特許第6728892号(P6728892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6728892
(24)【登録日】2020年7月6日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20200713BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
   B60C11/03 300E
   B60C11/12 C
   B60C11/12 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-71205(P2016-71205)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-178170(P2017-178170A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 弥奈
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/043036(WO,A1)
【文献】 特開平09−142109(JP,A)
【文献】 特開2000−142034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03−11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部のトレッド面においてタイヤ周方向に沿って延在しタイヤ幅方向に並ぶ少なくとも2本以上の周方向溝と、
前記トレッド面においてタイヤ周方向に対して交差して延在しタイヤ周方向に複数並んで設けられて両端がタイヤ幅方向で隣り合う任意の2本の前記周方向溝に連通し、各前記周方向溝の間にブロック状の陸部を区画形成する幅方向溝と、
前記陸部の前記トレッド面においてタイヤ周方向に沿って延在しタイヤ幅方向に2本並んで設けられて両端が各前記幅方向溝に連通し、タイヤ幅方向で隣り合う任意の前記2本の周方向溝と各前記幅方向溝とで区画形成された前記陸部をタイヤ幅方向で複数の小陸部に分割する細溝と、
を備え、
前記陸部において2本の前記細溝は、溝幅が前記周方向溝よりも小さく形成され、中間に屈曲部が形成されており、両端を結ぶ仮想直線よりも相互が対向するタイヤ幅方向の内側に前記屈曲部が配置され、かつ相互の前記屈曲部の屈曲点がタイヤ周方向で位置がずれて配置されている、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記幅方向溝および前記細溝は、タイヤ幅方向で隣り合う全ての2本の前記周方向溝の間に設けられている、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記細溝は、前記屈曲部の屈曲角度が90°以上160°以下の範囲である、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
2本の前記細溝の相互の前記屈曲点のタイヤ周方向のずれ幅Lcが、各前記細溝が形成された前記陸部のタイヤ周方向寸法Lに対し、0.1≦Lc/Lである、請求項1〜3のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記幅方向溝は、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在して形成されており、タイヤ幅方向に対する角度が5°以上50°以下の範囲である、請求項1〜のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記周方向溝の溝深さをHa、前記幅方向溝の溝深さをHb、前記細溝の溝深さをHcとしたとき、Ha>Hb、Ha>Hcの関係を満たす、請求項1〜のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記幅方向溝の溝深さをHb、前記細溝の溝深さをHcとしたとき、Hbが1mm以上5mm以下であり、Hcが1mm以上5mm以下である、請求項1〜のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記幅方向溝は、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在して形成されており、タイヤ周方向に対して鋭角となる前記陸部の角部に面取が形成されている、請求項1〜のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記トレッド面において一端が前記周方向溝に連通し他端が前記陸部内で終端して形成されたサイプをさらに備え、
前記サイプの溝幅をWd、溝深さをHd、溝長さをLdとし、前記陸部のタイヤ幅方向寸法をWeとし、前記周方向溝の溝深さをHaとしたとき、0.3mm≦Wd≦2.0mm、0.3≦Hd/Ha≦1.0、0.03≦Ld/We≦0.2の関係を満たす、請求項1〜のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なタイヤにおいて、接地時の圧力が高いと偏摩耗の原因となるため、適度な接地圧の緩和が必要になる。
【0003】
従来、例えば、特許文献1では、ドライ操縦安定性を損なうことなく走向による摩耗発生後における雪上操縦安定性の向上を図ることを目的とした空気入りタイヤが記載されている。この空気入りタイヤは、トレッド部の踏面部に、周方向に延びる複数の主溝と、該主溝と交わる横溝とにより区分されたブロックが形成され、該ブロックにサイプを有し、前記ブロックが周方向に対向する一対の鋭角ブロック角部を有し、かつ、該一対の鋭角ブロック角部と2本のサイプとにより画成された一対の小ブロックと、これら小ブロック間に挟まれた、該小ブロックより大なる中央ブロックとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−182315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サイプなどの細溝やスリットを入れることで、ブロックやリブの剛性が弱まり、もげや欠けが発生することがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ブロック剛性を維持したまま、接地圧を緩和させることで、耐久性能を維持しつつ、耐偏摩耗性能を向上することのできる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る空気入りタイヤは、トレッド部のトレッド面においてタイヤ周方向に沿って延在しタイヤ幅方向に並ぶ2本の周方向溝と、前記トレッド面においてタイヤ周方向に対して交差して延在しタイヤ周方向に複数並んで設けられて両端が各前記周方向溝に連通し、各前記周方向溝の間にブロック状の陸部を区画形成する幅方向溝と、前記陸部の前記トレッド面においてタイヤ周方向に沿って延在しタイヤ幅方向に2本並んで設けられて両端が各前記幅方向溝に連通し、各前記周方向溝と各前記幅方向溝とで区画形成された前記陸部をタイヤ幅方向で複数の小陸部に分割する細溝と、を備え、前記陸部において2本の前記細溝は、溝幅が前記周方向溝よりも小さく形成され、中間に屈曲部が形成されており、両端を結ぶ仮想直線よりも相互が対向するタイヤ幅方向の内側に前記屈曲部が配置され、かつ相互の前記屈曲部の屈曲点がタイヤ周方向で位置がずれて配置されている。
【0008】
この空気入りタイヤによれば、周方向溝および幅方向溝により区画形成された各陸部が、2本の細溝により複数の小陸部に分割して形成されていることで、低剛性化によりトレッド部の接地時の接地圧が緩和される。さらに、各細溝が屈曲部を有して屈曲して形成されて長さを延ばすことで、さらなる低剛性化により接地圧がさらに緩和される。このため、耐偏摩耗性能を向上することができる。しかも、この空気入りタイヤによれば、屈曲部を細溝の両端を結ぶ仮想直線よりも2本の細溝の相互が対向するタイヤ幅方向の内側に配置することで、側方の小陸部のトレッド面での面積が小さくなることが抑制され、剛性低下を防ぐ。さらに、2本の細溝の相互の屈曲点をタイヤ周方向で位置をずらして配置することで、中央の小陸部が局部的に細くなることが抑制され、剛性低下を防ぐ。このため、陸部のもげ・欠けの発生を抑制することができる。この結果、この空気入りタイヤによれば、もげ・欠けの発生を抑制して耐久性能を維持しつつ、耐偏摩耗性能を向上することができる。
【0009】
また、本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記細溝は、前記屈曲部の屈曲角度が90°以上160°以下の範囲であることが好ましい。
【0010】
この空気入りタイヤによれば、屈曲部の屈曲角度が90°以上であれば、屈曲が鋭角以上となるため、もげ・欠けが発生し難くなり、耐久性を維持する効果が大きい。一方、屈曲部の屈曲角度が160°以下であれば、細溝の長さを延ばして低剛性化を図る効果が大きい。
【0011】
また、本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、2本の前記細溝の相互の前記屈曲点のタイヤ周方向のずれ幅Lcが、各前記細溝が形成された前記陸部のタイヤ周方向寸法Lに対し、0.1≦Lc/Lであることが好ましい。
【0012】
この空気入りタイヤによれば、0.1≦Lc/Lとすることで、2本の細溝間の中央の小陸部が局部的に細くなることがより抑制され、剛性低下をさらに防ぐことができ、耐久性能の維持効果が大きい。
【0013】
また、本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記幅方向溝は、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在して形成されており、タイヤ幅方向に対する角度が5°以上50°以下の範囲であることが好ましい。
【0014】
この空気入りタイヤによれば、幅方向溝の角度が5°以上であれば、幅方向溝の長さを延ばして低剛性化を図る効果が大きい。幅方向溝の角度が50°以下であれば、角が鋭くなることを抑えるため、もげ・欠けが発生し難くなり、耐久性を維持する効果が大きい。
【0015】
また、本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記周方向溝の溝深さをHa、前記幅方向溝の溝深さをHb、前記細溝の溝深さをHcとしたとき、Ha>Hb、Ha>Hcの関係を満たすことが好ましい。
【0016】
この空気入りタイヤによれば、幅方向溝の溝深さHbや、細溝の溝深さHcを周方向溝の溝深さHaよりも小さくすることで、陸部のタイヤ周方向の剛性低下を抑制するため、耐久性を維持する効果が大きい。
【0017】
また、本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記幅方向溝の溝深さをHb、前記細溝の溝深さをHcとしたとき、Hbが1mm以上5mm以下であり、Hcが1mm以上5mm以下であることが好ましい。
【0018】
この空気入りタイヤによれば、幅方向溝の溝深さHbや、細溝の溝深さHcを1mm以上5mm以下にすることで、陸部の剛性低下を抑制するため、耐久性を維持する効果が大きい。
【0019】
また、本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記幅方向溝は、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在して形成されており、タイヤ周方向に対して鋭角となる前記陸部の角部に面取が形成されていることが好ましい。
【0020】
この空気入りタイヤによれば、面取を設けることで、もげ・欠けが発生し難くなり、耐久性を維持する効果が大きい。
【0021】
また、本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記トレッド面において一端が前記周方向溝に連通し他端が前記陸部内で終端して形成されたサイプをさらに備え、前記サイプの溝幅をWd、溝深さをHd、溝長さをLdとし、前記陸部のタイヤ幅方向寸法をWeとし、前記周方向溝の溝深さをHaとしたとき、0.3mm≦Wd≦2.0mm、0.3≦Hd/Ha≦1.0、0.03≦Ld/We≦0.2の関係を満たすことが好ましい。
【0022】
この空気入りタイヤによれば、サイプにより陸部の低剛性化を図り接地圧が緩和されるため、耐偏摩耗性能を向上する効果が大きい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、耐久性能を維持しつつ、耐偏摩耗性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の平面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の拡大図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの他の例のトレッド部の拡大図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの他の例のトレッド部の拡大図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の断面拡大図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の断面拡大図である。
図7図7は、本発明の実施例に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
図8図8は、本発明の実施例に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、この実施形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0026】
図1は、本実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の平面図である。図2は、本実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の拡大図である。図3は、本実施形態に係る空気入りタイヤの他の例のトレッド部の拡大図である。図4は、本実施形態に係る空気入りタイヤの他の例のトレッド部の拡大図である。図5は、本実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の断面拡大図である。図6は、本実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の断面拡大図である。
【0027】
以下の説明において、タイヤ周方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸(図示せず)を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(図示せず)に向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面から離れる側をいう。タイヤ径方向とは、前記回転軸と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。タイヤ赤道面とは、前記回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。
【0028】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、図1に示すように、トレッド部2を有している。トレッド部2は、ゴム材からなり、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出し、その表面がトレッド面2Aとして空気入りタイヤ1の輪郭となる。
【0029】
トレッド部2は、トレッド面2Aに、タイヤ周方向に沿って延在する周方向溝3が、タイヤ幅方向に複数(本実施形態では図1に7本示す)並んで設けられている。周方向溝3は、例えば、8mm以上15mm以下の溝幅(図2およ図5のWa)で、10mm以上28mm以下の溝深さ(トレッド面2Aの開口位置から溝底までの寸法:図5および図6のHa)のものをいう。
【0030】
また、トレッド部2は、トレッド面2Aに、隣接する周方向溝3によりタイヤ周方向に延在するリブが区画形成される。また、トレッド部2は、トレッド面2Aに、タイヤ周方向に対して交差しタイヤ幅方向に延在する幅方向溝4が、タイヤ周方向に複数並んで設けられている。幅方向溝4は、両端が周方向溝3に連通している。このため、周方向溝3により区画形成された各リブが、幅方向溝4により分割され、周方向溝3の間にブロック状の陸部5が区画形成される。幅方向溝4は、例えば、1mm以上4mm以下の溝幅(図2のWb)で、1mm以上5mm以下の溝深さ(トレッド面2Aの開口位置から溝底までの寸法:図6のHb)のものをいう。
【0031】
また、トレッド部2は、トレッド面2Aであって、周方向溝3および幅方向溝4により区画形成された各陸部5において、タイヤ周方向に延在する細溝6が、タイヤ幅方向に交差せず独立して2本並んで設けられている。各細溝6は、両端が幅方向溝4に連通している。このため、周方向溝3および幅方向溝4により区画形成された各陸部5が、各細溝6によりタイヤ幅方向で複数分割され、1つの陸部5内において、幅方向溝4および各細溝6により区画される中央小陸部5Aと、周方向溝3、幅方向溝4および細溝6により区画される2つの側方小陸部5Bと、が形成されている。細溝6は、例えば、1mm以上4mm以下の溝幅(図2および図5のWc)で、1mm以上5mm以下の溝深さ(トレッド面2Aの開口位置から溝底までの寸法:図5のHc)のものをいう。
【0032】
陸部5において2本の細溝6は、溝幅Wcが周方向溝3の溝幅Waよりも小さく形成されている。そして、これらの細溝6は、中間に屈曲部6Aが形成されている。屈曲部6Aは、細溝6の両端を結ぶ仮想直線Aよりもタイヤ幅方向で2本の細溝6の相互が対向するタイヤ幅方向の内側に配置されている。さらに、これらの細溝6は、相互の屈曲部6Aの屈曲点6Aaがタイヤ周方向で位置がずれて配置されている。
【0033】
細溝6の屈曲点6Aaは、図2に示すように、1本の細溝6において1つの屈曲で屈曲部6Aが形成されている場合、当該1つの屈曲においてタイヤ幅方向で2本の細溝6の相互が対向するタイヤ幅方向の内側の曲がり点である。
【0034】
また、細溝6の屈曲点6Aaは、図3に示すように、1本の細溝6において複数の屈曲で屈曲部6Aが形成されている場合は、当該複数の屈曲においてタイヤ幅方向で2本の細溝6の相互が対向するタイヤ幅方向の最も内側(基準直線Bよりも2本の細溝6の相互が対向するタイヤ幅方向の内側)の曲がり点とする。
【0035】
また、細溝6の屈曲点6Aaは、図4に示すように、1本の細溝6において複数の屈曲で屈曲部6Aが形成されている場合で、かつ当該複数の屈曲においてタイヤ幅方向で2本の細溝6の相互が対向するタイヤ幅方向の最も内側の曲がり点が複数である場合は、最も内側の複数のタイヤ周方向の両端の曲がり点を結ぶ基準直線Cの中心点とする。従って、この場合、屈曲点6Aaは、図4に示すように、曲がり点と一致しないことを含む。
【0036】
このような構成の本実施形態の空気入りタイヤ1によれば、周方向溝3および幅方向溝4により区画形成された各陸部5が、2本の細溝6により中央小陸部5Aと2つの側方小陸部5Bとに分割して形成されていることで、低剛性化によりトレッド部2の接地時の接地圧が緩和される。さらに、各細溝6が屈曲部6Aを有して屈曲して形成されて長さを延ばすことで、さらなる低剛性化により接地圧がさらに緩和される。このため、耐偏摩耗性能を向上することができる。
【0037】
しかも、本実施形態の空気入りタイヤ1によれば、屈曲部6Aを細溝6の両端を結ぶ仮想直線Aよりも2本の細溝6の相互が対向するタイヤ幅方向の内側に配置することで、側方小陸部5Bのトレッド面2Aでの面積が小さくなることが抑制され、剛性低下を防ぐ。さらに、2本の細溝6の相互の屈曲点6Aaをタイヤ周方向で位置をずらして配置することで、中央小陸部5Aが局部的に細くなることが抑制され、剛性低下を防ぐ。このため、陸部5のもげ・欠けの発生を抑制することができる。
【0038】
この結果、本実施形態の空気入りタイヤ1によれば、もげ・欠けの発生を抑制して耐久性能を維持しつつ、耐偏摩耗性能を向上することができる。
【0039】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、細溝6は、屈曲部6Aの屈曲角度αが90°以上160°以下の範囲であることが好ましい。屈曲角度αは、図2図4に示すように、屈曲部6Aの屈曲において小さい側の角度である。
【0040】
この空気入りタイヤ1によれば、屈曲部6Aの屈曲角度αが90°以上であれば、屈曲が鋭角以上となるため、もげ・欠けが発生し難くなり、耐久性を維持する効果が大きい。一方、屈曲部6Aの屈曲角度αが160°以下であれば、細溝6の長さを延ばして低剛性化を図る効果が大きい。
【0041】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図2に示すように、2本の細溝6の相互の屈曲点6Aaのタイヤ周方向のずれ幅Lcが、各細溝6が形成された陸部5のタイヤ周方向寸法Lに対し、0.1≦Lc/Lであることが好ましい。ずれ幅Lcの最大値は、仮想直線A以下の範囲である。
【0042】
この空気入りタイヤによれば、0.1≦Lc/Lとすることで、2本の細溝6間の中央小陸部5Aが局部的に細くなることがより抑制され、剛性低下をさらに防ぐことができ、耐久性能の維持効果が大きい。
【0043】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、幅方向溝4は、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在して形成されており、タイヤ幅方向に対する角度βが5°以上50°以下の範囲であることが好ましい。
【0044】
この空気入りタイヤ1によれば、幅方向溝4のタイヤ幅方向に対する角度βが5°以上であれば、幅方向溝4の長さを延ばして低剛性化を図る効果が大きい。幅方向溝4のタイヤ幅方向に対する角度βが50°以下であれば、角が鋭くなることを抑えるため、もげ・欠けが発生し難くなり、耐久性を維持する効果が大きい。
【0045】
なお、本実施形態の空気入りタイヤ1では、幅方向溝4は、隣接する周方向溝3で区画形成されるリブにおいて、タイヤ幅方向に対して同じ向きで傾斜して設けられている。しかも、本実施形態の空気入りタイヤ1では、幅方向溝4は、隣接するリブにおいてもタイヤ幅方向に対して同じ向きで傾斜して設けられている。このように構成することで、各陸部5の形状が一定化され、耐偏摩耗性の向上に寄与する。
【0046】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、周方向溝3の溝深さをHa、幅方向溝4の溝深さをHb、細溝6の溝深さをHcとしたとき、Ha>Hb、Ha>Hcの関係を満たすことが好ましい。
【0047】
この空気入りタイヤ1によれば、幅方向溝4の溝深さHbや、細溝6の溝深さHcを周方向溝3の溝深さHaよりも小さくすることで、陸部5のタイヤ周方向の剛性低下を抑制するため、耐久性を維持する効果が大きい。
【0048】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、幅方向溝4の溝深さをHb、細溝6の溝深さをHcとしたとき、Hbが1mm以上5mm以下であり、Hcが1mm以上5mm以下であることが好ましい。
【0049】
この空気入りタイヤ1によれば、幅方向溝4の溝深さHbや、細溝6の溝深さHcを1mm以上5mm以下にすることで、陸部5の剛性低下を抑制するため、耐久性を維持する効果が大きい。
【0050】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、幅方向溝4は、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在して形成されており、タイヤ周方向に対して鋭角となる陸部5の角部に面取4Aが形成されていることが好ましい。
【0051】
この空気入りタイヤ1によれば、面取4Aを設けることで、もげ・欠けが発生し難くなり、耐久性を維持する効果が大きい。
【0052】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図2図5に示すように、トレッド面2Aにおいて一端が周方向溝3に連通し他端が細溝6に交差することなく陸部5内で終端して形成されたサイプ7をさらに備えることが好ましい。サイプ7は、溝幅をWd、溝深さをHd、溝長さをLdとし、陸部5のタイヤ幅方向寸法をWeとし、周方向溝3の溝深さをHaとしたとき、0.3mm≦Wd≦2.0mm、0.3≦Hd/Ha≦1.0、0.03≦Ld/We≦0.2の関係を満たすものである。
【0053】
この空気入りタイヤ1によれば、サイプ7により陸部5の低剛性化を図り接地圧が緩和されるため、耐偏摩耗性能を向上する効果が大きい。
【実施例】
【0054】
本実施例では、条件が異なる複数種類の試験タイヤについて、耐偏摩耗性能および耐久性能に関する性能試験が行われた(図7および図8参照)。
【0055】
この性能試験では、タイヤサイズ445/50R22.5の空気入りタイヤ(重荷重用空気入りタイヤ)を、正規リムに組み付け、正規内圧を充填し、試験車両(2−D・D車)のトレーラ軸に装着した。
【0056】
ここで、正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、あるいは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。
【0057】
耐偏摩耗性能に関する性能試験では、試験車両が10万マイル(約16万km)を走行した後、陸部に発生した偏摩耗の面積および深さが測定される。そして、この測定結果に基づいて従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は数値が大きいほど耐偏摩耗性能に優れ好ましい。
【0058】
耐久性能に関する性能試験では、試験車両が10万マイル(約16万km)を走行した後、陸部に発生したもげや欠けの数が測定される。そして、この測定結果に基づいて従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は数値が大きいほどもげや欠けの数が少なく耐久性能が優れ好ましい。
【0059】
図7に示す従来例の空気入りタイヤは、細溝を有していない。図7に示す各比較例の空気入りタイヤは、細溝を有するが、細溝の形態が本実施例の規定と異なる。一方、図7および図8に示す各実施例の空気入りタイヤは、細溝の形態が規定範囲である。
【0060】
図7および図8の試験結果に示すように、実施例1〜実施例12の空気入りタイヤは、耐久性能を維持しつつ耐偏摩耗性能が改善されていることが分かる。
【符号の説明】
【0061】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
2A トレッド面
3 周方向溝
4 幅方向溝
4A 面取
5 陸部
5A 中央小陸部
5B 側方小陸部
6 細溝
6A 屈曲部
6Aa 屈曲点
7 サイプ
A 仮想直線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8