特許第6732404号(P6732404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6732404繊維補強セメント複合材及びその製造方法
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  • 特許6732404-繊維補強セメント複合材及びその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6732404
(24)【登録日】2020年7月10日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】繊維補強セメント複合材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20200716BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20200716BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20200716BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20200716BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20200716BHJP
   C04B 24/24 20060101ALI20200716BHJP
【FI】
   C04B28/02
   B28C7/04
   C04B16/06 A
   C04B22/08 Z
   C04B24/06 A
   C04B24/24 B
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-260891(P2014-260891)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-121030(P2016-121030A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年10月27日
【審判番号】不服2019-2374(P2019-2374/J1)
【審判請求日】2019年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郭 度連
(72)【発明者】
【氏名】山中 俊幸
【合議体】
【審判長】 日比野 隆治
【審判官】 菊地 則義
【審判官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−139348(JP,A)
【文献】 特開平3−183650(JP,A)
【文献】 特開昭63−156053(JP,A)
【文献】 特開2007−63103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
B28C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、速硬性セメント混和材、スチレンブタジエン系ゴムラテックス、合成繊維、凝結遅延剤、通常モルタルやコンクリートに用いられる細骨材及び通常コンクリートに用いられる粗骨材を含有する繊維補強コンクリートであって、
前記合成繊維が、密度が1.0g/cm3未満のポリオレフィン繊維であり、前記スチレンブタジエン系ゴムラテックスの含有量が、セメント100質量部に対して固形分として10〜30質量部であることを特徴とする繊維補強コンクリート。
【請求項2】
前記合成繊維の繊維長が5〜30mm、繊維径が20〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の繊維補強コンクリート。
【請求項3】
記速硬性セメント混和材がカルシウムアルミネート類を主成分とする混和材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維補強コンクリート。
【請求項4】
繊維補強コンクリート中の前記合成繊維の容積率が0.3〜3.0容積%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の繊維補強コンクリート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の繊維補強コンクリートの製造方法であって、セメントと、速硬性セメント混和材と、スチレンブタジエン系ゴムラテックスと、合成繊維と、凝結遅延剤と、通常モルタルやコンクリートに用いられる細骨材と、通常コンクリートに用いられる粗骨材と、水とを配合し、配合された前記セメント、速硬性セメント混和材、スチレンブタジエン系ゴムラテックス、合成繊維、凝結遅延剤、細骨材及び粗骨材を混練することを特徴とする繊維補強コンクリートの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の繊維補強コンクリートの製造方法であって、セメントと、スチレンブタジエン系ゴムラテックスと、凝結遅延剤と、通常モルタルやコンクリートに用いられる細骨材と、通常コンクリートに用いられる粗骨材と、水とを配合し、配合された前記セメント、スチレンブタジエン系ゴムラテックス、凝結遅延剤、細骨材、粗骨材及び水を混練し、次に速硬性セメント混和材を加えて混練し、最後に合成繊維を加えて混練することを特徴とする繊維補強コンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維補強されたセメント複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
曲げ強度の向上、ひび割れに対する抵抗性の改善などを目的として、セメントペースト、モルタル或いはコンクリートに、繊維を添加して補強する手法が行われている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、より高い靱性を付与するために繊維の混入量を高めた場合、繊維を水硬性セメント組成物中に均一に分散することが難しくなる。このような場合、繊維の分散性や流動性をよくするために粉体量を増やして、増粘剤、減水剤、高性能AE減水剤等の有機混和剤を多量に添加する手法が行われるが、粉体量の増加や有機混和剤の多量の添加によって、流動性のよいスランプフロー状の水硬性セメント組成物が得られるものの、水硬性セメント組成物の粘性が高まり、ポンプ圧送性の低下や施工性の低下が問題となる。
【0004】
使用される繊維としては、無機繊維、合成繊維などが挙げられるが、合成繊維は高価であることから、モルタル、コンクリートへの活用は限定的なのが実状である。また、一般的に密度が小さい合成繊維は、繊維混入量を高めた場合、繊維のファイバーボールが生成しやすく、無機繊維に比べ均一分散性に課題がある。特に、比重が1.0に満たないポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維は水に浮くことから、さらに均一分散性が難しい。このため、ポリプロピレン繊維表面に樹脂を付着させ比重を1.01以上に増加させたり、カルボキシル変性ポリオレフィン系低分子量物で表面処理し十分な親水性を付与することによって分散性を高めたりする手法が提案されている(特許文献2、3)。ポリプロピレン繊維は合成繊維の中では比較的安価であることから、上記課題を解決する有効な手法ができれば、モルタル、コンクリートへの利用が促進されることが期待される。
【0005】
一方、コンクリート構造物の補修用途として速硬性が付与されたポリマーセメントモルタルが知られている。さらに、一般のモルタル、コンクリートと同様に、繊維を添加して初期ひび割れ抵抗性を向上させる手法が提案されている(特許文献4、5)。特許文献4における実施例においてはガラス繊維が使用されている。また、特許文献5における実施例においては、玄武岩繊維が使用されている。特許文献5においては、比較例として合成繊維が使用されているが、合成繊維(ビニロン繊維)を使用した場合、繊維混入率の増加に伴い、上記同様ファイバーボールの発生がみられ、均一分散ができなかったことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−310460号公報
【特許文献2】特開2001−253747号公報
【特許文献3】特開2000−34146号公報
【特許文献4】特開2011−16681号公報
【特許文献5】特開2008−50213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、速硬性を有し、かつ繊維で補強されたセメント複合材を検討するにあたり、合成繊維を用いた配合を鋭意検討した結果、ゴムラテックスと合成繊維を組み合わせた繊維補強セメント複合材の配合において、粘性が低く繊維の分散性が良好であり、ポンプ圧送性や施工性に優れた有スランプの繊維補強セメント複合材が経済的に得られるとの予想外の知見を得た。本発明は、係る知見に基づいてなされたものである。
【0008】
したがって、本発明は、速硬性を有し、かつポンプ圧送性や施工性に優れる繊維補強セメント複合材を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、上記繊維補強セメント複合材の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔7〕を提供するものである。
〔1〕セメント、速硬性セメント混和材、ゴムラテックス、合成繊維、凝結遅延剤及び骨材を含有する繊維補強セメント複合材。
〔2〕前記合成繊維がポリオレフィン繊維である〔1〕の繊維補強セメント複合材。
〔3〕前記ゴムラテックスがスチレンブタジエン系ゴムラテックスである〔1〕又は〔2〕の繊維補強セメント複合材。
〔4〕前記速硬性セメント混和材がカルシウムアルミネート類を主成分とする混和材である〔1〕〜〔3〕いずれかの繊維補強セメント複合材。
〔5〕繊維補強セメント複合材中の前記合成繊維の容積率が0.3〜3.0容積%である〔1〕〜〔4〕いずれかの繊維補強セメント複合材。
〔6〕〔1〕〜〔5〕いずれかの繊維補強セメント複合材の製造方法であって、セメントと、速硬性セメント混和材と、ゴムラテックスと、合成繊維と、凝結遅延剤と、骨材と、水とを配合し、配合された前記セメント、速硬性セメント混和材、ゴムラテックス、合成繊維、凝結遅延剤、骨材及び水を混練する繊維補強セメント複合材の製造方法。
〔7〕〔1〕〜〔5〕いずれかの繊維補強セメント複合材の製造方法であって、セメントと、ゴムラテックスと、凝結遅延剤と、骨材と、水とを配合し、配合された前記セメント、ゴムラテックス、凝結遅延剤、骨材及び水を混練し、次に速硬性セメント混和材を加えて混練し、最後に合成繊維を加えて混練する繊維補強セメント複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
速硬性を有し、かつポンプ圧送性や施工性に優れた、繊維補強セメント複合材が経済的に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】曲げタフネスの試験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態が、以下、説明される。
本発明はセメントと、速硬性セメント混和材と、ゴムラテックスと、合成繊維と、凝結遅延剤と、骨材とを含有してなる繊維補強セメント複合材である。
【0014】
本発明で用いられるセメントは、好ましくは、速硬性を有さない水硬性セメントである。速硬性を有さない水硬性セメントとは、混練開始から硬化までの時間が、例えば3時間を超えるものが挙げられる。例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントが挙げられる。前記ポルトランドセメントに、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム又は石灰石微粉末等が混合された各種の混合セメントが挙げられる。前記セメントの一種であっても、二種以上のものであっても良い。急硬成分を含有する急硬性セメントも速硬性を有さなければ、即ち、混練開始から硬化までの時間が3時間以内でなければ使用できる。但し、太平洋セメント社製「ジェットセメント」(商品名)や住友大阪セメント社製「ジェットセメント」(商品名)等の超速硬セメントは含まれない。
【0015】
本発明で用いられる速硬性セメント混和材は、セメントへ混和することによって、混和から硬化までの時間が3時間以内となる粉体(粉粒)状の材(例えば、急硬材)である。好ましくは、混和から硬化までの時間が10分以上である。
前記速硬性セメント混和材は、カルシウムアルミネート類を主成分とするものが特に好ましい。尚、カルシウムアルミネート類には、CaOをC、AlをA、NaOをN、FeをFで表示した場合、CA,CA,C12,C,CA,C又はCA等と表示される鉱物組成を有するカルシウムアルミネート、CAF,CAF等と表示されるカルシウムアルミノフェライト、カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶又は置換したC・CaFやC11A7・CaF等と表示されるカルシウムフロロアルミネートを含むカルシウムハロアルミネート、CNAやC等と表示されるカルシウムナトリウムアルミネート、カルシウムリチウムアルミネート、アウイン(3CaO・3Al・CaSO)等のカルシウムサルホアルミネート、アルミナセメント、並びにこれらにSiO,KO,Fe,TiO等が固溶又は化合したもの等が含まれる。
【0016】
速硬性セメント混和材には、上記のカルシウムアルミネート類以外に、硫酸塩、炭酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、カルシウム以外のアルミン酸塩等を併用して配合することができる。特に、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩が併用された場合、強度促進効果が高まることから好ましい。
【0017】
さらに、速硬性セメント混和材における上記以外の成分として、本発明の特長が損なわれない範囲で、各種添加材が併用されても良い。この種の添加材としては、例えば減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤等のセメント分散剤、速硬性を有してない水硬性セメント、強度促進材、再乳化粉末樹脂、発泡剤、起泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、増粘剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、消泡剤、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、石粉、シリカフューム、火山灰等が挙げられる。
【0018】
速硬性セメント混和材の配合量は、好ましくは、セメント100質量部に対して、10〜100質量部である。速硬性セメント混和材の配合量が10質量部未満では、満足できるような速硬性が得られない。逆に、100質量部を越えた場合、速硬性セメント混練物製造後から打設可能な時間が短くなる。速硬性セメント混和材の更に好ましい配合量は、セメント100質量部に対して、20〜70質量部であった。
【0019】
本発明で用いられるゴムラテックスとしては、天然ゴムラテックス、合成ゴムラテックスがある。合成ゴムラテックスとしては、例えば、クロロプレンゴ系、スチレンブタジエン系、アクリルニトリルブタジエン系、メタクリル酸メチルブタジエン系などが挙げられる。この中でモルタル又はコンクリートとの付着性の点から、特にスチレンブタジエン系ゴムラテックスが好ましい。なお、ゴムラテックスの使用形態としては、水溶液(エマルジョン)として添加されることが望ましい。
【0020】
ゴムラテックス(ゴムラテックスの固形分)の配合量は、好ましくは、前記セメント100質量部に対して、5〜30質量部である。配合量を5〜30質量部とすることによって、ゴムラテックスのボールベアリング効果が発揮し、密度の小さい合成繊維を効率良く分散させることができる。また、曲げ強度の増進やコンクリート等との付着性が良好な繊維補強セメント複合材が得られる。30質量部を超えると、強度発現性及び耐久性の低下がみられる。更に好ましくは、10質量部以上である。また更に好ましくは25質量部以下である。
【0021】
本発明で用いられる合成繊維としては、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維などが挙げられる。これらの中で、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維等のポリオレフィン繊維が好ましい。ポリオレフィン繊維の特徴としては、密度が1.0g/cm未満と小さく、また酸、アルカリに対する耐薬品性が強い。特に、ポリプロピレン繊維が好ましい。合成繊維の繊維長は、好ましくは、5〜30mmである。繊維長が5mm未満では満足できるような曲げ靱性(タフネス)が得られない。逆に、30mm以上では練混ぜ性能や施工性が悪くなる。更に好ましくは10〜20mmである。合成繊維の繊維径は、好ましくは、20〜100μmである。繊維径が20μm未満では満足できるような靱性が得られない。逆に、100μm以上では練混ぜ性能や繊維の分散性が悪くなる。更に好ましくは30〜70μmである。
【0022】
合成繊維の配合量は、繊維補強セメント複合材(合成繊維を除く)の全容積に対して、好ましく、0.3〜3.0容積%である。容積率が0.3容積%未満では、繊維補強による効果が得られず、逆に、3.0容積%を超えた場合は、ミキサによる混練では十分に均質な混練が行えず、品質のよい繊維補強セメント複合材が得られず、また経済的でもない。更に好ましくは、0.5〜2.0容積%である。
【0023】
本発明における凝結遅延剤は水硬性セメントの凝結に遅延作用を及ぼすものである。凝結遅延剤は、液状のもの、粉体状のものいずれでも構わないが、液状のものが好ましい。凝結遅延剤が液状のものを好ましいとしたのは、遅延効果が速やかに得られるからである。このような液状凝結遅延剤としては、例えばクエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸、又はその塩、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、リン酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等の無機塩、糖類などの群の中から選ばれる一種又は二種以上を含む液状(例えば、水溶液、エマルジョン、懸濁液の形態)のものが挙げられる。中でも、クエン酸、クエン酸塩、酒石酸、酒石酸塩、アルカリ金属炭酸塩の群の中から選ばれる一種又は二種以上を含む水溶液が用いられると、繊維補強セメント複合材の可使時間が長く、かつ、初期の強度発現が高いことから好ましい。
【0024】
凝結遅延剤の配合量は、繊維補強セメント複合材の可使時間や初期強度発現性の観点から、液状凝結遅延剤中の有効成分(固形分)が、繊維補強セメント複合材に配合されたセメントと速硬性セメント混和材との合計100質量部に対して、好ましくは、0.05〜2.0質量部である。繊維補強セメント複合材の可使時間は、速硬性セメント混和材を添加後、20分以上確保することが好ましい。更に好ましくは60分以上である。打設現場における温度や施工状況を考慮の上、適切な施工性が確保されるよう、可使時間が設定され、凝結遅延剤の配合量が決定される。
【0025】
本発明に用いられる骨材としては、通常モルタルやコンクリートに用いられる細骨材、粗骨材であれば特に制限されるものではない。例えば川砂、海砂、山砂、砕砂、人工細骨材、スラグ細骨材、再生細骨材、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、人工粗骨材、スラグ粗骨材、再生粗骨材などが挙げられる。これら骨材の中から一種又は二種以上が使用できる。
【0026】
本発明にあっては、前記以外の成分として、例えば減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤等のセメント分散剤が使用できる。しかしながら、ゴムラテックスを使用した場合、特にスチレンブタジエン系ゴムラテックスを使用した場合は、セメント分散剤を特に使用しなくても、粘性が低く、合成繊維が均質に分散された良好な繊維補強セメント複合材を得ることができる。
【0027】
さらに、本発明にあっては、前記成分の他にも、必要に応じて、或いは本発明の特長が損なわれない程度において、各種の紛体(粉末)状の混和材や骨材の群の中から選ばれる一種又は二種以上の成分が含まれていても良い。この種の混和材としては、増粘剤、膨張材、収縮低減剤、セメント用ポリマー(ゴムラテックス以外)、防水材、防錆剤、凍結防止剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、発泡剤、消泡剤、シリカフューム等のポゾラン微粉末、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末等の石粉、撥水剤、表面硬化剤等が挙げられる。
【0028】
本発明における繊維補強セメント複合材の製造方法としては、セメントと、速硬性セメント混和材と、ゴムラテックスと、合成繊維と、凝結調整剤と、骨材と、水とを配合し、配合された前記セメント、速硬性セメント混和材、ゴムラテックス、合成繊維、凝結調整剤、骨材及び水を混練する。好ましくは、合成繊維の分散性をよくするために、合成繊維を除く前記材料を配合し、これらを混練して混練物を作製した後、この混練物に合成繊維を加え、混練する製造方法である。更に好ましくは、速硬性セメント混和材及び合成繊維を除く前記材料を配合し、これらを混練して混練物を作製し、次に速硬性セメント混和材を加えて混練し、最後に合成繊維を加えて混練する製造方法である。
【0029】
繊維補強セメント複合材の混練方法としては、特に限定されないが、製造量や均質な混練性の観点から、ミキサを用いる方法が好ましい。ミキサとしては、連続式ミキサやバッチ式ミキサが用いられる。例えば、パン型コンクリートミキサ、パグミル型コンクリートミキサ、重力式コンクリートミキサ等が挙げられる。混練時間は30秒〜360秒が好ましい。
【0030】
また、ドラムの高速回転(5r.p.m.以上)ができるものであれば、トラックアジテータのドラム内でも混練することができる。この場合は、セメント、水、骨材からなるベースとなるモルタル、コンクリートを製造しドラム内に投入した後、繊維補強セメント複合材の打設現場にて、残りの材料がドラム内に投入、混練される。投入の順序としては、まず凝結遅延剤及びゴムラテックスをドラム内に投入し混練を行い、次に速硬性セメント混和材をドラム内に投入し混練を行い、最後に合成繊維をドラム内に投入し混練を行うことが好ましい。
【0031】
本発明における繊維補強セメント複合材及びその製造方法の特徴は、次のとおりである。
(1)粘性が低く、スランプを有する。
(2)密度の小さい合成繊維を短時間で効率良く分散させることができる。
(3)20分以上の可使時間を確保できる。
(4)3時間以内に強度発現が可能な速硬性を有する。
(5)圧縮強度に比べて曲げ強度が高く、曲げタフネスに優れる。
従って、本発明によれば、上記の特性を有する、ポンプ圧送性や施工性に優れた、繊維補強セメント複合材が経済的に得られる。
【0032】
以下、更に具体的な実施例が説明される。但し、本発明は以下の実施例によって限定されるものでは無い。
【0033】
<使用材料>
(1)セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製、密度;3.16g/cm
(2)速硬性セメント混和材:カルシウムアルミネート系急硬材(カルシウムアルミネート及び硫酸塩を含む、密度;2.93g/cm
(3)ゴムラテックス:スチレンブタジエン系ゴムラテックスエマルジョン(固形分45%、平均粒子径0.2μm、密度;1.00g/cm
(4)合成繊維:ポリプロピレン短繊維(萩原工業(株)社製「バルリンク」、密度;0.91g/cm、繊維径;43μm、繊維長12mm)
(5)凝結遅延剤:クエン酸系遅延剤、水溶液として添加
(6)細骨材:花崗岩砕砂(表乾密度2.58g/cm
(7)骨材:頁岩砕石(表乾密度2.76g/cm
(8)水:水道水
【0034】
<繊維補強セメント複合材の製造>
(実施例1)
上記材料を使用して、表1に示す配合にて、繊維の容積率が2.0%のモルタルタイプの繊維補強セメント複合材を作製した。まず速硬性セメント混和材及びポリプロピレン繊維以外の材料をコンクリートミキサに投入して60秒間混練し、その後、速硬性セメント混和材を投入して120秒、さらにポリプロピレン繊維を投入して120秒間混練し、繊維補強セメント複合材を得た。得られた繊維補強セメント複合材のスランプ(JIS A 1101に準拠)は15.5cm、空気量(JIS A 1128に準拠)は3.2%であった。得られた繊維補強セメント複合材は、有スランプでありながら粘性が低く、ふわふわさらさら感のあるモルタルであり、可使時間は1時間以上確保でき、ポンプ圧送性や施工性も良好であった。
また、この繊維補強セメント複合材の圧縮強度及び曲げ強度の試験(JIS R 5201に準拠)結果を表2に示した。さらに、材齢6時間の供試体を用いた曲げタフネスの試験(JSCE―G 552に準拠)結果を図1に示す。
短時間での圧縮強度の発現性及び高い曲げ強度を有し、かつ相当な曲げタフネスの向上効果および複数ひび割れの発生が確認された。
【0035】
(実施例2)
上記材料を使用して、表1に示す配合にて、繊維の容積率が0.5%のコンクリートタイプの繊維補強セメント複合材を作製した。まず、速硬性セメント混和材及びポリプロピレン繊維以外の材料をコンクリートミキサに投入して60秒間混練し、その後、速硬性セメント混和材を投入して120秒、さらにポリプロピレン繊維を投入して120秒間混練し、繊維補強セメント複合材を得た。得られた繊維補強セメント複合材のスランプ(JIS A 1101に準拠)は13.0cm、空気量(JIS A 1128に準拠)は2.5%であった。得られた繊維補強セメント複合材は、有スランプでありながら粘性が低く、可使時間は1時間以上確保でき、ポンプ圧送性や施工性が良好なコンクリートであった。
また、この繊維補強セメント複合材の圧縮強度(JIS A 1108に準拠)、曲げ強度(JIS A 1106に準拠)の試験結果を表2に示した。さらに、材齢6時間の供試体を用いた曲げタフネスの試験結果(JSCE―G 552に準拠)を図1に示す。
短時間での圧縮強度の発現性及び高い曲げ強度を有し、かつ曲げタフネスの向上効果が認められた。
【0036】
【表1】
表中の記号「W」、「C」、「S」、「G」、「L」、「F」、「R」は、それぞれ水、セメント、細骨材、粗骨材、ゴムラテックス、速硬性セメント混和材、凝結遅延剤を表す。
「W/C」は水とセメントの重量比を示し、「L/C」はゴムラテックス(固形分換算)とセメントの重量比を示す。「F/C」はセメントに対する速硬性セメント混和材の重量比を示す。「R/(F+C)」はセメントと速硬性セメント混和材の合計量に対する凝結遅延剤の重量比を示す。「繊維量」は、合成繊維を除く繊維補強セメント複合材の全容積に対する合成繊維の容積率を示す。
【0037】
【表2】
図1