特許第6731421号(P6731421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6731421-真空ポンプロータ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6731421
(24)【登録日】2020年7月8日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】真空ポンプロータ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20200728BHJP
   F04D 29/32 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   F04D19/04 D
   F04D29/32 C
【請求項の数】27
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-556803(P2017-556803)
(86)(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公表番号】特表2018-517090(P2018-517090A)
(43)【公表日】2018年6月28日
(86)【国際出願番号】EP2016061786
(87)【国際公開番号】WO2016198260
(87)【国際公開日】20161215
【審査請求日】2019年3月11日
(31)【優先権主張番号】202015004001.2
(32)【優先日】2015年6月8日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】202015004160.4
(32)【優先日】2015年6月15日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508206070
【氏名又は名称】レイボルド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ホルザー,ライナー
(72)【発明者】
【氏名】ウーリッヒ,カイ
【審査官】 田中 尋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/052375(WO,A1)
【文献】 特表2007−516372(JP,A)
【文献】 特開2003−165851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04D 29/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特にターボ分子ポンプのための真空ポンプロータであって、
ロータ軸に連結するため、及び/又はロータ軸を形成するためのハブ要素と
前記ハブ要素に連結されている複数の動翼と
を備えており、
前記ハブ要素及び前記動翼は複数の材料層を有しており、
前記材料層の少なくとも1つが繊維強化材料を含んでおり、
前記ハブ要素の材料層の繊維強化材料の繊維方向は、前記動翼の材料層の繊維強化材料の繊維方向とは異なることを特徴とする真空ポンプロータ。
【請求項2】
前記ハブ要素を囲んでいる複数の動翼が設けられており、前記動翼は夫々、前記ハブ要素に連結されている翼足部、及び前記翼足部に連結されている翼頭部を有していることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプロータ。
【請求項3】
前記ハブ要素は、繊維強化材料を含む少なくとも1つの保持要素を有していることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプロータ。
【請求項4】
繊維強化材料を含む基部要素が設けられており、前記基部要素は、少なくとも1つの保持要素に直接的又は間接的に連結されていることを特徴とする請求項に記載の真空ポンプロータ。
【請求項5】
前記ハブ要素は、繊維強化材料を含む少なくとも1つの保持要素を有していることを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプロータ。
【請求項6】
繊維強化材料を含む基部要素が設けられており、前記基部要素は、少なくとも1つの保持要素に直接的又は間接的に連結されていることを特徴とする請求項5に記載の真空ポンプロータ。
【請求項7】
前記基部要素は、前記ハブ要素に配置されたハブ部材を有しており、前記翼足部、好ましくは更に前記翼頭部を形成していることを特徴とする請求項に記載の真空ポンプロータ。
【請求項8】
前記ハブ要素は、2つの互いに対向する保持要素を有しており、前記保持要素の間に前記基部要素のハブ部材が配置されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の真空ポンプロータ。
【請求項9】
繊維強化材料を好ましくは含んでいる補強要素が設けられており、前記補強要素は、前記保持要素に対向して接することによって連結されて、前記翼足部内に延びていることを特徴とする請求項に記載の真空ポンプロータ。
【請求項10】
繊維強化材料を好ましくは含んでいる補強要素が設けられており、前記補強要素は、前記保持要素に対向して接することによって連結されて、前記翼足部内に延びていることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか一項に記載の真空ポンプロータ。
【請求項11】
前記補強要素は、好ましくは少なくとも部分的に軸方向に延びている、及び/又は前記保持要素の後方で係合する固定要素を内側に有していることを特徴とする請求項10に記載の真空ポンプロータ。
【請求項12】
2つの互いに対向する補強要素は、前記基部要素の異なる側に配置されていることを特徴とする請求項10又は11に記載の真空ポンプロータ。
【請求項13】
繊維強化材料を含んでいる少なくとも1つの追加の翼要素が設けられており、前記追加の翼要素は、前記保持要素に連結されており、前記翼足部、及び好ましくは前記翼頭部内に延びていることを特徴とする請求項乃至のいずれか一項に記載の真空ポンプロータ。
【請求項14】
前記少なくとも1つの追加の翼要素は、好ましくは少なくとも部分的に軸方向に延びている、及び/又は前記保持要素の後方で係合している固定要素を内側に有していることを特徴とする請求項13に記載の真空ポンプロータ。
【請求項15】
前記追加の翼要素の1つが、繊維強化材料のラジアル層を有していることを特徴とする請求項13又は14に記載の真空ポンプロータ。
【請求項16】
前記追加の翼要素の1つが、開繊糸織物層を有していることを特徴とする請求項13乃至15のいずれか一項に記載の真空ポンプロータ。
【請求項17】
繊維強化材料を含んでいる少なくとも1つの追加の翼要素が設けられており、前記追加の翼要素は、前記保持要素に連結されており、前記翼足部、及び好ましくは前記翼頭部内に延びていることを特徴とする請求項10乃至12のいずれか一項に記載の真空ポンプロータ。
【請求項18】
前記少なくとも1つの追加の翼要素は、好ましくは少なくとも部分的に軸方向に延びている、及び/又は前記保持要素の後方で係合している固定要素を内側に有していることを特徴とする請求項17に記載の真空ポンプロータ。
【請求項19】
前記追加の翼要素の1つが、繊維強化材料のラジアル層を有していることを特徴とする請求項17又は18に記載の真空ポンプロータ。
【請求項20】
前記追加の翼要素の1つが、開繊糸織物層を有していることを特徴とする請求項17乃至19のいずれか一項に記載の真空ポンプロータ。
【請求項21】
前記追加の翼要素の少なくとも1つは、好ましくは前記基部要素の翼頭部に対向して接することによって連結されている内側の追加の翼要素として構成されていることを特徴とする請求項19に記載の真空ポンプロータ。
【請求項22】
前記追加の翼要素の少なくとも1つは、好ましくは前記内側の追加の翼要素に対向して接することによって連結されている外側の追加の翼要素として構成されていることを特徴とする請求項21に記載の真空ポンプロータ。
【請求項23】
前記基部要素及び少なくとも1つの追加の翼要素、好ましくは全ての追加の翼要素は、同一の外形、好ましくは翼状の外形を有していることを特徴とする請求項乃至のいずれか一項に記載の真空ポンプロータ。
【請求項24】
前記基部要素及び少なくとも1つの追加の翼要素、好ましくは全ての追加の翼要素は、同一の外形、好ましくは翼状の外形を有していることを特徴とする請求項10乃至12及び17乃至22のいずれか一項に記載の真空ポンプロータ。
【請求項25】
前記補強要素は、前記翼足部の領域で前記基部要素及び/又は前記追加の翼要素の1つに直接対向して接していることを特徴とする請求項17乃至22及び24のいずれか一項に記載の真空ポンプロータ。
【請求項26】
前記内側の追加の翼要素は、前記翼足部及び/又は前記翼頭部の領域で前記外側の追加の翼要素に対向して接することによって直接接していることを特徴とする請求項22に記載の真空ポンプロータ。
【請求項27】
前記基部要素に対して対称的な多層構造を有していることを特徴とする請求項4、6乃至8、10乃至12及び17乃至26のいずれか一項に記載の真空ポンプロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプロータ、特にターボ分子真空ポンプのためのロータに関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
例えばターボ分子ポンプのような真空ポンプは、ロータ軸に配置されたロータを備えている。ロータ軸は電気モータによって駆動される。ロータの動翼は、通常ポンプハウジングに固定されているステータディスクと協働する。特にターボ分子ポンプで使用されるような高速で回転するロータでは、ロータをアルミニウム、鋼又は対応する合金から製造することが知られている。特に10-4mbar未満の高真空を得るために、ロータを高い回転速度で作動させる必要がある。鋼、アルミニウムなどのロータを使用する場合、動翼の先端速度、つまり動翼の先端で生じる接線速度には制限要因がある。公知のロータでは、400 m/s の先端速度が得られる。この点に関する問題として、例えばヘリウム、水素などの軽いガスを運ぶとき、このようなガスの熱運動速度は高いので、運ぶためにロータの高い回転速度、つまり特に高い先端速度が必要である。
【0003】
本発明は、高い先端速度に達するように構成されている真空ポンプロータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、上記の目的は請求項1に定義された特徴によって達成される。
【0005】
本発明の真空ポンプロータは、真空ポンプの軸に連結可能である、及び/又は前記軸を形成しているハブ要素を備えている。ハブ要素に、動翼が好ましくは角度のある向きで連結されている。
【0006】
本発明に従って先端速度を増すために、ロータ要素及び/又はハブ要素は複数の材料層を有している。このように、著しく応力を受ける領域での動作のために、異なる材料の材料層を配置することにより異なる材料を設けることが可能になる。本明細書では、材料層の少なくとも1つが繊維強化材料を含んでいることが特に好ましい。特に少なくとも1つの材料層が繊維強化材料を含んでいることにより、真空ポンプロータを高い回転速度で作動させることが可能になる。特に、そのため、400 m/s を超える、好ましくは500 m/s を超える、最も好ましくは600 m/s を超える先端速度を達成することが可能になる。
【0007】
真空ポンプロータは、ロータ軸に連結するためのハブ要素を備えており、ロータ軸も複数のハブ要素によって形成され得る。ロータ要素に、ロータ要素を囲む複数の動翼が連結されている。動翼は夫々、ハブ要素に連結されている翼足部、及び翼足部に連結されている翼頭部を有していることが好ましい。ハブ要素は、繊維強化材料を含む少なくとも1つの保持要素を有していることが好ましい。ハブ要素の保持要素に基部要素が連結されており、前記基部要素は、夫々の動翼の翼足部及び翼頭部に直接的又は間接的に連結されている。好ましくは、保持要素及び基部要素の2つが部分的に互いに重なって、それによって少なくとも2つの材料層が形成されるように、保持要素及び基部要素は連結されている。この配置では、保持要素及び基部要素の少なくとも1つが繊維強化材料を含んでおり、保持要素及び基部要素の両方が繊維強化材料を含んでいることが好ましい。このような構成によって、真空ポンプロータの高い応力抵抗、及び特に高い先端速度が可能になる。
【0008】
特に、以下に記載されているような本発明の好ましい実施形態によれば、高い応力に耐える真空ポンプロータが製造され得る。その結果、高速で回転する真空ポンプロータを製造することが可能である。加えて、回転速度を増すことが可能であるため、400 m/s を超える必要な先端速度に達することができるので、真空ポンプの直径を減少させることが可能である。
【0009】
ハブ要素は2つの互いに対向する保持要素を有しており、2つの保持要素間に基部要素のハブ部材が配置されていることが好ましい。その場合、この領域に3層の構造が実現され、ハブ要素及び/又はハブ部材の両方が繊維強化材料から製造されていることが同様に好ましい。基部要素全体が繊維強化材料から製造されていることが好ましい。
【0010】
更に好ましい実施形態によれば、好ましくは繊維強化材料を含んでいる補強要素が設けられている。少なくとも1つの補強要素は、ハブ要素の保持要素に対向して接することにより連結されていることが好ましく、補強要素は、夫々の動翼の翼足部内に延びていることが特に好ましい。従って、補強要素は更なる材料層を形成している。特に好ましくは、2つの補強要素が設けられており、これら補強要素は、基部要素に、特には基部要素のハブ部材に2つの互いに対向する側で連結されている。特に好ましい実施形態によれば、この実施形態における基部要素は中間の材料層であり、少なくともハブ部材の領域の互いに反対側の位置に1つの補強要素が夫々配置されており、補強要素は、好ましくは翼足部内に延びて、基部要素に好ましくは対向して接することにより連結されている。好ましい実施形態によれば、2つの更なる材料層が2つの保持要素によって設けられており、保持要素自体は補強要素の外側に配置されてハブ要素の相当な部分を形成している。2つの保持要素は、互いに対向して配置されており、補強要素の夫々の上側に好ましくは対向して接することによって直接的又は間接的に連結されている。動翼の応力抵抗を更に高めるために、特に異なる材料及び/又は繊維の異なる向きの更なる中間層を設けることが可能である。
【0011】
更に、少なくとも1つの補強要素、好ましくは補強要素の両方が固定要素を内側に有し得る。固定要素は、軸方向に延びている突部として好ましくは形成されている。突部は夫々の保持要素の後方で径方向に係合していることが好ましい。
【0012】
更に好ましい実施形態によれば、好ましくは繊維強化材料を含んでいる少なくとも1つの追加の翼要素が設けられている。少なくとも1つの追加の翼要素は保持要素に間接的又は直接的に連結されている。更に、追加の翼要素は、基部要素の翼足部及び/又はハブ部材に間接的又は直接的に連結されている。更に、追加の翼要素は、翼頭部に好ましくは対向して接することによって連結され得る。この実施形態では追加の翼要素は更なる材料層として平坦に形成されていることが好ましい。
【0013】
追加の翼要素は、同様に突部に対応して部分的に軸方向に延びることができる、及び/又は保持要素の後方で好ましくは径方向に係合する固定要素を内側に更に有している。
【0014】
本実施形態でも、基部要素の異なる側に配置されている2つの追加の翼要素を設けることが好ましく、特に対称的な構成が好ましく、基部要素は中心面を構成している。
【0015】
真空ポンプロータの更に好ましい実施形態によれば、更なる材料層が設けられている。本実施形態では、追加の翼要素は内側の追加の翼要素として構成されており、少なくとも1つの更なる外側の追加の翼要素が設けられている。少なくとも1つの更なる外側の追加の翼要素は内側の追加の翼要素に好ましくは対向して接することによって連結されており、2つの追加の翼要素の外形寸法が同一であることが特に好ましい。しかしながら、任意には外側の追加の翼要素は、内側の追加の翼要素の一部のみを覆うことができる。更に、内側の追加の翼要素の外形寸法が外側の追加の翼要素の外形寸法より小さいことが更に可能である。例えば、外側の追加の翼要素は翼頭部内に延びることができ、任意に翼頭部を完全に覆うことができ、内側の追加の翼要素は翼足部の領域のみに配置されている、及び/又は任意に翼頭部の一部のみを覆っている。
【0016】
基部要素及び少なくとも1つの追加の翼要素、好ましくは全ての追加の翼要素が実質的に同一の外形、特に翼状の外形を有していることが好ましい。
【0017】
翼足部の領域では、少なくとも1つの補強要素が基部要素及び/又は追加の翼要素の1つに対向して直接接しており、基部要素及び/又は追加の翼要素の1つに好ましくは緊密に連結されていることが更に好ましい。更に、翼足部又は翼頭部の領域で、内側の追加の翼要素が外側の追加の翼要素に対向して直接接しており、外側の追加の翼要素に好ましくは連結されていることが好ましい。個々の動翼及びハブ要素は、構成が基部要素に対して対称であるように多層の構成を好ましくは有している。
【0018】
通常のリング状のハブ要素は動翼を周部に有しており、好ましくは複数の動翼を好ましくは所定のピッチで有している。
【0019】
本発明によって提供されるように先端速度を増すために、ハブ要素及び/又は動翼は好ましくは繊維強化材料を含んでいる。本明細書では、繊維は主に応力に適した方法で設けられている。このため、本発明の真空ポンプロータがより高い回転速度で作動可能である。特にそのため、400 m/s を超える、好ましくは500 m/s を超える、最も好ましくは600 m/s を超える先端速度に達することが可能になる。
【0020】
使用される材料は、1〜50mmの繊維長の長繊維強化材料、又は繊維長が50mmより長いエンドレスファイバを含んでいることが好ましい。
【0021】
繊維がこのような高速で生じる力及びモーメントを吸収し得るように繊維の適切な向きによって、繊維の応力に適した配置が好ましくは実現されている。応力に適した配置は、任意には夫々の操作上の応力に応じて、使用される繊維の方向、密度、剛性及び/又は厚さを更に変えることにより更に実現される。これは、特にハブ要素及び/又は動翼に対する応力の領域によって決まる。更に、応力に適した配置のために、対応する応力に特に適したタイプの繊維が使用されていることが特に好ましい。
【0022】
上記の点について、金属、プラスチック又は炭素繊維を使用することが好ましい。この点について同様に、任意にハブ要素又はハブ要素の方を向いている動翼の部分の領域には、金属繊維が異なる破損挙動を示すことから、金属繊維が使用されていることが好ましい。
【0023】
ハブの領域では更に、繊維の位置を安定させるため又はかさを与えるために、大量の金属部分又はプラスチック部分が積層体に組み入れられ得る。例えばプラスチック、炭素及び/又は金属繊維が含浸されている、又は予め含浸されていることが更に好ましい。本明細書では、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド及び/又は熱可塑性プラスチック、更にポリウレタンが含浸されていることが優先される。更に織物、開繊糸、テープ層、TFP (tailored fiber placement)としての繊維を巻かれた形態又は編まれた形態及び/又は螺旋状のメッシュとして設けることが好ましい。更に、様々な繊維配置の特に応力に適した混合形態が可能であり、これもまた好ましい。
【0024】
特に高い先端速度を達成するために、ハブ要素内及びハブ要素上及び/又は動翼内及び動翼上に設けられた繊維の少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%が応力に適した方法で、つまり、特に歪みの主方向に設けられていることが好ましい。翼の領域では、繊維は力を吸収するために好ましくは径方向に延びている。ハブの領域では、繊維の一部が周方向のみに設けられている一方、他の領域では歪みの変位を可能にするために様々な方向が定められていることが好ましい。本明細書では、ハブ要素及び/又は動翼の全体積に対する繊維の体積部分が、好ましくは50%より大きく、特に60%より大きい。
【0025】
ハブ要素内又はハブ要素上に設けられた繊維は、周方向に、つまりハブ要素の回転方向に好ましくは向けられている。本明細書では、繊維が力を周方向に吸収し得るように、繊維が好ましくは設けられている。この点に関して、周方向に関連し、±10°〜±20°の角度範囲内の偏差が、夫々の繊維が実質的に周方向に依然として延びているという意味で定められている。
【0026】
動翼内又は動翼上では、繊維が実質的に径方向に好ましくは延びている。翼の領域では、繊維が力を径方向に吸収するように、繊維は設けられる必要がある。ここでも、±10°〜±20°の角度範囲の偏差が、実質的に径方向に延びている繊維に関連して定められている。
【0027】
特に動翼の翼部分の角度のある領域では、例えば翼のねじれを防ぐために、繊維の応力に適した配置を実現するように相互に交わる繊維を使用することが好ましい。本明細書では、繊維は、翼の長手軸芯に対して±30°〜±45°の角度範囲内で、且つ互いに対して±70°〜±90°の角度範囲内で好ましくは延びている。例えばパッチ又は開繊糸のような相当する繊維層がこの目的に適している。ハブ要素と動翼との移行領域では、ハブ要素と動翼との連結領域が応力に適した最良の構成であるように、繊維がハブ要素から動翼に混ぜ合わさっていることが特に好ましい。特にこのような構成では、ハブ要素及び動翼が一体型として一体に形成されていることが好ましい。しかしながら、動翼を引っ掛け、対応する溝への挿入などによってハブに連結することが更に可能である。更に、これらの組み合わせによって、引っ掛け又は別の方法によってまずハブ要素に連結された翼要素がこの領域で繊維層を介してハブ要素に連結されていることが可能である。
【0028】
繊維の連結はその後の鋳造、樹脂化などによって行われ得る。しかしながら、繊維の正確な位置を定めるために繊維を互いにまず結合することが更に可能である。繊維は、所要の方向に固定されることができるか、又は更に裁縫、編成などによって互いに連結されることができる。
【0029】
更に、動翼が8°〜50°のピッチ角を有し得ることが好ましい。
【0030】
上述された真空ポンプロータを用いて、特に、400 m/s を超える、好ましくは500 m/s を超える、最も好ましくは600 m/s を超える高い先端速度を達成することが可能である。このため、ロータが特にヘリウム、水素のような軽いガスを運ぶために更に適していることが利点であり、これは本発明にとって必須のものである。このため、高い搬送能力をもたらしながら、直径を減少させるポンプロータを実現することが更に可能になる。
【0031】
追加の翼要素の1つ、好ましくは内側の追加の翼要素及び外側の追加の翼要素の両方が繊維強化材料、特に繊維強化プラスチックのラジアル層を有していることが特に好ましい。更に、追加の翼要素の1つ、好ましくは2つの外側の追加の翼要素が開繊糸織物層を有していることが好ましい。
【0032】
更に少なくとも1つの補強要素が繊維材料、好ましくはプラスチック繊維材料を含んでいることが好ましい。本明細書では、繊維の一部が周方向に好ましくは延びている。そのため、接線層が形成されている。更に少なくとも1つの保持要素が周方向に延びている繊維を含んでおり、従って更なる接線層を形成していることが好ましい。好ましい実施形態によれば、特に内側の追加の翼要素が、主繊維方向に対して、ラジアル層が形成されるように径方向に延びている繊維を含んでいる。好ましくは2つの外側の追加の翼要素では、繊維が相互に交わる構成で設けられており、好ましくは開繊糸織物が設けられている。
【0033】
特に、材料繊維の特に好ましい異なる向きを有する好ましくは異なる材料層から形成された真空ポンプロータの多層構造によって、非常に高い先端速度が達成され得るように非常に高い応力に耐える真空ポンプロータを提供することが可能になる。
【0034】
本発明によれば、真空ポンプロータの上述した構成は、送風機、通風装置、ガス搬送の分野で使用されるような他の高速で回転するロータにも好ましく、これは独立した発明を構成している。
【0035】
本発明を、好ましい実施形態によって添付図面を参照して以下に更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】表示がより概略図になるように簡略化されている、組み立てられた状態の真空ポンプロータを示す部分図であって、部分的に分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1では、互いに連結されている材料層を有する多層の真空ポンプロータの一部がまず示されている。図1では、ハブ要素10の一部が示されている。円環状のハブ要素10の内、1つの円環部分のみが図1に示されている。ハブ要素10は、例えばハブ要素10が固定して連結されているロータ軸を囲んでいる。通常、複数の真空ポンプ段が組み立てられて、例えばターボ分子ポンプのためのロータを形成するように、複数のこのような円環状のハブ要素が連続的に軸方向に配置されている。そのため、個々のハブ要素がロータ軸に連結され得るか、又はハブ要素自体が、互いに対応するように連結されることによりロータ軸を形成し得る。ハブ要素10に複数の動翼12が連結されており、動翼は夫々所定のピッチで径方向及び周方向に延びており、図示をより明瞭化するために、このような動翼12の1つのみが示されている。
【0038】
多層構造の視覚化をより適切にするために、図1は個々の層の分解図を更に含んでいる。この分解図の中間層として、基部要素14が示されている。図示されている好ましい実施形態の真空ポンプロータ全体の構成は基部要素14に対して対称である。基部要素14に補強要素16が配置されており、基部要素14に対して対称に、更なる補強要素が、図示された補強要素16と対称に反対側に配置されている。このような構成は、内側の追加の翼要素18によって形成されている次の層にも対応して該当し、第2の追加の翼要素18自体が基部要素14に対して対称に反対側に設けられている。対応して更に2つの外側の追加の翼要素20が設けられており、同様に基部要素14に対して対称に配置されている。更なる要素として、2つの保持要素22が設けられており、同様に基部要素14に対して対称に配置されている。本明細書では、保持要素22はハブ要素10の必須の要素である。
【0039】
図示された好ましい実施形態では、対称面を形成する基部要素14は、動翼12の外形に対応する外形を有している。本明細書では、基部要素14は、ハブ要素10内に延びてハブ要素10の2つの保持要素22間に配置されているハブ部材24を有している。この点に関して、2つの保持要素22が好ましくはリング状に構成され、これら2つのリング状の保持要素22間に、複数のハブ部材が動翼12の数に対応して配置されているとみなされるべきである。ハブ部材24に、翼足部26が好ましくは一体型で一体に連結されている。前記翼足部26は、ハブ部材と翼頭部28との間の連結要素を構成している。本明細書では、前記翼頭部28は動翼12の必須の要素である。基部要素14は好ましくは一体型の構成であり、好ましい実施形態によれば炭素繊維不織布を含んでいる。
【0040】
次の層は、2つの相互に対向する補強要素16によって形成されている。図示された例示的な実施形態では、補強要素16の外形は、ハブ部材24及び翼足部26の外形に対応している。任意には、補強要素16は翼足部26の一部内にのみ延びている。補強要素は、内側に固定要素を有している。この固定要素は軸方向の外側に延び、2つの保持要素22の各々の後方で係合している。補強要素16は、好ましくは接線層として構成されており、その場合、接線方向の力を周方向に吸収するのに適した複数の繊維を含んでいる。この構成では、ハブの内部領域の厚さ勾配が大きい。
【0041】
次の材料層は2つの内側の追加の翼要素18によって形成されている。内側の追加の翼要素の外形は基部要素の外形に対応している。内側の追加の翼要素18は、固定要素32に対応して保持要素22の後方で径方向に係合する固定要素32を同様に有している。これらの層がラジアル層とみなされ得るように、内側の追加の翼要素18の材料繊維が径方向に向けられていることが好ましい。
【0042】
次の材料層は外側の追加の翼要素20によって形成されている。外側の追加の翼要素20の外形は同様に基部要素14の外形に対応している。更に、外側の追加の翼要素20も、2つの保持要素22の後方で同様に径方向に係合する固定要素34を有している。外側の追加の翼要素20が開繊糸織物から形成されていることが好ましい。
【0043】
外側の材料層は2つの保持要素22によって形成されており、これら2つの保持要素22は動翼12内に延びていないが、ハブ要素を実質的に形成している。更に、保持要素22は好ましくは材料繊維を含んでおり、好ましくはプラスチック繊維又は炭素繊維を含んでいる。
【0044】
本発明にとって、真空ポンプロータの多層構造が最も重要な点である。この点について、個々の層の構成及び夫々の材料は、材料の応力に適した最適な選択及び動作要件に適した繊維配置の態様の下で好ましくは選択されている。そのため、極めて高い応力に耐えて、400 m/s を超える、好ましくは500 m/s を超える、最も好ましくは600 m/s を超える先端速度を実現し得る真空ポンプロータが製造され得る。
図1