(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材とが、チタン層を介して接合されてなる銅/チタン/アルミニウム接合体であって、
前記銅部材と前記チタン層との接合界面には、CuとTiを含有する金属間化合物が形成されており、
前記銅部材と前記チタン層との接合界面において、前記金属間化合物が形成されていない金属間化合物未形成部の接合界面に沿った長さLiの最大値が20μm以下であり、前記金属間化合物未形成部の接合界面に沿った長さの合計ΣLiと、前記接合界面の全体長さL0との比ΣLi/L0が0.16以下であることを特徴とする銅/チタン/アルミニウム接合体。
セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、前記セラミックス基板の他方の面に形成された金属層と、前記金属層に接合されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付き絶縁回路基板であって、
前記金属層及び前記ヒートシンクが、請求項1に記載の銅/チタン/アルミニウム接合体であることを特徴とするヒートシンク付き絶縁回路基板。
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の絶縁回路基板と、前記回路層の一方の面側に接合されたパワー半導体素子と、を備えていることを特徴とするパワーモジュール。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、最近では、絶縁回路基板に搭載されるパワー半導体素子、LED素子及び熱電素子等においては、発熱密度が高くなる傾向にあり、絶縁回路基板には従来にも増して、さらに高い温度までの冷熱サイクルに対する信頼性が求められている。
ここで、上述のように、アルミニウム層と銅層とがチタン層を介して接合した構造を有する絶縁回路基板及びヒートシンク付き絶縁回路基板においては、従来よりも高い温度までの冷熱サイクルを負荷した際に、銅層とチタン層との接合界面において剥離が生じることがあった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、従来よりも高い温度までの冷熱サイクルを負荷した場合であっても、銅部材とチタン層との接合界面において剥離が生じることを抑制でき、特に信頼性に優れた銅/チタン/アルミニウム接合体、および、これを備えた絶縁回路基板、ヒートシンク付き絶縁回路基板、パワーモジュール、LEDモジュール、熱電モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、銅層とチタン層との接合界面には、銅とチタンの金属間化合物が形成されているが、接合界面の一部にこの金属間化合物が形成されていない領域(金属間化合物未形成部)があり、従来よりも高い温度までの冷熱サイクルを負荷した場合に、この金属間化合物未形成部において剥離が生じているとの知見を得た。なお、この金属間化合物未形成部は、冷熱サイクル負荷前において超音波検査では検出することができないものであった。
【0010】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の銅/チタン/アルミニウム接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材とが、チタン層を介して接合されてなる銅/チタン/アルミニウム接合体であって、前記銅部材と前記チタン層との接合界面には、CuとTiを含有する金属間化合物が形成されており、前記銅部材と前記チタン層との接合界面において、前記金属間化合物が形成されていない金属間化合物未形成部の接合界面に沿った長さL
iの最大値が20μm以下であり、前記金属間化合物未形成部の接合界面に沿った長さの合計ΣL
iと、前記接合界面の全体長さL
0との比ΣL
i/L
0が0.16以下であることを特徴としている。
【0011】
この構成の銅/チタン/アルミニウム接合体によれば、前記銅部材と前記チタン層との接合界面において、前記金属間化合物が形成されていない金属間化合物未形成部の接合界面に沿った長さL
iの最大値が20μm以下とされているので、銅部材とチタン層との間でCuとTiとが十分に相互拡散して上述の金属間化合物が形成されており、銅部材とチタン層との接合信頼性に優れている。
また、前記金属間化合物未形成部の接合界面に沿った長さの合計ΣL
iと、前記接合界面の全体長さL
0との比ΣL
i/L
0が0.16以下とされているので、CuとTiを含有する金属間化合物が形成されていない領域の存在比率が小さく、従来よりも高い温度までの冷熱サイクルを負荷した場合においても、金属間化合物未形成部を起点として剥離が生じることを抑制することが可能となる。
【0012】
本発明の絶縁回路基板は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、を備えた絶縁回路基板であって、前記回路層は、前項に記載の銅/チタン/アルミニウム接合体であることを特徴としている。
【0013】
この構成の絶縁回路基板によれば、回路層が上述の銅/チタン/アルミニウム接合体で構成されているので、回路層上に発熱密度の高い素子を搭載しても、銅部材とチタン層との接合界面において剥離が生じることが抑制されることになり、信頼性に優れている。
【0014】
また、本発明の絶縁回路基板は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、前記セラミックス基板の他方の面に形成された金属層と、を備えた絶縁回路基板であって、前記金属層は、前項に記載の銅/チタン/アルミニウム接合体であることを特徴としている。
【0015】
この構成の絶縁回路基板によれば、金属層が上述の銅/チタン/アルミニウム接合体で構成されているので、銅部材とチタン層との接合信頼性に優れており、回路層に搭載された素子からの熱を、金属層を介して効率的に放熱することができる。
【0016】
さらに、本発明の絶縁回路基板は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、前記セラミックス基板の他方の面に形成された金属層と、を備えた絶縁回路基板であって、前記回路層及び前記金属層は、前項に記載の銅/チタン/アルミニウム接合体であることを特徴としている。
【0017】
この構成の絶縁回路基板によれば、回路層及び金属層が上述の銅/チタン/アルミニウム接合体で構成されているので、回路層上に発熱密度の高い素子を搭載しても、銅部材とチタン層との接合界面において剥離が生じることが抑制され、信頼性に優れている。また、回路層に搭載された素子からの熱を、金属層を介して効率的に放熱することができる。
【0018】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、前記セラミックス基板の他方の面に形成された金属層と、前記金属層に接合されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付き絶縁回路基板であって、前記金属層及び前記ヒートシンクが、前項に記載の銅/チタン/アルミニウム接合体であることを特徴としている。
【0019】
この構成のヒートシンク付き絶縁回路基板によれば、金属層及びヒートシンクが、上述の銅/チタン/アルミニウム接合体とされているので、高負荷時においても、金属層とヒートシンクとの間に形成された銅部材とチタン層との接合界面において剥離が生じることが抑制され、信頼性に優れている。
【0020】
本発明のパワーモジュールは、前項に記載の絶縁回路基板と、前記回路層の一方の面側に接合されたパワー半導体素子と、を備えていることを特徴としている。
また、本発明のパワーモジュールは、前項に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板と、前記回路層の一方の面側に接合されたパワー半導体素子と、を備えていることを特徴としている。
【0021】
本発明のLEDモジュールは、前項に記載の絶縁回路基板と、前記回路層の一方の面側に接合されたLED素子と、を備えていることを特徴としている。
また、本発明のLEDモジュールは、前項に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板と、前記回路層の一方の面側に接合されたLED素子と、を備えていることを特徴としている。
【0022】
本発明の熱電モジュールは、前項に記載の絶縁回路基板と、前記回路層の一方の面側に接合された熱電素子と、を備えていることを特徴としている。
また、本発明の熱電モジュールは、前項に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板と、前記回路層の一方の面側に接合された熱電素子と、を備えていることを特徴としている。
【0023】
本発明のパワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールによれば、上述の銅/チタン/アルミニウム接合体を有しており、高負荷時においても銅部材とチタン層との接合界面において剥離が生じることが抑制され、パワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールの信頼性を向上させることを可能にする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来よりも高い温度までの冷熱サイクルを負荷した場合であっても、銅部材とチタン層との接合界面において剥離が生じることを抑制でき、特に信頼性に優れた銅/チタン/アルミニウム接合体、および、これを備えた絶縁回路基板、ヒートシンク付き絶縁回路基板、パワーモジュール、LEDモジュール、熱電モジュールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0027】
(第1の実施形態)
図1に、本発明の第1の実施形態である絶縁回路基板10を用いたパワーモジュール1を示す。なお、本実施形態における接合体は、
図1に示す絶縁回路基板10において、アルミニウム部材としてアルミニウム層21及び銅部材として銅層22がチタン層25を介して接合されてなる回路層20、アルミニウム部材としてアルミニウム層31及び銅部材として銅層32がチタン層35を介して接合されてなる金属層30とされている。
【0028】
図1に示すパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方の面(
図1において上面)に第1はんだ層2を介して接合されたパワー半導体素子3と、絶縁回路基板10の下側に第2はんだ層42を介して接合されたヒートシンク41と、を備えている。なお、ヒートシンク41が接合された絶縁回路基板10が、本実施形態におけるヒートシンク付き絶縁回路基板40とされている。
【0029】
パワー半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。絶縁回路基板10とパワー半導体素子3とを接合する第1はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
【0030】
ヒートシンク41は、絶縁回路基板10側の熱を放散するためのものである。ヒートシンク41は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では無酸素銅で構成されている。絶縁回路基板10とヒートシンク41とを接合する第2はんだ層42は、例えばSn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
【0031】
そして、本実施形態に係る絶縁回路基板10は、
図1に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層20と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層30と、を備えている。
【0032】
セラミックス基板11は、絶縁性の高いAlN(窒化アルミニウム)、Si
3N
4(窒化ケイ素)、Al
2O
3(アルミナ)等で構成されている。本実施形態では、強度に優れたSi
3N
4(窒化ケイ素)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0033】
回路層20は、
図1に示すように、セラミックス基板11の一方の面に配設されたアルミニウム層21と、このアルミニウム層21の一方の面にチタン層25を介して積層された銅層22と、を有している。
ここで、回路層20におけるアルミニウム層21の厚さは、0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.4mmに設定されている。
また、回路層20における銅層22の厚さは、0.1mm以上6.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、1.0mmに設定されている。
【0034】
金属層30は、
図1に示すように、セラミックス基板11の他方の面に配設されたアルミニウム層31と、このアルミニウム層31の他方の面にチタン層35を介して積層された銅層32と、を有している。
ここで、金属層30におけるアルミニウム層31の厚さは、0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.4mmに設定されている。
また、金属層30における銅層32の厚さは、0.1mm以上6.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、1.0mmに設定されている。
【0035】
ここで、アルミニウム層21、31は、
図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面に、アルミニウム板51、61が接合されることにより形成されている。
アルミニウム層21,31となるアルミニウム板51、61は、純度が99mass%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)で構成されている。すなわち、Siの含有量が0.03mass%以上1.0mass%以下の範囲内とされている。
【0036】
銅層22、32は、アルミニウム層21、31の一方の面及び他方の面に、チタン層25、35を介して銅又は銅合金からなる銅板52、62が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、銅層22、32を構成する銅板52、62は、無酸素銅の圧延板とされている。
なお、アルミニウム層21、31とチタン層25、35、チタン層25,35と銅層22、32は、それぞれ固相拡散接合されている。
【0037】
ここで、アルミニウム層21、31とチタン層25、35との接合界面には、
図2に示すように、Al−Ti−Si層26、36が形成されている。
このAl−Ti−Si層26、36は、アルミニウム層21、31のAl原子と、チタン層25、35のTi原子とが相互拡散することによって形成されたAl
3Tiに、アルミニウム層21、31のSiが固溶することにより形成されたものである。
Al−Ti−Si層26、36の厚さは、0.5μm以上10μm以下に設定されており、本実施形態においては3μmとされている。
【0038】
また、チタン層25、35と銅層22、32との接合界面には、
図2に示すように、TiとCuを含有する金属間化合物相27,37が形成されている。
この金属間化合物相27,37は、銅層22、32のCu原子と、チタン層25、35のTi原子とが相互拡散することによって形成されるものである。
なお、チタン層25、35と銅層22、32との接合界面においては、
図2に示すように、上述の金属間化合物相27,37が形成されていない領域(金属間化合物未形成部28,38)が存在することがある。
【0039】
ここで、本実施形態では、この金属間化合物未形成部28、38の接合界面に沿った長さL
iの最大値が20μm以下とされている。
また、金属間化合物未形成部28、38の接合界面に沿った長さの合計ΣL
iと、接合界面の全体長さL
0との比ΣL
i/L
0が0.16以下とされている。
本実施形態においては、チタン層25、35と銅層22、32との接合界面を観察した結果、観察された金属間化合物未形成部28、38の接合界面に沿った長さL
iの最大値が20μm以下とされており、観察された金属間化合物未形成部28、38の接合界面に沿った長さの合計ΣL
iと、観察視野における接合界面の全体長さL
0との比ΣL
i/L
0が0.16以下とされている。
【0040】
なお、チタン層25、35と銅層22、32との接合界面を観察する際には、絶縁回路基板10の断面観察をEPMAによって行い、チタン層25、35と銅層22、32との接合界面を含む領域(縦100μm×横200μm)のCu及びTiの元素MAPを取得し、Cu濃度が5at%以上かつTi濃度が16at%以上70at%以下の領域を金属間化合物相27、37とし、接合界面におけるこれら金属間化合物相27、37の間の領域を金属間化合物未形成部28、38の接合界面に沿った長さL
iとした。このような測定を10視野で実施し、金属間化合物未形成部28、38の接合界面に沿った長さL
iの最大値、及び、観察された金属間化合物未形成部28、38の接合界面に沿った長さの合計ΣL
iと、観察視野における接合界面の全体長さL
0との比ΣL
i/L
0を算出した。
【0041】
次に、本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法について、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0042】
まず、
図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面(
図4において上面)に、アルミニウム層21となるアルミニウム板51を積層し、さらにその上にチタン材55を介して銅層22となる銅板52を積層する。また、セラミックス基板11の他方の面(
図4において下面)に、アルミニウム層31となるアルミニウム板61を積層し、さらにその上にチタン材65を介して銅層32となる銅板62を積層する。ここで、本実施形態においては、アルミニウム板51、61とセラミックス基板11との間には、Al−Si系のろう材箔58,68を介して積層した。(積層工程S01)
【0043】
次いで、真空条件下において、積層方向に8kgf/cm
2以上20kgf/cm
2以下の範囲で加圧した状態で加熱して、アルミニウム板51とセラミックス基板11とを接合し、さらにアルミニウム板51とチタン材55、チタン材55と銅板52とを固相拡散することにより、回路層20を形成する。また、アルミニウム板61とセラミックス基板11とを接合し、さらにアルミニウム板61とチタン材65、チタン材65と銅板62とを固相拡散することにより、金属層30を形成する。(回路層及び金属層形成工程S02)
【0044】
ここで、本実施形態では、真空条件は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は630℃以上643℃以下、保持時間は210分以上360分以下の範囲内に設定した。
そして、本実施形態では、接合温度において加圧圧力が上述の範囲内となるように、ホットプレス装置を用いて加圧及び加熱を実施した。
なお、アルミニウム板51、61、チタン材55、65、及び銅板52、62の接合されるそれぞれの面は、予め当該面の傷が除去されて平滑にされた後に、固相拡散接合されている。
上記のようにして、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0045】
次に、絶縁回路基板10の金属層30に、はんだ材を介してヒートシンク41を積層し、還元炉内においてはんだ接合する(ヒートシンク接合工程S03)。
このようにして、本実施形態であるヒートシンク付絶縁回路基板40が製造される。
次いで、回路層20の一方の面(銅層22の表面)に、はんだ材を介してパワー半導体素子3を積層し、還元炉内においてはんだ接合する(パワー半導体素子接合工程S04)。
上記のようにして、本実施形態であるパワーモジュール1が製造される。
【0046】
以上のような構成とされた本実施形態である絶縁回路基板10においては、回路層20がアルミニウム層21とチタン層25と銅層22とがそれぞれ固相拡散された構造とされるとともに、金属層30がアルミニウム層31とチタン層35と銅層32とがそれぞれ固相拡散接合された構造とされており、銅層22、32とチタン層25、35との接合界面において、CuとTiを含有する金属間化合物相27,37が形成されていない金属間化合物未形成部28、38の接合界面に沿った長さL
iの最大値が20μm以下とされているので、銅層22、32とチタン層25、35との間でCuとTiとが十分に相互拡散しており、銅層22、32とチタン層25、35との接合信頼性に優れている。
【0047】
また、銅層22、32とチタン層25、35との接合界面において、金属間化合物未形成部28、38の接合界面に沿った長さの合計ΣL
iと、接合界面の全体長さL
0との比ΣL
i/L
0が0.16以下とされているので、金属間化合物未形成部28、38の存在比率が小さく、高い温度までの冷熱サイクルを負荷した場合であっても、金属間化合物未形成部28、38を起点として剥離が生じることを抑制することが可能となる。
【0048】
以上のように、回路層20における銅層22とチタン層25との接合信頼性に優れていることから、回路層20上に発熱密度の高いパワー半導体素子3を搭載しても、銅層22とチタン層25との接合界面において剥離が生じることを抑制することができる。
また、金属層30における銅層32とチタン層35との接合信頼性に優れていることから、回路層20上に搭載されたパワー半導体素子3からの熱を、金属層30を介してヒートシンク41側へと効率的に放熱することができる。
【0049】
また、本実施形態では、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面に比較的変形抵抗の小さいアルミニウム層21,31が形成されているので、冷熱サイクルが負荷された際に生じる熱応力をアルミニウム層21,31の変形によって吸収でき、セラミックス基板11に割れが発生することを抑制できる。
さらに、アルミニウム層21,31のうちセラミックス基板11が形成された面と反対側の面には、比較的変形抵抗の大きい銅層22、32が形成されているので、冷熱サイクルが負荷された際に回路層20及び金属層30の表面の変形が抑制され、回路層20とパワー半導体素子3を接合する第1はんだ層2、及び、金属層30とヒートシンク41を接合する第2はんだ層42における亀裂の発生を抑制でき、接合信頼性を向上できる。
【0050】
また、本実施形態においては、セラミックス基板11と、アルミニウム板51,61と、チタン材55、65と、銅板52、62を一度に接合する構成とされているので、製造工程を簡略化することができ、製造コストを低減可能である。
また、本実施形態においては、アルミニウム板51、61と、チタン材55、65と、銅板52、62との固相拡散接合は、積層方向へ8〜20kgf/cm
2の圧力をかけられた状態で630℃以上643℃以下に保持することで行われる構成とされているので、Al原子とTi原子、及びTi原子とCu原子とを相互拡散させ、チタン材25中にAl原子及びCu原子を固相拡散させて固相拡散接合し、アルミニウム板51,61と、チタン材55、65と、銅板52、62を確実に接合することができる。
【0051】
そして、本実施形態では、加熱温度において積層方向への加圧圧力が上述の範囲内となるようにホットプレス装置を用いているので、チタン層25、35と銅層22、32との間でTi原子とCu原子との相互拡散を十分に促進することができ、上述の金属間化合物未形成部28,38の接合界面に沿った長さL
i、及び、接合界面の全体長さL
0との比ΣL
i/L
0を上述の範囲内とすることができる。
【0052】
(第2の実施形態)
図5に、本発明の第2の実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板140を用いたパワーモジュール101を示す。なお、第1の実施形態と同一の部材には、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
また、本実施形態における接合体は、
図5に示すヒートシンク付き絶縁回路基板140において、アルミニウム部材である金属層130と、銅部材であるヒートシンク141とが、チタン層145を介して接合されたものである。
【0053】
図5に示すパワーモジュール101は、ヒートシンク付き絶縁回路基板140と、このヒートシンク付き絶縁回路基板140の一方の面(
図5において上面)に第1はんだ層2を介して接合されたパワー半導体素子3と、を備えている。また、本実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板140は、絶縁回路基板110と、この絶縁回路基板110の金属層130に接合されたヒートシンク141とを備えている。
【0054】
ヒートシンク141は、絶縁回路基板110側の熱を放散するためのものである。ヒートシンク141は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では無酸素銅で構成されている。
【0055】
絶縁回路基板110は、
図5に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図5において上面)に配設された回路層120と、セラミックス基板11の他方の面(
図5において下面)に配設された金属層130と、を備えている。
【0056】
回路層120は、
図8に示すように、セラミックス基板11の一方の面(
図8において上面)に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板151が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層120は、純度が99%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)の圧延板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。なお、回路層120となるアルミニウム板151の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0057】
金属層130は、
図8に示すように、セラミックス基板11の他方の面(
図8において下面)にアルミニウム板161が接合されることにより形成されている。本実施形態において、金属層130を構成するアルミニウム板161は、純度99.99mass%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板とされている。なお、接合されるアルミニウム板161の厚さは0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0058】
そして、本実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板140においては、
図5に示すように、金属層130とヒートシンク141とがチタン層145を介して接合されている。
なお、金属層130とチタン層145、チタン層145とヒートシンク141は、それぞれ固相拡散接合されている。
【0059】
ここで、金属層130とチタン層145との接合界面には、
図6に示すように、Al−Ti−Si層146が形成されている。
このAl−Ti−Si層146は、金属層130のAl原子と、チタン層145のTi原子とが相互拡散することによって形成されたAl
3Tiに、金属層130のSiが固溶することにより形成されたものである。
Al−Ti−Si層146の厚さは、0.5μm以上10μm以下に設定されており、本実施形態においては3μmとされている。
【0060】
また、チタン層145とヒートシンク141との接合界面には、
図6に示すように、TiとCuを含有する金属間化合物相147が形成されている。
この金属間化合物相147は、ヒートシンク141のCu原子と、チタン層145のTi原子とが相互拡散することによって形成されるものである。
なお、チタン層145とヒートシンク141との接合界面においては、
図2に示すように、上述の金属間化合物相147が形成されていない領域(金属間化合物未形成部148)が存在することがある。
【0061】
ここで、本実施形態では、この金属間化合物未形成部148の接合界面に沿った長さL
iの最大値が20μm以下とされている。
また、金属間化合物未形成部148の接合界面に沿った長さの合計ΣL
iと、観察視野における接合界面の全体長さL
0との比ΣL
i/L
0が0.16以下とされている。
なお、チタン層145とヒートシンク141との接合界面の観察は、第1の実施形態と同様の条件で実施した。
【0062】
次に、本実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板140の製造方法について、
図7及び
図8を参照して説明する。
【0063】
まず、
図8に示すように、セラミックス基板11の一方の面(
図8において上面)に、回路層120となるアルミニウム板151を積層し、セラミックス基板11の他方の面(
図8において下面)に、金属層130となるアルミニウム板161を積層する。また、金属層130となるアルミニウム板161の他方の面側に、チタン材165を介してヒートシンク141を積層する(積層工程S101)。
なお、本実施形態においては、アルミニウム板151、161とセラミックス基板11との間には、Al−Si系のろう材箔58,68を介して積層した。
【0064】
次いで、真空条件下において、積層方向に8kgf/cm
2以上20kgf/cm
2以下の範囲で加圧した状態で加熱して、アルミニウム板151とセラミックス基板11とを接合し、回路層120を形成する。また、アルミニウム板161とセラミックス基板11とを接合し、金属層130を形成する。(回路層及び金属層形成工程S102)。
同時に、アルミニウム板161とチタン材165、チタン材165とヒートシンク141とをそれぞれ固相拡散接合する(ヒートシンク接合工程S103)。
【0065】
ここで、本実施形態では、真空条件は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は630℃以上643℃以下、保持時間は210分以上360分以下の範囲内に設定した。
そして、本実施形態では、接合温度において加圧圧力が上述の範囲内となるように、ホットプレス装置を用いて加圧及び加熱を実施した。
なお、アルミニウム板161、チタン材165、及びヒートシンク141のそれぞれの接合面は、予め当該面の傷が除去されて平滑にされた後に、固相拡散接合されている。
上記のようにして、本実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板140が製造される。
【0066】
次に、絶縁回路基板110の回路層120の一方の面に、はんだ材を介してパワー半導体素子3を積層し、還元炉内においてはんだ接合する(パワー半導体素子接合工程S104)。
上記のようにして、本実施形態であるパワーモジュール101が製造される。
【0067】
以上のような構成とされた本実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板140においては、アルミニウム部材である金属層130とチタン層145、チタン層145と銅部材であるヒートシンク141とがそれぞれ固相拡散接合された構造とされており、ヒートシンク141とチタン層145との接合界面において、CuとTiを含有する金属間化合物相147が形成されていない金属間化合物未形成部148の接合界面に沿った長さL
iの最大値が20μm以下とされているので、ヒートシンク141とチタン層145との間でCuとTiとが十分に相互拡散しており、ヒートシンク141とチタン層145との接合信頼性に優れている。
【0068】
また、ヒートシンク141とチタン層145との接合界面において、金属間化合物未形成部148の接合界面に沿った長さの合計ΣL
iと、接合界面の全体長さL
0との比ΣL
i/L
0が0.16以下とされているので、金属間化合物未形成部148の存在比率が小さく、高い温度までの冷熱サイクルを負荷した場合であっても、金属間化合物未形成部148を起点として剥離が生じることを抑制することが可能となる。
【0069】
以上のように、アルミニウム部材である金属層130と銅部材であるヒートシンク141とがチタン層145を介して接合されており、ヒートシンク141とチタン層145との接合信頼性に優れているので、高温までの冷熱サイクルが負荷された場合であっても、ヒートシンク141とチタン層145との接合界面における剥離の発生を抑制でき、回路層120上に搭載されたパワー半導体素子3からの熱を、金属層130を介してヒートシンク141側へと効率的に放熱することができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0071】
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0072】
また、
図9に示すパワーモジュール201及び絶縁回路基板210のように、回路層220のみが銅又は銅合金からなる銅部材(銅層222)と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材(アルミニウム層221)とが、チタン層(225)を介して接合されてなる銅/チタン/アルミニウム接合体で構成されていてもよい。
あるいは、
図10に示すパワーモジュール301及び絶縁回路基板310のように、金属層330のみが銅又は銅合金からなる銅部材(銅層332)と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材(アルミニウム層331)とが、チタン層(335)を介して接合されてなる銅/チタン/アルミニウム接合体で構成されていてもよい。
【0073】
さらに、本実施形態では、アルミニウム層とチタン層とが固相拡散接合されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、チタン層と銅層とが固相拡散接合され、チタン層と銅層との接合界面にCuとTiを含有する金属間化合物が形成された構造の銅/チタン/アルミニウム接合体であればよい。
【実施例】
【0074】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
AlNからなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.635mmt)の一方の面及び他方の面に、Al−7mass%Si合金からなるろう材箔(厚さ10μm)を介して純度99mass%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)からなるアルミニウム板(37mm×37mm×0.6mmt)、チタン材(37mm×37mm×0.020mmt)、表1に示すCu板(37mm×37mm×0.3mmt)を順に積層し、積層体を得た。
【0075】
そして、真空条件下(5×10
−4Pa)において、ホットプレス装置を用いて、上述の積層体を積層方向に表1に示す圧力で加圧した状態で加熱した。ここで、接合条件は、表1に示す条件とした。このようにして本発明例1〜10及び比較例1〜3の絶縁回路基板を得た。
【0076】
一方、従来例においては、
図11に示すように、ステンレス製の加圧治具400を用いて上述の積層体Sを加圧し、真空加熱炉に装入した。この加圧治具400は、ベース板401と、ベース板401の上面の四隅に垂直に取り付けられたガイドポスト402と、これらガイドポスト402の上端部に固定された固定板403と、これらベース板401と固定板403との間で上下移動自在にガイドポスト402に支持された押圧板404と、固定板403と押圧板404との間に設けられて押圧板404を下方に付勢するばね等の付勢手段405とを備え、ベース板401と押圧板404との間に、上述の積層体Sが配設される。
この構成の加圧治具を用いた場合、加圧治具400のガイドポスト402等の熱膨張により、加熱温度での加圧圧力は表1に示す条件よりも低くなっている。
以上のようにして、従来例の絶縁回路基板を得た。
【0077】
(金属間化合物未形成部)
上述のようにして得られた絶縁回路基板に対して、銅層とチタン層との接合界面の観察を行い、金属間化合物未形成部の接合界面に沿った長さLi、及び、観察視野における接合界面の全体長さL
0との比L
i/L
0を測定した。
本実施例では、絶縁回路基板の断面観察を、EPMA(日本電子株式会社製JXA−8539F)を用いて行い、銅層とチタン層との接合界面を含む領域(縦100μm×横200μm)のCu及びTiの元素MAPを取得し、Cu濃度が5at%以上かつTi濃度が16at%以上70at%以下の領域を金属間化合物相とし、接合界面におけるこれら金属間化合物相の間の領域を金属間化合物未形成部の接合界面に沿った長さL
iとした。このような測定を10視野で実施し、金属間化合物未形成部の接合界面に沿った長さL
iの最大値、及び、観察された金属間化合物未形成部の接合界面に沿った長さの合計ΣL
iと、観察視野における接合界面の全体長さL
0との比ΣL
i/L
0を算出した。評価結果を表2に示す。また、本発明例1におけるEPMA像を
図11に示す。
【0078】
(冷熱サイクル試験)
冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製TSA−72ES)を使用し、絶縁回路基板に対して、気相で、−40℃×5分←→175℃×5分の1000サイクルを実施した。
この後、銅層とチタン層との接合率を以下のようにして評価した。なお、接合率の評価は、冷熱サイクル試験前(初期接合率)と冷熱サイクル試験後(サイクル後接合率)に行った。
【0079】
接合率の評価は、絶縁回路基板に対し、銅層とチタン層との界面の接合率について超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて評価し、以下の式から接合率を算出した。
ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち本実施例では回路層及び金属層の面積(37mm×37mm)とした。
(接合率)={(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)
超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
これらの結果を表2に記載した。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
比較例1においては、接合温度が620℃と低く設定されており、金属間化合物未形成部長さL
iが37μmと本発明の範囲より大きく、上述の長さ比ΣL
i/L
0が0.25と本発明の範囲よりも大きくなった。これにより、冷熱サイクル試験後の接合率が86.5%と低くなった。
【0083】
比較例2においては、接合温度での保持時間が60minと短く設定されており、上述の長さ比ΣL
i/L
0が0.28と本発明の範囲よりも大きくなった。これにより、冷熱サイクル試験後の接合率が85.7%と低くなった。
【0084】
比較例3においては、加圧荷重が5kgf/cm
2と低く設定されており、金属間化合物未形成部長さL
iが31μmと本発明の範囲よりも大きくなった。これにより、冷熱サイクル試験後の接合率が87.4%と低くなった。
【0085】
従来例においては、
図11に示す加圧治具を用いて加圧していることから加圧温度において加圧荷重が低くなっており、金属間化合物未形成部長さL
iが42μmと大きく、上述の長さ比ΣL
i/L
0が0.25と本発明の範囲よりも大きくなった。これにより、冷熱サイクル試験後の接合率が82.0%と低くなった。
【0086】
これに対して、金属間化合物未形成部長さL
iが20μm以下とされ、上述の長さ比ΣL
i/L
0が0.16以下とされた本発明例1−10においては、冷熱サイクル試験後の接合率が全て90.6%以上とされており、冷熱サイクル試験における接合信頼性に優れていた。また、本発明例1−7,10と本発明例8及び本発明例9では、銅板の材質を変更したが、いずれも冷熱サイクル後の接合率は高くなった。
【0087】
以上のことから、本発明例によれば、従来よりも高い温度までの冷熱サイクルを負荷した場合であっても、銅部材とチタン層との接合界面において剥離が生じることを抑制でき、特に信頼性に優れた銅/チタン/アルミニウム接合体を得ることができた。