固定され、第2のリップ部材11’と側板13が摺動する構成となっている。
【0030】
側板13と第1のリップ部材11、第2のリップ部材11’の接触面から塗液3の漏れを抑制しつつ、摺動抵抗をより少なくさせるために、側板13は第1のリップ部材11、第2のリップ部材11’に対して軽荷重で押えることが好ましい。たとえば
図2に示すように弾性体15を側板13とボルト14の間に挟み、ボルト14の軸部を段付きとすることで、弾性体15のつぶれ代を一定にして弾性体15の反力で側板13を押える方式としてもよい。弾性体15は、ゴムやバネなどいかなるものであってもよい。
【0031】
弾性体15は、少なくとも摺動する側に設けることが好ましいが、固定する側も弾性体15を設けることで、例えば第1のリップ部材11と第2のリップ部材11’の幅方向長さが僅かに異なっていた場合であっても、側板13が第1のリップ部材11と第2のリップ部材11’の端面に密着するように弾性体15の弾性変形分動ける自由度が生じるのでさらに好ましい。
【0032】
他の手段として、ボルト14に代わり、エアシリンダーを用いて側板13を軽荷重で第1のリップ部材11と第2のリップ部材11’へ押える構成であってもよい。
【0033】
側板13の材質は問わないが、摺動抵抗が小さく柔軟性に富むことからフッ素樹脂やポリエチレン樹脂が好ましい。また、金属材料の表面にフッ素コーティングをはじめとする低摺動を目的としたコーティングを施すことで第1のリップ部材11と第2のリップ部材11’との摺動抵抗を減らすようにしてもよい。
【0034】
図1に示した構成では、側板13は第1のリップ部材11に対して固定されており、第2のリップ部材11’は側板と摺動するが、逆であってもよいし、使用方法や両面塗工ヘッド10の設置状況に応じて第1のリップ部材11と第2のリップ部材11’の両方に対して摺動するようにしてもよい。
【0035】
上記のとおり、本発明の両面塗工ヘッド10は塗工ヘッド幅方向において全幅にわたった摺動箇所が無いので、第1のリップ部材11と第2のリップ部材11’が変形することが無い。したがって、ドクター部12、12’の真直度は良好であり、また、第1のリップ部材11と第2のリップ部材11’とドクター部12、12’を一体構成としている上に、断面形状が大きいので極めて剛性の高いヘッドである。よって、加工精度も向上することから、間隙バラつきの少ない極めて高精度な両面塗工ヘッドを得ることができる上に広幅に対応した長尺両面塗工ヘッドとすることが可能となる。
【0036】
[両面塗工装置]
[両面塗工装置の固定部材、固定部材移動手段、位置検出手段]
次に、本発明の両面塗工装置について説明する。
図3に、本発明の一実施形態による両面塗工装置の概略側面図を示す。
【0037】
図3において両面塗工ヘッド10は、固定手段22、22’によって第1のリップ部材11、第2のリップ部材11’の背面を水平方向に押して、それぞれが第1の固定部材21、第2の固定部材21'に固定される。
【0038】
固定手段22、22’は、特に限定されるものでないが、固定に要する最小限の荷重を付与することで第1の固定部材21、第2の固定部材21'、第1のリップ部材11、および第2のリップ部材11’の変形を抑制できることから、エアシリンダを用いることが好ましい。この場合、固定するたびに同じ荷重が付与できることが好ましいので、圧力を管理しておくことや、エアシリンダの摺動抵抗も最小になるよう精密レギュレータや低摺動型エアシリンダを用いることが好ましい。
【0039】
エアシリンダの他に、固定ボルトを用いてもよく、その場合は大きな締結力が付与されないように例えばトルクレンチを用いて締結トルク管理をすることが好ましい。
固定の方向は、限定されるものではなく、固定手段22、22’により水平方向に固定してもよいし、水平方向に直行する方向で固定してもよい。
【0040】
図4に、
図3の概略上面図を示す。
第1の固定部材21、第2の固定部材21'は、塗布幅方向にわたっており、塗布厚み方向に移動可能なように固定部材移動手段26、26’に接続される。
【0041】
なお、固定部材移動手段26、26’は、第1の固定部材21と第2の固定部材21’の少なくとも一方に備えられていればよいが、側面から見て鉛直方向上側から下側に向かって搬送されるウエブの位置とドクター部12、12’が形成する間隙2の中央を位置合わせする際、固定部材移動手段26、26’を個別に操作して容易に位置合わせできることから第1の固定部材21と第2の固定部材21’それぞれに固定部材移動手段26、26’を備えることがより好ましい。
【0042】
また、固定部材移動手段26、26’は、第1の固定部材21および/または第2の固定部材21’の塗布幅方向の両側に設けることが好ましい。両側に設けることで、塗布幅方向において両端の間隙2に差があった場合に、個別に固定部材移動手段26、26’を移動させて差を無くすよう調整することができる。
【0043】
第1の固定部材21と第2の固定部材21’は、塗布厚み方向の位置を検出するための位置検出手段23、23’を備える。位置検出手段23、23’は、固定部材の位置および/またはリップ部材の位置が検出できるのならば設置する場所や数量は限定されるものではなく、ドクター部12、12’の移動と連動して移動する部位であればいかなる場所に設置してもよい。
【0044】
位置検出手段23、23’としては、接触式センサや非接触式センサ、エンコーダなど限定されるものではなく要求精度により適宜選定すればよい。ミクロンオーダーの高精度を要求する場合は、光学式や磁気式のリニアスケールや差動トランス式の接触式センサを用いることで高精度に位置検出が行えるので好ましい。その他、ドクター部12、12’の先端位置や間隙2の距離を直接検出するように非接触式レーザー変位計を設けてもよい。
【0045】
[両面塗工装置の駆動手段、制御手段]
図5に、
図3の概略断面図を示す。
固定部材移動手段26、26’は、第1の固定部材21と第2の固定部材21’を塗布厚み方向へ案内するガイド部24と駆動手段25、25’とボールネジ28、28’から構成される。
ガイド部24は直動ガイドであり、駆動手段25、25’はモータからなる。
【0046】
直動ガイドは、スライドブロックとレールからなり、塗布厚み方向に通るレール軌道上に第1の固定部材21と第2の固定部材21’がスライドするように構成することで、第1の固定部材21と第2の固定部材21’の鉛直方向のずれが無くなる上に直進精度がよくなるので好ましい。
【0047】
モータは精密な位置決めができることからサーボモータであることが好ましい。駆動手段25、25’はカップリング27、27’を介してボールネジ28、28’に接続され、それぞれの駆動手段25、25’を制御して第1の固定部材21と第2の固定部材21’を移動させる。この時、例えば位置検出の要求精度が低い場合などは、前述の位置検出手段23、23’の代わりに、サーボモータのエンコーダ信号とボールネジピッチから演算した値でもって位置検出値とすることも可能である。
【0048】
図5および
図3に示す通り、駆動手段25、25’と位置検出手段23、23’は、制御手段101に接続される。制御手段101は、演算部(図示せず)と表示部(図示せず)と操作部(図示せず)などから構成され、位置検出手段23、23’の信号を元に設定された位置となるよう駆動手段25、25’を制御したり、人手による操作で駆動手段25、25’を動作させることができる。演算部は、PLCやPCなどいかなるものであってもよいし、表示部も特に限定されるものではなく、LCDモニターと操作部が一体となったタッチパネルを用いてもよい。
【0049】
[両面塗工装置の継ぎ目検知手段、測長手段]
図6に本発明の一実施形態による両面塗工ヘッドと両面塗工装置を備えた連続塗工装置の模式図を示す。
【0050】
巻出部40の第1巻出軸106から送られる塗工中のウエブ1は、測長手段103、継ぎ目検知手段102を通過し、本発明の塗工装置20で塗膜を形成後、例えば塗膜を乾燥させるために乾燥機など所定の次工程45へ送られた後、巻取部41の第1巻取軸109にて巻き取られる。
【0051】
巻出部40と巻取部41はウエブを継ぎ合わせるスプライス機能を有しており、巻出部40は、第2巻出軸105に塗工待ちのウエブロールがセットされている。巻取部41は、第2巻取軸110に巻取用コアがセットされている。
【0052】
継ぎ目が形成される巻出部40について説明する。第1巻出軸106のウエブが残り僅かになってくると、任意のタイミングでターレットユニット111が180°旋回し、第1巻出軸106と第2巻出軸105の位置が入れ替わる。次いで押えロール108で第2巻出軸105の塗工待ちウエブロールの表層をニップする。この時、あらかじめ塗工待ちウエブロールの表層に両面テープを貼っておいたり、熱融着させる機構を搭載することにより塗工中のウエブと塗工待ちのウエブを貼り合わせた後、カッター107にてウエブ1を切断することで継ぎ目が形成され、連続してウエブ1を送り続けることができる。
【0053】
測長手段103と継ぎ目検知手段102は制御手段101に接続されており、継ぎ目検知手段102が継ぎ目を検知したら、測長手段103により測長を開始し、所定の距離に到達した後、ドクター部12、12’の間隙2を拡げるよう駆動手段25、25’を制御する。そして、間隙2を拡げた後、所定の距離に到達したら間隙2を元の間隙に復帰するよう駆動手段25、25’を制御することが好ましい。
【0054】
測長手段103は、ロータリーエンコーダーやレーザードップラー方式などを用いることができ、特に限定されるものではい。測長手段103にロータリーエンコーダーを用いる場合は、搬送経路中のロールに設置してもよいし、第1巻出軸106および第2巻出軸105に設置してもよい。また、より好ましくは、連続塗工装置のウエブ搬送速度の基準となっているロールや搬送されるウエブとスリップすることなく同速回転するロールに設置することであり、より正確に測長できることが可能となる。
【0055】
継ぎ目検知手段102は、継ぎ目が検知可能であるなら限定されるものではない。例えば、レーザー変位センサで継ぎ目の厚みを検知したり、透過型センサーでウエブと継ぎ目の透過光の差を利用して検知してもよい。その他、巻出部40において、カッター107が動作したタイミングで継ぎ目が形成されることから、該カッター107動作時の信号を継ぎ目検知手段として代用することも可能である。
【0056】
[塗膜付きウエブの製造方法]
[塗膜付きウエブの製造方法の概要]
図5、
図6を用いて本発明の塗膜付きウエブの製造方法について説明する。
本発明の両面塗工ヘッド10を用い、一対のドクター部12、12’の間隙2にウエブ1を導入し、貯液部4に貯めた塗液3をウエブ1に付着させる。そして、一対のドクター部12、12’の間隙2を通過する際、間隙2を調整して膜厚を計量し、ウエブ1の全幅に対して両面に塗膜を形成する。
【0057】
ドクター部12、12’の形状は、塗液3の物性や得たい膜厚などに応じて適宜選定すればよく、特に限定されるものではないが、ロール形状のように側面から見て、断面が円柱や円弧形状の場合、塗布幅方向にて間隙を形成する部分が線で対向する形となるため正確な間隙2の形成が困難である。つまり、対向するドクター部12、12’の鉛直方向の位置が僅かにずれただけで、間隙2が大きくかわることになる。そのため、ドクター部12、12’は例えば鉛直方向に0.1mm以上の長さを持つ平面とすることが好ましい。
【0058】
本発明の両面塗工ヘッド10と塗工装置20を用いると、塗工中に間隙2の微調整を行うことも容易であり、例えば搬送ライン中に設置した膜厚計測器の結果を確認しながら間隙2を調整してもよい。また、膜厚計測器からの結果を制御手段101にフィードバックして自動で設定した目標膜厚となるように構成してもよい。
【0059】
[塗膜付きウエブの製造方法におけるリップ部材の移動動作]
図6に示す連続塗工装置は、巻出部40と巻取部41でウエブを継ぎ合わせるスプライス機能を有する。両面塗工ヘッド10を有する塗工装置20の上流である巻出部40で継ぎ目が形成されるため、継ぎ目が両面塗工ヘッド10を通過する際、第1のリップ部材11および/または第2のリップ部材11‘を移動させて、間隙2を拡げてドクター部12、12’に接触せずに通過させる必要がある。そして、継ぎ目が通過した後は、塗工時の元の間隙2に復帰することで連続的に塗工が可能となる。
【0060】
継ぎ目は、あらかじめ塗工待ちウエブロールの表層に両面テープを貼っておいたり熱融着させる機構を用いることにより塗工中のウエブ1と塗工待ちのウエブ1を貼り合わせた後、カッター107にてウエブを切断することで形成される。したがって、貼り付けに両面テープを用いた場合であれば、継ぎ目の厚みは、ウエブが2枚と両面テープの厚みを加算したものとなる。
【0061】
拡げる間隙2は、継ぎ目の最厚部より大きいことが好ましく、つまりウエブ2枚と両面テープの厚みの加算値より大きいことである。ウエブ1の貼り合わせ時に、ウエブ1および/または両面テープにしわ等が入ることで継ぎ目の最厚部が該加算値より大きくなる場合もあるので、より好ましくは、加算値×1.5以上とすることでドクター部12、12’で継ぎ目が引っ掛かることなくスムースに通過できることが多い。
【0062】
間隙2を拡げた際、塗液3の粘度が極めて低い場合や間隙2を極めて大きく拡げる必要がある場合において、間隙2から塗液が垂れ落ちるのであれば、両面塗工ヘッド10の下流側にスクレーパや液受けを設置し、垂れ落ちた塗液を回収するような構成としてもよい。
【0063】
両面塗工装置20のウエブ搬送方向上流側にウエブ1の継ぎ目を検知する位置を設定し、この検知位置から前記一対のドクター部12、12’のウエブ搬送方向上流側の所定位置までの距離を拡大タイミング距離Loとする。この検知位置から一対のドクター部のウエブ搬送方向下流側の所定位置までの距離を復帰タイミング距離Lcとする。
【0064】
そして、ウエブ1の継ぎ目が検知位置を通過する時点からウエブ1の搬送距離を測定し始め、この搬送距離が拡大タイミング距離Loに達した時点で、一対のドクター部12、12‘の間隙2を拡げ、この搬送距離が復帰タイミング距離Lcに達した時点で、一対のドクター部12、12‘の間隙2を所定の膜厚に計量できる間隙2に戻すことが好ましい。拡大タイミング距離Loや復帰タイミング距離Lcは、制御手段101から設定できるよう構成される。
【0065】
逆に、ドクター部12、12’までの距離Lを把握しておくことで、ドクター部12、12’に対して間隙2が拡大する距離loと復帰する距離lcを設定してもよい。間隙2が広がっている間に搬送されるウエブ1は、塗工はされているものの製品とはならないロス部分であるため、ロスを抑えるために拡大する位置loと復帰する位置lcを短くすることが好ましい。
【0066】
また、ウエブ1の搬送速度が高速である場合、間隙2を拡げる速度と復帰する速度を考慮することが好ましい。つまり、高速では単位時間当たりのウエブ1の進行量が多いため、間隙2が拡がりきる前に、継ぎ目部がドクター部12、12’に到達する場合ある。よって、固定部材移動手段26、26’の動作速度を高速にしたり、動作速度を加味した距離設定を行うことが好ましい。さらに高精度に動作させるのであれば、固定部材移動手段26、26’が動作速度に達するまでの時間である加速度も考慮することが好ましい。
【0067】
以上より、継ぎ目検知手段102はドクター部12、12’上流側のごく近くに配置するより、ある一定距離さらに上流に配置して、間隙2を拡げる距離と移動速度、加速度を考慮したうえでLoやLcまたはloとlcを設定し、所望の動作となるようにすることが好ましい。
【0068】
なお、ウエブ1の搬送速度が遅い場合や、少々のロスを許容できるのであればこの限りではなく、継ぎ目検知手段102の信号で間隙2を拡げ、設定した距離の後に間隙2を復帰させてもよい。
【0069】
また、ヘッド下流側に継ぎ目検知手段102を追加し、該継ぎ目検知手段102で継ぎ目を検知したらに元の間隙2に復帰する構成としてもよい。
【0070】
また、継ぎ目検知手段102に代わり巻出部40において、カッター107が動作した時の信号を継ぎ目検知手段として代用する場合についても、L、LoとLcの距離が長くなるだけで、上記と同様の考え方を適用できる。
【0071】
継ぎ目が通過して塗工計量時の間隙2に復帰した後、例えば次工程の乾燥機を通過して塗膜を乾燥し巻取りを行っていく。巻取部41は、巻出部40と同様にスプライス機能を有し、搬送を停止することなく連続して巻取りを行っていく。
【0072】
このように、本発明の製造方法を用いれば、連続的に塗膜付きウエブを製造できるので極めて生産性がよい上に、ロスの少ない製品ロールを得ることが可能となる。
【実施例】
【0073】
本発明の実施形態に従って、塗膜付きウエブを製造するための両面塗工ヘッド、両面塗工装置、塗膜付きウエブの製造方法について実施例を示す。
【0074】
(実施例1)
図6に示す連続塗工装置と
図3と
図4に示す両面塗工装置20を用いて塗工を行った。
搬送するウエブはプラスティックフィルムであり、厚みが10μm、幅が300mm、巻長は300mであり、搬送速度10m/minでプラスティックフィルムの全幅に対して両面同時に塗工を行った。
【0075】
継ぎ目の貼り合わせには、厚みが100μmの両面テープを使用した。
ドクター部12、12’の間隙2は、塗工時は60μmとした。継ぎ目が通過する時の間隙2は、ウエブ2枚分の厚み20μmと両面テープの厚み100μmとの合計120μmを1.5倍した180μmよりも拡めにとり、240μmとした。 継ぎ目の検知はレーザ変位センサを用い、プラスティックフィルムと継ぎ目の厚さ変化にて検知を行った。
【0076】
継ぎ目検知手段102は、継ぎ目検知手段102からドクター部12、12’までの距離L=1000mmとなるよう配置し、Lo=450mm、Lc=1850mmの設定を行った。よって、lo=550mm、lc=850mmとなり、数値上では間隙が拡がってからウエブ1が1400mmの距離を通過した後、元の間隙2に復帰する設定となる。
【0077】
駆動手段25、25’には、サーボモータを用いカップリング27、27’を介しボールネジ28、28’に接続した。
【0078】
固定部材移動手段21、21’の間隙2を拡げる速度は2mm/sec、元の間隙2に復帰する速度は0.7mm/secとした。よって、間隙2が拡がりきる間に搬送されるウエブ長さは20mm、元の間隙2に復帰する間に搬送されるウエブ長さは57mmとなる。
【0079】
ボールネジ28、28’のナット側は固定部材移動手段21、21’のそれぞれに固定されており、固定部材移動手段21、21’の塗布幅方向両側に位置検出手段23、23’として分解能0.1μmのリニアスケールを取り付け、本数値をもとに位置決め動作を行った。
【0080】
貯液部4に塗液3をため、塗工を行った。塗膜の厚みは搬送途中に設置した膜厚計測器で確認しながら間隙調整を行った。280m塗工後、スプライスを行い、継ぎ目が両面塗工ヘッド10を通過するに際し、間隙2を拡げ、もとの間隙2に復帰し、塗工を継続した。
【0081】
塗工完了後、製品をサンプリングして塗膜の厚みを確認した結果、ウエブ1の全幅に対して幅方向均一に塗工できていることを確認した。
【0082】
間隙2が拡がるタイミングと元の間隙に復帰するタイミングを確認すべく、塗膜の厚塗り部の長さをメジャーで実測した。
【0083】
その結果、厚塗り部の明確な境界がなくグラデーション的な様相であるため、目視にて濃淡の変化が始まった個所を境界として測定した結果、1440mmであった。
【0084】
この時、厚塗り開始位置から継ぎ目までの距離は約530mmであり、数値上から計算して求まる理論値lo=550mm―20mm=530mmと同様の結果を得た。また、継ぎ目から厚塗り終了位置までの距離は約910mmであり、理論値lc=850mm+57mm=907mmであり、ほぼ同様の結果を得た。
【0085】
(実施例2)
搬送速度が30m/minと高速である以外は、実施例1と同様に
図6に示す連続塗工装置と
図3と
図4に示す両面塗工装置20を用いて塗工を行った。
【0086】
搬送速度が実施例1よりも高速であるため、間隙2が拡がりきる間に通過するウエブ長さは60mm、元の間隙2に復帰する間に通過するウエブ長さは171mmとなる。
【0087】
したがって、実施例1と同様の結果を得るために、Lo=410mm、Lc=1740mmの設定を行った。よって、lo=590mm、lc=740mmとなり、数値上では間隙2が拡がってからウエブ1が1330mmの長さを通過した後、元の間隙2に復帰する設定となるが、搬送速度が速いため、間隙2が拡がりきる間に通過するウエブ長さは60mm、元の間隙2に復帰する間に通過するウエブ長さは171mmを考慮すると、実施例1に記載の1400mmに対して短い設定となる。
【0088】
貯液部4に塗液3をため、塗工を行った。塗膜の厚みは搬送途中に設置した膜厚計測器で確認しながら間隙調整を行った。280m塗工後、スプライスを行い、継ぎ目が両面塗工ヘッド10を通過するに際し、間隙2を拡げ、もとの間隙2に復帰し、塗工を継続した。
【0089】
塗工完了後、製品をサンプリングして塗膜の厚みを確認した結果、ウエブ1の全幅に対して幅方向均一に塗工できていることを確認した。
【0090】
間隙2が拡がるタイミングと元の間隙2に復帰するタイミングを確認すべく、塗膜の厚塗り部の長さをメジャーで実測した。
【0091】
その結果、厚塗り部の明確な境界がなくグラデーション的な様相であるため、目視にて濃淡の変化が始まった個所を境界として測定した結果、1440mmであった。
【0092】
この時、厚塗り開始位置から継ぎ目までの距離loは約530mmであり、数値上から計算して求まる理論値は590mm―60mm=530mmであり、同様の結果を得た。また、継ぎ目から厚塗り終了位置までの距離lcは約910mmであり、理論値740mm+171mm=911mmであり、ほぼ同様の結果を得た。
【0093】
(実施例3)
継ぎ目検知手段102をスプライスのカット信号で代用した以外は、実施例2と同様である。継ぎ目検知手段であるカッター107からドクター部12、12’までの距離L=9000mmとなり、Lo=8410mm、Lc=9740mmの設定を行った。よって、lo=590mm、lc=740mmとなり、実施例2と同じ値となる。
【0094】
貯液部4に塗液3をため、塗工を行った。塗膜の厚みは搬送途中に設置した膜厚計測器で確認しながら間隙調整を行った。280m塗工後、スプライスを行い、継ぎ目が両面塗工ヘッド10を通過するに際し、間隙2を拡げ、もとの間隙2に復帰し、塗工を継続した。
【0095】
塗工完了後、製品をサンプリングして塗膜の厚みを確認した結果、ウエブ1の全幅に対して幅方向均一に塗工できていることを確認した。
【0096】
間隙2が拡がるタイミングと元の間隙2に復帰するタイミングを確認すべく、塗膜の厚塗り部の長さをメジャーで実測した。
【0097】
その結果、厚塗り部の明確な境界がなくグラデーション的な様相であるため、目視にて濃淡の変化が始まった個所を境界として測定した結果、1440mmであった。
【0098】
この時、厚塗り開始位置から継ぎ目までの距離loは約530mmであり、数値上から計算して求まる理論値は590mm―60mm=530mmであり、同様の結果を得た。また、継ぎ目から厚塗り終了位置までの距離lcは約910mmであり、理論値740mm+171mm=911mmであり、ほぼ同様の結果を得た。