(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6729894
(24)【登録日】2020年7月6日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】魚類の受精卵検査方法および受精卵検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20200716BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-210039(P2016-210039)
(22)【出願日】2016年10月26日
(65)【公開番号】特開2018-72094(P2018-72094A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(73)【特許権者】
【識別番号】392035189
【氏名又は名称】橋本電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 利男
(72)【発明者】
【氏名】橋本 正敏
【審査官】
吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−021894(JP,A)
【文献】
特開昭57−086230(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0138535(US,A1)
【文献】
特開昭60−220849(JP,A)
【文献】
特表2004−516475(JP,A)
【文献】
特表2003−533674(JP,A)
【文献】
米国特許第05565187(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類の受精卵を光学的に検査する受精卵検査方法であって、
前記受精卵から得た蛍光スペクトルのうち、励起光の帯域もしくはそれに隣接する狭帯域の分光スペクトルからなる検査用分光スペクトルに基づいて前記受精卵の良否を判定することを特徴とする魚類受精卵検査方法。
【請求項2】
前記受精卵から得た蛍光スペクトルのうち励起光の帯域から30nm未満離れた帯域の分光スペクトルを含む前記検査用分光スペクトルの強度が所定しきい値を超えるかどうか判別し、超える場合に前記受精卵は不良であると決定する請求項1記載の魚類受精卵の検査方法。
【請求項3】
前記受精卵から得た蛍光スペクトルのうち励起光の帯域の分光スペクトルを含む前記検査用分光スペクトルの強度が所定しきい値を超えるかどうか判別し、超える場合に前記受精卵は不良であると決定する請求項1記載の魚類受精卵の検査方法。
【請求項4】
前記検査用分光スペクトルは、受精時点から5-8時間経過した観測時点にて検出される請求項1記載の魚類受精卵検査方法。
【請求項5】
前記検査用分光スペクトルは、受精時点から5.5-7.5時間経過した観測時点にて検出される請求項4記載の魚類受精卵検査方法。
【請求項6】
マルチウエルプレートの底板上面に形成された各ウエルに魚類の受精卵を水とともに収容し、
前記ウエルの中心を励起光の光軸に一致させた後、前記ウエル内の受精卵に励起光を照射することにより、前記受精卵から得られた蛍光スペクトルの所定の分光スペクトルを検出し、
前記分光スペクトルに基づいて前記受精卵の良否を判別した後、前記マルチウエルプレートを水平移動することにより、隣接する前記ウエルの受精卵に対して同じ検出動作を順次繰り返し、
得られた前記各ウエル毎の判定結果と前記各ウエルの二次元アドレスとのペアを順次記憶する請求項1から4のいずれか一項に記載の魚類受精卵検査方法。
【請求項7】
魚類の受精卵を水とともに収容するマルチウエルプレートの底板上面に形成された各ウエルと、
前記ウエルの中心を励起光の光軸に一致させて入射する光源と、前記ウエル内の受精卵に励起光を照射することにより、前記受精卵から得られた反射光を受光する受光器と、
前記光源の波長を変えて入射し前記受光器の蛍光スペクトルの波長と強度を測定する測定器と、測定したスペクトルを記録するメモリと、
前記メモリに記録した所定の分光スペクトルに基づいて前記受精卵の良否を判別する、判別器を有する事を特徴とする魚類受精卵検査装置
【請求項8】
前記マルチウエルプレートと光源および受光器の位置を相対的に水平移動する手段と、隣接する前記ウエルの受精卵に対して同じ検出動作を順次繰り返し測定して得られた前記各ウエル毎の判定結果と前記各ウエルの二次元アドレスとのペアを順次記憶する第二のメモリとを備える請求項7記載の魚類受精卵検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼブラフィッシュ等の魚類の受精卵の良否判別を高精度かつ短時間に実施可能な検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼブラフィッシュは、ほぼ毎日産卵し、かつ、成魚となるまでの生育日数が非常に短いという利点をもつ。さらに、ゼブラフィッシュの体格が小さいため取り扱いが簡単であり、かつ、比較的小型の装置で容易に多数のデータが得られるという利点もある。このため、ゼブラフィッシュは遺伝子研究、病理研究及び薬剤研究などの分野における実験素材として注目されている。たとえば、ゼブラフィッシュの受精卵に遺伝子材料を注入することにより、成魚からこの遺伝子材料由来の目的物質を回収するゼブラフィッシュ利用方法が提案されている。また、ゼブラフィッシュの受精卵に薬剤等を導入することにより、その生物学的影響を評価するゼブラフィッシュ利用方法も提案されている。
【0003】
従来より、生体組織の非侵襲的観察法として、可視光、赤外光、紫外光などを用いる光学的手法が使用されている。たとえば、特許文献1は、可視光スペクトル又は赤外光スペクトルを用いて受精卵の良否を判定することを提案している。特許文献2は生体組織からの蛍光スペクトルに基づいてその特性を検出することを提案している。特許文献3は、低蛍光性材料であるシクロオレフィンポリマーを用いて製作されたマルチウエルプレートに分散配置された多数の細胞を蛍光測定することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004-516475号公報
【特許文献2】特表2004ー518124号公報
【特許文献3】特表2002ー515125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現状のゼブラフィッシュ技術では、受精卵から正常に孵化するゼブラフィッシュの比率がかなり低いという問題があった。これは、得られたゼブラフィッシュの受精卵のうち、かなりの数が死卵、衰弱卵などの不良卵となるためである。
【0006】
これらの死卵や衰弱卵は早急に排除しないと水系を汚染させる可能性が生じる。その結果、この汚染水を介して他の正常卵が悪影響を受ける可能性が生じる。多数のゼブラフィッシュの受精卵が収容されている水系が病原菌、ウイルス、その他の物質で一度汚染されてしまうと、正常卵の表面などにそれらが付着するため、重大な結果を招いてしまう。
【0007】
また、孵化前の受精卵に薬剤などを注射する場合、高価なテスト材料を死卵又は衰弱卵などの不良卵や異常卵に消費するのは経済的でない。また、不良卵又は異常卵から孵化したゼブラフィッシュの異常が薬剤注射によるものか、元々のものかを判別することもできなかった。さらに、細菌やウイルスなどに感染した不良卵への注射は、注射針を通じた他の正常卵の感染を引き起こす可能性も考えられる。
【0008】
結局、ゼブラフィッシュの産業利用においては、多数のゼブラフィッシュの受精卵群から正常な受精卵だけを短時間に選別して利用する必要があることがわかった。しかし、ゼブラフィッシュ受精卵の細胞分裂速度が速く、かつ、検査すべき受精卵数が非常に多いことを考えると、受精卵一個あたりに許される検査時間は極めて短時間とする必要がある。
【0009】
しかしながら、たとえば直径1mm程度と非常に小さいゼブラフィッシュの受精卵を高精度かつ短時間で選別する方法はまだ報告されていない。これらの観点から、発明者らは、ゼブラフィッシュの産業利用を実現するためには、高精度かつ高速の受精卵検査方法を確立することが、ゼブラフィッシュの産業利用において必須であることに気がついた。
【0010】
蛍光スペクトル分析技術はそれが非侵襲的検査方法であるためゼブラフィッシュの受精卵検査に有望である。しかし、公知の蛍光スペクトル分析技術を用いて高速かつ高精度のゼブラフィッシュの受精卵検査を実現できるか否かは不明であった。さらにもし可能であるとしても、高精度の判定を実現する具体的な手法は不明であった。特に、非常に多数のゼブラフィッシュの受精卵を短時間に完了する具体的な方法は不明であった。言い換えれば、要求される検査精度および検査速度を実現可能な蛍光スペクトル分析技術はまったく知られていなかった。
【0011】
本発明はゼブラフィッシュの受精卵に要求される上記課題に鑑みなされたものであり、ゼブラフィッシュ受精卵の良不良を高精度かつ高速に判別可能な光学的検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ゼブラフィッシュの受精卵から得た蛍光スペクトルのうち励起光帯域もしくはそれに隣接する非常に狭帯域の分光スペクトルが、検査用分光スペクトルとして採用される。本発明者らの観測によれば、正常卵のこの検査用分光スペクトルは、死卵又は衰弱卵(以下、不良卵と呼ばれる)のそれに比べて相対的に狭帯域又は低強度であることがわかった。
【0013】
一例において、励起光スペクトルに隣接する狭帯域の検査用分光スペクトルは、正常卵において不良卵と比べて格段に低強度であった。他例において、ほぼ励起光スペクトルの帯域と重なる検査用分光スペクトルは、正常卵において不良卵と比べて格段に低強度であった。さらに、励起光の波長に応じて、励起光スペクトルの短波長側に隣接する狭帯域の検査用分光スペクトルが最適な場合、励起光スペクトルの長波長側に隣接する狭帯域の検査用分光スペクトルが最適な場合、励起光スペクトルと重なる狭帯域の検査用分光スペクトルが最適な場合があることがわかった。
【0014】
もう一つの例において、正常卵のピーク波長スペクトルに隣接する検査用分光スペクトルの判別において、ピーク波長スペクトルと検査用分光スペクトルとの合計ピーク波長スペクトルの帯域幅の広狭により、受精卵の良否を判定することもできる。すなわち、この合計ピーク波長スペクトルの帯域幅が所定しきい値を超えれば、不良卵と判定される。
【0015】
もう一つの例において、受精卵の蛍光スペクトルのうち励起光の帯域から30nm未満離れた帯域の分光スペクトルの強度が所定しきい値を超えるかどうか判別し、超える場合にこの受精卵は不良であると決定することができる。
【0016】
もう一つの例において、受精卵の蛍光スペクトルのうち励起光の帯域とほぼ重なる検査用分光スペクトルの強度が所定しきい値を超えるかどうか判別し、超える場合にこの受精卵は不良であると決定することができる。
【0017】
さらに、本発明者らは、上記した正常卵と不良卵との間の検査用分光スペクトルの強度差が、受精時点から5-8時間、さらに好適には5.5-7.5時間経過した観測時点にて十分高精度となることを発見した。したがって、この観測時点にて選別を行うことにより、孵化により受精卵の卵殻が破壊される前に不良卵を排除することが可能となる。
【0018】
好適態様によれば、ゼブラフィッシュの多数の受精卵を高速検査するために、受精卵収容のための多数のウエルが底板に形成されたマルチウエルプレートを水平駆動される。検査にて不良と判定された受精卵を収容するウエルの二次元アドレスが記憶される。検査完了後、不良アドレスの受精卵が順番に排除される。これにより、多数の受精卵の検査を短時間に完了することができる。上記ウエルの底板に形成されたマルチウエルプレートは、受精卵が安定に納まり、動かない状態が望ましく、できるだけ受精卵の直径に近い円筒状、または多角形筒状の底部部分を持つことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例のゼブラフィッシュの受精卵検査方法を実施する検査装置を示すブロック図である。
【
図2】正常卵および異常卵の蛍光スペクトルを示す図である。
【
図3】正常卵および異常卵の蛍光スペクトルを示す図である。
【
図4】正常卵および異常卵の蛍光スペクトルを示す図である。
【
図5】正常卵および異常卵の蛍光スペクトルを示す図である。
【
図6】正常卵および異常卵の蛍光スペクトルを示す図である。
【
図7】正常卵および異常卵の蛍光スペクトルを示す図である。
【
図8】正常卵および異常卵の蛍光スペクトルを示す図である。
【
図9】正常卵および異常卵の蛍光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、ゼブラフィッシュ受精卵の検査装置を示す模式ブロック図である。二次元移動可能なXYテーブル1上に魚卵トレイ2が載置されている。ただし、
図1において、魚卵トレイ2は模式的に図示されている。
【0021】
魚卵トレイ2の斜め上方に励起光光源3が設けられている。魚卵トレイ2の直上に蛍光検出器4が設けられている。蛍光検出器4からでた信号電圧は、受精卵判定用の判定部5に入力される。
【0022】
XYテーブル1は、2つのステッピングモータ(図示せず)により水平なX方向およびそれと直角かつ水平なY方向へ移動可能となっている。魚卵トレイ2は、上面が開口された凹部により構成される多数のウエル20をもつ。各ウエル20は行列状に配置されている。各ウエル20はそれぞれ、ゼブラフィッシュの1つの受精卵10を水とともに収容している。魚卵トレイ2は低蛍光性の誘起樹脂材料を用いて形成されているが、それに限定されるものではない。
【0023】
励起光光源3は所定波長のレーザーにより構成されている。励起光光源3は、水平なX方向に対して約45度の方向へレーザー光30を放射する。励起光光源3は、検査位置のウエル20である検査ウエル20Aのほぼ全体にレーザー光を平行に放射するためのレンズ系を内蔵している。励起光光源3としてキセノンランプから回折格子で得られた所定波長の分光を採用してもよい。
【0024】
蛍光検出器4は、検査ウエル20Aから放射される蛍光スペクトルの所定方向成分40を検出して信号電圧に変換する。所定方向成分40と一致する蛍光検出器4の光軸は、水平なY方向に対して約45度の方向へ延在している。したがって、励起光光源3の光軸と蛍光検出器4の光軸との間の角度は90度とされている。これにより、励起光光源3から放射された励起光が蛍光検出器4へ入射する量が低減される。蛍光検出器4は、検査ウエル20Aを焦点とするレンズ系と、このレンズ系から出たほほ平行な蛍光ビームを分光するプリズム又は回折格子と、このプリズム又は回折格子から出た所定帯域の分光スペクトルを光電変換する光電センサとを少なくとも有している。ビーム幅を絞るスリットなどの光学要素の追加も可能である。
【0025】
言い換えると、この光電センサは、プリズム又は回折格子から出た蛍光分光スペクトルのうち、特定波長の分光スペクトルのみが入射する位置に配置されている。これにより、蛍光検出器4は、予め定められた所定の狭帯域の蛍光分光スペクトルだけを検出することができる。
【0026】
光電センサから出力される信号電圧はA/Dコンバータによりデジタル信号に変換されてマイクロコンピュータ5に入力される。マイクロコンピュータ5は、入力されるデジタル信号に基づいて検査ウエル20A内のゼブラフィッシュの受精卵の良否を判別するとともに、励起光光源3の間欠発光およびXYテーブル1の間欠移動を制御する。これにより、各ウエル20内のゼブラフィッシュの受精卵の良否がシーケンシャルに判定される。
図1は検査装置の基本構成を示すものであり、公知技術を用いて種々の変形が可能であることはもちろんである。
【0027】
次に、ゼブラフィッシュの正常な受精卵および異常な受精卵から得られた蛍光スペクトルの観測例が説明される。点線は正常卵の蛍光スペクトルを示し、実線は死卵である異常卵の蛍光スペクトルを示す。なお、正常卵と同じ時間帯に孵化が完了することができない衰弱卵からの蛍光スペクトルは、検査用分光スペクトルの帯域において死卵と正常卵との中間値をもつことがわかった。
【0028】
第1例
図2は、受精後6時間経過した受精卵に波長が310-330nmである励起光を照射して得られた蛍光スペクトルを示す。異常卵と正常卵との間の蛍光スペクトルの強度差が波長280-300nmの帯域に存在することがわかった。たとえば、波長280nmにおいて、死卵の蛍光相対強度値は10を超えているが、正常卵のそれは2未満であった。したがって、たとえば、分別しきい値を蛍光相対強度値6をとすれば、衰弱卵を含む死卵を高精度に判別することができる。
【0029】
第2例
図3は、受精後7時間経過した受精卵に波長が310-330nmである励起光を照射して得られた蛍光スペクトルを示す。結果は第1例とほぼ同じであった。
【0030】
第3例
図4は、受精後6時間経過した受精卵に波長が390-410nmである励起光を照射して得られた蛍光スペクトルを示す。異常卵と正常卵との間の蛍光スペクトルの強度差が波長360-380nmの帯域に存在することがわかった。たとえば、波長370nmにおいて、死卵の蛍光相対強度値は10を超えているが、正常卵のそれは2未満であった。したがって、たとえば、分別しきい値を蛍光相対強度値6をとすれば、衰弱卵を含む死卵を高精度に判別することができる。
【0031】
第4例
図5は、受精後7時間経過した受精卵に波長が390-410nmである励起光を照射して得られた蛍光スペクトルを示す。結果は第3例とほぼ同じであった。
【0032】
第5例
図6は、受精後6時間経過した受精卵に波長が590-610nmである励起光を照射して得られた蛍光スペクトルを示す。異常卵と正常卵との間の蛍光スペクトルの強度差が波長600-620nmの帯域に存在することがわかった。たとえば、波長610nmにおいて、死卵の蛍光相対強度値は10を超えているが、正常卵のそれは2未満であった。したがって、たとえば、分別しきい値を蛍光相対強度値6をとすれば、衰弱卵を含む死卵を高精度に判別することができる。
【0033】
第6例
図7は、受精後7時間経過した受精卵に波長が590-610nmである励起光を照射して得られた蛍光スペクトルを示す。結果は第5例とほぼ同じであった。
【0034】
第7例
図8は、受精後6時間経過した受精卵に波長が790-810nmである励起光を照射して得られた蛍光スペクトルを示す。異常卵と正常卵との間の蛍光スペクトルの強度差が波長780-820nmの帯域に存在することがわかった。たとえば、波長790nmにおいて、死卵の蛍光相対強度値は10を超えているが、正常卵のそれはほぼ2であった。したがって、たとえば、分別しきい値を蛍光相対強度値6をとすれば、衰弱卵を含む死卵を高精度に判別することができる。
【0035】
第8例
図9は、受精後7時間経過した受精卵に波長が790-810nmである励起光を照射して得られた蛍光スペクトルを示す。励起光と同じである波長780-820nmの帯域において、死卵の蛍光相対強度値は10を超えているが、正常卵のそれは4未満であった。したがって、たとえば、分別しきい値を蛍光相対強度値7をとすれば、衰弱卵を含む死卵を高精度に判別することができる。
【0036】
これらの観測結果などから次のことが判明した。まず、異常卵から放射される蛍光スペクトルのピーク波長は受精卵の個体差又は受精からの経過時間にかかわらずほぼ一定であることがわかった。したがって、励起光波長に依存する非常に狭い帯域の蛍光スペクトルだけ選択検出することにより、ゼブラフィッシュの受精卵の良否判別を最も高精度に実現できることがわかった。
【0037】
次に、励起光波長が短い場合には、励起光波長の短波長側に隣接する狭い帯域において、異常卵の蛍光分光スペクトルの強度は正常卵のそれに比較して大幅に増加する。励起光波長が長くなると励起光波長の長波長側に隣接する狭い帯域において、異常卵の蛍光分光スペクトルの強度は正常卵のそれに比較して大幅に増加する。励起光波長がさらに長くなると励起光と同じ帯域において異常卵の蛍光分光スペクトルの強度は正常卵のそれに比較して大幅に増加する。さらに、正常卵と異常卵との間の蛍光スペクトルの上記強度差は、受精からの経過時間とともに増加するが、この経過時間が8時間を超えると、上記強度差はほぼ飽和するか乃至かえって低下することがわかった。またさらに、受精時点からの経過時間が5ー7時間さらに好ましくは5.5-6.5時間の範囲で十分な判別精度が得られることがわかった。
なお上記説明ではゼブラフィッシュを中心に説明してきたが、これに限定されず魚類であれば分光スペクトルの位置は多少異なるが応用可能である。また、蛍光の代わりに反射光を利用してもよいし、蛍光に含まれる反射光の割合を増やしてもよい。