(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
巻き掛け式の無段変速機を備え、車速条件を含む所定条件の成立に応じてエンジン停止操作に依らずエンジン停止させるアイドリングストップ機能を実行可能とされると共に、前記無段変速機に対する作動油の油圧供給源であるオイルポンプとして前記エンジンを駆動源とする機械ポンプを備えた車両であって、
前記無段変速機におけるセカンダリ側可動シーブを該セカンダリ側可動シーブの軸方向における所定位置に係止機構を介して固定自在とされた固定部と、
前記アイドリングストップ機能が実行される直前タイミングであるか否かを判定し、該直前タイミングであると判定したことに応じて、前記固定部により前記セカンダリ側可動シーブを前記所定位置に固定させる制御部と、を備え、
前記係止機構は該係止機構を作動させるための独立したオイル流路を有する
車両。
前記セカンダリ側可動シーブを固定解除状態とするための前記係止部材の変位方向を解除側方向とし、前記セカンダリ側可動シーブの油圧室をセカンダリ油圧室としたとき、
前記係止部材の前記解除側方向への変位駆動が前記セカンダリ油圧室への供給油圧に基づき行われる
請求項2に記載の車両。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<1.車両の概要構成>
図1は、本発明に係る実施の形態としての車両1の構成概要を示した図である。なお、
図1では、車両1の構成のうち主に本発明に係る要部の構成のみを抽出して示している。
本実施の形態の車両1は、走行動力源としてのエンジン2と、トルクコンバータ4、前後進切替機構5、及び無段変速機6を有する動力伝達機構3と、動力伝達機構3における作動油の油圧制御を行う油圧制御部7と、ギヤ8及びギヤ9と、デファレンシャルギヤ10と、駆動輪11a及び駆動輪11bと、エンジン制御ユニット12と、伝達機構制御ユニット13と、バス14とを備えている。
【0019】
エンジン2は、車両1を走行させる走行用動力源(原動機)であり、燃料を消費して車両1の駆動輪11a、11bに作用させる動力を発生させる。エンジン2は、燃料を燃焼させて機関出力軸であるクランクシャフト2aに機械的な動力(エンジントルク)を発生させ、該機械的動力をクランクシャフト2aから駆動輪11a、11bに向けて出力可能とされている。
【0020】
動力伝達機構3は、エンジン2から駆動輪11a、11bへの動力伝達経路中に設けられ、エンジン2から駆動輪11a、11bへ動力を伝達するものであり、液状媒体としてのオイル(作動油)の油圧によって作動する。
動力伝達機構3においては、エンジン2のクランクシャフト2aと無段変速機6のインプットシャフトA1とがトルクコンバータ4、前後進切替機構5等を介して接続され、無段変速機構6のアウトプットシャフトA2がギヤ8及びギヤ9、デファレンシャルギヤ10等を介して駆動輪11a、11bに接続されている。
【0021】
トルクコンバータ4は、エンジン2と前後進切替機構5との間に配置され、エンジン2から伝達された動力のトルクを増幅させて(又は維持して)、前後進切替機構5に伝達可能に構成されている。トルクコンバータ4は、回転自在に対向配置されたポンプインペラ4a及びタービンランナ4bを備え、フロントカバー4cを介してポンプインペラ4aをクランクシャフト2aと一体回転可能に結合し、タービンランナ4bを前後進切替機構5に連結して構成されている。これらポンプインペラ4a及びタービンランナ4bの回転に伴い、ポンプインペラ4aとタービンランナ4bとの間に介在された作動油などの粘性流体が循環流動することにより、その入出力間の差動を許容しつつトルクを増幅して伝達することが可能とされている。
【0022】
また、トルクコンバータ4は、タービンランナ4bとフロントカバー4cとの間に設けられ、タービンランナ4bと一体回転可能に連結されたロックアップクラッチ4dをさらに備える。ロックアップクラッチ4dは、油圧制御部7から供給される作動油の圧力によって作動し、フロントカバー4cとの係合状態(ロックアップON)と開放状態(ロックアップOFF)とに切り替えられる。ロックアップクラッチ4dがフロントカバー4cと係合している状態では、フロントカバー4c(すなわちポンプインペラ4a)とタービンランナ4bが係合され、ポンプインペラ4aとタービンランナ4bとの相対回転が規制され、入出力間の差動が禁止されるので、トルクコンバータ4は、エンジン2から伝達されたトルクをそのまま前後進切替機構5に伝達する。
【0023】
前後進切替機構5は、エンジン2からの動力(回転出力)を変速可能であると共に、該動力の回転方向を切替可能に構成されている。前後進切替機構5は、遊星歯車機構5a、摩擦係合要素としての前後進切替クラッチ(フォワードクラッチ)CL及び前後進切替ブレーキ(リバースブレーキ)BR等を含んで構成される。遊星歯車機構5aは、相互に差動回転可能な複数の回転要素としてサンギヤ、リングギヤ、キャリア等を含んで構成される差動機構であり、前後進切替クラッチCL及び前後進切替ブレーキBRは、遊星歯車機構5aの作動状態を切り替えるための係合要素であり、例えば多板クラッチなどの摩擦式の係合機構等によって構成することができ、ここでは油圧式の湿式多板クラッチが用いられている。
【0024】
前後進切替機構5は、油圧制御部7から供給される作動油の圧力によって前後進切替クラッチCL、前後進切替ブレーキBRが作動し作動状態が切り替えられる。具体的に、前後進切替機構5は、前後進切替クラッチCLが係合状態(ON状態)、前後進切替ブレーキBRが解放状態(OFF状態)である場合にエンジン2からの動力を正転回転(車両1が前進する際にインプットシャフトA1が回転する方向)でインプットシャフトA1に伝達する。一方、前後進切替機構5は、前後進切替クラッチCLが解放状態、前後進切替ブレーキBRが係合状態である場合にエンジン2からの動力を逆転回転(車両1が後進する際にインプットシャフトA1が回転する方向)でインプットシャフトA1に伝達する。前後進切替機構5は、ニュートラル時には、前後進切替クラッチCL、前後進切替ブレーキBRが共に解放状態とされる。
ここで、以下、上記のような前後進切替クラッチCL及び前後進切替ブレーキBRの係合/解除の制御を行う制御系をまとめて「CB制御系5b」と表記する。
【0025】
無段変速機6は、エンジン2から駆動輪11a、11bへの動力の伝達経路における前後進切替機構5と駆動輪11a、11bとの間に設けられ、エンジン2の動力を無段階に(連続的に)変速して出力可能な変速装置である。具体的に、無段変速機6は、インプットシャフトA1に伝達(入力)されるエンジン2からの回転動力(回転出力)を所定の変速比で変速して変速機出力軸であるアウトプットシャフトA2に伝達し、アウトプットシャフトA2から駆動輪11a、11bに向けて変速された動力を出力する。
【0026】
無段変速機6は、インプットシャフト(プライマリシャフト)A1に連結されたプライマリプーリ61、アウトプットシャフト(セカンダリシャフト)A2に連結されたセカンダリプーリ64、プライマリプーリ61とセカンダリプーリ64との間に掛け渡された(巻き掛けられた)ベルトやチェーン等の巻き掛け部材67を含んで構成される巻き掛け式の無段変速機(連続可変トランスミッション:Continuously Variable Transmission=CVT)として構成されている。
【0027】
プライマリプーリ61は、位置が固定とされたプライマリ側固定シーブ62と、インプットシャフトA1の軸方向に変位可能なプライマリ側可動シーブ63とを同軸に対向配置することにより形成されている。また、セカンダリプーリ64は、位置が固定とされたセカンダリ側固定シーブ65と、アウトプットシャフトA2の軸方向に変位可能なセカンダリ側可動シーブ66とを同軸に対向配置することにより形成されている。巻き掛け部材67は、プライマリ側の固定シーブ62と可動シーブ63との間、セカンダリ側の固定シーブ65と可動シーブ66との間に形成された略V字の溝に掛け渡されている。
【0028】
無段変速機6では、油圧制御部7からプライマリプーリ61の油圧室(後述するプライマリ油圧室68、クランプ用油圧室69)、セカンダリプーリ64の油圧室(後述するセカンダリ油圧室71)に供給される作動油の油圧(プライマリ圧、セカンダリ圧)に応じて、プライマリ側可動シーブ63、セカンダリ側可動シーブ66がプライマリ側固定シーブ62、セカンダリ側固定シーブ65との間に巻き掛け部材67を挟み込む力(挟圧力:クランプ力)を、プライマリプーリ61及びセカンダリプーリ64の個々で制御することが可能とされる。これにより、プライマリプーリ61及びセカンダリプーリ64のそれぞれにおいて、溝のV字幅を変更して巻き掛け部材67の回転半径(巻き掛け径)を調節することができ、プライマリプーリ61の入力回転速度に相当する入力回転数(プライマリ回転数)とセカンダリプーリ64の出力回転速度に相当する出力軸回転数(セカンダリ回転数)との比である変速比を無段階に変更することが可能とされている。また、プライマリプーリ61及びセカンダリプーリ64の巻き掛け部材67についての挟圧力が調整されることで、これに応じたトルク容量で動力を伝達することが可能となっている。
【0029】
なお、本実施の形態における無段変速機6の具体的な構成については後に改めて説明する。
【0030】
無段変速機6におけるアウトプットシャフトA2に伝達された動力はギヤ8及びギヤ9を介してデファレンシャルギヤ10に伝達される。デファレンシャルギヤ10は、伝達された動力を各駆動軸を介して駆動輪11a、11bに伝達する。デファレンシャルギヤ10は、車両1が旋回する際に生じる駆動輪11a、11b間の回転速度差を吸収する。
【0031】
上記の構成により、車両1においては、エンジン2が発生させた動力をトルクコンバータ4、前後進切替機構5、無段変速機6、デファレンシャルギヤ10等を介して駆動輪11a、11bに伝達することができる。この結果、車両1は、駆動輪11a、11bの路面との接地面に駆動力[N]が生じ、これにより走行することができる。
【0032】
油圧制御部7は、作動油の油圧によってトルクコンバータ4のロックアップクラッチ4d、前後進切替機構5の前後進切替クラッチCL及び前後進切替ブレーキBR、無段変速機6のプライマリ側可動シーブ63及びセカンダリ側可動シーブ66等を含む動力伝達機構3を作動させるものである。
油圧制御部7は、複数の油路、オイルリザーバ、オイルポンプ、複数の電磁弁などを含んで構成され、伝達機構制御ユニット13からの信号に応じて、動力伝達機構3の各部に供給される作動油の流量や油圧を制御する。また、油圧制御部7は、動力伝達機構3の所定の箇所の潤滑を行う潤滑油供給装置としても機能する。
【0033】
エンジン制御ユニット12及び伝達機構制御ユニット13は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピュータを備えて構成され、CAN(Controller Area Network)等の所定の車載ネットワーク通信規格に対応したバス14を介して相互にデータ通信可能に接続されている。
【0034】
エンジン制御ユニット12は、エンジン2についての燃料噴射制御、点火制御、吸入空気量調節制御などの各種運転制御を行う。具体的には、エンジン2に設けられた各種のアクチュエータ(例えばスロットル弁を駆動するスロットルアクチュエータや燃料噴射を行うインジェクタ等)を制御することでエンジン2についての各種運転制御を行う。
エンジン制御ユニット12は伝達機構制御ユニット13と通信を行っており、必要に応じてエンジン2の運転状態に関するデータを伝達機構制御ユニット13に出力する。また、必要に応じ、伝達機構制御ユニット13からの各種信号に基づいてエンジン2の運転制御を行う。
【0035】
本実施の形態のエンジン制御ユニット12は、車速条件を含む所定条件の成立に応じてエンジン停止操作に依らずエンジン2を停止させるアイドリングストップ機能を実行可能とされている。ここで、以下「アイドリングストップ」については「ISS」(アイドリングストップ&スタート)とも表記する。
具体的に、本例のエンジン制御ユニット12は、ISS機能の作動許可条件として定められた所定条件(例えば、エンジン2が充分に暖機されている、全てのドアが閉まっている、運転席シートベルトが着用されている等の条件)が成立しているか否かを判定する。そして、該作動許可条件が成立している下で、ISS機能の作動条件として定められた所定条件、すなわち車速条件を含む所定条件が成立したことに応じて、ISS機能を作動する。すなわち、エンジン2を停止させる。
本例の場合、車速条件としては、例えば車速が10km/h等の所定閾値(本例では閾値>0)以下であることを条件としている。車速以外の作動条件としては、少なくともブレーキペダルが踏まれていることを条件としている(他にも例えばステアリングが操作されていない、急坂でない等の条件を付加することもできる)。
【0036】
伝達機構制御ユニット13は、油圧制御部7を制御することによって、トルクコンバータ4、前後進切替機構5、無段変速機6など動力伝達機構3の各部の動作制御を行う。特に、無段変速機6の変速比制御を行う。
なお、伝達機構制御ユニット13が実行する実施の形態としての処理については後に改めて説明する。
【0037】
<2.実施の形態における無段変速機の構成>
図2乃至
図4を参照して、本実施の形態における無段変速機6の構成を説明する。
図2は、無段変速機6の概略横断面図である。
図示するように無段変速機6においては、プライマリ側可動シーブ63に油圧を印加する油圧室としてプライマリ油圧室68とクランプ用油圧室69とが設けられ、またセカンダリ側可動シーブ66に油圧を印加する油圧室としてセカンダリ油圧室71が設けられている。図中の軸受部70は、プライマリ側固定シーブ62に形成されたインプットシャフトA1と同軸回転する同軸回転部62aを回転自在に保持する軸受ベアリングであり、無段変速機6のケース(不図示)に対して固定されている。
【0038】
プライマリ油圧室68とクランプ用油圧室69は、プライマリ側可動シーブ63に対してそれぞれ独立して油圧を印加することが可能とされている(本例ではプライマリ側可動シーブ63のそれぞれ異なる位置に油圧を印加可能とされている)。
【0039】
プライマリ油圧室68には後述するプライマリ圧(P圧)としての油圧が供給され、セカンダリ油圧室71とクランプ用油圧室69には後述する第1セカンダリ圧(S(1)圧)としての油圧が供給される。変速比制御においては、S(1)圧に対して相対的にP圧が徐々に大きくなるように油圧を調整していくことでプライマリ側の巻き掛け径が徐々に大となり、変速比が徐々に小さくなる(High側となる)。逆に、P圧に対して相対的にS(1)圧が徐々に大きくなるように油圧を調整していくことでプライマリ側の巻き掛け径が徐々に小となり、変速比が徐々に大きくなる(LOW側となる)。
図2では、変速比が略最大である場合の無段変速機6の様子を示している。
【0040】
本例の無段変速機6においては、セカンダリ油圧室71を構成する壁の一部が、セカンダリ側可動シーブ66の軸方向に可動とされた可動壁72として形成されている。可動壁72は、例えば略椀状の外形を有しており、椀の開口がセカンダリ側可動シーブ66の背面(巻き掛け部材67の巻き掛け面とは逆側の面)に対向している。可動壁72は、椀の底部(つまりセカンダリ側可動シーブ66から最も遠い部分)における中央部が開口されている(後述する底盤部72aにおける開口部72as、及び盤部72bにおける開口部72bs)。可動壁72は、該開口にセカンダリ側固定シーブ65の同軸回転部65a(アウトプットシャフトA2と同軸回転する部分)が挿通されて、該同軸回転部65aに沿った変位、つまりはセカンダリ側可動シーブ66の軸方向に沿った変位が可能とされている。
可動壁72は、セカンダリ側可動シーブ66から遠ざかる方向への最大変位量が図中のストッパ部73により規制されている。本例の場合、ストッパ部73は、同軸回転部65aの外周に固着されて位置が固定とされている。このストッパ部73により可動壁72の底部72aが当接することで、可動壁72の位置が規制される。
【0041】
本実施の形態において、可動壁72は、セカンダリ側可動シーブ66に対し付勢部材74、74を介して連結されている。各付勢部材74は、例えば圧縮コイルバネで構成され、セカンダリ側可動シーブ66の軸方向において可動壁72をセカンダリ側可動シーブ66から遠ざける方向に付勢する付勢力を有する。このような付勢部材74の付勢力により、巻き掛け部材67のクランプ力がアシストされる。
なお、付勢部材74の数は二つに限定されるものではなく、一つ或いは三つ以上とすることもできる。
【0042】
また、本実施の形態の無段変速機6においては、可動壁72に対して付勢部材74の付勢力に抗する油圧を印加可能な壁変位用油圧室75が設けられている。壁変位用油圧室75は、ストッパ部73を内包する位置に配置されており、油圧の供給に応じて可動壁72をストッパ部73により規制された位置からセカンダリ側可動シーブに近づく方向に変位させることが可能とされている。
なお、図中の軸受部76は、セカンダリ側固定シーブ65の同軸回転部65aを回転自在に保持する軸受ベアリングである。
【0043】
ここで、本実施の形態の無段変速機6は、セカンダリ側可動シーブ66を該セカンダリ側可動シーブ66の軸方向における所定位置に係止機構を介して固定自在に構成されている。具体的に、本例の無段変速機6は、該固定のための構成として、セカンダリ側固定シーブ65における同軸回転部65aに形成されたロック用油路YL及びロック用油圧室65bと、ロックピン77と、可動壁72に形成された係止用凹部72pとを備えている。
ロック用油圧室65bは、同軸回転部65aの外周面の一部が該同軸回転部65aの中心軸方向にオフセットされた穴部(凹部)として形成され、ロックピン77全体を収納可能とされている。ロック用油路YLはロック用油圧室65bと連通され、ロック用油圧室65bに油圧を供給可能とされている。ロック用油圧室65bへの油圧供給により、ロック用油圧室65bに収納された状態のロックピン77を同軸回転部65aの外周側に押し出すことが可能とされる。
【0044】
図3Aは可動壁72の概略横断面図である。
可動壁72には、図示のように底盤部72aと対向して盤部72bが形成されている。
図3B、
図3Cの概略平面図にそれぞれ示すように、盤部72b、及び底盤部72aは略円盤状の外形を有し、それぞれ中央部に同軸回転部65aを挿通するための開口部72bs、開口部72asが形成されている。そして、盤部72bには、開口部72bsの外周において底盤部72a側に凸となる突出部72btが環状に形成され、底盤部72aには、開口部72asの外周において盤部72b側に凸となる突出部72atが環状に形成されている。これら突出部72atと突出部72btは互いの突出方向における先端部同士が対向するように位置されており、突出部72atと突出部72btの先端部同士の間には空隙が与えられている。該空隙が、突出部72atと突出部72btとの間を断絶する環状のスリット72oとされている(
図3A参照)。なお、
図3Bでは盤部72bを底盤部72aとは逆側の視点から見た平面図により表しているため、突出部72btは破線により表している。同様に、
図3Cでは底盤部72aを盤部72bとは逆側の視点から見た平面図により表しているため、突出部72atは破線により表している。
【0045】
開口部72as及び開口部72bsに同軸回転部65aが挿通された際、同軸回転部65aの外周面と突出部72at及び突出部72btとの間には空隙が生じる。該空隙が、係止用凹部72pとして形成されている(
図3A、
図2参照)。ここで、係止用凹部72pの幅(セカンダリ側可動シーブ66の軸方向における長さ)はロックピン77の幅よりも僅かに大とされ、また開口部72asの外縁から突出部72atの内周面までの距離及び開口部72abの外縁から突出部72btの内周面までの距離はロックピン77の長さ(セカンダリ側可動シーブ66の軸方向に直交する方向の長さ)よりも短くされている。これにより係止用凹部72pは、ロックピン77の一部を挿入可能とされている。
【0046】
盤部72bには、突出部72btの外周に該盤部72bの円弧に沿った貫通孔72bo、72boが形成されている(
図3A、
図3B参照)。これら貫通孔72boと、上記したスリット72oとが形成されていることで、セカンダリ油圧室71に供給された油圧の一部を係止用凹部72pに供給することが可能とされている。
【0047】
図4は、可動壁72が
図2に示す位置、すなわちストッパ部73に当接している位置からセカンダリ側可動シーブ66側に所定量変位された際の無段変速機6の概略横断面図を示している。
ロック用油圧室65bの形成位置は、
図4に示すように可動壁72が所定量変位されたときに、ロック用油圧室65b内に収納されたロックピン77が係止用凹部72pと対向するように設定されている。
【0048】
ここで、ロック用油圧室65bには、該ロック用油圧室65bに油圧が非供給とされている状態においてロックピン77を収納状態で保持するための機構を設けることもできる。例えば、ロックピン77として磁性体が用いられる場合に対応して、ロックピン77を収納状態で保持するための磁石を設けた構成とすること等が考えられる。この場合、磁石による磁力は、ロック用油圧室65bに対する油圧供給に応じてロックピン77の保持状態が解除されるように設定しておく。
【0049】
<3.実施の形態における油圧制御部の構成>
図5は、本実施の形態における油圧制御部7の構成を説明するための図である。なお、
図5では無段変速機6に形成されたプライマリ油圧室68、クランプ用油圧室69、セカンダリ油圧室71、壁変位用油圧室75、及びロック用油圧室65bも併せて示している。
【0050】
図5において、油圧制御部7は、動力伝達機構3の各部に作動油を供給するオイル供給源として、エンジン2を駆動源とする機械ポンプ31を備えている。さらに、油圧制御部
7は、電気で作動するモータ32を駆動源とする電動ポンプ33を備えている。
機械ポンプ31及び電動ポンプ33は、油圧制御部7内のドレン34に貯留された作動油をストレーナ35で濾過した後に吸入圧縮して吐出する。機械ポンプ31により吐出された作動油は、油圧経路36に流入する。
電動ポンプ33により
吐出された作動油は、該電動ポンプ33の吐出口に接続された出口経路37を介して、後述する供給制御弁52に供給される。本実施の形態では、電動ポンプ33は、アイドリングストップ機能の実行時、すなわちエンジン2の停止時において機械ポンプ31の代替として用いられるものではなく、該電動ポンプ33による吐出油の流路は機械ポンプ31による吐出油の流路には合流されず、独立の流路とされている。
なお、出口流路37上には、油圧経路36や供給制御弁52側から電動ポンプ33へのオイルの逆流を防止するチェック弁38が設けられている。
【0051】
油圧経路36には、ライン圧調整バルブ39が設けられている。ライン圧調整バルブ39は、機械ポンプ31で発生された油圧を調圧するものである。ライン圧調整バルブ39には、SLSリニアソレノイド40により制御圧(パイロット圧)が供給される。SLSリニアソレノイド40は、
図1に示した伝達機構制御ユニット13から送信されたデューティ信号(デューティ値)によって決まる電流値に応じて制御圧を発生させる電磁バルブである。
【0052】
ライン圧調整バルブ39は、SLSリニアソレノイド40による制御圧に応じて、油圧経路36内の油圧を調整する。ライン圧調整バルブ39によって調圧された油圧経路36内の油圧がライン圧PLとして用いられる。
【0053】
ライン圧調整バルブ39は、例えば、弁本体内で弁体(スプール)がその軸方向に摺動して流路の開閉もしくは切替を行うスプール弁を適用することができ、入力ポートに油圧経路36が接続され、パイロット圧を入力するパイロットポートにSLSリニアソレノイド40が接続され、出力ポートからライン圧PLの調圧により発生する余剰流を排出可能に構成されている。
【0054】
油圧経路36は、ライン圧PLに調整された油圧を供給する油路として、無段変速機6のプライマリ側(プライマリ油圧室68)への油圧を供給する第1油路36aと、セカンダリ側(セカンダリ油圧室71、壁変位用油圧室75)への油圧を供給する第2油路36bと、
図1に示したCB制御系5bの油圧を調整するためのCB制御系調圧回路80への油圧を供給する第3油路36cとを有している。
なお、CB制御系調圧回路80は、調圧バルブや該調圧バルブの動作を制御するアクチュエータ等を備え、該アクチュエータが伝達機構制御ユニット13により駆動制御されることでCB制御系5bの油圧を調整するように構成されている。
【0055】
第1油路36aに対しては、第1変速制御弁44及び第2変速制御弁45が設けられている。第1変速制御弁44は、プライマリ油圧室68に連通された油路YPと第1油路36aとの間に挿入され、伝達機構制御ユニット13によりデューティ制御される第1デューティソレノイド(DS1)46の駆動に応じて、油路YPへのオイル供給、すなわちプライマリ油圧室68へのオイル供給を調整する。また、第2変速制御弁45は、油路YPからのオイルを入力可能に設けられ、伝達機構制御ユニット13によりデューティ制御される第2デューティソレノイド(DS2)47の駆動に応じて、プライマリ油圧室68からのオイル排出を調整する。
つまり、第1デューティソレノイド46が作動すると、第1変速制御弁44からオイルがプライマリ油圧室68に導入され、プライマリ側可動シーブ63がプライマリプーリ61の溝幅を狭める方向に移動して、この結果、巻き掛け部材67の巻き掛け径が増加してアップシフトする。第2デューティソレノイド47が作動すると、第2変速制御弁45によりプライマリ油圧室68からオイルが排出され、プライマリ側可動シーブ63がプライマリプーリ61の溝幅を広げる方向に移動して、巻き掛け部材67の巻き掛け径が減少してダウンシフトする。このように、第1デューティソレノイド46及び第2デューティソレノイド47を作動させることで、無段変速機6の変速比を制御することが可能とされている。
なお、以下、第1変速制御弁44、第2変速制御弁45によって調整されるプライマリ油圧室68の油圧のことを「プライマリ圧」と称するものとし、「P圧」と略称する。
【0056】
第2油路36bに対しては、第1調圧バルブ41が設けられている。第1調圧バルブ41は、ライン圧PLを元圧として調圧された油圧を出力する。第1調圧バルブ41には、SLSリニアソレノイド42により制御圧が供給される。SLSリニアソレノイド42としても、ライン圧調整バルブ39のSLSリニアソレノイド40と同様に、伝達機構制御ユニット13から送信されたデューティ信号(デューティ値)によって決まる電流値に応じて制御圧を発生させる電磁バルブとして構成されている。
【0057】
第1調圧バルブ41は、例えばスプール弁であり、伝達機構制御ユニット13によりデューティ制御されるSLSリニアソレノイド42の出力油圧をパイロット圧として入力し、該パイロット圧に基づき、バルブ内に導入されるライン圧PLを元圧として減圧された油圧を出力する。第1調圧バルブ41から出力された油圧は、第1セカンダリ圧として用いられ、油路YSを介してセカンダリ油圧室71、及びクランプ用油圧室69に供給される。このように供給される第1セカンダリ圧に応じて、無段変速機6における巻き掛け部材67の挟圧力が増減される。
ここで、以下、「第1セカンダリ圧」については「S(1)圧」とも表記する。
【0058】
ライン圧調整バルブ39の出力ポートには、副調圧バルブ48が接続されている。副調圧バルブ48としても、ライン圧調整バルブ39と同様にスプール弁とされ、伝達機構制御ユニット13によりデューティ制御されるSLSリニアソレノイド49の制御圧に応じて、ライン圧調整バルブ39から排出される余剰流の油圧を調圧する。
【0059】
ライン圧調整バルブ39の出力ポートには、さらにトルクコンバータ4のロックアップクラッチ4dの係合/開放を制御するL/U制御系80が接続されており、ライン圧調整バルブ39から余剰流が発生したときには、副調圧バルブ48によって余剰流が調圧され、該調圧された余剰流がL/U制御系80(或いは無段変速機6より低圧で制御可能な低圧制御系)に供給される。
【0060】
また、副調圧バルブ48は、出力ポートから余剰流の調圧により発生するさらなる余剰流を、動力伝達機構3内の所定の箇所の各部潤滑などに供給できるよう構成されている。図示は省略したが、L/U制御系80や各部潤滑などに供給された余剰流は、最終的にドレン34に戻されるように油路が形成されている。
【0061】
ここで、本実施の形態の油圧制御部7には、無段変速機6において上述した壁変位用油圧室75、ロック用油圧室65bが設けられたことに対応して、第2調圧バルブ50、SLSリニアソレノイド51、供給制御弁52、及び弁アクチュエータ53が設けられている。
第2調圧バルブ50は、第2油路36bを介して供給されるライン圧PLを入力可能に設けられ、ライン圧PLを元圧として調圧された油圧を出力する。第2調圧バルブ50としても第1調整バルブ42と同様に例えばスプール弁とされ、伝達機構制御ユニット13によりデューティ制御されるSLSリニアソレノイド51の出力油圧をパイロット圧として入力し、該パイロット圧に基づき、バルブ内に導入されるライン圧PLを元圧として減圧された油圧を出力する。第2調圧バルブ50から出力された油圧は、第2セカンダリ圧として用いられ、油路YWを介して壁変位用油圧室75に供給される。
以下、「第2セカンダリ圧」については「S(2)圧」とも表記する。
【0062】
供給制御弁52は、電動ポンプ33からの出口流路37とロック用油圧室65bに連通されたロック用油路YLとの間に挿入され、弁アクチュエータ53によって開閉駆動されることで、ロック用油圧室65bに対する油圧供給を制御する。弁アクチュエータ53は、伝達機構制御ユニット13によって制御されるソレノイド等のアクチュエータとされる。
ロック用油路YLを介してロック用油圧室65bに供給される油圧は電動ポンプ33を供給源とする油圧とされるため、以下、「電動ポンプ圧」と称するものとし、「EOP圧」と略称する。
【0063】
なお、図示は省略したが、油圧制御部7には、少なくともP圧、S(1)圧、及びS(2)圧を検出する圧力センサが設けられている。検出されたこれらP圧、S(1)圧、及びS(2)圧の情報は伝達機構制御ユニット13に送信される。
【0064】
<4.実施の形態としてのクランプ力制御>
本実施の形態では、アイドリングストップによるエンジン停止に起因した巻き掛け部材67のスリップ防止を図るべく、伝達機構制御ユニット13が以下の処理を実行する。
図6は、実施の形態としてのクランプ力制御を実現するために伝達機構制御ユニット13が実行すべき具体的な処理手順を示したフローチャートである。なお、伝達機構制御ユニット13は、
図6に示す処理を例えば内蔵するROM等の所定の記憶装置に記憶されたプログラムに基づき実行する。
また、この図に示す処理を実行するにあたっては、伝達機構制御ユニット13は、変速比の制御を通常モードとしての油圧制御モードにより行っていることを前提とする。該通常モードとは、
図7に示すように、P圧とS(1)圧のみにより変速比を制御するモードである。通常モードにおいては、壁変位用油圧室75に対するS(2)圧の供給が行われていないため、可動壁72はストッパ部73に当接した状態にある。
【0065】
図6において、伝達機構制御ユニット13はステップS101で、減速状態でISS作動許可条件を満たしているか否かを判定する。すなわち、車両1が減速状態にあり且つ前述したISSの作動許可条件としての所定条件(エンジン2が充分に暖機されている、全てのドアが閉まっている、運転席シートベルトが着用されている等の条件)を満たしている状態にあるか否かを判定する。
減速状態でISS作動許可条件を満たしていない場合、伝達機構制御ユニット13はこの図に示す処理を終える。つまり、この場合は通常モードによる変速比制御が継続される。
【0066】
一方、減速状態でISS作動許可条件を満たしている場合には、伝達機構制御ユニット13はステップS102に進み、変速比がLOW側閾値を超えたか否かを判定する。変速比がLOW側閾値を超えていなければ、伝達機構制御ユニット13はこの図に示す処理を終える。つまり、通常モードによる変速比制御が継続される。
【0067】
変速比がLOW側閾値を超えていれば、伝達機構制御ユニット13はステップS103に進み、油圧制御モードを壁移動モードに切替える。
ここで、壁移動モードでは、
図8に示すように、壁変位用油圧室75に対するS(2)圧の供給を開始して、可動壁72をセカンダリ側可動シーブ66に近づく方向に移動させる。このとき、巻き掛け部材67のクランプ力に大きな変化が生じないよう、壁移動モードでは、セカンダリ油圧室71に対するS(1)圧を抜きながら徐々に壁変位用油圧室75に対するS(2)圧を高めていく。また、壁移動モードでは、変速比が目標変速比と一致するようにP圧、S(1)圧、及びS(2)圧の制御を行う。
伝達機構制御ユニット13に対しては、このように変速比を目標変速比に一致させつつ可動壁72をセカンダリ側可動シーブ66に近づく方向に移動させるためのマップが予め用意されており、伝達機構制御ユニット13は該マップに従って壁移動モードとしての油圧制御を行う。このマップは、例えば変速比(目標変速比)とS(2)圧とを変数として対応するP圧とS(1)圧とが求まるように生成されている。
【0068】
ステップS103に続くステップS104で伝達機構制御ユニット13は、ISS作動許可状態のまま可動壁72がピン係止可能位置まで移動したか否かを判定する。ここで、ピン係止可能位置とは、先の
図4に示したように、ロック用油圧室65b内に収納されたロックピン77が係止用凹部72pと対向する状態となる位置である。可動壁72がピン係止可能位置に位置された状態では、付勢部材74としてのバネが略最大に圧縮される。
可動壁72の移動量は変速比、P圧、S(1)、S(2)圧、及び付勢部材74のバネ力から求まるため、伝達機構制御ユニット13はこれらの値に基づいて可動壁72がピン係止可能位置まで移動したか否かを判定する。
【0069】
ISS作動許可状態が途中で解除される等、ISS作動許可状態のまま可動壁72がピン係止可能位置まで移動しなかったと判定した場合、伝達機構制御ユニット13はステップS109に進み、油圧制御モードを壁位置復帰モードに切替える。すなわち、巻き掛け部材67のクランプ力に大きな変化が生じないように、セカンダリ油圧室71に対するS(1)圧を高めながら徐々に壁変位用油圧室75に対するS(2)圧を低下させて、可動壁72をストッパ部73側に移動させる。壁位置復帰モードにおいても、先のステップS103で用いたマップ(目標変速比とS(2)圧とを変数としてP圧とS(1)圧とを求めるマップ)を用いることで、変速比の目標変速比からの乖離を防止する。
そして、続くステップS110で伝達機構制御ユニット13は、壁位置が復帰するまで待機する、すなわち可動壁72がストッパ部73に当接する位置に移動するまで待機した上で、ステップS111で油圧制御モードを通常モードに切替え、この図に示す処理を終える。
このように、可動壁72のピン係止可能位置方向への移動が開始されても、途中でISS作動許可状態が解除された場合(つまりアイドリングストップが実行されなくなった場合)には、可動壁72の位置を復帰させた上で、P圧及びS(1)圧のみを用いた通常モードによる変速比制御に移行される。
【0070】
一方、ステップS104でISS作動許可状態のまま可動壁72がピン係止可能位置まで移動したと判定した場合、伝達機構制御ユニット13はステップS105に進み、ピン押出処理を実行する。すなわち、
図9に示すようにロック用油圧室65bに対するEOP圧の供給を実行させ、ロックピン77を可動壁72の係止用凹部72p側に押し出させる。ロック用油圧室65bにEOP圧を供給させるにあたり、伝達機構制御ユニット13は
図5に示したモータ32を駆動させると共に、供給制御弁52が開状態となるように弁アクチュエータ53を制御する。該ステップS105の押出処理により、ロックピン77は可動壁72における突起部72at、72btと当接する位置まで押し出される。このように突起部72at、72btと当接した状態では、ロックピン77は、その一部が可動壁72の係止用凹部72p内に位置しつつ、残り部分はロック用油圧室65b内に位置される。
【0071】
ステップS105に続くステップS106で伝達機構制御ユニット13は、EOP圧、S(1)圧、S2(2)圧、及びP圧を低下させる処理を行う。すなわち、本例ではこれらの圧を略0に低下させる。
このような油圧低下処理が実行されることで、上記の押出処理で押し出された状態のロックピン77が、可動壁72を同軸回転部65aに対して係止することになる(
図10参照)。具体的には、各付勢部材74の付勢力に抗って可動壁72の動きをロック(固定)する係止力が得られる。
前述のように可動壁72がピン係止可能位置にある状態では付勢部材74としてのバネが略最大に圧縮された状態とされていたことから、上記のようにロックピン77によって可動壁72の位置が固定とされることに伴っては、セカンダリ側可動シーブ66の位置も固定される。従って、この状態では油圧を供給せずとも、比較的大きなクランプ力を維持することができる。すなわち、ISSによるエンジン停止に起因して油圧が不足しても必要クランプ力を維持することができ、巻き掛け部材67のスリップ防止を図ることができる。
【0072】
ここで、ステップS101及びステップS102の条件が満たされた以降には、エンジン制御ユニット12の制御に基づきISS機能が実行される(つまりエンジン2が停止される)。ステップS106に続くステップS107で伝達機構制御ユニット13は、ISSから復帰するまで、すなわち停止されたエンジン2が再び始動されるまで待機する。
ISSから復帰したとされた場合、伝達機構制御ユニット13はステップS108のS(2)圧上昇制御として、S(2)圧を上昇させるようにSLSリニアソレノイド51を制御した上で、ステップS109のモード切替え処理(壁位置復帰モードへのモード切替え処理)を行う。
ステップS108のS(2)圧上昇制御により、ロックピン77に作用する付勢部材74の付勢力が緩和される。そして、その状態でステップS109の壁位置復帰モードへのモード切替えが行われる、すなわちセカンダリ油圧室71への油圧供給(S(1)圧の供給)が再開されることで、該油圧が可動壁72における開口部72bo及びスリット72oを介してロックピン77に印加される(
図11参照)。この結果、ロックピン77はその全体がロック用油圧室65b内に押し戻され、ロックピン77による可動壁72の固定状態が解除される。この状態で壁位置復帰モードによる油圧制御(変速比制御)が継続されることで、可動壁72がストッパ部73に近づく方向に徐々に移動されていく。
【0073】
上述のように、ステップS109のモード切替え処理が実行された後は、ステップS110で壁位置が復帰したとされたことに応じて、ステップS111で通常モードへの切替え処理が行われる。すなわち、壁位置が復帰したことに応じて、P圧及びS(1)圧のみを用いた通常の変速比制御に移行される。
【0074】
なお、上記ではアイドリングストップ機能が実行される直前タイミングであるか否かの判定を、減速状態でISS作動許可条件を満たし且つ変速比が所定閾値を超えたか否かの判定として行う場合を例示したが、該直前タイミングであるか否かの判定は他の手法により行うこともできる。例えば、エンジン制御ユニット12が、ISSの作動条件が成立したことに応じてISSを実行する予定である旨を表す作動予定信号を伝達機構制御ユニット13に対して出力するように構成しておき、伝達機構制御ユニット13は、該作動予定信号が受信されたか否かを直前タイミングであるか否かの判定として行うことが考えられる。或いは、ISSの作動条件として設定された条件よりも僅かに緩和された条件が成立したか否か(例えば、ISS作動条件として設定された車速閾値よりも僅かに大きい車速以下となったか否か等)を直前タイミングであるか否かの判定として行うことも考えられる。
【0075】
また、上記ではセカンダリ側可動シーブ66の位置を固定するにあたり、該セカンダリ側可動シーブ66をロックピン77によって可動壁72及び付勢部材74を介して間接的に位置固定部材に係止する例を挙げたが、例えばセカンダリ側可動シーブ66を位置固定部材に対して直接的に係止する構成を採る等、セカンダリ側可動シーブ66の位置を固定するための構成は他にも態様に考えられる。
【0076】
<5.実施の形態のまとめ>
上記のように実施の形態の車両(1)は、巻き掛け式の無段変速機(6)を備え、車速条件を含む所定条件の成立に応じてエンジン停止操作に依らずエンジン停止させるアイドリングストップ機能を実行可能とされると共に、無段変速機に対する作動油の油圧供給源であるオイルポンプとしてエンジンを駆動源とする機械ポンプ(31)を備えた車両であって、無段変速機におけるセカンダリ側可動シーブ(66)を該セカンダリ側可動シーブの軸方向における所定位置に係止機構を介して固定自在とされた固定部(係止用凹部72p、ロックピン77、可動壁72、付勢部材74)と、アイドリングストップ機能が実行される直前タイミングであるか否かを判定し、該直前タイミングであると判定したことに応じて、固定部によりセカンダリ側可動シーブを所定位置に固定させる制御部(伝達機構制御ユニット13)とを備えている。
【0077】
アイドリングストップの直前タイミングに合わせてセカンダリ側可動シーブが所定位置に固定されることで、エンジン停止に伴い作動油の油圧が低下する状況下において、必要とされる巻き掛け部材クランプ力を維持することが可能とされる。
従って、アイドリングストップによるエンジン停止に起因した巻き掛け部材のスリップ防止を図ることができる。巻き掛け部材のスリップ防止が図られることで、該スリップに起因した振動の発生防止が図られる共に、無段変速機寿命の延命化を図ることができる。
また、固定部によりセカンダリ側可動シーブを固定した後は、巻き掛け部材クランプ力維持のための比較的大きな油圧を供給する必要がなくなるため、機械ポンプの負荷を低減でき、燃費向上が図られる。
さらに、係止機構を介してセカンダリ側可動シーブの位置を固定しているので、アイドリングストップからの復帰時で油圧が不足する場合にもクランプ力を維持可能となる。アイドリングストップからの復帰時には、例えばCB制御系5b等の他の部位で油圧が消費されるため、無段変速機6に対する油圧が不足傾向となるが、実施の形態では係止機構によりクランプ力を維持するものとしているため、そのようなアイドリングストップ復帰時における油圧不足に対しても必要クランプ力を維持可能となる、すなわち巻き掛け部材のスリップ防止を図ることができる。
【0078】
また、実施の形態の車両においては、固定部における係止機構は、自身の変位に応じてセカンダリ側可動シーブの固定状態/固定解除状態が切り替わるように設けられた係止部材(ロックピン77)を有しており、係止部材の変位駆動が作動油の油圧により行われている。
これにより、作動油の有効利用が図られる。
【0079】
さらに、実施の形態の車両においては、作動油の油圧供給源として電動ポンプ(33)をさらに備え、セカンダリ側可動シーブを固定状態とするための係止部材の変位方向を固定側方向としたとき、制御部は、係止部材の固定側方向への変位駆動が電動ポンプからの供給油圧に基づき行われるように制御を行っている。
これにより、アイドリングストップ間際でエンジン回転数が低下している状態であっても確実にセカンダリ側可動シーブが係止される。
すなわち、係止機構を用いたセカンダリ側可動シーブのクランプ力維持がより確実に実現されるようにすることができる。
【0080】
さらにまた、実施の形態の車両においては、セカンダリ側可動シーブを固定解除状態とするための係止部材の変位方向を解除側方向とし、セカンダリ側可動シーブの油圧室をセカンダリ油圧室としたとき、係止部材の解除側方向への変位駆動がセカンダリ油圧室への供給油圧に基づき行われている。
これにより、アイドリングストップからの復帰時には、エンジン始動に応じたセカンダリ油圧室への油圧供給開始に連動して(自動的に)係止部材が解除方向に駆動され、セカンダリ側可動シーブの固定状態が解除される。
従って、アイドリングストップからの復帰に対応して(変速比制御の再開に対応して)セカンダリ側可動シーブの固定状態を解除するにあたり、該解除のための専用の制御が不要となり、制御部処理負担の軽減を図ることができる。
【0081】
また、実施の形態の車両においては、セカンダリ側可動シーブの油圧室であるセカンダリ油圧室を構成する壁の一部が軸方向に可動とされた可動壁(72)とされており、セカンダリ側可動シーブと可動壁との間を連結し、軸方向において可動壁をセカンダリ側可動シーブから遠ざける方向に付勢する付勢部材(74)と、可動壁に対して付勢部材の付勢力に抗する油圧を印加可能に設けられた壁変位用油圧室(75)とを備え、固定部における係止機構は、軸方向における特定位置(ピン係止可能位置)に位置された可動壁を無段変速機において位置が固定とされた位置固定部材(同軸回転部65a)に対して係止自在とされた係止部材(ロックピン77)を有しており、制御部は、直前タイミングと判定したことに応じ、壁変位用油圧室に対する油圧供給により可動壁を特定位置まで変位させ、係止部材により可動壁を位置固定部材に対して係止させている。
上記の弾性部材により、巻き掛け部材クランプ力がアシスト(補助)される。そして、該弾性部材を備えた構成において、上記の制御が行われることで、アイドリングストップ間際で油圧が低下傾向となる、すなわち巻き掛け部材クランプ力が低下傾向となる状況に対応して該弾性部材が徐々に圧縮されていき、クランプ補助力が高められていく。従って、油圧が徐々に低下していく状況に対しクランプ力を一定に保ち易くなり、この点で巻き掛け部材のスリップのより確実な防止が図られるようにできる。
【0082】
<6.変形例>
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記した具体例に限定されず多様な構成を採り得るものである。
例えば、上記では、セカンダリ側可動シーブの位置固定/固定解除を油圧を用いて行う例を挙げたが、例えばロックピン77をアクチュエータや磁力により変位させることでセカンダリ側可動シーブの位置固定/固定解除を実現する等、油圧以外の手段を用いてセカンダリ側可動シーブの位置固定/固定解除が行われるようにしてもよい。
【0083】
また、セカンダリ側可動シーブの位置を固定する固定部としては、ピンによる係止を行う構成に限定されない。該固定部としては、油圧や電力が継続的に供給されなくてもセカンダリ側可動シーブの位置を固定とする係止状態を維持可能に構成されたものであればよい。