【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る風車翼は、
FRPにより形成され、翼形状を有する基材と、
前記基材上に設けられ、金属、サーメット、セラミックス、又は、これらの少なくとも一つと樹脂との混合物を主成分とする中間層と、
前記中間層上に設けられ、5%以下の気孔率を有する溶射膜により形成される耐エロージョン被膜と、
を備える。
ここで、「気孔率」は、固体部分と気孔部分とを含む溶射膜全体に対して気孔部分が占める割合を示す指標であり、気孔率が低いほど溶射膜の緻密性が高い。「気孔率」は、例えば、溶射膜の断面を光学顕微鏡やSEM等で観察することで得られる画像を解析し、画像全体に占める気孔部分の面積比から算出してもよい。
なお、中間層は、金属、サーメット、セラミックス又は前記混合物の含有率がその他の成分の含有率よりも高い。
【0008】
上記(1)の構成によれば、風車翼の基材上に、中間層を介して、気孔率5%以下の溶射膜で形成される耐エロージョン被膜が配置される。つまり、FRP製の基材の表面に、中間層を介して優れた耐エロージョン性を発揮し得る緻密な溶射膜が配置されるので、風車翼の耐エロージョン性能を大幅に向上させることができる。
ここで、風車翼のように比較的大きな基材に溶射膜を形成する際、大気雰囲気中で作業できれば作業効率の向上が図られる。このように空気中で溶射膜の形成を行う際には、空気中の酸素と溶射材との反応による酸化被膜の生成を抑制するべく、例えば溶射材の粒子を基材に高速で溶射して酸素との反応時間を可能な限り短縮することで、気孔率が低く基材との密着性の高い緻密な溶射膜が形成され得る。しかし、このように緻密な溶射膜を基材上に直接的に形成すると基材の表面を傷つけてしまう虞がある。この点、上記(1)の方法によれば、基材と耐エロージョン被膜との間に中間層が介在するため、耐エロージョン被膜を形成する際の溶射によって基材の表面に与える損傷を抑制することができる。したがって、基材の機能を損なうことなく風車翼の耐エロージョン性能を大幅に向上させることができる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記耐エロージョン被膜を形成する前記溶射膜は、
アルミナ、タングステンカーバイド、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニア又はクロムカーバイドの少なくとも一つを含むサーメット、
又は、
Co系合金
により構成される。
【0010】
上記(2)の構成によれば、セラミックス系の材料を含むサーメット又はCo系合金等の高硬度で耐摩耗性の高い材料を用いて耐エロージョン被膜を形成することができる。
【0011】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、
前記中間層は、前記耐エロージョン被膜を形成する前記溶射膜に比べて気孔率が高い中間溶射膜を含む。
【0012】
上記(3)の構成によれば、基材と耐エロージョン被膜との間に、耐エロージョン被膜を形成する溶射膜よりも気孔率の高い中間溶射膜を含む中間層が配置される。すなわち、最外周には気孔率が低く緻密な耐エロージョン被膜を配置し、この耐エロ―ジョン被膜と基材との間には、気孔率が比較的高い中間溶射膜を配置する。このようにすれば、例えば、気孔率が5%以下と低い耐エロージョン被膜を形成する際の溶射速度よりも低い溶射速度で中間溶射膜を形成することができるから、中間層(中間溶射膜)を形成する際の溶射によって基材表面を傷つけてしまうことを効果的に抑制することができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、
前記耐エロージョン被膜を形成する前記溶射膜の気孔率に対する、前記中間溶射膜の気孔率の比が3倍以上である。
【0014】
上記(4)の構成によれば、耐エロージョン被膜を構成する溶射膜の気孔率に比べて3倍以上の気孔率を有する中間溶射膜によって中間層が形成される。つまり、中間層に比べて気孔率が1/3以下になるようにして耐エロージョン被膜が形成されるから、上記(3)で述べたように、基材の表面から段階的に気孔率が低下するような配置で、最外周に緻密な耐エロージョン被膜を形成することができる。
【0015】
(5)幾つかの実施形態では、上記(3)又は(4)の構成において、
前記耐エロージョン被膜を形成する前記溶射膜の気孔率が3%以下であり、
前記中間溶射膜の気孔率が6%以上である。
【0016】
上記(5)の構成によれば、気孔率が6%以上の中間溶射膜を用いて中間層が形成されるとともに、気孔率が3%以下の溶射膜を用いて耐エロージョン被膜が形成される。したがって、上記(5)の構成によっても、上記(3)又は(4)で述べたように、基材の表面から段階的に気孔率が低下するような配置で、最外周に緻密な耐エロージョン被膜を形成することができる。
【0017】
(6)幾つかの実施形態では、上記(3)乃至(5)の何れか1つに記載の構成において、
前記中間溶射膜は、
アルミナ、タングステンカーバイド、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニア又はクロムカーバイドの少なくとも一つを含むサーメット、
又は、
Co系合金、ステンレス、鉄鋼、チタン、銅又はアルミニウムの少なくとも一つを含む金属
により構成される。
【0018】
上記(6)の構成によれば、セラミックス系の材料を含むサーメット又はCo系合金等を含む金属等、耐摩耗性の高い材料を用いて中間層を形成することができる。
【0019】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載の構成において、
前記中間層は、金属テープを含む。
【0020】
上記(7)の構成によれば、基材と耐エロージョン被膜との間に配置される中間層として金属テープを適用することができる。つまり、基材上に金属テープを固定するという簡易な方法で、中間層を容易に形成することができる。
なお、金属テープの基材への固定手法は、金属テープ自体に設けられた接着層、または、金属テープとは別個の接着剤を用いて、金属テープを基材に貼り付けてもよい。
【0021】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れかの構成において、
前記基材は、前記中間層および前記耐エロージョン被膜により覆われた領域において、前記中間層および前記耐エロージョン被膜により覆われていない領域よりも大きな表面粗さRaを有していてもよい。
【0022】
上記(8)の構成によれば、中間層および耐エロージョン被膜により覆われる領域における基材の表面粗さRaを相対的に大きく設定することで、中間層の基材表面への接着性を向上させることができる。
ここで、中間層および耐エロージョン被膜により覆われる領域における基材の表面粗さRaを適度な値に設定するための一手法として、当該領域における基材表面に対してブラスト処理を行ってもよい。
なお、中間層および耐エロージョン被膜により覆われる領域における基材の表面粗さRaの具体的な数値範囲は特に限定されないが、例えば、0.2μm≦Ra≦20μmの関係を満たしてもよい。
【0023】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れかの構成において、
前記風車翼における前記耐エロージョン被膜の形成範囲の表面と、前記形成範囲外において前記耐エロージョン被膜に隣接する前記風車翼の表面との段差の大きさが、前記耐エロージョン被膜および前記中間層の合計膜厚よりも小さい。
【0024】
上記(9)の構成によれば、耐エロージョン被膜の形成範囲の表面と、前記形成範囲外において前記耐エロージョン被膜に隣接する前記風車翼の表面との段差を小さくし、耐エロージョン被膜の設置に起因した風車翼の空力性能の低下を抑制することができる。
なお、耐エロージョン被膜及び中間層の合計膜厚は0.4mm以下であってもよく、例えば、0.2mm以上0.3mm以下であってもよい。耐エロージョン被膜及び中間層の合計膜厚が0.4mm以下である場合、前述の段差は0.3mm以下の大きさにすることによって空力性能の低下を抑制することができる。
【0025】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(9)の何れかの構成において、
前記基材は、前記風車翼における前記耐エロージョン被膜の形成範囲の内側における前記基材の表面が、前記形成範囲の外側における前記基材の表面に対して陥没している。
【0026】
上記(10)の構成によれば、耐エロージョン被膜の形成範囲の内側における基材表面を陥没させることで、耐エロージョン被膜の形成範囲の境界における段差を小さくし、耐エロージョン被膜の設置に起因した風車翼の空力性能の低下を抑制することができる。
【0027】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(10)の何れかの構成において、
前記風車翼は、前記耐エロージョン被膜に隣接して前記基材上に設けられ、前記耐エロージョン被膜の形成範囲の境界から遠ざかるに従って厚さが減少するスロープ部材を備え、前記スロープ部材により前記段差を小さくするように構成される。
【0028】
上記(11)の構成によれば、耐エロージョン被膜に隣接してスロープ部材を設けることで、耐エロージョン被膜の形成範囲の境界における段差を小さくし、耐エロージョン被膜の設置に起因した風車翼の空力性能の低下を抑制することができる。
なお、上記(10)の構成、および、上記(11)の構成を併用することで、耐エロージョン被膜の形成範囲の境界における段差を小さくしてもよい。
【0029】
(12)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(11)の何れか1つに記載の構成において、
前記中間層及び前記耐エロージョン被膜は、前記翼形状の前記基材の表面のうち、少なくとも前記風車翼の翼先端側及び/又は前縁側の領域に設けられる。
【0030】
上記(12)の構成によれば、風車翼のうち、エロージョンによる劣化や損傷の影響を最も受けやすい翼先端側及び/又は前縁側の領域に、金属、サーメット、セラミックス、又は、これらの少なくとも一つと樹脂との混合物を主成分とする中間層と溶射膜による耐エロージョン被膜とを設けることができる。よって、エロージョンから風車翼を適切に保護することができる。
【0031】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る風車は、上記(1)乃至(12)の何れか一項の風車翼を含む風車ロータを備える。
この構成によれば、上記(1)乃至(12)の何れか一つで述べた作用及び効果を奏する風車翼を備えた風車を得ることができる。
【0032】
(13)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る風車翼の製造方法は、
FRPにより形成されて翼形状を有する基材上に、金属、サーメット、セラミックス、又は、これらの少なくとも一つと樹脂との混合物を主成分とする中間層を形成するステップと、
前記中間層上に設けられ、5%以下の気孔率を有する耐エロージョン被膜をHVOF溶射により形成するステップと、を備える。
【0033】
上記(13)の方法によれば、上記(1)で述べたように、基材と耐エロージョン被膜との間に中間層を介在させることにより、耐エロージョン被膜を形成する際の溶射による基材表面の損傷を抑制しつつ耐エロージョン性に優れた溶射材料を適宜選択して適用することができるので、基材の機能を損なうことなく風車翼の耐エロージョン性能を大幅に向上させることができる。
【0034】
(14)幾つかの実施形態では、上記(13)の方法において、
前記中間層は、大気プラズマ溶射により形成される。
【0035】
上記(14)の方法によれば、FRP製の基材上に形成される中間層を、FRPへの溶射に好適な大気プラズマ溶射により形成することができる。したがって、基材の表面を傷つけることなく中間層を形成することができる。
【0036】
(15)幾つかの実施形態では、上記(13)又は(14)に記載の方法において、
前記基材に対して相対的に溶射装置を移動させ、前記風車翼の翼先端の領域の場合は該翼先端に沿って、前記風車翼前縁の領域の場合は前記風車翼の翼長手方向に沿って、前記基材に対して相対的に溶射装置を移動させ、前記溶射装置の施工範囲よりも広い範囲に前記耐エロージョン被膜を形成する。
【0037】
一般に、溶射装置を定位置に設置して用いる際には有限の施工範囲がある。このため、例えば風車翼のような比較的大きな非溶射対象に対して溶射を行う場合は非溶射対象の全体にわたって溶射膜を形成することが困難である。この点、上記(15)の方法によれば、風車翼の基材に対して溶射装置を相対移動させるため、一定の箇所に設置して用いた場合の施工範囲に比べて、より広い範囲に大気プラズマ溶射膜やHVOF溶射膜を、風車翼の製造環境に合わせて形成することができる。