(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6732422
(24)【登録日】2020年7月10日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】培養室および培養施設
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20200716BHJP
B25H 1/20 20060101ALI20200716BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20200716BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
B25H1/20
F24F7/06 C
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-193307(P2015-193307)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-63709(P2017-63709A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年8月30日
【審判番号】不服2019-6007(P2019-6007/J1)
【審判請求日】2019年5月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515264012
【氏名又は名称】福永 憲隆
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福永 憲隆
【合議体】
【審判長】
田村 聖子
【審判官】
中島 庸子
【審判官】
高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−204219号公報
【文献】
特開2006−94754号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12M 1/00, C12M 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Derwent Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の受精卵を培養するための培養室であって、
天井と、
前記天井に設けられており、温度、湿度、および清浄度が調整された清浄空気を、前記培養室内に供給する複数の清浄空気供給口と、
前記天井に向き合った床と、
前記床に設けられており、前記培養室内の空気が吸い出される複数の第1の吸気口と、
前記床の上に、前記床との間に空間を設けて設置された培養器と、
を備え、
前記複数の第1の吸気口のうちの少なくとも1つが、前記培養器の下に配置され、
前記複数の清浄空気供給口は、前記培養器の直上を避けて配置されており、
前記複数の清浄空気供給口は、培養に関する作業を行う作業者が留まって作業するべき仮想作業領域の直上を避けて配置されている、
培養室。
【請求項2】
請求項1に記載の培養室であって、
前記床に設けられており、前記培養室内の空気が吸い出される吸気口であって、前記仮想作業領域に配置されている第2の吸気口を備え、
前記複数の清浄空気供給口は、前記仮想作業領域の直上を避けて配置されている、培養室。
【請求項3】
請求項2に記載の培養室であって、
内部に顕微鏡を備え、
前記複数の清浄空気供給口は、前記顕微鏡の直上を避けて配置されている、培養室。
【請求項4】
請求項3に記載の培養室であって、
前記培養に関する作業は、前記顕微鏡を用いた作業および培地の調製の少なくともいずれか一方である、培養室。
【請求項5】
培養施設であって、
人の精子を処理する精子処理室と、受精卵の培養に関する事務を行うための事務室と、の少なくともいずれか一方と、
請求項1から4のいずれか一項に記載の培養室と、
を備える、培養施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養室および培養施設に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒト等の動物の細胞を人工的に培養する場合、培養器(インキュベーター)を備える培養室内で培養されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、妊娠を望む人が避妊なしで1〜2年以内に妊娠にいたることができない場合、不妊症と診断される。不妊症に対する治療(以下、不妊治療と称する)の1つに、体外受精(コンベンショナル体外受精、顕微授精)がある。体外受精では、受精卵を数日間(通常、2〜5日程度)培養した胚を、子宮に戻す。通常、体外受精の施術は、受精卵を培養する培養室を有する病院で行われる。
【0004】
従来、培養室には、空調機が設けられ、所定の温度、湿度に調整されていた。培養室は密閉されており、室内温度のむらが発生しやすいため、空調機の風量を大きくして培養室内の空気を循環させることによって、室内温度の均一化を図っていた。例えば、培養室の天井に比較的大きな空調機を2つ設けて、空調機から風量を大きくして清浄空気を培養室内に供給し、培養室内の空気を空調機が吸い込むことによって、培養室内の空気を循環させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4803196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような構成の培養室では、空調機から供給された清浄空気による風が強く循環するため、室内温度のむらの発生は抑制されるものの、培養室内の埃が舞う可能性があった。胚培養は、本来、女性の体内(卵管内)で行われることであるため、胚培養は、卵管内の環境に近い環境で行われることが好ましい。すなわち、培養室には、卵管内に近い、高い清浄度が要求される。特に、培養器等の胚培養に関する作業を行う機器の周辺における清浄度を高めたいという要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、人の受精卵を培養する培養器を内部に備える培養室が提供される。この培養室は、天井と、前記天井に設けられており、温度、湿度、および清浄度に調整された清浄空気を、前記培養室内に供給する複数の清浄空気供給口と、床と、前記床に設けられており、前記培養室内の空気が吸い出される吸気口であって、前記培養器の下に配置されている第1の吸気口と、を備え、前記複数の清浄空気供給口は、前記培養器の直上を避けて配置されている。
【0009】
この形態の培養室によれば、複数の清浄空気供給口を備えるため、1個の清浄空気供給口から供給される清浄空気の量を抑えることができる、清浄空気供給口から供給される清浄空気の風により埃が舞上がるのを抑制することができる。また、複数の清浄空気供給口が培養器の直上を避けて配置されており、培養器に清浄空気による風が直接当たらないため、培養器付近に埃が舞上がるのを抑制することができる。さらに、第1の吸気口が培養器の下に配置されているため、培養器の下に溜まりやすい埃を効率よく培養室外へ排出させることができる。その結果、培養室の清浄度を向上させることができる。とりわけ、培養器近傍の清浄度を向上させることができる。
【0010】
(2)上記形態培養室であって、前記床に設けられており、前記培養室内の空気が吸い出される吸気口であって、培養に関する作業を行う作業者が留まって作業するべき仮想作業領域に配置されている第2の吸気口を備え、前記複数の清浄空気供給口は、前記仮想作業領域の直上を避けて設けられてもよい。培養室内では、顕微鏡による受精卵の観察、顕微授精、培地の調製等、培養に関する作業を、人(作業者)が行う。このとき、作業者は、必要な時間、顕微鏡の前等に留まって作業を行う。作業者には埃が付着している可能性があり、また作業者の周囲には埃が漂っている可能性がある。この形態の培養室では、作業者が留まって作業するべき仮想作業領域に第2の吸気口が設けられているため、作業者が持ち込む埃を効率良く培養室外に排出することができる。また、清浄空気供給口が仮想作業領域の直上を避けて配置されているため、作業者に付着している埃や作業者の周囲に漂う埃を舞い上げるのを抑制することができる。
【0011】
(3)上記形態培養室であって、内部に顕微鏡を備え、前記複数の清浄空気供給口は、前記顕微鏡の直上を避けて配置されてもよい。このようにすると、顕微鏡近傍の清浄度も向上させることができる。
【0012】
(4)上記形態培養室であって、前記培養に関する作業は、前記顕微鏡を用いた作業および培地の調製の少なくともいずれか一方でもよい。このようにすると、これらの作業が行われる領域の清浄度を向上させることができる。
【0013】
(5)本発明の他の形態によれば、培養施設が提供される。この培養施設は、人の精子を処理する精子処理室と、受精卵の培養に関する事務を行うための事務室と、の少なくともいずれか一方と、上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の培養室と、を備える。この培養施設によれば、清浄度の高い培養室を備える培養施設を提供することができる。
【0014】
上述した本発明の各形態の有する複数の構成要素はすべてが必須のものではなく、上述の課題の一部又は全部を解決するため、あるいは、本明細書に記載された効果の一部又は全部を達成するために、適宜、前記複数の構成要素の一部の構成要素について、その変更、削除、新たな他の構成要素との差し替え、限定内容の一部削除を行うことが可能である。また、上述の課題の一部又は全部を解決するため、あるいは、本明細書に記載された効果の一部又は全部を達成するために、上述した本発明の一形態に含まれる技術的特徴の一部又は全部を上述した本発明の他の形態に含まれる技術的特徴の一部又は全部と組み合わせて、本発明の独立した一形態とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態としての培養室を側面から模式的に示す説明図である。
【
図2】培養室における清浄空気供給口および吸気口の配置を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.第1実施形態:
図1は、本発明の一実施形態としての培養室100を側面から模式的に示す説明図である。
図2は、培養室100における清浄空気供給口70および吸気口80の配置を説明するための説明図である。培養室100は、人の受精卵を培養する胚培養を行う部屋であり、体外受精を行う培養施設1000を備える病院内に設けられている。
図2に示すように、培養施設1000は、培養室100と、精子処理室200と、事務室300と、を備える。精子処理室200は、人の精子を処理する室である。具体的には、患者から採取された精液の精液検査、人工授精または体外受精の精子処理を行う。事務室300は、胚培養に関する事務を行う室である。培養室100は、後述するように、高い清浄度が保たれるように構成されている。培養室100の清浄度を保つには、培養室100には極力物を持ち込まないことが好ましいため、胚培養に関する事務(データ処理等)は、事務室300にて行われる。なお、胚培養士等の作業者Eは、培養室100と事務室300とを頻繁に行き来するため、事務室300内は、培養室100と同程度の清浄度が保たれるように構成されている。
【0017】
培養室100内には、培養器(インキュベーター)60、顕微鏡50等が備えられている。
図1では、培養室100内の設備の一例として、顕微鏡50と培養器60を図示し、顕微鏡50の操作を行う作業者E(例えば、胚培養士)を共に図示している。培養室100は、天井20と、清浄空気供給口70と、床10と、吸気口80と、を備える。
【0018】
培養室100の外には、清浄空気生成部93が設けられている。清浄空気生成部93は、所定の温度、所定の湿度、および所定の清浄度に調整された清浄空気を生成する。清浄空気生成部93は、ダクト92を介して床下室91と接続され、ダクト96を介して清浄空気供給口70と接続されている。清浄空気生成部93は、メッシュ状の吸気口80を介して培養室100内の空気を吸引し、所定の温度、所定の湿度に調整して、フィルターによって濾過された清浄空気をダクト96を介して清浄空気供給口70から培養室100内に供給する。なお、清浄空気生成部93は、濾過された外気を取込むことにより、培養室100内を陽圧にしている。培養室100の壁には、複数個のダンパー22が設けられ(
図1では1つを例示している)、培養室100内の圧力が調整されている。後述するように、培養室100は複数の清浄空気供給口70を備え、ダクト96は分岐されて、全ての清浄空気供給口70と接続されている。なお、吸気口80はパンチングメタルで構成されてもよい。
【0019】
図2に示すように、培養室100は、複数の清浄空気供給口70と、複数の吸気口80と、を備える。複数の吸気口80は、第1の吸気口81と、第2の吸気口82と、第3の吸気口83と、を備える。
図2において、明瞭に示すために、清浄空気供給口70,吸気口80の一部に符号を付して、他の符号の記載を省略している。
図2においてハッチングを付した箇所が、吸気口80である。
【0020】
培養室100内には、2台の培養器(インキュベーター)60と、6台の顕微鏡50と、培地の調製が行われる作業台30(培養室100内の紙面左端に配置されている)が備えられている。そして、複数の作業者E(例えば、胚培養士)が、培地の調製、顕微鏡50を用いた受精卵の観察、顕微授精等、胚培養に関する作業を行っている。培養室100が備える機器等およびその台数は本実施形態に限定されず、適宜変更可能である。但し、培養室100は、少なくとも1台の培養器を備える。本実施形態では、作業者Eが留まって作業するのは、顕微鏡50の前と、作業台30の前である。胚培養は、培養器60の中で行われ、作業者Eは、受精卵が入った容器を培養器60に対して出し入れするものの、培養器60の前に留まって、そこで観察等の作業を行うことはない。本実施形態において、作業者Eが留まって作業する場所を、仮想作業領域WSと称し、
図2に破線で囲んで示す。なお、仮想作業領域WSは、実際に作業者Eが留まっているか否かに関わらず、作業者Eが留まって作業すると想定される領域(本実施形態では、顕微鏡50の前と、作業台30の前)をいう。なお、本実施形態では、培養器60の前に留まって作業することは想定されていないが、培養器60の前に留まって作業する状態が想定される場合には、培養器60の前も仮想作業領域WSに含まれる。ここで、留まって作業するとは、座って作業する、立って作業する等を含む概念である。
【0021】
清浄空気供給口70は、10個設けられている。そして、清浄空気供給口70は、培養器60、顕微鏡50、作業台30、および仮想作業領域WSの直上を避けて配置されている。本明細書中において、「避けて配置」とは、床10に平行投影された清浄空気供給口70が、床10に平行投影された培養器60,顕微鏡50,作業台30、および仮想作業領域WSと、略重ならないように配置されていることをいう。ここで、「略重ならない」とは、床10に平行投影された清浄空気供給口70の一部が、床10に平行投影された培養器60,顕微鏡50,作業台30,または仮想作業領域WSに重なる場合であって、その重なる部分の面積が、床10に平行投影された清浄空気供給口70の面積の10%未満の場合を含む概念である。
【0022】
培養室100の天井20の面積は、約65.1m
2であり、清浄空気供給口70の面積は、約0.67m
2である。培養室100では、天井20の面積に対して、非常に小さい面積の清浄空気供給口70を、胚培養に関する作業が行われる場所の直上を避けて、複数配置されている。清浄空気供給口70の面積は、天井20の面積の0.5〜3%程度が好ましい。
【0023】
培養室100は、床10に21個の吸気口80を備える。上述の通り、吸気口80は、第1の吸気口81,第2の吸気口82,および第3の吸気口83を含む。第1の吸気口81は、培養器60の下に配置されている。
図2に示す例では、2台の培養器60の下に、それぞれ1つずつ、第1の吸気口81が配置されている。
図2に示す例では、第1の吸気口81の全体が培養器60の下になるように、配置されているが、第1の吸気口81の少なくとも一部が培養器60の下になるように配置されればよい。但し、第1の吸気口81において、培養器60の下になる面積が大きいほど、集塵効率が向上されるため、好ましい。例えば、第1の吸気口81の面積の50%以上が培養器60の下になるように、第1の吸気口81が配置されるのが好ましい。第1の吸気口81の面積の80%以上が培養器60の下になるように、第1の吸気口81が配置されると、さらに、好ましい。
【0024】
第2の吸気口82は、作業者Eが胚培養に関する作業を行うことが想定される仮想作業領域WSに配置されている。本実施形態では、顕微鏡50を用いた作業が行われる仮想作業領域WSと、培地の調製が行われる仮想作業領域WSに配置されている。
図2に示すように、第2の吸気口82は、6台の顕微鏡50を用いて作業(例えば、受精卵の観察,顕微授精等)を行う作業者Eの下に配置されている。また、第2の吸気口82は、培養室100内の紙面左端に配置された作業台30に向かって座る作業者E(例えば、培地の調製を行う作業者)の下に配置されている。作業者Eが仮想作業領域WSで作業するべく座った場合に、床10に平行投影された作業者Eの少なくとも一部が第2の吸気口82と重なるように、第2の吸気口82が配置されている。床10に平行投影された作業者Eが第2の吸気口82と重なる面積が、床10に平行投影された作業者Eの面積に対する割合が大きいほど、集塵効率が向上されるため、好ましい。例えば、床10に平行投影された作業者Eが第2の吸気口82と重なる面積が、床10に平行投影された作業者Eの面積の50%以上になるように、第2の吸気口82が配置されるのが好ましい。床10に平行投影された作業者Eが第2の吸気口82と重なる面積が、床10に平行投影された作業者Eの面積の80%以上になるように、第2の吸気口82が配置されると、さらに、好ましい。床10に平行投影された作業者Eの全体が、第2の吸気口82に含まれるように、第2の吸気口82が配置されるのが、最も好ましい。
【0025】
第3の吸気口83は、培養器60および作業領域に関係なく、培養室100の床10にバランスよく散在する。
【0026】
本実施形態の培養室100は、密閉され、高い清浄度および防音レベルを有している。清浄度は、例えば、ISO(国際標準化機構)基準によるクラス7、アメリカ航空宇宙局規格(通称、NASA規格)によるクラス10,000〜100,000程度である。防音レベルは、例えば、55〜65dB(A)である。なお、培養室100は、エアシャワー室(不図示)を介して入室可能に構成されている。
【0027】
本実施形態の培養室100によれば、複数の清浄空気供給口70と複数の吸気口80を備え、清浄空気供給口70が天井全体に散在し、吸気口80が床全体に散在するため、空気の流れが、培養室100の全体に亘り、天井20から床10への一方向になる。そのため、培養室100内の温度のむらが発生しにくく、温度管理を容易にすることができる。
【0028】
また、複数の清浄空気供給口70を設けることにより、1個の清浄空気供給口70から供給される清浄空気の量を抑えることができるため、清浄空気供給口70から供給される清浄空気の風により埃が舞上がるのを抑制することができる。
【0029】
さらに、複数の清浄空気供給口70が、培養器60,顕微鏡50,作業台30の直上を避けて配置されているため、清浄空気供給口70から供給される清浄空気による風は、培養器60,顕微鏡50,作業台30を避けて天井側から床に向かって流れる。すなわち、清浄空気供給口70から供給される清浄空気による風がそれらに直接当たらない。そのため、清浄空気供給口70からの風により培養器60,顕微鏡50,作業台30付近に埃が舞うことを抑制することができる。
【0030】
一般的に、培養器60は、その底面と床10との距離が小さく、培養器60の下には埃が溜まりやすい。培養室100では、第1の吸気口81が培養器60の下に配置されているため、培養器60の下の埃を効率よく培養室100外へ排出させることができる。
【0031】
また、顕微鏡50の前、培地の調製を行う作業台30の前には、作業者Eが留まって作業を行う。作業者Eには埃が付着している可能性があり、また作業者Eの周囲に埃が浮遊している可能性がある。培養室100では、第2の吸気口82は、上述の仮想作業領域WSに配置されており、作業者Eが椅子に座る等留まった場合に、作業者Eの下に第2の吸気口82が在る。そのため、胚培養に関する作業を行っている作業者Eが持ち込んだ埃を、効率よく培養室100外へ排出させることができる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の培養室100によれば、複数の清浄空気供給口70が、胚培養に関する作業が行われる領域を避けて配置されると共に、複数の吸気口80が、培養器60の下、および胚培養に関する作業が行われる領域に配置されているため、集塵効率が向上され、胚培養に関する作業が行われる場所の清浄度が向上される。
【0033】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0034】
(1) 清浄空気供給口70および吸気口80の個数は、上記実施形態に限定されず、培養室100の広さ(床面積、天井面積)、培養器60を含む胚培養に関する機器の個数等に応じて適宜変更可能である。また、清浄空気供給口70および吸気口80の配置は上記実施形態に限定されない。清浄空気供給口70は、少なくとも、培養器60の直上を避けて配置されればよい。さらに、顕微鏡50の直上を避けて配置されると好ましい。吸気口80は、少なくとも培養器60の下に配置されればよい。
【0035】
(2) 上記実施形態において、第2の吸気口82は、顕微鏡50を用いた作業が行われる仮想作業領域WSおよび培地の調製が行われる仮想作業領域WSの両方に配置されているが、これに限定されない。例えば、顕微鏡50を用いた作業が行われる仮想作業領域WSおよび培地の調製が行われる仮想作業領域WSのいずいれか一方に配置されてもよい。また、上記実施形態では、顕微鏡50を用いた作業が行われる仮想作業領域WSの全てに対応して第2の吸気口82が配置されているが、6台の顕微鏡50のうち少なくとも1台の顕微鏡50に対する仮想作業領域WSに対応して1つの第2の吸気口82が配置されればよい。
【0036】
(3) 上記実施形態において、培養施設1000は、培養室100,精子処理室200,および事務室300を備えるが、精子処理室200および事務室300のいずれか一方を備えない構成にしてもよい。
【0037】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0038】
10…床
20…天井
22…ダンパー
30…作業台
50…顕微鏡
60…培養器
70…清浄空気供給口
80…吸気口
81…第1の吸気口
82…第2の吸気口
83…第3の吸気口
91…床下室
92…ダクト
93…清浄空気生成部
96…ダクト
100…培養室
200…精子処理室
300…事務室
1000…培養施設
E…作業者
WS…仮想作業領域