特許第6732488号(P6732488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6732488-回転伝達装置 図000002
  • 特許6732488-回転伝達装置 図000003
  • 特許6732488-回転伝達装置 図000004
  • 特許6732488-回転伝達装置 図000005
  • 特許6732488-回転伝達装置 図000006
  • 特許6732488-回転伝達装置 図000007
  • 特許6732488-回転伝達装置 図000008
  • 特許6732488-回転伝達装置 図000009
  • 特許6732488-回転伝達装置 図000010
  • 特許6732488-回転伝達装置 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6732488
(24)【登録日】2020年7月10日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】回転伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/08 20060101AFI20200716BHJP
   F16D 41/067 20060101ALI20200716BHJP
【FI】
   F16D41/08 Z
   F16D41/067
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-55423(P2016-55423)
(22)【出願日】2016年3月18日
(65)【公開番号】特開2017-166684(P2017-166684A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】川合 正浩
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−187472(JP,A)
【文献】 特開2002−122162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/08,41/067,41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から回転が入力される入力軸と、その入力軸と一体に回転する状態で入力軸に接続されている内輪と、その内輪に対して相対回転可能に支持されている外輪と、その外輪と一体に回転する状態で外輪に接続されている出力軸と、前記外輪の内周に設けられている円筒面と、その円筒面との間に周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭小となるくさび空間を形成する状態で前記内輪の外周に設けられているカム面と、前記円筒面とカム面との間に周方向に対向して組み込まれている一対のローラと、その一対のローラ間の距離を広げる方向にローラを付勢するローラ離反ばねと、前記一対のローラのうち一方のローラの位置を前記ローラ離反ばねの付勢力に抗して保持する第1ローラ保持器と、前記一対のローラのうち他方のローラの位置を前記ローラ離反ばねの付勢力に抗して保持する第2ローラ保持器と、前記一対のローラが前記円筒面と前記カム面に係合する係合位置と、前記一対のローラが前記円筒面と前記カム面への係合を解除する係合解除位置との間で前記一対のローラが移動するように前記第1ローラ保持器および第2ローラ保持器を相対移動させる保持器アクチュエータとを有する回転伝達装置において、
前記第1ローラ保持器は、前記一方のローラとの対向面から一方のローラの軸方向の一端部または他端部と当接する当接部が突出しており、前記第2ローラ保持器は、前記他方のローラとの対向面から他方のローラの軸方向の一端部または他端部と当接する当接部が突出しており、前記ローラ離反ばねは、前記一方のローラの一端部または他端部を挟んで前記第1ローラ保持器の当接部と対向する一方の先端部で一方のローラを押圧し、前記他方のローラの一端部または他端部を挟んで第2ローラ保持器の当接部と対向する他方の先端部で他方のローラを押圧していることを特徴とする回転伝達装置。
【請求項2】
前記第1ローラ保持器は、周方向に間隔をおいて配置された複数の第1柱部と、前記各第1柱部の端部同士を連結する環状の第1フランジ部とを有し、前記各第1柱部の基端側に前記一方のローラと当接する当接部が設けられており、前記第2ローラ保持器は、周方向に間隔をおいて配置された複数の第2柱部と、前記各第2柱部の端部同士を連結する環状の第2フランジ部とを有し、前記各第2柱部の基端側に前記他方のローラと当接する当接部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記第1ローラ保持器の当接部が前記一方のローラと当接する領域の長さと、前記第2ローラ保持器の当接部が前記他方のローラと当接する領域の長さとが同じ寸法aであり、その当接領域の長さaと前記ローラの長さLが、L/4<a<L/2の関係にあることを特徴とする請求項1または2に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
ステアリングホイールと、そのステアリングホイールの操舵角に応じて左右一対の車輪の向きが変わるように前記一対の車輪を動かす転舵アクチュエータとを有するステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置に組み込まれ、正常時は前記ステアリングホイールと前記転舵アクチュエータの間で回転の伝達を遮断し、異常時は前記ステアリングホイールと前記転舵アクチュエータの間で回転を伝達するフェールセーフ機構のクラッチとして用いられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の回転伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転の伝達と遮断の切り換えに用いられる回転伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力軸から出力軸に回転が伝達する状態と、その回転の伝達を遮断する状態とを切り換えるために用いられる回転伝達装置として、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の回転伝達装置は、外部から回転が入力される入力軸と、その入力軸と一体に回転するように入力軸に接続された内輪と、その内輪に対して相対回転可能に支持された外輪と、その外輪と一体に回転するように外輪に接続された出力軸とを有する。
【0004】
外輪の内周に設けられた円筒面と、内輪の外周に設けられたカム面との間には、周方向に対向する一対のローラと、その一対のローラ間の距離を広げる方向にローラを付勢するローラ離反ばねとが組み込まれている。
【0005】
また、上記回転伝達装置は、一対のローラのうち一方のローラの位置を前記ローラ離反ばねの付勢力に抗して保持する第1ローラ保持器と、一対のローラのうち他方のローラの位置を前記ローラ離反ばねの付勢力に抗して保持する第2ローラ保持器と、この第1ローラ保持器および第2ローラ保持器を相対移動させる保持器アクチュエータとを有する。
【0006】
保持器アクチュエータは、第1ローラ保持器と第2ローラ保持器が軸方向に相対移動したときにその軸方向の相対移動を第1ローラ保持器と第2ローラ保持器の相対回転に変換する運動変換機構と、第1ローラ保持器と第2ローラ保持器のうちの一方と軸方向に一体に移動するように連結されたアーマチュアと、アーマチュアと軸方向に対向して配置されたロータと、通電によりアーマチュアをロータに吸着させる電磁石とからなる。
【0007】
そして、この保持器アクチュエータの電磁石への通電を停止しているときは、一対のローラ間の距離が広がる方向に各ローラを付勢するローラ離反ばねの付勢力によって、一対のローラが外輪内周の円筒面と内輪外周のカム面とに係合する係合位置にあり、内輪と外輪の間で回転が伝達する締結状態となる。
【0008】
一方、保持器アクチュエータの電磁石に通電しているときは、第1ローラ保持器と第2ローラ保持器とが相対移動することで、各ローラがローラ間の距離が狭まる方向に移動して、各ローラの円筒面とカム面への係合が解除される係合解除位置にあり、内輪と外輪の間での回転の伝達が遮断された空転状態となる。
【0009】
しかし、この回転伝達装置では、締結状態において各ローラと円筒面およびカム面との係合部分に大きなトルクが負荷されている場合、空転状態に切り替えようとして保持器アクチュエータの電磁石に通電しても、第1ローラ保持器および第2ローラ保持器がローラと円筒面およびカム面との摩擦力やローラ離反ばねの付勢力に抗して各ローラを係合位置から係合解除位置に移動させることができず、各ローラの係合解除すなわち締結状態から空転状態への切り替えができないことがある。このため、締結状態から空転状態への切り替えを確実に行うには、予め締結状態での伝達トルクを、一定値すなわちトルクを負荷した状態で締結状態から空転状態への切り替えが可能な最大許容トルク(以下、「解放可能トルク」と称する。)よりも小さくしておく必要があり、切替操作が煩雑なものになりやすい。
【0010】
これに対し、ローラ離反ばねの付勢力を小さくすれば、解放可能トルクの向上が図れ、締結状態から空転状態への切替操作がしやすくなるが、空転状態から締結状態への切り替えの際に、各ローラを係合解除位置から係合位置に復帰させる駆動力が小さくなることにより、締結の信頼性が低下するという問題が生じる。
【0011】
一方、特許文献2では、上記回転伝達装置と同様に、径方向外側の部材の内周円筒面と径方向内側の部材の外周のカム面との間に一対のローラとローラ離反ばねとを組み込み、その一対のローラを円筒面とカム面に係合させるとともに、各ローラの係合を解除する手段を設けたクラッチにおいて、各ローラの係合を解除するときに、その動作を円滑にして係合解除のために必要となる操作力の低減を図るために、各ローラにスキューを生じさせるスキュー発生手段を設けることが提案されている。ここで、スキューとは、ローラの軸線が径方向内外の部材の軸線に対して傾くことをいう(以下同じ)。
【0012】
すなわち、各ローラの係合を解除するときに、各ローラにスキューを生じさせることにより、ローラの円筒面とカム面への係合が軸方向の一端から他端にかけて次第に外れていくようにして、ローラがスキューを生じない場合に比べて、ローラが受ける摩擦抵抗が小さくなって係合解除動作が円滑に行われ、操作力が低減されるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2012−149746号公報
【特許文献2】特許第4172928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記特許文献1に記載の回転伝達装置においても、上記特許文献2に記載のクラッチの技術を適用して、締結状態から空転状態への切り替えの際に各ローラをスキューさせるようにすれば、ローラ離反ばねの付勢力を小さくすることなく、解放可能トルクを向上させることは可能になると考えられる。
【0015】
ところで、特許文献2のクラッチでは、各ローラにスキューを生じさせるスキュー発生手段として、ローラ離反ばねの付勢力に抗してローラを押してローラの係合を解除する部材について、そのローラとの対向面の軸方向一端側または他端側に段差を設けたり、ローラとの対向面を軸方向に対して傾斜させたりしている一方、ローラ離反ばねは各ローラの軸方向中央部を押圧するように配されている(特許文献2の図25乃至図27参照。)。
【0016】
このため、特許文献1の回転伝達装置に特許文献2のスキュー発生手段を用いた場合、締結状態から空転状態へ切り替えるときは、各ローラがスキューすることにより解除動作が容易になり、解放可能トルクの向上が図れるが、空転状態から締結状態への切り替えの際に、ローラ離反ばねに軸方向中央部を押圧されたローラがスキューした状態で円筒面およびカム面と係合してしまい、不安定な締結状態となるおそれがある。
【0017】
そこで、この発明は、回転伝達装置の締結の信頼性を確保しつつ解放可能トルクの向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するため、この発明は、外部から回転が入力される入力軸と、その入力軸と一体に回転する状態で入力軸に接続されている内輪と、その内輪に対して相対回転可能に支持されている外輪と、その外輪と一体に回転する状態で外輪に接続されている出力軸と、前記外輪の内周に設けられている円筒面と、その円筒面との間に周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭小となるくさび空間を形成する状態で前記内輪の外周に設けられているカム面と、前記円筒面とカム面との間に周方向に対向して組み込まれている一対のローラと、その一対のローラ間の距離を広げる方向にローラを付勢するローラ離反ばねと、前記一対のローラのうち一方のローラの位置を前記ローラ離反ばねの付勢力に抗して保持する第1ローラ保持器と、前記一対のローラのうち他方のローラの位置を前記ローラ離反ばねの付勢力に抗して保持する第2ローラ保持器と、前記一対のローラが前記円筒面と前記カム面に係合する係合位置と、前記一対のローラが前記円筒面と前記カム面への係合を解除する係合解除位置との間で前記一対のローラが移動するように前記第1ローラ保持器および第2ローラ保持器を相対移動させる保持器アクチュエータとを有する回転伝達装置において、前記第1ローラ保持器は、前記一方のローラとの対向面から一方のローラの軸方向の一端部と当接する当接部が突出しており、前記第2ローラ保持器は、前記他方のローラとの対向面から他方のローラの軸方向の一端部と当接する当接部が突出しており、前記ローラ離反ばねは、前記一方のローラを挟んで前記第1ローラ保持器の当接部と対向する位置で一方のローラを押圧し、前記他方のローラを挟んで第2ローラ保持器の当接部と対向する位置で他方のローラを押圧している構成を採用した。
【0019】
上記の構成によれば、締結状態(回転伝達状態)から空転状態(回転伝達遮断状態)へ切り替える際は、保持器アクチュエータの駆動によって、第1ローラ保持器と第2ローラ保持器がそれぞれの当接部でローラの軸方向の一端部を押して、ローラをスキューさせながら係合解除位置へ移動させるので、ローラをスキューさせない場合に比べて、小さい操作力でローラの円筒面とカム面への係合がスムーズに解除されるし、空転状態から締結状態へ切り替える際には、保持器アクチュエータを停止させることにより、ローラ離反ばねがローラを挟んで各ローラ保持器の当接部と対向する位置でローラを押圧して、ローラを元の(スキューのない)姿勢に戻しながら係合位置へ移動させるので、安定した締結状態が得られる。すなわち、締結の信頼性を確保しつつ解放可能トルクの向上を図ることができる。
【0020】
ここで、前記第1ローラ保持器の当接部が前記一方のローラと当接する領域の長さと、前記第2ローラ保持器の当接部が前記他方のローラと当接する領域の長さとが同じ寸法aであり、その当接領域の長さaと前記ローラの長さLが、L/4<a<L/2の関係にある構成とすれば、より確実に締結の信頼性の確保と解放可能トルクの向上とを両立することができる。
【0021】
また、この発明の回転伝達装置は、ステアリングホイールと、そのステアリングホイールの操舵角に応じて左右一対の車輪の向きが変わるように前記一対の車輪を動かす転舵アクチュエータとを有するステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置に組み込まれ、正常時は前記ステアリングホイールと前記転舵アクチュエータの間で回転の伝達を遮断し、異常時は前記ステアリングホイールと前記転舵アクチュエータの間で回転を伝達するフェールセーフ機構のクラッチとして、特に有効に活用できる。
【発明の効果】
【0022】
この発明の回転伝達装置は、上述したように、締結状態から空転状態への切り替えの際は、各ローラ保持器がそれぞれの当接部でローラの軸方向の一端部を押して、ローラをスキューさせながら係合解除位置へ移動させ、空転状態から締結状態へ切り替える際には、ローラ離反ばねがローラを挟んで各ローラ保持器の当接部と対向する位置でローラを押圧して、ローラを元の姿勢に戻しながら係合位置へ移動させるので、締結の信頼性を確保しつつ解放可能トルクの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明の実施形態にかかる回転伝達装置を示す断面図
図2図1のII−II線に沿った断面図
図3図2の状態から一対のローラが移動した状態を拡大して示す断面図
図4】aは図2のIV−IV線に沿った断面図、bはaの状態から両ローラ保持器が相対回転した状態を示す断面図
図5図1のV−V線に沿った断面図
図6図5のVI−VI線に沿った断面図
図7図1のVII−VII線に沿った断面図
図8】aは図7のVIII−VIII線に沿った断面図、bはaの状態から両ローラ保持器が相対回転した状態を示す断面図
図9】aは図4に対応して各ローラ保持器の変形例を示す断面図、bはaの状態から両ローラ保持器が相対回転した状態を示す断面図
図10図1の回転伝達装置を用いたステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置の例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に、この発明の実施形態にかかる回転伝達装置1を示す。この回転伝達装置1は、外輪2と、外輪2の内側に配置された内輪3と、外輪2の内周と内輪3の外周との間に組み込まれた複数のローラ4a,4bと、これらのローラ4a,4bをそれぞれ保持する第1ローラ保持器5aおよび第2ローラ保持器5bと、この第1ローラ保持器5aおよび第2ローラ保持器5bを相対移動させる保持器アクチュエータ6とを有する。内輪3には入力軸7が接続され、外輪2には出力軸8が接続されている。入力軸7と出力軸8は同軸上に配置されている。
【0025】
入力軸7は、外部から回転が入力される軸である。入力軸7と内輪3は、両者が一体に回転するように継ぎ目のない一体の部材として形成されている。入力軸7と内輪3は、別部材として形成し、その両者をセレーション嵌合等で接続してもよい。
【0026】
出力軸8と外輪2も、両者が一体に回転するように継ぎ目のない一体の部材として形成されている。出力軸8と外輪2は、別部材として形成し、その両者をセレーション嵌合等で接続してもよい。外輪2と内輪3の間には、外輪2を内輪3に対して相対回転可能に支持する転がり軸受9が組み込まれている。回転伝達装置1の構成部材を収容する筒状のハウジング10の出力軸8側の端部には、出力軸8を回転可能に支持する転がり軸受11が組み込まれている。
【0027】
図2に示すように、内輪3の外周には、周方向に間隔をおいて複数のカム面12が設けられている。各カム面12は、前方カム面12aと、前方カム面12aに対して内輪3の正転方向(図中の矢印方向)の後方に配置された後方カム面12bとからなる。外輪2の内周には、カム面12と半径方向に対向する円筒面13が設けられている。
【0028】
内輪3の外周のカム面12と外輪2の内周の円筒面13の間には、ローラ離反ばね14を間に挟んで周方向に対向する一対のローラ4a,4bが組み込まれている。この一対のローラ4a,4bのうち一方(正転方向の前側)のローラ4aは前方カム面12aと円筒面13の間に組み込まれ、他方(正転方向の後側)のローラ4bは後方カム面12bと円筒面13の間に組み込まれている。各ローラ4a,4bは、一対のローラ4a,4b間の距離が広がる方向にローラ離反ばね14で付勢されている。
【0029】
カム面12と円筒面13の間には、周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭小となるくさび空間が形成されている。すなわち、前方カム面12aは、円筒面13との間の径方向の距離が、ローラ4aの位置から正転方向前方に向かって次第に小さくなるように形成されている。後方カム面12bは、円筒面13との間の径方向の距離が、ローラ4bの位置から正転方向後方に向かって次第に小さくなるように形成されている。前方カム面12aと後方カム面12bは、傾斜方向が逆で傾斜角度が同一の構成である。
【0030】
各ローラ4a,4bは、円筒面13とカム面12に係合する係合位置(図2に示す位置)と、円筒面13とカム面12への係合を解除する係合解除位置(図3に示す位置)との間で周方向に移動可能とされている。
【0031】
第1ローラ保持器5aは、ローラ離反ばね14を間にして周方向に対向する一対のローラ4a,4bのうち一方のローラ4aの位置をローラ離反ばね14の付勢力に抗して保持し、第2ローラ保持器5bは、ローラ離反ばね14を間にして周方向に対向する一対のローラ4a,4bのうち他方のローラ4bの位置をローラ離反ばね14の付勢力に抗して保持するものである。
【0032】
図1図2に示すように、第1ローラ保持器5aは、周方向に間隔をおいて配置された複数の第1柱部15aと、これらの第1柱部15aの端部同士を連結する環状の第1フランジ部16aとを有する。同様に、第2ローラ保持器5bも、周方向に間隔をおいて配置された複数の第2柱部15bと、これらの第2柱部15bの端部同士を連結する環状の第2フランジ部16bとを有する。
【0033】
図2図4に示すように、第1柱部15aと第2柱部15bは、一対のローラ4a,4bを間に挟んで周方向に対向している。すなわち、第1柱部15aと第2柱部15bは、ローラ離反ばね14を間にして周方向に対向する一対のローラ4a,4bを周方向の両側から挟み込むように、外輪2の内周と内輪3の外周の間に挿入されている。
【0034】
第1柱部15aは、一方のローラ4aとの対向面から一方のローラ4aの軸方向の一端部と当接する当接部17aが突出している。同様に、第2柱部15bも、他方のローラ4bとの対向面から他方のローラ4bの軸方向の一端部と当接する当接部17bが突出している。第1柱部15aの当接部17aが一方のローラ4aと当接する領域の長さと、第2柱部15bの当接部17bが他方のローラ4bと当接する領域の長さとは同じ寸法aであり、その当接領域の長さaと各ローラ4a,4bの長さLは、L/4<a<L/2の関係にある。
【0035】
そして、ローラ離反ばね14は、一方のローラ4aを挟んで第1ローラ保持器5aの第1柱部15aの当接部17aと対向する位置で一方のローラ4aを押圧し、他方のローラ4bを挟んで第2ローラ保持器5bの第2柱部15bの当接部17bと対向する位置で他方のローラ4bを押圧している。
【0036】
図1に示すように、第1フランジ部16aと第2フランジ部16bは、第1フランジ部16aが第2フランジ部16bよりも内輪3に近い側となる向きで、軸方向に対向して配置されている。そして、第1フランジ部16aには、第2ローラ保持器5bの第2柱部15bとの干渉を避けるための切欠き16cが周方向に間隔をおいて複数設けられている(図7参照)。
【0037】
第1フランジ部16aの内周と第2フランジ部16bの内周は、入力軸7の外周に設けられた円筒面18でそれぞれ回転可能に支持されている。第2フランジ部16bは、スラスト軸受19を介して、入力軸7の外周に固定された環状の支持部材20で軸方向に支持され、これにより軸方向の移動が規制されている。内輪3の側面には、ばねホルダ21が固定されている。
【0038】
図5図6に示すように、ばねホルダ21は、ローラ離反ばね14を保持するばね保持部22を周方向に間隔をおいて複数有する。各ばね保持部22は、ローラ離反ばね14を間にして周方向に対向する一対のローラ4a,4bの間に配置されている。ばねホルダ21は、内輪3に対する相対位置が変化しないように内輪3に取り付けられている。
【0039】
図2図6に示すように、ばね保持部22は、内輪3の外周の前方カム面12aと後方カム面12bとの間に形成されたばね支持面23に対して半径方向に対向するように形成されている。ばね支持面23は内輪3の半径方向と直交する平面である。ばね保持部22のばね支持面23に対する対向面には、ローラ離反ばね14を収容する凹部24が形成されている。ローラ離反ばね14は圧縮コイルばねである。このばね保持部22は、ローラ離反ばね14の移動を凹部24で規制することにより、ローラ離反ばね14が外輪2の内周と内輪3の外周との間から軸方向に脱落するのを防止している。
【0040】
図1に示すように、保持器アクチュエータ6は、第1ローラ保持器5aと第2ローラ保持器5bが軸方向に相対移動したときにその軸方向の相対移動を第1ローラ保持器5aと第2ローラ保持器5bの相対回転に変換する運動変換機構26と、第1ローラ保持器5aに連結されたアーマチュア27と、アーマチュア27と軸方向に対向して配置されたロータ28と、通電によりアーマチュア27をロータ28に吸着させる電磁石29とを有する。
【0041】
アーマチュア27は、環状の円盤部30と、円盤部30の外周から軸方向に延びるように一体に形成された円筒部31とを有する。アーマチュア27の円筒部31は、第1ローラ保持器5aの外側連結環の外周に締め代をもって嵌合しており、この嵌合によってアーマチュア27は、第1ローラ保持器5aと軸方向に一体に移動するように第1ローラ保持器5aに連結されている。また、アーマチュア27は、入力軸7の外周で回転可能かつ軸方向に移動可能に支持されている。ここで、アーマチュア27は、軸方向に離れた2箇所(すなわちアーマチュア27の内周と、第1ローラ保持器5aの内周)で支持することにより、アーマチュア27の姿勢が軸直角方向に対して傾くのが防止されている。
【0042】
ロータ28は、アーマチュア27と電磁石29の間に配置されている。また、ロータ28は、締め代をもって入力軸7の外周に嵌合することにより、軸方向と周方向のいずれにも相対移動しないように入力軸7の外周で支持されている。ロータ28およびアーマチュア27は強磁性を有する金属で形成されている。
【0043】
電磁石29は、フィールドコア32と、フィールドコア32に巻回されたソレノイドコイル33とを有する。フィールドコア32は、ハウジング10の入力軸7側の端部に挿入されて、止め輪34で抜け止めされている。フィールドコア32には、入力軸7を回転可能に支持する転がり軸受35が取り付けられている。この電磁石29は、ソレノイドコイル33に通電することにより、フィールドコア32とロータ28とアーマチュア27を通る磁路を形成し、アーマチュア27をロータ28に吸着させる。
【0044】
図7および図8(a)、(b)に示すように、運動変換機構26は、第1フランジ部16aの第2フランジ部16bに対する対向面に設けられた第1カム溝36aと、第2フランジ部16bの第1フランジ部16aに対する対向面に設けられた第2カム溝36bと、第1カム溝36aと第2カム溝36bの間に組み込まれたボール37とからなる。第1カム溝36aと第2カム溝36bは、それぞれ周方向に延びるように形成されている。また、第1カム溝36aは、ボール37との接触位置から周方向の一方向に向かって次第に深くなるように傾斜した溝底をもつ形状とされ、第2カム溝36bも、ボール37との接触位置から周方向の他方向に向かって次第に深くなるように傾斜した溝底をもつ形状とされている。ボール37は第1カム溝36aの溝底と第2カム溝36bの溝底との間に挟まれるように配置されている。
【0045】
この運動変換機構26は、第1フランジ部16aが第2フランジ部16bに向かって軸方向に移動したときに、ボール37が各カム溝36a,36bに沿って転がることにより、第1ローラ保持器5aと第2ローラ保持器5bが相対回転し、その結果、第1柱部15aと第2柱部15bとが一対のローラ4a,4b間の距離を狭める方向に移動するように動作する。
【0046】
上記の回転伝達装置1の動作例を説明する。
【0047】
図1に示すように、電磁石29への通電を停止しているとき、この回転伝達装置1は、外輪2と内輪3の間で回転が伝達する締結状態となる。すなわち、電磁石29への通電を停止しているとき、アーマチュア27は、ローラ離反ばね14の力によってロータ28から離反した状態となっている。また、このとき、図2に示すように、一対のローラ4a,4b間の距離が広がる方向に各ローラ4a,4bを押圧するローラ離反ばね14の力によって、一方のローラ4aが外輪2の内周の円筒面13と内輪3の外周の前方カム面12aとに係合し、他方のローラ4bが外輪2の内周の円筒面13と内輪3の外周の後方カム面12bとに係合した状態(各ローラ4a,4bが係合位置にある状態)となっている。この状態で、内輪3が正転方向に回転すると、他方のローラ4bを介して内輪3から外輪2に回転が伝達する。また、内輪3が逆転方向に回転すると、一方のローラ4aを介して内輪3から外輪2に回転が伝達する。
【0048】
一方、図1の電磁石29に通電しているとき、この回転伝達装置1は、外輪2と内輪3の間での回転の伝達が遮断される空転状態となる。すなわち、電磁石29に通電すると、アーマチュア27はロータ28に吸着され、このアーマチュア27の動作に連動して、第1フランジ部16aが第2フランジ部16bに向かって軸方向に移動する。このとき、運動変換機構26のボール37がカム溝36a,36bに沿って転がることにより、第1ローラ保持器5aと第2ローラ保持器5bとが相対回転する。そして、この第1ローラ保持器5aと第2ローラ保持器5bの相対回転により、図3に示すように、第1柱部15aの当接部17aと第2柱部15bの当接部17bとが一対のローラ4a,4b間の距離が狭まる方向に各ローラ4a,4bを押圧し、その結果、一方のローラ4aの円筒面13と前方カム面12aへの係合が解除されるとともに、他方のローラ4bの円筒面13と後方カム面12bへの係合も解除された状態(各ローラ4a,4bが係合解除位置にある状態)となる。この状態で、内輪3に回転が入力されても、その回転は内輪3から外輪2に伝達せず、内輪3は空転する。
【0049】
ここで、締結状態(回転伝達状態)から空転状態(回転伝達遮断状態)へ切り替える際は、上記のように電磁石29に通電して保持器アクチュエータ6を駆動すると、図4(a)に示す状態から、第1ローラ保持器5aがその第1柱部15aの当接部17aで一方のローラ4aの軸方向の一端部を押すとともに、第2ローラ保持器5bがその第2柱部15bの当接部17bで他方のローラ4bの軸方向の一端部を押すことにより、図4(b)に示すように、第1ローラ保持器5aおよび第2ローラ保持器5bが各ローラ4a,4bをスキューさせながら係合解除位置へ移動させるようになっている。
【0050】
このため、各ローラ4a,4bをスキューさせない場合に比べて、小さい操作力で一方のローラ4aの円筒面13と前方カム面12aへの係合および他方のローラ4bの円筒面13と後方カム面12bへの係合をスムーズに解除でき、解放可能トルクを向上させることができる。
【0051】
また、空転状態から締結状態へ切り替える際には、電磁石29への通電を停止させることにより、ローラ離反ばね14が、一方のローラ4aを挟んで第1ローラ保持器5aの当接部17aと対向する位置と、他方のローラ4bを挟んで第2ローラ保持器5bの当接部17bと対向する位置で、それぞれローラ4a,4bを押圧して、各ローラ4a,4bを元の(スキューのない)姿勢に戻しながら係合位置へ移動させるので、安定した締結状態が得られる。
【0052】
そして、この実施形態では、前述のように各ローラ保持器5a,5bの当接部17a,17bの当接領域の長さaと各ローラ4a,4bの長さLがL/4<a<L/2の関係となるように設定され、上記の締結の信頼性の確保と解放可能トルクの向上とが確実に両立できるようになっている。
【0053】
図9に、上記実施形態の各ローラ保持器5a,5bの当接部17a,17bの変形例を示す。上記実施形態の図1乃至図5に示した例では、各ローラ保持器5a,5bは、それぞれの柱部15a,15bの基端側に、ローラ4a,4bの軸方向の一端部と当接する当接部17a,17bを設けたが、図9(a)に示すように、各ローラ保持器5a,5bの柱部15a,15bの先端側に当接部17a,17bを設けるようにしてもよい。
【0054】
この変形例でも、図1乃至図5に示した例と同様、締結状態から空転状態への切り替えの際には、図9(b)に示すように各ローラ4a,4bをスキューさせてスムーズな解除係合を行えるし、空転状態から締結状態への切り替えの際には、各ローラ4a,4bを元の姿勢に戻しながら係合位置へ移動させて、安定した締結状態とすることができる。
【0055】
上述の回転伝達装置1は、例えば、図10に示す車両用操舵装置に使用される。この車両用操舵装置は、運転者によるステアリングホイール40の操舵角を電気信号に変換し、その電気信号に基づいて左右の車輪41を転舵するステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置である。
【0056】
この車両用操舵装置は、ステアリングホイール40と、そのステアリングホイール40の操舵角に応じて左右一対の車輪41の向きが変わるように一対の車輪41を動かす転舵アクチュエータ42と、ステアリングホイール40と転舵アクチュエータ42の間の回転伝達経路の途中に組み込まれた回転伝達装置1とを有する。ステアリングホイール40には、車両の挙動に応じてステアリングホイール40に操舵反力を与える反力アクチュエータ43が接続されている。
【0057】
回転伝達装置1は、入力軸7が軸継手44を介してステアリングホイール40側のシャフト45に接続されるとともに、出力軸8が軸継手46を介して転舵アクチュエータ42側のシャフト47に接続されている。そして、正常時はステアリングホイール40と転舵アクチュエータ42の間で回転の伝達を遮断し、電源喪失時などの異常時は、ステアリングホイール40と転舵アクチュエータ42の間で回転を伝達するフェールセーフ機構のクラッチとして機能する。
【0058】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1 回転伝達装置
2 外輪
3 内輪
4a,4b ローラ
5a 第1ローラ保持器
5b 第2ローラ保持器
6 保持器アクチュエータ
7 入力軸
8 出力軸
12 カム面
13 円筒面
14 ローラ離反ばね
17a,17b 当接部
26 運動変換機構
27 アーマチュア
28 ロータ
29 電磁石
40 ステアリングホイール
41 車輪
42 転舵アクチュエータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10