(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記除去部は、周方向に沿って設けられている線状部を有し、当該線状部と前記リップ先端との間の領域において当該除去部が占める割合は、20%以上、30%以下である、
請求項1又は請求項2に記載の密封装置。
【背景技術】
【0002】
例えば鉄鋼圧延機や船尾管等における水環境下で用いられる密封装置として、オイルシールが知られている。
図4に示すオイルシール90は、一方側の第一空間K1と他方側の第二空間K2とを区画しており、第一空間K1に設けられているグリースGが第二空間K2へ流出するのを抑えていると共に、第二空間K2側に存在する水W(例えば、圧延機の場合は冷却水)が第一空間K1側に浸入するのを防止する機能を有している。
【0003】
オイルシール90は、環状の芯金91と、この芯金91に固定されている環状のゴム製シール本体92とを備えており、シール本体92は軸(回転体)99に接触するシールリップ93を有している。このオイルシール90が前記のような水環境下で用いられると、シールリップ93のリップ先端97付近に、軸99の回転に伴う摺動発熱によってブリスタ98(
図5参照)と呼ばれる数ミリメートル程度の膨れ(突起)が発生し、これが原因となってシールリップ93が持ち上げられ、密封性能が損なわれるおそれがある。
【0004】
ブリスタ98の発生メカニズムは、次のように考えられている。
図5において、回転する軸99にシールリップ93が接触すると、発熱によって第二空間K2側に存在する水Wが高温となり蒸発し、水蒸気Waとなってシールリップ93の斜面94からシールリップ93の内部に浸入(浸透)する。この斜面94は、シールリップ93の製造の際に寸法調整のためカッター等によって切断されたリップカット面となっており、表面スキン層が除去されている。この斜面94以外の面は表面スキン層96からなり、この表面スキン層96ではゴムの架橋密度が高く、水、水蒸気を通さない特性を有しているが、リップカット面である斜面94からは、水蒸気Waがシールリップ93の内部に浸入することができる。
その後、軸99の回転が止まると、シールリップ93の温度が低下し、反対側の斜面95の近傍にまで到達した水蒸気Waが液化し、ゴム中に含まれる例えば炭酸カルシウム等の吸水性物質の近傍に水Wとして蓄積される。
そして、軸99が回転すると、再びシールリップ93の温度が上昇し、これによりシールリップ93中の水Wが蒸発する。この際、シールリップ93の組織が破壊され、斜面95から突出するブリスタ98が生成される。
【0005】
そこで、従来、シールリップ93における発熱を低減するために、斜面95にコーティングを施して摩擦抵抗を低減することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のとおり、シールリップ93にコーティングを施すことで発熱を低減できるが、軸99との接触によるコーティングの消耗(摩耗)と共に、発熱を低減する効果が無くなり、やはり、ブリスタ98が発生してしまう。また、シールリップ93にコーティングを施すと、表面状態(表面粗さ)が変わり、シールリップ93が有するポンプ作用による密封性能に悪影響を与えてしまう。つまり、ポンプ作用とは、シールリップ93が軸99に回転接触することでシールリップ93(斜面94,95)に生じる微細なシワにより、第一空間K1のグリースGをリップ先端97側へ移動させ第二空間K2の水の浸入を抑制する作用であり、シールリップ93にコーティングを施すと、このようなポンプ作用が低減するおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、軸等の回転体に接触する密封装置において、従来とは異なる新たな技術的手段によってブリスタの発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の密封装置は、環状の芯金と、当該芯金に固定されていると共にシールリップを有する環状のゴム製シール本体と、を備え、前記シールリップは、回転体に接触するリップ先端と、当該リップ先端から軸方向一方側に向かうにしたがって拡径する第一斜面と、当該リップ先端から軸方向他方側に向かうにしたがって拡径する第二斜面と、を有し、前記第一斜面は、前記シールリップの内部と外部との間の浸透性を阻害するスキン層と、当該スキン層が一部除去されて成る除去部と、を有し、前記第二斜面は、前記スキン層と比較して浸透性が高いリップカット面を有している。
【0010】
この密封装置によれば、リップカット面(第二斜面)からシールリップ内に水分が浸透しても、その水分(内部の圧力)を第一斜面の除去部から外部へ逃がすことが可能となる。このため、回転体との滑り接触によってシールリップ(リップ先端)が発熱しても、ブリスタの発生を抑制することが可能となる。
【0011】
また、第一斜面は、スキン層が残されて、一部にのみ除去部を有する構成となる。このため、リップ先端を挟んで一方側(第一斜面)と他方側(第二斜面)とで表面粗さが異なり、リップ先端が回転体に摺接した状態で発生するポンプ作用を確保することができ、密封性能が維持される。
【0012】
また、前記除去部は、周方向に沿って設けられている第一線状部と、当該第一線状部に交差する方向に沿って設けられている第二線状部と、を有しているのが好ましい。
この構成によれば、シールリップ内の水分を第一線状部及び第二線状部のうちの近い方から逃がすことができ、シールリップ内の水分を効果的に外部へ逃がすことが可能となる。
【0013】
また、前記除去部は、前記リップ先端から軸方向に離れた位置に形成されているのが好ましい。
この構成によれば、除去部によってリップ先端における密封性能を低下させないで済む。
【0014】
また、前記除去部は、周方向に沿って設けられている線状部を有し、当該線状部と前記リップ先端との間の領域において当該除去部が占める割合は、20%以上、30%以下であるのが好ましい。
この場合、スキン層(除去部以外)が占める領域と除去部が占める領域との割合が8:2〜7:3となり、スキン層が残されることで前記ポンプ作用を維持しつつ、除去部によってブリスタの発生の抑制を効率よく行うことが可能となる。
【0015】
また、前記除去部は、周方向に沿って設けられている第一線状部と、当該第一線状部に直交する方向に沿って設けられている複数の第二線状部と、を有し、前記第一線状部と、隣り合う一対の前記第二線状部とで囲まれる領域のアスペクト比は、0.8以上、1.2以下であるのが好ましい。この場合、シールリップ内の水分を第一線状部及び第二線状部のうちの近い方から逃がすことができ、シールリップ内の水分を効果的に外部へ逃がすことが可能となる。
【0016】
また、前記第一線状部は、周方向に沿って連続して形成されているのが好ましく、この構成によれば、シールリップ内の水分を効果的に外部へ逃がすことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の密封装置によれば、シールリップのスキン層が一部除去されて成る除去部によって、ブリスタの発生を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の密封装置の一例を示す断面図である。この密封装置7は、例えば、鉄鋼圧延機や船尾管等における水環境下で用いられるものであり、筒体9と、回転体との間に設けられている。以下の説明では、前記回転体を軸8として説明する。密封装置7は、軸方向一方側の第一空間K1と軸方向他方側の第二空間K2とを区画しており、第一空間K1に設けられているグリースGが第二空間K2へ流出するのを抑えていると共に、第二空間K2側に存在する水W(例えば、圧延機の場合は冷却水)が第一空間K1側に浸入するのを防止する機能を有している。
【0020】
なお、前記回転体は、回転する軸8以外であってもよく、回転する軸8に外嵌している転がり軸受の内輪であってもよい。また、以下の説明において、軸方向とは、軸8の中心線に平行な方向であり、また、この軸方向は、密封装置7の中心線に平行な方向となる。
【0021】
密封装置7は、環状の芯金11と、この芯金11に固定されている環状のゴム製シール本体12とを備えている。また、
図1に示す密封装置7は、バネリング13も備えている。芯金11は、金属(例えば、SPCC)製であり、断面L字形を有している。芯金11の円筒部11aがシール本体12の一部12aを挟んで筒体9の内周面に嵌合することで、密封装置7は筒体9に取り付けられている。シール本体12は、ゴム製(合成ゴム製)であり、軸8に接触可能である第一のシールリップ20を有している。更に、シール本体12は、軸8との間に隙間を有して設けられている第二のシールリップ50を有している。シール本体12は、芯金11に加硫接着されている。バネリング13は、第一のシールリップ20に対して縮径させる方向の弾性力を付与している。
【0022】
シールリップ20は、内周側に向かうにしたがって先細りとなる形状を有している。具体的に説明すると、シールリップ20は、軸8に接触するリップ先端23と、リップ先端23から軸方向一方側(第一空間K1側)に向かうにしたがって拡径する第一斜面21と、リップ先端23から軸方向他方側(第二空間K2側)に向かうにしたがって拡径する第二斜面22とを有している。第一斜面21及び第二斜面22は、それぞれテーパ面からなる。
【0023】
図2は、シールリップ20の一部を拡大して示す説明図である。第一斜面21と第二斜面22とはそれぞれ異なる表面形態を有している。すなわち、第一斜面21は、表面にスキン層(表面スキン層)24を有しているのに対して、第二斜面22は、表面がリップカット面26となっている。スキン層24は、ゴムの架橋密度が内部と比較して高くなっており、水、水蒸気等の水分を通さない特性(通しにくい特性)を有している。スキン層24は、シールリップ20を金型で成形することで得られる皮膜(表層部分)である。これに対して、リップカット面26は、シールリップ20を金型で成形した後にその寸法調整のためカッター等によって切断されて形成された面(切断面)である。このため、リップカット面26には、前記のようなスキン層24が除去されており、ゴムの内部組織が露出した面となっている。これにより、リップカット面26からは水蒸気Waがシールリップ20の内部に浸入する。また、内部の水蒸気Waはリップカット面26から外部(第二空間K2)へ逃げることも可能である。本実施形態では、第二斜面22の全体がリップカット面26となっている。シールリップ20の表面において、第二斜面22以外は、ゴムの架橋密度が内部と比較して高くなっているスキン層(24)からなる。
【0024】
そして、第一斜面21は、すべてがスキン層24によって構成されているのではなく、一部においてスキン層24が除去された除去部25を有している。除去部25は、スキン層24を部分的に削ることによって得ることができ、例えば機械的に削ることで形成される。除去部25は、スキン層24が除去されているので、シールリップ20の内部と外部(第一空間K1)との間において水分の浸透性(透過性)を有している。
図2では、シールリップ20のうち、スキン層24が設けられていない表面、つまり、リップカット面26及び除去部25を破線で示している。
【0025】
以上より、本実施形態のシールリップ20では、第一斜面21は、シールリップ20の内部と外部との間の水分の浸透性を阻害するスキン層24と、スキン層24が一部除去されて成る除去部25とを有している。そして、第二斜面22は、スキン層24と比較して水分の浸透性が高いリップカット面26を有している。
【0026】
図3は、第一斜面21及び第二斜面22の一部を示す説明図である。なお、
図3は、第一斜面21及び第二斜面22を平面に展開した状態として示している。第一斜面21において、除去部25は、リップ先端23から軸方向に離れた位置に形成されている。例えば、除去部25のうち最もリップ先端23に近い部分39と、リップ先端23との距離(最小距離)Aは、1ミリメートル以上、5ミリメートル以下とするのが好ましく、本実施形態では、前記距離Aは2ミリメートルである。
【0027】
除去部25は周方向に沿って第一斜面21の全周に連続して設けられている。
図3に示す形態では、除去部25は、周方向に沿って設けられている第一線状部31と、この第一線状部31に直交する方向に沿って設けられている第二線状部32とを有している。
【0028】
第一線状部31は、周方向に沿って連続して形成されている。つまり、第一線状部31は、第一斜面21において環状となって設けられている。第一線状部31の幅寸法Bは、0.5ミリメートル以上、2ミリメートル以下とするのが好ましく、本実施形態では、前記幅寸法Bは1ミリメートルである。また、第一線状部31は、リップ先端23から3ミリメートルについて軸方向に離れた位置に形成されている。なお、図示しないが、第一線状部31は、周方向に沿って形成されているが、破線状(不連続)であってもよい。ただし、この場合、周方向にそって間欠的となる第一線状部31の間隔は(第一線状部31の幅寸法Bよりも)狭く設定されているのが好ましい。
【0029】
第二線状部32は、第一線状部31から軸方向両側に向かって延びて形成されている。
図3では、軸方向一方側と他方側との二つで一組の第二線状部32,32が、第一線状部31上の同じ部位31aから軸方向両側に延びて形成されている。なお、他の形態として、これら一組の第二線状部32,32は(図示しないが)第一線状部31上の異なる部位から軸方向両側にそれぞれ延びて形成されていてもよい。第一線状部31の幅寸法Cは、0.5ミリメートル以上、2ミリメートル以下とするのが好ましく、本実施形態では、前記幅寸法Cは1ミリメートルである。そして、第二線状部32は、リップ先端23と交差しないように離れて形成されている。第二線状部32は、第一線状部31に対して交差していればよく、直交させる以外に傾斜して交差する形態であってもよい。
【0030】
図3において、一点鎖線L1は、第一線状部31の中心線である。この一点鎖線L1とリップ先端23との間の領域S1において除去部25が占める割合(面積比)について説明する。前記領域S1には、スキン層24と除去部25とが含まれており、この領域S1ではスキン層24の占める割合の方が、除去部25の占める割合よりも大きい。これは、後に説明するがシールリップ20が有するポンプ作用を維持するためである。
【0031】
前記割合についてより具体的に説明すると、前記領域S1において、スキン層24(除去部25以外)が占める領域と、除去部25が占める領域との割合が8:2〜7:3となるのが好ましい。すなわち、第一線状部31の中心線(L1)とリップ先端23との間の領域S1において、除去部25が占める割合は、20%以上、30%以下であるのが好ましい。この面積割合は、第一線状部31とリップ先端23との間の領域S1についてのものであるが、一点鎖線L1を挟んでリップ先端23と反対側の領域S2(ただし、全体の面積は前記領域S1と同じ)においても、スキン層24(除去部25以外)が占める領域と、除去部25が占める領域との割合が8:2〜7:3となるようにするのが好ましい。
【0032】
第二線状部32は周方向に間隔をあけて複数設けられている。第二線状部32を設けるピッチ(寸法F+幅寸法C)について、様々な値を採用できる。すなわち、第一線状部31と、周方向で隣り合う一対の第二線状部32,32とで囲まれる領域(つまり、スキン層24の領域)Qの形状は、前記ピッチが大きくなると(例えば、寸法F=5ミリメートル)、周方向を長辺とする長方形になり、前記ピッチ(寸法F)が小さくなると、軸方向を長辺とする長方形となる。このように領域Qの形状を長方形としてもよいが、正方形(可及的に正方形に近い矩形)とするのが好ましい。
【0033】
つまり、除去部25は、前記のとおり、周方向に沿って設けられている第一線状部31と、この第一線状部31に直交する方向に沿って設けられている複数の第二線状部32とを有している。そして、第一線状部31と、周方向で隣り合う一対の第二線状部32,32とで囲まれる前記領域Qのアスペクト比(E/F)は、0.8以上、1.2以下であるのが好ましい。
【0034】
以上より、本実施形態の密封装置7では、シールリップ20は、
図2に示すように、軸8に接触するリップ先端23と、リップ先端23から拡径する第一斜面21と、リップ先端23から拡径する第二斜面22とを有している。そして、第一斜面21は、シールリップ20の内部と外部との間の水分の浸透性(透過性)を阻害するスキン層24と、このスキン層24が一部除去されて成る除去部25とを有しており、第二斜面22は、スキン層24と比較して浸透性(透過性)が高いリップカット面26を有している。この密封装置7によれば、リップカット面26(第二斜面22)からシールリップ20内に水分が浸透しても、その水分(又はシールリップ20内の圧力)を第一斜面21の除去部25から外部へ逃がすことが可能となる。
【0035】
すなわち、
図2において、回転する軸8にシールリップ20(リップ先端23)が接触すると、発熱によって第二空間K2側に存在する水Wが蒸発し、水蒸気Waとなってシールリップ20の第二斜面22(リップカット面26)からシールリップ20の内部に浸入(浸透)する。なお、リップ先端23及びその近傍の温度は、発熱によって200度程度となることがある。
その後、軸8の回転が止まると、シールリップ20の温度が低下し、第一斜面21の近傍にまで到達した水蒸気Waは液化し、シールリップ20のゴム中に含まれる例えば炭酸カルシウム等の吸水性物質の近傍に水Wとして蓄積される。
そして、軸8が回転すると、再びシールリップ20の温度が上昇し、これによりシールリップ20中の水Wが水蒸気Waとなるが、この水蒸気Wa及び/又はこれに伴う内部の圧力を、第一斜面21に形成されている除去部25から第一空間K1へ逃がす(排出する)ことができる。
このため、シールリップ20の内部であって第一斜面21の近くの領域に水分が蓄積されず、第一斜面21側においてブリスタが発生するのを抑えることができる。
【0036】
なお、このようにシールリップ20の内部の水Wが水蒸気Waとなるのは、高温となるリップ先端23近傍であるため、リップ先端23の近傍(1〜5ミリメートル離れた位置、
図3の距離A)に除去部25が形成されている。つまり、第一斜面21においてリップ先端23から離れた領域では水蒸気Waを生じさせるほど高温とならないことから、このような領域において除去部25はあってもよいがなくてもよい。また、第二斜面22側においては、内部の水が水蒸気Waとなっても、リップカット面26であることから外部へ容易に逃がすことができ、ブリスタは発生しない。
以上のように、本実施形態の密封装置7によれば、軸8との滑り接触によってシールリップ20(リップ先端23)が発熱しても、ブリスタの発生を抑制することが可能となる。
【0037】
また、
図3に示すように、第一斜面21は、スキン層24が残されて、一部にのみ除去部25を有する構成となる。このため、リップ先端23を挟んで一方側(第一斜面21)と他方側(第二斜面22)とで表面粗さが異なり、リップ先端23が軸8に摺接した状態で発生するポンプ作用を確保することができ、密封性能が維持される。前記ポンプ作用は、シールリップ20が軸8に回転接触することで、リップ先端23を挟む両側の斜面21,22それぞれに生じる微細なシワにより、第一空間K1のグリースGをリップ先端23側へ移動させ第二空間K2の水Wの浸入を抑制する作用である。
【0038】
仮に、第一斜面21の全体、又は、第一斜面21のうちのリップ先端23の近傍の領域(前記領域S1,S2)の全てが除去部25である場合、リップ先端23を挟んで軸方向一方側と他方側との双方がリップカット面となり、軸8に接触する表面の状態(表面粗さ)が同じとなる。この場合、第一斜面21側と第二斜面22側とで形成される前記微細なシワの形態が同様となり、前記ポンプ作用が生じないおそれがある。
これに対して、本実施形態によれば、第一斜面21側と第二斜面22側との表面の状態(表面粗さ)が異なるため、両者で形成される前記微細なシワの形態が異なり、前記ポンプ作用を生じさせる。以上より、第一斜面21では、ブリスタ抑制のためにスキン層24を除去した除去部25を設けるが、ポンプ作用のためにスキン層24を残している。
【0039】
そして、リップ先端23が最も高温となるが、除去部25は、リップ先端23から軸方向に離れた位置に形成されている。このため、除去部25によってリップ先端23における密封性能を低下させないで済む。
本実施形態の密封装置7によれば、従来のようにコーティングを設けているのではないため、前記のようにブリスタの発生を抑制する機能、及び、ポンプ作用を、長期にわたって維持することが可能となる。
【0040】
除去部25の
図3に示す形態による機能について説明する。第一斜面21において、除去部25は、周方向に沿って設けられている第一線状部31と、この第一線状部31に交差する方向に沿って設けられている第二線状部32とを有している。このため、シールリップ20内の水分を、第一線状部31及び第二線状部32のうちの近い方から逃がすことができ、シールリップ20内の水分を効果的に外部へ逃がすことが可能となる。
また、前記のとおり、第一線状部31の中心線L1とリップ先端23との間の領域S1において、除去部25が占める割合を、20%以上、30%以下としている。これにより、スキン層24が占める領域と除去部25が占める領域との割合が適切となり、スキン層24が残されることで前記ポンプ作用を維持しつつ、除去部25によってブリスタの発生の抑制を効率よく行うことが可能となる。除去部25が占める割合が20%未満である場合、除去部25の範囲が狭く、シールリップ20内の水分(圧力)を除去部25から逃がすための経路が長くなってしまう場合がある。除去部25が占める割合が30%を超える場合、ブリスタを抑制する機能は高まるが、第一斜面21における前記シワができる範囲が狭くなってしまう場合がある。
【0041】
また、本実施形態では、第一線状部31は、周方向に沿って連続して形成されているので、シールリップ20内の水分を効果的に外部へ逃がすことができる。
更に、第一線状部31と、隣り合う一対の第二線状部32,32とで囲まれる領域(スキン層の領域)Qのアスペクト比は、0.8以上、1.2以下とされている。つまり、この領域Qの中心であっても、その中心から第一線状部31又は第二線状部32までの距離が近くなり、この中心にブリスタが発生しようとしてもその原因となるシールリップ20内の水分(水蒸気Wa)を、第一線状部31及び第二線状部32のうちの近い方から逃がすことができ、シールリップ20内の水分を効果的に外部へ逃がすことが可能となる。領域Qのアスペクト比が0.8未満の場合、及び、1.2を超える場合、シールリップ20内において蓄積される水分の位置によっては、その水分(蒸発の際の圧力)を除去部25から逃がすための経路が長くなってしまう場合がある。
【0042】
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の密封装置は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。
【0043】
前記実施形態では、
図3に示すように、除去部25の第一線状部31及び第二線状部32の形状を直線状としたが、それ以外の形状であってもよい。
また、密封装置7が水環境下で用いられる場合について説明したが、それ以外の環境で用いられてもよい。つまり、グリース(潤滑油)によっても同様のメカニズムでシールリップ20にブリスタが発生すると考えられることから、潤滑油環境下においても前記密封装置7を用いることでブリスタの発生を抑制することができる。