(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好ましい実施形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明者らは、樹脂成分と膨張性黒鉛を含む樹脂組成物について、当該樹脂組成物を用いて形成した熱膨張性の耐火シートなどの成形物における耐火性能、具体的には、「火災時に膨張して効果的な断熱層を形成し、その形状を保持することで、火炎及び煙の遮断機能」を、より効果的に発揮させる技術を達成する目的で、前記した天然物由来の材料であるが故に、その選定が難しく、安定して顕著な効果を得ることを難しくしている膨張性黒鉛に注目して検討を行った。
【0014】
本発明者らは、まず、従来技術における現状について検討を行った。従来技術によって、例えば、窓枠や戸口ドア等の戸内外の延焼防止材として、熱膨張性の優れた耐火性能を示すシート状の成形物を製造する場合には、樹脂組成物中に多量の膨張性黒鉛を含有させる必要がある。樹脂の種類にもよるが、例えば、先に挙げた従来技術では、樹脂100質量部に対して、膨張性黒鉛は、100〜150質量部程度の量で使用されている。その際に、粘性を有する樹脂中に、ミクロン単位の大きさの個々に形状の異なる粉体を均一に混合させる必要が生じるが、容易なことではない。
【0015】
このため、樹脂組成物で形成される成形物(製品)の形状の均一性や良好な外観を安定して得るには、長時間かけて混合するなど、非常に労が大きく、また、そのようにしたとしても充分ではなく、製品の製造工程でのロス率も高くなり、歩留まりが悪いという課題があった。
【0016】
本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決するため、膨張性黒鉛について詳細な検討を行った。そして、樹脂組成物の材料に用いた場合に、膨張性黒鉛の性状を工夫することで、形成した熱膨張性の耐火シートなどの成形物(製品)が、燃焼した場合に、膨張体がより高い発泡倍率を安定して示し、加えて、膨張体が、高い粘結力を示し、優れた形状保持性を有するものになることを目的に鋭意検討を行った。
【0017】
その結果、配合に供する原料の膨張性黒鉛を配合前に低温で加熱し、そのカサ体積を特定の範囲内に増加させ、この加熱処理済の膨張性黒鉛を樹脂組成物の形成材料に使用することで、膨張体が、安定して高い粘結力を示し、安定して優れた形状保持性を有する(以下、これらを「優れた耐火性能」と呼ぶ)ものになることを見出して本発明を達成した。
【0018】
以下に詳述するが、原料の膨張性黒鉛を比較的低温で加熱すると、個々の黒鉛粒子の厚みが増加し、その結果、比重を下げることができるので、加熱処理済の膨張性黒鉛を形成材料に使用すると、同じ重量使用量でありながら樹脂組成物中の膨張性黒鉛の容積比率を上げることができる。また、本発明者らは、加熱処理済の膨張性黒鉛を用いたことで、本発明の顕著な効果である「優れた耐火性能」が得られた理由の一つは、上記のようにして容積比率を上げた加熱処理済の膨張性黒鉛は、処理前のものに比べて黒鉛粒子のグラファイト層間が広がるので、樹脂成分と混合して樹脂組成物とした際に樹脂分の濡れ性を向上させることができたこと、にあると考えている。この点についても後述する。
【0019】
本発明者らの検討によれば、本発明が目的とする「優れた耐火性能」を得るために必須となる加熱処理済の膨張性黒鉛は、そのカサ体積変化率が、加熱前の原料に比べて1.05〜3.0倍に増加したもの、より好ましくは、1.5〜3.0倍に増加したものである。1.05倍未満では、本発明が目的とする膨張特性に対する効果が少なく、また、3.0倍を超えると黒鉛粒子が脆くなるので、成形工程に悪影響を与えるので好ましくない。本発明の技術的特徴は、上記したように、樹脂組成物の製造原料に用いる膨張性黒鉛について、予め比較的低温で加熱するという簡便な操作で、しかも、本発明の「優れた耐火性能」を得るために必須となる加熱処理済の膨張性黒鉛の管理を、極めて簡単な「カサ体積の変化率」で管理できるようにしたことである。これに対し、先に述べたように、従来技術では、樹脂組成物の製造原料に用いる天然物由来の膨張性黒鉛を、個々の黒鉛粒子の形状的な特徴や、配合する膨張性黒鉛の初期における膨張速度の傾向といったもので管理することになるので、その管理ははなはだ難しく、このことが原因して、製造した樹脂組成物の品質を従来技術で規定する状態に安定に保つことは難しいという問題がある。
【0020】
加熱処理済の膨張性黒鉛のカサ体積を、加熱前の原料に比べて1.05〜3.0倍に増加したものにするための加熱温度は、比較的低温の、カサ体積変化率が上記範囲になる温度であればよく、特に限定されない。本発明者らの検討によれば、膨張性黒鉛の銘柄によっても異なるが、例えば、150〜250℃の範囲内の温度で管理して前処理すれば、加熱前の原料に比べて1.05〜3.0倍に増加した加熱処理済の膨張性黒鉛を容易に得ることができる。
【0021】
本発明者らの検討によれば、本発明で規定するカサ体積の増加の範囲内での重量減少は、概ね1〜3%程度と極僅かである。このため、この重量減少で、本発明の顕著な効果が得られる加熱処理済の膨張性黒鉛を管理することは難しい。一方、驚くべきことに、この程度の僅かな重量減少でありながら、膨張性黒鉛を構成するグラファイトの層間が僅かながらも開き、結果として、その厚みが増加し、加熱処理済の膨張性黒鉛のカサ体積変化率が視認可能な1.05〜3.0倍になり、この値を用いれば、十分に安定して管理することができる。
【0022】
本発明の樹脂組成物における樹脂成分中の、上記した加熱処理済の膨張性黒鉛の配合比率は、樹脂成分100質量部を基準にして、5〜300質量部、より好ましくは10〜200質量部である。加熱処理前の原料とする膨張性黒鉛の銘柄に特別な選択はないが、その長径が100μm〜1000μmのものを使用する。また、加熱処理前の原料とする膨張性黒鉛を製造する際の処理条件についても制限がなく、中和品以外の、酸性、アルカリ性黒鉛でも使用できる。黒鉛粒子を扱う分野での用語として、表面の水平方向の一番長い距離を、その黒鉛粒子の長径と呼んでおり、この表面に垂直な方向の距離を厚みと呼んでいる。本発明のような目的で使用される場合、一般的には、膨張性黒鉛の厚みは50μm以下であり、本発明においても、このようなものを原料に使用する。本発明者らの検討によれば、本発明を構成する、カサ体積が増加した加熱処理済の膨張性黒鉛は、後述するように、上記した厚みが5μm〜150μmに増大するものの、その長径は100μm〜1000μmであり、原料の膨張性黒鉛と特に異なるものではない。
【0023】
本発明の樹脂組成物を構成する樹脂成分についての制限はなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでも使用できる。必要に応じて、例えば、可塑剤などを配合してもよい。例えば、熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びポリウレタン樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、熱硬化性ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、適宜な難燃剤を含有したものであってもよく、使用する場合の難燃剤のタイプについての選択等には制限がない。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、一般的に使用されるフィラーを含有したものであってもよく、特別な制限はなく、適宜に使用できる。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、使用する樹脂成分によっては、安定剤、酸化防止剤、顔料等を、必要に応じて適宜に使用することもできる。
【0027】
以下、本発明の顕著な効果を得るために必須となる、本発明の構成を特徴づける、予め加熱することでカサ体積変化率が加熱前の原料に比べて1.05〜3.0倍に増加してなる加熱処理済の膨張性黒鉛について説明する。まず、本発明を特徴づける上記構成の加熱処理済の膨張性黒鉛に至った経緯について説明する。
【0028】
黒鉛は、天然物が原料となり、一般的には、薄い鱗片状のグラファイトが多層になっていて表裏面が比較的平らな形状をしている。膨張性黒鉛は、黒鉛に強い酸化剤と酸で処理して層を形成しているグラファイトの一部をカチオン化し、酸根のアニオンと結びつけた結果として多量の酸を含有した構造にしたものである。このような構造にしたことで、膨張性黒鉛は高温に加熱されると、含有している酸がガスとして放出され、その際に膨張を生起する。膨張は、グラファイトの層間の拡大によるので、全体としては表面を押し上げる方向、即ち、厚みの拡大による。窓枠等における、膨張性黒鉛と樹脂成分とを含む樹脂組成物で形成した延焼防止材の効果は、この極端な厚み増加による体積増加で、窓枠等の周囲に、膨張した黒鉛がはみ出すことで、炎の外へのモレを防ぎ、これにより延焼防止を達成する。
【0029】
しかし、火災時の炎をともなう火風力は、非常に強く、窓枠の周囲にはみ出した膨張した黒鉛を飛散させてしまい、このような事態になると、延焼防止効果が損なわれる。このため、延焼防止材中における樹脂成分は、単に形状を整える目的だけではなく、火災時に炭化物となり、膨張した黒鉛の表面に付着して火風力から黒鉛を飛散させることを防ぐ役割が求められる。この特性を評価する目安として、樹脂組成物の延焼後の生成物である膨張体の膨張倍率と、その圧縮強度が論議されている。公的な規格がないため、延焼防止材の分野では、延焼防止材を提供する材料メーカーと、これを使用して製品を製造する製造メーカーとの間で試験方法を定めて、実施しているのが現状である。試験の概要は上記の圧縮強度であり、圧縮強度は、粘結力とも表現されている。
【0030】
市販の膨張性黒鉛の膨張に与える要素の特性値、例えば、膨張開始温度、ガスの発生量等は、多様であり、黒鉛粒子の長径や厚みが異なるだけでなく、黒鉛に含侵させている酸の種類によっても変わる。
【0031】
本発明者らの検討によれば、膨張体の膨張前との体積の比は、膨張倍率と呼ばれ、膨張性黒鉛に含侵されている酸の量や、膨張性黒鉛の形態、特に、長径によって影響を受ける。一般的に、同一の銘柄であっても、黒鉛粒子の長径が大きい程、倍率は大きくなる。従って、延焼防止効果を向上させるためには、樹脂組成物中における膨張性黒鉛の含有量を多くし、加えて、使用する膨張性黒鉛を、含侵されている酸の量が多く、かつ、長径の大きい形状の黒鉛粒子にすることが有効である。また、本発明者らの検討によれば、樹脂組成物中の樹脂成分が、膨張性黒鉛の表面全体、特に、厚み面に濡れ性がよい程、炭化物の付着が多くなるので好ましい。何故なら膨張は、厚み方向の拡大によって引き起こされるからである。以上の諸点から、少ない配合量の膨張性黒鉛で、十分な膨張後の特性、即ち、膨張体が、安定して高い粘結力を有するものになる樹脂組成物を得る方法が課題となっている。
【0032】
膨張性黒鉛と樹脂成分とを含む樹脂組成物は、俯瞰(ふかん)すれば、樹脂成分を海として、膨張性黒鉛を島とする海島構造として表現される。課題で記述した如く、膨張特性における膨張体の高い粘結力は、島が大きい程、島の数が多い程、かつ、島に海が強く固着しているほど良好になるのは、自明である。
【0033】
しかしながら、この条件は、体積の大きい膨張性黒鉛を多く使用することなので、結局は樹脂組成物における膨張性黒鉛の配合量を多くする結果となるので、膨張性黒鉛の使用量を変更することなく、膨張体の高い粘結力を安定して得るとしている本発明の課題の解決にはならない。
【0034】
本発明者らは熱膨張性黒鉛について鋭意検討した結果、驚くべきことに、原料の膨張性黒鉛を、比較的低温で加熱するという極めて簡便な方法で、膨張性黒鉛に付着している水分及び低温揮発分を蒸発させることができ、さらに、この過程で膨張性黒鉛の体積、特に厚み方向を、望みの倍率に増加させることができることを見出して本発明を達成した。
【0035】
即ち、単に上記した手段を採用し、加熱処理済の膨張性黒鉛を用いるだけで、膨張性黒鉛の従来技術におけるのと同一の使用量で、カサ体積が大きい膨張性黒鉛を樹脂組成物に含有させることができる。加えて、比較的低温での加熱処理によって生じる黒鉛粒子の膨張は、厚み方向なので、グラファイト層間が開き、併用する樹脂成分の濡れ性も改善されることを確認した。また、本発明者らの検討によれば、膨張性黒鉛を配合した樹脂組成物から、例えば、成形物である熱膨張性の耐火シート等を得る工程中に、分散撹拌や練り等の負荷を受けて、黒鉛粒子の層間剥離が起こり、そのため黒鉛粒子の厚みが減少した場合でも、その場合には黒鉛の粒子数が増加するので、加熱で得られた合計の体積は変わらない。即ち、前述した海島の島の合計の体積は変わらないので、本発明の加熱処理済の膨張性黒鉛によるカサ体積の増加効果による膨張の特性向上は変わらないことがわかった。
【0036】
当然ながら、本発明で規定する加熱処理済の膨張性黒鉛を得るために行う、比較的低温での加熱によって膨張性黒鉛に残存する酸の含侵量が著しく減少したのでは、火災時での高温時の膨張体の膨張倍率に悪影響を及ぼすことになる。一方、黒鉛粒子の厚みが著しく増加してしまうと、吸油量の増加を招くので、その場合は、樹脂組成物の混和が困難になる。上記した理由から、加熱処理済の膨張性黒鉛のカサ体積の増加は適正にコントロールする必要がある。これに対し、下記に述べる通り、本発明で規定するように、予め加熱することでカサ体積変化率が加熱前の原料に比べて1.05〜3.0倍に増加してなる加熱処理済の膨張性黒鉛とすることで、上記した問題は解決される。以下に、上記構成に至った主旨を述べる。
【0037】
図1は、膨張性黒鉛の市販品の数種類の銘柄を測定試料とし、これらの試料について、電気炉で200℃〜600℃まで加熱した時の、試料の減量曲線である。
図1に示されている通り、いずれの試料においても、所定の温度で30分間、減量がホールドしていることがわかった。各銘柄におけるその温度は、
図1中に記載されている。
図1に示した減量のカーブから明らかのように、各銘柄共に、連続的に、かつ、滑らかな減量を示している。このことは、所定の温度、時間で、希望する減量の状態で止めることを十分にコントロールできることを示している。表1に、各銘柄毎に、各温度における重量を示した。
【0039】
図2は、膨張性黒鉛の市販品の数種類の銘柄を測定試料とし、これらの試料について、200℃で3時間加熱して熱分析した結果を示す重量減少曲線である。表2に、30分毎に重量の変化を記入した。
図2に示しされているように、初期の30分間で1〜2%の重量の減少を示すが、それ以降では殆ど変わらなかった。このことは、200℃程度の温度で加熱した場合は、膨張性黒鉛に含まれている水分及び表面等に付着している低沸点揮発分は、除却されるものの、膨張性黒鉛の層間に含まれている酸根は保存されることを意味している。また、この程度の温度域であれば、重量の変化と、それに伴う膨張性黒鉛の黒鉛粒子の厚みを、所望の値にコントロールできることがわかった。
【0041】
図3は、室温〜255℃にある温度を段階的に選択していき、その温度で30分間維持した場合における、膨張性黒鉛のカサ体積の変化率を示す図である。カサ体積の変化率とは、加熱前の原料の膨張性黒鉛のカサ体積と、各温度に30分間ホールドした後の、加熱処理後の膨張性黒鉛のカサ体積の比と定義される。
【0042】
図4は、
図3に対応する重量の変化を示している。
図3と
図4の対応から、重量の減少と体積の変化率は、よい相関を示していることがわかる。
図4は、加熱試験前の重量を100とした時の各温度の重量である。
【0043】
膨張性黒鉛の長径方向、即ち、グラファイトの層面は、強い共有結合で構成されている。従って、加熱により黒鉛粒子の長径の増加はなく、加熱による増加は厚み方向のみなので、カサ体積の変化は、厚みの変化に相関していると判断される。即ち、熱膨張性黒鉛のカサ体積の変化は、集合体を構成しているミクロ単位の個々の黒鉛粒子の厚み変化のマクロ的な現象なので、この値で、黒鉛粒子の厚みの倍率の管理が可能であることがわかる。そして、
図3及び
図4から、200〜250℃の温度での短時間の加熱によって、熱膨張性黒鉛を構成する黒鉛粒子を、所望する厚み倍率にすることができることが示唆されている。勿論、この黒鉛粒子の厚みの拡大は、単に樹脂の密着面積の増加効果だけでなく、前述したように、濡れ特性の改善も意図している。即ち、上記した条件の加熱処理によってグラファイトの層間が僅かながらも開くので、混合して樹脂組成物にした場合に、樹脂成分が、この層間に喰い込むことになり、樹脂成分を構成している炭化物が、燃焼して膨張した時に、黒鉛表面に強固に付く要因となり、その結果、膨張体の粘結力の向上が実現できたものと考えられる。本発明者らの検討によれば、この加熱処理をせずに、単に厚みの大きい膨張性黒鉛を使用しても、本発明によってもたらされる、樹脂成分に対する濡れの向上、即ち、樹脂成分の黒鉛粒子の層間への喰い込み効果が少ないので、良好な膨張特性が得られない。また、上記した加熱処理操作をしないままの厚みの大きな膨張性黒鉛を用いるのは、前述の如く、膨張性黒鉛の重量の増加を伴うので形成工程に悪い要因となる。
【0044】
図1で示されるように、市販の膨張性黒鉛の加熱前の重量を100%としたときの高温加熱後(600℃)の重量は、70〜80%である。即ち、この高温の温度域では、20〜30%の重量減少となる。このことから、膨張性黒鉛に含まれている実質的に膨張効果に寄与する酸成分量が、これに相当すると考えられる。
【0045】
図4に示されるように、200〜250℃では、重量変化は、1〜3%程度の僅かな減少となっている。膨張性黒鉛は、製造工程中で、水洗、中和等の工程を経るので多量の水分を含んでいる。最終工程で乾燥を実施しているが、完全な水分除去はされていない。先に述べた如く、
図2は、200℃で、長時間加熱した時の減量カーブを示すものであるが、初期段階で重量減少を示すが、その後は大きな減少を示さない。
図1及び
図2の対比から、比較的低温(200〜250℃)における膨張性黒鉛の重量減少は、水分、及び、グラファイト中にカチオンとアニオンのイオン結合でホールドされていないで殆どが表面に付着している揮発分、であると推定される。従って、この程度の減少は、膨張性黒鉛本来の高温時での膨張性には大きな影響を与えない。なお、本発明で記載した、例示した熱膨張性黒鉛の加熱による重量の変化や体積の変化率の測定データは、加熱の方法等で変わるので、加熱温度と時間は、参考例である。
【0046】
先に述べた如く、膨張性黒鉛のカサ体積の変化は、黒鉛粒子の厚み変化に相関している。膨張性黒鉛の厚みの評価についての公的な規格は無い。一般的には、膨張性黒鉛の長径に対して垂直な方向の距離を厚みとしている。本発明で使用する膨張性黒鉛の長径は、100〜1000μmとする。電子顕微鏡による詳細な観察によれば、黒鉛粒子の厚みは、グラファイトの鱗片の積み重なりの層であるが、黒鉛粒子の形状は個々に異なり、層の途中で剥離している部分があるものが多々みられる。従って、膨張性黒鉛を構成している黒鉛粒子は、表面が比較的平らな形状とはいえ、正確には複雑な形状をしているので、厚みを正しく計測するのは困難である。
【0047】
本発明で定義する黒鉛粒子の厚みは、「その長径に平行な垂直面を電子顕微鏡で撮影し、その平面投射面積を計算して得られた面積をその平面投射の平行な距離で割った値」とした。
【0048】
表3に、上記で定義した黒鉛粒子の厚みと、膨張性黒鉛のカサ体積の加熱による変化率の対応の測定例を示す。測定は、膨張性黒鉛を金属製の容器に入れて電気炉にて連続的に昇温加熱して途中で適時サンプリングし、黒鉛粒子の厚みの変化率と、膨張性黒鉛のカサ体積変化率を測定して対応させた。
【0050】
表3の対比から、膨張性黒鉛の粒子の平均厚みと、カサ体積変化率は、相関しているのがわかる。但し、カサ体積変化率が非常に大きいと粒子の平均厚み比率が、相関性がズレてくることが見出された。恐らく、体積の変化率が大きくなると粒子が脆くなるのでグラファイト層の剥離が生じていると推定される。
【0051】
本発明では、加熱処理の前後のカサ体積の変化率を1.05〜3.0倍とするが、個々の黒鉛粒子がこの範囲に入ることを規定している訳ではなく、あくまでも、黒鉛粒子の集合体である膨張性黒鉛の倍率である。即ち、サンプルの中に1.05倍未満、或いは、3.0倍超の膨張性黒鉛が混在してもよく、膨張性黒鉛のカサ体積の変化率が1.05〜3.0倍になっていればよい。樹脂組成物を使用して、熱膨張性の耐火シート等を製造する工程中に、例え、個々の黒鉛粒子において層の剥離が生じたとしても、粒子の数が増加するので、全体としてのカサ体積変化率は、剥離の影響を受けないと推定される。
【実施例】
【0052】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
膨張性黒鉛には、下記の銘柄のものを使用した。以下、商品名で説明する。
・SYZR802(商品名):三洋貿易社製、粒径180μm(80メッシュ)、1000℃膨張度(ml/g)230
・SYZR502:三洋貿易社製、粒径300μm(50メッシュ)、1000℃膨張度(ml/g)250
・GREP−EG(商品名):鈴裕化学社製、粒径300〜400μ、1000℃膨張度(ml/g)180〜230
・EXP−50S160(商品名):富士黒鉛工業社製、粒度50メッシュ、1000℃膨張度(ml/g)200
・EG−E300(商品名):Qingdao Yanhai carbon materiaIs社製、粒度80メッシュ、1000℃膨張度(ml/g)270
【0053】
[実施例1、比較例1]
本例では、樹脂成分として、FRPに使用されている手積用ポリエステル樹脂である、不飽和ポリエステル/硬化剤=100/1(日本特殊塗料社製)を用いた。使用に際し、樹脂と硬化剤と、下記に述べるカサ体積が異なる3種の膨張性黒鉛をそれぞれに混合して、3種の樹脂組成物を得た。本例の樹脂成分は熱硬化樹脂であるので、試験用の試料の作製の際に、70℃、30分間加熱処理して不飽和ポリエステル樹脂を硬化させ、硬化物を試験用の試料とした。
【0054】
膨張性黒鉛には、前記SYZR802を使用し、表4の配合で使用した。SYZR802には、先に述べたようにして加熱処理してカサ体積を増加させた、カサ体積変化率がそれぞれ、1.55と2.60の加熱処理済のものと、比較例1として、加熱処理を行わない原料のままのカサ体積変化率1.0のものを用いた。
【0055】
<評価>
上記で得た試験用試料を用い、下記の方法で、発泡倍率と、粘結力を測定した。
(発泡倍率の測定)
上面が開放され底辺の寸法が外径50mm×25mmで、高さ50mmの鉄製容器の底面に、評価のために底面と同じ大きさにカットした上記で調製した試験用試料を、それぞれに置いた。カットした評価試験用試料の厚みは、1.0〜2.0mmの範囲内とし、3種の試料が同一の厚みになるように調整し、その厚みを加熱前の試料の厚みとした。具体的には、試料の厚みを1.93mmに調整した。そして、試料を入れた容器を電気炉入れ、600℃で30分間加熱した。室温で冷却後に膨張体を容器から取り出し、膨張体の厚みを測定し、それぞれの試料について発泡倍率を測定した。具体的には、膨張特性を示す発泡倍率とは、加熱前の試料の厚みと、加熱膨張体の厚みの比(=加熱後の厚み/加熱前の厚み)とした。
【0056】
(粘結力)
発泡倍率の測定で加熱して得た膨張体の上面に、500gの平滑な板をのせ、この板の自重で圧縮された後における膨張体の厚み値(mm)を測定した。この値を相対的に比較して評価した。参考に、比較例1における値に対する比を算出し、表4に示した。
【0057】
【0058】
[実施例2、比較例2]
本例では、樹脂成分として、熱可塑性ポリウレタン樹脂(商品名:レザミンNE−8811、大日精化工業社製、25%溶液)を用いた。また、膨張性黒鉛に、実施例1−1と同様の、加熱処理済のカサ体積変化率が1.55であるSYZR802を使用した。本例では、表4に示した配合物を、室温で48時間放置後に、160℃で、10分間加熱して、溶剤を揮発させて試験用の試料とした。そして、このようにして得られたものを実施例2の試料とし、膨張性黒鉛に、加熱処理を行わない原料のままのカサ体積変化率1.0のものを用いて得たものを比較例2の試料とした。これらの試料の評価を、実施例1で行ったと同様にして、膨張体についての、発泡倍率及び粘結力を測定して行った。結果を表5に示した。
【0059】
【0060】
[実施例3、比較例3]
樹脂成分として、熱可塑性アクリル樹脂(商品名:MH101ベース、藤倉化成社製、酢酸エチル25%溶液)を用いた。また、膨張性黒鉛に、実施例1−1と同様の、加熱処理済のカサ体積変化率が1.55であるSYZR802を使用した。本例では、表6に示した配合物を、室温で48時間放置後に、160℃で、10分間加熱して、溶剤を揮発させて、実施例3の試験用試料とした。そして、このようにして得られたものを実施例3の試料とし、膨張性黒鉛に、加熱処理を行わない原料のままのカサ体積変化率1.0のものを用いて得たものを比較例3の試料とした。これらの試料の評価を、実施例1で行ったと同様にして、膨張体についての、発泡倍率及び粘結力を測定して行った。結果を表6に示した。
【0061】
【0062】
[実施例4、比較例4]
本例では、樹脂成分としてポリ塩化ビニル(商品名:リューロンペースト772A、東ソー社製)を用い、膨張性黒鉛として、表8に示す5種類を用い、それぞれ加熱処理をしない原料のままの膨張性黒鉛を比較例とし、加熱処理してカサ体積変化率がそれぞれ異なる2種の膨張性黒鉛を使用した。また、表7に、実施例4及び比較例4の基本配合を示した。いずれの例もこの基本配合で樹脂組成物を調製した。
【0063】
【0064】
また、上記した各配合物を用い、160℃、10分間加熱して、1.70〜1.95mmの厚みのシートをそれぞれに作製した。得られたシートを50mm×25mmの寸法にカットして、評価試験用の試料とした。これらの試料についての評価を、実施例1で行ったと同様にして、600℃で30分間加熱して得た膨張体についての、発泡倍率及び粘結力を測定することで行った。結果を表8にまとめて示した。
【0065】
【0066】
上記表4、5、6及び8に示されている通り、いずれの樹脂成分においても、原料の膨張性黒鉛をそのまま使用するのでなく、膨張性黒鉛を加熱処理してカサ体積を増加させて、カサ体積変化率を1.05〜3.0倍、さらに、1.5〜3.0倍にしたものを樹脂組成物の構成材料として使用することで、得られるシートは、従来品に比べて耐火性能に優れる有用なものになる。具体的には、高温で熱した膨張体は、発泡倍率が向上した、粘結力の高い残渣強度に優れるものになる。
【課題】膨張性黒鉛を「耐火性能」の向上効果が確実に得られるように改質することで、より安定して、従来よりも効果的な「耐火性能」を発揮する製品の提供を可能にできる樹脂組成物の提供。
【解決手段】膨張性黒鉛と樹脂成分とを含む樹脂組成物であって、前記樹脂成分100質量部を基準にして、前記膨張性黒鉛を5〜300質量部含み、前記膨張性黒鉛が、予め加熱することでカサ体積変化率が加熱前の原料に比べて1.05〜3.0倍に増加してなる加熱処理済の膨張性黒鉛であることを特徴とする樹脂組成物。