特許第6732389号(P6732389)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6732389板材へのナットとカラーの取付方法及び取付構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6732389
(24)【登録日】2020年7月10日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】板材へのナットとカラーの取付方法及び取付構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 9/00 20060101AFI20200716BHJP
   F16B 37/04 20060101ALI20200716BHJP
   F16B 4/00 20060101ALI20200716BHJP
【FI】
   F16B9/00
   F16B37/04 E
   F16B4/00 H
   F16B4/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-10389(P2018-10389)
(22)【出願日】2018年1月25日
(65)【公開番号】特開2019-128007(P2019-128007A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2019年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 孝典
(72)【発明者】
【氏名】古賀 一博
(72)【発明者】
【氏名】増井 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】浅井 悠介
(72)【発明者】
【氏名】田邉 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】新家 裕隆
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−043883(JP,A)
【文献】 特開2010−018061(JP,A)
【文献】 米国特許第05882159(US,A)
【文献】 実開昭62−128216(JP,U)
【文献】 特開2015−224722(JP,A)
【文献】 特開昭57−146908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D39/00−41/04
B23P19/00−21/00
F16B3/00−4/00
7/00−11/00
23/00−43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材の一方の面にナットをかしめ固定し、前記かしめ固定の際に前記板材の他方の面に発生する凹溝に、カラーの端部の突起を圧入することにより、前記板材の両面に前記ナットと前記カラーをそれぞれ固定することを特徴とする板材へのナットとカラーの取付方法。
【請求項2】
金属パネルの一方の面にピアスナットをかしめ固定し、前記かしめ固定の際に前記金属パネルの他方の面に発生する環状凹溝に、カラーの端部の環状突起を圧入することにより、前記金属パネルの両面に前記ピアスナットと前記カラーをそれぞれ固定することを特徴とする金属パネルへのナットとカラーの取付方法。
【請求項3】
板材の一方の面にかしめ固定されたナットと、前記板材の他方の面に固定されたカラーとからなり、前記カラーは端部に突起を備えたものであり、前記ナットを前記かしめ固定する際に前記板材に形成された凹溝内に、前記突起が圧入されていることを特徴とする板材へのナットとカラーの取付構造。
【請求項4】
金属パネルと、その一方の面にかしめ固定されたピアスナットと、前記金属パネルの他方の面に固定されたカラーとからなり、前記カラーは端部に環状突起を備えたものであり、前記環状突起が、前記ピアスナットをかしめ固定する際に前記金属パネルに形成された環状凹溝内に圧入されていることを特徴とする金属パネルへのナットとカラーの取付構造。
【請求項5】
前記ナットは、めねじを備えた本体の端面に内筒と外筒とを備え、これらの前記内筒と前記外筒との間に、板材が流入する凹部が形成されており、前記ナットと前記板材をかしめ固定する際に前記板材に形成された凹溝は、前記凹部の位置に形成されたものであることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の板材へのナットとカラーの取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板材へのナットとカラーの取付方法及び取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の技術分野においては、金属パネル等の板材に対して他の部材をボルトにより固定することが多い。このためには板材に貫通孔を形成し、また他の部材にも貫通孔を形成し、これらの貫通孔にボルトを挿通してナットを締め付け、固定することとなる。しかしこの構造では、板材の裏面でナットを回転させる必要が生じ、取り付け作業性が悪くなるという問題がある。
【0003】
このためこの技術分野においては、特許文献1に示されるようなウエルドナットが広く用いられている。ウエルドナットはナット本体の座面に溶接用の複数の突起を備えたナットであり、板材に溶接固定される。このため他の部材を取り付ける際にはウエルドナットにボルトをねじ込むだけでよく、一般的なナットのように板材の裏面でナットを回転させたり、回転しないように保持する必要がないため、取り付け作業性を向上させることができる。
【0004】
ところが使用場所によっては、ナットが取り付けられた板材と隣接する他部材との距離を確保する目的で、ナットの裏面側の板材に円筒状のカラーを取付けることがある。図4はその様子を示す断面図であり、1がナット、2が板材、3がカラーである。これらのナット1とカラー3は板材2の両面にそれぞれ溶接されている。
【0005】
しかしこのように板材2の同一箇所の表裏両面から溶接を行うと、溶接の熱影響で板材2に熱歪が発生しやすくなる。この熱歪の結果、板材2に溶接されているナット1の中心軸が板材2に対して直角にならず、その後のボルト締結や他部材の取り付けがスムーズに行えなくなることがあった。
【0006】
なお、ウエルドナットに替えて特許文献2に示されるようなピアスナットを用いることも考えられる。ピアスナットはめねじを備えた本体の端面に、内筒と外筒とを備え、金型を用いて金属パネルに打ち込まれるナットである。ピアスナットは、これらの内筒と外筒との間に形成された凹部に、金属を塑性流動させることによって板材2に強固に固定される。しかしその裏面にカラー3を溶接すると、やはり板材2に熱歪が発生するおそれがあるうえ、ピアスナットの凹部に流入した金属がカラー3を溶接する際の熱により軟化し、ピアスナットの空転トルクや剥離強度が低下するおそれがあった。また、板材2がアルミニウムである場合、カラー3を溶接で取り付けることができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−42519号公報
【特許文献2】特開2014−43883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、熱歪を発生させることなく、また板材の材質にかかわらず、板材の表裏両面にナットとカラーとを強固に取り付けることができる板材へのナットとカラーの取付方法及び取付構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明の板材へのナットとカラーの取付方法は、板材の一方の面にナットをかしめ固定し、前記かしめ固定の際に前記板材の他方の面に発生する凹溝に、カラーの端部の突起を圧入することにより、前記板材の両面に前記ナットと前記カラーをそれぞれ固定することを特徴とするものである。好ましい実施形態においては、金属パネルの一方の面にピアスナットをかしめ固定し、前記かしめ固定の際に前記金属パネルの他方の面に発生する環状凹溝に、カラーの端部の環状突起を圧入することにより、前記金属パネルの両面に前記ピアスナットと前記カラーをそれぞれ固定する。
【0010】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の板材へのナットとカラーの取付構造は、板材の一方の面にかしめ固定されたナットと、前記板材の他方の面に固定されたカラーとからなり、前記カラーは端部に突起を備えたものであり、前記ナットを前記かしめ固定する際に前記板材に形成された凹溝内に、前記突起が圧入されていることを特徴とする。
【0011】
好ましい実施形態においては、前記ナットは、めねじを備えた本体の端面に内筒と外筒とを備え、これらの前記内筒と前記外筒との間に、板材が流入する凹部が形成されており、前記ナットと前記板材をかしめ固定する際に前記板材に形成された凹溝は、前記凹部の位置に形成されたものである。また好ましい実施形態においては、金属パネルと、その一方の面にかしめ固定されたピアスナットと、前記金属パネルの他方の面に固定されたカラーとからなり、前記カラーは端部に環状突起を備えたものであり、前記環状突起が、前記ピアスナットをかしめ固定する際に前記金属パネルに形成された環状凹溝内に圧入されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、まず専用の金型を用いて板材の一方の面にナットをかしめ固定し、このかしめ固定の際に板材の反対面である他方の面に発生する凹溝に、カラーの端部の突起を圧入することにより、カラーを板材にかしめ固定する。このため溶接が不要であり、従来のように溶接熱によって板材に歪が発生するおそれがない。このため、板材に対してナットを直角方向に正しく取り付けることができる。しかも従来のように、溶接熱によってナットの空転トルクや剥離強度の低下が生ずるおそれもない等の大きい利点がある。また溶接を行わないので、板材がアルミニウムである場合にも、カラーを取り付けることができる。さらに、カラーの取り付けによりナットの取り付け強度を、ナット単独の場合よりも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態を示す断面図であり、かしめ前の状態を示す。
図2】ナットを板材にかしめた状態を示す断面図である。
図3】カラーを板材に圧入した状態を示す断面図である。
図4】従来技術を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図1図3を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
図1において、10は板材、11はこの板材10の一方の面にかしめ固定されるナットである。本実施形態では板材10は金属パネルであり、ナット11はピアスナットである。板材10は例えば自動車のインパネとダッシュボードとを締結する部分に用いられる鋼板製のブラケットの一部であるが、板材10の材質は鋼板に限定されるものではなく、アルミ材などの他の金属材であっても差し支えない。
【0015】
ナット11は中央にめねじ孔13を備え、ナット本体の座面側に内筒14と外筒15とを備え、これらの内筒14と外筒15との間に、かしめ時に板材10の金属を流入させるための凹部16が形成されている。本実施形態では内筒14と外筒15とはナットの軸に垂直な断面形状が円形であり、凹部16も円形の環状凹部である。しかしこれらの内筒14、外筒15、凹部16は断面が円形の形状に限定されるものではなく、四角形や六角形などの多角形であってもよく、U字形状であってもよい。内筒14の外周面は座面に向かってテーパ状に拡がった形状である。内筒14は外筒15よりも突出しており、その突出量は板材10の板厚程度であることが好ましい。
【0016】
ナット11は図示しない専用の金型を板材10の裏面に当てた状態で板材10に打ち込まれる。このとき、金型と内筒14とによって板材10が打ち抜かれるとともに、打ち抜かれた部分の周縁部の金属がナット10の凹部16の内部に塑性流動し、図2に示すようにナット11は板材10にかしめ固定される。
【0017】
また、金型によって板材10が図2のようにナット11の凹部16の内部に塑性流動するため、内筒14の周縁部の板材10に凹溝17が形成される。この凹溝17の外周面は、ピアスナット11の内筒14の外周面である。本実施形態では凹溝17は環状凹溝であり、その外周面はテーパ面である。
【0018】
この凹溝17を利用して、図3に示すように、板材10の反対面である他方の面からカラー18がかしめ固定される。カラー18は円筒状の本体の端部に突起19を備えたものであり、この突起19が前記した凹溝17内に圧入される。カラー18の突起19はピアスナット11の凹溝17内に塑性流動し、凹溝17の内部に充満する。このようにして、カラー18も金属パネル10に強固に固定される。またこれによりピアスナット11の取り付け強度も向上する。なお、本実施形態では凹溝17は環状凹溝であり、カラー18の突起19も環状突起である。しかし凹溝17と突起19の形状は環状に限定されるものではなく、さらに互いに別形状であってもよい。
【0019】
上記したように、本発明によれば、溶接を行うことなく、板材10の両面にナット11とカラー18とを強固に取り付けることができる。このため溶接熱による板材10の歪が発生することがなく、ナット11のめねじの中心軸を板材10に対して直角とすることができる。また、板材の材質が溶接が困難なアルミニウムであっても、カラー18を取り付けることができる。したがってナット11を利用した他の部材の取り付けに支障が生ずることがない。また、カラー18はナット11をかしめ固定する際に板材10の反対面に発生する凹溝17を利用してかしめられるので、カラー18の中心軸とナット11のめねじの中心軸を正確に一致させることができる。
【0020】
さらに、本発明によればナット11の取り付け強度が従来のように溶接熱によって低下しないだけではなく、カラー18のかしめによって板材10の凹溝17の内部に流入した部分を更に塑性変形させ、より強く密着させることができる。このためナット11を単独でかしめた場合よりも、ナット11の取り付け強度を更に高めることができる。
【0021】
上記した実施形態では、ナット11の内筒14の外周面をテーパ状としたが、内筒14の外周面を軸に平行としてもよい。また上記した実施形態では、凹部16の外筒15側の側面を軸に平行としたが、テーパ面とすることもできる。
【実施例】
【0022】
本発明の効果を確認するため、以下の試験を行った。
板厚が1.2mmの鋼板製のパネルに、専用の金型を用いて、直径が22mmのピアスナットをかしめた。このかしめにより、金属パネルの反対面に、外径14.6mm、幅1mmの環状凹溝が形成された。この環状凹溝を利用して、外径が20mm、内径が12.5mm、長さが15mmのカラーを取り付けた。カラーはその一方の端面に外径が14.6mm、幅が1mmの環状突起を持つものであり、この環状突起をプレス機によって上記した金属パネルの環状凹溝に圧入した。
【0023】
次に、ピアスナットの空転トルクを測定した。測定はトルクセンサを用い、ピアスナットが金属パネルから離脱して空転し始めるトルクを測定する方法で行った。なおいずれの測定もN=3である。その結果、ピアスナットの空転トルクの平均値は62・0(N・m)であり、このピアスナットに他の部材を取り付ける際のボルトの最大締め付けトルクである35(N・m)よりも十分に優れた値であることが確認された。このため、他の部材を取り付ける際にピアスナットが空転するおそれはない。
【0024】
次に、圧入されたカラーの剥離強度を測定した。測定は、カラーを引っ張り試験機でチャックして引っ張り、固定された金属パネルから剥離されるときの荷重を測定する方法で行った。その結果、金属パネルからのカラーの剥離強度の平均値は1.87(kN)であり、強固に固定されていることが確認された。
【0025】
以上に説明したように、本発明によれば、板材に溶接熱を加えることなく、ナットとカラーを強固に取り付けることができる。このため板材に熱歪が発生することがなく、ナットのめねじの軸線は板材に対して直角となる。また板材の材質がアルミ材であっても、カラーを支障なく取り付けることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 ウエルドナット
2 板材
3 カラー
10 板材
11 ナット
12 下孔
13 めねじ孔
14 内筒
15 外筒
16 凹部
17 凹溝
18 カラー
19 突起
図1
図2
図3
図4