【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 展示会名、開催場所 第52回 FISMA TOKYO 東京ファッション産業機器展 東京ビッグサイト(西3ホール)、東京都江東区有明3−21−1 展示日 平成26年9月25日及び26日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施例に係る刺繍ミシン10のシステム構成を概略的に示すブロック図である。この刺繍ミシン10の機械的構成は、パターンシーマ等の公知の如何なるものであってもよく、該機械的構成の図示は省略する。この刺繍ミシン10は、例えば、1つの縫いヘッドのみを持つ単頭式刺繍ミシンであってもよいし、複数の縫いヘッドを持つ多頭式刺繍ミシンであってもよい。公知のように、この刺繍ミシン10は、ミシン主軸駆動機構11によって回転駆動されるミシン主軸を有し、該ミシン主軸の回転に応じて各縫いヘッドの針棒(図示せず)が上下駆動されることにより、該針棒に付けられた上糸と下糸釜にセットされた下糸とが絡み合い、被刺繍物(布地)に対する縫いが行われる。また、公知のように、この刺繍ミシン10は、刺繍柄データに従ってX駆動機構12及びY駆動機構13によってXY(2次元)駆動される刺繍枠(図示せず)を有しており、該刺繍枠に前記被刺繍物(布地)がセットされ、前記針棒の上下駆動と該刺繍枠のXY(2次元)駆動の協働により、該刺繍柄データに応じた長さ及び向きを持つステッチ(縫目)が被刺繍物(布地)上に形成される。
【0014】
公知のように、刺繍ミシン10には、各針棒に対応して天秤(図示せず)が設けられており、上糸ボビン(図示せず)から繰り出されて該天秤に通され該針棒の先端に至る上糸には、縫い動作時において張力が発生する。公知のように、この刺繍ミシン10は、上糸張力調整機構(図示せず)を具備しており、該上糸張力調整機構により該上糸にかかる張力を調整することができる。また、この上糸張力調整機構によって、上糸にかかる張力を調整する(又は1ステッチ毎の上糸繰り出し量を制御する)ことにより、糸締り具合(上糸と下糸の締り具合)を調整することができる。糸締り具合は、被刺繍物(布地)の材質及び厚み(生地厚)、刺繍の形式(ランニングステッチ、サテンステッチ等)などに応じて調整され得る。
【0015】
図1において、上糸使用長検出装置14は、刺繍縫い動作時において1又は複数ステッチ毎の使用済みの上糸使用長を検出する手段である。この上糸使用長検出装置14は、例えば、上糸の経路に配置した回転子に上糸を巻いておき、該回転子の回転量(アブソリュート回転位置)をアブソリュート回転センサで検出する構成からなる。上糸の使用(消費)量に応じて回転子が回転するため、その回転量(アブソリュート回転位置)を1又は複数ステッチ毎に検出することで、1又は複数ステッチ毎の使用済みの上糸使用長(使用量)を検出することができる。実施例においては、現在の1ステッチにおける使用済みの上糸使用長検出値とその直前の1ステッチにおける使用済みの上糸使用長検出値の合計値を連続する2ステッチ分の使用済みの上糸使用長検出値として生成する。
【0016】
図1において、操作パネルボックス15は、刺繍縫い動作の制御に必要な各種設定及び指示等のためにユーザによって操作されるものであり、タッチパネル式ディスプレイ16を含む。上述した各装置及び機構は入出力インターフェイス17を介してコンピュータのバス18に接続される。コンピュータは、CPU(プロセッサ)20、ROM(読み出し専用メモリ)21、RAM(ランダムアクセスメモリ)22等によって構成されており、更にフラッシュメモリ、ハードディスク等の不揮発性メモリを適宜具備していてよい。本発明の一実施例に従う処理を実行するためのコンピュータプログラムがROM21、RAM22等のメモリに記憶されており、CPU(プロセッサ)20により該プログラムが実行される。コンピュータのバス18には更に通信インターフェイス(I/F)19が接続され、通信ネットワークを介して外部のホストコンピュータ30と通信可能である。なお、1つのホストコンピュータ30に対して、通信ネットワークを介して複数台の本発明に従う刺繍ミシン10を通信可能に接続することができる。また、ユーザが携帯可能なタブレット端末31が通信インターフェイス(I/F)19を介して刺繍ミシン10と通信可能であり、該タブレット端末31の画面でも種々の情報を表示できるようになっている。
【0017】
図2は、本発明に従う糸締り指数Ksの算出法を説明するための縫い上がり製品の断面図であり、前記非特許文献1等で示されているように断面を矩形モデルにて示している。図において、Mは、刺繍柄データによって規定される1ステッチのステッチ長であり、1ステッチ分の刺繍枠のX軸変位データ及びY軸変位データのベクトル合成値からなる。X軸変位データをx、Y軸変位データをyとすると、M=√(x
2+y
2)である。tは、被刺繍物(布地)の生地厚である。連続2ステッチ分の使用済みの上糸使用長の検出値をUとすると、糸締り指数Ksは、下記式に従って算出される。なお、実際には、下記式で求めた値に100を掛けた値(つまりパーセンテージ)でKsを表現するものとする。
Ks=1−[U/{2(M+t)×2}]
【0018】
上記式において、2(M+t)は、1つの縫目(ステッチ)における上糸の長さと下糸の長さの合計値であり、ステッチ長Mと生地厚tの合計値の2倍である。なお、
図2では、便宜上、1つの縫目(ステッチ)における上糸の長さと下糸の長さが等しい場合を図示している。この矩形モデルにおいては、1つの縫目(ステッチ)における上糸の長さと下糸の長さが異なっていてもその合計値には変化がなく、2(M+t)である。上記式において、2(M+t)に2を掛けている理由は、上糸使用長検出値Uが連続2ステッチ分の使用済み長さであるから、それに合わせて2ステッチ分の長さに調整しているためである。このように連続2ステッチ分の使用済み長さの上糸使用長検出値Uを使用して、縫い上がりの1ステッチ分の糸締り指数Ksを平均的に算出している理由は、便宜上、ランニングステッチとサテンステッチのどちらについても同じ演算式を適用できるようにするためである。糸締り指数Ksを算出するための演算式は、上記式に限らず、ランニングステッチとサテンステッチとで個別の演算式を用いてもよい。例えば、ランニングステッチにおいては、1ステッチ分の使用済みの上糸使用長検出値uを検出し、
Ks=1−[u/{2(M+t)}]
という演算によって糸締り指数Ksを算出することができる。
【0019】
上記式において、1つの縫目(ステッチ)の縫い上がりがほぼ上糸のみからなっている場合(上糸張力が最も緩い)は、U≒{2(M+t)×2}であるから、Ksは約0(パーセンテージでは約0)である。逆に、1つの縫目(ステッチ)の縫い上がりがほぼ下糸のみからなっている場合(上糸張力が最もきつい)は、U≒0であるから、Ksは約1(パーセンテージでは約100)である。また、1つの縫目(ステッチ)の縫い上がりが上糸と下糸でほぼ同量である場合は、U≒0.5であるから、Ksは約0.5(パーセンテージでは約50)である。
【0020】
図3は、CPU20によって実行される本発明の一実施例に係る制御プログラムを略示するフローチャートである。
図3の処理は、刺繍柄データに基づく1ステッチ毎の刺繍縫い動作時において行われるリアルタイム処理である。ステップS1では、現在完了した1ステッチにおける使用済みの上糸使用長検出値とその直前の1ステッチにおける使用済みの上糸使用長検出値の合計値を連続する2ステッチ分の使用済みの上糸使用長検出値Uとして検出する。ステップS2では、現在完了した1ステッチにおける刺繍柄データによって規定されるステッチ長Mを算出する。ステップS3では、前記刺繍柄データによって規定されるステッチ長Mと、被刺繍物の生地厚tと、前記連続する2ステッチ分の使用済みの上糸使用長検出値Uとに基づいて、縫い上がりの1ステッチ分の糸締り指数Ksを前記式に基づいて算出する。複数の縫いヘッドを有する場合は、ヘッド毎に糸締り指数Ksを算出する。なお、生地厚tの情報は、刺繍縫い開始時に、操作パネルボックス15を介してユーザによって予め入力される。
【0021】
ステップS4では、前記算出された縫い上がりの1ステッチ毎の糸締り指数Ksに応じた報知を行う。この報知の形態は、可視的報知(電子的表示若しくは印刷出力)あるいは可聴的報知(音響報知)のいずれであってもよい。一例として、ディスプレイ16あるいはタブレット端末31において、現在完了した1ステッチ分の糸締り指数Ksをアナログ的な棒グラフによって縫いヘッド毎に並列的にリアルタイム表示する。
図4は、タブレット端末31において、各ヘッドH1〜H4毎の1ステッチ分の糸締り指数Ksをアナログ的な棒グラフB1〜B4でリアルタイム表示する例を示している。各ステッチ毎の糸締り指数Ksに応じて棒グラフB1〜B4の長さがリアルタイムに変化する。別の例として、ディスプレイ16(あるいはタブレット端末31)において、現在完了した1ステッチ分の糸締り指数Ksをデジタル数値によって縫いヘッド毎に並列的にリアルタイム表示するようにしてもよい。ユーザ(刺繍ミシン10の運転者/管理者)は、この報知を知覚認識することにより、縫い上がった製品の1ステッチ毎の糸締り度合いを確認することができる。
【0022】
ステップS5では、ステップS4で算出した縫い上がりの1ステッチ分の糸締り指数Ksと、予め設定された該糸締り指数の基準値Krefとを比較し、糸締りの良否を判定する。この判定は、例えば、基準値Krefの上下に不感帯幅±αを設定することで、基準範囲Kref±αを設定し、算出した糸締り指数Ksがこの基準範囲Kref±αの範囲内であれば良好と判定し、範囲外であれば不良と判定する。すなわち、(Kref−α)≦Ks≦(Kref+α)の条件を満たすKsが良好な糸締りを示す。なお、良好な縫い上がりを示す糸締り具合は、縫い形式(ランニングステッチ、サテンステッチ等)によって異なるので、糸締り指数の基準値Krefは縫い形式(ランニングステッチ、サテンステッチ等)に依存して異なる値に設定される。たとえば、ランニングステッチの糸締りはきっちりとした縫い上がりとなるのが好ましいので、糸締り指数の基準値Krefは比較的大きな値である。一方、サテンステッチの糸締りはふんわりした縫い上がりとなるのが好ましいので、糸締り指数の基準値Krefは比較的小さな値である。なお、基準値Krefは、刺繍縫い開始時に、操作パネルボックス15等を介してユーザによって予め設定するようにしてよい。また、1つの刺繍柄の途中で縫い形式が変化する(ランニングステッチからサテンステッチへ、又はその逆に)場合は、刺繍柄の途中で基準値Krefの設定を変更する。また、ランニングステッチとサテンステッチのそれぞれの基準値Krefを予め設定しておき、刺繍柄データから現在の縫いステッチがランニングステッチとサテンステッチのどちらの縫い形式であるかを自動的に判定し、判定した縫い形式に対応する基準値Krefを使用してステップS5における比較を行うとよい。サテンステッチにおいては、隣り合うステッチの内角が極めて小さいので、刺繍柄データから隣り合うステッチの内角を算出することで、ランニングステッチとサテンステッチを容易に区別することができる。また、不感帯幅±αの値も操作パネルボックス15等を介してユーザによって設定可能である。
【0023】
ステップS6では、ステップS5における良否の判定結果に応じた報知を行う。この報知の形態も、可視的報知(電子的表示若しくは印刷出力)あるいは可聴的報知(音響報知)のいずれであってもよく、ディスプレイ16あるいはタブレット端末31における表示機能及び/又はそれに付属の音響発生機能を使用して所要の報知が行われる。
図4の例においては、タブレット端末31において、各ヘッドH1〜H4毎の1ステッチ分の糸締り指数Ksをアナログ的な棒グラフB1〜B4でリアルタイム表示する領域において、基準値Krefのレベルを示す横ライン(図では破線で示す)を表示し、棒グラフB1〜B4が該基準値Krefのラインに対して如何なる関係にあるかが可視的に理解できるようにしている。また、表示する棒グラフB1〜B4の色を良否に応じて色分けするようにしてもよい。
図4の例においては、ハッチングを付した棒グラフB1、B3が不良を示す色(例えば赤色)であり、ハッチングを付していない棒グラフB2、B4が良好を示す色(例えば緑色)である。また、不良を示す棒グラフB1、B3に対応して所定の警告音を発生してもよい。
【0024】
ステップS7では、現在縫い動作中の固有の刺繍製品に対応付けて、前記算出したステッチ毎の糸締り指数Ksを記憶装置(例えばRAM22)内に記憶する。すなわち、該固有の刺繍製品に付与される製品番号(あるいはID)によって呼び出し可能なように1ファイル内にまとめて記憶される。これにより、当該固有の刺繍製品に関して縫い動作が完了したときには、該固有の刺繍製品(特定の製品番号)に関する全ステッチにわたるステッチ毎の糸締り指数Ksが1ファイルにまとめて記憶装置内に記憶されることになる。こうして、この刺繍ミシン10で生産した全ての個別刺繍製品に関して、それぞれの全ステッチにわたるステッチ毎の糸締り指数Ksがそれぞれのファイルで記憶装置内に蓄積される。
【0025】
図5は、CPU20によって実行される本発明の一実施例に係る制御プログラムを略示するフローチャートであり、刺繍縫い終了後に行われるデジタル検品処理の一例を示す。ステップS11では、検品する刺繍製品の製品番号により、前記記憶装置から1ファイルの糸締り指数Ksを呼び出す。
【0026】
ステップS12では、呼び出した1ファイル内の全ステッチの糸締り指数Ksと、予め用意された模範の良品の全ステッチの糸締り指数(基準値)Kref’とをステッチ毎に比較し、ステッチ毎の糸締りの良否を判定する。この判定は、例えば、前記
図3のステップS5と同様に、対応するステッチの模範の糸締り指数(基準値)Kref’の上下に不感帯幅±αを設定することで、基準範囲Kref’±αを設定し、検品対象の対応するステッチの糸締り指数Ksがこの基準範囲Kref’±αの範囲内であれば良好と判定し、範囲外であれば不良と判定する。すなわち、(Kref’−α)≦Ks≦(Kref’+α)の条件を満たすKsが良好な糸締りを示す。
【0027】
ステップS13では、ステップS12における良否の判定結果に応じた報知を行う。例えば、糸締り指数Ksが不良なステッチがあれば、それがどのステッチであるかを特定する情報を報知する。この報知の形態も、可視的報知(電子的表示若しくは印刷出力)あるいは可聴的報知(音響報知)のいずれであってもよく、ディスプレイ16における表示機能及び/又は不良ステッチを特定する電子データ出力及び/又は紙による印刷出力等により所要の報知が行われる。こうして、全製品の全ステッチにわたるデジタル検品を自動的に行うことができる。
【0028】
次に、縫いの実例に従って本発明の一実施例を説明する。
図6(b)は、所定振り幅のサテンステッチを縫い終えた生地の表側を示す写真であり、
図6(c)はその裏側を示す写真である。
図6(c)において濃い色の糸が上糸、薄い色の糸が下糸である。この縫いは総計250針(ステッチ)からなるテスト縫いである。縫いにあたっては、公知の上糸張力調整機構によってサテンステッチに相応しい糸締り具合となるような縫いを行った。この縫い動作の過程において、上述した本実施例(例えば
図3のリアルタイム処理)を適用し、ステッチ毎に算出した糸締め指数Ksを1ファイル内に記憶した。なお、この実例において
図3のリアルタイム処理を適用する場合、前記ステップS5及びS6の処理(良否判定)は省略してよい。
図7は、
図6(b)(c)の縫い上がり実例に対応して、その縫い動作中に実際に算出された1ファイル分の糸締め指数Ksを示すリストである。
図6(a)は、
図7のリストに基づいて、該1ファイル分の糸締め指数Ksを折れ線グラフ化して示す図である。
図6(a)のグラフは、
図6(b)(c)の縫い上がり実例の写真と対比しやすいように、ほぼ同一縮尺で描いてある。
【0029】
全体的にみて、糸締め指数Ksが20〜25程度の間にあるときは縫い上がりに異常がみられず、良好な縫いが行われており、糸締め指数Ksがこれより大きくなったり、小さくなったりしている箇所(ステッチ)では異常な縫いとなっていることが見て取れる。
【0030】
図6(c)に示すように、縫い上がり生地の裏側に1箇所の縫い不良が目視確認できる。この箇所は、
図6(a)のグラフにおける(1)の箇所に対応しており、
図7のリストにおいては矢印(1)で示す32針目〜42針目の箇所に該当している。この(1)の箇所では、上糸が生地裏に多く回り込み、多く消費されたため(Uが大)、糸締め指数Ksが16以下に低下している。
【0031】
図6(b)に示すように、縫い上がり生地の表側に2箇所の目飛び(不良)が目視確認できる。最初の目飛び箇所は、
図6(a)のグラフにおける(2)の箇所に対応しており、
図7のリストにおいては矢印(2)で示す75針目〜81針目の箇所に該当している。この(2)の箇所では、釜の剣先による上糸の捕捉に失敗し、上糸を引き込めなかったことでステッチの形成ができず、いわゆる目飛びが発生したのであり、この場合、上糸消費量が少なく(Uが小)、糸締め指数Ksが増大している(26以上)。2番目の目飛び箇所は、
図6(a)のグラフにおける(3)の箇所に対応しており、
図7のリストにおいては矢印(3)で示す229針目〜232針目の箇所に該当している。この(3)の箇所でも、目飛びが生じ、上糸消費量が少なく、糸締め指数Ksが27以上に上昇している。なお、(3)の箇所の手前の225針目〜227針目の箇所では、上糸が多く消費され、糸締め指数Ksが15以下に低下しており、ここでもなんらかの異常が発生したことが伺える。この異常が続く矢印(3)の箇所の異常に繋がったとも考えられる。
【0032】
このように、縫い上がり品質と糸締め指数Ksとの間に明確な相関性があることがわかる。特定の刺繍柄について、上記
図6〜
図7に示すような試し縫いとその最中における糸締め指数Ksの算出を行うことにより、最適の上糸縫い調子の設定を見つけることができる。すなわち、上記
図6〜
図7に示すように、試し縫いした縫いサンプルと該試し縫いにおいて算出した糸締め指数Ksのリストを目視で比較した結果に基づき、該試し縫いにおいて設定した縫い調子を、より適切なものに適宜変更することができる。そして、変更した縫い調子に従って、再び上記
図6〜
図7に示すような、試し縫いと糸締め指数Ksの算出を行い、該試し縫いした縫いサンプルと該試し縫いにおいて算出した糸締め指数Ksとを目視比較する。これで不良がでない又は少なくなれば、以後その縫い調子設定を用いて特定の刺繍柄の縫いを行うことで、均一の品質での量産が可能となる。
【0033】
本発明の別の応用例として、特定の刺繍柄について、上記
図6〜
図7を参照して示したように、実際に何回か縫い動作(試し縫い)を行い、最適な糸締め指数Ksの中心値と、不良な糸締め指数Ksの上限値及び下限値を試行錯誤して統計的に若しくは経験的に求めるとよい。たとえば、上記
図6〜
図7の例では、最適な糸締め指数Ksの中心値は「21」、「16」以下及び「26」以上の糸締め指数Ksを異常と判断する。このような試し縫い又はサンプル縫いから得た統計値若しくは経験値に基づき、特定の刺繍柄について前記ステップS5で用いる比較判定の基準値Krefを例えば「21」と設定し、不感帯幅±αを例えば「±5」と設定する。以後、特定の刺繍柄の製品を大量生産するときに、このようにして設定した基準値Krefと不感帯幅±αを用いて、前記
図3及び
図5に示したような本発明に従う処理を行うことができる。このように統計値若しくは経験値に基づき設定した基準値Krefと不感帯幅±αは、当該特定の刺繍柄の柄データと共に記憶しておき、刺繍縫い動作を行うときに呼び出して自動的に設定するようにしてもよい。また、こうして自動的に設定された基準値Krefと不感帯幅±αを、必要に応じて、ユーザが適宜変更することも可能である。
【0034】
図1に示したように、1つのホストコンピュータ30に対して、通信ネットワークを介して複数台の本発明に従う刺繍ミシン10を通信可能に接続することができる。これにより、各刺繍ミシン10からリアルタイムに送られてくる糸締め指数Ksをホストコンピュータ30で監視することで、生産進捗状況、トラブルの発生頻度、各刺繍ミシン10の生産効率等を集中管理することができる。
【0035】
なお、上記実施例では縫い動作時において1ステッチ毎の糸締り指数Ksを算出しているが、これに限らず、縫い動作時においてリアルタイムに2又はそれ以上のステッチからなるグループ毎に、本発明に従って、縫い上がりの糸締り指数Ksを算出するようにしてもよい。
【0036】
本発明によれば、1ステッチ毎の上糸使用長を検出する構成を具備しているので、これを利用して上糸及び下糸の管理を行うこともできる。まず、1ステッチ毎の上糸使用長検出値を累算することにより、各針に対応して設置された色糸ボビン毎の上糸累積使用量を算出することができる。この上糸累積使用量を、例えば
図4に示すように、タブレット端末31の上部表示領域31uに表示することで、ユーザに通知することができる。また、上糸累積使用量を把握できることにより、製品製造用資材として糸を発注する際の目安とすることができ、余分な糸在庫を持つ必要がないというメリットもある。更に、1ステッチ毎の上糸使用長検出値から下糸使用長を推定することができる。この下糸使用長を累積することにより、各下糸ボビン毎の下糸累積使用量を算出することができる。この下糸累積使用量から下糸ボビンの交換時期を把握することができるので、ボビンチェンジャーを組み合わせることで、刺繍製品の効率的な生産を行うことができる。
【0037】
以上のように、本発明によれば、縫い動作の最中にステッチ毎の糸締め指数Ksを演算し、所定の基準値と比較することで縫い不良が発生したか否かを判定することができ、不良と判定した際はオペレーターに警告を発して必要な処理を促すことができる。その結果、目飛びや糸締り不良の無い良品を得ることができる。
【0038】
また、サテンステッチとランニングステッチとでは上糸テンションのかけ方が異なるが、ステッチに合わせたテンションを事前設定することができ、これらが混在する刺繍も良好に行うことができる。