(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一の電極および前記第二の電極の誘電体層の比誘電率がそれぞれ2〜10000であり、前記第一の電極および前記第二の電極の誘電体層の厚さがそれぞれ0.3〜10mmである、請求項1に記載のフィラー分散液の製造方法。
前記電界処理の前および後の少なくとも一方で、前記混合液にバリア放電処理を施し、前記バリア放電処理に用いる第三の電極および第四の電極の間に、第三の電極と離間し、かつ第四の電極と絶縁体を介して接するように、金属板が設けられている、請求項1または2に記載のフィラー分散液の製造方法。
前記第一の電極および前記第二の電極の誘電体層の比誘電率がそれぞれ2〜10000であり、前記第一の電極および前記第二の電極の誘電体層の厚さがそれぞれ0.3〜10mmである、請求項4に記載のフィラー分散液の製造装置。
前記電界処理の前および後の少なくとも一方で、前記混合液にバリア放電処理を施すための第三の電極および第四の電極と、該第三の電極および第四の電極の間に、第三の電極と離間し、かつ第四の電極と絶縁体を介して接する金属板とが設けられている、請求項4または5に記載のフィラー分散液の製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(フィラー分散液)
本発明のフィラー分散液は、フィラーが分散媒に分散されたものであり、例えば、樹脂材料と混合して塗料、導電性ペースト、強化材料、P型半導体的な極性を利用した半導体素材、燃料電池、探針、ナノピンセット、高感度ガスセンサー、ナノ光ディスク等とし、用いられるものである。
【0012】
<フィラー>
フィラーは、フィラー分散液の用途に応じて決定でき、例えば、有機フィラーや無機フィラーが挙げられる。
有機フィラーとしては、例えば、CNTs(多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)など)等の繊維状物質;炭素粒子(カーボンブラック(CB)など)、有機顔料等の粒状物質などが挙げられる。
無機フィラーとしては、例えば、金属粒子(Al粒子、Ni粒子、Cu粒子など)、無機顔料等の粒状物質などが挙げられる。
これらの中でも、有機フィラー、特にCNTsにおいて、本発明の効果が顕著である。
【0013】
フィラーの大きさは、フィラー分散液の用途に応じて決定できる。例えば、フィラーがCNTsの場合、CNTsの大きさは、直径30〜100nm、長さ10〜30μmが好ましい。なお、CNTsの直径及び長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定される値である。
また、フィラーがCBの場合、CBの大きさは、平均粒子径10nm〜300nmが好ましい。フィラーが金属粒子の場合、金属粒子の大きさは、10〜300nmが好ましい。なお、粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定される値である。
【0014】
フィラー分散液中のフィラーの含有量は、フィラーの種類やフィラー分散液の用途に応じて決定でき、例えば、10μg〜10mg/mLとされる。
【0015】
<分散媒>
分散媒は、フィラー分散液の用途に応じて決定でき、例えば、水、有機溶剤、水と有機溶剤との混合液が挙げられ、中でも、有機溶剤がより好ましい。有機溶剤であれば、フィラー分散液を樹脂材料と混合する場合、フィラー分散液と樹脂材料との相溶性が高まり、フィラーを樹脂材料中に均一に分散できる。
【0016】
有機溶剤としては、例えば、エタノール、ヘキサノール、1−オクタノール、2−オクタノール等のアルコール;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アジピン酸ジエチル等のジカルボン酸エステル;Nメチル2ピロリドン等のラクタム構造を有する化合物;ヘキサン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シリコーン油等の油脂類などが挙げられる。
これらの中でも、フィラーの分散安定性がより向上し、フィラーの安定した分散状態をより良好に維持できる点で、エタノール、ヘキサノール、1−オクタノール、2−オクタノール等のアルコールが好ましい。
有機溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
加えて、分散媒は、比抵抗5×10
7Ω・cm以上であるものが好ましく、比抵抗5×10
8Ω・cm以上であるものがより好ましく、比抵抗6×10
8Ω・cm以上であるものがさらに好ましい。比抵抗が5×10
7Ω・cm以上であれば、後述するバリア放電処理にて安定した放電が得られ、フィラーをより短時間で均一に分散媒に分散できる。
また、分散媒は、絶縁耐力30kV/2.5mm以上のものが好ましく、絶縁耐力45kV/2.5mm以上のものがより好ましく、絶縁耐力50kV/2.5mm以上のものがさらに好ましい。絶縁耐力が30kV/2.5mm以上であれば、後述するバリア放電処理にて安定した放電が得られ、フィラーをより短時間で均一に分散媒に分散できる。
このような分散媒としては、2−オクタノール(比抵抗:6.35×10
8Ω・cm、絶縁耐力:49kV/2.5mm)、2−エチル1−ヘキサノール(比抵抗:7.3×10
9Ω・cm、絶縁耐力:54kV/2.5mm)、アジピン酸ジエチル(比抵抗:1.7×10
9Ω・cm、絶縁耐力:51kV/2.5mm)、シリコーン油等が挙げられる。
【0018】
比抵抗は、一対の平行平板電極(一方の平板電極をガード電極付きとしたもの、電極面積S:5%よりよい精度で抵抗測定できるもの、ギャップ長d:0.75〜5mm)に、電解強度(E)1200V/mmで印加して電流I−電圧V特性を常温(25℃)条件下で測定し、下記(1)式により求めた値である。
比抵抗ρ(Ω・cm)=(S/d)×(V/I) ・・・(1)
【0019】
絶縁耐力は、標準球ギャップ(球−球ギャップ、球直径:12.5mm、ギャップ長2.5mm)を用い、60Hz(交流電圧)、常温(25℃)条件下で測定される値である。
【0020】
(フィラー分散液の製造方法)
本発明のフィラー分散液の製造方法は、フィラーと分散媒とを含む混合液に電界を印加して電界処理を施すものである。
ここで、本発明のフィラー分散液の製造装置の一例について、
図1を用いて説明する。
図1に示す製造装置1は、電界手段10とバッファー槽20とを備え、電界手段10とバッファー槽20とは、ポンプ42を備える第一の配管44と、第二の配管46とで接続されている。
【0021】
この例の電界手段10は、反応槽11を備え、反応槽11内には、平板状の第一の電極12と、平板状の第二の電極13とが対をなして上下に設置されている。第一の電極12と第二の電極13とは、図示略の電源と接続されている。
反応槽11は、分散媒とフィラーとを貯留できるものであればよく、例えば、ガラス製、塩化ビニル等の樹脂製の容器、内面が絶縁体で被覆された容器、これらの容器に攪拌機を備えるもの等が挙げられる。
【0022】
第一の電極12は、電極本体12aと誘電体層12bの2層構造となっている。
第二の電極13は、電極本体13aと誘電体層13bの2層構造となっている。
第一の電極12と第二の電極13とは、各誘電体層12b,13bが対向するように離間して反応槽11内に設置されており、第一の電極12と第二の電極13との間に混合液が貯留されたり通過したりできるようになっている。
【0023】
第一の電極12の電極本体12aの材質としては、例えば、銀(融点:962℃)、銅(融点:1083℃)、ステンレス鋼(融点:1083℃)、白金(融点:1769℃)、タングステン(融点:3382℃)、鉄(融点:1539℃)、クロム(融点:1900℃)などが挙げられる。これらの中でも、電極への加工性に優れる点から、銀、銅が好ましい。
第一の電極12の電極本体12aの厚さは、0.005〜0.5mmが好ましく、0.01〜0.1mmがより好ましい。
【0024】
第一の電極12の誘電体層12bの材質としては、例えば、チタン酸バリウム、石英、ガラス、セラミック等の磁器、ポリオレフィン、ポリエステル、エポキシ樹脂、ガラスエポキシ樹脂、FRP、ベークライト(商品名)等のフェノール樹脂、ポリスチレン等の高分子材料などが挙げられる。これらの中でも、誘電率の点から、チタン酸バリウムが好ましい。
第一の電極12の誘電体層12bの比誘電率は、2〜10000が好ましく、2000〜6000がより好ましい。比誘電率が2未満であると十分な電界をかけにくくなり、10000を超えると絶縁破壊が起こることがある。
第一の電極12の誘電体層12bの厚さは、0.3〜10mmが好ましく、2〜5mmがより好ましい。厚さが、0.3mm未満であると絶縁破壊が起こることがあり、10mmを超えると十分な電界をかけるために非常に高い電圧の印加が必要となる。
【0025】
なお、比誘電率は、JIS C2138:2007に記載の方法で測定される値または素材メーカーの公称値である。
【0026】
第二の電極13の電極本体12aの材質や厚さ、および誘電体層13bの材質、比誘電率、厚さは、第一の電極12と同様である。
第一の電極12と第二の電極13との距離は、1〜100mmが好ましく、20〜40mmがより好ましい。第一の電極12と第二の電極13との距離が、1mm未満であると絶縁破壊が起こることがあり、100mmを超えると十分な電界をかけるために非常に高い電圧の印加が必要となる。
【0027】
バッファー槽20は、分散媒とフィラーとを貯留できるものであり、電圧が印加される反応槽11と絶縁が保たれていれば絶縁体でも導電体でもよく、例えば、ガラス製、樹脂製の容器、内面が絶縁体で被覆された容器、これらの容器に攪拌機を備えるもの等が挙げられ、中でも攪拌機を備える容器が好ましい。
【0028】
次に、製造装置1を用いたフィラー分散液の製造方法について説明する。
まず、バッファー槽20にフィラーと分散媒を投入した後、混合して混合液とする。混合液中では、フィラーの大部分が、相互の吸着力により凝集した凝集塊として存在している。
次いで、ポンプ42を起動する。ポンプ42を起動すると、バッファー槽20内の混合液は、第一の配管44と、電界手段10の反応槽11と、第二の配管46と、バッファー槽20との順に循環する。反応槽11内の混合液の量は、第一の電極12の誘電体層12bおよび第二の電極13の誘電体層13bの表面が混合液に接する量とされる。なお、反応槽11内の気体は、必要に応じて不活性ガスで置換しておいてもよい。
【0029】
混合液を循環させつつ、第一の電極12と第二の電極13とに電圧を印加する。電圧を印加すると、第一の電極12と第二の電極13との間に電界が発生する。この発生した電界中に混合液を通過させることで、電界中に混合液が曝され、フィラーが個々に解離して分散媒中に分散する。
印加電圧の種類は、直流電圧、交流電圧、インパルス電圧が使用でき、交流電圧が好ましい。
電圧は、0.5〜120kVが好ましく、20〜50kVがより好ましい。
周波数は、50Hz以上が好ましく、60Hzがより好ましい。
電界強度は、0.1〜10MV/mが好ましく、1〜5MV/mがより好ましい。
【0030】
任意の時間、混合液を循環させつつ、第一の電極12と第二の電極13とに電圧を印加した後、ポンプ42を停止し、第一の電極12および第二の電極13への電圧の印加を停止する。こうして、個々のフィラーが分散媒中に分散したフィラー分散液を得ることができる。
【0031】
(作用効果)
上述したように、誘電体層が対向するように離間して設置された、第一の電極と第二の電極との間に発生する電界中にフィラーと分散媒とを含む混合液を曝して電界処理を施すことで、フィラーが良好に分散されたフィラー分散液を短時間で得ることができる。加えて、電界処理は、高せん断分散機に比べて小さなエネルギーで、フィラーを分散媒に分散することができる。
【0032】
電界処理によりフィラーが良好に分散する理由は定かではないが、以下のように推測される。
混合液に電界処理を施すことで、フィラーの表面に極性基が形成され、分散媒に対する分散安定性が高まると考えられる。特に、極性を有する分散媒(アルコールなど)を用いれば、分散安定性がより向上する。
また、混合液と接する面に誘電体層が設けられている電極を用いて電界処理することで、混合液のゼータ電位が上昇しやすくなる。その結果、コロイド状態のフィラーのゼータ電位も上昇し、フィラー同士の斥力がファンデルワールス力を上回り、フィラー同士が凝集しにくくなり、分散媒中で個々のフィラーが独立して分散した状態を維持できると考えられる。
【0033】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、電界手段とバッファー槽とを混合液が循環する製造装置を用いているが、本発明はこれに限定されず、製造装置は、バッファー槽を設けず、バッチ式のものとしてもよい。ただし、バッチ式の場合は、電界手段の反応槽として攪拌機を備える容器を用い、混合液を攪拌しながら電界処理することが好ましい。
また、例えば、混合液が流通する流通配管内に、複数の電極対を並列に配置し、この複数の電極対の電極間に混合液を順次流通させるインライン式の分散装置を用いてもよい。
【0034】
また、電界処理に加えて、後述するバリア放電処理を併用してもよい。バリア放電処理を併用する場合、例えば
図2に示すフィラー分散液の製造装置を用いて、以下のようにして行う。
図2に示す製造装置2は、2つの電界手段10と、その間に設置された放電手段30とを備え、電界手段10と放電手段30とは、ポンプ52を備える第三の配管54と、第四の配管56と、第五の配管58とで並列に接続されている。
電界手段10は、
図1に示す電界手段10と同様である。
なお、
図2において、
図1と同じ構成要素には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0035】
この例の放電手段30は、
図3に示すように、中空円柱状の絶縁体31aと、絶縁体31aの両端に立設された壁部31bとで構成された反応槽31を、長手方向が水平となるように備える。絶縁体31aの周面には、針状の第三の電極32が支持され、第三の電極32の先端32aが反応槽31内に位置している。絶縁体31aの第三の電極32に対向する位置の周面の外側には平板状の第四の電極33が設けられ、第三の電極32と第四の電極33とは、図示略の電源と接続されている。また、絶縁体31aの第三の電極32に対向する位置の周面の内側には金属板(孤立金属板)34が載置され、孤立金属板34の面は絶縁体31aを介して第四の電極33の面と対向している。
以上の構成により、放電手段30は、第三の電極32と第四の電極33との間(電極間)に絶縁体31aが配置される共に、孤立金属板34が、第三の電極32と離間し、かつ絶縁体31aを介して第四の電極33と接するように設けられたものとされている。
【0036】
絶縁体31aおよび壁部31bの材質としては、絶縁性を有するものであればよく、例えば、石英、ガラス、セラミック等の磁器、ポリオレフィン、ポリエステル、エポキシ樹脂、ガラスエポキシ樹脂、FRP等の樹脂、ベークライト(商品名)等のフェノール樹脂、ポリスチレン等の高分子材料、あるいはこれら絶縁性材料で表面が被覆された金属などが挙げられる。
【0037】
第三の電極32および第四の電極33の材質は、それぞれ第一の電極12の電極本体12aと同様である。特に、第三の電極32の消耗を低減する観点から、第三の電極32の材質としては、例えば、タングステン、ステンレス鋼等の高融点の素材が好ましい。また、炭素も第三の電極32として用いることができる。本稿において「高融点」とは、融点が1000℃以上であることを示す。
孤立金属板34は、絶縁体31aに接合されていない導電性の金属板であり、例えば、ステンレス鋼、銅、鉄、クロム、アルミニウム等が挙げられる。
【0038】
次に、製造装置2を用いたフィラー分散液の製造方法について説明する。
まず、フィラーと分散媒とを混合して混合液を調製しておく。混合液中では、フィラーの大部分が、相互の吸着力により凝集した凝集塊として存在している。
次いで、第三の配管54内に混合液を注入し、ポンプ52を起動する。ポンプ52を起動すると、混合液は、第三の配管54と、電界手段10の反応槽11と、第四の配管56と、放電手段30の反応槽31と、第五の配管58と、電界手段10の反応槽11と、第三の配管54との順に循環する。
電界手段10の反応槽11内の混合液の量は、第一の電極12の誘電体層および第二の電極13の誘電体層の表面が混合液に接する量とされる。
放電手段30の反応槽31内の混合液の量は、第三の電極32の先端32aが混合液に浸かる量とされる。
なお、電界手段10の反応槽11および放電手段30の反応槽31内の気体は、必要に応じて不活性ガスで置換しておいてもよい。
【0039】
混合液を循環させつつ、電界手段10では、第一の電極12と第二の電極13とに電圧を印加する。電圧を印加すると、第一の電極12と第二の電極13との間に電界が発生する。この発生した電界中に混合液を通過させることで、電界中に混合液が曝され、フィラーが個々に解離して分散媒中に分散する。
【0040】
一方、放電手段30では、第三の電極32と第四の電極とに電圧を印加する。電圧を印加すると、反応槽31内にバリア放電が発生し、この発生したバリア放電中に混合液を通過させることで、フィラーがさらに解離して分散媒中により分散する。
ここで、バリア放電とは、電極間に絶縁物を挿入し、電圧を印加した際に、電極間にストリーマと呼ばれる過渡的な微細放電柱がランダムに形成される現象である。なお、印加電圧の種類は、直流電圧、交流電圧、インパルス電圧が使用でき、好ましくは周波数50Hz以上、より好ましくは60Hzの交流電流である。
【0041】
任意の時間、混合液を循環させつつ、各電極に電圧を印加した後、ポンプ52を停止し、各電極への電圧の印加を停止する。こうして、個々のフィラーが分散媒中により分散したフィラー分散液を得ることができる。
【0042】
このように、電界処理とバリア放電処理とを併用することで、フィラーをより短時間で分散でき、しかも安定した分散状態をより良好に維持できる。
バリア放電処理の併用によりフィラーの分散安定性がより高まる理由は定かではないが、以下のように推測される。
まず、バリア放電により生じた衝撃波が、フィラーの凝集塊に機械的な応力を与え、フィラーを個々に解離させる。例えば、フィラーがCNTsである場合、CNTsの凝集塊は、絡まりあった個々のCNTsが解きほぐされ、短繊維状のCNTsとなる。そして、短繊維状のCNTsは、吸着した単極性電荷によりCNTs間に静電反発力が生じ、分散媒中で個々のCNTsが独立して分散した状態を維持する。
加えて、分散媒は、バリア放電により部分的に破壊され、任意の分子又はイオン等の分解物を生じる。例えば、分散媒にアルコールを用いた場合、アルコールは、バリア放電により分解されて、CH
X等の分解物を生じる。このバリア放電により生じた分解物がフィラーに吸着することで、分散媒に対するフィラーの親和性が高まり、良好な分散状態が得られると考えられる。
【0043】
さらに、バリア放電処理において、第三の電極と第四の電極との間に孤立金属板を介在させることで、バリア放電をより安定させ、より短時間でフィラーを分散媒に分散できる。電極間に孤立金属板を介在させる効果は、次のように推測される。第三の電極と第四の電極とに電圧を印加すると、第三の電極から第四の電極に向かうストリーマが形成されると共に、第四の電極と孤立金属板とは、任意の容量を持ったコンデンサーを形成する。そして、ストリーマが、第三の電極から孤立金属板に接近する時、ストリーマの先端の電荷極性と反対極性の電荷が、静電誘導効果によって孤立金属板内に誘導される。そして、孤立金属板内部の電荷は、ストリーマの先端を引き付けるクーロン力を有することとなり、孤立金属板とストリーマの先端との間の電界は、異極性電荷の存在により強化されることとなる。この異極性電荷の存在する電界により、ストリーマは、より強くかつ安定したものとなる。強くかつ安定したストリーマが得られることで、フィラーへの衝撃が強くなり、短時間でフィラーを分散できると考えられる。
【0044】
なお、
図3に示す放電手段30は、第三の電極32が針状とされているが、本発明はこれに限定されず、第三の電極32が線状、メッシュ状、刃型状であってもよい。
また、
図3に示す放電手段30は、反応槽31内に孤立金属板34を設けているが、本発明はこれに限定されず、孤立金属板34が設けられていなくてもよい。ただし、より短時間でフィラーを分散する観点からは、反応槽31内に孤立金属板34を設けることが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
(混合液の調製)
フィラーとして直径30〜199μm、長さ10〜30μmのマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNTs)と、分散媒として2−エチル−1−ヘキサノールとを混合し、MWCNTs濃度が150μg/mLの混合液を得た。
【0047】
(フィラー分散液の製造)
図2に示す製造装置2を用い、第三の配管54内に混合液を注入し、ポンプ52を起動させ、第三の配管54と、以下に示す仕様の電界手段10の反応槽11と、第四の配管56と、以下に示す仕様の放電手段30の反応槽31と、第五の配管58と、以下に示す仕様の電界手段10の反応槽11と、第三の配管54との順に混合液を60分間循環させた。
電界手段10の反応槽11内の混合液の量は、第一の電極12の誘電体層および第二の電極13の誘電体層の表面が混合液に接する量とした。
放電手段30の反応槽31内の混合液の量は、第三の電極32の先端32aが混合液に浸かる量とした。
【0048】
混合液を循環させつつ、電界手段10では、第一の電極12と第二の電極13とに電圧23kV、周波数60Hz、電界強度1MV/mの交流電圧を印加し、第一の電極12と第二の電極13との間に発生する電界中に混合液を通過させて電界処理を行った。一方、放電手段30では、第三の電極32と第四の電極とに電圧23kV、周波数60Hzの交流電圧を印加し、放電手段30の反応槽31内に発生したバリア放電中に混合液を通過させてバリア放電処理を行った。
60分間混合液を循環させつつ、各電極に電圧を印加した後、ポンプ52を停止し、各電極への電圧の印加を停止し、フィラー分散液を得た。
【0049】
得られたフィラー分散液を7日間放置した。放置後の分散状態を目視にて確認した。
また、フィラー分散液を7日間放置し、1日毎にヘーズメータを用いて透過率を測定した。結果を
図4に示す。
また、電界処理およびバリア放電処理を施した後のMWCNTsの走査型電子顕微鏡写真を
図5(a)に示す。
また、フィラー分散液を、臭化カリウムを固めたペレット上に滴下し、加熱乾燥させて乾燥試料とし、この乾燥試料をフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR、FT−720、株式会社堀場製作所製)により赤外分光スペクトルを測定した。FTIRによる測定結果を
図6に示す。
【0050】
<電界手段の仕様>
図1に示す電界手段10を用いた。
反応槽11としては、塩化ビニル製の容器を用いた。
第一の電極12および第二の電極13としては、チタン酸バリウムプレート(30mm×70mm、厚さ3mm、比誘電率4500)に、乾燥膜厚が0.1mmとなるように導電性銀ペーストを塗布し、乾燥させたものを用いた。なお、チタン酸バリウムプレートの比誘電率は、素材メーカーの公証値である。
図1に示すように、第一の電極12と第二の電極13とを、各チタン酸バリウムプレートが対向するように、25mm離間して反応槽11内に設置した。
【0051】
<放電手段の仕様>
図3に示す放電手段30を用いた。
反応槽31としては、中空円柱状のガラス製の絶縁体31aと、絶縁体31aの両端に立設されたガラス製の壁部31bとで構成された容器を用いた。
第三の電極32としては、タングステン製のニードル電極(直径0.5mm、先端径0.1mm)を用いた。
第四の電極33としては、ステンレスプレート電極(15mm×30mm)を用いた。
孤立金属板34としては、ステンレス鋼(厚さ10mm)を用いた。
第三の電極32の先端32aと孤立金属板34との距離を5mmとした。
【0052】
[実施例2]
バリア放電処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてフィラー分散液を製造した。
得られたフィラー分散液を7日間放置した。放置後の分散状態を目視にて確認した。
また、フィラー分散液を7日間放置し、1日毎にヘーズメータを用いて透過率を測定した。結果を
図4に示す。
また、電界処理を施した後のMWCNTsの走査型電子顕微鏡写真を
図5(b)に示す。
また、フィラー分散液を、臭化カリウムを固めたペレット上に滴下し、加熱乾燥させて乾燥試料とし、この乾燥試料をフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR、FT−720、株式会社堀場製作所製)により赤外分光スペクトルを測定した。FTIRによる測定結果を
図6に示す。
【0053】
[比較例1]
電界処理後およびバリア放電処理を施す前の混合液の分散状態を目視にて確認した。
また、混合液を7日間放置し、1日毎にヘーズメータを用いて透過率を測定した。結果を
図4に示す。
また、電界処理およびバリア放電処理を施す前のMWCNTsの走査型電子顕微鏡写真を
図5(
c)に示す。
また、混合液を、臭化カリウムを固めたペレット上に滴下し、加熱乾燥させて乾燥試料とし、この乾燥試料をフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR、FT−720、株式会社堀場製作所製)により赤外分光スペクトルを測定した。FTIRによる測定結果を
図6に示す。
【0054】
[比較例2]
電界手段として、誘電体層が設けられていない第一の電極および第二の電極を用いた以外は、実施例1と同様にしてフィラー分散液を製造しようとしたが、MWCNTsが凝集してしまい、フィラー分散液を製造できなかった。
【0055】
混合液およびフィラー分散液の分散状態を目視にて確認したところ、電界処理およびバリア放電処理を施す前の混合液は透明であり、MWCNTsが分散していなかった(比較例1)。
対して、実施例1、2で得られたフィラー分散液は、7日間放置しても黒色を呈しており、MWCNTsが分散していることが示された。特に、電界処理とバリア放電処理とを行った実施例1のフィラー分散液は黒色が濃く、MWCNTsがより分散していた。
【0056】
図4に示すように、実施例1、2で得られたフィラー分散液は、時間の経過と共に透過率が徐々に上昇した。透過率が低いほどMWCNTsが分散していることを意味し、透過率の上昇が緩やかなほど、MWCNTsの分散が安定していることを意味する。
電界処理およびバリア放電処理を施す前の混合液は常に透過率が100%であったが、実施例1、2で得られたフィラー分散液は混合液よりも透過率が低く、7日間放置してもMWCNTsが分散していることが示された。特に、電界処理とバリア放電処理とを行った実施例1のフィラー分散液は、実施例2のフィラー分散液に比べて透過率が低く、しかも透過率の上昇も緩やかであり、MWCNTsがより分散していた。
【0057】
図5(c)に示すように、電界処理およびバリア放電処理を施す前のCNTsは、各繊維が互いに絡まりあった状態であった(比較例1)。
対して、
図5(a)、(b)に示すように、電界処理を施した後のCNTsは、絡まりあった繊維がほぐされ、各繊維が独立して分散した状態であった。加えて、電界処理後のCNTsには、機械的損傷等が見られなかった。
【0058】
図6に示すように、電界処理を施すことで、1410cm
−1と1510cm
−1のピークのピークが高くなった。1410cm
−1および1510cm
−1のピークのピークはC=Cの伸縮振動を示し、グラファイト構造を示す。
また、電界処理を施すことで、1654cm
−1のピークと2920cm
−1のピークが新たに認められた。また、3100〜3600cm
−1にもブロードなピークが認められた。1654cm
−1のピークはC=Oの伸縮運動を示し、2920cm
−1のピークC−Hの伸縮振動を示し、3100〜3600cm
−1のピークはO−Hの伸縮運動を示す。
これらの結果より、バリア放電処理を行うことで、分散媒中に活性イオン(例えば、O
*、H
*、OH
*、O
3等)が生成され、これらの活性イオンがMWCNTsの炭素構造と結合され、CNTs表面が化学修飾されて極性基が生成されたと考えられる。