(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
作動中に、1分当たり約1,500〜約2,500回転(rpm)のエンジン速度にて約1.5MPa(約15bar)よりも高い正味平均有効圧力レベルを発生する、直接噴射、給気、火花点火式内燃機関における低速早期点火(LSPI)の発生を防止または減じる方法であって、
該エンジンのクランクケースを潤滑油組成物で潤滑する工程を含み、潤滑油組成物は、潤滑油組成物の全質量を基準として少なくとも約0.2質量%のマグネシウム硫酸灰分を含む、方法。
前記エンジンが、約1,500〜約2,500(rpm)のエンジン速度にて、約2.0MPa(約20bar)よりも高い正味平均有効圧力レベルを発生する、請求項1記載の方法。
前記エンジンが、約1,500〜約2,000rpmのエンジン速度にて、約1.5MPa(約15bar)よりも高い正味平均有効圧力レベルを発生する、請求項1記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
火花点火式内燃機関における異常な燃焼の様々な形態に関して、ノッキング、極度のノッキング(extreme knock)(しばしばスーパーノッキングまたはメガノッキングとも呼ばれる)、表面点火、および早期点火(火花点火前に起こる点火)を含む、幾つかの用語が存在する。極度のノッキングは、従来のノッキングと同一の様式で起こるが、ノッキングの大きな振幅を有し、また伝統的なノッキングの制御法を用いて軽減することができる。LSPIは、通常低速および高負荷において起る。LSPIにおいて、初期の燃焼は比較的緩慢であり、また正常な燃焼に類似しており、次に燃焼速度における突然の増大を伴う。LSPIは、幾つかの他の型の異常燃焼とは異なって、制御しきれない現象ではない。LSPIの発生は予測困難であるが、事実上はしばしば周期的である。
低速早期点火(LSPI)は、直接噴射、給気(ターボチャージ処理またはスーパーチャージ処理された)、火花点火式(ガソリン)内燃機関において最も起り易く、該内燃機関は、その作動中、エンジン速度1分当たり約1,500〜約2,500回転(rpm)、例えばエンジン速度約1,500〜約2,000rpmにおいて、正味平均有効圧力レベル約1.5MPa(約15bar)(ピークトルク)よりも高い、例えば少なくとも約1.8MPa(約18bar)、特に少なくとも約2.0MPa(約20bar)を発生する。ここで使用するような正味平均有効圧力(BMEP)とは、エンジンのサイクル中に達成される仕事を、エンジンの総排気量で割ったものとして定義され、該エンジンのトルクは、エンジンの排気量により規格化される。用語「ブレーキ(brake)」とは、ダイナモメータで測定したような、エンジンのフライホイールにおいて利用可能な、実際のトルク/動力を意味する。即ち、BMEPは、該エンジンの有用な出力の一尺度である。
【0008】
LSPIの発生しやすいエンジンにおけるLSPIの発生は、このようなエンジンを、潤滑油組成物で潤滑することにより減じることができ、該潤滑油組成物は、該潤滑油組成物の全質量を基準として、マグネシウム硫酸灰分として表されたマグネシウムを、少なくとも約0.2質量%にて含む。
乗用車用モーターオイルとして使用するのに適した潤滑油組成物は、慣例的に多量の潤滑粘度を持つオイル、および少量の、灰分-含有洗浄剤を含む性能増強添加剤を含んでいる。都合の良いことに、マグネシウムは、本発明の実施に際して使用される該潤滑油組成物中に、1種またはそれ以上のマグネシウムを主成分とする洗浄剤、例えば1種またはそれ以上のスルホン酸マグネシウム洗浄剤、1種またはそれ以上のサリチル酸マグネシウム洗浄剤、またはこれらの混合物を通して導入される。好ましくは、このようなマグネシウムを主成分とする洗浄剤は、過塩基性マグネシウム洗浄剤である。
本発明の実施に際して使用するのに適した、潤滑油組成物の処方において有用な上記潤滑粘度を持つオイルは、その粘度の点で、軽質留分である鉱油から重質潤滑油、例えばガソリンエンジンオイル、無機潤滑油、およびヘビーデューティーディーゼルオイルまでの範囲であり得る。一般に、該オイルの粘度は、100℃にて測定して、約2mm
2/秒(センチストークス)〜約40mm
2/秒、特に約3mm
2/秒〜約20mm
2/秒、最も好ましくは約9mm
2/秒〜約17mm
2/秒の範囲にある。
天然オイルは、動物油および植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油);液状石油オイルおよび水素化精製された、溶媒-処理されたまたは酸-処理された、パラフィン系、ナフテン系および混合パラフィン-ナフテン型の無機オイルを含む。石炭またはシェール由来の潤滑粘度を持つオイルも、有用なベースオイルとして役立つ。
【0009】
合成潤滑油は、炭化水素油およびハロ-置換炭化水素油、例えば重合または共重合(interpolymerized)オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);およびアルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィドおよびこれらの誘導体、類似体および同族体を含む。
末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化等によって変性されているアルキレンオキサイドポリマーおよび共重合体並びにその誘導体も、公知の合成潤滑油のもう一つの群を構成する。これらは、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドの重合によって製造されるポリオキシアルキレンポリマー、およびポリオキシアルキレンポリマーのアルキルおよびアリールエーテル(例えば、分子量1,000を持つメチル-ポリイソプロピレングリコールエーテルまたは分子量1,000〜1,500を持つポリエチレングリコールのジフェニルエーテル);およびこれらのモノ-およびポリ-カルボン酸エステル、例えばテトラエチレングリコールのC
13オキソ酸ジエステル、酢酸エステル、および混合C
3-C
8脂肪酸エステルにより例示される。
【0010】
合成潤滑油のもう一つの適当な群はジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸およびアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマール酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と、様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのエステルを含む。このようなエステルの具体例は、ジブチルアジペート、ジ(2-エチルヘキシル)セバケート、ジ-n-ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸ダイマーの2-エチルヘキシルジエステル、および1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2-エチルヘキサン酸とを反応させることにより形成される複合エステルを含む。同様に有用なものは、ガス対液体法由来の、フィッシャー-トロプシュ(Fischer-Tropsch)合成された炭化水素由来の合成オイルであり、これらは通常ガス対液体または「GTL」ベースオイルと呼ばれている。
合成オイルとして有用なエステルは、またC
5〜C
12モノカルボン酸とポリオールおよびポリオールエステル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールおよびトリペンタエリスリトールとから製造されるものを含む。
【0011】
ケイ素を基本とするオイル、例えばポリアルキル-、ポリアリール-、ポリアルコキシ-、またはポリアリールオキシ-シリコーンオイルおよびシリケートオイルは、もう一つの有用な合成潤滑剤の群を含み、このようなオイルは、例えばテトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ-(2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(p-tert-ブチル-フェニル)シリケート、ヘキサ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサンおよびポリ(メチルフェニル)シロキサンを含む。その他の合成潤滑油は、リン-含有酸の液状エステル(例えば、リン酸トリクレシル、リン酸トリオクチル、デシルホスホン酸のジエチルエステル)およびポリマー系テトラヒドロフランを含む。
【0012】
上記潤滑粘度を持つオイルはグループI、グループII、グループIII、グループIVまたはグループVベースストックまたはこれらベースストックのベースオイルブレンドを含みうる。好ましくは、該潤滑粘度を持つオイルは、グループII、グループIII、グループIVまたはグループVベースストック、またはその混合物、またはグループIベースストックと、1種またはそれ以上のグループII、グループIII、グループIVまたはグループVベースストックとの混合物である。該ベースストックまたはベースストックブレンドは好ましくは、少なくとも65%、より好ましくは少なくとも75%、例えば少なくとも85%の飽和物含有率(saturate content)を持つ。好ましくは、該ベースストックまたはベースストックブレンドは、グループIIIまたはより高級なベースストックまたはその混合物、あるいはグループIIベースストックとグループIIIまたはより高級なベースストックとの混合物またはそれらの混合物である。最も好ましくは、該ベースストックまたはベースストックブレンドは、90%を超える飽和物含有率を持つ。好ましくは、該オイルまたはオイルブレンドは1質量%未満、好ましくは0.6質量%未満、最も好ましくは0.4質量%未満、例えば0.3質量%未満の硫黄含有率を持つであろう。グループIIIベースストックは、グループIベースストックに対して、摩耗信頼度(wear credit)を与えることが分かっている。従って、好ましい一態様においては、本発明の潤滑油組成物において使用する潤滑粘度を持つ該オイルの少なくとも30質量%、好ましくは少なくとも50質量%、より好ましくは少なくとも80質量%が、グループIIIベースストックである。
【0013】
好ましくは、ノアック(Noack)テスト(ASTM D5800)によって測定したような、上記オイルまたはオイルブレンドの揮発度は、30質量%に等しいかまたはそれ未満、例えば約25質量%未満、好ましくは20質量%に等しいかまたはそれ未満、より好ましくは15質量%に等しいかまたはそれ未満、最も好ましくは13質量%に等しいかまたはそれ未満である。好ましくは、該オイルまたはオイルブレンドの粘度指数(VI)は、少なくとも85、好ましくは少なくとも100、最も好ましくは約105〜140である。
本発明における上記ベースストックまたはベースオイルに関する定義は、「エンジンオイルのライセンスと認証システム(Engine Oil Licensing and Certification System)」と題する、アメリカ石油協会(American Petroleum Institute (API))の刊行物、インダストリーサービスズデパートメント、第14版、1996年12月、補遺I、1998年12月(Industry Services Department, Fourteenth Edition, December 1996, Addendum 1, December 1998)において見出されるものと同一である。該刊行物は、ベースストックを以下のように分類している:
【0014】
a) グループIベースストックは、90%未満の飽和物および/または0.03%を超える硫黄を含み、また以下の表1において指定したテスト法を利用して、80に等しいかまたはこれを超えかつ120未満の粘度指数を有している。
b) グループIIベースストックは、90%に等しいかまたはこれを超える飽和物および0.03%に等しいかまたはそれ未満の硫黄を含み、また以下の表1において指定したテスト法を利用して、80に等しいかまたはこれを超えかつ120未満の粘度指数を有している。
c) グループIIIベースストックは、90%に等しいかまたはこれを超える飽和物および0.03%に等しいかまたはそれ未満の硫黄を含み、また以下の表1において指定したテスト法を利用して、120に等しいかまたはこれを超える粘度指数を有している。
d) グループIVベースストックは、ポリα-オレフィン(PAO)である。
e) グループVベースストックは、グループI、II、III、またはIVに含まれないあらゆる他のベースストックを含む。
【0016】
金属-含有または灰分-形成性洗浄剤は、デポジットを減じまたは除去するための洗浄剤としておよび酸中和剤または防錆剤として、双方の機能を果たし、それにより磨耗および腐蝕を減じかつエンジン寿命を延長する。洗浄剤は、一般的に長い疎水性の尾部と共に極性ヘッドを含む。該極性ヘッドは、酸性有機化合物の金属塩を含む。該塩は、実質的に化学量論的な量の該金属を含み、この場合において、該塩は、通常正塩または中性塩として記載され、また0から150未満まで、例えば0〜約80または100の全塩基価、即ちTBN(ASTM D2896により測定し得るようなTBN)を持つ。多量の金属塩基を、過剰量の金属化合物(例えば、酸化物または水酸化物)と酸性ガス(例えば、二酸化炭素)とを反応させることにより組込むことができる。この得られる過塩基化された洗浄剤は、金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外層として、中和された洗浄剤を含む。このような過塩基化された洗浄剤は、150またはこれを超えるTBNを有し、また典型的に250〜450またはこれを超えるTBNを持つであろう。
使用し得る洗浄剤は金属、特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属、例えばバリウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、およびマグネシウムの油溶性で中性かつ過塩基性のスルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレート、およびナフテネートおよびその他の油溶性カルボキシレートを含む。最も一般的に使用される金属は、何れも潤滑剤において使用される洗浄剤中に存在し得るカルシウムおよびマグネシウム、およびカルシウムおよび/またはマグネシウムとナトリウムとの混合物である。過塩基性または中性またはその両者であれ、洗浄剤の組合せを使用し得る。
【0017】
スルホネートは、典型的にはアルキル置換芳香族炭化水素、例えば石油の分別から得られるもの、あるいは芳香族炭化水素のアルキル化により得られるもの等のスルホン化により得られるスルホン酸から製造することができる。これに含まれる例はベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ジフェニルまたはそのハロゲン誘導体、例えばクロロベンゼン、クロロトルエンおよびクロロナフタレンをアルキル化することによって得られるものである。該アルキル化は、触媒の存在下で、約3から70を超える炭素原子を持つアルキル化剤を用いて行うことができる。該アルカリールスルホネートは、通常、アルキル置換芳香族部分当たり、約9から約80までまたはこれを超え、好ましくは約16〜約60個の炭素原子を含む。
上記油溶性スルホネートまたはアルカリールスルホン酸は、上記金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、炭酸塩、カルボン酸塩、スルフィド、ハイドロスルフィド、硝酸塩、ホウ酸塩およびエーテルによって中和し得る。該金属化合物の量は、該最終的な生成物の所望のTBNを考慮して選択されるが、典型的には該化合物の量は、化学量論的に必要とされる値の、約100〜220質量%(好ましくは少なくとも125質量%)の範囲にある。
フェノールおよび硫化フェノールの金属塩は適当な金属化合物、例えば酸化物または水酸化物との反応により製造され、また中性または過塩基性生成物は、当分野において周知の方法によって得ることができる。硫化フェノールは、フェノールと、硫黄または硫黄-含有化合物、例えば硫化水素、モノハロゲン化硫黄または二ハロゲン化硫黄とを反応させて、一般的に2またはそれ以上のフェノールが硫黄-含有架橋によって架橋されている化合物の混合物である生成物を形成することにより製造できる。
【0018】
カルボン酸塩洗浄剤、例えばサリチレートは、芳香族カルボン酸と適当な金属化合物、例えば酸化物または水酸化物とを反応させることにより製造することができ、また中性または過塩基性生成物は、当分野において周知の方法により得ることができる。該芳香族カルボン酸の芳香族部分は、窒素および酸素等のヘテロ原子を含むことができる。好ましくは、該部分は炭素原子のみを含み、より好ましくは該部分は6個またはそれ以上の炭素原子を含み、例えばベンゼンが好ましい部分である。該芳香族カルボン酸は、1またはそれ以上の芳香族部分、例えば縮合またはアルキレン架橋を介して結合されたベンゼンリングを1つまたはそれ以上含むことができる。該カルボン酸部分は、該芳香族部分に直接または間接的に結合されていてもよい。好ましくは、該カルボン酸基は、該芳香族部分上の炭素原子、例えばベンゼンリング上の炭素原子に直接結合されている。より好ましくは、該芳香族部分は、第二の官能基、例えばヒドロキシル基またはスルホネート基をも含み、該第二の官能基は、該芳香族部分上の炭素原子に直接または間接的に結合し得る。
芳香族カルボン酸の好ましい例は、サリチル酸およびその硫化誘導体、例えばヒドロカルビル置換サリチル酸およびその誘導体である。例えば、ヒドロカルビル置換サリチル酸を硫化する方法は、当業者にとっては公知である。サリチル酸は、典型的に、フェノキシドのカルボキシル化、例えばコルベ-シュミット(Kolbe-Schmitt)法によって製造され、またその場合においては、一般に、通常希釈剤中で、カルボキシル化されていないフェノールとの混合物として得られるであろう。
【0019】
油溶性サリチル酸における好ましい置換基は、アルキル置換基である。アルキル-置換サリチル酸において、そのアルキル基は、有利には5〜100個、好ましくは9〜30個、特に14〜20個の炭素原子を含む。2個以上のアルキル基が存在する場合、該アルキル基全体における平均の炭素原子数は、十分な油溶性を保証するために、少なくとも9個であることが好ましい。
潤滑油組成物の配合において一般的に有用な洗浄剤は、例えば米国特許第6,153,565号;同第6,281,179号;同第6,429,178号;および同第6,429,178号に記載されているように、混合界面活性剤系、例えばフェネート/サリチレート、スルホネート/フェネート、スルホネート/サリチレート、スルホネート/フェネート/サリチレートを用いて形成される「ハイブリッド」洗浄剤をも含む。
本発明の潤滑油組成物は、該潤滑油組成物の全質量を基準として、少なくとも約0.2質量%のマグネシウム、例えば少なくとも約0.4質量%、または少なくとも約0.5質量%のマグネシウム硫酸灰分を含み、該マグネシウムは、1種またはそれ以上のマグネシウム洗浄剤、より好ましくは少なくとも1種またはそれ以上の過塩基性マグネシウム洗浄剤の使用を通して該潤滑油組成物に導入されることが好ましい。
【0020】
過塩基性洗浄剤(過塩基性マグネシウム洗浄剤および場合によりカルシウムおよび/またはナトリウム等の他の金属を主成分とする過塩基性洗浄剤を含む)は、約4〜約10mgKOH/g、好ましくは約5〜約8mgKOH/gのTBNを持つ潤滑油組成物をもたらす量で使用されることが好ましい。マグネシウム以外の金属を主成分とする過塩基性灰分-含有洗浄剤は、過塩基性洗浄剤によって与えられる該潤滑油組成物に係るTBNの60%以下、例えば50%以下または40%以下を与える量にて存在する。好ましくは、本発明の潤滑油組成物は、カルシウムを主成分とする過塩基性灰分-含有洗浄剤を、過塩基性洗浄剤によって該潤滑油組成物に与えられる上記全TBNの約40%以下をもたらす量にて含む。過塩基性マグネシウム洗浄剤の組合せ(例えば、過塩基性マグネシウムサリチレートおよび過塩基性マグネシウムスルホネート;または各々150を超える異なるTBNを持つ、2種またはそれ以上のマグネシウム洗浄剤)を使用することも可能である。好ましくは、該過塩基性マグネシウム洗浄剤は、少なくとも約200、例えば約200〜約500、好ましくは少なくとも約250、例えば約250〜約500、より好ましくは少なくとも約300、例えば約300〜約450のTBNを持ち、または平均してこのようなTBNを持つであろう。
【0021】
上記の必要とされる過塩基性マグネシウム洗浄剤に加えて、潤滑油組成物は、中性の金属-含有洗浄剤(150未満のTBNを持つ)を含むことができる。これら中性の金属を主成分とする洗浄剤は、マグネシウム塩またはその他のアルカリまたはアルカリ土類金属、例えばカルシウム塩であり得る。マグネシウム以外の金属を主成分とする過塩基性または中性洗浄剤を用いる場合、洗浄剤を通して該潤滑油組成物に導入される金属全量の内の、好ましくは少なくとも約30質量%、より好ましくは少なくとも約40質量%、特に少なくとも約50質量%がマグネシウムであろう。好ましくは、本発明の方法を実施する上で有用な潤滑油組成物は、該潤滑油組成物の全質量を基準として、0.4質量%未満、例えば0.3質量%未満または0.2質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満のカルシウム硫酸灰分含有率を持つであろう。
本発明の潤滑油組成物は、無灰(金属を含まない)洗浄剤、例えばUS-2005-0277559-A1において記載されている油溶性ヒドロカルビルフェノールアルデヒド縮合物等をも含むことができる。
好ましくは、洗浄剤は、全体として硫酸灰分(SASH)約0.35〜約1.0質量%、例えば約0.5〜約0.9質量%、より好ましくは約0.6〜約0.8質量%を含む上記潤滑油組成物をもたらす量にて使用される。
【0022】
ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩は、しばしば耐摩耗剤および酸化防止剤として使用される。その金属は、アルカリまたはアルカリ土類金属、またはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケルまたは銅であり得る。該亜鉛塩が、潤滑油において最も普通に使用され、その量は、該潤滑油組成物の全質量を基準として、0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜2質量%の範囲にある。これらは、公知の技術に従って、先ずジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を形成し、通常は1種またはそれ以上のアルコールまたはフェノールとP
2S
5とを反応させ、次いで亜鉛化合物でこの生成されるDDPAを中和することにより製造し得る。例えば、ジチオリン酸は、一級および二級アルコールの混合物を反応させることによって製造できる。あるいはまた、複数のジチオリン酸を製造することができ、ここでその一つに属するヒドロカルビル基は、その特性上、完全に二級であり、またその他方に属するヒドロカルビル基は、その特性上完全に一級である。該亜鉛塩を製造するためには、任意の塩基性または中性亜鉛化合物を使用することができるが、その酸化物、水酸化物および炭酸塩が最も一般的に使用されている。市販の添加剤は、該中和反応において過剰量の塩基性亜鉛化合物を使用しているために、しばしば過剰量の亜鉛を含んでいる。
好ましい該亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェートは、ジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であり、また以下の式によって表すことができる:
【0024】
ここで、RおよびR’は1〜18、好ましくは2〜12個の炭素原子を含み、またアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルカリールおよび脂環式基等の基を含む、同一または異なるヒドロカルビル基であり得る。RおよびR’基として特に好ましいものは、2〜8個の炭素原子を含むアルキル基である。従って、該基は、例えばエチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、アミル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、n-オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2-エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニル基であり得る。油溶性を獲得するために、該ジチオリン酸中の全炭素原子数(即ち、RおよびR’)は、一般に約5またはそれ以上であろう。従って、上記の亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート(ZDDP)は、亜鉛ジアルキルジチオホスフェートを含むことができる。本発明の潤滑油組成物は、約0.08質量%(800ppm)以下のリン含有率を持つ。好ましくは、本発明の実施に際して、許容されるその最大量近傍またはこれに等しい量で、好ましくはリンの最大許容量の100ppm以内のリン含有率をもたらす量にて、ZDDPを使用する。従って、本発明を実施する上で有用な潤滑油組成物は、好ましくはZDDPまたは他の亜鉛-リン化合物を、該潤滑油組成物の全質量を基準として、約0.05〜約0.08質量%のリン、例えば約0.06〜約0.08質量%のリン、好ましくは約0.07〜約0.08質量%のリンを導入する量にて含むであろう。
【0025】
酸化阻害剤または酸化防止剤は鉱油の使用中における劣化傾向を減じる。酸化性の劣化は、該潤滑剤におけるスラッジ、金属表面におけるワニス-様のデポジットにより、および粘度の増大により立証できる。このような酸化阻害剤はヒンダードフェノール、好ましくはC
5〜C
12アルキル側鎖を持つアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、カルシウムノニルフェノールスルフィド、油溶性フェネートおよび硫化フェネート、リン硫化または硫化炭化水素またはエステル、リン含有エステル、金属チオカーバメート、米国特許第4,867,890号に記載されているような油溶性銅化合物、およびモリブデン-含有化合物を含む。
構成窒素原子に直接結合している少なくとも2つの芳香族基を持つ芳香族アミンは、酸化防止性を得るために、高頻度で使用される化合物のもう一つの群を構成する。一つのアミン窒素に直接結合している少なくとも2つの芳香族基を持つ、典型的な油溶性芳香族アミンは、6〜16個の炭素原子を含む。これらのアミンは、2個を超える芳香族基を含むことができる。全体で少なくとも3個の芳香族基を含み、その内の2つの芳香族基が共有結合により、または原子または基(例えば、酸素または硫黄原子、または-CO-、-SO
2-またはアルキレン基)を通して結合しており、かつ2つが、一つのアミン窒素に直接結合している化合物も、構成窒素原子に直接結合している少なくとも2つの芳香族基を持つ芳香族アミンであると考えることができる。該芳香族リングは、典型的に、アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アシル、アシルアミノ、ヒドロキシ、およびニトロ基から選択される1個またはそれ以上の置換基によって置換されている。一つのアミン窒素に直接結合している少なくとも2つの芳香族基を持つ、任意のこのような油溶性芳香族アミンの量は、好ましくは0.4質量%を超えるべきではない。
【0026】
分散剤は、オイルに対して不溶性である、使用中の酸化に起因して生じる物質を懸濁状態に維持し、結果としてスラッジの凝集および沈殿、またはその金属部品上への堆積を防止する。本発明の潤滑油組成物は少なくとも1種の分散剤を含み、また複数の分散剤を含むことができる。該1種または複数の分散剤は、好ましくは窒素-含有分散剤であり、また好ましくは該潤滑油組成物に対して、全体として約0.08〜約0.19質量%、例えば約0.09〜約0.18質量%、最も好ましくは約0.09〜約0.16質量%の窒素分をもたらす。
本発明との関連において有用な分散剤は、潤滑油に添加される場合には、ガソリンおよびディーゼルエンジンにおいて使用する際にデポジットの形成を減じる上で効果的であることが知られている、一連の窒素-含有無灰(金属を含まない)分散剤を含み、また分散されるべき粒子と会合し得る官能基を持つ油溶性ポリマー系の長鎖主鎖を含む。典型的に、このような分散剤は、しばしば橋架け基を介して該ポリマー主鎖に結合したアミン、アミン-アルコールまたはアミド極性部分を持つ。該無灰分散剤は、例えば長鎖炭化水素-置換モノ-およびポリ-カルボン酸またはその無水物の油溶性塩、エステル、アミノエステル、アミド、イミドおよびオキサゾリン;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体;直接結合したポリアミン部分を持つ長鎖脂肪族炭化水素;および長鎖置換フェノールとホルムアルデヒドおよびポリアルキレンポリアミンとの縮合により形成されるマンニッヒ(Mannich)縮合生成物から選択することができる。
【0027】
一般に、各モノ-またはジ-カルボン酸-生成部分は、求核基(アミンまたはアミド)と反応するであろうし、また該ポリアルケニル-置換カルボン酸系アシル化剤における官能基の数は、最終的な分散剤における求核基の数を決定するであろう。
本発明に係る上記分散剤のポリアルケニル部分は、数平均分子量約700〜約3,000、好ましくは950〜3,000、例えば950〜2,800、より好ましくは約950〜2,500、および最も好ましくは約950〜約2,400を持つ。本発明の一態様において、該分散剤は、低分子量分散剤(例えば、数平均分子量約700〜1,100を持つもの)と、数平均分子量少なくとも約1,500、好ましくは1,800〜3,000、例えば2,000〜2,800、より好ましくは約2,100〜2,500、および最も好ましくは約2,150〜約2,400を持つ高分子量分散剤との組合せを含む。該分散剤の分子量は、一般に該ポリアルケニル部分の分子量によって表されている。というのは、該分散剤の正確な分子量範囲は、該分散剤を誘導するのに使用したポリマーの型、官能基の数、および使用した求核基の型を含む多数のパラメータに依存するからである。
上記高分子量分散剤が由来とする上記ポリアルケニル部分は、狭い分子量分布(MWD)を持つことが好ましく、該分子量分布は多分散性とも呼ばれ、重量平均分子量(Mw)対数平均分子量(Mn)の比によって決定される。具体的には、本発明の該分散剤が由来とするポリマーは、約1.5〜約2.0、好ましくは約1.5〜約1.9、最も好ましくは約1.6〜約1.8のMw/Mnを持つ。
【0028】
本発明に係る上記分散剤の形成において使用する適当な炭化水素またはポリマーは、ホモポリマー、共重合体(interpolymer)またはより低分子量の炭化水素を含む。一群のこのようなポリマーは、エチレンおよび/または式:H
2C=CHR
1を持つC
3〜C
28α-オレフィンの少なくとも一つからなるポリマーを含み、ここでR
1は1〜26個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖アルキル基であり、また該ポリマーは、炭素-炭素不飽和、好ましくは高い度合いの末端エテニリデン(ethenylidene)不飽和を含む。好ましくは、このようなポリマーは、エチレンと上記式のα-オレフィンの少なくとも1種との共重合体を含み、ここでR
1は炭素原子数1〜18のアルキル基、およびより好ましくは炭素原子数1〜8のアルキル基、および更に一層好ましくは炭素原子数1〜2のアルキル基である。従って、有用なα-オレフィンモノマーおよびコモノマーは、例えばプロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチルペンテン-1、デセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、およびこれらの混合物(例えば、プロピレンとブテン-1との混合物等)等を含む。このようなポリマーの例はプロピレンホモポリマー、ブテン-1ホモポリマー、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-ブテン-1コポリマー、プロピレン-ブテンコポリマー等であり、ここで該ポリマーは、少なくとも幾つかの末端および/または内部不飽和を含む。好ましいポリマーは、エチレンとプロピレンおよびエチレンとブテン-1の不飽和コポリマーである。本発明の該共重合体は、少量の、例えば0.5〜5モル%のC
4〜C
18非-共役ジオレフィンコモノマーを含むことができる。しかしながら、本発明のポリマーはα-オレフィンホモポリマー、α-オレフィンコモノマーの共重合体およびエチレンとα-オレフィンコモノマーとの共重合体のみを含むことが好ましい。本発明において使用する該ポリマーのエチレンのモル含有率は好ましくは0〜80%の範囲にあり、より好ましくは0〜60%の範囲にある。プロピレンおよび/またはブテン-1がエチレンと共にコモノマーとして使用される場合、このようなコポリマーのエチレン含有率は最も好ましくは15〜50%であるが、より高いまたはより低いエチレン含有率も存在し得る。
【0029】
これらのポリマーは、α-オレフィンモノマー、またはα-オレフィンモノマーの混合物、またはエチレンおよび少なくとも1種のC
3〜C
28α-オレフィンモノマーを含む混合物を、少なくとも1つのメタロセン(例えば、シクロペンタジエニル-遷移金属化合物)およびアルモキサン化合物を含む触媒系の存在下で重合することにより製造し得る。この方法を用いて、そのポリマー鎖の95%またはそれ以上が末端エテニリデン型の不飽和を有するポリマーを与えることができる。該末端エテニリデン型の不飽和を示すポリマー鎖の割合は、FTIR分光分析、滴定、またはC
13 NMRにより決定することができる。この後者の型の共重合体は、式:POLY-C(R
1)=CH
2によって特徴付けることができ、ここでR
1はC
1〜C
26アルキル、好ましくはC
1〜C
18アルキル、より好ましくはC
1〜C
8アルキル、および最も好ましくはC
1〜C
2アルキル(例えば、メチルまたはエチル)であり、POLYは該ポリマー鎖を表す。該R
1アルキル基の鎖長は、該重合において使用すべく選択されるコモノマーに応じて変動するであろう。該ポリマー鎖の少量は、末端エテニル、即ちビニル性不飽和を含むことができ、即ちPOLY-CH=CH
2であり、また該ポリマーの一部は、例えばPOLY-CH=CH(R
1)のように、内部モノ不飽和を含むことができ、ここでR
1は上で定義した通りである。これらの末端不飽和共重合体は、公知のメタロセン化学により製造でき、また米国特許第5,498,809号、同第5,663,130号、同第5,705,577号、同第5,814,715号、同第6,022,929号および同第6,030,930号に記載されているように製造することもできる。
【0030】
もう一つの有用な群のポリマーはイソブテン、スチレン等をカチオン重合することにより製造されるポリマーである。この群からの通常のポリマーは、ブテン含有率約35〜約75質量%、およびイソブテン含有率約30〜約60質量%を持つC
4精油所ストリームの、ルイス酸触媒、例えば三塩化アルミニウムまたは三フッ化ホウ素の存在下での重合により得られるポリイソブテンを含む。ポリ-n-ブテンを製造するための好ましいモノマー源は、ラフィネート(Raffinate) II等の石油供給流である。これらのフィードストックは、当分野において、例えば米国特許第4,952,739号等に記載されている。ポリイソブチレンは本発明の最も好ましい主鎖であり、その理由は、このものがブテン流からのカチオン重合(例えば、AlCl
3またはBF
3触媒を使用する)により容易に入手できるからである。このようなポリイソブチレンは、一般にその鎖に沿って配置された残留不飽和を、ポリマー鎖につきエチレン性二重結合約1個という量にて含んでいる。好ましい一態様は、純粋なイソブチレン流またはラフィネートIの流れから製造されたポリイソブチレンを、末端ビニリデンオレフィンを持つ反応性イソブチレンポリマーの製造のために使用する。好ましくは、高度に反応性のポリイソブチレン(HR-PIB)と呼ばれるこれらポリマーは、少なくとも65%、例えば70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも85%の末端ビニリデン含有率を持つ。このようなポリマーの製造は、例えば米国特許第4,152,499号において記載されている。HR-PIBは公知であり、またHR-PIBは、商品名グリソパル(Glissopal
TM)(バスフ(BASF)社から)およびウルトラビス(Ultravis
TM)(BP-アモコ(BP-Amoco)社から)として市場で入手できる。
【0031】
使用可能なポリイソブチレンポリマーは、一般に約700〜3,000の炭化水素鎖を基本とするものである。ポリイソブチレンの製法は公知である。ポリイソブチレンは、以下に説明するように、ハロゲン化(例えば、塩素化)、熱「エン(ene)」反応、または触媒(例えば、パーオキサイド)を用いるフリーラジカルグラフト化により官能化することができる。
上記炭化水素またはポリマー主鎖は、例えばカルボン酸生成部分(好ましくは酸または無水物部分)を用いて、該ポリマーまたは炭化水素鎖上の炭素-炭素不飽和サイトにおいて選択的に、あるいは上述の3つの方法の何れかまたは任意順序でのその組み合わせを利用して、鎖に沿ってランダムに官能化することができる。
ポリマー系炭化水素と不飽和カルボン酸、無水物またはエステルとを反応させる方法およびかかる化合物から誘導体を製造する方法は、米国特許第3,087,936号、同第3,172,892号、同第3,215,707号、同第3,231,587号、同第3,272,746号、同第3,275,554号、同第3,381,022号、同第3,442,808号、同第3,565,804号、同第3,912,764号、同第4,110,349号、同第4,234,435号、同第5,777,025号、同第5,891,953号;並びにEP 0 382 450 B1;CA-1,335,895およびGB-A-1,440,219に記載されている。該ポリマーまたは炭化水素は、例えばカルボン酸生成部分(好ましくは酸または無水物)を用いて官能化することができ、該官能化は、炭素-炭素不飽和(エチレン系またはオレフィン系不飽和とも呼ばれる)サイトにて、主に、ポリマーまたは炭化水素鎖上に、官能性部分または作用物質、即ち酸、無水物、エステル部分等の付加をもたらす条件の下で、ハロゲン支援官能化(例えば、塩素化)法または上記熱「エン(ene)」反応を利用して、該ポリマーまたは炭化水素を反応させることにより行われる。
【0032】
選択的官能化は、ポリマーまたは炭化水素の質量を基準として、塩素または臭素が約1〜8質量%、好ましくは3〜7質量%となるまで、上記不飽和α-オレフィンポリマーをハロゲン化、例えば塩素化または臭素化することにより達成され得る。このハロゲン化は、60〜250℃、好ましくは110〜160℃、例えば120〜140℃の温度にて、約0.5〜10、好ましくは1〜7時間に渡り、該ポリマーを介して塩素または臭素を通すことにより行われる。次に、該ハロゲン化ポリマーまたは炭化水素(以下主鎖という)を、温度100〜250℃、通常約180℃〜235℃にて約0.5〜10、例えば3〜8時間に渡り、該主鎖に必要な数の官能性部分を付加し得るに十分なモノ不飽和反応体、例えばモノ不飽和カルボン酸反応体と反応させる。この反応は、得られる該生成物が、該ハロゲン化された主鎖1モル当たり所定モル数の該モノ不飽和カルボン酸反応体を含むように行われる。あるいはまた、該主鎖および該モノ不飽和カルボン酸反応体を混合しかつ加熱し、さらに塩素を該高温物質に付加する。
塩素化は、通常出発オレフィンポリマーとモノ不飽和官能化反応体との反応性を増大するのに役立つが、これは、本発明における使用を意図した幾つかの該ポリマーまたは炭化水素、特に高い末端結合含有率および反応性を持つこれらの好ましいポリマーまたは炭化水素については必要とされない。従って、好ましくは該主鎖および該モノ不飽和官能性反応体、例えばカルボン酸反応体を高温にて接触させて、最初の熱「エン」反応を起こさせる。エン反応は公知である。
【0033】
上記炭化水素またはポリマー主鎖は、様々な方法により、該ポリマー鎖に沿って官能性部分をランダムに付加することにより官能化することができる。例えば、溶液または固体形状にある該ポリマーは、フリーラジカル開始剤の存在下で、上述のように、上記モノ不飽和カルボン酸反応体でグラフト化することができる。溶液内で行われる場合、該グラフト化は、約100〜260℃、好ましくは120〜240℃の範囲の高温にて起こる。好ましくは、フリーラジカルにより開始されるグラフト化は無機潤滑油溶液内で達成され、該潤滑油溶液は、該最初の全潤滑油溶液を基準として、例えば1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%のポリマーを含む。
使用し得る上記フリーラジカル開始剤はパーオキサイド、ヒドロパーオキサイド、およびアゾ化合物、好ましくは約100℃を超える沸点を持ち、かつ上記グラフト化温度範囲内で熱的に分解してフリーラジカルを与えるものである。これらフリーラジカル開始剤の代表例は、アゾブチロニトリル、2,5-ジメチルヘクス-3-エン-2,5-ビス-tert-ブチルパーオキサイドおよびジクメンパーオキサイドである。該開始剤を使用する場合、これは、典型的には、該反応混合物溶液の質量を基準として0.005%〜1質量%の量で使用される。典型的に、上述のモノ不飽和カルボン酸反応体物質およびフリーラジカル開始剤は、約1.0:1〜30:1、好ましくは3:1〜6:1の範囲の質量比にて使用される。該グラフト化は、不活性雰囲気内で、例えば窒素シール下で行うことが好ましい。この得られるグラフト化ポリマーは、このポリマー鎖に沿ってランダムに結合したカルボン酸(またはエステルまたは無水物)部分を持つことにより特徴付けられ、このことは、勿論、該ポリマー鎖の幾つかがグラフト化されずに残されているものと理解される。上述のフリーラジカルグラフト化は、本発明の他のポリマーおよび炭化水素に対して使用され得る。
【0034】
上記主鎖を官能化するのに使用される好ましい上記モノ不飽和反応体は、モノ-およびジ-カルボン酸物質、即ち酸、無水物、または酸エステル物質を含み、これらは(i) モノ不飽和C
4〜C
10ジカルボン酸、ここで(a) 該カルボキシル基はビシナル(vicinyl)(即ち、隣接炭素原子上に位置する)であり、および(b) 該隣接炭素原子の少なくとも一つ、好ましくは両者が該モノ不飽和の一部であり;(ii) 上記(i)の誘導体、例えば無水物または(i)のC
1〜C
5アルコール由来のモノ-またはジ-エステル;(iii) モノ不飽和C
3〜C
10モノカルボン酸、ここでその炭素-炭素二重結合は該カルボキシル基と共役であり、即ち構造:-C=C-CO-を持つものであり;および(iv) 上記(iii)の誘導体、例えば(iii)のC
1〜C
5アルコール由来のモノ-またはジ-エステルを含む。モノ不飽和カルボン酸物質(i)〜(iv)の混合物も使用可能である。該主鎖との反応に際して、該モノ不飽和カルボン酸反応体のモノ不飽和は飽和される。即ち、例えばマレイン酸無水物は主鎖-置換コハク酸無水物となり、またアクリル酸は主鎖-置換プロピオン酸となる。このようなモノ不飽和カルボン酸反応体の典型例はフマル酸、イタコン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、クロロマレイン酸、クロロマレイン酸無水物、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、およびこれらの低級アルキル(例えば、C
1〜C
4アルキル)酸エステル、例えばメチルマレエート、エチルフマレート、およびメチルフマレートである。
上記の必要とされる官能性を与えるために、上記モノ不飽和カルボン酸反応体、好ましくはマレイン酸無水物は、典型的に、ポリマーまたは炭化水素のモル数を基準として、ほぼ等モル量から約100質量%過剰、好ましくは5〜50質量%過剰の範囲の量で使用されるであろう。未反応の過剰なモノ不飽和カルボン酸反応体は、この最終的な分散剤生成物から、必要により、例えば通常は減圧下でのストリッピングにより除去されうる。
【0035】
上記官能化された油溶性ポリマー系炭化水素主鎖は、次に窒素-含有求核反応体、例えばアミン、アミノアルコール、アミドまたはこれらの混合物で誘導体化されて、対応する誘導体を形成する。アミン化合物が好ましい。官能化ポリマーを誘導体化するのに有用なアミン化合物は少なくとも1種のアミンを含み、また1種またはそれ以上の追加のアミンまたは他の反応性もしくは極性基を含むことができる。これらアミンはヒドロカルビルアミンであり得、または主としてヒドロカルビルアミンであり得、ここで該ヒドロカルビル基は他の基、例えばヒドロキシ基、アルコキシ基、アミド基、ニトリル、イミダゾリン基等を含む。特に有用なアミン化合物はモノ-およびポリ-アミン、例えば1分子当たり約1〜12、例えば3〜12、好ましくは3〜9、最も好ましくは約6〜約7個の窒素原子を持つ、全炭素原子数約2〜20、例えば2〜40(例えば、3〜20)のポリアルケンおよびポリオキシアルキレンポリアミンを含む。アミン化合物の混合物、例えばアルキレンジハライドとアンモニアとの反応により調製されるものを、有利に使用し得る。好ましいアミンは脂肪族飽和アミンであり、例えば1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、ポリエチレンアミン、例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、およびポリプロピレンアミン、例えば1,2-プロピレンジアミン、およびジ-(1,2-プロピレン)トリアミンを含む。PAMとして知られているこのようなポリアミン混合物は市販品として入手し得る。特に好ましいポリアミン混合物は、PAM製品からライトエンド(light ends)を蒸留することにより誘導される混合物である。「重質」PAMまたはHPAMとして知られている、生成する混合物も市場で入手し得る。PAMおよび/またはHPAM両者の特性および属性は、例えば米国特許第4,938,881号、同第4,927,551号、同第5,230,714号、同第5,241,003号、同第5,565,128号、同第5,756,431号、同第5,792,730号、および同第5,854,186号において記載されている。
【0036】
他の有用なアミン化合物は以下に列挙するものを含む:脂環式ジアミン、例えば1,4-ジ(アミノメチル)シクロヘキサンおよび複素環式窒素化合物、例えばイミダゾリン。もう一つの有用なアミン群は、米国特許第4,857,217号、同第4,956,107号、同第4,963,275号、および同第5,229,022号において開示されているようなポリアミドおよび関連アミドアミンである。同様に有用なものは、米国特許第4,102,798号、同第4,113,639号、同第4,116,876号、およびUK 989,409において記載されているようなトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TAM)である。デンドリマー、星状アミン、および櫛状構造を持つアミンも使用可能である。同様に、米国特許第5,053,152号において記載されているような、縮合アミンを使用することも可能である。上記官能化ポリマーを、例えば米国特許第4,234,435号および同第5,229,022号、並びにEP-A-208,560において記載されているような公知技術を利用して、該アミン化合物と反応させる。
好ましい分散剤組成物は、少なくとも1種のポリアルケニルコハク酸イミドを含むものであり、該イミドはポリアルケニル置換コハク酸無水物(例えば、PIBSA)とポリアミン(PAM)との反応生成物であり、該反応生成物はカップリング比約0.65〜約1.25、好ましくは約0.8〜約1.1、最も好ましくは約0.9〜約1を持つ。本開示との関連において、「カップリング比」とは、該PIBSAにおけるサクシニル基の数対該ポリアミン反応体中の一級アミノ基の数の比として定義され得る。
【0037】
高分子量無灰分散剤のもう一つの群は、マンニッヒ塩基縮合生成物を含む。一般に、これら生成物は、例えば米国特許第3,442,808号に記載されているように、約1モルの長鎖アルキル置換モノ-またはポリ-ヒドロキシベンゼンと、約1〜2.5モルのカルボニル化合物(例えば、ホルムアルデヒドおよびパラホルムアルデヒド)および約0.5〜2モルのポリアルキレンポリアミンとを縮合することにより製造される。このようなマンニッヒ塩基縮合生成物は、そのベンゼン基上の置換基として、メタロセン触媒を用いた重合によるポリマー生成物を含むことができ、あるいは米国特許第3,442,808号に記載されているものと同様な方法で、コハク酸無水物上で置換されたこのようなポリマーを含む化合物と反応させることができる。メタロセン触媒系を用いて合成された官能化および/または誘導体化されたオレフィンポリマーの例は、上に置いて特定された諸刊行物において記載されている。
本発明の分散剤は、好ましくは非ポリマー系(例えば、モノ-またはビス-コハク酸イミド)である。
本発明の分散剤、特に低分子量分散剤は、場合によりホウ素化することができる。このような分散剤は、一般的に米国特許第3,087,936号、同第3,254,025号、および同第5,430,105号において教示されているような従来の手段によってホウ素化することができる。該分散剤のホウ素化は、アシル窒素-含有分散剤を、アシル化窒素組成物の各モル当たり約0.1〜約20のホウ素原子比(atomic proportions)を与えるのに十分な量の、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、およびホウ酸のエステル等のホウ素化合物で処理することにより、容易に達成される。
【0038】
高度に反応性のポリイソブチレンから誘導された分散剤は、従来のポリイソブチレンから誘導された対応する分散剤に比べて、潤滑油組成物に摩耗信頼度を与えることが分かっている。この摩耗信頼度は、低レベルの灰分-含有耐摩耗剤、例えばZDDPを含む潤滑剤において特に重要である。即ち、好ましい一態様において、本発明の潤滑油組成物において使用する少なくとも1種の分散剤は、高度に反応性のポリイソブチレンから誘導される。
付随的な添加剤を、特定の性能要件を満たすことを可能とすべく、本発明の組成物に組込むことができる。本発明の潤滑油組成物に含めることのできる添加剤の例は、金属防蝕剤、粘度指数向上剤、防錆剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、消泡剤、耐摩耗剤および流動点降下剤である。これらの幾つかを、以下において更に詳細に論じる。
上記最終的なオイルの他の成分と相溶性である、摩擦調整剤および燃費向上剤(fuel economy agent)も含めることができる。このような物質の例は、高級脂肪酸のグリセリルモノエステル、例えばグリセリルモノオレエート;ジオールと長鎖ポリカルボン酸とのエステル、例えばダイマー化不飽和脂肪酸のブタンジオールエステル;オキサゾリン化合物;およびアルコキシル化アルキル-置換モノアミン、ジアミンおよびアルキルエーテルアミン、例えばエトキシル化タロウ(tallow)アミンおよびエトキシル化タロウエーテルアミンを含む。
【0039】
他の公知の摩擦調整剤は油溶性有機モリブデン化合物を含む。このような有機モリブデン摩擦調整剤も、潤滑油組成物に酸化防止性および耐摩耗信頼度(antiwear credits)を与える。このような油溶性有機モリブデン化合物の例はジチオカルバメート、ジチオホスフェート、ジチオホスフィネート、キサンテート、チオキサンテート、スルフィド等およびこれらの混合物を含む。特に好ましいものはモリブデンジチオカルバメート、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテートおよびアルキルチオキサンテートである。
更に、上記モリブデン化合物は酸性モリブデン化合物であってもよい。これら化合物は、ASTMテストD-664またはD-2896の滴定手順により測定されるように、塩基性窒素化合物と反応し、また典型的には6価である。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、およびその他のアルカリ金属のモリブデン酸塩および他のモリブデン塩、例えばモリブデン酸水素ナトリウム(hydrogen sodium molybdate)、MoOCl
4、MoO
2Br
2、Mo
2O
3Cl
6、三酸化モリブデンまたは同様な酸性モリブデン化合物が含まれる。
本発明の組成物において有用な上記モリブデン化合物に含まれるものは、以下の式の有機モリブデン化合物である:
Mo(ROCS
2)
4およびMo(RSCS
2)
4
ここで、Rはアルキル、アリール、アラルキルおよびアルコキシアルキルからなる群から選択される有機基であり、これらの基は、一般に炭素原子数1〜30、および好ましくは炭素原子数2〜12を持つものであり、最も好ましくは炭素原子数2〜12のアルキル基である。特に好ましいものはモリブデンのジアルキルジチオカルバメートである。
【0040】
本発明の潤滑組成物において有用なもう一つの群の有機モリブデン化合物は、三核モリブデン化合物、とりわけ式:Mo
3S
kL
nQ
zのものおよびこれ等の混合物であり、ここでLは、独立に選択される、該化合物を上記オイルに対して溶解性または分散性にするのに十分な数の炭素原子を持つ有機基を有するリガンドであり、nは1〜4であり、kは4〜7で変動し、Qは中性電子供与性化合物の群、例えば水、アミン、アルコール、ホスフィンおよびエーテルのような化合物から選択され、またzは0〜5の範囲にあり、また非化学量論的な値を含む。少なくとも21個の全炭素原子、例えば少なくとも25個、少なくとも30個、または少なくとも35個の炭素原子が、該リガンドの有機基全ての中に存在すべきである。
本発明の方法を実施する上で有用な潤滑油組成物は、約10〜約1,000ppm、例えば30〜約750ppm、または40〜約500ppmのモリブデン(モリブデン原子として測定して)を含むことが好ましい。
上記ベースストックの粘度指数は、粘度調整剤(VM)または粘度指数向上剤(VII)として機能する幾つかのポリマー系物質を、該ベースストックに組込むことにより高められ、または改善される。一般に、粘度調整剤として有用なポリマー系物質は、約5,000〜約250,000、好ましくは約15,000〜約200,000、より好ましくは約20,000〜約150,000の数平均分子量(Mn)を持つポリマー系物質である。これら粘度調整剤は、例えばマレイン酸無水物等のグラフト物質でグラフト化することができ、また該グラフト化物質を、例えばアミン、アミド、窒素-含有複素環式化合物またはアルコールと反応させて、多官能性の粘度調整剤(分散剤-粘度調整剤)を形成することができる。ポリマーの分子量、特に
は様々な公知の技術により決定することができる。便利な一方法は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法であり、これは付随的に分子量分布に関する情報を与える(W. W. Yau, J. J. KirklandおよびD. D. Bly,「現代のサイズ排除液体クロマトグラフィー(Modern Size Exclusion Liquid Chromatography)」, ジョンウイリー&サンズ(John Wiley and Sons)社, ニューヨーク(New York), 1979を参照のこと)。分子量、特に低分子量ポリマーに関する分子量のもう一つの有用な測定法は、蒸気圧オスモメトリー(例えば、ASTM D3592を参照のこと)である。
【0041】
粘度調整剤として有用な一群のジブロックコポリマーは、例えばオレフィンコポリマー系の粘度調整剤に比べて、摩耗信頼度を与えることが見いだされた。この摩耗信頼度は、低レベルの灰分-含有耐摩耗剤、例えばZDDPを含有する潤滑剤において特に重要である。即ち、好ましい一態様において、本発明の潤滑油組成物において使用される少なくとも1種の粘度調整剤は、主として、好ましくは専らビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導される一つのブロック、および主として、好ましくは専らジエンモノマーから誘導される一つのブロックを含む線状ジブロックコポリマーである。有用なビニル芳香族炭化水素モノマーは、8〜約16個の炭素原子を含むもの、例えばアリール-置換スチレン、アルコキシ-置換スチレン、ビニルナフタレン、アルキル-置換ビニルナフタレン等を含む。ジエン、またはジオレフィンは、一般的に1,3関係にて共役状態で位置している2つの二重結合を含む。3以上の二重結合を含むオレフィンはしばしばポリエンと呼ばれ、該オレフィンも本発明において使用されるような「ジエン」の定義内に入るものと考えられる。有用なジエンは4〜約12個の炭素原子、好ましくは8〜約16個の炭素原子を含むジエン、例えば1,3-ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、メチルペンタジエン、フェニルブタジエン、3,4-ジメチル-1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエンを含み、1,3-ブタジエンおよびイソプレンが好ましい。
【0042】
本明細書においてポリマーブロック組成との関連で使用されるような、「専ら」とは、該当するポリマーブロックにおける主成分である、指定されたモノマーまたはモノマー型が、該ブロックの少なくとも85質量%の量で存在することを意味する。
ジオレフィンを使用して製造されるポリマーは、エチレン系不飽和を含むであろうし、またこのようなポリマーは水素化されることが好ましい。該ポリマーが水素化される場合、該水素化は、従来技術において公知の任意の技術を利用して達成され得る。例えば、該水素化は、エチレン性および芳香族性不飽和両者が、例えば米国特許第3,113,986号および同第3,700,633号において教示されているもの等の方法を用いて転化(飽和)されるように達成することができ、あるいは該水素化は、該エチレン性不飽和のかなりの部分が転化され、一方で例えば米国特許第3,634,595号、同第3,670,054号、同第3,700,633号およびRe 27,145において教示されているように、芳香族性不飽和が殆どまたは全く転化されないように、選択的に達成することができる。また、これら方法の何れもエチレン性不飽和のみを含み、かつ芳香族性不飽和を含まないポリマーを水素化するのに使用することも可能である。
【0043】
上記ブロックコポリマーは、種々の分子量および/または種々のビニル芳香族含有率を持つ上述のような線状ジブロックポリマーの混合物、並びに種々の分子量および/または種々のビニル芳香族含有率を持つ線状ブロックコポリマーの混合物を含むことができる。2種またはそれ以上の異なるポリマーの上記使用は、調合されたエンジンオイルを製造するのに使用した際に、該生成物が付与すべく意図されているレオロジー特性に応じて、単一のポリマーにとって好ましい可能性がある。市場で入手できるスチレン/水添イソプレン線状ジブロックコポリマーの例は、インフィニウム(Infineum) USA L.P.およびインフィニウム(Infineum) UK Ltd.から入手できるインフィニウムSV140(Infineum SV140
TM)、インフィニウムSV150(Infineum SV150
TM)およびインフィニウムSV160 (Infineum SV160
TM);ザラブリゾルコーポレーション(The Lubrizol Corporation)から入手し得るラブリゾル(Lubrizol(登録商標)) 7318;およびセプトンカンパニーオブアメリカ(Septon Company of America)(クラレグループ(Kuraray Group))から入手できるセプトン1001(Septon 1001
TM)およびセプトン1020(Septon 1020
TM)を包含する。適当なスチレン/1,3-ブタジエン水添ブロックコポリマーは、バスフ(BASF)社によりグリッソビスカル(Glissoviscal
TM)なる商品名の下に市販されている。
潤滑油(lube oil)フロー向上剤(LOFI)としても知られている流動点降下剤(PPD)は、温度を低下する。VMと比較して、LOFIは、一般的に低い数平均分子量を有している。VMと同様に、LOFIは、グラフト化物質、例えばマレイン酸無水物等を用いてグラフト化することができ、またこのグラフト化物質を、例えばアミン、アミド、窒素-含有複素環式化合物またはアルコールと反応させて、多官能性添加剤を形成することができる。
【0044】
本発明においては、上記ブレンドの粘度の安定性を維持する添加剤を含めることが必要となる可能性がある。即ち、極性基-含有添加剤は、上記ブレンド前の段階において首尾よく低粘度を達成するが、幾つかの組成物の粘度は、該組成物を長期間に渡り保存した場合に増大することが観測されている。この粘度増加の調節において効果的な添加剤は、上に記載した如き無灰分散剤の製造において使用される、モノ-またはジ-カルボン酸または無水物との反応により官能化された長鎖炭化水素を含む。もう一つの好ましい態様において、本発明の潤滑油組成物は、有効量のモノ-またはジ-カルボン酸または無水物との反応により官能化された長鎖炭化水素を含む。
潤滑組成物が1種またはそれ以上の上述の添加剤を含む場合、各添加剤は、典型的に、該添加剤がその所定の機能を与えることのできる量にて、上記ベースオイル中にブレンドされる。クランクケース用潤滑剤において使用する場合、このような添加剤の典型的な有効量を以下に掲載する。掲載された全ての値(洗浄剤の値を除く)は、活性成分(A.I.)の質量%として述べられている。
【0046】
好ましくは、完全に調製された潤滑油組成物(潤滑粘度を持つオイル+あらゆる添加剤)のノアック揮発度は、20質量%以下、例えば15質量%以下、好ましくは13質量%以下であろう。本発明の実施に際して有用な潤滑油組成物は、全体としての硫酸灰分含有率約0.3〜約1.2質量%、例えば約0.4〜約1.1質量%、好ましくは約0.5〜約1.0質量%を持つことができる。
必須ではないが、添加剤を含む1またはそれ以上の添加剤濃厚物(濃厚物は、しばしば添加剤パッケージと呼ばれる)を調製し、それにより数種の添加剤を該オイルに同時に添加して、上記潤滑油組成物を形成することが望ましいことであり得る。
この最終的な組成物では5〜25質量%、好ましくは5〜22質量%、典型的には10〜20質量%の該濃厚物を使用することができ、その残部は潤滑粘度を持つオイルである。
本発明は、以下の実施例を参照することにより更に理解されよう。該実施例において、全ての部は、特に述べない限り質量部であり、また該実施例は本発明の好ましい態様を含む。
【実施例】
【0047】
以下の実施例において、LSPIの発生に係るデータは、ターボチャージ処理された、直接噴射式のGMエコテック(Ecotec) 2.0L、4気筒エンジンを用いて得た。該エンジンの給気レベルは、エンジン速度約2,000rpmにおいて、正味平均有効圧力レベル約2.3MPa(約23bar)を発生するように修正された。各サイクル(1サイクルは2ピストンサイクル(アップ/ダウン、アップ/ダウン)に対して、クランク角度分解能0.5°においてデータを集めた。該データの後処理は、燃焼メトリックス(combustion metrics)の計算、操作パラメータが目標範囲内にあることの検証、およびLSPI事象の検出(以下に概説する統計的手順)を含んでいた。上記データから、潜在的なLSPIの発生である異常値を集めた。各LSPIサイクルに対して、記録されたデータは、ピーク圧力(PP)、MFB02(燃焼質量分率(mass fraction burned)2%におけるクランク角度)並びに他の質量分率(10%、50%および90%)、サイクル数およびエンジンシリンダ(engine cylinder)を含んでいた。1サイクルが、燃料のMFB02に対応するクランク角度およびシリンダーPPの何れかまたは両者が異常値である場合に、LSPI事象を持つものと確認された。異常値は、該事象が生じている、特定のシリンダーおよびテストセグメントの分布に対して決定された。「異常値」の決定は、各セグメントおよびシリンダーに関するPPおよびMFB02の平均および標準偏差の計算;および該平均からの標準偏差nを超えるパラメータを持つサイクルの計算を含む、反復的工程であった。異常値を決定するための限界値として使用される該標準偏差の数値nは、該テストにおけるサイクル数の関数であり、また異常値に関するグラブス(Grubbs’)テストを用いて計算された。異常値は各分布の重度のテイル(severe tail)において確認された。即ち、nが異常値に関するグラブステストから得た標準偏差数である場合、PPに関する異常値は、ピーク圧の平均+標準偏差nを超えるものとして同定される。同様に、MFB02に関する異常値は、MFB02の平均値よりも標準偏差n未満低いものとして同定された(an outlier for MFB02 was identified as one being lower than the mean less n standard deviations of MFB02)。データを更に検討して、これらの異常値が、電気的センサの誤差による幾つかの他の異常燃焼事象ではなく、むしろLSPIの発生を示していることを確実なものとした。
【0048】
一つのLSPI「事象」は、前後両者において3つの「正常な」サイクルが存在するものであると考えられた。ここではこの方法を使用したが、このことは本発明の一部ではない。他のものによって行われた研究は、各個々のサイクルが多重サイクル事象の一部であるか否かで、各サイクルを計数している。LSPI事象に係る本発明の定義は、
図1に示されており、そこにおいて参照番号1は単一のLSPI事象を表しているが、その理由は各事象が3つの正常な事象によって先行されておらず、しかもこれら3つの正常な事象を伴っていないことにあり、2は3つの正常な事象を表し、また3は第二のLSPI事象を表す。該LSPIのトリガーレベル(trigger level)は4によって表されている。
GF-4規格を満足する典型的な乗用車用モーターオイルに相当する、一連の5W-30グレードの潤滑油組成物を製造した。これら組成物は、典型的なかつ同等な型および量のベースストック、分散剤、無灰酸化防止剤、ZDDP、無灰摩擦調整剤およびその他の性能添加剤、および様々な量の200TBNスルホン酸カルシウム洗浄剤または400TBNスルホン酸マグネシウム洗浄剤の何れかを含んでいた。これら組成物各々の、該洗浄剤の型/量(希釈オイルを含む全体、A.I.ではない)、金属含有率(硫酸灰分として報告されている)およびリン含有率を、以下において表2に示す。
【0049】
【0050】
上記のターボチャージ処理された直接噴射式のGMエコテック2.0L、4気筒エンジンを用いて、2セットの25,000サイクルセグメントを含む4時間エンジンテストを、上で特定した潤滑油組成物各々を使用して実施した。ここで、該テストにおいて、該エンジンは約2.3MPa(約23bar)/2,000rpmにて作動され、この作動は、2つの25,000サイクルセグメントからなる一組によって隔てられており、また該サイクルセグメントにおいて、該エンジンは約1.4MPa(約14bar)/1,400rpmにて作動された。各テストに対して、該エンジンが約2.3MPa(約23bar)/2,000rpmにて作動された該2つのセグメント間に集められたデータを解析して、LSPI発生の頻度を決定した。これら結果を
図1(実施例1〜5)および
図2(実施例6〜10)に示す。
図1および
図2にプロットされた結果によって示されているように、LSPI事象は、極めて低レベルのカルシウム硫酸灰分を持つ潤滑油組成物についてさえ検出され、また該LSPI事象の発生は、該潤滑油中の該カルシウム硫酸灰分のレベルが増大するにつれて着実に増大した。対照的に、マグネシウム硫酸灰分を含有する潤滑油組成物の使用は、LSPI事象の発生を効果的に改善することが分かった。
【0051】
ここに記載の全ての特許、論文およびその他の資料の開示事項全体を、ここにおいて参考として本明細書に組入れるものとする。複数の規定された成分を「含む」ものとして説明された組成物は、該複数の規定された成分を混合することにより形成される組成物を包含するものと解釈されるべきである。本発明の原理、好ましい態様および実施形態は、上述の明細書において説明された。本出願人が提出したものは、該出願人の発明であるが、これは開示された特定の態様に限定されるものと解釈すべきではない。というのは、これらの開示された態様は、限定ではなく寧ろ例示と見做されるべきであるからである。当業者は、本発明の精神を逸脱することなしに、様々な変更を行うことができる。