特許第6732225号(P6732225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6732225
(24)【登録日】2020年7月10日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】ビーム偏向デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20200716BHJP
   H01S 5/50 20060101ALI20200716BHJP
   H01S 5/42 20060101ALI20200716BHJP
   G01S 7/484 20060101ALN20200716BHJP
【FI】
   H01S5/183
   H01S5/50 610
   H01S5/42
   !G01S7/484
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-37273(P2016-37273)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-157609(P2017-157609A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年2月28日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(ACCEL)、「スローライト光構造体とその応用展開」、「積層構造スローライト素子の有効性の検討と技術動向調査」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小山 二三夫
(72)【発明者】
【氏名】中▲濱▼ 正統
(72)【発明者】
【氏名】顧 暁冬
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−016591(JP,A)
【文献】 特開平10−270793(JP,A)
【文献】 特開2004−253543(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0012845(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に長く、カットオフ波長λ2を有する第1VCSEL(垂直共振器面発光レーザ)と、
前記第1VCSELに、発振しきい値より大きな電流を注入し、前記第1VCSELを発振状態に維持する駆動回路と、
を備え、
前記第1VCSELは、前記第1方向の一端側に設けられた入射口にコヒーレントな入射光を受け、光を垂直方向に多重反射させながら、第1方向にスローライト伝搬させ、前記第1VCSELの上面の出射口から出射光を取り出すよう構成され、
前記カットオフ波長λ2および前記入射光の波長λ1に応じた出射角で、前記出射光を放射することを特徴とするビーム偏向デバイス。
【請求項2】
前記入射光の波長λ1が固定され、前記第1VCSELは、そのカットオフ波長λ2が可変に構成されることを特徴とする請求項1に記載のビーム偏向デバイス。
【請求項3】
前記第1VCSELのカットオフ波長λ2が固定され、前記入射光の波長λ1が可変であることを特徴とする請求項1に記載のビーム偏向デバイス。
【請求項4】
前記入射光を生成する第2VCSELをさらに備え、
前記第1VCSELと前記第2VCSELは、DBR(Distributed Bragg Reflector)および活性層を有して、前記第1方向に隣接して集積化されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のビーム偏向デバイス。
【請求項5】
前記第1VCSELと前記第2VCSELは、さらにエアギャップ層を有し、マイクロマシン構造により、前記第1VCSEL側および前記第2VCSEL側の少なくとも一方の前記エアギャップ層の厚みが可変に構成されることを特徴とする請求項4に記載のビーム偏向デバイス。
【請求項6】
前記第1VCSELは複数個、前記第1方向と垂直な第2方向に配置されてアレイを形成していることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のビーム偏向デバイス。
【請求項7】
複数の前記第1VCSELそれぞれに入射する前記入射光の位相を制御する位相シフタをさらに備えることを特徴とする請求項6に記載のビーム偏向デバイス。
【請求項8】
複数の前記第1VCSELに、選択的に前記入射光を供給する光スイッチをさらに備えることを特徴とする請求項6に記載のビーム偏向デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームの方向を制御する光偏向デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、ドローン、ロボットなどに搭載されるレーザレーダ(LIDAR)、パソコンやスマートホンに搭載して周囲環境を手軽に取り込む3Dスキャナ、近赤外安全監視システム、製造現場での自動検査装置などで、光偏向デバイスが用いられている。
【0003】
ビーム偏向デバイスとしては、大きく、機械式のものと非機械式のものに分類される。前者としては、ポリゴンミラー、ガルバノミラー、あるいはモータによる機械的駆動系を用いたものが実用化されている(非特許文献1)。機械式の偏向デバイスは、モジュールサイズ、偏向スピード、信頼性に課題がある。
【0004】
非機械式のビーム偏向デバイスとしては、マイクロマシンによるMEMSミラー(非特許文献2)、電気光学結晶を用いたもの(非特許文献3)、フォトニック結晶レーザを用いたもの(非特許文献4)、フェーズアレイアンテナを用いたもの(非特許文献5)などが報告されているが、いずれも偏向角が小さい。外部にレンズ等の光素子を挿入して、偏向角度を拡大することはできるが、同時にビーム拡がり角も増大するため、解像点数が制限される。ここで解像点数とは、最大偏向角度とビーム拡がり角の比で定義され、ビーム偏向デバイスの性能指数として一般的に用いられる。なお、フェーズドアレイやフォトニック結晶レーザの形式では、解像点数と同程度のアレイ本数、あるいは電極数が必要であり、機械式の偏向デバイスは解像点数1000以上を容易に得られるのに対して、解像点数として数十が限界となっている。また、非機械式のビーム偏向デバイスで、ワット級の高出力を実現した例は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−016591号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Matsuda, F. Abe, and H. Takahashi, "Laser printer scanning system with a parabolic mirror" Appl. Opt., vol. 17, no. 6, pp. 878-884, Mar. 1978.
【非特許文献2】P. F. V. Dessel, L. J. Hornbeck, R. E. Meier, and M. R. Douglass, "A MEMS-based projection display," Proc. IEEE,vol. 86, no. 8, pp. 1687-1704, Aug. 1988.
【非特許文献3】K. Nakamura, J. Miyazu, M. Sasaura, and K. Fujiura, "Wide-angle, low-voltage electro-optic beam deflection based onspace-charge-controlled mode of electrical conduction in KTa1xNbxO3," Appl. Phys. Lett., vol. 89, no. 3, pp. 131115-1-131115-3, Sep. 2006.
【非特許文献4】Y. Kurosaka, S. Iwahashi, Y. Liang, K. Sakai, E. Miyai, W. Kunishi, D. Ohnishi, and S. Noda, "On-chip beam-steering photonic-crystal lasers," Nat. Photon., vol. 4, no. 7, pp. 447-450, May 2010.
【非特許文献5】J. K. Doylend, et.al., "Two-dimensional free-space beam steering with an optical phased array on silicon-on-insulator," Optics Express, vol. 19, no.22, pp.21595-21604, 2011.
【非特許文献6】X. Gu, T. Shimada, and F. Koyama, "Giant and high-resolution beam steering using slow-light waveguide amplifier,"Opt. Exp., vol. 19, no. 23, pp. 22 675-22 683, Nov. 2011.
【非特許文献7】M. Nakahama, X. Gu, T. Shimada, and F. Koyama, "On-Chip high-resolution beam scanner based on Bragg reflector slow-light waveguide amplifier and tunable micro-electro-mechanical system vertical cavity surface emitting laser," Jpn. J. Appl. Phys., vol. 51, no. 4, pp. 040208-1-040208-3, Mar. 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らはこの問題を解決するために、Bragg反射鏡から構成されるスローライト導波路を用いて、その巨大な構造分散により、光の波長を掃引することで高解像度のビーム偏向を実現することを提案している(特許文献1、非特許文献6,7)。
【0008】
本発明はかかる状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、高解像度(大きな解像点数)のビーム偏向と高出力動作を両立するビーム偏向デバイスの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、第1方向に長く、カットオフ波長λ2を有する第1VCSEL(垂直共振器面発光レーザ)と、第1VCSELに、発振しきい値より大きな電流を注入し、第1VCSELを発振状態に維持する駆動回路と、を備える。第1VCSELは、第1方向の一端側に設けられた入射口にコヒーレントな入射光を受け、光を垂直方向に多重反射させながら、第1方向にスローライト伝搬させ、第1VCSELの上面の出射口から出射光を取り出すよう構成され、カットオフ波長λ2および入射光の波長λ1に応じた出射角で、出射光を放射する。
【0010】
この態様によると、入射光の波長λ1あるいはカットオフ波長λ2の少なくとも一方を変化させることで出射光の出射角(偏向角)を大きく変化させることができる。また第1VCSELを発振状態に保つことにより、高効率に光を増幅することができる。出射光は,波面の揃ったコヒーレントな光となり、微小スポットに結像させることができ、長尺化させることで高出力化も同時に実現できる。
【0011】
ある態様において、入射光の波長λ1は固定され、第1VCSELは、そのカットオフ波長λ2が可変に構成されてもよい。
【0012】
ある態様において、第1VCSELのカットオフ波長λ2が固定され、入射光の波長λ1が可変であってもよい。
【0013】
ある態様において、ビーム偏向デバイスは、入射光を生成する第2VCSELをさらに備えてもよい。第1VCSELと第2VCSELは、DBR(Distributed Bragg Reflector)および活性層を有して、第1方向に隣接して集積化されてもよい。これにより、ビーム偏向デバイスを一層、小型化、低コスト化できる。
【0014】
入射光の波長λ1、言い換えれば第2VCSELの発振波長と第1VCSELのカットオフ波長λ2は、λ1<λ2を満たすことが好ましい。
これにより、第1VCSELから第2VCSELへの戻り光を抑圧することができ、第1VCSELから出射されるビーム品質を改善できる。
【0015】
第1VCSELと第2VCSELは、エアギャップ層を有し、マイクロマシン構造により、第1VCSEL側および第2VCSEL側の少なくとも一方のエアギャップ層の厚みが可変に構成されてもよい。
エアギャップ層の厚みにより第1VCSELあるいは第2VCSELのキャビティ長を変化させることができ、カットオフ波長λ2あるいは入射光の波長λ1を制御することができる。
【0016】
第1VCSELは複数個、第1方向と垂直な第2方向に配置されてアレイを形成していてもよい。
【0017】
ビーム偏向デバイスは、複数の第1VCSELそれぞれに入射する入射光の位相を制御する位相シフタをさらに備えてもよい。
第1VCSELをアレイ状に並べて、それぞれの位相を制御することで(フェーズドアレイ)、2次元的なビーム掃引が可能となる。
【0018】
ビーム偏向デバイスは、複数の第1VCSELに、選択的に入射光を供給する光スイッチをさらに備えてもよい。
複数の第1VCSELに順次、入射光を供給し、複数の第1VCSELの出射光をシリンドリカルレンズなどの光学系を通過させることにより、2次元ビーム掃引を実現できる。
【0019】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、あるいは本発明の表現を、方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のある態様によれば、高出力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1の実施の形態に係るビーム偏向デバイスの断面図である。
図2図1のビーム偏向デバイスの動作を模式的に示す図である。
図3】特許文献1の光偏向モジュールの動作を模式的に示す図である。
図4】第2の実施の形態に係るビーム偏向デバイスの断面図である。
図5】第3の実施の形態に係るビーム偏向デバイスを示す図である。
図6】第4の実施の形態に係るビーム偏向デバイスを示す図である。
図7図6のビーム偏向デバイスの動作を示す図である。
図8図8(a)〜(d)は、ビーム偏向デバイスを備えるLIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0023】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係るビーム偏向デバイス1の断面図である。このビーム偏向デバイス1は、面発光レーザ(以下、第1VCSEL)4および駆動回路6を備える。第1VCSEL4は、第1方向(図中、x方向)に長く構成される。駆動回路6は、第1VCSEL4に、発振しきい値ITHより大きな電流Iを注入し、第1VCSEL4を発振状態に維持する。
【0024】
第1VCSEL4は、半導体基板10上に集積化されたVCSEL構造40を備える。VCSEL構造40は、半導体基板10上に形成された下部DBR(Distributed Bragg Reflector)26、活性層42、上部DBR44を備える。VCSEL構造40は、縦方向の共振長で定まる固有のカットオフ波長λ2を有している。
【0025】
第1VCSEL4は、第1方向(x方向)の一端側に設けられた入射口60にコヒーレントな入射光L1を受け、光を垂直方向(z方向)に多重反射させながら、第1方向にスローライト伝搬させ、第1VCSEL4の上面の出射口62から出射光L2を取り出すよう構成される。
【0026】
ビーム偏向デバイス1は、入射光L1の波長λ1に応じた出射角θで、出射光L2を放射する。より詳しくは、第1VCSEL4における光の反射角をθ、出射光L2の出射角をθとするとき、式(1)が成り立つ。
sinθ=nsinθ=n√(1−(λ1/λ) …(1)
nは第1VCSEL4の導波路の屈折率であり、λは導波路のカットオフ波長である。
【0027】
以上がビーム偏向デバイス1の構成である。図2は、図1のビーム偏向デバイス1の動作を模式的に示す図である。ビーム偏向デバイス1では、第1VCSEL4が発振状態に維持されるため、出射光L2の強度分布は、第1方向に関して、実質的に一定となり、その強度もきわめて大きくなる。また出射光L2の出射角は、入射光L1の波長λ1に依存する。光L3’は、入射光L1が入射しないときの第1VCSEL4の発振光であり、その波長はλ2である。入射光L1を入射した場合には、光L3に示すように、λ2の成分は非常に小さくなる。
【0028】
図3は、特許文献1の光偏向モジュールの動作を模式的に示す図である。光偏向モジュールが単なる導波路を備える構成では、強度分布は(i)に示すように、光の進行方向に対して指数関数的に減少していく。あるいは導波路に活性層を設け、電流を注入することにより、減衰分の光強度を補うことができ、このときの強度分布は(ii)に示すように、平坦となる。なお図3には、比較のために第1の実施の形態に係るビーム偏向デバイス1における強度分布を(iii)で示す。特許文献1では活性層付きの導波路をレーザ発振させるわけではないため、その強度分布(ii)は、図1のビーム偏向デバイス1の強度分布(iii)よりも遙かに小さい。なお、強度分布(i)〜(iii)は明確化のために簡素化して示しており、実際には図示されるよりも、強度分布(iii)は(ii)よりも大きいことに留意されたい。
【0029】
以上がビーム偏向デバイス1の動作である。
ビーム偏向デバイス1によれば、入射光L1の波長λ1を変化させることで出射光L2の出射角θ(偏向角)を大きく変化させることができる。また第1VCSEL4を発振状態に保つことにより、高効率に光を増幅することができ、第1方向に均一な強度分布を得ることができ、さらにその強度分布は、第1VCSEL4を非発振状態の増幅器として使用した場合に比べて格段に大きくすることができる。
【0030】
また出射光L2は,波面の揃ったコヒーレントな光となり、微小スポットに結像させることができ、長尺化させることで高出力化も同時に実現できる。
【0031】
(第2の実施の形態)
図4は、第2の実施の形態に係るビーム偏向デバイス1aの断面図である。ビーム偏向デバイス1aは、第1VCSEL4aに加えて、入射光L1を生成する第2VCSEL2aをさらに備える。第1VCSEL4aと第2VCSEL2aとは、DBRおよび活性層を有して、第1方向に隣接して集積化される。
【0032】
具体的には第2VCSEL2aは、VCSEL構造20を備える。VCSEL構造20は、活性層22、上部DBR24、下部DBR26を含む。活性層22と活性層42、上部DBR24と上部DBR44、下部DBR26と下部DBR46は共通である。第1VCSEL4aと第2VCSEL2aの間に、電気的なアイソレーションを可能にする領域を設けてもよい。
【0033】
第2VCSEL2aの内部において、光は垂直方向に反射を繰り返して誘導放出によって増幅され、その結果、符号100で示すような強度分布が形成され、その一部が第1VCSEL4a側に染み出し、染み出した入射光L1が隣接する第1VCSEL4aの入射口60に結合する。
【0034】
第2VCSEL2a側のVCSEL構造20は、半導体基板10上に形成される下部DBR26、活性層22、上部DBR24を備える。VCSEL構造20の縦型共振器の上側ミラーの反射率を100%に近づけるために、上部DBR24の上面には、高反射ミラー30を形成することが望ましい。高反射ミラー30は、たとえば金(Au)などの金属や誘電体多層膜鏡が好適である。
【0035】
このビーム偏向デバイス1aにおいて、第2VCSEL2aおよび第1VCSEL4aのVCSEL構造20,40は、エアギャップ層28,48を有し、マイクロマシン構造、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)構造により、第2VCSEL2a側のエアギャップ層28の厚みが可変に構成される。エアギャップ層28の厚みを変化させることで、高反射ミラー30の位置を制御でき、これにより第2VCSEL2aのキャビティ長が変化し、発振波長λ1を制御することができる。
【0036】
第2の実施の形態によれば、入射光L1の波長λ1は、λ1<λ2を満たす範囲で変化させることができる。λ1<λ2を満たすことにより、第1VCSEL4aから第2VCSEL2aへの光の結合を抑圧することができ、第1VCSEL4aから出射されるビームの品質を改善できる。
【0037】
(第3の実施の形態)
図5は、第3の実施の形態に係るビーム偏向デバイス1bを示す図である。ビーム偏向デバイス1bは、第1方向(x方向)と垂直な第2方向(y方向)に配置されてアレイ200を形成する複数の第1VCSEL4bを備える。ビーム偏向デバイス1bはさらに、第1VCSEL4bごとに設けられた位相シフタ202と、光分岐器204を備える。光分岐器204は、図示しないシード光源からのコヒーレント光L4を複数の位相シフタ202に分配する。コヒーレント光L4の波長λ1は可変である。複数の位相シフタ202はそれぞれ、コヒーレント光L4に電気的に制御可能な位相シフトを与え、対応する第1VCSEL4bに入射する入射光L1の位相を制御する。
【0038】
図5には、ビーム偏向デバイス1bによって形成される遠視野像が示される。波長λ1の掃引によって、光をx方向に掃引することができる。また複数の位相シフタ202の位相掃引によって、y方向に関して、複数の第1VCSEL4bの出射光の波面が傾き、アレイがフェーズドアレイとして動作し、y方向にビームを掃引することができる。
【0039】
なお、光分岐器204の入力に、シード光源を一体集積化してもよい。
【0040】
(第4の実施の形態)
図6は、第4の実施の形態に係るビーム偏向デバイス1cを示す図である。ビーム偏向デバイス1cは、図5と同様に、複数の第1VCSEL4bを備え、アレイ200が形成される。またビーム偏向デバイス1cは、アレイ200の出射光を受ける光学系210を備える。光学系210はたとえばシリンドリカルレンズであってもよい。複数の第1VCSEL4bそれぞれに対する入射光は、個別にオン、オフが切りかえ可能となっている。ビーム偏向デバイス1cは、複数の第1VCSEL4bに、選択的に入射光L1を供給する光スイッチ212をさらに備えてもよい。
【0041】
図7は、図6のビーム偏向デバイス1cの動作を示す図である。オンする第1VCSEL4bを掃引することにより、遠視野におけるビームの位置をy方向に掃引することができる。
【0042】
なお光スイッチ212に代えて、第1VCSEL4bそれぞれに第2VCSEL2を集積化してもよい。すなわち、図4のビーム偏向デバイス1aを、複数個、y方向に並べて配置してもよい。そして複数のビーム偏向デバイス1aそれぞれの第1VCSEL4aのオン、オフを個別に制御することにより、y方向のビームを制御してもよい。
【0043】
図8(a)、(b)は、ビーム偏向デバイス1を備えるLIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)を示す図である。図8(a)のLIDAR300aは、デバイスチップ302と、光学系304を備える。ビーム偏向デバイス1は、信号光L11を走査する。物体400で反射した戻り光は、デバイスチップ302を介してそれに接続されたディテクタによって検出される。ディテクタは、デバイスチップ302と同一面上に集積化されてもよい。
【0044】
図8(a)のLIDAR300bでは、ビーム偏向デバイス1とディテクタが別々に構成される。LIDAR300bは、2つのデバイスチップ306,308と、光学系310,312を備える。デバイスチップ306上には上述のいずれかのビーム偏向デバイス1が集積化されている。ビーム偏向デバイス1は、信号光L11を走査する。物体400で反射した戻り光L12は、デバイスチップ308を介してそれに接続されたディテクタによって検出される。
【0045】
図8(c)のLIDAR300cでは、ディテクタとしてCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサが配置されている。LIDAR300cは、そのビーム偏向器側に、デバイスチップ314と、光学系316を備える。受光側として、光学系320とアレイ状ディテクタ318を備える。アレイ状ディテクタ318は、CMOSセンサやCCDであってもよい。ビーム偏向デバイス1は、信号光L11を走査する。物体400で反射した戻り光L12は、光学系320を介してアレイ状ディテクタ318によって検出される。
【0046】
図8(d)のLIDAR300dでは、図3、あるいは図4に記載の1次元のビーム偏向器320を備える。受光側として、光学系322とディテクタアレイ324を備える。ディテクタアレイ324は、CMOSセンサやCCDであってもよい。ビーム偏向デバイス1は、信号光L11を1次元方向にのみ走査する。それと直交方向は、ビーム自身が広がるため、複数の対象物体402を同時に照射する。ここの対象物体で反射した戻り光L12は、光学系322を介してディテクタアレイ324によって検出される。複数の対象物体402の個々の位置をディテクタアレイ324を用いて同時に検出することができる。
【0047】
上述のように、実施の形態に係るビーム偏向デバイス1によれば、高解像度(大きな解像点数)のビーム偏向、高出力動作を両立できる。したがって、LIDARに用いることにより、より遠方の物体400の3次元位置情報を検出でき、あるいはより小さな物体を検出できる。
【0048】
上述したいくつかの実施の形態では、第1VCSEL4のカットオフ波長λ2を固定し、入射光L1の波長λ1を制御することにより、出射光L2の出射角θを制御したが本発明はそれに限定されない。出射角θは、2つの波長λ1とλ2の相対的な関係にもとづいて定まるため、波長λ1に代えて、あるいはそれに加えて、カットオフ波長λ2を制御することとしてもよい。この場合、第1VCSEL4を、カットオフ波長λ2を可変に構成すればよく、具体的には、図4の第1VCSEL4aにMEMS構造を設け、第1VCSEL4a側のエアギャップ層48の厚みを可変に構成してもよい。
【0049】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0050】
1…ビーム偏向デバイス、4…第1VCSEL、2…第2VCSEL、6…駆動回路、10…半導体基板、20…VCSEL構造、22…活性層、24…上部DBR、26…下部DBR、28…エアギャップ層、30…高反射ミラー、40…VCSEL構造、42…活性層、44…上部DBR、46…下部DBR、48…エアギャップ層、60…入射口、62…出射口、200…アレイ、202…位相シフタ、204…光分岐器、L1…入射光、L2…出射光。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8