特許第6732019号(P6732019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6732019ペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクル、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6732019
(24)【登録日】2020年7月9日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】ペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクル、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/62 20120101AFI20200716BHJP
【FI】
   G03F1/62
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-525081(P2018-525081)
(86)(22)【出願日】2017年6月20日
(86)【国際出願番号】JP2017022688
(87)【国際公開番号】WO2018003603
(87)【国際公開日】20180104
【審査請求日】2018年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-127535(P2016-127535)
(32)【優先日】2016年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敦
(72)【発明者】
【氏名】小野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】高村 一夫
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰久
(72)【発明者】
【氏名】吉川 弥
【審査官】 冨士 健太
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/043301(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/178250(WO,A1)
【文献】 実開平03−042153(JP,U)
【文献】 特表2010−541267(JP,A)
【文献】 特開2013−004893(JP,A)
【文献】 特開2014−211474(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0370423(US,A1)
【文献】 韓国登録特許第10−1624078(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00− 1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にペリクル膜を形成し、
前記基板の前記ペリクル膜が形成された面とは反対側の面に金属マスクを形成し、
前記金属マスク側から前記基板の一部を除去し、
前記金属マスクを除去する、
ペリクルの製造方法。
【請求項2】
前記基板と前記ペリクル膜との間に、表面金属コート層を形成することをさらに含む、
請求項1に記載のペリクルの製造方法。
【請求項3】
前記金属マスクがクロムである、
請求項1に記載のペリクルの製造方法。
【請求項4】
前記表面金属コート層がルテニウムである、
請求項2に記載のペリクルの製造方法。
【請求項5】
前記基板の一部を除去することはウェットエッチングにより行われる、
請求項1に記載のペリクルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィ用マスクに使用される、ペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクル、及びその製造方法に関する。特に、本発明は、極端紫外光(Extreme Ultraviolet:EUV)リソグラフィ用の極薄膜であるペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクル、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィ工程では、マスク或いはレチクル上に塵埃等が付着するのを防止するために、マスクパターンを囲う大きさの枠の一端にペリクル膜を張架したペリクルが使用されている。
【0003】
ここで、ペリクルは塵埃等の異物からフォトマスクを保護するために用いられていることから、製造したペリクルに塵埃等が付着していると、そもそもペリクルを用いる意味がない。したがって、塵埃等の付着を低減させるペリクル及びその製造方法が、現在切望されている。
【0004】
現在までに、リソグラフィの波長は短波長化が進み、次世代のリソグラフィ技術として、EUVリソグラフィの開発が進められている。EUV光は、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長の光を指し、13.5nm±0.3nm程度の光線を指す。フォトリソグラフィでは、パターンの解像限界は露光波長の1/2程度であり、液浸法を用いても露光波長の1/4程度と言われており、ArFレーザ(波長:193nm)の液浸法を用いても、その露光波長は45nm程度が限界と予想されている。したがって、EUVリソグラフィは、従来のリソグラフィから大幅な微細化が可能な革新的な技術として期待されている。
【0005】
ここで、EUV光は、あらゆる物質に対して吸収されやすいため、特にEUV用のペリクルではペリクルに配置するペリクル膜も従来にないナノメートルオーダーの膜とする必要がある。
【0006】
このような極薄な膜を用いる必要のあるEUV用ペリクルの製造方法は、特許文献1のように、ペリクル膜はまずシリコン基板などの基板上にCVDまたはスパッタもしくはそれ以外の成膜方法を用いて成膜されたのち、基板だけを、周囲の枠状領域を残してエッチング等によって除去する(バックエッチング)ことにより得られるのが一般である。
【0007】
粉塵の少ないペリクルという目標を達成するため、現在までに様々な問題点が検討され、そしてその解決を図る試みがなされてきた。例えば、特許文献2には、ペリクル枠に少なくとも一つの通気孔が形成され、通気孔には塵埃等の通過を阻止するフィルタ部材が枠部材、マスク基板及びペリクル膜で囲まれた空間内に脱落しないように設けられたペリクルが記載されている。もっとも、かかる発明はEUV用ペリクルに関するものではないし、また、粉塵の低減という観点からも十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−004893号公報
【特許文献2】実公昭63−39703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ペリクルは製造過程において様々な原因で、塵埃等に汚染されるが、とくに、トリミング時やペリクル膜に対する種々の加工時、及び運搬時等に、塵埃等が付着するリスクが高いという問題がある。本発明は、塵埃等の付着が低減したEUV用ペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクル、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、基板上にペリクル膜を形成し、基板のペリクル膜が形成された面とは反対側の面に金属のマスクを形成し、前記金属マスク側から基板の一部を除去し、金属マスクを除去する、ペリクルの製造方法を提供する。
【0011】
本発明の一実施形態において、基板とペリクル膜との間に、表面金属コート層を形成することをさらに含んでもよい。
【0012】
本発明の一実施形態において、金属マスクがクロムであってもよい。また、本発明の一実施形態において、表面金属コート層がルテニウムであってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態において、基板の一部を除去する工程はウェットエッチング工程であってもよい。
【0014】
本発明の一実施形態において、基板の一部を除去する前に、少なくともペリクル膜面に付着した粒子を除去してもよい。
【0015】
一実施形態において、基板の一部を除去する前に、基板の端部を面取りしてもよい。
【0016】
一実施形態において、粒子を除去する前に、少なくとも基板に孔を形成してもよい。
【0017】
一実施形態において、粒子を除去する前に、少なくともペリクル膜及び基板に孔を形成してもよい。
【0018】
一実施形態において、粒子を除去する前に、少なくともペリクル膜に孔を形成してもよい。
【0019】
一実施形態において、孔を形成するために、極短パルスレーザーを用いてもよい。
【0020】
一実施形態において、基板の一部を除去することはウェットエッチングにより行われ、孔は、ウェットエッチングによって設けられてもよい。
【0021】
一実施形態において、極短パルスレーザーを用いてトリミングをしてもよい。
【0022】
上記課題を解決するため、ペリクル膜と第1の枠体とを有し、前記ペリクル膜は前記第1の枠体に張架され、第1の枠体は、0μm以上0.5μm以下の長さの庇部を有することを特徴とするペリクル枠体が提供される。
【0023】
ペリクル膜と前記第1の枠体との間に表面金属コート層を有してもよい。
【0024】
本発明の一実施形態において、第1の枠体の端部がR面加工されていてもよい。すなわち、第1の枠体の端部が少なくとも1つの湾曲部を有してもよい。
【0025】
本発明の一実施形態において、ペリクル膜と第1の枠体とを有し、ペリクル膜は第1の枠体に張架され、第1の枠体の端部がC面加工されていてもよい。すなわち、第1の枠体の端部に斜面を有し、第1の枠体の上面と斜面とのなす角が100度以上170度以下であってもよい。
【0026】
本発明の一実施形態において、ペリクル枠体が第2の枠体に接続され、第2の枠体の端部がR面加工されていてもよい。すなわち、第2の枠体の端部に湾曲部を有してもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一実施形態によれば、本発明は、塵埃等の付着が低減したEUV用ペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクル、及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明らが発見したペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルの粉塵による汚染メカニズムを説明するための模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係るペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルの製造方法に係るフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係るペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルの製造過程を示す模式図(断面図)である。
図4】本発明の一実施形態に係るペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルの製造過程を示す模式図(断面図)である。
図5】本発明の一実施形態に係るペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルの製造過程を示す模式図((a)および(d)は平面図、(b)および(c)は断面図)である。
図6】本発明の一実施形態に係るペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルの製造方法に係るフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態に係るペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルの製造過程を示す模式図(断面図)である。
図8】本発明の一実施形態に係るペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルの製造過程を示す模式図(断面図)である。
図9】本発明の一実施形態に係るペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルの製造過程を示す模式図((a)および(c)は平面図、(b)および(d)は断面図)である。
図10】本発明の一実施形態に係るペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルの製造過程を示す模式図((a)は平面図、(b)は断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0030】
[定義]
本明細書において、ある部材又は領域が、他の部材又は領域の「上に(又は下に)」あるとする場合、特段の限定がない限り、これは他の部材又は領域の直上(又は直下)にある場合のみでなく、他の部材又は領域の上方(又は下方)にある場合を含み、すなわち、他の部材又は領域の上方(又は下方)において間に別の構成要素が含まれている場合も含む。
【0031】
また、本明細書において、ペリクル膜とはペリクルに使用される薄膜を意味する。ペリクル枠体とはペリクル膜に第1の枠体を接続したものを意味する。ペリクルとは、ペリクル枠体に第2の枠体を接続したものを意味する。
【0032】
トリミングとは、基板、又は基板及びその上に形成されたペリクル膜を、所望のペリクルの形状に合わせて切断することである。ペリクルの形状は多くは矩形であることから、本明細書では、トリミングの具体例として矩形状に切断する例を示している。
【0033】
本明細書では、ペリクル膜を残して基板の一部を除去する工程をバックエッチングと称する。明細書中、バックエッチングの例として背面(基板の、ペリクル膜が形成されたのと反対側の面)からエッチングするものを示している。
【0034】
本発明において、端部とは、側面、角部、隅部を指す。具体的には、基板(基板を第1の枠体として使用する場合にあっては第1の枠体)の側面と、基板(基板を第1の枠体として使用する場合にあっては第1の枠体)の側面と側面とがなす角部と、基板の上面(ペリクル膜と接する側の面)と側面とがなす角部と、基板の上面と2つの側面とが交わる点を含む領域である隅部と、を含む。
【0035】
[本発明において見出した従来技術の問題点]
本発明に係るペリクルの製造方法によって製造しようとするペリクルとは、フォトリソグラフィ用ペリクルである。まず、基板100(図1(a)。たとえばシリコンウェハ)上に、CVD法(Chemical Vapor Deposition)(たとえば、LP−CVD成膜、PE−CVD成膜など)やスパッタ製膜等の方法によって、ペリクル膜102を形成する(図1(b))。
【0036】
その後、露光エリア部分のペリクル膜102を残して、基板の一部を除去する。基板の一部を除去する方法としてはバックエッチングによる。前述の通り、バックエッチングとは背面(基板の、ペリクル膜が形成された面とは反対側の面)側からのエッチングである。
【0037】
このとき、基板の一部を残して、露光エリア以外のシリコンウェハを枠状に残すために、ペリクル膜が形成された面とは反対側の面(背面)において、SiN(窒化シリコン)マスク104を用いることが考えられる。
【0038】
しかしながら、本発明者らは、以下の(1)〜(4)に記載の各事項を発見した。(1)基板の背面のバックエッチングをすると、基板の、ペリクル膜が形成された面とは反対側の面(背面)のマスクされた部分の下に存在する基板にもエッチング材が一部回り込んでしまい、SiNマスク104下のシリコンウェハ(図1(c)の囲み点線110部分)がエッチングされてしまうこと。(2)そしてSiNマスク104下のシリコンウェハがエッチングされてしまうことによってSiNマスク104が庇状に残ってしまうこと(図1(c)の囲み点線120部分。図からシリコンウェハが除去されることで突出しているSiNマスク104の一部分が形成されていることがわかる。)。(3)SiNマスク104の庇部分120が折れやすく、折れることで異物の原因となること。(4)ペリクル膜の材料にSiNを使用し、このようなSiNマスク104を用いた場合に、ペリクル膜と庇部120と同じ物質であることから、ペリクル膜に影響を与えずに異物の原因となる庇部120のみをエッチング等によって除去することが困難であること。庇状に残った部分を以下、庇部と称する。
【0039】
ここで、庇部自体をエッチングによって除去することも考えられるものの、特にペリクル膜にSiNを使用している場合等は、ペリクル膜の性能に影響を与えないようにしつつ庇状に残ったSiNマスク104のエッチングを遂行するということは困難を極め、庇部を除去することができなかった。
【0040】
[実施形態1]
本発明では、バックエッチング用のマスク材料をSiNマスク104ではなく金属(たとえば、クロム(Cr)等)を用いて、バックエッチング後に金属マスク204を除去する。本発明によれば、SiNマスク104ではなく、ペリクル膜202の構成成分と有意にエッチングレートが異なるマスクを用いることによって、基板200にもペリクル膜202にも影響を与えずにマスクを除去することが可能になり、マスクが庇状に残って庇部となってしまうことがない。結果として、庇状に残ったSiNマスク104が折れて発生するような粉塵の発生を防ぐことが可能となる。
【0041】
図2は、本実施形態に係るペリクルの製造方法を示すフローチャートである。図2を用いて、本発明に係るペリクル膜、ペリクル枠体の製造方法を説明する。まず、(1)基板200(シリコンウェハ等)の一方の面上にペリクル膜202を形成し(S101)、基板200上のペリクル膜202が形成された面と反対側の面(背面)に金属マスク204を形成する(S103)。
【0042】
まず、基板200はシリコンウェハ基板でなくともよい。基板の形状は正円に限定されず、オリエンテーション・フラットやノッチ等が形成されていてもよい。また、ペリクル膜は基板全体に形成されていなくてもよい。
【0043】
ペリクル膜が形成される基板200としては、シリコン、サファイア、炭化ケイ素の少なくともいずれかを含む材質を用いることが好ましい。比較的大面積化が容易なシリコンがより好ましい。
【0044】
ペリクル膜202としてシリコン系の材料を積層させる場合には、積層のしやすさから、シリコンウェハ基板が好ましいといった、基板と積層するペリクル膜との相性の問題はあるものの、ペリクル膜の材料には特に限定はない。たとえば、ペリクル膜202は、SiN、炭素系膜(たとえば、グラフェン膜、スピンコート法で製膜したカーボンナノチューブの膜、カーボンナノシート等)、ポリシリコン、又はそれら複数の層が積層した積層構造体であることが好ましい。その中でも特に、第1のSiN(窒化シリコン)層、ポリシリコン層、第2のSiN(窒化シリコン)層の3層の積層構造を取る積層構造体と、炭素系膜が好ましい。
【0045】
ペリクル膜202の膜厚は、EUVを透過させる必要があることから、10nm以上100nm以下程度であり、好ましくは20nm以上60nm以下である。ペリクル膜が第1の窒化シリコン層、ポリシリコン層、第2の窒化シリコン層の3層の積層構造をとる場合(図示せず)、第1の窒化シリコン層は1nm以上5nm以下、ポリシリコン層は30nm以上60nm以下、第2の窒化シリコン層は1nm以上5nm以下形成することができる。さらに好ましくは、第1の窒化シリコン層は1.5nm以上3nm以下、ポリシリコン層は30nm以上50nm以下、第2の窒化シリコン層は1.5nm以上3nm以下として形成する。さらに、上記(S103)では、金属マスク204(たとえば、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、ステンレス等が挙げられる)をペリクル膜が形成された面の背面全体に設けた後(図3(b))、マスクとして必要な部分以外をエッチングで除去する(図3(c))。また、これと異なり、いったん基板200の両面にペリクル膜202を形成し、片側のペリクル膜202を除去し、そののち、金属マスク204を形成して、その金属マスク204のうちマスクとして必要な部分以外を除去してもよい。
【0046】
続いて、(2)背面、すなわち、金属マスク形成面側から、ペリクル膜202が露出するまで基板の一部を除去(バックエッチング)する(S105、図4(a))。バックエッチングの際、ペリクル膜202に接続する第1の枠体207を同時に形成することを目的として、露光エリア以外のシリコンウェハを枠状に残してもよい。すなわち、この場合、基板のうち除去されなかった部分が第1の枠体207となる。このようにすることで、第1の枠体にペリクルを張架する工程を省略して、ペリクル枠体を製造可能である。
【0047】
バックエッチングは、ペリクル膜と金属マスクは溶かしにくく、基板を溶かすエッチャント(第1のエッチング剤)を用いて行う。エッチャント(第1のエッチング剤)として使用する物質は、基板、ペリクル膜、金属マスクの材質にあわせて選択する。例えば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0048】
枠体の形状には特に限定はない。強度を上げるという観点から枠体として残す基板を多めにするということもできる。エッチングの前に、枠体となる部分に別の枠体を貼り付けた状態でエッチングを実施してもよい。別の枠体を貼り付けることによって、枠体を補強することができる。別の枠体としては、例えば第2の枠体208を用いてもよい。なお、後の工程で第1の枠体207に加えて第2の枠体208を更にペリクル枠体に接続させてもよい。ただし、EUV用ペリクルは、ペリクルの高さに制限があるため、ペリクル膜と枠体との合計の高さが2mm以下となることが好ましい。別途接続する第2の枠体208にはジグ穴が設けられていてもよい。
【0049】
ペリクル枠体(ペリクル膜に第1の枠体を接続したもの)を、第2の枠体に接続することで、ペリクルが製造される(図4(c))。また、ペリクル枠体(ペリクル膜に第1の枠体を接続したもの)と、第2の枠体とは、ピンによって接続されてもよい。すなわち、ペリクル枠体の角や辺上等にピン孔を設け、これとオーバーラップする第2の枠体の箇所にピン孔を設け、これらをピンで接続してもよい。
【0050】
本発明では、粒子を除去する工程を含んでもよい。粒子を除去する方法としては、たとえばウェット洗浄法、機械的洗浄法、ドライ洗浄法等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。ウェット洗浄法としては、SC1洗浄やSC2洗浄のRCA洗浄が挙げられる。SC1洗浄はアンモニアと過酸化水素によるパーティクル洗浄作用があり、SC2洗浄は塩酸と過酸化水素による重金属洗浄作用がある。他にも純水による洗浄、有機溶剤による洗浄が可能である。また、硫酸過水洗浄(硫酸と過酸化水素の混合物)、バッファードフッ酸(フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合物)、フッ化水素酸等による洗浄が可能である。また、任意の順番で洗浄を組み合わせてもよい。機械的洗浄法としては、ブラシ洗浄、揺動洗浄、超音波洗浄又はアルゴン等のエアロゾルの高圧噴射によってもよい。ドライ洗浄法としては、02プラズマを用いたアッシング洗浄、アルゴンスパッタリング等がある。
【0051】
そして、(3)背面に残された金属マスクを除去する(S107)。上記(S107)では、基板200とペリクル膜202は溶かしにくく、金属マスク204のみを溶かすものを用いて除去する。
【0052】
金属マスクのリムーバー(第2のエッチング剤)として使用する物質は、基板、ペリクル膜、金属マスクの材質にあわせて選択する。好ましい組み合わせとしては、基板がシリコンウェハで、ペリクル膜がSiNで、金属マスクがクロムである場合には、金属マスクのリムーバー(第2のエッチング剤)として硝酸セリウムアンモニウムを用いることが好ましい。下記表に、好ましいペリクル膜202、金属マスク204、エッチャント(第1のエッチング材)、リムーバー(第2のエッチング剤)の組み合わせを示す。
【0053】
【表1】
【0054】
上記の製造方法により、マスクの庇の長さが0.5μm以下、好ましくは0.01μm以下、より好ましくは庇のない(0μm)ペリクル膜、ペリクル枠体を製造可能であり、粉塵の低減したペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルを提供することが可能である。かかる庇の長さの数値範囲内であれば、EUVペリクルとして用いた場合に、フォトリソグラフィの描画に対して影響を与えない。
【0055】
本発明では、基板、第1の枠体、第2の枠体の少なくとも1箇所において面取り加工を行ってもよい。本明細書において面取りとはR面加工及びC面加工を含む概念である。R面加工とは、基板、第1の枠体(基板をバックエッチングしたものを含む)、第2の枠体の少なくとも1つの端部(側面、角または隅部等を指す)を加工することで湾曲部を形成することをいう。本明細書におけるC面加工とは、上記少なくとも1つの端部を斜め(100度以上170度以下)に削ることをいう。このような加工を施すことで、尖った部分(鋭角部)が除去され、製造後の輸送時やハンドリング時に何らかの部材と衝突しても破片が出にくいようになる。
【0056】
本発明では、基板200に1つ以上の孔をあけてもよい(図5)。図5は、孔230を基板の4方向に形成した図面である。図5(a)は、上面図、図5(b)及び(c)は上面図である図5(a)のA−A’間の断面図である。図5(b)に示すように、形成された基板200上のペリクル膜202に、1つ以上の孔230をあけてもよい。孔は図5(b)のように、基板を貫通していなくてもよい。もちろん、図5(c)に示すように、基板を貫通してもよい。図5(b)及び(c)のように、孔はペリクル膜及び基板に形成されていてもよい。基板を貫通する孔を設ける場合であって、トリミング工程においてエッチングによるトリミングを選択した場合、及び、バックエッチングを行う場合には、孔の保護を行うためにエッチングを行う際に孔を一旦ふさぐか、又は、レジストによって孔部分の保護を行うなどの工程を設けてもよい。孔が先に形成されていると、エッチングによって孔が広がってしまうことから、孔を保護する工程を設けることは好ましい。図9(a)(b)では、孔を保護することの一例として孔230を栓240により塞ぐ図を示した。栓240としては、たとえばフィルムレジストを用いることができる。フィルムレジストを張り、栓240部分を必要部分とし、不要部分を溶かすことで、栓240によって孔230を防ぐことができる。孔230の大きさには限定がないが、たとえば、孔が略円形の形状であれば、直径50μm以上2000μm以下程度の孔を開ける。好ましくは、直径200μm以上700μm以下程度の孔を開ける。また、孔230の形状には、特に限定はなく、多角形(たとえば略四角形)でもよい。略四角形の場合、1辺の長さに限定はないが、長辺の長さが100μm以上3000μm以下、短辺の長さが50μm以上1000μm以下の孔を開けることができ、好ましくは長辺の長さが150μm以上2000μm以下、短辺の長さが100μm以上700μm以下が好ましい。孔230は、図5(a)に示すように、ペリクルの側面側に配置してもよいが、孔を設ける位置に限定はない。孔230は、ペリクル膜をフォトマスクに取り付けたりデマウントしたりする際のジグ穴や通気口として使用することができるが、ペリクルとして孔が必須の構成要素というわけではない。
【0057】
孔230は、極短パルスレーザー、その他のレーザー、エッチング等によって形成する。レーザーによって形成する場合、塵埃等の少ない高品質なペリクル膜を作成する観点から、デブリを低減して加工可能な、極短パルスレーザー(たとえば、ピコ秒レーザーや、ナノ秒レーザー)を使用して孔を形成することが好ましい。もっとも、この時点で孔を形成するのではなく、後述の基板のバックエッチング時にエッチングによって孔230を同時に形成することで、工程を単純化することが可能である。すなわち、トリミングを行った後に、孔形成とエッチングが同時に行われる、という順序である。他方、基板のバックエッチング前に孔230を形成する場合には、エッチングによって孔が広がってしまうことから、孔230を保護する工程を設けることが好ましい。孔230を保護する工程として、孔230の内壁にも本開示に係る金属マスクを形成することがさらに好ましい。図9(c)(d)では、孔を保護することの一例として孔230の内壁に金属マスク204を形成した図を示した。ナノ秒レーザーを使用する場合の条件としては、繰返し発振周波5kHz以上15kHz以下、パルスエネルギー5W以上15W以下、スキャン毎秒5mm以上30mm以下、スキャン回数40回以上300回以下とすることができるが、これに限定されるものではない。また、極短パルスレーザーを用いて加工する際には、レーザー用のドロス付着防止剤を用いてもよい。たとえば、ドロス防止剤としては、孔を形成する前に基板上にイソプロピルアルコール(IPA)にマイクログラファイトを混合したCBXなどの薬剤を塗布することを挙げることができるが、これに限定されるものではない。ドロス付着防止剤を用いた場合には、孔形成後にこれを洗浄により除去する。その他のドロス付着防止法としては、例えばヘリウムガスを加工基板に吹き付けながらレーザー加工を行うことでドロス付着を抑制することができる。孔230は、ペリクル膜を形成する前にあらかじめ基板に設けられていてもよい。基板に孔を形成する方法としては、前述した方法でレーザーを用いて形成してもよいし、ウェットエッチングを用いてもよい。ウェットエッチングを用いる場合は、例えば基板に対しマスクとしてSiO2層を形成し、一般的な露光によりSiO2層に孔を露光パターニングした後、このSiO2層をマスクとして基板をエッチングしたのち、SiO2層を除去することで孔形成を行うことができる。ペリクル膜を形成する前にあらかじめ基板に設ける場合、ペリクル膜の成膜前に孔230を加工した際の汚染を完全に除去しておくことが重要である。この汚染を完全に除去する工程としては、孔230の加工が終了した基板の両面を、研磨、洗浄することにより、初期のSi基板の清浄度に相当する程度の清浄度まで戻すことができる。この汚染を完全に除去する工程によって、完成したペリクル膜を、ピンホールなどの不具合が少ない良好な膜とすることができる。また、バックエッチングの際の孔230の保護に関しては、孔230をレーザーによって形成する場合と同様、孔230の内壁にはマスクが形成されることが必要であるが、このマスクとしては、金属マスクであってもよいし、ペリクル膜が内壁に形成されるのであれば、孔230の内壁に形成されたペリクル膜をマスクとして利用することもできる。図10(a)(b)では、孔を保護することの一例として孔230の内壁にペリクル膜202を形成した図を示した。図10(b)で内壁に形成されたペリクル膜202は、マスクとして利用することができる。
【0058】
また、図5(d)に示すように、発塵の少ないトリミング方法として、伸縮性があり外部からの刺激を受けると粘着力が低下する粘着シート212を基板の両面側に貼り付けた上で、粘着シートが貼り付けられた部分の基板の内部にあるブリッジ224を作り、この後、このブリッジ224に切れ込みを入れることでトリミングを行ってもよい。なお、本発明では、基板のみをトリミングしてもよく、または、基板上に形成されたペリクル膜を基板とともにトリミングしてもよい。
【0059】
トリミングの例としては、たとえば矩形形状にトリミングすることが考えられるが、トリミング形状には限定がなく、任意の形状に加工可能である。また、トリミング方法に限定はない。たとえば、機械的に力を加えて、ペリクル膜および基板を切断するという方法もあるし、レーザー切断やレーザーハーフカット(ステルスダイシング)やブレードダイシングやサンドブラストや結晶異方性エッチングやドライエッチングによることもできる。もっとも、トリミングする際に異物粒子の発塵が少ない手法が好ましい。なお、バックエッチング後にはペリクル膜の膜厚が極薄であることから洗浄ができないものの、トリミング工程といった発塵工程をバックエッチング以前に行えば、バックエッチング前に洗浄を行うことができ、粉塵の少ないペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルを製造可能である。
【0060】
[変形例]
通常、物質の輻射率(物体が熱放射で放出する光のエネルギー(放射輝度)を、同温の黒体が放出する光(黒体放射)のエネルギーを1としたときの比)は、膜厚にほぼ比例する関係にある。したがって、膜厚が薄い場合、通常であれば輻射率は低い。しかし、金属材料の一部には、非常に薄いところで局所的に輻射率が向上するものがある。たとえば、ルテニウム(Ru)と金(Au)では両者とも膜厚が非常に薄い部分においては局所的に輻射率が向上する。もっとも、ルテニウム(Ru)と金(Au)の輻射率の数値自体は異なるため、放熱の要求性能によって適した材料を選択することが可能である。
【0061】
そして、本発明の一実施形態では、基板200とペリクル膜202との間に表面金属コート層309を設けてもよい(図6(S201))。表面金属コート層309を設けることで、高い光エネルギーがペリクル膜に与えられた場合であっても、ペリクル膜が損傷しないように放熱させることが可能となる。この場合、先の実施形態1の中にS201の工程を入れ込むことになるため、その余の製造方法は共通する。図7及び図8に表面金属コート層309を用いた場合の製造方法を示す模式図の断面図を掲載する。なお、先の実施形態1と同様の方法で製造するためには、表面金属コート層309に使用できる材料は、次の条件を満たす必要がある。
【0062】
まず、薄膜においても輻射率が高いこと、またEUV透過率が高いこと、そしてマスク材料除去用材料としてのリムーバー(第2のエッチング剤)に対して難エッチングであること、である。たとえば、ルテニウム(Ru)が好ましい。マスク材料除去用材料としてのリムーバー(第2のエッチング剤)に対して難エッチングであることから、上記実施形態1に記載の製造方法に組み合わせても庇状のマスクが残ることがない。
【0063】
表面金属コート層309も含めた好ましいペリクル膜、マスク材料、エッチング剤の組み合わせとしては、表面金属コート層309がルテニウム(Ru)、ペリクル膜を窒化シリコン(SiN)膜、第1のSiN層とポリシリコン層と第2のSiN層の3層の積層構造を取る積層構造体、又は炭素系膜、マスク材料がクロム(Cr)、金属マスクであるCrの除去材料としてのリムーバー(第2のエッチング剤)が硝酸第二セリウムアンモニウム、塩酸、又は塩酸及び硝酸、である。これは、炭素系膜も窒化シリコン(SiN)系と同様に、硝酸第二セリウムアンモニウム等の金属マスク除去用材料にエッチングされにくいことによる。
【実施例】
【0064】
まず、725μm厚の8インチのシリコンウェハを基板とした。
【0065】
次に、シリコンウェハ基板の両面に、CVD法によって窒化シリコンを5nm形成し、その上にポリシリコンを60nm形成し、その上に窒化シリコンを5nm形成することで、ペリクル膜を作成した。さらに保護層として、ポリシリコン膜を400nm形成した。
【0066】
次に、シリコンウェハ基板の一方の面の膜をドライエッチングにて除去し、当該面(シリコンウェハのペリクル膜が形成された面とは反対側の面)に改めて金属マスクとしてCr膜をスパッタリング法にて形成した。
【0067】
次にこのCr膜に、バックエッチングを行う箇所の金属マスクを除去するために、所定のパターニングを行って、バックエッチングしようとする部分のCr膜を除去した。
【0068】
次にシリコンウェハ基板を、ペリクルサイズ形状である矩形にトリミングし、さらに側面は面取り加工(ベベリング処理)を施して角を丸めた。
【0069】
次に基板を洗浄した。洗浄には物理的洗浄(こすり洗い)、および化学洗浄(酸化、および酸化層除去)を用いた。
【0070】
次にバックエッチングにより、ペリクル膜を形成する部分のシリコンウェハを除去した。この際、シリコンウェハは全て除去せず、枠体として使用するために、一部のシリコンウェハを残存させた。この時エッチングマスクであるCrには、庇部が形成されていた。
【0071】
次に、Crマスクをエッチングによって除去した。これにより、庇部は除去され、本課題は解決された。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施形態によるペリクル膜の製造方法について説明した。しかし、これらは単なる例示に過ぎず、本発明の技術的範囲はそれらには限定されない。実際、当業者であれば、特許請求の範囲において請求されている本発明の要旨を逸脱することなく、種々の変更が可能であろう。よって、それらの変更も当然に、本発明の技術的範囲に属すると解されるべきである。
【符号の説明】
【0073】
10 ペリクル
100、200 基板
102、202 ペリクル膜
104 SiNマスク
120 庇部
204 金属マスク
207 第1の枠体
208 第2の枠体
212 粘着シート
224 ブリッジ
230 孔
240 栓
309 表面金属コート層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10