(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接合部は、前記拡張部から前記拡張体の周縁側に向かって前記第2接合部、前記第1接合部の順に隣接して配置され、前記第2接合部の厚みは、前記第1接合部の厚みよりも大きい、請求項3または請求項4に記載の止血器具。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態およびその変形例を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
実施形態に係る止血器具10は、
図4および
図5に示すように、治療・検査等を行うカテーテル等を血管内に挿入する目的で、手首W(「肢体」に相当)の橈骨動脈Rに形成された穿刺部位P(「止血すべき部位」に相当)に留置していたイントロデューサーシースを抜去した後、その穿刺部位Pを止血するために使用するものである。
【0013】
止血器具10は、
図1および
図2に示すように、手首Wに巻き付けるための帯体20と、帯体20を手首Wに巻き付けた状態で固定する面ファスナー30(「固定手段」に相当)と、流体(空気等の気体もしくは液体)を注入することにより拡張し、穿刺部位Pを圧迫する拡張体40と、拡張体40を穿刺部位Pに位置合わせするためのマーカー40cと、流体を拡張体40に注入可能な注入部60と、を有している。
【0014】
なお、
図2には、
図1に示す矢印2−2線に示す断面図を図示している。
【0015】
本明細書中では、帯体20を手首Wに巻き付けた状態のとき、帯体20において手首Wの体表面に向かい合う側(装着面側)を「内面側」と称し、その反対側を「外面側」と称する。
【0016】
帯体20は、可撓性を備える帯状の部材によって構成されたベルト21と、ベルト21よりも硬度の高い支持板22と、を備えている。
【0017】
ベルト21は、
図4および
図5に示すように、手首Wの外周を略一周するように巻き付けられる。
図2に示すように、ベルト21の中央部には、支持板22を保持する支持板保持部21aが形成されている。支持板保持部21aは、外面側(または内面側)に別個の帯状の部材が融着(熱融着、高周波融着、超音波融着等)または接着(接着剤や溶媒による接着)等の方法によって接合されることにより、二重になっており、これらの隙間に挿入された支持板22を保持する。
【0018】
ベルト21の
図1中の左端付近の部分の外面側には、一般にマジックテープ(登録商標)などと呼ばれる面ファスナー30の雄側(または雌側)31が配置されており、ベルト21の
図1中の右端付近の部分の内面側には、面ファスナー30の雌側(または雄側)32が配置されている。
図4に示すようにベルト21を手首Wに巻き付け、雄側31および雌側32が接合することにより、帯体20が手首Wに装着される。なお、帯体20を手首Wに巻き付けた状態で固定する手段は、面ファスナー30に限らず、例えば、スナップ、ボタン、クリップ、またはベルト21の端部を通す枠部材であってもよい。
【0019】
ベルト21は、拡張体40を融着により連結することが可能な樹脂材料によって構成することが好ましい。なお、ベルト21は、少なくとも拡張体40が連結される連結領域21b(本実施形態では、
図2に示すように、後述する支持板22の第1湾曲部22bが配置されている領域と面ファスナー30の雄側31が取り付けられている領域との間の領域)が拡張体40と融着可能な樹脂材料によって構成されていればよく、ベルト21の連結領域21b以外の部分は、拡張体40と融着可能な樹脂材料以外の材料によって形成されていてもよい。
【0020】
ベルト21の構成材料は、可撓性を備える材料であれば特に限定されない。そのような材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のようなポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはこれらを任意に組み合わせたもの(ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等)が挙げられる。
【0021】
ベルト21において少なくとも拡張体40と重なっている部分は、実質的に透明であることが好ましいが、透明に限定されず、半透明または有色透明であってもよい。これにより、医師や看護師は、穿刺部位Pを外面側から視認することができ、後述するマーカー40cを穿刺部位Pに容易に位置合わせすることができる。
【0022】
支持板22は、
図2に示すように、ベルト21の二重に形成された支持板保持部21aの間に挿入されることによりベルト21に保持されている。支持板22は、その少なくとも一部が内面側(装着面側)に向かって湾曲した板形状をなしている。支持板22は、ベルト21よりも硬質な材料で構成されており、ほぼ一定の形状を保つようになっている。
【0023】
支持板22は、ベルト21の長手方向に長い形状をなしている。この支持板22の長手方向における中央部22aは、ほとんど湾曲せずに平板状になっており、この中央部22aの両側には、それぞれ、内面側に向かって、かつ、ベルト21の長手方向(手首Wの周方向)に沿って湾曲した第1湾曲部22b(
図2の左側)および第2湾曲部22c(
図2の右側)が形成されている。
【0024】
支持板22の構成材料は、例えば、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(特に硬質ポリ塩化ビニル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンのようなポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、アイオノマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、芳香族または脂肪族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂等が挙げられる。
【0025】
支持板22は、ベルト21と同様に、拡張体40と重なる部分が実質的に透明であることが好ましいが、透明に限定されず、半透明または有色透明であってもよい。これにより、医師や看護師は、穿刺部位Pを外面側から確実に視認することができ、後述するマーカー40cを穿刺部位Pに容易に位置合わせすることができる。なお、支持板22は、中央部22aのような平板状の部分を有さず、全長にわたって湾曲しているものであってもよい。
【0026】
拡張体40は、
図3(A)に示すように、流体の注入によって拡張可能な拡張部43と、拡張部43の周縁部の一部に形成された融着部(「接合部」に相当)50とを有している。拡張部43は、流体を注入することにより拡張し、穿刺部位Pに圧迫力を付与する機能を備えている。融着部50は、拡張体40が拡張した状態で、融着部50の一部が剥離し、融着部50における剥離面の面積が徐々に増える。このため、融着部50は、拡張体40が拡張した状態で、拡張部43の体積を経時的に増加させ、穿刺部位Pに作用する圧迫力を経時的に低減させる機能を備えている。なお、拡張部43に注入する流体は、拡張部43を拡張可能である限り、特に限定されないが、例えば、空気等を用いることができる。
【0027】
拡張部43は、
図1および
図2に示すように、第1部材41および第2部材42を重ね合わせて外周を後述する第1シール部F1および融着部50により接合され、袋状にすることによって形成されている。拡張部43の内部には、
図5に示すように、流体を注入可能な拡張空間40aが形成されている。
【0028】
第1部材41は、
図3(A)に示す平面視において、略矩形状の外形形状を備えている。第1部材41には、矩形状の部分から外方に突出した突出部41cが設けられている。なお、
図3(A)は、第2部材42側から見た平面図を示しているため、第1部材41は図面に現れていないが、第1部材41は、第2部材42と同様の形状を備えるため同一の図面によって説明し、図示を省略する。
【0029】
第2部材42は、
図3(A)に示す平面視において、略矩形状の外形形状を備えている。第2部材42には、矩形状の部分から外方に突出した突出部42cが設けられている。また、第2部材42の平面視の略中央部には、マーカー40cが設けられている。
【0030】
図3(A)に示すように、第1部材41の突出部41cと第2部材42の突出部42cとの間には、後述する注入部60のチューブ61が配置されている。そして、各突出部41c、42cはチューブ61に接着剤により接着されている。これにより、チューブ61は、拡張体40に保持される。なお、第1部材41および第2部材42の外形形状は、上記の形状に特に限定されず、例えば、丸、楕円、多角形であってもよい。また、突出部41c、42cは設けなくてもよい。
【0031】
図3(A)に示すように、第1部材41の周縁部の一部と第2部材42の周縁部の一部は、第1シール部F1により接合している。第1シール部F1は、後述する融着部50が形成される部分を除いて第1部材41の周縁部および第2部材42の周縁部のほぼ全周に亘って形成されている。
【0032】
図3(A)に示すように、拡張体40の少なくとも一部とベルト21の連結領域21bは、第2シール部F2により接合している。拡張体40は、
図2に示すように、第1部材41が帯体20の内面側に面した状態で配置されているため、第1部材41の周縁部分のうちの一辺と、帯体20の連結領域21bの内面側とが接合されている。なお、第1シール部F1および第2シール部F2における接合は、例えば、融着、接着剤による接着等の方法で行うことができる。
【0033】
融着部50は、第1部材41の周縁部および第2部材42の周縁部において、第2シール部F2側とは反対側(
図3(A)の右側)の一辺のうちの一部に形成されている。なお、融着部50は、第1部材41の周縁部および第2部材42の周縁部のうち一部に形成されていれば、形成する位置は特に限定されない。なお、本明細書中、「融着部(接合部)」とは、融着(接合)された部分に限定されず、融着(接合)された部分に隣接することによって第1部材41と第2部材42が互いに接近する方向に力を受けているが融着されていない部分も含むものとする。
【0034】
融着部50は、
図3(A)に示すように、第1融着部(「第1接合部」に相当)51と、第1融着部よりも接合力が小さい第2融着部(「第2接合部」に相当)52と、剥離開始部53と、を有している。融着部50は、拡張部43から拡張体40の周縁側に向かって第2接合部52、第1接合部51の順に隣接して配置されている。
【0035】
ここで、融着部50における接合力は、第1部材41および第2部材42を形成する材料の材質、融着部50を形成する際の熱融着の温度、融着時間、圧着力等の成形条件を調整することによって大小関係の分布を形成することができる。本実施形態では、第2融着部52の熱融着の温度を第1融着部51の熱融着の温度よりも低くしたり、第2融着部52の融着時間を第1融着部51の融着時間よりも短くしたりすることによって、第2融着部52の接合力を第1融着部51の接合力よりも小さく形成することができる。これにより、第1融着部51および第2融着部52における厚みに変化をもたせることなく、接合力の分布を形成することができる。なお、後述する変形例2、変形例3では、熱融着における圧着力の大きさを調整することによって接合力の分布を形成する場合を例に挙げて説明する。
【0036】
剥離開始部53は、拡張部43を拡張した状態に維持することで、第2融着部52が経時的に剥離できるように拡張部43から第2融着部52側に向かって形成されている。
【0037】
また、剥離開始部53は、
図3(A)に示す平面視において、拡張部43から第2融着部52側に向かって窪んだ凹部53aであり、凹部53aは、拡張部43と連通している。このため、拡張部43が拡張した状態で、凹部53aの先端付近に拡張部43の内圧から受ける力による応力集中が起きる。この応力集中により、剥離開始部53に高い応力が作用して、融着部50は、剥離開始部53を起点として剥離が進展し易くなる。なお、凹部53aにおける先端側は、第2融着部52側であり、凹部53aにおける基端側は、拡張部43側である。
【0038】
なお、剥離開始部53において、第1部材41および第2部材42は互いに接合されていないことが好ましいが、拡張部43を拡張した状態に維持することで、剥離開始部53の剥離を起点として第2融着部52が経時的に剥離できる限りにおいてこれに限定されず第1部材41および第2部材42は互いに接合されていてもよい。
【0039】
拡張体40の構成材料は、可撓性を備える材料であれば特に限定されず、例えば、前述したベルト21の構成材料と同様のものを用いることができる。また、拡張体40は、ベルト21と同質または同種の材料の熱可塑性材料で構成されるのが好ましい。これにより、拡張体40は、融着による帯体20との接合を容易に行うことができ、止血器具10を容易に製造することができる。
【0040】
第2融着部52は、以下の条件1、2を満たす減圧プロトコルを実現可能に形成されていることが好ましい。
(条件1)帯体20を手首Wに巻き付けた状態で、拡張後4時間にわたって第2融着部52の剥離面の面積が徐々に増すことによって拡張部43の体積を経時的に増加させることで、1時間経過するごとの拡張部43の内圧が、その1時間前の拡張体40の内圧の70〜97%(好ましくは、75〜94%)となる;
(条件2)帯体20を手首Wに巻き付けた状態で、拡張後4時間経過した後の拡張部43の内圧が初期内圧の30〜80%(好ましくは、40〜71%)となる。
【0041】
第2融着部52および剥離開始部53の接合力や大きさは、止血器具10を使用する際の使用条件(止血時の拡張体40内外における圧力差)等に応じて、例示した上記の減圧プロトコルを実現し得るように形成することが可能である。
【0042】
図5に示すように、拡張体40は、帯体20の内面側に配置されている。このため、拡張体40は、拡張部43を拡張させると、帯体20により、拡張体40の手首Wの体表面から離れる方向への拡張は抑制される。これによって、拡張体40の圧迫力が手首W側に集中し、拡張体40は、穿刺部位Pに好適に圧迫力を付与することができる。また、拡張体40は、帯体20により手首Wに押付けられて内圧が高まるため、第2融着部52を剥離させて拡張部43の体積を好適に増加させることができる。さらに、融着部50は、拡張部43の周縁部の一部に形成されているため、拡張部43を拡張させると、手首Wの体表面から離れる方向へ移動する。このように、融着部50が手首Wに接触しにくい位置に配置されているため、止血器具10を装着した装着者が感じる不快感を低減することができる。
【0043】
また、拡張体40は、
図5に示すように、支持板22の第1湾曲部22bと重なる位置に配置している。このため、拡張部43を拡張させた際、支持板22により拡張体40の手首Wの体表面から離れる方向への拡張が抑制され、拡張体40の圧迫力が手首W側に集中する。
【0044】
拡張体40は、実質的に透明であることが好ましいが、透明に限定されず、半透明または有色透明であってもよい。これにより、医師や看護師は、穿刺部位Pを外面側から視認することができ、後述するマーカー40cを穿刺部位Pに容易に位置合わせすることができる。
【0045】
マーカー40cは、
図2に示すように、拡張体40において、帯体20側に配置される外面側の略中央(第1部材41の略中央)に設けられている。拡張体40にこのようなマーカー40cを設けることによって、拡張体40を穿刺部位Pに対して容易に位置合わせすることができるため、拡張体40の位置ズレが抑制される。また、マーカー40cは、拡張体40の内表面側に設けられているため、マーカー40cが穿刺部位Pと直接接触しない。なお、マーカー40cを設ける位置は、拡張体40を穿刺部位Pに位置合わせ可能である限りにおいて特に限定されない。例えば、マーカー40cは、拡張体40の内表面において、手首W側に配置される外面側の略中央(第2部材42の略中央)に設けられていてもよい。
【0046】
マーカー40cの形状は、特に限定されず、例えば、円、三角形、四角形等が挙げられ、本実施形態では、四角形をなしている。
【0047】
マーカー40cの大きさは、特に限定されないが、例えば、マーカー40cの形状が四角形をなしている場合、その一辺の長さが1〜4mmの範囲であることが好ましい。一辺の長さが5mm以上であると、穿刺部位Pの大きさに対してマーカー40cの大きさが大きくなるため、拡張体40の中心部を穿刺部位Pに位置合わせし難くなる。
【0048】
マーカー40cの材質は、特に限定されず、例えば、インキ等の油性着色料、色素を混練した樹脂等が挙げられる。
【0049】
マーカー40cの色は、拡張体40を穿刺部位Pに位置合わせすることができる色であれば特に限定されないが、緑色系が好ましい。緑色系にすることにより、医師や看護師は、マーカー40cを血液や皮膚上で容易に視認することができるため、拡張体40を穿刺部位Pに位置合わせすることがより容易となる。
【0050】
また、マーカー40cは半透明または有色透明であることが好ましい。これにより、医師や看護師は、穿刺部位Pをマーカー40cの外面側から視認することができる。
【0051】
拡張体40にマーカー40cを設ける方法は特に限定されないが、例えば、マーカー40cを拡張体40に印刷する方法、マーカー40cの片面に接着剤を塗布して拡張体40に貼り付ける方法等が挙げられる。
【0052】
注入部60は、拡張体40に流体を注入するための部位であり、
図1に示すように、拡張体40に接続されている。
【0053】
注入部60は、その基端部が拡張体40に接続され、その内腔が拡張体40の内部に連通する可撓性を有するチューブ61と、チューブ61の内腔と連通するようにチューブ61の先端部に配置された袋体62と、袋体62に接続された逆止弁(図示せず)を内蔵する管状のコネクタ63と、を備えている。
【0054】
チューブ61は、
図3(A)に示すように、第1部材41の突出部41cと第2部材42の突出部42cとの間に挟まれるようにして拡張体40に接続されている。ただし、拡張体40においてチューブ61を接続する位置は、チューブ61の内腔が拡張体40の内部空間と連通している限り、特に限定されない。
【0055】
拡張部43を拡張(膨張)させる際には、コネクタ63にシリンジ(図示せず)の先筒部を挿入して逆止弁を開き、このシリンジの押し子を押して、シリンジ内の流体を注入部60を介して拡張体40内に注入する。拡張体40が拡張すると、チューブ61を介して拡張体40と連通している袋体62も膨張し、流体が漏れずに、拡張体40を加圧できていることを目視で確認できる。拡張体40内に流体を注入した後、コネクタ63からシリンジの先筒部を抜去すると、コネクタ63に内蔵された逆止弁が閉じて流体の漏出が防止される。
【0056】
次に、本実施形態に係る止血器具10の使用方法について説明する。
【0057】
止血器具10を手首Wに装着する前は、
図2に示すように、拡張体40は、拡張していない状態となっている。
図4および
図5に示すように、右手の手首Wの橈骨動脈Rに穿刺を行う場合、穿刺部位Pは、親指側へ片寄った位置にある。通常、穿刺部位Pにはイントロデューサーシースが留置されている。このイントロデューサーシースが留置されたままの状態の手首Wに帯体20を巻き付け、拡張体40に設けられたマーカー40cが穿刺部位P上に重なるように拡張体40および帯体20を位置合わせして、面ファスナー30の雄側31および雌側32を接触させて接合し、帯体20を手首Wに装着する。
【0058】
この際、止血器具10は、注入部60が、橈骨動脈Rの血流の下流側(掌側)に向くように、手首Wに対して装着される。これにより、手首よりも上流側での手技や、上流側に位置する器具(例えば、血圧計等)に干渉することなしに、注入部60の操作が可能となる。また、止血器具10を、注入部60が下流側に向くように右手の手首Wに装着することで、拡張体40は、手首Wの親指側へ片寄って位置する橈骨動脈Rに位置する。なお、動脈の場合、血管の上流側とは、血管の心臓に近づく方向をいう。また、血管の下流側とは、血管の心臓から遠ざかる方向をいう。
【0059】
なお、止血器具10は、左手の手首の橈骨動脈に穿刺を行う場合に使用してもよい。この場合、注入部60は、橈骨動脈の血流の上流側に向くように、左手の手首に対して装着される。
【0060】
止血器具10を手首Wに装着した後、注入部60のコネクタ63にシリンジ(図示せず)を接続し、前述したようにして流体を拡張体40内に注入し、拡張部43を拡張させる。
【0061】
この際、医師や看護師は、流体の注入量により、症例に応じて、拡張体40の拡張度合、すなわち、穿刺部位Pに作用する圧迫力を容易に調整することができる。例えば、仮に、拡張体40に流体を注入しすぎて拡張体40が過拡張した場合は、シリンジを用いて拡張体40内から余剰な流体を排出すればよい。
【0062】
拡張部43を拡張させた後、コネクタ63からシリンジを離脱させる。そして穿刺部位Pからイントロデューサーシースを抜去する。
【0063】
拡張部43を拡張させると、拡張部43の拡張方向(
図5に実線矢印で示す方向)に向かって拡張部43の内圧が働く。この内圧により、剥離開始部53を起点として第2融着部52の剥離が開始する。第2融着部52の剥離が進展することによって、第2融着部52における剥離面の面積が徐々に増加する。これにより、拡張部43の体積V1(
図5を参照)は、拡張部43の体積V2(
図6を参照)に増加する。ここで、拡張部43の流体の量はほぼ一定のため、拡張部43の内圧は、拡張部43の体積に反比例し、拡張部43の体積の増加に伴って拡張部43の内圧が減少する。このようにして、拡張体40は、穿刺部位Pに圧迫力を付与しつつ、血管閉塞を防止できる程度に、拡張部43の内圧を経時的に減少することができる。
【0064】
また、
図3(B)に示すように、仮に第2融着部52が全て剥離した場合、第2融着部52よりも接合力が大きい第1融着部51により拡張部43の周縁部は封止されているため、拡張部43の内部と拡張部43の外部とが連通しない。このため、拡張部43から外部へ流体が漏出して、不用意に減圧されるのを防止することができる。
【0065】
なお、仮に、拡張体40の拡張後、止血が十分に行われていない場合は、拡張体40に流体を注入して、拡張体40の内圧を上昇させてもよい。例えば、拡張体40の内圧を、拡張体40に流体を注入した時の内圧に戻したい場合は、拡張した拡張部43の体積に相当する量の流体を注入すればよい。
【0066】
所定の時間が経過して、穿刺部位Pの止血が完了したら、止血器具10を手首Wから取り外す。止血器具10は、面ファスナー30の雄側31および雌側32を剥がすことによって手首Wから取り外される。
【0067】
以上のように、本実施形態に係る止血器具10は、手首Wの穿刺部位Pに巻き付けるための帯体20と、帯体20を手首Wに巻き付けた状態で固定する固定手段30と、帯体20に連結され、かつ、流体を注入することにより拡張する拡張体40と、を有している。また、拡張体40は、流体の注入によって拡張可能な拡張部43と、拡張部43の周縁部の一部に形成された融着部50と、を有している。融着部50は、第1融着部51と、第1融着部51よりも接合力が小さい第2融着部52と、拡張部43を拡張した状態に維持することで、第2融着部52が経時的に剥離できるように拡張部43から第2融着部52側に向かって形成される剥離開始部53と、を有している。
【0068】
上記に係る止血器具10によれば、拡張部43が拡張した状態に維持することで、剥離開始部53を起点として第2融着部52における剥離面の面積が徐々に増す。これによって、拡張部43の体積が増加するため、止血器具10による穿刺部位Pへの圧迫力は、経時的に低減する。さらに、融着部50が剥離することにより拡張部43の内圧が経時的に減少するため、拡張部43の内圧を経時的に減少させる手段として経時的に厚みが薄くなるように拡張部を作製する必要がない。ゆえに、本発明の止血器具10は、拡張体40の強度を良好に保つことができ、かつ、血管閉塞を防止しつつ止血の進行に応じて圧迫力を経時的に低減する減圧調整が容易なものとなる。
【0069】
また、融着部50は、拡張部43の周縁部の一部に形成されている。このため、拡張部43を拡張させると、第2融着部52は手首Wの体表面から離れる方向へ移動する。このように、融着部50が手首Wに接触しにくい位置に配置されているため、止血器具10を装着した装着者が感じる不快感を低減することができる。
【0070】
また、止血器具10において、剥離開始部53は、拡張部43から第2融着部52側に向かって窪んだ凹部53aであり、凹部53aは、拡張部43と連通している。このため、拡張部43が拡張した状態で、凹部53aの先端付近に拡張部43の内圧から受ける力による応力集中が起きる。これにより、剥離開始部53は、剥離開始部53を起点として、剥離開始部53を起点とする融着部50の剥離をより確実に開始させることができる。よって、本発明の止血器具10は、減圧調整がより一層容易なものとなる。
【0071】
また、第1融着部51および第2融着部52は、拡張体40の一部が融着されることによって形成されている。このため、拡張部43の周縁がより強固に隙間なく接合される。これにより、拡張部43から外部へ流体が漏出して、不用意に減圧されるのを防止することができる。
【0072】
拡張体40は、融着部50により接合されたシート状の第1部材41とシート状の第2部材42とにより形成されている。これにより、拡張体40を容易に製造することができる。
【0073】
次に、上述した実施形態の変形例を説明する。なお、各変形例の説明において前述した実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0074】
(変形例1)
図7は、変形例1に係る止血器具の拡張体の構成の説明に供する図である。
【0075】
変形例1に係る止血器具の拡張体は、第2融着部152の構成のみが前述した実施形態と相違する。
【0076】
第2融着部152の幅Lは、
図7に示す平面視において、拡張部43から拡張体40の周縁側に向かう方向に沿って小さくなるように構成されている。
【0077】
第2融着部152の剥離が拡張部43から第1融着部51側へ向かって進展する場合、第2融着部152の剥離進展の初期は、第2融着部152の幅Lが大きいため、第2融着部152における剥離面の面積が比較的大きく形成される。第2融着部152における剥離面の面積が大きい場合、第2融着部152は、剥離が進展し易くなる。よって、剥離が進展するにつれて第2融着部152における剥離は進展し易くなる。
【0078】
ここで、一般的に、第2融着部52を剥離させる力は、拡張部43の内圧に比例するため、第2融着部52における剥離が進展することによって第2融着部52の剥離が進展し難くなる。上記のように第2融着部152の幅Lが拡張部43から拡張体40の周縁側に向かう方向に沿って小さくなるように構成されていることによって剥離が進展するにつれて第2融着部152における剥離が進展し易くなる。このため、拡張部43の内圧の減少によって第2融着部152を剥離させる力が弱まっても、剥離の進行が経時的に進み、第2融着部152の幅Lが小さくなるため、拡張部43の内圧の長時間の安定した減圧が可能となる。
【0079】
(変形例2)
図8(A)および(B)は、変形例2に係る止血器具の拡張体の構成の説明に供する図である。
【0080】
変形例2に係る止血器具の拡張体は、第2融着部252および剥離開始部253の構成のみが前述した実施形態と相違する。
【0081】
第2融着部252は、
図8(A)に示すように、格子状に形成された第3融着部254と、第3融着部254の格子の隙間に形成された第4融着部255とを有している。
【0082】
第3融着部254は、
図8(B)に示すように、第4融着部255よりも厚みが小さく形成されている。
【0083】
剥離開始部253は、第4融着部255のうち、拡張部43側に面する部分(
図8(A)を参照)によって形成されている。剥離開始部253は、
図8(A)に示す平面視において、窪んだ凹部であり、凹部は、拡張部43と連通している。なお、剥離開始部253は、拡張部43を拡張した状態で第2融着部252が経時的に剥離できる程度に接合力が小さくなるように融着してもよいし、融着しない部分によって形成してもよい。
【0084】
ここで、第2融着部252における接合力は、第2融着部252を形成する際の熱融着の圧着力の大きさを調整することによって大小関係の分布を形成することができる。具体的には、第1部材41および第2部材42を重ね合わせて、第2融着部252を形成する周縁部に圧着力を付与しながら熱融着する際に、第2融着部252における接合力は、付与する圧着力の大きさに分布をもたせることによって調整する。比較的大きな圧着力を付与して圧着した第3融着部254は、融着面同士がより強固に融着されて接合力が比較的高くなり、かつ、厚みも比較的小さくなる。逆に、比較的小さな圧着力を付与して圧着した第4融着部255は、融着面同士の融着が弱くなり接合力が小さくなり、かつ、厚みも比較的大きくなる。
【0085】
上記のような第3融着部254を形成する方法は特に限定されないが、例えば、第3融着部254は、格子状の凸部を備える金型によって第1部材41および第2部材42に圧着力を付与して熱融着することによって形成することができる。これにより、格子状の凸部を第1部材41および第2部材42に転写させた部分に第3融着部254の溝部254aを形成する。なお、第3融着部254の溝部254aは、第1部材41および第2部材42の両方(第2融着部252の両面)に形成する形態に限定されず、第1部材41または第2部材42のいずれか一方(第2融着部252の片面)に形成してもよい。
【0086】
上記変形例2に係る止血器具によれば、拡張部43が拡張した状態を維持することで、剥離開始部253を起点として第2融着部252における剥離が開始する。第3融着部254は格子状に形成され、第3融着部254よりも接合力が小さい第4融着部255が第3融着部254の格子の隙間に形成されている。このため、剥離の進展方向に沿って第3融着部254および第4融着部255が交互に配置されている。接合力が小さく剥離が進展し易い部分と、接合力が大きく剥離が進展し難い部分とが交互に配置されているため、第2融着部252における剥離が徐々に進展する。これによって、拡張部43の体積が徐々に増加するため、止血器具10による穿刺部位Pへの圧迫力を経時的に低減することができる。
【0087】
(変形例3)
図9(A)および(B)は、変形例3に係る止血器具300の説明に供する図である。
【0088】
変形例3に係る止血器具300は、融着部350の構成のみが前述した実施形態と相違する。なお、融着部350は、前述した実施形態と同様の構成を備える剥離開始部53を有している(
図3(A)を参照)。
【0089】
融着部350は、拡張部43から拡張体40の周縁側に向かって第2融着部352、第1融着部351の順に隣接して配置され、第2融着部352の厚みは、第1融着部351の厚みよりも大きくなるように形成されている。
【0090】
また、第2融着部352の厚みは、拡張部43から拡張体40の周縁側に向かって大きくなるように構成されている。
【0091】
前述した変形例2において説明したように、拡張体40に融着部350を形成する際に、融着部350の比較的大きな圧着力を付与して圧着した部分は、融着面同士がより強固に融着されて接合力が比較的高くなり、かつ、厚みも比較的小さくなる。ゆえに、融着部350の厚みに上記のような分布をもたせることによって、第2融着部352は、第1融着部351よりも接合力が小さく、かつ、拡張部43から拡張体40の周縁側に向かって接合力が小さくなるように構成されている。
【0092】
上記変形例3に係る止血器具300によれば、第2融着部152は、拡張部43から拡張体40の周縁側に向かって接合力が小さくなるように構成されている。第2融着部352は、拡張部43が拡張した際、拡張部43から拡張体40の周縁側へ向かって剥離して、第2融着部352における剥離面の面積を増加させることで、拡張部43の内圧を経時的に減少させる。また、第2融着部352は、拡張部43から拡張体40の周縁側へ向かって剥離するに伴って、第2融着部52の接合力が減少する。このため、拡張部43の内圧が減少によって第2融着部352を剥離させる力が弱まっても、剥離の進行が経時的に進むため、拡張部43の内圧の長時間の安定した減圧が可能となる。
【0093】
また、第2融着部352の厚みは、拡張部43から拡張体40の周縁側に向かって大きくなる。拡張体40に融着部350を形成する際に、比較的小さな圧着力を付与して圧着した部分は、融着面同士の融着が弱くなり接合力が小さくなり、かつ、厚みも比較的大きくなる。ゆえに、第2融着部352は、拡張部43から第1融着部351側に向かって接合力が小さくなるように形成されている。これにより、拡張部43の内圧が減少によって第2融着部352を剥離させる力が弱まっても、剥離の進行が経時的に進むため、拡張部43の内圧の長時間の安定した減圧が可能となる。
【0094】
融着部350は、拡張部43から拡張体40の周縁側に向かって第2融着部352、第1融着部351の順に隣接して配置され、第2融着部352の厚みは、第1融着部351の厚みよりも大きくなるように形成されている。融着部350の厚みが小さい部分は、融着部350の厚みが大きい部分よりも高い圧着力を付与して融着した部分である。そのため、融着部350の厚みが小さい部分は、融着面同士がより強固に融着されて接合力が高く形成される。ゆえに、第2融着部352では、比較的接合力を小さく形成することによって、拡張部43の効果的な減圧が可能となる。また、第1融着部351では、接合力が大きく形成されるため、拡張部43内から外部へ流体が漏出して不用意に減圧されるのを防止することができる。
【0095】
以上、実施形態および変形例を通じて本発明に係る止血器具を説明したが、本発明は説明した各構成のみに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0096】
例えば、止血器具を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0097】
また、本発明は、手首に装着して使用する止血器具に限らず、脚等に装着して使用する止血器具にも適用することができる。
【0098】
また、前述した実施形態では、融着温度や融着時間を調整することによって第2融着部の接合力を第1融着部よりも小さく形成したが、同様に、第2融着部52においても拡張部から拡張体の周縁側に向かって融着温度を低くしたり、融着時間を短くしたりすることによって拡張部43から拡張体の周縁側に向かって接合力が小さくなるように形成することができる。
【0099】
また、前述した実施形態および変形例1では、接合部は、融着によって形成される融着部としたが、流体を注入可能な拡張空間を形成し、かつ、経時的に接合が剥離可能な限り特に限定されず、接着剤による接着によって形成してもよい。この場合、接合部は、接着剤の量や種類を調整することによって接合力を調整することができる。
【0100】
また、前述した実施形態では、拡張体を2枚のシートによって構成していたが、流体の注入によって拡張可能な拡張部と、拡張部の周縁部の一部に形成された接合部(融着部)と、を備え、かつ、流体によって拡張可能である限り特に限定されない。例えば、拡張部は、1枚のシートによって構成されており、当該シートを折り重ね、縁部を接着または融着して袋状に形成してもよい。また、拡張部は、縁部を備えない風船状の部材によって構成されていてもよい。