(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2シュラウドケーシングの下流端は、前記インペラの軸方向において、前記第2先端縁の上流端より下流側に位置する、請求項1乃至3の何れか1項に記載の遠心圧縮機。
前記第2シュラウドケーシングの上流端と前記第2前縁との前記インペラの回転軸線の延在方向に沿った長さは、前記第1先端縁の前記上流端と前記第2前縁と前記ハブとの接続位置との径方向に沿った長さよりも大きい、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の遠心圧縮機。
前記第2シュラウドケーシングの内周面は、前記第2シュラウドケーシングの下流端から上流側に向かって前記インペラの回転軸線に対して平行に延在する平行面と、前記平行面の上流端から上流側に向かうにつれて半径が大きくなるベルマウス形状を有するベルマウス面と、前記ベルマウス面の上流端と前記第2シュラウドケーシングの外周面とを接続する曲面状の接続面と、を含む、
請求項2に記載の遠心圧縮機。
前記第2シュラウドケーシングの外周面は、前記第2シュラウドケーシングの下流端から上流側に向かって上流側に向かうにつれて半径が大きくなる曲面状の拡径面であって径方向の内側に向かって凹となるように形成された拡径面と、前記拡径面の上流端と前記第2シュラウドケーシングの内周面とを接続する曲面状の接続面と、を含む、
請求項1に記載の遠心圧縮機。
【背景技術】
【0002】
例えばターボチャージャには、エンジンが吸入する空気の密度を高めるために遠心圧縮機が用いられる。
遠心圧縮機は、空気の流れにエネルギーを与え圧力を上昇するためにハブに複数枚の翼が立設して構成されるインペラを有し、インペラを回転軸により高速回転することにより空気を回転軸方向に流れを吸い込み、空気に回転軸周りの高速の速度を与え同時に圧力を上昇させ、半径外周に向かって流出させ、インペラの出口の外周に設置されたディフューザに、その高速且つ昇圧された空気を送入する機能を有するインペラが設置されている。
以下では「遠心圧縮機インペラ」、または単に「インペラ」と称す。
【0003】
図26は、従来の遠心圧縮機インペラにおける最高効率点近傍での子午面上の流線を示す図である。また、
図27は、
図26におけるA−A矢視図であり、回転流面上における翼間の流線を示す図である。
【0004】
図27に示すように、遠心圧縮機インペラでは、一般に、最高効率点近傍において、翼012の入口の回転流面において翼前縁030に流入する流線と翼断面の中心線Lcとのなす角として定義される衝突角が略0となり、損失が小さく効率が高くなる。
【0005】
遠心圧縮機において、回転数を一定に維持した状態で流量が低下すると、
図28に示すように、翼前縁030において衝突角θが増加し、翼先端縁近傍の流れが翼面から剥離して翼012が失速し、効率が低下する。
【0006】
流量がさらに減少して衝突角θが増加すると、翼先端縁近傍の流れの剥離領域はハブ側に向けて拡大し、翼前縁030の近傍に逆流を含む循環流Fcが生じる。
図29に示すように、この循環流Fcを子午面で見ると、翼前縁030の近傍の循環流Fcは、インペラの径方向外側に向けて流れ、これに伴って当該流れの圧力が上昇するため、当該流れが翼012の先端縁近傍で上流側に向かう。この上流側への流れは、その後インペラの径方向内側に向けて流れ、翼前縁で負圧面に沿う流れが剥離して、再び流れがインペラの径方向外側に向かう、という循環を行う。このため、流量の減少に伴って損失が増加しやすい。なお、以下では、上記循環流Fcを「子午面の逆流」という。
このような子午面の逆流は、最高効率点から流量が低下し翼先端縁近傍の流れが翼面から剥離し失速すると共に始まり、さらに流量が減少すると翼前縁近傍の領域に拡大する、という特性を有する。
【0007】
さらに流量が減少すると、子午面の逆流が拡大する。子午面の逆流が翼高さ方向及び軸方向に拡大すると、翼入口の流れの歪が翼後縁に達するため、ディフューザが失速し、サージが発生する。
【0008】
このように、流量が減少すると、翼の失速と子午面の逆流が発生して圧力低下や損失増加による効率低下が生じ、さらに流量が減少すると、子午面の逆流が拡大し、ディフューザが失速してサージが発生するという課題が生じる。
【0009】
上記従来の遠心圧縮機について、回転数一定における流量と圧力比との関係を示す流量−圧力比特性曲線C0の代表例を
図30に示す。
【0010】
図30に示すように、遠心圧縮機においてある流量よりも流量が減少すると、圧力比(及び効率)が低下し、さらに流量が低下するとサージが発生する。
【0011】
図30に示すように、回転数一定における流量―圧力比特性では、設計点(最高効率点近傍の点)とその回転数でのサージ点の流量差がサージマージンと呼ばれる。また、
図8に示すように、連続した回転数範囲においてコンプレッサの運用のサージマージンとは、各運用点と各回転数でのサージ点の包絡線であるサージラインとの流量差のことを言う。
【0012】
ターボチャージャ用の遠心圧縮機では、上述したような翼の失速がサージマージンを狭くし、流量の減少に伴って圧力及び効率が低下するため、サージマージンをより広くし、流量の減少に伴う圧力低下や効率低下が少ない遠心圧縮機が望まれている。
【0013】
特許文献1には、低流量時におけるサージング限界流量を低減することを目的とした遠心圧縮機が開示されている。特許文献1に記載の遠心圧縮機では、遠心圧縮機のインペラと吸気口との間を連通する吸気通路の通路断面を径方向に絞る抵抗体を設けて、インペラの翼への流入速度を上昇させることで、低流量時におけるサージング限界流量の低減を図っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に記載の遠心圧縮機では、低流量時におけるサージング限界流量の低減を図るためには、多孔板、格子状の板又はメッシュ状の板として構成された抵抗体を設ける必要があり、遠心圧縮機の構成が複雑化しやすい。
【0016】
本発明は、上述したような従来の課題に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を簡素な構成で抑制可能な遠心圧縮機及びこれを備えるターボチャージャを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る遠心圧縮機は、インペラ及び前記インペラを収容する第1シュラウドケーシングを備える遠心圧縮機であって、前記インペラは、ハブと、前記ハブの外周面に立設された複数の翼とを含み、前記複数の翼のうち少なくとも一つの翼は、前記第1シュラウドケーシングに沿って延在する第1先端縁と、前記第1先端縁の上流端から前記インペラの径方向における内側へ延在する第1前縁と、前記径方向における前記第1前縁の内側端から上流側へ延在する第2先端縁と、前記第2先端縁の上流端から前記径方向における内側へ延在する第2前縁と、を含む。
【0018】
上記(1)に記載の遠心圧縮機において、流量が低下すると第1前縁のうち第1先端縁側の部分の近傍の流れが翼面から剥離し、上述した「子午面の逆流」が発生し、インペラの径方向内側の第2先端縁に向けて逆流による局所的な内向きの流れが生じる。一方、第2前縁を通過した流れは、翼によりインペラ回転方向に力を受けてその周方向の速度が大きくなり、その周方向の速度に起因する遠心力により下流に向かって流れながら径方向外向きに流れる。第1前縁のうち第1先端縁側の部分の近傍で上流に向かって逆流した後の径方向内側への流れは、第2前縁を通過後の径方向外向きの流れにより進行を妨げられるため、それ以上径方向内側へ流れない。その結果、「子午面の逆流」は、発達を抑制されて第1前縁と第1先端縁の近傍の領域に閉じ込められ、安定した循環流となる。
【0019】
この安定した循環流によって、第1前縁の位置で流路が閉塞されるため、第1前縁から流れがインペラにほとんど流入せず、第2前縁からの流れが主にインペラに流入する。また、安定した循環流と第2前縁からインペラに流入した流れとの境界に滑らかな境界面が形成されるため、第2前縁を通過した流れは、後縁まで滑らかに流れることができる。その結果、前述した翼の失速と逆流に伴う圧力低下や損失増加が抑制され、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を抑制することができる。
また、特許文献1に係る遠心圧縮機と比較して、多孔板等からなる複雑な構成の抵抗体を設ける必要がないため、簡素な構成で上記効果を得ることができる。
【0020】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の遠心圧縮機において、前記第1シュラウドケーシングの内周面の内側に設けられた第2シュラウドケーシングを更に備え、前記第2シュラウドケーシングは、第1前縁の上流側に位置し、前記第1シュラウドケーシングの内周面との間に第1流路を形成するとともに、前記第2シュラウドケーシングの内周面の内側に第2流路を形成するよう構成される。
【0021】
上記(2)に記載の遠心圧縮機において、流量が低下すると第1前縁のうち第1先端縁側の部分の近傍の流れが翼面から剥離し、上述した「子午面の逆流」が発生し、インペラの径方向内側の第2先端縁に向けて逆流による局所的な内向きの流れが生じる。一方、第2前縁を通過した流れは、翼によりインペラ回転方向に力を受けてその周方向の速度が大きくなり、その周方向の速度に起因する遠心力により下流に向かって流れながら径方向外向きに流れる。第1前縁のうち第1先端縁側の部分の近傍で上流に向かって逆流した後の径方向内側への流れは、第2シュラウドケーシングの外周面により進行を妨げられるため、それ以上径方向内側へ流れない。その結果、「子午面の逆流」は、発達を抑制されて第1前縁と第1先端縁の近傍の領域に閉じ込められ、安定した循環流となる。
【0022】
この安定した循環流によって、第1前縁の位置で流路が閉塞されるため、第1前縁から流れがインペラにほとんど流入せず、第2前縁からの流れが主にインペラに流入する。また、安定した循環流と第2前縁からインペラに流入した流れとの境界に滑らかな境界面が形成されるため、第2前縁を通過した流れは、後縁まで滑らかに流れることができる。その結果、前述した翼の失速と逆流に伴う圧力低下や損失増加が抑制され、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を抑制することができる。
また、特許文献1に係る遠心圧縮機と比較して、多孔板等からなる複雑な構成の抵抗体を設ける必要がないため、簡素な構成で上記効果を得ることができる。
【0023】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載の遠心圧縮機において、前記第2先端縁に固定された環状の第2先端縁シュラウドを更に備える。
【0024】
上記(3)に記載の遠心圧縮機によれば、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を抑制することができる。
【0025】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の遠心圧縮機において、前記第2先端縁に固定された環状の第2先端縁シュラウドと、前記第1シュラウドケーシングの内周面の内側に設けられた第2シュラウドケーシングと、を更に備え、前記第2シュラウドケーシングは、第1前縁の上流側に位置し、前記第1シュラウドケーシングの内周面との間に第1流路を形成するとともに、前記第2シュラウドケーシングの内周面の内側に第2流路を形成するよう構成され、前記第2先端縁シュラウドの上流端は、前記第2シュラウドケーシングの下流端よりも上流側に位置する。
【0026】
上記(4)に記載の遠心圧縮機によれば、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を抑制することができる。
【0027】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記第1先端縁に固定された環状の第1先端縁シュラウドを更に備える。
【0028】
上記(5)に記載の遠心圧縮機によれば、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を抑制することができる。
【0029】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記第2シュラウドケーシングの下流端は、前記径方向において、前記第2先端縁より外側に位置する。
【0030】
上記(6)に記載の遠心圧縮機によれば、「子午面の逆流」における径方向内側に向かう流れの進行を第2先端縁よりも径方向外側で妨げることができるため、「子午面の逆流」の発達を効果的に抑制することができる。これにより、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を簡素な構成で効果的に抑制することができる。
【0031】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記第2シュラウドケーシングの下流端は、前記インペラの軸方向において、前記第2先端縁の上流端より下流側に位置する。
【0032】
上記(7)に記載の遠心圧縮機によれば、「子午面の逆流」における径方向内側に向かう流れの進行を第2先端縁よりも径方向外側且つ第1前縁に近い位置で妨げることができるため、「子午面の逆流」の発達を効果的に抑制することができる。これにより、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を簡素な構成で効果的に抑制することができる。
【0033】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記第2前縁は、前記径方向における前記第2前縁の外側端が前記径方向における前記第2前縁の内側端より上流側に位置するように、前記径方向に対して傾斜している。
【0034】
上記(8)に記載の遠心圧縮機によれば、第2前縁がこのように傾斜していることにより、第2前縁近傍における翼の圧力面がインペラの出口方向(径方向外側)を向くこととなる。インペラに流入する流れには翼の圧力面に垂直な方向の力が作用するため、流れを軸方向から径方向外側に転向する作用が大きくなる。
【0035】
このため、第2流路からインペラに流入する流れを、第2前縁近傍で半径方向外側に転向させる作用を強めることができる。これにより、第1シュラウドケーシングの内周面近傍における境界層の拡大を抑制し、翼の後縁における先端側での流速の分布を一様な分布に近づけることができる。
【0036】
その結果、インペラ効率が向上し、ディフューザの圧力回復率が向上するため、遠心圧縮機の高効率化が可能となる。
【0037】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記第1前縁は、前記径方向における前記第1前縁の外側端が前記径方向における前記第1前縁の内側端より上流側に位置するように、前記径方向に対して傾斜している。
【0038】
上記(9)に記載の遠心圧縮機によれば、第1前縁がこのように傾斜していることにより、第2前縁を傾斜させた場合と同様の理由により、第1流路からインペラに流入する流れを、第1前縁近傍で半径方向外側に転向させる作用を強めることができる。これにより、第1シュラウドケーシングの内周面近傍における境界層の拡大を抑制し、翼の後縁における先端側での流速の分布を一様な分布に近づけることができる。
【0039】
その結果、インペラ効率が向上し、ディフューザの圧力回復率が向上するため、遠心圧縮機2の高効率化が可能となる。
【0040】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(9)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記第1前縁は、前記径方向における前記第1前縁の外側端が前記径方向における前記第1前縁の内側端より下流側に位置するように、前記径方向に対して傾斜している。
【0041】
上記(6)に記載の遠心圧縮機によれば、翼の振動強度を高くすることが可能となる。
【0042】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(10)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記第2シュラウドケーシングは、前記インペラの子午面において翼形状を有する。
【0043】
上記(11)に記載の遠心圧縮機によれば、第2シュラウドケーシング自体の抵抗に起因する圧力損失を抑制することができる。
【0044】
(12)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(11)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記第2シュラウドケーシングの内周面は、上流側に向かうにつれて半径が大きくなるベルマウス形状を有する。
【0045】
上記(12)に記載の遠心圧縮機によれば、下流側に向かうにつれて第2流路の流路断面積を小さくすることができるため、第2流路の流れを軸方向に加速することができる。
【0046】
(13)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(12)に記載の遠心圧縮機において、前記第2シュラウドケーシングの外周面は、上流側に向かうにつれて半径が大きくなる曲面状の拡径面と、前記拡径面の上流側にて前記拡径面と前記第2シュラウドケーシングの内周面とを接続する曲面状の接続面とを含む。
【0047】
上記(13)に記載の遠心圧縮機によれば、接続面及び拡径面に沿って滑らかに第1前縁に流れを導くことができる。
【0048】
(14)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(13)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記第1流路は、ベルマウス形状の入口を有し且つ下流側に向かうにつれて流路断面積が小さくなる絞り流路部を有する。
【0049】
上記(14)に記載の遠心圧縮機によれば、絞り流路部の流路断面積が下流側に向かうにつれて小さくなるため、第1流路の流れを軸方向に加速することができる。
【0050】
(15)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(14)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記インペラケーシングは、前記第2シュラウドケーシングを支持するように前記第1流路に設けられた支柱を含み、前記支柱は、前記インペラの径方向に直交する断面において翼形状を有する。
【0051】
上記(15)に記載の遠心圧縮機によれば、支柱の断面形状に損失の小さい断面形状を使用するため、支柱自体の抵抗に起因する圧力損失を低減することができる。
【0052】
(16)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(15)の何れか1項に記載の遠心圧縮機において、前記インペラケーシングは、前記第2シュラウドケーシングを支持するように前記第1流路に設けられた支柱と、前記径方向における前記第1流路の外側から前記支柱を支持するように設けられた環状支持部と、を含み、前記第2シュラウドケーシング、前記支柱、及び前記環状支持部は、一体化されており、前記環状支持部は、前記第1シュラウドケーシングに対して着脱可能に構成される。
【0053】
上記(16)に記載の遠心圧縮機によれば、第2シュラウドケーシングを第1シュラウドケーシングの別の部品とし、同軸に組み上げることができるようにすれば、インペラの第2先端縁の高さを鋳造で設定又は機械加工により調整した上で、その高さに応じて第2シュラウドケーシング、支柱及び環状支持部により構成される部品を製造することができる。このため、遠心圧縮機の性能設計の自由度及び構造設計の自由度を高くすることができる。
【0054】
(17)本発明の少なくとも一実施形態に係るターボチャージャは、上記(1)乃至(16)の何れか1項に記載の遠心圧縮機を備える。
【0055】
上記(17)に記載のターボチャージャによれば、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を簡素な構成で抑制可能な遠心圧縮機を備えるため、簡素且つ高性能なターボチャージャを提供することができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を簡素な構成で抑制可能な遠心圧縮機及びこれを備えるターボチャージャが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】一実施形態に係るターボチャージャ100における遠心圧縮機2の一部を概略的に示す子午面図である。
【
図2】
図1におけるインペラ4の一部を概略的に示す正面図である。
【
図3】遠心圧縮機2における最高効率点近傍の大流量時(以下、「流量A時」という。)における子午面上の流れを示す図である。
【
図4】遠心圧縮機2における流量Aよりも流量が小さい小流量時(以下、「流量B時」という。)における子午面上の流れを示す図である。
【
図5】遠心圧縮機2の流量B時における第1先端縁24近傍の翼間流面の流れ(
図4におけるB−B矢視図)と、遠心圧縮機2の流量B時における第2先端縁28近傍の翼間流面の流れ(
図4におけるC−C矢視図)とを重ねて示す図である。
【
図6】遠心圧縮機2の流量−圧力比特性曲線C1を示す図である。
【
図7】遠心圧縮機2の流量−効率特性曲線C2を示す図である。
【
図8】ターボチャージャ100におけるエンジン回転数の増加にほぼ比例して増加するインペラ回転数毎の遠心圧縮機2の流量−圧力比特性曲線C1a,C1b,C1cと、それらに対応するインペラ回転数毎の従来の遠心圧縮機の流量−圧力比特性曲線C0a,C0b,C0cを示す図である。
【
図9】従来の遠心圧縮機における流量−圧力比特性曲線C0a,C0b,C0cとエンジン作動特性との関係を示す図である。
【
図10】遠心圧縮機2における流量−圧力比特性曲線C1a,C1b,C1cとエンジン作動特性との関係を示す図である。
【
図11】一実施形態に係るターボチャージャ100における遠心圧縮機2の子午面の一部を概略的に示す図である。
【
図12】
図11におけるインペラ4の一部を概略的に示す正面図である。
【
図13】一実施形態に係るターボチャージャ100における遠心圧縮機2の子午面の一部を概略的に示す図である。
【
図14】
図13におけるインペラ4の一部を概略的に示す正面図である。
【
図15】環状支持部54は、第1シュラウドケーシング14に対して着脱される様子を示す図である。
【
図16】一実施形態に係るターボチャージャ100における遠心圧縮機2の子午面の一部を概略的に示す図である。
【
図17】
図16におけるインペラ4の一部を概略的に示す正面図である。
【
図18】第1流路16にバルブ62が設けられた構成を示す子午面図である。
【
図19】一実施形態に係るターボチャージャ100における遠心圧縮機2の一部を概略的に示す子午面図である。
【
図20】
図19に示す遠心圧縮機2における流量Aよりも流量が小さい小流量時(以下、「流量B時」という。)における子午面上の流れを示す図である。
【
図21】一実施形態に係るターボチャージャ100における遠心圧縮機2の一部を概略的に示す子午面図である。
【
図22】一実施形態に係るターボチャージャ100における遠心圧縮機2の一部を概略的に示す子午面図である。
【
図23】一実施形態に係るターボチャージャ100における遠心圧縮機2の一部を概略的に示す子午面図である。
【
図24】一実施形態に係るターボチャージャ100における遠心圧縮機2の一部を概略的に示す子午面図である。
【
図25】第1前縁の内側端36の定義及び第2先端縁28の下流端70の定義を説明するための図である。
【
図26】従来の遠心圧縮機における最高効率近傍での子午面上の流線を示す図である。
【
図27】
図19におけるA−A矢視図であり、回転流面上における翼間の流線を示す図である。
【
図28】
図20に示す状態から流量が減少して衝突角を持って流れが流入する場合における、回転流面上の翼間の流線を示す図である。
【
図29】
図19に示す状態から流量が減少して衝突角を持って流れが流入する場合における、子午面上の流線を示す図である。
【
図30】従来の遠心圧縮機における、流量−圧力比特性曲線C0を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0059】
図1は、本発明の一実施形態に係るターボチャージャ100における遠心圧縮機2の一部を概略的に示す子午面図である。
図2は、一実施形態に係る遠心圧縮機2におけるインペラ4の一部を概略的に示す正面図である。
【0060】
図1に示すように、遠心圧縮機2は、インペラ4及びインペラ4を収容するインペラケーシング6を備える。インペラ4は、不図示のエンジンの排ガスの流れを利用して回転する不図示のタービンのロータと同軸上に設けられており、タービンのロータによって回転駆動されて、エンジンへ供給する空気を圧縮するように構成されている。インペラ4を通過した空気は、ディフューザ5及び不図示のスクロール室を通った後、エンジンへ供給される。
【0061】
インペラ4は、ハブ8と、ハブ8の外周面10に立設された複数の翼12と、を含む。以下では、インペラ4の径方向を単に「径方向」、インペラ4の軸方向を単に「軸方向」、インペラ4の周方向を単に「周方向」という。また、以下では、軸方向における空気流れの上流側を単に「上流側」、軸方向における空気流れの下流側を単に「下流側」という。
【0062】
インペラケーシング6は、第1シュラウドケーシング14と、第1シュラウドケーシング14の内側に設けられ、第1シュラウドケーシング14との間に環状の第1流路16を形成するとともに、内側に第2流路18を形成する第2シュラウドケーシング20と、第2シュラウドケーシング20を支持するように第1流路16の流路長さにおいて上流部分に設けられた支柱52と、径方向における第1流路16の外側から支柱52を支持するように設けられた円環状支持部54と、を含む。第2シュラウドケーシング20は、インペラ4の上流側に設けられている。
【0063】
図1及び
図2に示すように、翼12の各々は、後縁22、第1先端縁24、第1前縁26、第2先端縁28、第2前縁30を含む。
【0064】
図1に示すように、第1先端縁24は、後縁22の先端32から第1シュラウドケーシング14の内周面66に沿って曲線状に延在する。第1先端縁24は、第1シュラウドケーシング14の内周面66との間には、わずかな隙間が設けられている。
【0065】
第1前縁26は、第2シュラウドケーシング20の下流端48に軸方向に隙間を介して対向するように第2シュラウドケーシング20の下流側に設けられる。第1前縁26は、第1先端縁24の上流端34から径方向における内側へ延在し、第2先端縁28の下流端70と第1先端縁24の上流端34とを接続する。第1前縁26は、第1流路16に対向するように径方向に延在し、第2シュラウドケーシング20の下流端48の下流側に下流端48に隣接して設けられる。
図1に示す例示的形態では、第1前縁26は、軸方向と直交する方向に沿って直線状に延在する。
【0066】
第2先端縁28は、第2シュラウドケーシング20の内周面40のうち上記下流端48の近傍部分に隙間を介して対向するように内周面40に沿って延在し、径方向における第2シュラウドケーシング20の内側に設けられる。第2先端縁28は、径方向における第1前縁26の内側端36から上流側へ直線状又は曲線状に延在しており、第1先端縁24よりも上流側に位置する。また、第1先端縁24と第2先端縁28との間に第1前縁26を介しているため、第1先端縁24の前縁半径が第2先端縁28の下流端70の半径よりも大きい(すなわち、第2先端縁28の下流端70と回転軸線Oとの距離は、第1先端縁24の上流端34と回転軸線Oとの距離よりも大きい。)。図示する例示的形態では、第2先端縁28は、軸方向に沿って、第1先端縁24の上流側への仮想的な延長線にほぼ平行に、直線状に延在する。
【0067】
なお、第2先端縁28と第2シュラウドケーシング20とが軸方向にオーバーラップする長さは、第1前縁26の径方向長の半分以上であることが望ましい。また、第2シュラウドケーシング20の下流端48は、径方向において第1前縁26の中央よりも内側に位置することが望ましい。また、第2シュラウドケーシング20の下流端48と第2シュラウドケーシング20の内周面40はインペラ4の第2先端縁28と第1前縁26とほぼ一定の隙間を介して対向する曲線で構成されていても良い。
【0068】
なお、
図1等に示す例示的形態では、第1前縁26と第2先端縁28とは互いにほぼ直角に交わるよう構成されており、第1前縁26の内側端36と第2先端縁28の下流端70は一致する。ただし、実際の構造において、
図25に破線で示すように、第1前縁26と第2先端縁28とは滑らかな曲線で繋がっていても良い。この場合、直線状の第1前縁26の径方向内側への仮想的な延長線と直線状の第2先端縁28の下流側への仮想的な延長線との交点を、第1前縁26の内側端36及び第2先端縁28の下流端70と定義することとする。
【0069】
第2前縁30は、軸方向において第1前縁26の上流側に位置し、第2先端縁28の上流端38から径方向における内側へ直線状又は曲線状に延在し、ハブ8の外周面10に接続する。第2前縁30は、第2流路18に対向して設けられる。図示する例示的形態では、第2前縁30は、軸方向に直交する方向に沿って直線状に延在する。
【0070】
第2シュラウドケーシング20は、環状に構成されており、第1シュラウドケーシング14の内周面66の半径方向内側に設けられ、第1シュラウドケーシング14の内周面66のうち第1前縁26より上流側の内壁面67と第2シュラウドケーシング20の外周面42との間に上述の第1流路16が形成される。また、上述の第2流路18は、第2シュラウドケーシング20の内周面40の内側に円管状又は環状に形成される。第2シュラウドケーシング20は、子午面において翼形状(翼断面形状)を有している。第2シュラウドケーシング20の内周面40は、上流側に向かうにつれて半径が大きくなるベルマウス形状を有する。第2シュラウドケーシング20の外周面42は、上流側に向かうにつれて半径が大きくなる曲面状の拡径面44と、拡径面44の上流側にて拡径面44と第2シュラウドケーシング20の内周面40とを接続する曲面状の接続面46とを含む。また、第2シュラウドケーシング20の下流端48は、径方向において、第2先端縁28より外側に位置するとともに、軸方向において、第2先端縁28の上流端38より下流側に位置する。
【0071】
第1シュラウドケーシング14のうち第1前縁26より上流側の内壁面67はベルマウス形状の入口を有しており、また、第1流路16は、下流側に向かうにつれて流路断面積が小さくなる絞り流路部50を有する。第1シュラウドケーシング14のうち第1前縁26より下流側の内壁面68は、第1先端縁24に沿って下流側に向かうにつれて径方向外側へ湾曲している。支柱52は、第1流路16におけるベルマウス形状の入口の上流端近傍に設置されるとともに、径方向に直交する断面において翼形状を有している。
【0072】
かかる構成では、第2シュラウドケーシング20を支持する支柱52の周辺の流速が第1前縁26近傍の流速に比べて遅く、且つ、支柱52の断面形状に損失の小さい断面形状を使用するため、支柱52自体の抵抗に起因する圧力損失を低減することができる。他の実施形態では、支柱52は、インペラ4の径方向に直交する断面においてその前縁及び後縁に円弧のある平板や円柱等によって構成されていてもよい。
【0073】
また、流量が減少していくと、安定した循環流Fcが生じる領域が拡大するので、第2シュラウドケーシング20が第2前縁30に対して上流側に延在することにより、拡大した循環流Fcが第2前縁30近傍の流れに影響を及ぼし第2前縁30近傍の流れが剥離することを抑制できる。
【0074】
また、第2シュラウドケーシング20においてその上流端が第2前縁30に対して上流側へ延在する長さは、第1先端縁24の上流端34と、第2前縁30とハブ8との接続位置との径方向距離相当、又は当該径方向距離以上であることが望ましい。これにより、第2シュラウドケーシング20の上流端の半径を大きくすることができ、第1流路16の断面積を大きくすることができ、支柱52周辺の流速を十分低くすることができる。このため、支柱52自体の抵抗に起因する圧力損失を低減できるとともに、安定した循環流Fcの拡大による第2前縁30近傍の流れの剥離を効果的に抑制することができる。
【0075】
図示する例示的形態では、インペラ4の入口位置における半径(第1先端縁24の上流端34とインペラ4の回転軸線Oとの距離)で、インペラ4の出口位置における半径(翼12の後縁22とインペラ4の回転軸線Oとの距離)を除した値は、1.1〜1.3程度である。また、インペラ4の出口位置においてハブ8の外周面10が径方向に対してなす角度θは、5°≦θ≦15°に設定されている。
【0076】
図3は、遠心圧縮機2における最高効率点近傍の大流量時(以下、「流量A時」という。)における子午面上の流れを示す図である。
図4は、遠心圧縮機2における流量Aよりも流量が小さい小流量時(以下、「流量B時」という。)における子午面上の流れを示す図である。
図5は、遠心圧縮機2の流量B時における第1先端縁24近傍の翼間流面の流れ(
図4におけるB−B矢視図)と、遠心圧縮機2の流量B時における第2先端縁28近傍の翼間流面の流れ(
図4におけるC−C矢視図)とを重ねて示す図である。
【0077】
図3に示す最高効率点近傍の流量A時には、インペラ4の上流の流れは、第1前縁26及び第2前縁30の各々で軸流速度が略一定となるように第1流路16及び第2流路18に流入する。最高効率点近傍の流量A時には、第1前縁26及び第2前縁30に対して無衝突な流れ(翼断面の中心線すなわちキャンバーラインに沿う方向の流れ)が形成されるため、高効率且つ高圧力で遠心圧縮機2の運転を行うことができる。
【0078】
一方、最高効率近傍の流量Aが、第1流路16の流路断面積S1と第2流路18の流路断面積S2との和に対する第2流路18の流路断面積S2の比S2/(S1+S2)程度の流量Bまで減少すると、
図4に示すように、第1流路16に流れがほとんど流入せず、第2流路18のみに流れが流入するようになる。
【0079】
この現象について以下で説明する。
図4に示すように、遠心圧縮機2においても、上述した「子午面の逆流」が発生するが、翼入口側の第1先端縁24近傍で上流に向かって逆流した後の径方向内側への流れは、第2シュラウドケーシング20の外周面42で進行を妨げられるため、それ以上径方向内側へ流れない。その結果、「子午面の逆流」は、発達を抑制されて第1前縁26と第1先端縁24の間の領域に閉じ込められ、安定した循環流Fcとなる。
【0080】
この安定した循環流Fcによって、第1前縁26の位置で流路が閉塞されるため、第1流路16から流れがインペラ4にほとんど流入せず、第2流路18からのみ流れがインペラ4に流入する。また、安定した循環流Fcと第2前縁30からインペラ4に流入した流れとの境界に滑らかな境界面が形成されるため、第2前縁30を通過した流れは、後縁22まで滑らかに流れることができる。その結果、
図21及び
図22等を用いて説明した翼の失速と逆流に伴う圧力低下や損失増加が抑制され、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を抑制することができる。
【0081】
また、上記のように第1前縁26の位置における流路が閉塞されるため、インペラ4の入口面積が実質的に第2前縁30の径方向範囲に対応する流路面積のみになる。このため、流量Aから流量Bに減少しても、第2流路18の流量低下が抑制され、第2前縁30に対する無衝突な流れを維持することができる。すなわち、
図5において、第2前縁30に対する流れの衝突角(第2前縁30に流入する流線と翼断面の中心線すなわちキャンバーラインとのなす角)が略0に維持され、その流れが高効率でインペラ4の出口に達することができる。
【0082】
また、
図4に示すように、インペラ4の入口面積が実質的に第2前縁30の位置に対応する流路断面積S2のみになっても、インペラ4の出口面積S3は変わらないため、インペラ4の入口から出口までの減速量及び仕事量が大きくなり、吐出圧力が高くなる。
【0083】
図6は、遠心圧縮機2の流量−圧力比特性曲線C1を示す図である。
図7は、遠心圧縮機2の流量−効率特性曲線C2を示す図である。
【0084】
図6に示すように、遠心圧縮機2の流量−圧力比特性曲線C1は、ある程度大きい流量域WLでは、第1流路16と第2流路18の両方に流れが流れるため、
図19〜
図23を用いて説明した従来の遠心圧縮機の流量−圧力比特性曲線C0と概ね同等の特性を有する。
【0085】
また、遠心圧縮機2の流量−圧力比特性曲線C1は、ある程度小さい流量域WSでは、第2流路18のみに流れが流れるため、第2流路18のチョーク流量とサージ流量とからなる仮想の流量−圧力比特性曲線C3(第2流路18だけから流れがインペラ4に流入する仮想の遠心圧縮機における流量−圧力比特性曲線)と概ね同等の特性を有する。このため、小流量域WSにおいて、矢印P1に示すように従来の遠心圧縮機よりも圧力比が高くなる。また、第2流路18のサージ流量を、従来の遠心圧縮機のサージ流量よりも小さくすることができ、矢印P2に示すように、サージマージンを拡大することができる。
【0086】
このように、遠心圧縮機2の流量−圧力比特性曲線C1は、従来の遠心圧縮機の流量−圧力比特性曲線C0と、第2流路18のチョーク流量とサージ流量とからなる仮想の流量−圧力比特性曲線C3とを合体したような特性を有する。
【0087】
また、
図7に示すように、遠心圧縮機2の流量−効率特性曲線C2も同様に、従来の遠心圧縮機の流量−効率特性曲線C4と、第2流路18のチョーク流量とサージ流量とからなる仮想の効率−圧力比特性曲線C5とを合体したような特性を有する。
【0088】
このため、遠心圧縮機2の流量−効率特性曲線C2では、第2流路18のみに流れが流れる仮想の遠心圧縮機の流量−圧力比特性曲線C5に対応するように従来の遠心圧縮機より小流量側に効率ピーク点が生じ、矢印P3に示すように、従来の遠心圧縮機の流量−効率特性曲線C4に比べて小流量まで高効率を得ることができる。
【0089】
以上のように、遠心圧縮機2によれば、従来の遠心圧縮機と比較して、サージマージンを拡大させることが可能となり、小流量域における圧力比を上昇するとともに小流量域における効率を向上することが可能となる。また、特許文献1に係る遠心圧縮機と比較して、多孔板等からなる複雑な構成の抵抗体を設ける必要がない。このため、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を簡素な構成で抑制することができる。
【0090】
図8は、ターボチャージャ100におけるエンジン回転数毎の遠心圧縮機2の流量−圧力比特性曲線C1a,C1b,C1cと、それらに対応するエンジン回転数毎の従来の遠心圧縮機の流量−圧力比特性曲線C0a,C0b,C0cを示す図である。
図8では、特性曲線C1a,C1b,C1cの順に、対応するエンジン回転数が大きくなる。
【0091】
遠心圧縮機2によれば、矢印P4に示すように、低回転数で高圧力比に達することができる。また、従来の遠心圧縮機よりもサージ流量を小さくすることができるため、従来と同様のエンジン作動線L0上で作動する場合にはサージマージンを拡大することができる。また、サージマージンを従来と同様に設定した場合には、矢印P5に示すように、圧力一定の流量領域を広くすることができ、エンジンが要求する広い流量範囲に対応することができる。
【0092】
図9は、従来の遠心圧縮機における流量−圧力比特性曲線C0a,C0b,C0cとエンジン作動特性との関係を示す図である。
図10は、遠心圧縮機2における流量−圧力比特性曲線C1a,C1b,C1cとエンジン作動特性との関係を示す図である。
【0093】
図9に示すように、従来、遠心圧縮機をエンジン作動線L0上で作動する場合、起動時や低速からの加速時に相当する小流量時にはサージマージン近傍の領域での作動となるため、効率ピークに対して効率が低下した領域での使用にならざるを得なかった。
【0094】
これに対し、遠心圧縮機2によれば、
図10に示すように、小流量域に高効率領域が生じるため、小流量でも高効率作動点を使用でき、低回転数で従来の圧力を達成できる。このため、加速時には速やかに流量と圧力比を高くでき、流量と圧力比の上昇についてレスポンスを向上することができる。
【0095】
また、翼12の前縁部分が第1前縁26及び第2先端縁28からなる切り欠き形状を有することにより、翼12の入口側の先端部分の重量が低減されるため、翼12の振動固有値を高くすることが可能となる。このため、振動に対する強度を高くすることができ、翼12に作用する遠心力を低減して翼12に生ずる応力を低減することができる。また、強度や振動固有値を従来相当に設定する場合には、翼12を薄くできるので、ピーク効率を向上することが可能となる。
【0096】
一実施形態では、
図11及び
図12に示すように、遠心圧縮機2における第2前縁30は、径方向における第2前縁30の外側端39(38)が径方向における第2前縁30の内側端56より上流側に位置するように、径方向に対して傾斜していてもよい。
【0097】
第2前縁30がこのように傾斜していることにより、第2前縁30近傍における翼12の圧力面がインペラ4の出口方向(径方向外側)を向くこととなる。インペラ4に流入する流れには翼12の圧力面に垂直な方向の力が作用するため、流れを軸方向から径方向外側に転向する作用が大きくなる。
【0098】
このため、第2流路18からインペラ4に流入する流れを、矢印P6に示すように、第2前縁30近傍で半径方向外側に転向させる作用を強めることができる。これにより、第1シュラウドケーシング14の内周面58近傍における境界層の拡大を抑制し、翼12の後縁22における先端側での流速の分布を一様な分布に近づけることができる。
【0099】
その結果、インペラ効率が向上し、ディフューザ5の圧力回復率が向上するため、遠心圧縮機2の高効率化が可能となる。
【0100】
一実施形態では、
図13及び
図14に示すように、第1前縁26は、径方向における第1前縁26の外側端35(34)が径方向における第1前縁26の内側端36より上流側に位置するように、径方向に対して傾斜していてもよい。
【0101】
第1前縁26がこのように傾斜していることにより、第2前縁30を傾斜させた場合と同様の理由により、第1流路16からインペラ4に流入する流れを、矢印P7に示すように、第1前縁26近傍で半径方向外側に転向させる作用を強めることができる。これにより、第1シュラウドケーシング14の内周面58近傍における境界層の拡大を抑制し、翼12の後縁22における先端側での流速の分布を一様な分布に近づけることができる。
【0102】
その結果、インペラ効率が向上し、ディフューザ5の圧力回復率が向上するため、遠心圧縮機2の高効率化が可能となる。
【0103】
なお、第1前縁26は、径方向における第1前縁26の外側端35(34)が径方向における第1前縁26の内側端36より下流側に位置するように、径方向に対して傾斜していてもよい。これにより、翼12の振動強度を高くすることが可能となる。
【0104】
一実施形態では、
図15に示すように、第2シュラウドケーシング20、支柱52、及び円環状支持部54は、一体化されており(一部品として構成されており)、円環状支持部54は、第1シュラウドケーシング14に対して着脱可能に構成されていてもよい。この場合、円環状支持部54は、例えば不図示のボルトによって第1シュラウドケーシング14に取り付けられていてもよい。
【0105】
このように、第2シュラウドケーシング20を第1シュラウドケーシング14の別の部品とし、第2シュラウドケーシング20と第1シュラウドケーシング14とを同軸に組み上げることができるようにすれば、インペラ4の第2先端縁28の高さを鋳造で設定又は機械加工により調整した上で、その高さに応じて第2シュラウドケーシング20、支柱52及び円環状支持部54により構成される部品を製造することができる。このため、遠心圧縮機2の性能設計の自由度及び構造設計の自由度を高くすることができる。
【0106】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。以下で説明する形態において、既出の構成と同様の機能を有する構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0107】
例えば
図1に示す形態において、第2シュラウドケーシング20と第2先端縁28とは軸方向においてオーバーラップしていなくてもよい。第2シュラウドケーシング20の下流端48は、第2先端縁28に対して径方向外側にあっても内側にあってもよい。第2シュラウドケーシング20の下流端48が第2先端縁28に対して径方向内側にある場合には、第2シュラウドケーシング20の下流端48は、第2前縁30の上流側に位置する。
【0108】
例えば、
図16及び
図17に示すように、インペラ4は、上述の翼12(主羽根)に加えて、隣接する翼12の間に設けられたスプリッタ翼60を備えていてもよい。スプリッタ翼60は翼12よりも短く、スプリッタ翼60の前縁位置は翼12の前縁位置よりも下流側に設定されている。この場合、本発明は、主羽根としての翼12とスプリッタ翼60の何れか一方又は両方に適用することができ、特に主羽根としての翼12に適用することで、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を効果的に抑制することができる。
【0109】
また、一実施形態では、
図18に示すように、遠心圧縮機2は、第1流路16を開閉可能に構成されたバルブ62を更に備えていてもよい。この場合、バルブ62はアクチュエータ64によって開閉されるように構成されてもよいし、手動で開閉されるように構成されてもよい。かかる構成では、大流量時にバルブ62を開状態にし、小流量時にバルブ62を閉状態にすることで、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を抑制することができる。
【0110】
また、一実施形態では、例えば
図19に示すように、遠心圧縮機2は、第2シュラウドケーシング20を備えていなくてもよい。
【0111】
この場合、流量が低下すると第1前縁26のうち第1先端縁24側の部分の近傍の流れが翼面から剥離し、上述した「子午面の逆流」が発生し、インペラ4の径方向内側の第2先端縁28に向けて逆流による局所的な内向きの流れが生じる(
図20参照)。一方、第2前縁30を通過した流れは、翼12によりインペラ4の回転方向に力を受けてその周方向の速度が大きくなり、その周方向の速度に起因する遠心力により下流に向かって流れながら径方向外向きに流れる。第1前縁26のうち第1先端縁24側部分の近傍で上流に向かって逆流した後の径方向内側への流れは、第2前縁30を通過した後の径方向外向きの流れFoにより進行を妨げられるため、それ以上径方向内側へ流れない。その結果、「子午面の逆流」は、発達を抑制されて第1前縁26と第1先端縁24の近傍の領域に閉じ込められ、安定した循環流Fcとなる。
【0112】
この安定した循環流Fcによって、第1前縁26の位置で流路が閉塞されるため、第1前縁26から流れがインペラ4にほとんど流入せず、主に第2前縁30からの流れがインペラ4に流入する。また、安定した循環流Fcと第2前縁30からインペラ4に流入した流れとの境界に滑らかな境界面が形成されるため、第2前縁30を通過した流れは、後縁22まで滑らかに流れることができる。その結果、前述した翼12の失速と逆流に伴う圧力低下や損失増加が抑制され、流量の低下に伴う圧力及び効率の低下を抑制することができる。また、特許文献1に係る遠心圧縮機と比較して、多孔板等からなる複雑な構成の抵抗体を設ける必要がないため、簡素な構成で上記効果を得ることができる。
【0113】
一実施形態では、例えば
図20において、第2先端縁28は、f24を上流側に延長した仮想延長線に対して、径方向外側に10度以内、又は径方向内側に20度以内の角度を成しているか、当該仮想延長線に対して平行に延在していることが望ましい。
【0114】
一実施形態では、例えば
図21に示すように、第2シュラウドケーシング20は、環状構造を有しており、第1シュラウドケーシング14の内周面66の内側に設けられ、第1前縁26より上流側且つ第2先端縁28より径方向外側に配置される。この第2シュラウドケーシング20は、第1シュラウドケーシング14の内周面66のうち第1前縁26より上流側の壁面67との間に第1流路16を形成するとともに、第2シュラウドケーシング20の内周面の内側に第2流路18を形成する。
【0115】
図21に示す形態では、第2シュラウドケーシング20は、第1流路16の流れと第2流路18の流れをそれぞれ第1前縁26及び第2前縁30に滑らかに導くように、板状の子午断面形状を有している。また、第2シュラウドケーシング20を支持する支柱52は、板状又は翼型形状の断面形状を有しており、第1流路16の流れを妨げないようにその断面形状の中心線がほぼ回転軸方向に沿うように形成される。支柱52は、第1シュラウドケーシング14の壁面67から径方向における内側へ延在し、第2シュラウドケーシング20の外周面に接続するよう構成されている。なお、かかる形態に関し、第2シュラウドケーシング20は、翼型形状の断面形状を有していてもよい。
【0116】
なお、
図21に示す形態において、支柱52の断面形状の中心線は、第1流路16の流れが第1前縁26に流入するときにインシデンスがほぼ0になるように、回転軸方向に対して傾斜を有していてもよい。また、第2シュラウドケーシング20の下流端48は、第2前縁30より下流で且つ第1前縁26より上流に、第2先端縁28と隙間を介して配置されることが望ましい。
【0117】
一実施形態では、例えば
図22に示すように、第2先端縁28に固定された環状の第2先端縁シュラウド72を備える。図示する形態では、第2先端縁シュラウド72は、第2前縁30よりも上流側に突出するように、第2先端縁28よりも長い軸方向長を有する。第2先端縁シュラウド72は、例えば矩形や翼形状の子午断面形状を有する。
【0118】
一実施形態では、例えば
図23に示すように、第2先端縁28に固定された環状の第2先端縁シュラウド72と、第2先端縁シュラウド72の軸方向上流側に設置された第2シュラウドケーシング20とを備える。
図23に示す形態では、第2シュラウドケーシング20と第2先端縁シュラウド72とは、第1流路16側の壁面が滑らかに連続するように、且つ第2流路18側の壁面が滑らかに連続するように構成されている。すなわち、第2シュラウドケーシング20の外周面42と第2先端縁シュラウド72の外周面82とは隙間を介して滑らかに繋がり、第2シュラウドケーシング20の内周面40と第2先端縁シュラウド72の内周面84とは隙間を介して滑らかに繋がるように構成されている。また、第2シュラウドケーシング20の下流端部74と第2先端縁シュラウド72の上流端部76とは、軸方向及び径方向にわずかな隙間を介して、インペラ4の回転に支障がないように対向配置されている。図示する形態では、第2シュラウドケーシング20の下流端部74は、その内周側に切欠き形状を有しており、第2先端縁シュラウド72の上流端部76がその切欠き形状内の空間に侵入している。また、第2先端縁シュラウド72の上流端78は、第2シュラウドケーシング20の下流端48よりも上流側に位置する。
【0119】
一実施形態では、例えば
図24に示すように、第1先端縁24に固定された環状の第1先端縁シュラウド80を備える。第1先端縁シュラウド80の断面形状の内面は、第1先端縁24の子午面形状を有する。