(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基材を、セラミック、焼き物、石材、コンクリート、金属からなる群から選択される少なくとも1つの無機材料、又は高分子材料、紙、木材、繊維からなる群から選択される少なくとも1つの有機材料を含むものとする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗菌抗カビ性部材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
まず、本発明の抗菌抗カビ用塗料の製造方法(本明細書中において「本発明の塗料の製造方法」とも称する)により製造される本発明の抗菌抗カビ用塗料(本明細書中において「本発明の塗料」とも称する)について詳細に説明する。
【0012】
[抗菌抗カビ用塗料]
本発明の一実施形態の抗菌抗カビ用塗料は、平均粒子径が1nm以上500nm以下の銅酸化物粒子と、リン酸基を有する有機化合物と、溶媒とを所定の含有率で含むことが望ましい。
【0013】
[[銅酸化物粒子]]
本発明の塗料は、抗菌抗カビ成分として、所定の平均粒子径を有する銅酸化物粒子を所定の含有量で含む。銅酸化物粒子の具体例としては、酸化第一銅粒子、酸化第二銅粒子、又はその他の酸化数の酸化銅粒子、コア部が銅でありシェル部がいずれかの酸化数の酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子等が挙げられる。これら粒子は、少量の不純物として金属塩及び/又は金属錯体を含んでもよい。その中でも酸化第一銅粒子は抗菌性が優れるため、好ましい。
【0014】
本発明の塗料に含まれる銅酸化物粒子は、1nm以上500nm以下の平均粒子径を有する。ここで「平均粒子径」とは、湿式状況下での銅酸化物粒子の流体力学的平均径を意味し、後述する「平均二次粒径」の値とは多少のずれを生じ得る。本発明における「平均粒子径」、すなわち、流体力学的平均径では、二次粒子を構成せず単独で存在している一次粒子と、一次粒子が複数個集まって形成された凝集体である二次粒子とを区別することなく測定対象として求められた平均粒径である。一方、後述する「平均二次粒径」は、全ての測定対象粒子が二次粒子であると仮定して求められる平均粒径であり、仮に二次粒子を構成しない一次粒子が存在していても測定対象外とされるためである。
本発明において、銅酸化物粒子の平均粒子径は、動的光散乱法を用いて測定することができる。より具体的には、ジエチレングリコール中に分散させた銅酸化物粒子を測定対象とし、動的光散乱法を用いて測定した信号を、光子相関法で解析して自己相関関数を求め、求めた自己相関関数をキュムラント法で解析して平均粒子径を求めることができる。
本発明の銅酸化物粒子は、1nm以上500nm以下の平均粒子径を有することにより、塗料中での分散安定性が向上し、よって、塗料の抗菌抗カビ性能を向上させることができる。また、塗料の塗工性を向上させることができ、よって、塗料の基材表面への塗布方法として印刷法を用いることを可能にする。
【0015】
本発明の塗料に含まれる銅酸化物粒子の平均二次粒径は、特に制限はないが、好ましくは5nm以上、500nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。平均二次粒径とは、銅酸化物粒子の一次粒子が複数個集まって形成される凝集体(二次粒子)の平均粒径である。平均二次粒径が500nm以下であると、基材表面上に微細パターンを形成しやすいので好ましい。二次粒径とは、ジエチレングリコール中に分散させた銅酸化物粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したときに、取得される画像データから求められる二次粒子の粒子径をいい、通常、画像の任意の箇所を切り取り、この箇所に含まれる100個以上の粒子について、その二次粒径の平均値を求めて、平均二次粒径を算出する。
【0016】
二次粒子を構成する一次粒子の平均一次粒径の好ましい範囲は1nm以上、100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。平均一次粒径が100nm以下の場合、表面積が広くなるため抗菌抗カビ性能が向上する。平均一次粒径が1nm以上であると、平均粒子径を1nm以上500nm以下の範囲内とすることができる。
平均一次粒径とは、画像解析により複数の一次粒子について求めた一次粒径の平均値をいう。ここで、一次粒径とは、分散媒中に分散させた酸化第一銅ナノ粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したときに、取得される画像データから求められる一次粒子の粒子径をいい、通常、画像の任意の箇所を切り取り、この箇所に含まれる100個以上の粒子について、その一次粒径の平均値を求めて、平均一次粒径を算出する。
【0017】
本発明の銅酸化物粒子の含有量は、分散安定性の観点から、塗料100質量%中、0.5質量%以上60質量%以下であり、好ましくは1.0〜60質量%、より好ましくは5.0〜50質量%である。含有量が0.5質量%以上であると、抗菌抗カビ成分としての機能を十分に発揮することができ、60質量%以下であると、銅酸化物粒子の凝集を抑制しやすくなるためである。
【0018】
銅酸化物粒子は、市販品を用いてもよいし、合成して用いてもよい。市販品としては、例えば、CIKナノテック製の平均一次粒径50nmの酸化第二銅粒子がある。合成して用いる場合、合成法としては、次の(1)〜(3)の方法が挙げられる。
(1)ポリオール溶剤中に、水と銅アセチルアセトナト錯体を加え、一旦有機銅化合物を加熱溶解させ、次に、反応に必要な水を後添加し、さらに昇温して有機銅の還元温度で加熱する加熱還元する方法。
(2)有機銅化合物(銅-N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン錯体)を、ヘキサデシルアミン等の保護剤存在下、不活性雰囲気中で、300℃程度の高温で加熱する方法。
(3)水溶液に溶解した銅塩をヒドラジンで還元する方法。
この中でも、(3)の方法は操作が簡便で、かつ、粒径の小さい銅酸化物粒子や酸化第一銅粒子が得られるので好ましい。
【0019】
[[リン酸基を有する有機化合物]]
本実施形態の塗料は、分散剤として、リン酸基を有する有機化合物を所定の含有率で含む。当該有機化合物中のリン酸基が銅酸化物粒子に吸着し、当該有機化合物間の立体障害効果によって銅酸化物粒子同士の凝集を抑制することができる。
前記有機化合物の数平均分子量は、特に制限はないが、300〜30000であることが好ましい。数平均分子量が300以上であると、得られる塗料の分散安定性が増す傾向があり、また、30000以下であると、塗料塗布後の焼成がしやすい。
前記有機化合物1分子中のリン酸基の数は、特に制限はないが、1個であることが好ましい。1分子中のリン酸基の数が1個の場合、分散安定性に優れるためである。
前記有機化合物の具体例としては、ビックケミー社製の「Disperbyk−142」、「Disperbyk−145」、「Disperbyk−110」、「Disperbyk−111」、「Disperbyk−118」、「Disperbyk−180」、「Byk−9076」、第一工業製薬製の「プライサーフM208F」、「プライサーフDBS」等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0020】
本発明では塗料100質量%中の、リン酸基を有する有機化合物の含有量は、0.05質量%以上20質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上17質量%以下であり、より好ましくは0.20質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上8.0質量%以下である。前記有機化合物の含有量が上記範囲内であれば、銅酸化物粒子同士の凝集を抑制することができ塗料が十分な分散安定性を有する。
【0021】
[[溶媒]]
本発明の塗料は、分散媒として、溶媒を所定の含有量で含む。溶媒は、単一溶媒であっても混合溶媒であってもよい。
単一溶媒としては、20℃における蒸気圧が0.010Pa以上20Pa未満である溶媒(以下、「溶媒(A)」とも称する)であっても、20℃における蒸気圧20Pa以上150hPa以下である溶媒(以下、「溶媒(B)」とも称する)であってもよい。
混合溶媒としては、2種以上の溶媒(A)からなる混合溶媒でも、2種以上の溶媒(B)にからなる混合溶媒でも、溶媒(A)と溶媒(B)との混合溶媒でもよい。中でも、溶媒(A)と、溶媒(B)との混合溶媒を用いることが好ましい。溶媒(A)と溶媒(B)との混合溶媒は、前記リン酸基を有する有機化合物と併せて用いることによって、本実施形態の塗料の大気中における分散安定性の向上と作業性とを両立させることができる。
【0022】
前記溶媒(A)の20℃における蒸気圧は、0.010Pa以上20Pa未満であり、好ましくは0.05Pa以上16Pa未満であり、より好ましくは0.1Pa以上14Pa未満である。20℃における蒸気圧が0.010Pa以上20Pa未満であると、塗料の塗膜を半乾きの状態に維持することができ、後述する抗菌抗カビ性部材の製造の際の作業性を高めることができる。
【0023】
前記溶媒(B)の20℃における蒸気圧は、20Pa以上150hPa以下であり、好ましくは100Pa以上100hPa以下、より好ましくは300Pa以上20hPa以下である。20℃における蒸気圧が150hPa以下であると、溶媒の揮発速度が高くても、塗料における銅酸化物粒子の含有率を安定させやすくすることができる。20℃における蒸気圧が20Pa以上であると、塗料の塗膜を半乾きの状態にするまでの時間を適正にすることができる。
【0024】
本発明では塗料100質量%中の溶媒の含有量は、20質量%以上99.45質量%以下であり、好ましくは30質量%以上99.4質量%以下、より好ましくは40質量%以上80質量%以下である。溶媒の含有量が上記範囲内であれば、塗料に優れた分散安定性及び優れた塗工性を十分に付与することができる。
【0025】
本実施形態で、溶媒が溶媒(A)と溶媒(B)との混合溶媒である実施形態の場合、本発明の塗料100質量%中の溶媒(A)の含有量は、10質量%以上99質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上99質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上90質量%以下である。溶媒(A)の含有量が上記範囲内であると、大気中において適式な乾燥速度となり、印刷不良が生じない傾向となり好ましい。
【0026】
なお、溶媒が溶媒(A)と溶媒(B)との混合溶媒である実施形態の場合、本発明の塗料100質量%中の溶媒(A)の含有量は、0.050質量%以上10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.10質量%以上9.0質量%以下、さらに好ましくは0.20質量%以上8.0質量%以下である。溶媒(A)の含有量が上記範囲内であると、大気中において適式な乾燥速度となり、印刷不良が生じない傾向となり好ましい。
【0027】
前記溶媒(A)の具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3メトキシ−3−メチルーブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、オクタン、ノナン、デカン、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2−ペンタンジオール、 4,2−メチルペンタン−2,4−ジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ1,2−プロピレングリコール、グリセロール等の有機溶媒、及び、水等が挙げられる。中でも炭素数10以下の多価アルコールがより好ましい。多価アルコールの炭素数が10を超えると、銅酸化物粒子の分散性が低下する場合がある。これらは、単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0028】
前記溶媒(B)の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルカーボネート、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、3−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、n−デカノール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール、水が挙げられる。中でも炭素数10以下のモノアルコールがより好ましい。炭素数10以下のモノアルコール中でも、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノールが分散性、揮発性及び粘性が特に適しているのでさらに好ましい。モノアルコールの炭素数が10を超えると、銅酸化物粒子の分散性の低下を抑制するため、モノアルコールの炭素数は10以下であることが好ましい。これらのモノアルコールは、単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0029】
[[表面エネルギー調整剤]]
本発明の塗料は、塗工性を向上させるため、任意成分として表面エネルギー調整剤を含んでもよい。これにより、基材に塗料の塗膜を形成する時、塗布された塗料塗膜の平滑性が向上して、より均一な塗膜を得ることができる。
表面エネルギー調整剤の具体例としては、Triton(登録商標) X−45、Triton X−100、Triton X、Triton A−20、Triton X−15、Triton X−114、Triton X−405、Tween(登録商標) #20、Tween #40、Tween #60、Tween #80、Tween #85、Pluronic(登録商標) F−68、Pluronic F−127、Span(登録商標) 20、Span 40、Span 60、Span 80、Span 83、Span 85、AGCセイミケミカル製の「サーフロン(登録商標)S−211」、「サーフロンS−221」、「サーフロンS−231」、「サーフロンS−232」、「サーフロンS−233」、「サーフロンS−242」、「サーフロンS−243」、「サーフロンS−611」、スリーエム製の「Novec(登録商標)FC−4430」、「NovecFC−4432」、DIC製の「メガファックF−444」、「メガファックF−558」等のノニオン性界面活性剤などが挙げられる。中でも含フッ素ノニオン性界面活性剤が特に好ましく、AGCセイミケミカル製の「サーフロンS−211」、「サーフロンS−221」、「サーフロンS−231」、「サーフロンS−232」、「サーフロンS−233」、「サーフロンS−242」、「サーフロンS−243」、「サーフロンS−611」、スリーエム製の「NovecFC−4430」、「NovecFC−4432」、DIC製の「メガファック(登録商標)F−444」、「メガファックF−558」が好適に用いられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0030】
表面エネルギー調整剤の添加量は、特に制限はないが、塗料100質量%中、好ましくは0.010質量%以上2.0質量%以下であり、より好ましくは0.10〜1.5質量%である。0.010質量%以上であると、塗料塗膜が均一で、ムラが生じにくい傾向がある。また、塗料塗膜が均一でムラを生じることなく、塗膜形成が良好とするために添加量は2.0質量%以下であることが好ましい。
【0031】
<粘度>
本発明の塗料の25℃における粘度には特に制限はないが、JIS K5600−2−3に準拠しコーン・プレート型回転粘度計を用いて25℃で測定したずり速度が1×10
-1s
-1〜1×10
2s
-1である領域において、好ましくは100mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以下である。25℃における粘度は、印刷時の均質な塗布膜の形成しやすさから、100mPa・s以下が好ましい。
本発明の塗料の25℃における粘度を上記範囲内に調整するには、必要に応じて、必須成分及び/若しくは任意成分の濃度を適宜調整するか、又は増粘剤等を適宜添加すればよい。例えば、25℃における粘度を低下させたい場合は、溶媒の濃度を増加させればよい。一方、25℃における粘度を上昇させたい場合は、銅酸化物粒子の濃度を増加させる、若しくは増粘剤を添加すればよい。
増粘剤としては、特に限定はなく、塗料で通常使用されるもの全般が利用できる。
【0032】
<表面自由エネルギー>
本発明の塗料の25℃における表面自由エネルギーに特に制限はないが、好ましくは40mN/m以下、より好ましくは35mN/m以下、さらに好ましくは30mN/m以下である。後述する反転印刷において、塗料のブランケットに対する濡れ性の点から、25℃における表面自由エネルギーは40mN/m以下が好ましい。表面自由エネルギーは、接触角計を用いて測定することができる。
本発明の塗料の25℃における表面自由エネルギーを上記範囲内に調整するには、必要に応じて、表面エネルギー調整剤や各種有機溶媒の濃度を適宜調整すればよい。例えば、25℃における表面自由エネルギーを低下させたい場合は、表面エネルギー調整剤の濃度を添加若しくは増加させるか、又は表面自由エネルギーが低い溶媒を添加若しくは増加させればよい。溶媒が複数存在する場合はその中で表面自由エネルギーが高い溶媒の濃度を低下させればよい。一方、25℃における表面自由エネルギーを上昇させたい場合は、表面エネルギー調整剤を排除若しくは低減させるか、又は表面自由エネルギーが高い溶媒を添加若しくは増加させればよい。溶媒が複数存在する場合はその中で表面自由エネルギーが低い溶媒の濃度を低下させればよい。
【0033】
[抗菌抗カビ用塗料の調製]
本発明の抗菌抗カビ用部材に用いる塗料は、例えば、前述の銅酸化物粒子と、リン酸基を有する有機化合物と、溶媒とを混合して作製することができる。
さらに、塗料には銅粉を添加しても良い。銅粉は銅酸化物粒子よりも大きい方が抗菌抗カビ性に優れるため好ましい。銅粉の添加量は、銅酸化物粒子に対して、質量で、1/5〜2倍量とすることが好ましく、1/4〜1倍量がさらに好ましい。
これらの成分をそれぞれ所定の割合で混合し、例えば、超音波法、ミキサー法、3本ロール法、2本ロール法、アトライター、バンバリーミキサー、ペイントシェイカー、ニーダー、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル等を用いて分散処理することにより、調製することができる。
本発明の抗菌抗カビ用塗料を調製する際、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては上述の表面エネルギー調整剤のほか、塗料に一般に用いられている分散剤、有機バインダー等を用いることができる。
【0034】
なお、上述するように、前述の銅酸化物粒子、リン酸基を有する有機化合物、溶媒、表面エネルギー調整剤、及びその他の添加剤の濃度を適宜調整することによって、本発明の抗菌抗カビ用塗料の粘度及び表面エネルギーを調整することができる。
【0035】
[抗菌抗カビ性部材の製造方法]
次に、本発明の抗菌抗カビ性部材の製造方法について詳細に説明する。
本発明の抗菌抗カビ性部材は、様々な方式で作製できる。
例えば、基材を塗料に浸漬させたり、塗料をスプレーその他のコーティング法や各種印刷法を使ったりして、基材表面に塗布した後、前記塗料を乾燥させて塗膜を形成し、還元性ガス雰囲気下で加熱する、特定の雰囲気下で等光線や熱線を使用する、又は還元性ガスを含むガス中でプラズマを発生させ処理することにより、部分的に塗膜中の酸化銅を還元し焼結させて被膜を形成することで、本発明の抗菌抗カビ性部材を製造することができる。
特に、印刷法を用いて塗布することで、今までは基材全面を抗菌抗カビ材料で覆っていたところを、基材表面の塗りたい所だけ塗れるため好ましい。
【0036】
[[塗布方法]]
基材表面に本発明の塗料を塗布し、塗膜を形成する方法としては、特に制限されず、スクリーン印刷、スプレーコート、スピンコート、スリットコート、ダイコート、バーコート、ナイフコート、エアードクターコート、ロールコート、静電塗装、オフセット印刷、反転印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンサ印刷、グラビアダイレクト印刷、グラビアオフセット印刷、タンポ印刷等のコーティング法や印刷法等を用いることができる。また、本発明の塗料又は当該塗料を含む塗布液に浸す浸漬法も利用できる。
中でも、印刷法による塗布であれば、基材表面上に塗料を所望のパターンに直接印刷することができるため、抗菌抗カビ性が必要なところにのみ抗菌抗カビ用塗料を必要な量だけ塗布できるので好ましい。
【0037】
本発明の塗料の塗布量は、特に限定されず、塗料の抗菌抗カビ性能、すなわち、抗菌抗カビ成分である銅酸化物粒子の含有量や、塗布方法、製造される抗菌抗カビ性部材の用途等を考慮して、適宜決定することができる。
抗菌抗カビ性を十分に得る観点からは、抗菌抗カビ性部材における銅酸化物粒子の含有量が、抗菌抗カビ性部材を100質量%として、0.001〜70質量%となるように塗布することが好ましく、0.001〜40質量%となるように塗布することがより好ましく、0.001〜20%となるように塗布することが更に好ましく、0.001〜10%となるように塗布することが最も好ましい。
【0038】
[[塗膜形成]]
本発明の塗料を基材へ塗布した後、塗料を乾燥させて塗膜を形成させる。本発明の塗料の乾燥方法としては、特に制限されず、加熱乾燥や自然乾燥等が挙げられ、必要に応じて、乾燥時に、紫外線、赤外線、電子線、γ線等の照射を行ってもよい。
基材上に形成された塗膜の厚みは、特に制限されず、製造される抗菌抗カビ性部材の用途等を考慮して、適宜決定することができる。抗菌抗カビ性を十分に得る観点からは、基材上の塗膜の厚みが、1μm以上10mm以下であることが好ましく、10μm以上5mm以下であることがより好ましい。
【0039】
[[基材]]
基材の材質は特に制限されるものではなく、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、高歪点ガラス、石英ガラス等のガラス、シリカ等ガラス類、アルミナ等のセラミック、陶器、磁器等の焼き物、石材、コンクリートほか、アルミ、ステンレス、鉄等の金属類等の無機材料が挙げられる。さらに高分子材料等の有機材料、であっても良く、例えば、基材としてプラスチック等の高分子材料や、天然原料由来の紙、木材、繊維等も基材とすることができる。
【0040】
基材がプラスチックである場合、基材の成形に用いる樹脂材料としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ガラス−エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、液晶性高分子化合物等を挙げることができる。中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)は好ましい。
なお基材の形状としては板状に限らず、フィルム、シート、織物、不織布、立体的な構造物等であっても良い。
【0041】
基材の厚さについては特に制限はないが、樹脂フィルム等のプラスチック基材の場合には、通常10μm以上300μm以下の範囲である。また、300μm以下であると巻き取り加工を連続して行う場合に、柔軟性の点で好適である。他方、基材の材質が無機材料である場合には、通常0.10mm以上10mm以下程度、好ましくは0.50mm以上5.0mm以下程度である。
【0042】
〔被膜形成〕
本発明の提供する手段では、塗料中に含まれる酸化銅が、微粒子の状態であるため反応性に富み、還元により金属銅となり、焼結が可能となるという性質を利用する。
この方法では、通常、塗料成分として使用される被膜形成に必要な合成樹脂、天然樹脂等の樹脂成分を使わなくとも、被膜を形成することが可能である。樹脂成分を必要としないため、抗菌抗カビに対する有効成分である酸化銅の塗膜中の含有率を増大させることができるといった利点がある。また、塗膜を部分的に還元、焼結を行うことで、これにより生じた金属銅により被膜強度が向上し、塗膜の脱落が抑制される。さらに、金属銅はそれ自体抗菌効抗カビ性を有するため、抗菌抗カビ性部材の機能が低下することはない。
本発明では完全焼結することなく、部分的に還元・焼結を行っている。完全な還元・焼結の場合、平滑な銅膜となり、表面積が減少するが、部分的な還元・焼結の場合、銅酸化物粒子が存在することとなり、表面積が大きな低下が抑制され、より抗菌抗カビ性を発揮することができる。本方法では完全に焼結させないところが重要であり、これは還元、焼結の工程において条件を調整することで可能である。
なお、塗料中に酸化銅以外に樹脂成分は含まないのが望ましいが、少量であって、還元・焼結に影響を与えない範囲であれば加えても良い。
【0043】
被膜を部分的に還元し、焼結して、基板へ固着する方法は、以下の中から選択される方法を用いて行うことができる。
【0044】
〔還元性ガス雰囲気下で加熱する方法〕
本方法は、還元性ガスとして水素、一酸化炭素等を用い加熱することで還元、焼結を行う方法である。ガスとしては、還元性ガスを単体で若しくは二種以上を混合して使用することができる。還元性ガスに、ヘリウム、窒素、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン等の不活性ガスを、任意の割合で混合して使用しても良い。不活性ガスは2種以上混合して使用しても良い。このガスをオーブンに導入し、塗料で塗布された基材を投入し加熱することで、還元、焼結を行って良い。なお、本方法においては、ヒーター加熱により混合ガスを直接加熱する方法、又は赤外線により基板を直接加熱する方法、若しくはこれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0045】
〔光線、熱線等を使用する方法〕
この方法は、光線や熱線を用いる方法であり、例えば、キセノンフラッシュやレーザーにより発生するエネルギーによる還元反応により、銅を生成させ、焼結させる方法である。キセノンフラッシュでは、発光出力や発光時間を調整し、又は必要に応じ出力や発光時間を調整して良く、これらパルス状の光を連続的に組み合わせても良い。この方法を実施する際の雰囲気を構成するガスとしては、大気、窒素、アルゴン等の不活性ガス、又は水素、一酸化炭素等の還元性ガスを、単独で若しくは二種以上混合して使用して良く、これらのガスと不活性ガスとを混合して用いても良い。焼成にレーザー光を用いる場合は、レーザー光の波長は、例えば、355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、1056nm等が好ましい。基材が樹脂の場合、特に好ましくは、355nm、405nm、445nm、450nmの波長である。
【0046】
〔還元性ガスを含むガス中でプラズマを発生させ処理する方法〕
この方法の一例として、減圧下で、還元性ガス若しくは還元性ガスと不活性ガスの混合ガスを導入し、ここにマイクロ波エネルギーを供給して、マイクロ波励起表面波プラズマを発生させ、これにより導入ガスを活性化させ、基板上に塗布した塗膜面を処理する方法を挙げることができる。これを用いて塗膜中の酸化銅の還元と焼結を行うことができる。基板の耐熱性が劣る時には、基板を冷却し、基板の耐熱性が優れ、より還元と焼結を進めたい時には、基板を加熱しても良い。還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素、アンモニア等の一種単独や二種以上の混合物を使用して良く、これらにヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素の一種若しくは二種以上の不活性ガスを混合したものを、プラズマの発生を容易にする観点から、採用しても良い。
【0047】
[抗菌抗カビ性部材]
本発明の製造方法で製造された抗菌抗カビ性部材は、基材の全表面又は所望する表面部分のみに所望のパターンで付与された優れた抗菌抗カビ性を有し得るため、様々な用途に使用することができる。例えば、織物や不織布等が挙げられ、より具体的に、応用例としては、マスク;エアコン用フィルター、空気清浄機用フィルター、掃除機用フィルター、換気扇用フィルター、車両用フィルター、空調用フィルター等のフィルター;衣類用、寝具用、網戸用ネットや鶏舎用ネット等のネット;壁紙、窓用、天井用、車両用シート等のシート・フィルム;ドア、ブラインド、椅子、ソファー、床材等の各種設備(ウイルスを扱う設備、電車・車両、病院、ビル一般)用内装材等;が挙げられる。
【0048】
本部材は、銅酸化物粒子と金属銅を含むと抗菌性が良好となる。さらに抗菌抗カビ性部材に於いて、金属銅が表面付近により多く偏在するとさらに抗菌抗カビ性が良好となる。また、抗菌抗カビ性部材に於いて、金属銅の粒径が銅酸化物粒子の平均一次粒径より大きい方が膜として長期安定性に優れる。金属銅が表面に露出している方が抗菌抗カビ性にとって好ましい。