(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、その耐熱性から様々な分野に使用されている。
その一例としてエポキシ樹脂の硬化剤としての用途がある。その場合、耐熱性、密着性、電気絶縁性に優れ、プリント基板用樹脂組成物、プリント基板および樹脂付き銅箔に使用する層間絶縁材料用樹脂組成物、電子部品の封止材用樹脂組成物、レジストインキ、導電ペースト、塗料、接着剤、複合材料等に用いられている。
近年の技術革新に伴い、エポキシ樹脂組成物の更なる耐熱性、耐湿性、難燃性等の向上が求められている。特に電子部品やその周辺の材料として用いられる場合、使用部位の小型化、薄型化が進行している事から、材料には柔軟性も要求されることが今後予想されつつある。
【0003】
その様な状況の中、例えば耐熱性、耐湿性、難燃性の課題を解決する手段の一つとしては充填剤の使用量の増加が挙げられる。充填剤量を多くすることにより成形品の線膨張係数の低減や吸湿率の低減、難燃性の向上が可能となる。しかしその一方、充填量が多くなることにより配合物の流動性が低下し、成形性が悪くなるという問題が生じる。さらに、充填剤量を多くすることで成形品の弾性率は大きくなる傾向にある。従って、組成物中の樹脂成分においては、流動性の向上、より柔軟性を付与する事の出来る樹脂骨格が要求されている。しかしながら、硬化物の耐熱性、耐湿性及び難燃性と、硬化物の柔軟性及び硬化物を得るための配合物の流動性とは、相反する特性であり、両立する事は困難とされてきた。
【0004】
ノボラック型フェノール樹脂(以下「ノボラック樹脂」ともいう)は、フェノール類とアルデヒド類とを酸性触媒の存在下に付加縮合して製造される。通常、フェノール類の1モルに対するアルデヒド類のモル比が1.0モル以下の範囲で使用され、モル比を調整することで得られる樹脂の分子量を制御している。
ノボラック樹脂の溶融粘度を低くするためには、高分子量成分をできるだけ少なくする必要があり、それにより、硬化物の架橋密度が小さくなる事で、成形品の柔軟性が向上するという効果がある。分子量が比較的低いノボラック樹脂を得るためには、フェノール類1モルに対するアルデヒド類のモル比を小さくしなければならず、その場合、未反応のフェノール類モノマーが多く残存することになる。
ノボラック樹脂中の未反応フェノール類モノマーは減圧下で蒸留することにより低減することができるものの、フェノール類1モルに対するアルデヒド類のモル比の低いノボラック樹脂ほど大量のフェノール類モノマーが蒸留により除去されることになるため、収率の低下が避けられない。一方、ノボラック樹脂中にフェノール類モノマーが残存した場合、成型物の寸法安定性の低下、ボイドの発生などを引き起こすことから、ノボラック樹脂中のフェノールモノマーはできるだけ少ない方が好ましい。
【0005】
特許文献1では、フェノール類とホルムアルデヒド類とを、リン酸触媒の存在下で不均一化反応させることにより、ダイマー成分の含有率を高くすることで、ノボラック樹脂の流動性を得る方法が開示されている。この方法によると、ノボラック樹脂成分の流動性は向上するものの、触媒がリン酸に限定されるため、パラホルムアルデヒドよりも反応性の低いアルデヒド、例えばアセトアルデヒドやブチルアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド、ベンズアルデヒドやサリチルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドと反応させる場合には十分な反応性が得られない。
特許文献2においては、アルキル鎖不飽和結合を含むバイオマスにフェノール類を強酸性下で反応させてバイオマス誘導体を得た後、このバイオマス誘導体と、アルデヒド源とを反応させることで、ノボラック型のフェノール樹脂を得、これにより硬化物に柔軟性、耐熱性を付与する技術が開示されている。この方法によると、アルキル鎖骨格の導入により硬化物の柔軟性は向上するものの、樹脂の製造工程中に強酸を使用するため、反応容器の腐食や反応発熱の制御などの観点で、製造設備に制限が生じてしまう。また、イオン性不純物が残存しやすい事から、用途にも制限が生じてしまうため、実用的でない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。なお、上述したように、ノボラック型フェノール樹脂を、以下「ノボラック樹脂」ともいう。
【0012】
<ノボラック樹脂の製造方法>
本発明のノボラック型フェノール樹脂の製造方法は、フェノール類と、炭素原子数6〜20の飽和脂肪族アルデヒドとを、下記一般式(1)
B−(OR)
3 (1)
(式中、3個のRは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基のいずれかを示す。)で表されるホウ素化合物および25℃におけるpKaが5.0以下の酸の存在下で反応させる方法である。
【0013】
さらに、本発明のノボラック樹脂の製造方法において、前記フェノール類と前記飽和脂肪族アルデヒドに加えて、芳香族アルデヒドを反応させてもよい。
【0014】
また、本発明のノボラック樹脂の製造方法において、前記芳香族アルデヒドは、一般式(2)で表されるものを用いることが好ましい。
【化2】
(式中、Aは単環または多環芳香族炭化水素からa+1個の水素原子を除いた残基を表し、R
1はそれぞれ独立に炭素原子数1〜6のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子のいずれかを表し、aは0〜3の整数である。)
【0015】
次に、ノボラック樹脂の製造方法に用いる各成分、及び反応条件について、以下に詳細に説明する。
【0016】
〔フェノール類〕
ノボラック樹脂の製造に使用される上記フェノール類としては、一般的なフェノール樹脂の製造に用いるものを使用することができる。フェノール類はフェノール骨格を有する化合物をいい、フェノールの他にフェノールの芳香環の水素原子の1つ以上をアルキル基、シクロアルキル基、アリール基で置換した化合物等も含む。具体的には、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、キシレノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、シクロヘキシルフェノール、トリメチルフェノール、ビスフェノールA、カテコール、レゾシノール、ハイドロキノン、ナフトール、ピロガロールなどを、単独又は2種以上混合して使用することができる。これらのうち、汎用性が高く、原料の入手が容易である事から、フェノールまたはクレゾールを使用する事が好ましい。
【0017】
〔脂肪族アルデヒド〕
ノボラック樹脂の製造に使用される飽和脂肪族アルデヒドは、炭素原子数6〜20の飽和脂肪族アルデヒドであり、好ましくは炭素原子数6〜12の飽和脂肪族アルデヒドであり、さらに好ましくは炭素原子数6〜10の飽和脂肪族アルデヒドである。
ここで、炭素原子数6〜10の飽和脂肪族アルデヒドを、低級アルデヒドといい、炭素原子数が11〜20の飽和脂肪族アルデヒドを、高級アルデヒドといい、いずれも直鎖に分岐を有しているものも含まれる。
【0018】
ノボラック樹脂の製造に使用される前記飽和脂肪族アルデヒドとしては、具体的に、バレルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デシルアルデヒド、ウンデシルアルデヒド、ドデシルアルデヒド、トリデシルアルデヒド、テトラデシルアルデヒド、ペンタデシルアルデヒド、グリオキサール、グリオキシル酸、グルタルアルデヒド、2−エチルヘキサナール、2−メチルバレルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、2−メチルブチルアルデヒド、3−メチルブチルアルデヒド、3−(メチルチオ)−プロピオンアルデヒドなどを指し、単独又は2種以上混合して使用することができる。これらのうち、原料入手性や反応容易性、及び硬化性の特性付与の観点から、ヘキシルアルデヒド、2−メチルバレルアルデヒド、オクチルアルデヒドを用いるのが好ましい。
【0019】
〔芳香族アルデヒド〕
ノボラック樹脂の製造に使用してもよい前記芳香族アルデヒドは、芳香族基とアルデヒド基を含有する化合物である。
【0020】
具体的には、一般式(2)で表される芳香族アルデヒドが好ましい。
【化3】
(式中、Aは単環または多環芳香族炭化水素からa+1個の水素原子を除いた残基を表し、a個のR
1はそれぞれ独立に炭素原子数1〜6のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子のいずれかを表し、aは0〜3の整数である。) R
1の炭素原子数1〜6のアルキル基は、好ましくは炭素原子数1〜4のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1〜3のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基などが挙げられる。炭素原子数1〜6のアルコキシ基は、好ましくは炭素原子数1〜4のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素原子数1〜3のアルコキシ基である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子などが挙げられ、好ましくはフッ素原子である。
Aは、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香族炭化水素からa+1個の水素原子を除いた残基が挙げられる。
【0021】
前記芳香族アルデヒドとしては、具体的に、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、ジヒドロキシベンズアルデヒド、メチルベンズアルデヒド、ジメチルベンズアルデヒド、トリメチルベンズアルデヒド、エチルベンズアルデヒド、プロピルベンズアルデヒド、ブチルベンズアルデヒド、ジブチルベンズアルデヒド、メトキシベンズアルデヒド、ジメトキシベンズアルデヒド、クミンアルデヒド、ペンタメチルベンズアルデヒド、ヒドロキシメチルベンズアルデヒド、フェノキシベンズアルデヒド、フェニルベンズアルデヒド、フタルアルデヒド、クロルベンズアルデヒド、ジクロルベンズアルデヒド、トリクロルベンズアルデヒド、テトラクロルベンズアルデヒド、ブロモベンズアルデヒド、ジブロモベンズアルデヒド、トリブロモベンズアルデヒド、テトラブロモベンズアルデヒド、フルオロベンズアルデヒド、ジフルオロベンズアルデヒド、トリフルオロベンズアルデヒド、テトラフルオロベンズアルデヒド、ヨードベンズアルデヒド、ジヨードベンズアルデヒド、トリヨードベンズアルデヒド、テトラヨードベンズアルデヒド、ナフトアルデヒド、ナフタレンジアルデヒド、ヒドロキシナフチルアルデヒド、アントラセンカルボキシアルデヒド、ピレンカルボキシアルデヒド、シアノベンズアルデヒド、ビフェニルジカルボキシアルデヒド、などを単独もしくは2種類以上混合して使用する事が出来る。これらのうち、原料入手性や反応容易性の観点から、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドを用いるのが好ましい。
【0022】
〔フェノール類に対する総アルデヒド類のモル比〕
ここで、「総アルデヒド類」とは、2種以上の飽和脂肪族アルデヒドを用いる場合、又は、1種以上の飽和脂肪族アルデヒドと1種以上の芳香族アルデヒドとを組み合わせて用いる場合の、用いられるすべてのアルデヒドをいう。
【0023】
総アルデヒド類の合計モル量は、前記フェノール類の合計量1モルに対して、0.3〜1.0モルが好ましく、より好ましくは0.4〜0.8モル、さらに好ましくは0.5〜0.7モルの割合で用いるのが好ましい。
総アルデヒド類の合計モル量が、前記フェノール類の合計量1モルに対して、上記範囲内であることにより、残存するフェノール類を適度な量に保つことかでき、ノボラック樹脂の収率の低下が抑制され、また、ノボラック樹脂を用いた成型物の寸法安定性の低下や、ボイドの発生などが抑制される。
1種以上の飽和脂肪族アルデヒドと1種以上の芳香族アルデヒドとを組み合わせて用いる場合、両者のモル比は好ましくは8:2〜3:7、より好ましくは7:3〜4:6、さらに好ましくは6:4〜4:6である。上記範囲内とすることにより、飽和脂肪族アルデヒドの使用による流動性、柔軟性及び耐湿性と、芳香族アルデヒドの使用による耐熱性の付与効果を十分に発揮する事が可能となる。
【0024】
〔ホウ素化合物〕
ノボラック樹脂の製造に使用されホウ素化合物は、下記式(1):
B−(OR)
3 (1)
(式中、3個のRは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基のいずれかを示す。)で表されるホウ素化合物を使用する。
Rが、炭素原子数1〜10のアルキル基である場合、炭素原子数1〜10のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソへキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。
式(1)で表されるホウ素化合物の具体例としては、ホウ酸、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリブチルなどが挙げられ、単独若しくは2種以上混合して使用することができ、ホウ酸がより好ましい。
【0025】
〔酸〕
ノボラック樹脂の製造に使用される酸は、前記pKaが25℃において5.0以下の酸であり、このような酸としては、一般的なノボラック樹脂の製造に使用されるものであれば良く、例えば塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、パラトルエンスルホン酸、シュウ酸などが挙げられ、単独若しくは2種類以上混合して使用することができる。pKaが25℃において5.0以下の酸を触媒として用いることで、後述する特性を有するノボラック樹脂を得ることができる。反応設備への腐食およびノボラック樹脂の収率などを考慮すると、pKaが0.0〜4.0である酸が好ましく、例えばシュウ酸(pK
a1=1.27、pK
a2=4.27)、リン酸(pK
a1=2.12)、サリチル酸(pKa=2.97)、酒石酸(pK
a1=3.2)などが挙げられ、シュウ酸がより好ましい。なお、酸が多塩基酸である場合には、pK
a1が5.0以下のものであれば適用できる。
また、本発明のノボラック樹脂の製造方法では、理由は定かではないが、上記ホウ素化合物と酸とを併用することにより、反応を進めるのに十分な触媒作用が得られるものと推測される。
【0026】
前記ホウ素化合物の使用量は、フェノール類100質量部に対してその合計量が0.05〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部、更に好ましくは0.1〜2.5質量部の割合で用いるのが好ましい。
前記酸の使用量は、フェノール類100質量部に対してその合計量が0.05〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部、更に好ましくは0.1〜2.5質量部の割合で用いるのが好ましい。
さらに、前記ホウ素化合物と前記酸の総使用量は、フェノール類100質量部に対してその合計量が0.1〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部、更に好ましくは0.2〜5質量部の割合で用いるのが好ましい。前記ホウ素化合物と前記酸の総使用量が0.1質量部以上であって、20質量部以下であることにより、触媒として十分な効果が得られるとともに、合成時に分子量が増大する現象(分解再配列)を抑制して、後述するノボラック樹脂を得ることができる。
【0027】
(仕込み方法)
フェノール類とアルデヒド類とを反応させる方法には、特に制限はなく、例えばフェノール類と、総アルデヒド類、酸触媒を一括で仕込み反応させる方法、またはフェノール類と酸触媒を仕込み、所定の反応温度にてアルデヒド類を添加する方法が挙げられる。後者の場合、添加の方法は、1種類ずつを順番に添加しても、複数のアルデヒドを予め混合してから添加しても良い。
【0028】
(製造時の反応条件)
このとき、反応温度は30〜130℃の範囲で行うと良く、好ましくは50〜100℃であり、より好ましくは60〜80℃である。
反応温度が30℃以上であって、130℃以下であることにより、適正な反応速度で反応し、未反応のフェノール類が残存しにくくなり、高分子量成分のノボラック樹脂の生成が抑制される。
反応時間は特に制限はなく、アルデヒド類および酸触媒の量、反応温度により調整すればよい。例えば、6〜10時間反応させることにより、未反応フェノール類が残存しにくくなり、高分子量成分のノボラック樹脂の生成が抑制される。
【0029】
〔有機溶剤〕
製造時の反応において、有機溶剤を使用することも可能である。
このような有機溶媒としては、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル、ブチレングリコールモノエチルエーテル、ブチレングリコールモノプロピルエーテル等のグリコールエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、1,4−ジオキサン等のエーテル類等が単独で、若しくは二種以上を併用して使用できる。
前記有機溶媒は、フェノール類100質量部に対して、0〜1,000質量部、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは20〜50質量部程度となるように使用することができる。
反応後は蒸留により縮合水を除去したり、また必要に応じて水洗して残存触媒を除去してもよい。
更に、減圧蒸留或いは水蒸気蒸留を行って未反応のフェノール類や未反応アルデヒド類を除去してもよい。
【0030】
<ノボラック樹脂>
本発明のノボラック樹脂は、上述した製造方法により得られる。
前記ノボラック樹脂は、例えば、以下に示す一般式(3)で表される。
【化4】
(式中R
2、R
3はそれぞれ独立に炭素原子数1〜12のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基のいずれかを表し、R
4は炭素原子数5〜19のアルキル基(側鎖を有する物を含む)を表す。また、b〜cはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、nは1〜10の整数である。)
【0031】
さらに、炭素原子数6〜20の脂肪族アルデヒドの一部を芳香族アルデヒドに置きかえた、本発明のノボラック樹脂は、例えば、以下に示す一般式(4)で表される。
【化5】
(式中、Aは単環または多環芳香族炭化水素からa+1個の水素原子を除いた残基を表し、R
1はそれぞれ独立に炭素原子数1〜6のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子のいずれかを表し、aは0〜3の整数である。
また、R
2、R
3、R
5はそれぞれ独立に炭素原子数1〜12のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基のいずれかを表し、R
4は炭素原子数5〜19のアルキル基(側鎖を有する物を含む)を表し、a〜dはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、また、nおよびmはそれぞれ独立に1〜10の整数である。但し、nとmの単位は交互に連結していてもランダムに連結していても良い。)
【0032】
<熱硬化性樹脂組成物>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ノボラック樹脂およびエポキシ樹脂を含有する。
〔ノボラック樹脂〕
ノボラック樹脂は、上述したノボラック樹脂の製造方法により得られたノボラック樹脂、又は、上記記載の構造を有するノボラック樹脂であることが好ましい。
【0033】
〔エポキシ樹脂〕
本発明で用いられるエポキシ樹脂としては、特に限定するものではなく、公知のエポキシ樹脂を使用できる。エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、カテコール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂などの二価のフェノール類から誘導されるエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール変性型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂などの三価以上のフェノール類から誘導されるエポキシ樹脂、有機リン化合物で変性されたエポキシ樹脂などが挙げられる。またこれらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。好ましくは、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂である。
【0034】
〔エポキシ樹脂とノボラック樹脂との混合割合〕
エポキシ樹脂とノボラック樹脂の混合割合は、エポキシ樹脂のエポキシ当量1.0に対し、ノボラック樹脂の水酸基当量が好ましくは0.6〜1.2の範囲、より好ましくは0.7〜1.1の範囲、さらにより好ましくは1.0である。
エポキシ樹脂とノボラック樹脂の混合割合を上記範囲内にすることによって、エポキシ樹脂のエポキシ基とノボラック樹脂の水酸基が余ることなく反応し、それにより硬化物に対して樹脂の性能が十分に発揮されるという利点を有する。
【0035】
<硬化促進剤>
本発明により得られる熱硬化性樹脂組成物には、硬化反応を促進する目的で、硬化促進剤を適宜使用することもできる。
そのような硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール、有機リン系化合物、第2、3級アミン、オクチル酸スズなどの有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩などが挙げられ、これらは単独で、もしくは二種以上を併用して使用することができる。
前記のうち、イミダゾール系化合物としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、4、5−ジフェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2−ヘプタデシルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾール、2、4−ジメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾリン、2、4−ジメチルイミダゾリン、2−フェニル−4−メチルイミダゾリンなどが挙げられる。
これらイミダゾール系化合物は、マスク化剤によりマスクされていてもよい。
マスク化剤としては、アクリロニトリル、フェニレンジイソシアネート、トルイジンイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、メチレンビスフェニルイソシアネート、メラミンアクリレートなどが挙げられる。
有機リン系化合物としては、エチルホスフィン、プロピルホスフィン、ブチルホスフィン、フェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン/トリフェニルボラン錯体、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートなどが挙げられる。
第2級アミン系化合物としては、モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジベンジルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N−アルキルアリールアミン、ピペラジン、ジアリルアミン、チアゾリン、チオモルホリンなどが挙げられる。
第3級アミン系化合物としては、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジアミノメチル)フェノールなどが挙げられる。
【0036】
〔その他の配合剤〕
また本発明の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、充填剤、改質剤として使用される熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂、顔料、シランカップリング剤、離型剤などの種々の配合剤を目的に応じて添加することができる。
このうち、充填剤としては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化ホウ素、ジルコニア、フォステライト、ステアタイト、スピネル、チタニア、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの無機充填剤が挙げられる。溶融シリカは破砕状、球状のいずれでも使用可能であるが、熱可塑性樹脂組成物に対する溶融シリカの含有量を高め、且つ成形材料の溶融粘度の上昇を抑制するためには、球状のものを主に用いる方が好ましい。更に、熱可塑性樹脂組成物に対する球状シリカの含有率を高めるためには、球状シリカの粒度分布を適当に調整することが好ましい。充填剤の含有率は適用用途や所望特性によって、望ましい範囲が異なるが、例えば半導体封止材用途に使用する場合は、線膨張係数や難燃性を鑑みれば高い方が好ましく、本発明の熱硬化性樹脂組成物全体量に対して65質量%以上が好ましく、特に好ましくは80〜90質量%程度である。また導電ペーストや導電フィルムなどの用途に使用する場合は、銀粉や銅粉などの導電性充填剤を用いることができる。
【0037】
改質剤として使用される熱硬化性および熱可塑性樹脂としては公知の種々のものが全て使用できるが、例えばフェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などを、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
シランカップリング剤としては、アミノシラン系化合物、ビニルシラン系化合物、スチレン系シラン化合物、メタクリルシラン系化合物などのシランカップリング剤を挙げることができる。
また、離型剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、およびカルナバワックスなどを挙げることができる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、フェノール100g(1.06モル)、オクチルアルデヒド94.8g(0.74モル)、ホウ酸2g、シュウ酸(pKa=1.04)2gを仕込み、120℃で6時間反応させた。次いで純水100gで4回洗浄を行い、触媒および未反応のフェノールを除去した。次いで150℃50mmHgの減圧下で留出分を除去し、ノボラック樹脂A;132gを得た。
図1に樹脂Aのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)チャートを示す。なお、横軸は溶出時間(分)を示す。
【0039】
(実施例2
〜4及び7〜9、
参考例2及び3、比較例1〜8)
表1、表2に記載の化合物と反応条件を用いる他は、実施例1と同様にして反応を行い、ノボラック樹脂B〜Nを得た。なお、比較例4〜6の組成においては、反応が進行せず、樹脂を得ることが出来なかった。
図2に樹脂1、
図3に樹脂JのGPCチャートをそれぞれ示す。
【0040】
実施例1
〜4及び7〜9、
参考例2及び3、および比較例1〜3、7〜8の組成表に記載のノボラック樹脂の物性は、以下に示す分析方法で測定した。
(1)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC) カラム構成は昭和電工株式会社製の有機溶媒系SEC(GPC)用カラムの「Shodex」(登録商標)カラムの商品名「KF−804」を2本用い、検出器としては示差屈折計「Shodex」(登録商標)屈折計の商品名「RI−71」を用いて測定した。溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、流量1ml/分で測定した。
(2)溶融粘度(mPa・S)
リサーチ・イクウィップ社製ICI粘度計を用い、150℃で測定した。
【0041】
図1、
図2および
図3を比較すると、樹脂A、Iは、反応モル比がある程度高い場合でも分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が小さくなる傾向が確認できる。すなわち、本発明により得られるノボラック樹脂は高分子量成分が生成しづらい特長を有し、それにより表1、2に示すように、樹脂の溶融粘度が低く、より流動性が高い傾向が確認できる。
通常、ノボラック樹脂においては、アルデヒド/フェノール類反応モル比あるいは反応温度が高いほど高分子量成分が生成し易くなり、樹脂の流動性は低下する傾向にある。本発明により得られた樹脂は、反応モル比が高い樹脂においても溶融粘度が低く、流動性が良好な結果が確認できる。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
(実施例10
〜13、16〜18
、参考例4及び5、比較例9〜13)
10質量部の表3、4に記載のエポキシ樹脂に対し、エポキシ当量/水酸基当量=1/1となる量のノボラック樹脂A〜Nをそれぞれ110℃で溶融混合して得た樹脂成分に、0.1質量部のトリフェニルホスフィン(硬化促進剤)および、組成物中80質量%含有率となる量の溶融シリカ(無機充填剤)を110℃に加熱した2本ロールミルで5分間混合を行い、熱硬化性樹脂組成物を調製した。それぞれの配合について表3、4に示した。
【0045】
得られた熱硬化性樹脂組成物を金型にて150℃で30分、圧力30kg/cm
2で加圧成形した。その後、180℃で5時間後硬化して、長さ95mm、幅10mm、厚さ4mmのテストピースを作製した。
得られたテストピースについてガラス転移温度、吸水率、および25℃条件と260℃条件における曲げ弾性率を次の方法により評価した。
(3)ガラス転移温度
セイコーインスツル株式会社(SII)製の商品名「SSC/5200」を使用してTMA法にてガラス転移温度を測定した。昇温速度は10℃/分、サンプルサイズ幅4mm×長さ10mm×厚み8mmで行った。
(4)吸水率
株式会社平山製作所製の不飽和型高加速寿命試験装置「PC−422R8」(商品名)を使用して、温度121℃、湿度100%で20時間保持した後の重量増加率を測定した。
(5)曲げ弾性率
テンシロン万能試験機(株式会社東洋ボールドウィン製の商品名「テンシロンUTM−5T」を用いてJIS K−6911に準拠した方法で測定した。なお、表2に示す弾性率は、常温で25℃、熱時で260℃における弾性率であることを示す。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
表3、4の配合において、エポキシ樹脂、トリフェニルホスフィン、溶融シリカは次のものを用いた。
エポキシ樹脂:三菱化学株式会社製、(トリフェニルメタン型エポキシ樹脂)、商品名「1032H60」
トリフェニルホスフィン:和光純薬工業株式会社製
溶融シリカ:株式会社龍森製、商品名「MSR−2212」
【0049】
表3、4より本発明の樹脂を用いて得た熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、比較例に対して吸水率を低減させ、かつ、260℃における弾性率が低い結果が得られた。すなわち、従来の材料であるフェノール類/ホルムアルデヒドノボラック樹脂(比較例9,10)を使用した場合よりも低吸水性・柔軟性を示していると言える。
以上、本発明により、流動性に優れたノボラック樹脂を提供する事により、それを用いることで耐湿性・柔軟性に優れた硬化物を得る事が可能となった。
【0050】
(実施例19〜21、比較例14、参考例1)
表5に記載の化合物と反応条件を用いる他は、実施例1と同様にして反応を行い、ノボラック樹脂O、Q〜Tを得た。表5に結果を示す。なお、比較例14で使用している吉草酸のpKaは5.17である。
【0051】
【表5】
【0052】
(実施例22〜24)
実施例10と同様にして、得られたノボラック樹脂O、Q、Sを用いて表6に示す組成で熱硬化性樹脂を調製し、テストピースを作製して、評価を行った。得られたテストピースのガラス転移温度、吸水率、および25℃条件と260℃条件における曲げ弾性率の値を表6に示した。
【0053】
【表6】