(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
集電体上に負極活物質を含む負極合剤層と前記負極合剤層の表面の少なくとも一部にフィラーを含有する被覆層を有する負極及び非水電解液を備え、前記負極のエックス線回折(XRD)測定において、前記負極活物質の(002)面に帰属される回折ピークと(100)面に帰属される回折ピークとのピーク強度比(I(002)/I(100))が219以上、862以下であり、前記負極合剤層は、負極活物質として鱗片状黒鉛を含む非水電解質蓄電素子。
前記負極合剤層は前記フィラーを含有し、前記フィラーが存在する領域の厚み(d1)と前記被覆層の厚み(d2)との比率(d1/d2)が1.0以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質蓄電素子。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の構成及び効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施の形態若しくは実験例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0015】
本発明の実施形態において、非水電解質蓄電素子用負極は、集電体上に負極活物質を含む負極合剤層と前記負極合剤層の表面の少なくとも一部にフィラーを含有する被覆層を有する負極を備えている。
さらに、非水電解質蓄電素子用負極は、エックス線回折(XRD)測定において、負極活物質の(002)面に帰属される回折ピークと(100)面に帰属される回折ピークとのピーク強度比(I
(002)/I
(100))が219以上、862以下である。
後述する実施例に記載している様に、ピーク強度比(I
(002)/I
(100))を219以上、862以下とすることにより、被覆層中のフィラーが負極合剤層中に侵入することを抑制できるので、被覆層の絶縁性が向上する。
なお、ピーク強度比の具体的な測定方法については、後述する実施例に記載する。
【0016】
また、本発明の実施形態において、非水電解質蓄電素子用負極は、負極合剤層の負極活物質として鱗片状黒鉛を含有している。そして、負極活物質中に存在する鱗片状黒鉛の割合が10質量%以上、60質量%以下である。
これにより、被覆層中のフィラーが負極合剤層中に侵入することを抑制できるので、被覆層の絶縁性の向上に寄与する。
負極合剤層の負極活物質に占める鱗片状黒鉛の割合が60質量%を超えると、負極合剤層への非水電解液の浸透力が弱くなり、非水電解質蓄電素子の充放電特性が低下するため好ましくない。
【0017】
さらに、負極合剤層の負極活物質に占める鱗片状黒鉛の割合が10質量%を超え、20質量%以下とすることにより、非水電解質蓄電素子の充放電特性が向上するため好ましい。
【0018】
また、負極合剤層中に含まれる鱗片状黒鉛の割合が増えるにつれ、負極合剤層表面付近に存在する鱗片状黒鉛の割合も増加する。これにより、負極合剤層のプレス条件を緩和しても、ピーク強度比(I
(002)/I
(100))は219以上、862以下ととなり、負極合剤層へのフィラーの侵入を抑制できると考えられるので、被覆層の絶縁性が向上するものと推察される。
このことから、負極合剤層の負極活物質に占める鱗片状黒鉛の割合は、20質量%以上とすることが好ましい。
【0019】
負極活物質中に含まれる鱗片状黒鉛の割合については、以下の方法で測定することができる。
非水電解質蓄電素子の充電状態(SOC)が0%(放電末期状態)となるまで放電した非水電解質蓄電素子を、露点−20℃以下の環境下にて解体し、負極を取り出した後、正極と対向していない部分を切り出し、付着している電解液成分をジメチルカーボネート(DMC)等の溶媒を用いて洗い流した後、溶媒を乾燥させる。それをクロスセクションポリッシャー等により断面加工した断面部を走査電子顕微鏡(SEM)により観察することで、負極活物質中に含まれる鱗片状黒鉛の割合を確認することができる。
【0020】
ここで、鱗片状黒鉛について
図1を用いて説明する。
本発明の実施形態における鱗片状黒鉛とは、次の(1)〜(3)の条件を満たす粒子である。
(1)三つの長さのパラメーター(r1,r2,b)を有する。
(2)三つのパラメーターは、r1≧r2>bの関係性を満たす。
(3)r1とr2の平均値をaとした場合、アスペクト比(a/b)が5以上となる。
【0021】
本発明の実施形態において、鱗片状黒鉛のアスペクト比は5≦a/b≦80が好ましい。この範囲とすることで、被覆層中のフィラーが負極合剤層中に侵入することをより効率的に抑制することができるので好ましい。より好ましくは10≦a/b≦60であり、特に好ましくは20≦a/b≦40である。
【0022】
本発明の実施形態の非水電解質蓄電素子用負極中に含まれる鱗片状黒鉛のアスペクト比の測定方法としては、以下の方法を挙げることができる。
SOC=0%(放電末期状態)まで放電した非水電解質蓄電素子を、露点−20℃以下の環境下にて解体し、負極を取り出した後、正極と対向していない部分を切り出し、付着している電解液成分をジメチルカーボネート(DMC)等の溶媒を用いて洗い流した後、溶媒を乾燥させる。それをクロスセクションポリッシャー等により断面加工した断面部を、走査電子顕微鏡(SEM)により5箇所程度観察する。複数個の鱗片状黒鉛粒子のr1,r2,bを測定し、その平均値を算出する。
【0023】
また、非水電解質蓄電素子を解体して、負極を取り出した後、正極と対向していない部分を溶剤中に浸漬し、負極活物質と結着剤を含む溶液とを濾過により分離した後、負極活物質を光学顕微鏡で観察する。複数個の鱗片状黒鉛粒子のr1,r2,bを測定し、その平均値を算出しても良い。
【0024】
本発明の実施形態において、負極合剤層中に被覆層のフィラーが侵入した領域の厚みをd1、被覆層の厚みをd2としたときに、d1とd2の比率(d1/d2)が1.0以下であることが好ましい。この様に、被覆層中のフィラーの負極合剤層への侵入領域を小さくすることで、被覆層の絶縁性をより向上させることができるので好ましい。
【0025】
上記d1及びd2の測定方法としては、以下の方法を挙げることができる。
SOC=0%(放電末期状態)まで放電した非水電解質蓄電素子を、露点−20℃以下の環境下にて解体し、負極を取り出した後、正極と対向していない部分を切り出し、付着している電解液成分をジメチルカーボネート(DMC)等の溶媒を用いて洗い流した後、溶媒を乾燥させる。それをクロスセクションポリッシャー等により断面加工した断面部を走査電子顕微鏡(SEM)により複数箇所観察する。得られたSEM像から、フィラーの侵入領域(侵入距離)と被覆層の厚みに関してそれぞれの平均値を算出し、それらの比率(d1/d2)を求める。
【0026】
また、断面加工した負極を電子線マイクロアナライザー(EPMA)により分析することでd1及びd2を特定しても良い。
【0027】
本発明の実施形態において、負極活物質中に含まれる、鱗片状黒鉛以外の負極活物質は、その粒子形状が鱗片状ではないものであれば特に限定されることはなく、リチウムイオンを吸蔵あるいは放出することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。
例えば、Li[Li
1/3Ti
5/3]O
4に代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb、Sn系などの合金系材料、リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−スズ、リチウム−アルミニウム−スズ、リチウム−ガリウム、及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、酸化珪素等の酸化物系の他、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
これらの中でも、チタン系材料に対しては充放電容量の観点から、合金系材料やリチウム金属及び酸化物系に対してはサイクル特性の観点から炭素材料が好ましい。さらに、炭素材料の中でもグラファイトが特に好ましい。
【0028】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、負極活物質中に少量のB、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有することを排除するものではない。
【0029】
負極合剤層に用いる結着剤としては、水性結着剤又は有機溶剤系結着剤のいずれであっても良い。
ここで、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレン‐ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル‐ブタジエンゴム(NBR)、メチルメタクリレート‐ブタジエンゴム(MBR)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)等を例示することができる。
結着剤の添加量は、負極の総質量に対して1〜50質量%が好ましく、特に2〜30質量%が好ましい。
【0030】
負極合剤層の厚みは、充放電特性の観点から、30〜120μmが好ましい。
【0031】
被覆層に用いるフィラーとしては、満充電状態の非水電解質蓄電素子の負極電位においても電気化学的に安定な無機酸化物が好ましい。さらに、被覆層の耐熱性を高める観点から、250℃以上の耐熱性を有する無機酸化物がより好ましい。例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニアなどを挙げることができる。中でも、アルミナやチタニアが特に好ましい。
フィラーは上記の一種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。
【0032】
被覆層に用いるフィラーの形状は、被覆層が過度に充填されることを防止するため、樹枝状、珊瑚状、房状などの形状を有する多結晶粒子であることが好ましい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0033】
被覆層に用いるフィラーの粒径(モード径)は0.1μm以上が好ましい。
さらに、フィラーの合剤層への侵入を軽減する観点から、1μm以上が特に好ましい。
【0034】
被覆層用の結着剤としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されることは無い。
例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂や、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体、ポリエチレン、スチレン−ブタジエンゴム等のゴム系結着剤、さらには、ポリアクリロニトリル誘導体等がある。
ポリアクリル酸誘導体やポリアクリロニトリル誘導体は、アクリル酸単位または/およびアクリロニトリル単位の他に、アクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位、メタクリル酸メチル単位およびメタクリル酸エチル単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
中でも、被覆層の柔軟性が向上し、電極群作製時の巻回作業中に生じる負極のクラックや負極合剤層の脱落を防止することができることから、アクリロニトリル単位を含む高分子であるポリアクリロニトリル誘導体が好ましい。
【0035】
被覆層と負極合剤層との混じり合いを抑制するために、負極合剤層に水性結着剤を用いた場合は、被覆層に有機溶剤系の結着剤を使用することが好ましい。同様に、負極合剤層に有機溶剤系の結着剤を用いた場合には、被覆層に水性結着剤を使用することが好ましい。
【0036】
被覆層に含まれる結着剤の割合は、フィラー100質量部に対して、1質量部以上、50質量部以下であることが好ましい。さらに好ましくは1質量部以上、5質量部以下である。
【0037】
被覆層の厚みは、電池のエネルギー密度の観点から0.1μm以上、30μm以下が好ましい。さらに、電池の信頼性向上の観点から、1μm以上、30μm以下がより好ましく、非水電解質蓄電素子の充放電特性の観点から、1μm以上、10μm以下が特に好ましい。
【0038】
負極合剤層の多孔度は、15%以上、40%以下が好ましい。フィラーの負極合剤層への侵入を軽減する観点から、15%以上、30%以下であることがより好ましい。
【0039】
負極被覆層の絶縁性は、188Ω/cm
2以上であることが好ましい。この様な絶縁性を有する負極を用いることで、予期せぬ事態による内部短絡時の安全性を向上させることが可能となるので好ましい。より好ましくは、218Ω/cm
2以上である。
また、非水電解質蓄電素子の充放電特性の観点から、負極被覆層の絶縁性は、567Ω/cm
2以下であることが好ましく、472Ω/cm
2以下であることがより好ましい。
【0040】
負極に使用する集電箔等の集電体の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、クロムメッキ鋼等の金属材料が挙げられる。これらの中でも、加工し易さとコスト及び電気伝導性の観点から、銅が好ましい。
【0041】
本発明の実施形態において、負極の作製方法については、特に限定されることはないが、例えば、以下の様な方法とすることができる。
後述する実施例に示す様に、集電体上に負極活物質と結着剤及び溶媒を含む負極ペーストを塗布した後に乾燥を行うことで負極合剤層を作製し、さらにプレスを行うことで前記負極合剤層を所定の厚みとし、前記負極合剤層上にフィラーと結着剤及び溶媒を含む被覆ペーストを塗布した後に乾燥を行い、続いてプレスを行うことで被覆層を作製し、負極とする。
【0042】
また、集電体上に負極活物質と結着剤及び溶媒を含む負極ペーストを塗布した後に乾燥を行うことで負極合剤層を作製し、前記負極合剤層上にフィラーと結着剤及び溶媒を含む被覆ペーストを塗布した後に乾燥を行い、続いてプレスを行うことで被覆層を作製し、負極とすることも可能である。
この様に、負極合剤層作製後にプレスを行うことなく、被覆層を設ける方法であっても(被覆層作製時のプレス工程によって、)負極のエックス線回折ピークのピーク強度比(I
(002)/I
(100))を219以上、862以下とすることができるので、本発明の効果を奏する。
さらに、負極合剤層作製後にプレスを行う工程を省略することができるので、製造コストを下げることができるので、好ましい。
【0043】
また、上記の負極の作製方法において、負極ペーストに導電剤や各種添加剤が含まれていても良い。
【0044】
正極活物質としては、負極活物質よりも充放電による可逆電位が貴であるものであれば特に限定されるものではない。一例としては、LiCoO
2、LiMn
2O
4、LiNiCoO
2、LiNiMnCoO
2、Li(Ni
0.5Mn
1.5)O
4、Li
4Ti
5O
12、LiV
3O
8等のリチウム遷移金属複合酸化物、Li[LiNiMnCo]O
2等のリチウム過剰型遷移金属複合酸化物、LiFePO
4、LiMnPO
4、Li
3V
2(PO
4)
3、Li
2MnSiO
4等のポリアニオン化合物、硫化鉄、フッ化鉄、硫黄等を挙げることができる。
【0045】
正極は、正極活物質、導電剤、結着剤及びN−メチルピロリドン、トルエン等の有機溶媒又は水を加えて混練して正極ペーストとした後、この正極ペーストをアルミ箔等の集電体の上に塗布して、50〜250℃程度の温度で加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0046】
本実施形態の非水電解質蓄電素子に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO
4,LiBF
4,LiAsF
6,LiPF
6,LiSCN,LiBr,LiI,Li
2SO
4,Li
2B
10Cl
10,NaClO
4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO
4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF
3SO
3,LiN(CF
3SO
2)
2,LiN(C
2F
5SO
2)
2,LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2),LiC(CF
3SO
2)
3,LiC(C
2F
5SO
2)
3,(CH
3)
4NBF
4,(CH
3)
4NBr,(C
2H
5)
4NClO
4,(C
2H
5)
4NI,(C
3H
7)
4NBr,(n−C
4H
9)
4、NClO
4,(n−C
4H
9)
4NI,(C
2H
5)
4N−maleate,(C
2H
5)
4N−benzoate,(C
2H
5)
4N−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0048】
さらに、LiPF
6又はLiBF
4と、LiN(C
2F
5SO
2)
2のようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より望ましい。
【0049】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0050】
非水電解液におけるリチウムイオン(Li
+)の濃度としては、高い充放電特性を有する非水電解質蓄電素子を得るために、0.1mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l〜2.5mol/lであり、特に好ましくは、0.8mol/l〜1.0mol/lである。
【0051】
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、各種アミド系樹脂、各種セルロース類、ポリエチレンオキサイド系樹脂等を挙げることができる。
また、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを挙げることができる。
【0052】
さらに、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0053】
また、後述の実施例に示すように、セパレータの表面に無機フィラーを含有する表面層を備えていても良い。無機フィラーを含有する表面層を備えたセパレータを使用することにより、セパレータの熱収縮が抑制されることで、蓄電素子が通常使用温度域を超えるような状態になったとしても、内部短絡を軽減または防止できるようになる。よって、蓄電素子の安全性をより向上させることができるので好ましい。
【0054】
上記無機フィラーとしては、無機酸化物、無機窒化物、難溶性のイオン結合性化合物、共有結合性化合物、モンモリロナイトなどの粘土鉱物、等が挙げられる。
無機酸化物の例としては、酸化鉄、シリカ(SiO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、酸化チタン(TiO
2)、チタン酸バリウム(BaTiO
3)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)等がある。
無機窒化物の例としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等がある。
難溶性のイオン結合性化合物の例としては、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等がある。
【0055】
ここで、無機酸化物は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物などであってもよい。また、無機酸化物は、金属、SnO
2、スズ−インジウム酸化物(ITO)等の導電性酸化物や、カーボンブラック、グラファイト等の炭素質材料といった導電性材料の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、上記無機酸化物)で被覆することにより電気絶縁性を付与した粒子であっても良い。
これらの無機酸化物の中でも、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ベーマイトが特に好ましく用いられる。
【0056】
さらに、蓄電素子を構成するに当たり、無機フィラーを含有する表面層が正極と対向するように配置すると、蓄電素子の安全性をさらに向上させることができることから、より好ましい。
【0057】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0058】
図2に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図2に示す非水電解質蓄電素子1は、電極群2が外装体3に収納されている。電極群2は、正極と、被覆層を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。そして、外装体内部やセパレータに、非水電解質が保持されている。
【0059】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型、角型(矩形状)、扁平型等の非水電解質蓄電素子が一例として挙げられる。
【0060】
本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を
図3に示す。
図3において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【0061】
以後に記載する実施例においては、非水電解質蓄電素子としてリチウムイオン二次電池を例示するが、本発明はリチウムイオン二次電池に限らず、他の非水電解質蓄電素子にも適用可能である。
【0062】
(実施例1)
(負極合剤層の作製)
負極活物質である球状グラファイトと鱗片状黒鉛(アスペクト比50)、結着剤であるスチレン−ブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)、並びに溶媒である水を用いて負極ペーストを作製した。なお、球状グラファイトと鱗片状黒鉛の質量比率は85:15、SBRとCMCの質量比率は5:3、負極活物質と結着剤の質量比率は92:8とした。
負極ペーストは、水の量を調整することにより、固形分(質量%)を調整し、マルチブレンダーミルを用いた混練工程を経て作製した。本実施例においては、この負極ペーストの固形分濃度は50質量%に調整した。この負極ペーストを銅箔の両面に、未塗布部(負極合剤層非形成領域)を残して塗布し、120℃で乾燥することにより負極合剤層を作製した。
上記の様に負極合剤層を作製した後、負極合剤層の厚みが70μmとなるようにロールプレス行った。
【0063】
(被覆層の作製)
フィラーであるアルミナ(モード径1μm)、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)(株式会社クレハ製PVDF#9130)及び溶媒であるN−メチルピロリドン(NMP)を用いて被覆ペーストを作製した。なお、フィラーと結着剤の質量比率は94:6(固形分換算)とした。
被覆ペーストは、溶媒の量を調整することにより、固形分(質量%)を調整し、マルチブレンダーミルを用いた混練工程を経て作製した。本実施例においては、この被覆ペーストの固形分濃度は30質量%に調整した。この被覆ペーストを上記負極合剤層を覆うように塗布し、真空乾燥(100℃、24時間)することで負極を作製した。この負極における被覆層の厚みは7μmであり、負極合剤層の多孔度は30%であった。
【0064】
(実施例2)
負極活物質である球状グラファイトと鱗片状黒鉛との質量比率を80:20としたことを除いては、実施例1と同様にして実施例2の負極を作製した。
【0065】
(実施例3)
負極活物質である球状グラファイトと鱗片状黒鉛との質量比率を70:30としたことを除いては、実施例1と同様にして実施例3の負極を作製した。
【0066】
(実施例4)
負極活物質である球状グラファイトと鱗片状黒鉛との質量比率を60:40としたことを除いては、実施例1と同様にして実施例4の負極を作製した。
【0067】
(実施例5)
負極活物質である球状グラファイトと鱗片状黒鉛との質量比率を40:60としたことを除いては、実施例1と同様にして実施例5の負極を作製した。
【0068】
(実施例6)
負極活物質である球状グラファイトと鱗片状黒鉛との質量比率を90:10としたことを除いては、実施例1と同様にして実施例6の負極を作製した。
【0069】
(実施例7)
負極活物質である球状グラファイトと鱗片状黒鉛との質量比率を90:10とし、負極合剤層を作製した後に、平板プレスにより負極合剤層の厚みを70μmとしたことを除いては、実施例1と同様にして実施例7の負極を作製した。
【0070】
(比較例1)
負極活物質として球状グラファイトのみを使用したことを除いては、実施例1と同様にして比較例1の負極を作製した。
【0071】
(参考例1)
負極活物質である球状グラファイトと鱗片状黒鉛との質量比率を90:10とし、負極合剤層を作製した後に、プレスを行わなかったことを除いては、実施例1と同様にして負極を作製した。なお、負極の合剤層の厚みは97μmであった。
【0072】
(参考例2)
負極活物質である球状グラファイトと鱗片状黒鉛との質量比率を90:10とし、負極合剤層の厚みが85μmとなるように、ロールプレスを行ったことを除いては、実施例1と同様にして負極を作製した。
【0073】
(絶縁性測定)
実施例、比較例、参考例の各負極とアルミ箔(厚さ10μm)が対向する様に重ねあわせ、対向部にSUS製の金属のおもりを用いて0.34kgf/cm
2の圧力を加えた。この時の負極とアルミ箔間の直流抵抗値を低抵抗計(鶴賀電機株式会社製MODEL3566)により測定した。なお、対向部の面積は5.3cm
2の正方形とした。
この直流抵抗値を被覆層の「絶縁性」として記録した。
【0074】
(正極の作製)
正極活物質であるリチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物(組成式LiCo
1 /3Ni
1 /3Mn
1 /3O
2)、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び非水系溶媒であるNMPを用いて正極ペーストを作製した。ここで、前記PVDFは12%NMP溶液(株式会社クレハ製#1100)を用いた。なお、正極活物質、結着剤及び導電剤の質量比率は90:5:5(固形分換算)とした。この正極ペーストをアルミ箔の両面に、未塗布部を残して塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い正極を作製した。
【0075】
(非水電解液)
非水電解質は、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを、それぞれ30体積%、40体積%、30体積%となるように混合した溶媒に、塩濃度が1.2mol/LとなるようにLiPF
6を溶解させて作製した。非水電解質中の水分量は50ppm未満とした。
【0076】
(セパレータ)
セパレータには、厚み21μmのポリエチレン微多孔膜の表面に、無機フィラーを含む表面層を備えたものを用いた。
【0077】
(電池の組み立て)
正極と、各実施例、比較例、参考例の負極と、セパレータとを積層して巻回した。この時、無機フィラーを含む表面層と正極が対向する様に積層した。
その後、正極の正極合剤層非形成領域及び負極の負極合剤層非形成領域を正極リード及び負極リードにそれぞれ溶接して容器に封入し、容器と蓋板とを溶接後、非水電解質を注入して封口した。
【0078】
(初期活性化工程)
上記のようにして作製された各電池を、25℃に設定した恒温槽中で、以下の初期活性化工程に供した。
初期活性化工程の充電条件は、電流値1CA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電とした。充電時間は通電開始から7時間とした。放電条件は、電流1CA、終止電2.75Vの定電流放電とした。
なお、上記電流値である1CAとは、電池に1時間の定電流通電を行った時に、電池の公称容量と同じ電気量となる電流値である。
【0079】
(エックス線回折測定)
初期活性化後の各電池の充電状態(SOC)を0%(放電末期状態)となるように放電した。放電後の電池を露点−20℃以下の雰囲気中において解体して負極を取り出した後、正極と対向していない部分を切り出した。それをジメチルカーボネート(DMC)で負極に付着したリチウム塩を洗浄した後、溶媒を乾燥させた。
こうして得られた負極試料に対してエックス線回折(XRD)測定を実施した。
測定には、エックス線回折装置(株式会社リガク製、RINT PTR3)を用い、以下の条件を採用した。
光源 : Cu−Kα
出力電圧 : 50kV
出力電流 : 300mA
スキャンスピード : 1°/sec
ステップ幅 : 0.03°
スキャン範囲 : 10〜100°
スリット幅(受光側) : 0.3mm
測定により得られたデータを装置の付属ソフトであるPDXL1.8.1を用いて解析し、負極活物質の(002)面に帰属される回折ピークと(100)面に帰属される回折ピークとのピーク強度比(I
(002)/I
(100))を求めた。
なお、エックス線回折データの解析に際して、Kα2に由来するピーク除去は行わなかった。また、回折ピークの強度とは回折ピークの積分強度を意味する。
【0080】
各実施例、比較例、参考例のエックス線回折ピーク強度比と被覆層の絶縁性の値について、表1に示す。
【0082】
表1からわかるように、エックス線回折ピーク強度比(I
(002)/I
(100))が219よりも大きい実施例1、実施例2、実施例5、実施例7の被覆層の絶縁性の値は、比較例1、参考例1及び参考例2の絶縁性の値よりも桁違いに高いことがわかる。また、実施例3及び実施例4に関しては、エックス線回折ピーク強度比のデータは無いが、他の実施例及び比較例のエックス線回折ピーク強度比の傾向から、実施例2と実施例5の間の強度比となると考えられる。
この様に、負極のエックス線回折ピーク強度比(I
(002)/I
(100))を特定の範囲とすることにより、負極の高い絶縁性を実現できることから、電池、ひいては、非水電解質蓄電素子の予期せぬ事態による内部短絡時の安全性を向上させることが可能となる。
【0083】
この特定のエックス線回折ピーク強度比の範囲における被覆層の絶縁性の高さは、負極合剤層中に鱗片状黒鉛が10質量%以上含まれることに起因すると考えられる。
特定のエックス線回折ピーク強度比に対応する量の鱗片状黒鉛が負極合剤層に含まれることにより、負極合剤層と被覆層との界面に面する負極合剤層の表面の平滑性が高くなり、被覆層中のフィラーが負極合剤層中に侵入することを抑制できるので、被覆層の絶縁性を向上させることが可能になると考えられる。
【0084】
また、実施例7と参考例1及び参考例2との比較から、負極合剤層中に同じ量の鱗片状黒鉛が含まれていたとしても、被覆層の絶縁性を大きくするためには、エックス線回折ピーク強度比を特定の範囲内の値となるように、負極合剤層のプレス条件等を調整することが好ましいことが判る。
【0085】
なお、試験例を記載していないが、エックス線回折ピーク強度比(I
(002)/I
(100))が862を超える負極を用いた電池では、充放電特性が低下する。
【0086】
また、解体した電池から取り出した、正極と対向していない負極のうち、エックス線回折測定を行わなかった部分を用いて、被覆層の絶縁性の測定を実施した。その結果、電池組み立て前とほぼ同じ値が得られ、電池の組み立て前後においてXRD強度比と絶縁性の関係性に変化は見られなかった。