(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6732101
(24)【登録日】2020年7月9日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】繊維材の賦形装置及び繊維材の賦形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/38 20060101AFI20200716BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20200716BHJP
【FI】
B29C70/38
B29K105:08
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-505737(P2019-505737)
(86)(22)【出願日】2018年1月22日
(86)【国際出願番号】JP2018001789
(87)【国際公開番号】WO2018168202
(87)【国際公開日】20180920
【審査請求日】2019年6月18日
(31)【優先権主張番号】特願2017-52383(P2017-52383)
(32)【優先日】2017年3月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】高木 沙織
(72)【発明者】
【氏名】濱本 洋平
【審査官】
北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−160572(JP,A)
【文献】
特表2008−540168(JP,A)
【文献】
特開昭62−108055(JP,A)
【文献】
特開2011−143610(JP,A)
【文献】
特開2010−150685(JP,A)
【文献】
特表2009−502585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00−70/88
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って延在する連続繊維束を含むテープ材を並べて、湾曲したフランジ部を有する賦形形状に賦形する繊維材の賦形装置であって、
前記テープ材を開繊させてその幅を拡大可能な開繊手段と、
前記開繊手段を経た前記テープ材を成形治具の表面に載置するとともに、当該載置する前記テープ材の向きを変化可能に構成された載置手段と、
を備え、
前記賦形形状が、湾曲辺を有するウェブ部と、当該ウェブ部の前記湾曲辺から立設した前記フランジ部とを有する立体形状であり、
前記開繊手段により、前記テープ材が前記成形治具の表面に載置されたときに隣り合うものとの間に隙間が生じないように当該テープ材の幅を連続的に変化させつつ、前記載置手段により、前記ウェブ部から前記フランジ部へのテープ材の入射角が揃うように当該テープ材を曲線状に載置しながら前記成形治具の表面上に複数列に並べることを特徴とする繊維材の賦形装置。
【請求項2】
前記ウェブ部は、前記湾曲辺と当該湾曲辺に対向する他の湾曲辺を有し、
前記載置手段は、前記湾曲辺と前記他の湾曲辺との長さの比に対応した曲率で、前記テープ材を曲線状に載置することを特徴とする請求項1に記載の繊維材の賦形装置。
【請求項3】
長手方向に沿って延在する連続繊維束を含むテープ材を並べて、湾曲したフランジ部を有する賦形形状に賦形する繊維材の賦形方法であって、
繊維材の賦形装置が、
前記テープ材を開繊させてその幅を拡大可能な開繊工程と、
前記開繊工程を経た前記テープ材を成形治具の表面に載置する載置工程と、
を実行し、
前記賦形形状が、湾曲辺を有するウェブ部と、当該ウェブ部の前記湾曲辺から立設した前記フランジ部とを有する立体形状であり、
前記開繊工程により、前記テープ材が前記成形治具の表面に載置されたときに隣り合うものとの間に隙間が生じないように当該テープ材の幅を連続的に変化させつつ、前記載置工程により、前記ウェブ部から前記フランジ部へのテープ材の入射角が揃うように当該テープ材を曲線状に載置しながら前記成形治具の表面上に複数列に並べることを特徴とする繊維材の賦形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープ状の連続繊維材を、湾曲辺を有する形状に賦形する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化複合材料の製造方法として、テープ状の連続繊維材(以下、「テープ材」という。)を賦形して所望の形状のプリフォームを作製し、このプリフォームに樹脂を含浸・硬化させて完成品を得る手法が知られている。
【0003】
プリフォームの作製では、自動繊維配置(AFP)装置または自動テープ積層(ATL)装置などにより、強化繊維が所定の配向方向となるようにテープ材が並べられ積層される。
そのため、湾曲形状のプリフォームを作製する場合には、この湾曲形状に対応させてテープ材が曲線状に貼られる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−143610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単純にテープ材を曲線状に貼ったのでは、テープ材を隙間なく並べることができない場合がある。
例えば
図4(A)及び
図4(B)に示すように、幅方向に湾曲した平板状のウェブ部と、その幅方向両端の湾曲辺から同方向に立設(折り曲げ形成)されたフランジ部とを有するプリフォームを作製する場合がある。このような場合に、一定幅のテープ材を単純に同方向に並べると、テープ材のフランジ部への入射角が連続的に変化してしまう。その結果、フランジ部でテープ材間に隙間が生じてしまい、完成品の強度低下を招いてしまう。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、テープ材を隙間なく並べつつ、湾曲したフランジ部を有する形状に好適に賦形することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、長手方向に沿って延在する連続繊維束を含むテープ材を並べて、湾曲したフランジ部を有する賦形形状に賦形する繊維材の賦形装置であって、
前記テープ材を開繊させてその幅を拡大可能な開繊手段と、
前記開繊手段を経た前記テープ材を成形治具の表面に載置するとともに、当該載置する前記テープ材の向きを変化可能に構成された載置手段と、
を備え、
前記賦形形状が、湾曲辺を有するウェブ部と、当該ウェブ部の前記湾曲辺から立設した前記フランジ部とを有する立体形状であり、
前記開繊手段により、前記テープ材が前記成形治具の表面に載置されたときに隣り合うものとの間に隙間が生じないように当該テープ材の幅を連続的に変化させつつ、前記載置手段により、前記ウェブ部から前記フランジ部へのテープ材の入射角が揃うように当該テープ材を曲線状に載置しながら前記成形治具の表面上に複数列に並べることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の繊維材の賦形装置において、
前記ウェブ部は、前記湾曲辺と当該湾曲辺に対向する他の湾曲辺を有し、
前記載置手段は、前記湾曲辺と前記他の湾曲辺との長さの比に対応した曲率で、前記テープ材を曲線状に載置することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の繊維材の賦形装置と同様の特徴を具備する繊維材の賦形方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、テープ材を開繊させる開繊手段により、隣り合うものとの間に隙間が生じないようにテープ材の幅が連続的に変えられつつ、ウェブ部からフランジ部へのテープ材の入射角が揃うように当該テープ材が曲線状に載置されながら成形治具上に複数列に並べられる。
したがって、テープ材を隙間なく並べつつ、湾曲したフランジ部を有する形状に好適に賦形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態における繊維材の賦形装置の概念図である。
【
図2A】実施形態における繊維材の賦形方法の賦形例を説明するための図である。
【
図2B】実施形態における繊維材の賦形方法の賦形例を説明するための図である。
【
図3A】実施形態における繊維材の賦形方法の他の賦形例を説明するための図である。
【
図3B】実施形態における繊維材の賦形方法の他の賦形例を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
[繊維材の賦形装置の構成]
まず、本実施形態における繊維材の賦形装置(以下、単に「賦形装置」という。)1の構成について説明する。
図1は、賦形装置1の概念図である。
【0014】
この図に示すように、賦形装置1は、強化繊維を有するテープ材Tを賦形してプリフォームを作製するためのものであり、本実施形態においては、湾曲したフランジ部を有する賦形形状に賦形するものである。テープ材Tは、長手方向に沿って延在する連続繊維(炭素繊維等の強化繊維)の繊維束を含むドライなテープ状の連続繊維束であり、本実施形態では熱可塑剤等で束ねられている。
【0015】
具体的に、賦形装置1は、テープ材ボビン2と、積層装置ヘッド3と、成形治具4と、制御部5とを備えている。
このうち、テープ材ボビン2は、テープ材Tを巻回保持しており、当該テープ材Tを積層装置ヘッド3に供給する。
【0016】
積層装置ヘッド3は、先端を移動自在に構成されたロボットアーム6の先端に取り付けられており、当該ロボットアーム6によって移動しつつ、テープ材Tをテープ材ボビン2から引き出して成形治具4の表面に載置(積層)する。
この積層装置ヘッド3は、テープ材Tの搬送方向上流側から順に、テープ材ボビン2からテープ材Tを引き込むテープ材引出ローラー31と、テープ材Tを成形治具4の表面に積層する積層ローラー37との、少なくとも2対のローラーを有している。
【0017】
テープ材引出ローラー31と積層ローラー37との間には、開繊手段33と、タック材塗布装置35と、カッター36とが設けられている。
【0018】
このうち、開繊手段33は、テープ材Tを開繊させることによって、その幅を所定範囲内で自在に拡大可能なものである。この開繊手段33は、テープ材Tを開繊させてその幅を自在に拡大可能であれば、その具体構成は特に限定されない。例えば、テープ材Tと物理的に接触して開繊させる機械式のもの(例えば、特開平3−146736号公報参照)であってもよいし、テープ材Tを流体(空気や液体)の中に通して開繊させる流体式のもの(例えば、特開平11−172562号公報参照)や、電気的な力でテープ材Tを開繊させる電気式のもの(例えば、特開平07−258949号公報参照)などであってもよい。
【0019】
タック材塗布装置35は、テープ材Tの一方の主面(積層時の下側の主面)にタック(仮止め)材を塗布するものである。
カッター36は、テープ材Tを必要な長さに切断するものである。
【0020】
成形治具4は、積層装置ヘッド3により表面にテープ材Tが載置(積層)される型台である。この成形治具4は、本実施形態では、少なくとも1つの湾曲辺を有する平板部(上板部)と、この湾曲辺から下方に立設した側板部とを有する形状に形成されている。
【0021】
制御部5は、賦形装置1の各部の動作を統括制御する。具体的に、制御部5は、ロボットアーム6の動作を制御して積層装置ヘッド3の位置や向き,速度等を制御したり、開繊手段33によるテープ材Tの開繊程度(すなわち、開繊後のテープ材Tの幅)を制御したりする。
【0022】
[繊維材の賦形方法]
続いて、賦形装置1を用いた繊維材(テープ材T)の賦形方法について、具体例を挙げて説明する。
【0023】
ここでは、湾曲したフランジ部を有する立体形状にテープ材Tを賦形する場合について説明する。
図2(A)及び
図2(B)は、この賦形例を説明するための図である。
【0024】
幅方向に湾曲した平板状のウェブ部81と、その幅方向両端の湾曲辺から同方向に立設(折り曲げ形成)された2つのフランジ部82とを有する積層体8を作製する場合、一定幅のテープ材Tを単純に同方向に並べると、テープ材Tのフランジ部82への入射角が連続的に変化してしまう(
図4(A),
図4(B)参照)。その結果、フランジ部82でテープ材T間に隙間ができてしまう。
【0025】
そこで、本実施形態の賦形装置1では、
図2(A),
図2(B)に示すように、ウェブ部81からフランジ部82へのテープ材Tの入射角αを揃えるとともに、当該テープ材Tの幅を連続的に変化させながら当該テープ材Tを成形治具4に載置させることにより、隙間なくテープ材Tを並べている。
【0026】
具体的には、賦形装置1の制御部5が、ロボットアーム6により積層装置ヘッド3の向きを変化させつつ移動させて、ウェブ部81からフランジ部82へのテープ材Tの入射角αが揃うように当該テープ材Tを曲線状に載置(ステアリング)する。また同時に、制御部5は、隣り合うテープ材Tとの隙間が埋まるように、開繊手段33によりテープ材Tの幅を内側(
図2(A)の下側)の湾曲辺から外側(
図2(A)の上側)の湾曲辺に向かって広がるように連続的に変化させながら、当該テープ材Tを成形治具4の表面に載置する。このとき、ステアリングによるテープ材Tの曲率は、ウェブ部81両端の2つの湾曲辺の曲率またはその長さの比率に対応させて適宜設定される。
なお、
図2(B)では、図中手前側のフランジ部82に対するテープ材Tの入射角αのみを示したが、図中奥側のフランジ部82へのテープ材Tの入射角も同様に揃えられるのは勿論である。
【0027】
つまり、賦形装置1では、ステアリングによりウェブ部81からフランジ部82へのテープ材Tの入射角αを揃えつつ、このときのテープ材T間の隙間を埋めるように当該テープ材Tの幅を連続的に変化させている。
これにより、テープ材Tを隙間なく並べつつ、湾曲したフランジ部82を有する立体形状に好適に賦形することができる。
【0028】
こうして、テープ材Tを順次並べつつ積層していくことにより、成形治具4の形状に対応した積層体8が作製される。そして、この積層体8を必要に応じてプレスなどすることにより、プリフォームが完成する。その後、RTM(Resin Transfer Molding)成形によってこのプリフォームを樹脂で含浸することにより、繊維強化複合材料が完成する。
【0029】
[効果]
以上のように、本実施形態によれば、テープ材Tを開繊させる開繊手段33により、隣り合うものとの間に隙間が生じないようにテープ材Tの幅が連続的に変えられつつ、ウェブ部81からフランジ部82へのテープ材Tの入射角αが揃うように当該テープ材Tが曲線状に載置されながら、成形治具4上に複数列に並べられる。
つまり、ウェブ部81からフランジ部82へのテープ材Tの入射角αが揃うように当該テープ材Tがステアリングされつつ、このときのテープ材T間の隙間を埋めるように当該テープ材Tの幅が連続的に変えられる。
したがって、テープ材Tを隙間なく並べつつ、湾曲したフランジ部82を有する形状に好適に賦形することができる。
【0030】
[変形例]
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0031】
例えば、上記実施形態では、幅方向に湾曲した平板状のウェブ部81の湾曲辺からフランジ部82が立設している賦形形状を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な賦形形状は、少なくとも1つのフランジ部がウェブ部の湾曲辺から立設しているものであれば特に限定されない。
したがって、ウェブ部の形状は、例えば
図3(A)に示すように、対向する2つの湾曲辺がいずれも凹状であったり、
図3(B)に示すように、湾曲辺に対向する辺が直線状であったりしてもよい。なお、
図3(A),
図3(B)における細線は、テープ材Tの貼り方を定めるための想像線である。
【0032】
また、本発明に係るテープ材は、ウェブ部の湾曲辺と交差する方向に沿って延在していれば、特に限定されない。
【0033】
以上のように、本発明に係る繊維材の賦形装置及び繊維材の賦形方法は、湾曲したフランジ部を有する形状に好適にテープ材を賦形するのに有用である。
【符号の説明】
【0034】
1 繊維材の賦形装置
3 積層装置ヘッド
33 開繊手段
37 積層ローラー
4 成形治具
5 制御部
6 ロボットアーム
8 積層体
81 ウェブ部
82 フランジ部
T テープ材
α 入射角