特許第6732052号(P6732052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6732052生理学的および病態生理学的睡眠状態の非侵襲的検出のための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6732052
(24)【登録日】2020年7月9日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】生理学的および病態生理学的睡眠状態の非侵襲的検出のための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20200716BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20200716BHJP
   A61B 5/026 20060101ALI20200716BHJP
   A61B 5/021 20060101ALI20200716BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20200716BHJP
【FI】
   A61B5/08
   A61B5/02 310Z
   A61B5/026
   A61B5/021
   A61B5/16 130
【請求項の数】16
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-563722(P2018-563722)
(86)(22)【出願日】2017年5月29日
(65)【公表番号】特表2019-520884(P2019-520884A)
(43)【公表日】2019年7月25日
(86)【国際出願番号】IB2017053154
(87)【国際公開番号】WO2017212370
(87)【国際公開日】20171214
【審査請求日】2019年2月4日
(31)【優先権主張番号】62/347,111
(32)【優先日】2016年6月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502319626
【氏名又は名称】イタマール メディカル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シュナル,ロバート ピー.
【審査官】 冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0059236(US,A1)
【文献】 特開2007−130182(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0121207(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 − 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の体から記録された循環パルス波形を監視し、かつ人の体から記録された循環パルス収縮期立ち上がり波形を監視する装置を備え、
前記装置は、
そのような収縮期立ち上がりのそれぞれのトラフ−ピーク振幅の大きさが所定の値に設定されるように前記循環パルス収縮期立ち上がり波形を正規化し、
心拍の収縮期立ち上がり段階の間の心臓の収縮強度を特徴づけるための前記立ち上がりの少なくとも1つの指標を決定し、
一連の心拍の間の前記立ち上がりの前記少なくとも1つの指標(前記少なくとも1つの立ち上がり指標は人の呼吸周期または予想される呼吸周期の欠如に関連している)の変化を決定し、かつ
前記立ち上がりの前記少なくとも1つの指標が検出されたことに基づいて前記特定の医学的状態および生理学的状態を決定し、
前記医学的状態および生理学的状態は、呼吸状態、特定の睡眠呼吸障害状態または人の心筋収縮力の評価およびその動的変化のうちの1つ以上を含み、
人の心筋収縮力の前記評価は、少なくとも1つの呼吸周期または少なくとも1つの予想される呼吸周期の欠如の間に前記立ち上がり指標の絶対値または一連の立ち上がり指標値の平均値のうちの1つとして決定される、
人における特定の医学的状態および生理学的状態の非侵襲的検出のためのシステム。
【請求項2】
前記装置は、(a)その動的信号の経時変化、(b)規定の期間内に生じる収縮期立ち上がり振幅全体の相対的部分、(c)前記収縮期立ち上がり振幅全体の所定の部分において開始する規定の期間内に生じる前記収縮期立ち上がり振幅全体の相対的部分、(d)前記正規化された立ち上がりの所定の部分間の時間または(e)前記収縮期立ち上がりの瞬間の変化率または(f)前記収縮期立ち上がりの瞬間のうちの1つ以上を含む前記収縮期立ち上がりにおけるあらゆる検出された変化を利用することによって前記収縮期パルス波形立ち上がりの前記少なくとも1つの指標を決定し、前記正規化された収縮期立ち上がり指標はパルス振幅における自然発生的な変化によって実質的に影響を受けない、請求項に記載のシステム。
【請求項3】
前記呼吸状態、前記特定の睡眠呼吸障害状態、および前記心筋収縮力の評価、およびその動的変化は、(a)導出された立ち上がり指標値の時系列パターンの分析および(b)人の体から記録された少なくとも循環パルス波形の監視に基づく睡眠呼吸障害分析のうちの少なくとも1つによって決定される、請求項に記載のシステム。
【請求項4】
人の体から記録された循環パルス波形を監視し、かつ人の体から記録された循環パルス収縮期立ち上がり波形を監視する前記装置は、末梢動脈緊張(PAT)測定、容積変化測定、光学濃度測定、表面反射率測定、パルスオキシメトリ、電気抵抗率測定、ドップラー超音波測定、レーザードップラー測定、流量計装置、分節プレチスモグラフ、円周歪ゲージ装置、光学プレチスモグラフ、パルスオキシメータから得られる光学プレチスモグラフ信号、同位体洗い出し装置、熱洗い出し装置、温度測定、温度変化測定、電磁測定装置、脈動容積変化に伴う指の幾何学形状または赤血球の配列もしくは流量の変化によって影響を受けるセンサまたはホール効果センサのうちの1つ以上を用いる測定装置によってそのような監視を行う、請求項に記載のシステム。
【請求項5】
前記特定の呼吸状態、特定の睡眠呼吸障害状態または人の心筋収縮力の評価およびその動的変化は、睡眠状態、覚醒状態、レム段階睡眠、ノンレム段階睡眠、浅いノンレム睡眠状態、深いノンレム睡眠状態、閉塞性睡眠時無呼吸、中枢性睡眠時無呼吸、閉塞性無呼吸と中枢性無呼吸との混合、閉塞性睡眠時低呼吸、上気道抵抗症候群、一定もしくは一過性の呼吸抵抗の上昇、呼吸努力関連覚醒(RERA)、チェーンストークス呼吸、バルサルバおよびミュラー法または周期的四肢運動症候群のうちの1つ以上から選択される、請求項に記載のシステム。
【請求項6】
人の体から記録された循環パルス波形を監視し、かつ人の体から記録された循環パルス収縮期立ち上がり波形を監視する装置を備え、
前記装置は、
そのような収縮期立ち上がりのそれぞれのトラフ−ピーク振幅の大きさが所定の値に設定されるように前記循環パルス収縮期立ち上がり波形を正規化し、
心拍の収縮期立ち上がり段階の間の心臓の収縮強度を特徴づけるための前記立ち上がりの少なくとも1つの指標を決定し、
一連の心拍の間の前記立ち上がりの前記少なくとも1つの指標(前記少なくとも1つの立ち上がり指標は人の呼吸周期または予想される呼吸周期の欠如に関連している)の変化を決定し、かつ
前記立ち上がりの前記少なくとも1つの指標が検出されたことに基づいて前記特定の医学的状態および生理学的状態を決定し、
前記医学的状態および生理学的状態は、呼吸状態、特定の睡眠呼吸障害状態または人の心筋収縮力の評価およびその動的変化のうちの1つ以上を含み、
前記睡眠呼吸障害状態は、前記導出された立ち上がり指標値の時系列パターン分析の変化の大きさに基づく、閉塞性、中枢性または混合性睡眠呼吸障害状態のうちの1つ以上であ
睡眠時の立ち上がり指標の時系列における高レベルの変動性は閉塞性睡眠時無呼吸の存在を示し、かつ前記睡眠時の立ち上がり指標における前記立ち上がり指標の時系列における変動性の低レベルの変化または無変化は中枢性睡眠時無呼吸の存在を示し、かつ前記睡眠時の立ち上がり指標の時系列における高および低変動性または高および無変動性の組み合わせは閉塞性睡眠時無呼吸と中枢性睡眠時無呼吸との混合の存在を示す、
人における特定の医学的状態および生理学的状態の非侵襲的検出のためのシステム
【請求項7】
特定の呼吸状態、特定の睡眠呼吸障害状態または人の心筋収縮力の評価およびその動的変化の前記決定は、末梢動脈緊張(PAT)信号、脈波信号、パルスオキシメトリによって決定される動脈血酸素飽和度レベル(SaCh)、アクティグラフ装置などの睡眠・覚醒検出方法、加速度計信号測定装置ならびに少なくとも1つの体位置センサおよび音響センサのうちの1つ以上を用いる測定装置を用いて行われる、請求項に記載のシステム。
【請求項8】
前記装置はさらに、人の加速度計信号を検出し、前記加速度計信号を分析し、かつ前記立ち上がり変化分析、前記睡眠呼吸障害分析および前記加速度計信号分析に基づいて人の特定の呼吸状態または特定の睡眠呼吸障害状態を決定する、請求項に記載のシステム。
【請求項9】
少なくとも1つの呼吸周期または少なくとも1つの予想される呼吸周期の欠如の間の前記立ち上がり指標の絶対値または一連の立ち上がり指標値の平均値の経時変化は、人の心筋収縮力における経時変化を反映する、請求項に記載のシステム。
【請求項10】
加速度計情報、呼吸音情報または脈波伝播時間(PTT)情報のうちの1つ以上の組み込みは、収縮期立ち上がり分析に基づいて診断を確認し、かつそれにより閉塞性もしくは中枢性睡眠時無呼吸または閉塞性睡眠時無呼吸と中枢性睡眠時無呼吸との混合イベントの存在を示す因子である、請求項に記載のシステム。
【請求項11】
前記少なくとも1つの立ち上がり指標の高および低変動性は、(a)睡眠時の少なくとも1つの正常な呼吸周期の間または(b)覚醒時の少なくとも1つの正常な呼吸周期の間の人の立ち上がり指標の周期的変動性との比較あるいは(c)所定の閾値との比較に基づいて決定される、請求項に記載のシステム。
【請求項12】
人の体から記録された循環パルス波形を監視し、かつ人の体から記録された循環パルス収縮期立ち上がり波形を監視する装置を備え、
前記装置は、
そのような収縮期立ち上がりのそれぞれのトラフ−ピーク振幅の大きさが所定の値に設定されるように前記循環パルス収縮期立ち上がり波形を正規化し、
心拍の収縮期立ち上がり段階の間の心臓の収縮強度を特徴づけるための前記立ち上がりの少なくとも1つの指標を決定し、
一連の心拍の間の前記立ち上がりの前記少なくとも1つの指標(前記少なくとも1つの立ち上がり指標は人の呼吸周期または予想される呼吸周期の欠如に関連している)の変化を決定し、かつ
前記立ち上がりの前記少なくとも1つの指標が検出されたことに基づいて前記特定の医学的状態および生理学的状態を決定し、
前記医学的状態および生理学的状態は、呼吸状態、特定の睡眠呼吸障害状態または人の心筋収縮力の評価およびその動的変化のうちの1つ以上を含み、
前記睡眠呼吸障害状態は、前記導出された立ち上がり指標値の時系列パターン分析の変化の大きさに基づく、閉塞性、中枢性または混合性睡眠呼吸障害状態のうちの1つ以上であり、
前記導出された立ち上がり指標値の時系列パターン分析の変化の大きさに基づく睡眠呼吸障害状態の閉塞性、中枢性または混合性のうちの1つであるという前記決定はさらに、患者の血液酸素飽和度における所定の低下に基づいている、
人における特定の医学的状態および生理学的状態の非侵襲的検出のためのシステム
【請求項13】
前記循環パルス収縮期立ち上がり波形を正規化することにより、血管緊張に関わらず胸腔内圧によって影響を受けるような心臓の作用による前記パルス信号の変化の定量化を容易にする、請求項に記載のシステム
【請求項14】
前記導出された立ち上がり指標値の時系列パターンの分析により、血管緊張に関わらず胸腔内圧によって影響を受けるような心臓の作用による前記パルス信号の変化の定量化を容易にする、請求項に記載のシステム
【請求項15】
前記導出された立ち上がり指標値の時系列パターンの分析によって、治療的陽性気道圧(PAP)装置から患者によって必要とされる圧力印加の前記リアルタイムレベルを最適化するのに有用な高感度の定量的フィードバック指標を提供する、請求項に記載のシステム
【請求項16】
前記装置は前記心臓に対する血液酸素飽和度の低下の影響を評価するのに心筋収縮力の低下の相対的指標を提供するように構成され、前記相対的指標は、前記酸素飽和度の低下に伴って、前記立ち上がり指標の前記絶対値が低下する漸進的傾向に基づいている、
請求項7に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明および本特許出願は、患者の様々な呼吸状態を検出および監視するために患者の外部から記録された生理学的データを分析するための方法および装置に関する。
【0002】
特に本特許出願は、患者の呼吸周期によって引き起こされる胸腔内圧の変化によるその収縮期の間の心臓の機能の変化を決定し、かつそこから患者の特定の呼吸状態および睡眠呼吸障害状態の存在を推定するための、患者の体表面から記録された循環パルス波形の分析に関する。
【0003】
さらに、後で詳細に説明するように、呼吸活動を決定するため、あるいは脈波伝播時間(PTT)(pulse transmission time)、(脈波伝播時間(pulse transit time)としても知られている)または他の生理学的パラメータを決定するための外部検知手段の追加を有利に使用して、睡眠呼吸障害イベントの特性評価を向上させてもよい。
【背景技術】
【0004】
外部から記録された血液脈波を使用して睡眠に関連する呼吸障害状態の性質を決定するためのいくつかの方法が以前に開示されている。
【0005】
米国特許第5,385,144号(「呼吸診断装置」、Yamanishiら)、第6,856,829号(「脈波に基づいて睡眠中の患者の生理学的状態を検出するための方法」、Ohsakiら)および第6,669,632号(「脈波信号から胸腔内圧を電子的に予測するための装置および方法」、Nanba、OhsakiおよびShiomi)は一般に、無呼吸の種類を分類するために使用することができる呼吸変調パターンを胸腔内圧変動の指標として使用することに基づいている。
【0006】
これらの特許は、呼吸関連の変化を記録するための一連の脈波の包絡線を見る。無呼吸時の胸部におけるより大きい圧力変動により呼吸変調のレベルが上昇し、その反対が中枢性無呼吸に関して当て嵌まる。
【0007】
第5,385,144号では、パルス信号ベースライン値の経時変化によって表される特徴的パターン(すなわち、パルス信号ベースラインの包絡線の変調パターン)は、睡眠呼吸障害の存在がオキシメトリに基づく酸素飽和度低下イベントに基づいて最初に認められた際に中枢性睡眠時無呼吸と閉塞性睡眠時無呼吸とを区別するために使用される。その変調パターンはどちらも、変調の大きさまたは振幅あるいは変調包絡線の形状の特徴的パターンに関して検討される。
【0008】
第6,669,632号は、濃黒色の線(「第1の包絡線」と記されている)として図1Aに示されているように一連の脈波における連続したパルス信号のピークを結合することによって定められる第1の包絡線(ここでは、脈波の所与の時系列におけるパルスのピークの振幅が呼吸周期と共に経時的に変動する)と、薄黒色の線(「第2の包絡線」と記されている)として同様に図1Aに示されている脈波の第1の包絡線の連続した呼吸周期のピークに対応する連続したピークを接続することによって定められる第2の包絡線との差の決定に基づいて胸腔内圧を決定する方法について記載している。
【0009】
図1Bによって表されているこれらの2つの包絡線間の差は、対象の経時的な胸腔内圧に対応すると言われている。あるいは、振幅のいくつかの定められた部分のパルス信号振幅の高さを同じプロセスで使用することができる。
【0010】
第6,856,829号では、一連のパルスにおける個々の脈波のトラフ−ピーク信号振幅間の時系列の差を特徴づけるパターンを使用して、睡眠関連の呼吸障害状態を同定および分類する。信号のピーク、トラフおよび中間点の経時変化ならびにトラフ−ピーク振幅の包絡線(図2)は呼吸変調を反映しており、これを使用して振幅変動の大きさおよび頻度に基づいて無呼吸の有無およびその種類を定めることができる。あるいは、パルス信号の曲線下面積をトラフ−ピーク差の代わりに使用することができる。
【0011】
これらの種類の分析は睡眠関連の呼吸作用に関連する胸腔内圧の変化によって影響を受けることがあり、これらの方法に関連するいくつかの重要な限界が存在する。1つの考慮すべき重要な点は、正常な生理学的恒常性制御が血管緊張を相当であって多くの場合に一貫性なく経時的に変化させ、測定される呼吸変調振幅を変化させ、従って上記分析の正確性および上に列挙されている先行技術特許に記載されているようなそれらの解釈に悪影響を与えることがあることである。同様に、睡眠時の覚醒に伴う強力な血管運動の変化はそのような分析を大きく妨害する。
【0012】
後で詳細に説明するように、本発明は、患者の生理学的状態の正確な評価に悪影響を与えるこれらおよび他の限界を克服する。
【0013】
さらなる先行技術
末梢脈拍を測定することに基づく上記方法に加えて、呼吸活動を測定し、かつ睡眠呼吸障害状態を検出および分類するための他の方法および装置が当該技術分野において公知である。これらとしては、加速度計、呼吸ベルト、インピーダンスプレチスモグラフィ装置、呼吸活動を直接測定するための胸骨切痕動きセンサ(sternal−notch movement sensor)などの体に装着される装置を使用することが挙げられる。そのような方法および装置は、呼吸に関連する状態の測定を容易にし、かつこのようにして呼吸障害イベントの検出を確認するのを助け、かつ様々な種類のこれらのイベントを区別するのを助けるために、患者への検知装置の装着を必要とする。
【0014】
例えば、Bauer PTらによる国際公開第2011057116A号の「睡眠呼吸障害の検出および区別」は、対象の睡眠呼吸障害を監視し、かつ関連づけられた呼吸障害を検出するために収集されたデータを処理および分析するために3軸加速度計を使用するベクトル方法について記載している。
【0015】
上記発明者らは、上記発明者らの発明について説明する好ましい最良の形態について記載しており、それによれば、「その方法は、(A)解剖学的構造に取り付けられる3軸加速度計を利用して睡眠中の対象から多面的3軸データを同時に収集する工程と、(B)そのような収集後に、(a)一般的には睡眠呼吸障害、(b)具体的には睡眠時無呼吸、(c)中枢性無呼吸と閉塞性睡眠時無呼吸との区別および(d)低呼吸のうちの少なくとも1つの存在を評価することを含む、収集されたデータを処理および分析して関連づけられた呼吸障害を検出する工程とを含む、睡眠呼吸障害を監視するための方法を有する」。上記発明者らによれば、「好ましくは、主要信号収集装置である3軸加速度計は、上述した位置のような胸郭上の位置において対象の胸部に位置づけられるため、呼吸運動を容易に得ることができる」。
【0016】
米国特許第7,510,531号「中枢性呼吸障害イベントと閉塞性呼吸障害イベントとを区別するためのシステムおよび方法」は、どのように呼吸障害イベントを呼吸努力に伴う患者の動きに基づいて中枢性、閉塞性または中枢性と閉塞性との組み合わせに由来していると分類することができるかについて記載しており、ここでは、呼吸障害分類システムの構成要素を完全もしくは部分的に埋め込み可能にしてもよい。
【0017】
同様に、「睡眠時無呼吸の検出のための呼吸流量および呼吸努力を推定するための胴体加速度の監視」という題名のP.Dehkordiらによる論文などの医学文献は、睡眠呼吸障害状態を診断するための呼吸活動を直接測定するために体に装着される方法および装置を教示している。Conf Proc IEEE Eng Med Biol Soc 2012;2012:6345−8は、胸骨上切痕、胸郭および腹部それぞれの加速度からの呼吸流量、胸郭の呼吸努力および腹部の呼吸努力を推定するための集合学習に基づく方法について記載している。推定される流量を使用して呼吸停止を検出することができ、推定される努力を使用してそれらを閉塞性無呼吸および中枢性無呼吸に分類することができる。その結果は、睡眠時無呼吸の検出のために呼吸機能を長期間測定および監視するための単純かつ安価な解決法として胴体加速度を使用する実現可能性を実証している。
【0018】
Dillier Rらによる論文「着装携行式血行動態モニターによる睡眠時無呼吸スクリーニングのための連続的な呼吸の監視,World J Cardiol.2012 Apr 26;4(4):121−7」は、多誘導ECG、心音信号、体位置、いびきおよび呼吸の利用について記載している。体位置および呼吸は3軸加速度計から決定される。これらのデータは、睡眠呼吸障害イベント、いびき、体位置および活性レベルなどの呼吸についての検出のための自動化アルゴリズムを含むPCアプリケーションにダウンロードされる。閉塞性無呼吸、中枢性無呼吸および混合性無呼吸間の区別は従来のサーミスタを用いて決定した。
【0019】
Morillo DSらは「加速度計を用いることによる心肺およびいびき信号の監視および分析,Conf Proc IEEE Eng Med Biol Soc.2007;2007:3942−5」という彼らの論文において、主要提供者の体内の呼吸、心臓およびいびき成分を抽出することによる多様な生理学的信号の取得および監視のための加速度計に基づくシステムについて記載している。これにより、いくつかの生物医学的パラメータ、すなわち心拍数(HR)、心拍変動(HRV)、交感神経活性、副交感神経活性および圧反射活性、呼吸リズムおよびそれらのばらつき(緩徐呼−頻呼吸)、いびきおよび腹部−胸郭努力の監視が可能になる。単純かつ有効な方法および装置[1]は睡眠時無呼吸低呼吸症候群(SAHS)および他の呼吸障害の診断を支援するために提供される。
【0020】
Morilloらの別の論文「睡眠時無呼吸のスクリーニングのための加速度計に基づく装置,IEEE Trans Inf Technol Biomed.2010 Mar;14(2):491−9」は、胸骨上切痕に装着される加速度計を用いて睡眠時無呼吸患者候補を評価するための体に固定されるセンサに基づく手法について記載している。デジタル信号処理技術を用いて呼吸、心臓およびいびき成分を抽出した。その結果は、睡眠時無呼吸低呼吸症候群および他の呼吸障害のスクリーニングに貢献するための単純かつ費用効率の高い解決法としての加速度測定法に基づく携帯可能な装置を実装する実現可能性について実証している。
【0021】
Argod J、Pepin JL、Levy Pによる画期的な論文「脈波伝播時間による閉塞性睡眠呼吸イベントと中枢性睡眠呼吸イベントとの区別,Am J Respir Crit Care Med. 1998 Dec;158(6):1778−83」は、脈圧が大動脈弁から末梢まで移動するのに要する時間である脈波伝播時間(PTT)に基づいて閉塞性睡眠呼吸障害イベントと中枢性睡眠呼吸障害イベントとを区別するための非侵襲的方法について記載している。
【0022】
著者らは、食道内圧(Pes)とPTT変動の振幅における漸進的上昇との密接な関係を実証し、かつPTTが閉塞性呼吸イベントと中枢性呼吸イベントとを区別する上で高感度および高特異性を有することを示した。
【0023】
上に述べた加速度計に基づく方法およびPTT方法は睡眠関連の呼吸作用に関連する胸腔内圧の変化によって影響を受けることがあり、これらの方法に関連するいくつかの重要な限界が存在する。
【0024】
例えば、加速度計による測定は体表面への結合度ならびに患者の動きおよび姿勢の変化に対して極めて感度が高く、これは評価の正確性に悪影響を与える可能性があり、PTT測定は複数の測定装置の使用を必要とし、正確な評価のために高精度および複雑な分析を必要とし、かつ対象の注意深い計測を必要とする。
【0025】
従って、上記様々な先行技術の方法は、正確性ならびに適用および使用の容易性について様々な限界に悩まされていることが分かる。
【0026】
後で詳細に説明するように、本発明は、患者の生理学的状態の正確な評価に悪影響を与えるこれらおよび他の限界を克服する。
【0027】
特に、閉塞性睡眠時無呼吸と中枢性睡眠時無呼吸との区別は本発明の焦点である。
【0028】
周知のとおり、より一般的な形態である閉塞性睡眠時無呼吸は、上気道の部分的もしくは完全な閉塞により不十分な換気または換気の欠如が生じた場合に引き起こされ、中枢性睡眠時無呼吸は、中枢神経系の不完全な呼吸制御による呼吸ドライブの異常または周期的欠如によって引き起こされる。
【0029】
後者の種類の睡眠時無呼吸は、閉塞性睡眠時無呼吸ほど極めて一般的ではなく、全く異なる治療計画をかなり必要とすることがある。
【0030】
今のところ、上記背景情報があれば睡眠時無呼吸イベントを発見することができる多くの方法が存在するが、それぞれが異なる原因および異なる治療様式を有する閉塞性睡眠時無呼吸と中枢性睡眠時無呼吸とを区別することができる単純な方法は存在しないことが分かっている。本発明が目指すのはこの方法である。
【発明の概要】
【0031】
一態様では、特定の医学的状態および生理学的状態の非侵襲的検出のための方法は、人の体から記録された循環パルス波形を監視する工程と、人の体から記録された循環パルス収縮期立ち上がり波形を監視する工程と、そのような収縮期立ち上がりのそれぞれのトラフ−ピーク振幅の大きさが所定の値に設定されるように、前記循環パルス収縮期立ち上がり波形を正規化する工程と、心拍の収縮期立ち上がり段階の間の心臓の収縮強度を特徴づけるための立ち上がりの少なくとも1つの指標を決定する工程と、患者の呼吸周期または予想される呼吸周期の欠如に関する一連の心拍の間の心臓の収縮強度を特徴づけるための立ち上がりの前記少なくとも1つの指標の変化を決定する工程と、患者の呼吸周期または予想される呼吸周期の欠如に関する立ち上がりの少なくとも1つの指標の変化に基づいて特定の医学的状態および生理学的状態を決定する工程とを含む。別の態様では、医学的状態および生理学的状態は、呼吸状態、特定の睡眠呼吸障害状態または人の心筋収縮力の評価およびその動的変化のうちの1つ以上を含む。
【0032】
さらなる態様では、立ち上がりの前記少なくとも1つの指標は、(a)その動的信号の経時変化、(b)規定の期間内に生じる収縮期立ち上がり振幅全体の相対的部分、(c)収縮期立ち上がり振幅全体の所定の部分において開始する規定の期間内に生じる収縮期立ち上がり振幅全体の相対的部分、(d)正規化された立ち上がりの所定の部分間の時間、(e)収縮期立ち上がりの瞬間の変化率または(f)収縮期立ち上がりの瞬間のうちの1つ以上を含む、前記収縮期立ち上がりにおけるあらゆる検出された変化を利用して決定され、ここでは、正規化された収縮期立ち上がり指標はパルス振幅における自然発生的な変化によって実質的に影響を受けない。
【0033】
さらに別の態様では、前記呼吸状態、前記特定の睡眠呼吸障害状態および前記心筋収縮力の評価およびその動的変化は、(a)導出された立ち上がり指標値の時系列パターンの分析および(b)人の体から記録された少なくとも循環パルス波形の監視に基づく睡眠呼吸障害分析のうちの少なくとも1つによって決定される。前記人の体から記録された循環パルス波形を監視する工程および前記人の体から記録された循環パルス収縮期立ち上がり波形を監視する工程は、末梢動脈緊張(PAT)測定、容積変化測定、光学濃度測定、表面反射率測定、パルスオキシメトリ、電気抵抗率測定、ドップラー超音波測定、レーザードップラー測定、流量計装置、分節プレチスモグラフ(segmental plethysmograph)、円周歪ゲージ装置、光学プレチスモグラフ、パルスオキシメータから得られる光学プレチスモグラフ信号、同位体洗い出し装置、熱洗い出し装置、温度測定、温度変化測定、電磁測定装置、脈動容積変化に伴う指の幾何学形状または赤血球の配列もしくは流量の変化によって影響を受けるセンサまたはホール効果センサのうちの1つ以上を用いて行われる。
【0034】
一態様では、前記特定の呼吸状態、特定の睡眠呼吸障害状態または人の心筋収縮力の評価およびその動的変化は、睡眠状態、覚醒状態、レム段階睡眠、ノンレム段階睡眠、浅いノンレム睡眠状態、深いノンレム睡眠状態、閉塞性睡眠時無呼吸、中枢性睡眠時無呼吸、混合性睡眠時無呼吸、閉塞性睡眠時低呼吸、上気道抵抗症候群、一定もしくは一過性の呼吸抵抗の上昇、呼吸努力関連覚醒(RERA)、チェーンストークス呼吸、バルサルバおよびミュラー法または周期的四肢運動症候群のうちの1つ以上から選択される。
【0035】
さらなる態様では、前記睡眠呼吸障害状態は、前記導出された立ち上がり指標値の時系列パターン分析の変化の大きさに基づく閉塞性、中枢性もしくは混合性睡眠呼吸障害状態のうちの1つ以上である。
【0036】
なおさらなる態様では、特定の呼吸状態、特定の睡眠呼吸障害状態または人の心筋収縮力の評価およびその動的変化の前記決定は、末梢動脈緊張(PAT)信号、脈波信号、パルスオキシメトリによって決定される動脈血酸素飽和度レベル(SaCh)、アクティグラフ装置などの睡眠・覚醒検出方法、加速度計信号測定装置ならびに少なくとも1つの体位置センサおよび音響センサから選択される1つ以上の測定装置によって行われる。
【0037】
本方法は、(a)人の加速度計信号を検出する工程と、(b)加速度計信号を分析する工程と、(c)立ち上がり変化分析、PAT技術関連の特許および特許出願に以前に記載され、かつ以下で詳細に考察する睡眠呼吸障害分析および加速度計信号分析のうちの1つ以上に基づいて人の特定の呼吸状態または特定の睡眠呼吸障害状態を決定する工程とをさらに含む。
【0038】
別の態様では、人の心筋収縮力の評価は、少なくとも1つの呼吸周期または予想される呼吸周期の欠如の間に前記立ち上がり指標の絶対値または一連の立ち上がり指標値の平均値のうちの1つとして決定され、ここでは、少なくとも1つの呼吸周期または少なくとも1つの予想される呼吸周期の欠如の間の前記立ち上がり指標の絶対値または一連の立ち上がり指標値の平均値の経時変化は人の心筋収縮力の経時変化の関数である。
【0039】
一態様では、睡眠時の立ち上がり指標の時系列における高レベルの変動性は閉塞性睡眠時無呼吸の存在を示し、かつ睡眠時の立ち上がり指標における立ち上がり指標の時系列における変動性の低レベルの変化または無変化は中枢性睡眠時無呼吸の存在を示し、かつ睡眠時の立ち上がり指標の時系列における高および低変動性または高および無変動性の組み合わせは閉塞性睡眠時無呼吸と中枢性睡眠時無呼吸との混合の存在を示す。
【0040】
別の態様では、加速度計情報、呼吸音情報または脈波伝播時間(PTT)情報のうちの1つ以上の組み込みは、収縮期立ち上がりを分析することによって診断を裏付ける因子となり、かつそれによって、閉塞性もしくは中枢性睡眠時無呼吸または閉塞性睡眠時無呼吸と中枢性睡眠時無呼吸との混合イベントの存在を示す因子となる。
【0041】
別の態様では、少なくとも1つの立ち上がり指標の高および低変動性は、(a)睡眠時の少なくとも1つの正常な呼吸周期の間または(b)覚醒時の少なくとも1つの正常な呼吸周期の間の対象の立ち上がり指標の周期的変動性との比較、あるいは(c)所定の閾値との比較に基づいて決定される。前記導出された立ち上がり指標値の時系列パターン分析の変化の大きさに基づく睡眠呼吸障害状態の閉塞性、中枢性または混合性のうちの1つであるという前記決定はさらに、患者の血液酸素飽和度における所定の低下に基づいている。
【0042】
一態様では、人における特定の医学的状態および生理学的状態の非侵襲的検出のためのシステムは、人の体から記録された循環パルス波形を監視し、かつ人の体から記録された循環パルス収縮期立ち上がり波形を監視する装置を備え、この装置は、そのような収縮期立ち上がりのそれぞれのトラフ−ピーク振幅の大きさが所定の値に設定されるように前記循環パルス収縮期立ち上がり波形を正規化し、心拍の収縮期立ち上がり段階の間の心臓の収縮強度を特徴づけるための立ち上がりの少なくとも1つの指標を決定し、一連の心拍の間の立ち上がりの前記少なくとも1つの指標(前記少なくとも1つの立ち上がり指標は人の呼吸周期または予想される呼吸周期の欠如に関連している)の変化を決定し、立ち上がりの少なくとも1つの指標が検出されたことに基づいて特定の医学的状態および生理学的状態を決定する。
【0043】
別の態様では、医学的状態および生理学的状態は、呼吸状態、特定の睡眠呼吸障害状態または人の心筋収縮力の評価およびその動的変化のうちの1つ以上を含む。
【0044】
本発明の方法は本質的に、心臓のポンプ作用の有効性、特に患者の呼吸周期によって引き起こされる胸腔内圧の変化によって生じる心臓のポンプ作用に与えられる影響の測定に基づいている。
【0045】
心臓ポンプ作用と呼吸周期との相互作用は、心臓が呼吸周期によって引き起こされる外圧環境の絶え間ない変化の真ん中に位置しているため、胸郭における心臓の位置に応じて生じる。
【0046】
露出された心臓に加えられる圧力は、与えられる圧力レベルの大きさに関してそのポンプ作用に直接影響を与えることがあり、例えば、陰圧の胸腔内圧の上昇は心室収縮に対抗し、それにより心室からの有効な血液放出速度を低下させる傾向がある。心臓のポンプ作用に対する呼吸による胸腔内圧の変動の有効な影響は、動脈の脈波信号を測定し、かつそのような信号を分析して左心室の収縮動態に対する影響を測定して収縮期立ち上がりの相対的変化(収縮期立ち上がり全体に対して相対的)を決定することによって、好都合には非侵襲的に決定してもよい。
【0047】
この種の分析は、例えば収縮期立ち上がりのいくつかの規定の部分から規定の期間内に生じる立ち上がり振幅における部分の変化を決定することによって、あるいは立ち上がり振幅の規定の部分間の時間間隔を決定して立ち上がり指標を決定することによって多くの方法で行ってもよく、かつ多くの他の方法で行ってもよい。
【0048】
脈波検出は体表面から非侵襲的に記録される脈波形態を用いて最も容易に、かつ好都合に行われるが、それを侵襲的に決定される動脈の脈波に適用してもよい。
【0049】
後で述べるように、本方法は、心臓からの血液の放出の経時変化に対する胸腔内圧の急性の影響および特に胸腔内圧の短期間の変化を決定するのに特に有用である。
【0050】
そのような胸腔内圧の変化を生じさせる全身の脈波の動的変化に基づく情報は、様々な生理学的および病態生理学的状態に関連づけることができる特定の種類の天然に生じる呼吸作用を認識するのに特に有用であり得る。
【0051】
そのような呼吸イベントの具体例としては、閉塞性睡眠時無呼吸または低呼吸イベント、一定もしくは一過性の呼吸抵抗の上昇、上気道抵抗、呼吸努力関連覚醒、中枢性睡眠時無呼吸イベント、バルサルバおよびミュラー法、チェーンストークス呼吸およびそれ以上が挙げられる。
【0052】
様々な呼吸周期関連状態の検出に加えて、立ち上がり指標の絶対値によって反映されるような経時的な心臓のポンプ作用の有効性の変化ならびにその経時変化の決定により、呼吸イベント診断の有効性を損なうことなく心筋収縮力の評価方法およびその動的変化も得ることができる。
【0053】
ここに記載されている技術は、一般に入手可能なパルスオキシメータ、光学式プレチスモグラフ、血圧測定装置でよく使用される方法などの空気圧式測定方法および多くの他の方法などの体から脈波を測定する任意の公知の方法と共に使用することができるが、以下の米国特許および米国において現在出願中の特許出願:第6319205号「末梢動脈緊張の監視による医学的状態の非侵襲的検出のための方法および装置」、第6461305号「医学的状態の非侵襲的検出のために特に有用な圧力印加装置」、第6916289号「医学的状態の非侵襲的検出のために特に有用な圧力印加装置」、第6488633号「医学的状態の非侵襲的検出のために特に有用なプローブ装置」、第6322515号「末梢動脈緊張の監視による医学的状態の非侵襲的検出のための方法および装置」、第7806831号「末梢の血管系の監視による特定の睡眠状態の非侵襲的検出のための方法および装置」、第6939304号「患者において内皮活性を非侵襲的に評価するための方法および装置」、第7374540号「医学的状態を検出するための非侵襲的プローブ」、第7621877号「医学的状態を非侵襲的に検出するための体表面プローブ、装置および方法」、第7819811号「非侵襲的体プローブによる医学的状態の検出」および対応する外国特許および特許出願、ならびに以下の米国において出願中の出願:国際特許出願第PCT/IL2011/662610号「生理学的パラメータ、特に血流および静脈容量の非侵襲的測定」、国際特許出願第PCT/IL2012/937737号「睡眠段階を決定するための非侵襲的装置および方法」、および国際特許出願第PCT/IL2012/050466号「様々な医学的状態を診断する際に動脈のパルス波形を監視するための装置」、および国際特許出願第PCT/IL2009/000528号「音響情報を利用して特定の生理学的状態について対象を検査するための方法および装置」およびそれらのそれぞれの対応する外国特許および特許出願に記載されているような患者の末梢動脈緊張(PAT)を測定するための測定方法と組み合わせて使用した場合に最適な値となり得る。
【0054】
述べたように、本発明の方法は、特にこれらが末梢血管の変化に基づいて睡眠呼吸障害状態の存在を検出することに関する場合に、上に列挙されている特許および特許出願と共に特定の利点を有して使用することができる。
【0055】
上に列挙されている特許および特許出願において考察されているPAT測定は、記録されたパルス信号の品質の観点で大きな利点を与える。そのような利点としては、静脈血関連のパルス活性の除去、測定部位における静脈血貯留の予防(およびこのように誘発される静脈細動脈反射性血管収縮(veno−arteriolar reflex vasoconstriction))、血管壁緊張の低減による信号の動的利得の最適化などが挙げられる。
【0056】
呼吸状態を検出するために外部で測定された脈波信号を使用するためのここに記載されている先行技術の方法に関して、本発明は、先行技術の方法の大きな欠点を回避するように設計された多くの重要な利点を有する。
【0057】
特に、これらの先行技術の方法に関連する主要な問題は、正常な循環系制御が血管緊張レベルに影響を与える様々な恒常性調節系の複雑な相互作用を必要とし、そのため、測定される最高レベルのパルス振幅は、パルス振幅に対して広範囲かつ非常に大きな変化を引き起こし得る影響の相互作用の結果であり、それがここに記載されている先行技術の方法において交絡する結果を容易に生じさせ得るという点である。
【0058】
そのような局所的な血管緊張の変化は、測定領域において非常に大きな程度の血管収縮または血管拡張を生じさせ得る。実際に、例えば指の動脈床の信号の振幅において生じ得る変化の程度は100倍の範囲に及ぶ。これは心臓の収縮におけるばらつきによって引き起こされるあらゆる全身の変化よりもかなり大きいものであり得る。従って、局所的な血管緊張の変化は信号の振幅に大きく影響を与える恐れがあり、心臓のポンプ作用によるパルス信号の変化、および睡眠呼吸障害状態に関連する胸腔内圧の変化によるその変化を非常に不明瞭にすることがある。
【0059】
さらに、Goorらへの米国特許第6,319,205号に記載されているように、大きな局所的な血管緊張の変化(具体的には、末梢動脈緊張の変化)は、睡眠時無呼吸イベントおよび他の睡眠呼吸障害状態および覚醒時の正常な呼吸への移行に関連づけられており、そのため、単に胸腔内圧の変動に関連していると推定されるパルス振幅の変化に基づく睡眠呼吸障害状態の評価は局所的な血管変化によって交絡されやすい。
【0060】
主としてパルス信号の振幅の経時変化の調査に基づいている先行技術の方法を考慮すると、安定なレベルの全身の血管緊張の存在下でのみ、そのような分析は睡眠関連の呼吸作用および呼吸障害に関連する変化を明らかに反映するものと期待することができると理解される。そのような安定なレベルの血管緊張は規則的なものというよりも例外であろう。
【0061】
対照的に、本発明の方法は、
(A)立ち上がり指標は正規化されたパルス振幅から得られる情報に基づいており、従って非常に大きくなり得る血管運動神経性緊張の変動性によるパルス振幅における自然発生的な変化によって影響を受けず、かつ同様に睡眠時の覚醒に関連する脈波における周知の大きな振幅の変化を受けにくく、かつ
(B)立ち上がりは、電気的活性化および心筋組織への電気伝導という心臓のステレオタイプなパターンの結果であるため、その持続期間の点で本質的に比較的安定であり、かつ心拍数の変化による影響が比較的少ないため、立ち上がり持続期間は心周期の安定な成分であり、血管運動/覚醒関連の変動性の影響をさらに減らす
という理由から、血管緊張のばらつきのそのような交絡する影響を回避するように明示的に設計されている。
【0062】
従って、ここに記載されている本発明の方法の主要な利点は、血管それ自体の収縮状態の筋肉組織による血管緊張に関わらず胸腔内圧によって影響を受けるような心臓の作用によるパルス信号の変化の定量化を容易にするということである。述べたように、上記血管運動の影響は交絡することがあり、従って、目的の特定の呼吸に関連する変化の本質を曖昧にするという理由から、この点は先行技術よりも優れた重要な改善である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1A】先行技術の方法における連続したパルス信号の第1および第2の包絡線ならびに2つの包絡線間のそれらの差を示す。
図1B】先行技術の方法における連続したパルス信号の第1および第2の包絡線ならびに2つの包絡線間のそれらの差を示す。
図2】先行技術の方法における呼吸変調を反映する脈波の包絡線を示す。
図3A】呼吸状態を決定するための立ち上がり分析の適用を示すフローチャートを示す。
図3B】睡眠呼吸障害状態の検出のためのPAT信号または脈波および他の信号および睡眠呼吸障害分析を追加した図3Aと同じフローチャートを示す。
図4】正規化された立ち上がり指標を決定するための手法の例を示す。
図5】閉塞性無呼吸および非無呼吸状態に関する立ち上がり指標の2つの時系列の対照的なパターンを示す。
図6A】一連の連続したパルス信号の詳細な経時変化(上側のパネル)および各パルス信号の対応する立ち上がり指標(下側のパネル)を示す。
図6B】領域1および2における著しく異なるレベルの立ち上がり指標値(下側のパネル)と共に同様のパルス信号(上側のパネル)を示す。
図7A】立ち上がり指標の経時変化を示す。
図7B図7Aに対応する血液酸素飽和度を示す。
図8】患者の呼吸パターンを反映している連続信号を提供するための加速度計出力のチャートを示す。
図9】検出されたPAT信号および呼吸音情報を含む立ち上がり分析のフローチャートを示す。
図10】立ち上がり分析を含まないこと以外は図9に示されているものと同様のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
本発明の方法は本質的に、患者から動脈パルス波形を取得する工程、信号を変換してデジタル化する工程、プロセッサを使用する工程、信号調節を行う工程、例えばそれらのそれぞれの転換点の識別に基づいてそのようなパルスのそれぞれの収縮期立ち上がりのトラフ−ピークを決定する工程、立ち上がり指標を計算する工程、および立ち上がり指標の変化パターンを分析して特定の呼吸状態の存在および性質を決定する工程に基づいている。
【0065】
この工程順序は図3Aに示されている。述べたように、この分析は理想的には、パルスオキシメトリによって決定される動脈血酸素飽和度レベル(SaCh)(PAT信号と同じ提供源から得ることができる)と共に末梢動脈緊張(PAT)信号、およびアクティグラフ装置などの睡眠・覚醒検出方法、および睡眠呼吸障害分析、および上に列挙されている特許および特許出願に記載されているような様々な睡眠関連状態の決定へのそれらの適用と組み合わせて使用される。図3Bはこの組み合わせの性質を概略的に示す。
【0066】
図4は、収縮期立ち上がりのピークおよびトラフ値の検出に基づいて正規化された立ち上がり指標を決定する手法の説明のための例を示す。これは当然ながら単に例示のためのものであり、非常に多くの方法で決定することができ、この図は、立ち上がり振幅における部分の変化(名目上、ここではトラフ=0.00およびピーク=1.00と示されている)が収縮期立ち上がりのいくつかの規定の部分(A)からBミリ秒の規定の期間内に生じる立ち上がりの相対的部分として定められている(Aの時点を波形がより平らである波形トラフまたはピークにより近い点よりも詳細に決定することができるような)方法を示している。立ち上がり振幅の規定の部分間の時間間隔などを決定するなどの従来の分析方法を用いて立ち上がり指標を決定する多くの他の方法を用いてもよい。
【0067】
導出された立ち上がり指標値の時系列パターンを使用して特定の呼吸状態を評価することができる方法を示すために、図5は、無呼吸および非無呼吸状態に関する2つの一連のそのような立ち上がり指標の対照的なパターンを示す。無呼吸事例における周期的立ち上がり指標の変化の相対的大きさは、非無呼吸事例の場合よりも明らかに非常に大きく、これは、呼吸周期中の呼吸努力におけるより大きい変動による無呼吸時に生じる胸腔内圧のより大きい変動を反映している。各立ち上がりのトラフ−ピーク振幅に関して正規化され、かつ立ち上がりの開始時に同期化された連続的な立ち上がりのそれぞれの合成画像における差は非常に顕著である。非閉塞状態(非無呼吸)における正規化された立ち上がりの経時変化は立ち上がり指標値の低レベルの呼吸周期関連の変動性の点で非常に一貫しており、閉塞事例(無呼吸)における立ち上がり指標値の高レベルの呼吸周期関連の変動性は非常に明白である。
【0068】
非無呼吸の呼吸に関連する正常な呼吸努力さえも存在しない中枢性無呼吸イベントの場合、立ち上がり指標値の呼吸周期関連の変動性の大きさは当然ながら、完全に存在しないというわけでなければ正常な呼吸時よりも小さくなる。睡眠時の立ち上がり指標の時系列における高および低もしくは無変動性の組み合わせは、閉塞性睡眠時無呼吸と中枢性睡眠時無呼吸との混合の存在を示す。
【0069】
従って、非無呼吸の呼吸時の立ち上がり指標値の呼吸周期関連の変動性の患者の個々のレベルは、中枢性無呼吸イベントの決定の基礎となる機能的閾値を提供することができ、従って、立ち上がり指標値の呼吸周期関連の変動性の非存在下、あるいはそのような呼吸周期関連のパルス立ち上がり指標の変動性が正常な非無呼吸の呼吸時よりも著しく小さい場合、呼吸努力の欠如が生じていたことを推定することができる。
【0070】
これが血液酸素飽和度における漸進的低下に関連づけられていれば、これは中枢性無呼吸イベントの診断をさらに確認するものとなる。
【0071】
同様に、立ち上がり指標値の正常な呼吸周期関連の変動性に満たない期間後に患者の動きによって決定されるような覚醒、あるいはPATまたは用いられるあらゆるパルス検知装置によって検出される血管収縮、あるいは血液酸素飽和度レベルにおける急激な上昇(正常な生理学的遅れ時間を可能にする)が生じれば、これも中枢性無呼吸イベントの診断をさらに確認するものとなる。
【0072】
図6Aは、一連の連続したパルス信号に基づく立ち上がり指標の経時変化を示す。この例では、立ち上がり指標における呼吸周期関連の変化の一貫したパターンが2において明らかに認めることができ、一連のパルスは1においてほぼ一貫した振幅であるように見える。
【0073】
図6Bは、著しく異なるレベルの立ち上がり指標に関連づけられた同様の脈波信号の例を示す。図6Bの左側の1において、立ち上がり指標値の周期的呼吸関連変動は図6Bの右側の2において著しくより小さいことが分かる。また、1および2における脈波振幅は本質的に同じであり、重要なことに、見かけ上の差は一連の脈波のいずれの変調においても識別することができないことが分かる。これは先行技術よりも優れた本方法の利点を示すのを助けるものである。
【0074】
図7Aおよび図7Bでは、一連の7回の無呼吸イベント時の立ち上がり指標の経時変化(図7A)および血液酸素飽和度(図7B)が示されている。オキシメトリ信号は、このパラメータの固有の遅れを補償するために左にシフトしている。
【0075】
図に示すように、各立ち上がり指標の変動の大きさは各無呼吸の終了点に向かって増加しているように見える。興味深いことに、立ち上がり信号は、これらの測定時のいくつかの期間において変動していないように見える。これは第3および第4の無呼吸イベントの開始から特に顕著であり、立ち上がり信号は変動していないが経時的に徐々に低下しており、血液酸素飽和度のレベルに関連している。
【0076】
飽和の低下と、変動していないか正常な呼吸変動レベル未満の立ち上がり指標とのこの組み合わせは、呼吸努力が存在いないか大きく低下している間の中枢性睡眠時無呼吸を示す。そのような変動していない立ち上がり指標段階後に、閉塞性睡眠時無呼吸の特徴である立ち上がり指標の大規模な変動の急激な開始が存在し、これは、この指標の絶対値における連続する低下と重なっているように見える。
【0077】
中枢性無呼吸およびその後の閉塞性無呼吸のこのパターンは、いわゆる混合性無呼吸の特徴である。
【0078】
飽和度の低下に伴って立ち上がり指標の絶対値が低下する漸進的傾向は、心筋収縮力の低下の相対的指標を提供するのにも有用であり得る。この発見は、心臓に対する血液酸素飽和度低下の影響を評価するのに重要な臨床的価値を有し得る。
【0079】
本発明の特定の一実施形態では、本発明の方法で使用される脈波は当該技術分野において公知のあらゆるパルス検出方法から得られ、パルス信号を測定することができる体の任意の部分から得ることができる。検出装置としては、限定されるものではないが、パルスオキシメータまたは任意の他の種類のフォト光信号装置から得ることができ、かつ恐らく公知の透過もしくは反射モードのいずれかまたはそれらの任意の組み合わせを用いて得ることができる光学式プレチスモグラフ信号、ならびに任意の形態のレーザードップラーまたはドップラーシステム、容積測定プレチスモグラフ、分節プレチスモグラフ、表面歪ゲージおよび円周歪ゲージ装置、および圧電および電磁装置などの脈波および血液容量の変化による体表面の幾何学形状の変化によって影響を受ける任意の他の装置が挙げられる。
【0080】
本発明の別の実施形態では、本発明の方法で使用される脈波は、例えば米国特許第6319205号、米国特許第6461305号、米国特許第6916289号、米国特許第6488633号、米国特許第6322515号、米国特許第7806831号、米国特許第6939304号、米国特許第7374540号、米国特許第7621877号、米国特許第7819811号ならびに対応する外国特許および特許出願ならびに以下の米国において現在出願中の出願:国際特許出願第PCT/IL2012/937737号、第PCT/IL2012/050466号、および第PCT/IL2011/662610号およびそれらのそれぞれの対応する外国特許および特許出願などの上述の末梢動脈緊張(PAT)測定装置のいずれか1つから得られる。
【0081】
これらの特許および特許出願に詳細に記載されているように、上記PAT測定装置は、測定部位における静脈血貯留の予防、信号の最適な動的応答を促進するための動脈壁における張力の負荷軽減などの動脈のパルス信号の測定に大きな利点を与え、前記測定部位における制御されない静脈逆流を実質的に予防し、かつ静脈膨張を予防することによって静脈細動脈反射性血管収縮の発生を予防する。PATプローブは手または足の指に装着するか、あるいは米国特許第7621877号「医学的状態を非侵襲的に検出するための体表面プローブ、装置および方法」に記載されているように任意の体表面領域に装着してもよい。
【0082】
最も重要なことに、本発明の収縮期立ち上がり分析の決定に加えて、上に挙げられているPAT関連の特許および特許出願によれば、収縮期立ち上がり指標が得られる同じPAT信号情報は、上に挙げられている特許および特許出願に記載されているような、睡眠・覚醒決定、睡眠時無呼吸イベント、睡眠時低呼吸イベント、上気道抵抗症候群(UARS)イベント、チェーンストークス呼吸イベント、REM(急速眼球運動)睡眠段階、周期性四肢運動症候群(PLMS)および睡眠時の呼吸障害イベントに関連する覚醒を含む多くの睡眠関連の生理学的および病態生理学的状態の臨床的に有効な検出のための睡眠呼吸障害分析においても使用することができる。この実施形態は図3Bに概略的に示されている。
【0083】
上記のように、睡眠関連障害の以前に記載されているPAT関連の広い診断範囲への本発明の方法の追加により、閉塞性無呼吸と中枢性無呼吸との区別を容易にし、かつ呼吸に伴う胸腔内圧の変化の程度の定量的指標を提供することによってこの診断能力をさらに高めてもよく、これは上気道抵抗症候群(UARS)イベントを診断するための軽度および重度の診断および分類において特に重要であり得る。これは、治療的陽性気道圧(PAP)装置から患者によって必要とされる圧力印加のリアルタイムレベルを最適化するのに有用な高感度の定量的フィードバック指標を提供することができるため、広範囲に及ぶ臨床的意義を有し得る。
【0084】
なおさらなる実施形態では、本出願の本発明の方法は、国際特許出願第PCT/IL2009/000528号「音響情報を利用して特定の生理学的状態について対象を検査するための方法および装置」に記載されている方法および装置と共に特に有利に使用することができるが、その理由は、その特許出願に使用されている装置が患者の胴体に結合される多軸加速度計および音記録装置の両方を含むからである。
【0085】
図8に示すように、加速度計出力を使用して、患者の呼吸に関連する胴体の動的変化を反映する連続信号を得ることができる。
【0086】
睡眠呼吸障害イベントのPAT関連の評価と共に使用する場合、この種の情報により当該イベントの性質をより正確に決定することができる。例えば、加速度計変化に関連づけられていない無呼吸イベントを閉塞性無呼吸イベントとは対照的な中枢性無呼吸として同定することができ、その逆もまた同様である。睡眠呼吸障害のPAT関連の評価と追加される加速度計情報との組み合わせの実際の臨床成績は、一般に受け入れられている臨床的睡眠ポリグラフ評価と比較して70.6%の感度および87.3%の特異性で閉塞性無呼吸と中枢性無呼吸とを正確に区別することを示している。そのような追加される胸部壁の動き情報の分析は、検出される呼吸努力の強度が患者姿勢によって影響を受け、例えば、胸部壁の動きが患者が腹臥位である場合により弱い信号を有するので、多次元加速度計データ入力を用いて得ることもできる患者姿勢情報の追加によってさらに向上させることができることにさらに留意されたい。
【0087】
また、国際特許出願第PCT/IL2009/000528号「音響情報を利用して特定の生理学的状態について対象を検査するための方法および装置」の特徴として言及したような呼吸関連の音の定量的評価は、呼吸関連の音の存在は中枢性無呼吸の診断を妨げるので、特に中枢性無呼吸と閉塞性無呼吸とを区別して睡眠障害診断を分類するのを助けることができる。
【0088】
音響および/または加速度計情報を使用して閉塞性無呼吸と中枢性無呼吸とを区別することができるさらなる方法は、加速度測定法による心室収縮の心弾動(cardio−balistographic)検出および左心室収縮に関連する心音の音響検出などの心周期イベントの検出におけるそれらのそれぞれの適用に関連しており、末梢脈波の検出と共に使用してPTTを得てもよい。周知のとおり、PTTにおける特徴的な動的変化を使用して閉塞性無呼吸を認識し、それにより中枢性イベントと閉塞性イベントとの区別を可能にしてもよい(Argod J,Pepin JL,Levy P;脈波伝播時間による閉塞性睡眠呼吸イベントと中枢性睡眠呼吸イベントとの区別.Am J Respir Crit Care Med.1998 Dec;158(6):1778−83を参照)。
【0089】
従って本実施形態では、呼吸音情報(図9には図示せず)の有無に関わらず、図9に示されているような加速度計情報の本発明の方法への組み込みは、収縮期立ち上がり分析に基づいて診断を確認するのをこのように助けることができ、さらに、収縮期立ち上がり分析のために利用可能な脈波の頻度に影響を与え得る心不整脈が存在する場合、あるいは深刻な末梢血管収縮時のようにパルス信号データが存在しないか、あるいはデータが破損している場合に有用であり得る。
【0090】
本発明の上記実施形態は、患者の胴体に装着される加速度計の使用を含み、かつ上で考察したように特定の利点を提供するが、図3Bに示されているような胴体に装着される追加される装置を含まない本発明の独立型実施形態は、最小の患者計測を必要とし、装置の故障の可能性が少ないという重要な利点を有し、最大の患者快適性および移動の自由を可能にし、かつ患者計測を非常に単純化するものであり、これは、患者によって自己装着される自宅で行われる着装携行式試験において最も重要である。
【0091】
本発明のさらなる可能な実施形態が図10に示されており、収縮期立ち上がりを分析することを含まないこと以外は図9に示されているものと本質的に同じである。
【0092】
この実施形態の重要性は、パルス信号がここに記載されている立ち上がり分析に直接従わない既存のシステムに中枢性睡眠障害イベントと閉塞性睡眠障害イベントとを区別するための可能な追加手段を提供するという点である。これは、例えばパルス情報のサンプリングレートが立ち上がり分析を正確に適用するにはあまりに低い場合、あるいはパルス情報がピーク−トラフ振幅差のみとして提供される場合に有用であり得る。
【0093】
これはまた、脈波信号が一時的に利用可能でない場合、例えば測定部位への血流が血圧測定時の閉塞により、または生理学的に媒介される血管収縮により、または信号の破損により存在しないか減少している場合に、図9に示されている実施形態のためのバックアップとして適用可能であってもよい。
【0094】
本発明についてその具体的な実施形態と共に説明してきたが、多くの他の実施形態、修正および変形も当業者には明らかであることは明白である。従って、添付の特許請求の範囲の趣旨および広い範囲に含まれる全てのそのような他の実施形態、修正および変形を包含する意図である。本明細書において言及されている全ての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許または特許出願のそれぞれが具体的かつ個々に参照により本明細書に組み込まれるように示されているかのように同程度に全体が参照により本明細書に組み込まれる。また、本出願中の任意の参考文献の引用または特定は、そのような参考文献が先行技術として本発明に利用可能であることを認めるものとして解釈されるべきではない。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10