(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吸着剤が充填された複数の単位充填塔が配管を介して直列かつ無端状に連結された循環系を用いて、擬似移動層方式により原液中の成分を分離精製するクロマト分離方法であって、
前記循環系は、前記配管に、原液供給口F、弱吸着性画分抜出口A、溶離液供給口D、及び強吸着性画分抜出口Cを、流体の流通方向に向けてこの順に有し、かつ、前記原液供給口Fと前記弱吸着性画分抜出口Aとの間、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間、前記溶離液供給口Dと前記強吸着性画分抜出口Cとの間、及び前記強吸着性画分抜出口Cと前記原液供給口Fとの間には、少なくとも1つの前記単位充填塔が配設され、
前記クロマト分離方法は下記ステップ(a1)及び(b1)を順に繰り返すことを含み、且つ、前記ステップ(a1)を下記式(c1)及び(d1)を満たす条件で実施する、クロマト分離方法:
(a1)下記サブステップ(a−i)〜(a−v)をこの順に実施するステップ;
(a−i)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(a−ii)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(a−iii)前記原液供給口Fから原液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(a−iv)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(a−v)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記強吸着性画分抜出口Cから強吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b1)前記ステップ(a1)終了後、前記原液供給口F、前記弱吸着性画分抜出口A、前記溶離液供給口D及び前記強吸着性画分抜出口Cを、これらの相対的な位置関係を保ったまま流体の流通方向に向けて移行させるステップ。
(c1)成分Xの溶離体積<セクション4の積算流量
ここで、成分Xは、弱吸着性画分に回収する成分であり、且つ、下記式(d1)を満たす成分である。また、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間がセクション4である。
(d1)[前記サブステップ(a−iv)の積算流量+前記サブステップ(a−v)の積算流量]<[前記成分Xの溶離体積]<[前記サブステップ(a−ii)の積算流量+前記サブステップ(a−iv)の積算流量]
前記ステップ(a1)において、前記サブステップ(a−v)と前記ステップ(b1)との間に、下記サブステップ(a−vi)を行う、請求項1に記載のクロマト分離方法:
(a−vi)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ。
吸着剤が充填された複数の単位充填塔が配管を介して直列かつ無端状に連結された循環系を用いて、擬似移動層方式により原液中の成分を分離精製するクロマト分離方法であって、
前記循環系は、前記配管に、原液供給口F、弱吸着性画分抜出口A、溶離液供給口D、及び強吸着性画分抜出口Cを、流体の流通方向に向けてこの順に有し、かつ、前記原液供給口Fと前記弱吸着性画分抜出口Aとの間、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間、前記溶離液供給口Dと前記強吸着性画分抜出口Cとの間、及び前記強吸着性画分抜出口Cと前記原液供給口Fとの間には、少なくとも1つの前記単位充填塔が配設され、
前記クロマト分離方法は下記ステップ(a2)及び(b2)を順に繰り返すことを含み、且つ、前記ステップ(a2)を下記式(c2)及び(d2)を満たす条件で実施する、クロマト分離方法:
(a2)下記サブステップ(b−i)〜(b−iv)をこの順に実施するステップ;
(b−i)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(b−ii)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b−iii)前記原液供給口Fから原液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b−iv)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記強吸着性画分抜出口Cから強吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b2)前記ステップ(a2)終了後、前記原液供給口F、前記弱吸着性画分抜出口A、前記溶離液供給口D及び前記強吸着性画分抜出口Cを、これらの相対的な位置関係を保ったまま流体の流通方向に向けて移行させるステップ。
(c2)成分Xの溶離体積<セクション4の積算流量
ここで、成分Xは、弱吸着性画分に回収する成分であり、且つ、下記(d2)を満たす成分である。また、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間がセクション4である。
(d2)[前記サブステップ(b−i)の積算流量+前記サブステップ(b−ii)の積算流量+前記サブステップ(b−iv)の積算流量]<[2×(前記成分Xの溶離体積)]<[前記サブステップ(b−i)の積算流量+2×(前記サブステップ(b−ii)の積算流量)+前記サブステップ(b−iv)の積算流量]
前記ステップ(a2)において、前記サブステップ(b−iv)と前記ステップ(b2)との間に、下記サブステップ(b−v)を行い、且つ、前記ステップ(a2)を、前記式(d2)に代えて下記式(d2’)を満たす条件で実施する、請求項3に記載のクロマト分離方法:
(b−v)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ。
(d2’)[前記サブステップ(b−i)の積算流量+前記サブステップ(b−ii)の積算流量+前記サブステップ(b−iv)の積算流量+前記サブステップ(b−v)の積算流量]<[2×(前記成分Xの溶離体積)]<[前記サブステップ(b−i)の積算流量+2×(前記サブステップ(b−ii)の積算流量)+前記サブステップ(b−iv)の積算流量+前記サブステップ(b−v)の積算流量]
吸着剤が充填された複数の単位充填塔が配管を介して直列かつ無端状に連結された循環系を用いて、擬似移動層方式により原液中の成分を分離精製するクロマト分離システムであって、
前記循環系は、前記配管に、原液供給口F、弱吸着性画分抜出口A、溶離液供給口D、及び強吸着性画分抜出口Cを、流体の流通方向に向けてこの順に有し、かつ、前記原液供給口Fと前記弱吸着性画分抜出口Aとの間、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間、前記溶離液供給口Dと前記強吸着性画分抜出口Cとの間、及び前記強吸着性画分抜出口Cと前記原液供給口Fとの間には、少なくとも1つの前記単位充填塔が配設され、
下記ステップ(a1)及び(b1)を順に繰り返す手段を含み、且つ、前記ステップ(a1)を下記式(c1)及び(d1)を満たす条件で実施する手段を含む、クロマト分離システム:
(a1)下記サブステップ(a−i)〜(a−v)をこの順に実施するステップ;
(a−i)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(a−ii)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(a−iii)前記原液供給口Fから原液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(a−iv)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(a−v)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記強吸着性画分抜出口Cから強吸着性画分を抜き出すサブステップ。
(b1)前記ステップ(a1)終了後、前記原液供給口F、前記弱吸着性画分抜出口A、前記溶離液供給口D及び前記強吸着性画分抜出口Cを、これらの相対的な位置関係を保ったまま流体の流通方向に向けて移行させるステップ。
(c1)成分Xの溶離体積<セクション4の積算流量
ここで、成分Xは、弱吸着性画分に回収する成分であり、且つ、下記式(d1)を満たす成分である。また、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間がセクション4である。
(d1)[前記サブステップ(a−iv)の積算流量+前記サブステップ(a−v)の積算流量]<[前記成分Xの溶離体積]<[前記サブステップ(a−ii)の積算流量+前記サブステップ(a−iv)の積算流量]
前記ステップ(a1)が、前記サブステップ(a−v)と前記ステップ(b1)との間に、下記サブステップ(a−vi)を実施するものである、請求項6に記載のクロマト分離システム:
(a−vi)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ。
吸着剤が充填された複数の単位充填塔が配管を介して直列かつ無端状に連結された循環系を用いて、擬似移動層方式により原液中の成分を分離精製するクロマト分離システムであって、
前記循環系は、前記配管に、原液供給口F、弱吸着性画分抜出口A、溶離液供給口D、及び強吸着性画分抜出口Cを、流体の流通方向に向けてこの順に有し、かつ、前記原液供給口Fと前記弱吸着性画分抜出口Aとの間、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間、前記溶離液供給口Dと前記強吸着性画分抜出口Cとの間、及び前記強吸着性画分抜出口Cと前記原液供給口Fとの間には、少なくとも1つの前記単位充填塔が配設され、
下記ステップ(a2)及び(b2)を順に繰り返す手段を含み、且つ、前記ステップ(a2)を下記式(c2)及び(d2)を満たす条件で実施する手段を含む、クロマト分離システム:
(a2)下記サブステップ(b−i)〜(b−iv)をこの順に実施するステップ;
(b−i)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(b−ii)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b−iii)前記原液供給口Fから原液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b−iv)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記強吸着性画分抜出口Cから強吸着性画分を抜き出すサブステップ。
(b2)前記ステップ(a2)終了後、前記原液供給口F、前記弱吸着性画分抜出口A、前記溶離液供給口D及び前記強吸着性画分抜出口Cを、これらの相対的な位置関係を保ったまま流体の流通方向に向けて移行させるステップ;
(c2)成分Xの溶離体積<セクション4の積算流量
ここで、成分Xは、弱吸着性画分に回収する成分であり、且つ、下記(d2)を満たす成分である。また、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間がセクション4である。
(d2)[前記サブステップ(b−i)の積算流量+前記サブステップ(b−ii)の積算流量+前記サブステップ(b−iv)の積算流量]<[2×(前記成分Xの溶離体積)]<[前記サブステップ(b−i)の積算流量+2×(前記サブステップ(b−ii)の積算流量)+前記サブステップ(b−iv)の積算流量]
前記ステップ(a2)が、前記サブステップ(b−iv)と前記ステップ(b2)との間に、下記サブステップ(b−v)を実施するものであり、且つ、前記ステップ(a2)が、前記式(d2)に代えて下記式(d2’)を満たす条件で実施されるものである、請求項8に記載のクロマト分離方法:
(b−v)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ。
(d2’)[前記サブステップ(b−i)の積算流量+前記サブステップ(b−ii)の積算流量+前記サブステップ(b−iv)の積算流量+前記サブステップ(b−v)の積算流量]<[2×(前記成分Xの溶離体積)]<[前記サブステップ(b−i)の積算流量+2×(前記サブステップ(b−ii)の積算流量)+前記サブステップ(b−iv)の積算流量+前記サブステップ(b−v)の積算流量]
【背景技術】
【0002】
クロマト分離方法は、固定層方式と移動層方式に大別される。固定層方式では、多成分からなる試料(以下、「原液」ともいう。)を吸着剤が充填されたカラムに注入し、当該カラム中に溶離液を一方向に流通させることにより、吸着剤に対する吸着力の違いに基づき原液中の目的の成分を他の成分から分離精製する。この固定層方式は、吸着剤を固定したまま溶離液を流通させるだけで目的の成分を分離精製することができる。しかし、精製対象とする目的の成分(以下、単に「精製対象成分」ともいう。)とその他の成分との間に、吸着剤に対する吸着力においてある程度大きな差が無いと、固定層方式によって良好な分離精製を実現することができない。さらに、固定層方式では試料を連続的に注入しながら目的成分を分離することができず、工業的応用には制約がある。
【0003】
一方、移動層方式では、カラム中に溶離液を一方向に流通させながら、吸着剤を、溶離液の流通方向に対して逆方向に移動させる。移動層方式では、溶離液の流通速度や吸着剤の移動速度を調節することにより、原液の注入口を基準として、原液中の精製対象成分を、その他の成分の移動方向とは逆方向に移動させることができる。そのため、例えば原液中の精製対象成分がその他の成分に比べて強吸着性成分である場合には、原液の注入口を基準として、精製対象成分が上流側(流体の流通方向とは逆方向)へ、その他の成分が下流側(流体の流通方向)へと移動する系を構築することが可能となる。当該上流側において精製対象成分を抜き出し、当該下流側においてその他の成分を抜き出すことにより、原液を連続的に注入しながら、精製対象成分を連続的に、且つ、より高い純度で分離精製できる。
しかし、移動層方式の工業的応用は容易ではない。工業的に使用される大型のカラムを用いたクロマト分離システムにおいて、吸着剤を均一に移動させるのは技術的ハードルが高い。また、吸着剤を均一に移動させることができたとしても、この移動の際に吸着剤に大きな負荷がかかる。結果、吸着剤が破損(破砕)しやすくなり、構築したクロマト分離システムは耐久性等において実用性に劣るものとなりやすい。
【0004】
かかる移動層方式の問題点を解決すべく、擬似移動層方式によるクロマト分離技術が提案されている(例えば特許文献1、2)。この擬似移動層方式によるクロマト分離は、吸着剤が充填された複数の単位充填塔(カラム)を、配管を介して直列かつ無端状に連結してなる循環系を用いて実施される。この循環系において、上記配管には、精製対象成分を含む原液を供給するための原液供給口、弱吸着性画分の抜出口、溶離液供給口及び強吸着性画分の抜出口が、流体の流通方向に向けてこの順に設けられ、かつ、原液供給口と弱吸着性画分抜出口との間、弱吸着性画分抜出口と溶離液供給口との間、溶離液供給口と強吸着性画分抜出口との間、及び強吸着性画分抜出口と原液供給口との間には、それぞれに少なくとも1つの上記単位充填塔が配設される。そして、上記原液供給口、上記弱吸着性画分抜出口、上記溶離液供給口及び上記強吸着性画分抜出口を、これらの相対的な位置関係を維持した状態で流体の流通方向に向けて間欠的に移動させることにより、吸着剤を固定した状態であるにも関わらず、吸着剤を流体の流通方向に対して逆方向に移動させたのと同じような効果を得ることができる。
【0005】
上記擬似移動層方式によるクロマト分離技術は当初、いわゆるクラシカルSMB(Simulated Moving Bed chromatography)と呼ばれる方式で行われていた。このクラシカルSMBでは、その運転中に原液と溶離液は常に供給され続け、弱吸着性画分と強吸着性画分は常に抜き出される。クラシカルSMBにおいて、原液と溶離液の供給流量と、弱吸着性画分と強吸着性画分の抜き出し流量は、一定である(例えば特許文献2)。
【0006】
その後、クラシカルSMBの分離性能の向上を目的として、1つのステップの中で、原液の供給、溶離液の供給、弱吸着性画分の抜出、強吸着性画分の抜出の各操作を分割して行う方法(サブステップ方式)が検討されてきた。ここで「ステップ」とは、原液供給口、弱吸着性画分抜出口、溶離液供給口及び強吸着性画分抜出口を、これらの相対的な位置関係を維持した状態で流体の流通方向に向けて間欠的に移動させることにより区切られる時間を意味する。つまり、原液供給口、弱吸着性画分抜出口、溶離液供給口及び強吸着性画分抜出口を流通方向に向けて移動させた後、次の移動までの間を1ステップとし、この1ステップ中に、いずれかの供給口を閉じたり、いずれかの抜出口を閉じたり、あるいはすべての供給口と抜出口を閉じて液を循環させたりして、目的物質の純度、濃度等をより高めることが検討されてきた。
【0007】
このサブステップ方式の例として、例えば特許文献1の実施例3には、1ステップ中に下記サブステップ1〜3を順次実施することが記載されている。
<サブステップ1>
原液と溶離液を共に供給しながら強吸着性画分と弱吸着性画分を共に抜出す。
<サブステップ2>
溶離液のみを供給しながら弱吸着性画分のみを抜出す。
<サブステップ3>
供給と抜出を一切行わず、液を循環させる。
【0008】
また、特許文献3の実施例1には、1ステップ中に下記サブステップ1〜5を実施することが記載されている。
<サブステップ1>
溶離液のみを供給しながら弱吸着性画分のみを抜出す。
<サブステップ2>
原液のみを供給しながら弱吸着性画分のみを抜出す。
<サブステップ3>
供給と抜出を一切行わず、液を循環させる。
<サブステップ4>
溶離液のみを供給しながら強吸着性画分のみを抜出す。
<サブステップ5>
供給と抜出を一切行わず、液を循環させる。
【0009】
ここで、擬似移動層方式によるクロマト分離において、良好な分離精製を実現するために必要な、液の供給ないし抜出の条件について、
図2に示す擬似移動層方式の概念図を参照して説明する。
図2は、溶離液供給口Dと強吸着性画分抜出口Cとの間をセクション1、強吸着性画分抜出口Cと原液供給口Fとの間をセクション2、原液供給口Fと弱吸着性画分抜出口Aとの間をセクション3、弱吸着性画分抜出口Aと溶離液供給口Dまでの間をセクション4として表している。また、V1〜V4はそれぞれ、1ステップ当たりの、セクション1〜4の積算流量を意味する。
図2中の矢印は流体の流れる方向を示す。なお、下記説明は、各セクションにつき同一のカラム1本ずつを用いている場合を想定したものである。
【0010】
図2中、セクション2及び3に着目すると、擬似移動層方式を実現するには、積算流量V2で、弱吸着性成分がセクション2の長さを超えて移動し、強吸着性成分の移動は、セクション2の距離未満に抑える必要があり、また、積算流量V3で、弱吸着性成分がセクション3の長さを超えて移動し、強吸着性成分の移動は、セクション3の距離未満に抑える必要がある。こうすることで、各口D、C,F、Aの位置を基準として、これらを下流側へと移動させた際に、弱吸着性成分はさらに下流側へ、強吸着性成分については上流側へと、相対的に(擬似的に)移動させることができる。すなわち、弱吸着性成分を抜出口Aから、強吸着性成分を抜出口Cから、それぞれ抜き出すことができる。
すなわち、セクションj(j=1〜4のいずれか)の積算流量をV
jacc、強吸着性成分をS、このSの溶離体積(1つのセクションの長さを通過するのに必要な液量)をV
Selutionとし、弱吸着性成分をW、このWの溶離体積をV
Welutionとすると、下記式(1)〜(4)が成立する。
V
2acc>V
Welution 式(1)
V
2acc<V
Selution 式(2)
V
3acc>V
Welution 式(3)
V
3acc<V
Selution 式(4)
【0011】
一方、セクション1に着目すると、積算流量V1で、強吸着性成分の移動距離がセクション1の長さ未満であると、強吸着性成分(抜出口Cから抜き出されずに上流側へと通過してしまった強吸着性成分)を抜出口Cから抜き出すことができない。したがって、セクション1においては、積算流量V1で、強吸着性成分の移動距離がセクション1の長さを超えて移動する必要があるとされる。
すなわち、下記式(5)が成立する。
V
1acc>V
Selution 式(5)
【0012】
また、セクション4に着目すると、積算流量V4で、弱吸着性成分の移動距離がセクション4の長さを超えると、弱吸着性成分(抜出口Aから抜き出されずに通過してしまった弱吸着性成分)を抜出口Aから抜き出すことができない。したがって、セクション4においては、積算流量V4で、弱吸着性成分の移動距離がセクション4の長さ未満とする必要があるとされる。
すなわち、下記式(6)が成立する。
V
4acc<V
Welution 式(6)
【0013】
上記各式を満たす関係はいわゆるトライアングルセオリーと呼ばれ、例えば、Journal of Chromatography A,1216(2009)p.709−738等においても報告されている。
【0014】
続いて、試料中に弱吸着性成分Wとして互いに吸着性の異なる複数成分が存在する場合、及び/又は、強吸着性成分Sとして互いに吸着性の異なる複数成分存在する場合における上記トライアングルセオリーの成立条件について検討する。この場合、吸着性が強いほど溶離体積が大きくなることから、必然的に下記式(7)〜(10)が成立する。
V
SFelution<V
NSFelution 式(7)
V
SLelution>V
NSLelution 式(8)
V
WFelution<V
NWFelution 式(9)
V
WLelution>V
NWLelution 式(10)
(符号の説明)
SF :強吸着性成分のうち最も吸着性の低い成分
NSF:強吸着性成分のうちSF以外の成分
SL :強吸着性成分のうち最も吸着性の高い成分
NSL:強吸着性成分のうちSL以外の成分
WF :弱吸着性成分のうち最も吸着性の低い成分
NWF:弱吸着性成分のうちWF以外の成分
WL :弱吸着性成分のうち最も吸着性の高い成分
NWL:弱吸着性成分のうちWL以外の成分
また、上記式(7)〜(10)に加え、擬似移動層方式では、下記式(11)も成立している。原液供給量の分だけ、V
2accよりもV
3accが多くなるからである。
V
3acc>V
2acc 式(11)
上記式(11)を満たすことを考慮すると、トライアングルセオリーの上記式(1)〜(4)を満たすことは、すなわち上記式(1)及び(4)を満たすことと同義であることがわかる。さらに上記式(7)〜(10)を考慮すると、トライアングルセオリーを成立させるには、下記式(1’)、(4’)、(5’)及び(6’)を満たせばよいことがわかる。(式(1’)、(4’)、(5’)及び(6’)はそれぞれ式(1)、(4)、(5)及び(6)に対応する。)
V
1acc>V
SLelution 式(5’)
V
2acc>V
WLelution 式(1’)
V
3acc<V
SFelution 式(4’)
V
4acc<V
WFelution 式(6’)
【0015】
以上がトライアングルセオリーを成立させるための条件の説明であり、擬似移動層方式ではこのトライアングルセオリーを満たす運転条件により、目的物の分離、精製が行われている。なお、トライアングルセオリーは各セクションにカラムが2本以上ある場合にも適用でき、この場合、上記説明における「セクションの長さ」を「カラム1本分の長さ」に読み替えればよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
クロマト分離においては、精製対象成分を含む原液に加えて、原液を押し流す溶離液が供給される。そのため、精製対象成分を含む目的の画分(以下、「精製対象画分」ともいう。)は、精製対象成分が溶離液により一定程度希釈された状態にある。したがって、クロマト分離によって得られた精製対象画分は、通常は濃縮操作を経て出荷等されるのであるが、この濃縮操作は精製コストを押し上げる一因となる。他方、精製対象画分以外の画分は廃棄等の対象となる。廃棄物の量を減らすために、廃棄画分中の溶離液の量を低減することが望まれている。
上記の問題に対処するには、精製対象画分中の精製対象成分の濃度ないしは廃棄画分中の廃棄対象成分の濃度を高めることが求められる。しかし、トライアングルセオリーでは原液の量に対する溶離液の量の比に下限値があり、溶離液の使用量をこの下限値よりも少なくすることはできない。このことを、
図2を参照して以下に説明する。
【0018】
溶離液はセクション1とセクション4の間から供給され、また、原液はセクション3とセクション2の間から供給されるため、溶離液の積算流量V
Daccと原液の積算流量V
Faccは下記式(12)及び(13)で表すことができる。
V
Dacc=V
1acc−V
4acc 式(12)
V
Facc=V
3acc−V
2acc 式(13)
したがって、原液の積算流量に対する溶離液の積算流量の比は下記式(14)で表される。
V
Dacc/V
Facc=(V
1acc−V
4acc)/(V
3acc−V
2acc) 式(14)
一方、上記式(5’)、(1’)、(4’)及び(6’)に示された関係からは下記式(15)及び(16)が導かれる。
V
1acc−V
4acc>V
SLelution−V
WFelution 式(15)
V
3acc−V
2acc<V
SFelution−V
WLelution 式(16)
上記式(14)に上記式(15)及び(16)に示された関係を当てはめると、下記式(17)が導かれる。
V
Dacc/V
Facc>(V
SLelution−V
WFelution)/(V
SFelution−V
WLelution) 式(17)
上記式(17)から、トライアングルセオリーにおいて、原液の積算流量に対する溶離液の積算流量の比「V
Dacc/V
Facc」には下限値があることが理解でき、この下限値を下回る溶離液の使用量では良好な分離精製を実現することができないとされる。
式(17)の右辺は
{(V
SLelution−V
SFelution)+(V
SFelution−V
WLelution)+(V
WLelution−V
WFelution)}/(V
SFelution−V
WLelution)
とも書けるので、強吸着性画分に回収すべき成分のリテンションタイムの分布が広いとき(すなわちV
SLelution−V
SFelutionが大きいとき)、及び/又は、弱吸着性画分に回収すべき成分のリテンションタイムの分布が広いとき(すなわちV
WLelution−V
WFelutionが大きいとき)には、「V
Dacc/V
Facc」の下限値は大きい値となり、厳しい制限となる。
【0019】
そこで本発明は、擬似移動層方式を用いたクロマト分離方法であって、溶離液の使用量を効果的に低減でき、原液中の精製対象成分を高い回収率で、高純度に分離精製することができるクロマト分離方法を提供することを課題とする。
また、本発明は上記クロマト分離方法の実施に好適なクロマト分離システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、擬似移動層方式を用いたクロマト分離方法において、トライアングルセオリーにおける溶離液の使用量の下限値をさらに下回る、少量の溶離液使用量であっても(すなわち、原液使用量に対する溶離液使用量の比を低減しても)、1ステップ内において実施するサブステップの組み合わせとして特定の組み合わせを採用し、当該サブステップを特定条件で実施することにより、精製対象成分を優れた回収率で、十分に高純度に得ることができることを見い出した。本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0021】
本発明の上記課題は下記手段により解決された。
〔1〕
吸着剤が充填された複数の単位充填塔が配管を介して直列かつ無端状に連結された循環系を用いて、擬似移動層方式により原液中の成分を分離精製するクロマト分離方法であって、
前記循環系は、前記配管に、原液供給口F、弱吸着性画分抜出口A、溶離液供給口D、及び強吸着性画分抜出口Cを、流体の流通方向に向けてこの順に有し、かつ、前記原液供給口Fと前記弱吸着性画分抜出口Aとの間、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間、前記溶離液供給口Dと前記強吸着性画分抜出口Cとの間、及び前記強吸着性画分抜出口Cと前記原液供給口Fとの間には、少なくとも1つの前記単位充填塔が配設され、
前記クロマト分離方法は下記ステップ(a1)及び(b1)を順に繰り返すことを含み、且つ、前記ステップ(a1)を下記式(c1)及び(d1)を満たす条件で実施する、クロマト分離方法:
(a1)下記サブステップ(a−i)〜(a−v)をこの順に実施するステップ;
(a−i)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(a−ii)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(a−iii)前記原液供給口Fから原液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(a−iv)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(a−v)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記強吸着性画分抜出口Cから強吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b1)前記ステップ(a1)終了後、前記原液供給口F、前記弱吸着性画分抜出口A、前記溶離液供給口D及び前記強吸着性画分抜出口Cを、これらの相対的な位置関係を保ったまま流体の流通方向に向けて移行させるステップ。
(c1)成分Xの溶離体積<セクション4の積算流量
ここで、成分Xは、弱吸着性画分に回収する成分であり、且つ、下記式(d1)を満たす成分である。
また、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間がセクション4である。
(d1)[前記サブステップ(a−iv)の積算流量+前記サブステップ(a−v)の積算流量]<[前記成分Xの溶離体積]<[前記サブステップ(a−ii)の積算流量+前記サブステップ(a−iv)の積算流量]
【0022】
〔2〕
前記ステップ(a1)において、前記サブステップ(a−v)と前記ステップ(b1)との間に、下記サブステップ(a−vi)を行う、〔1〕に記載のクロマト分離方法:
(a−vi)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ。
【0023】
〔3〕
吸着剤が充填された複数の単位充填塔が配管を介して直列かつ無端状に連結された循環系を用いて、擬似移動層方式により原液中の成分を分離精製するクロマト分離方法であって、
前記循環系は、前記配管に、原液供給口F、弱吸着性画分抜出口A、溶離液供給口D、及び強吸着性画分抜出口Cを、流体の流通方向に向けてこの順に有し、かつ、前記原液供給口Fと前記弱吸着性画分抜出口Aとの間、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間、前記溶離液供給口Dと前記強吸着性画分抜出口Cとの間、及び前記強吸着性画分抜出口Cと前記原液供給口Fとの間には、少なくとも1つの前記単位充填塔が配設され、
前記クロマト分離方法は下記ステップ(a2)及び(b2)を順に繰り返すことを含み、且つ、前記ステップ(a2)を下記式(c2)及び(d2)を満たす条件で実施する、クロマト分離方法:
(a2)下記サブステップ(b−i)〜(b−iv)をこの順に実施するステップ;
(b−i)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(b−ii)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b−iii)前記原液供給口Fから原液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b−iv)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記強吸着性画分抜出口Cから強吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b2)前記ステップ(a2)終了後、前記原液供給口F、前記弱吸着性画分抜出口A、前記溶離液供給口D及び前記強吸着性画分抜出口Cを、これらの相対的な位置関係を保ったまま流体の流通方向に向けて移行させるステップ。
(c2)成分Xの溶離体積<セクション4の積算流量
ここで、成分Xは、弱吸着性画分に回収する成分であり、且つ、下記(d2)を満たす成分である。
また、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間がセクション4である。
(d2)[前記サブステップ(b−i)の積算流量+前記サブステップ(b−ii)の積算流量+前記サブステップ(b−iv)の積算流量]<[2×(前記成分Xの溶離体積)]<[前記サブステップ(b−i)の積算流量+2×(前記サブステップ(b−ii)の積算流量)+前記サブステップ(b−iv)の積算流量]
【0024】
〔4〕
前記ステップ(a2)において、前記サブステップ(b−iv)と前記ステップ(b2)との間に、下記サブステップ(b−v)を行い、且つ、前記ステップ(a2)を、前記式(d2)に代えて下記式(d2’)を満たす条件で実施する、〔3〕に記載のクロマト分離方法:
(b−v)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ。
(d2’)[前記サブステップ(b−i)の積算流量+前記サブステップ(b−ii)の積算流量+前記サブステップ(b−iv)の積算流量+前記サブステップ(b−v)の積算流量]<[2×(前記成分Xの溶離体積)]<[前記サブステップ(b−i)の積算流量+2×(前記サブステップ(b−ii)の積算流量)+前記サブステップ(b−iv)の積算流量+前記サブステップ(b−v)の積算流量]
【0025】
〔5〕
前記循環系が前記単位充填塔を少なくとも4塔有する、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のクロマト分離方法。
【0026】
〔6〕
吸着剤が充填された複数の単位充填塔が配管を介して直列かつ無端状に連結された循環系を用いて、擬似移動層方式により原液中の成分を分離精製するクロマト分離システムであって、
前記循環系は、前記配管に、原液供給口F、弱吸着性画分抜出口A、溶離液供給口D、及び強吸着性画分抜出口Cを、流体の流通方向に向けてこの順に有し、かつ、前記原液供給口Fと前記弱吸着性画分抜出口Aとの間、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間、前記溶離液供給口Dと前記強吸着性画分抜出口Cとの間、及び前記強吸着性画分抜出口Cと前記原液供給口Fとの間には、少なくとも1つの前記単位充填塔が配設され、
下記ステップ(a1)及び(b1)を順に繰り返す手段を含み、且つ、前記ステップ(a1)を下記式(c1)及び(d1)を満たす条件で実施する手段を含む、クロマト分離システム:
(a1)下記サブステップ(a−i)〜(a−v)をこの順に実施するステップ;
(a−i)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(a−ii)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(a−iii)前記原液供給口Fから原液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(a−iv)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(a−v)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記強吸着性画分抜出口Cから強吸着性画分を抜き出すサブステップ。
(b1)前記ステップ(a1)終了後、前記原液供給口F、前記弱吸着性画分抜出口A、前記溶離液供給口D及び前記強吸着性画分抜出口Cを、これらの相対的な位置関係を保ったまま流体の流通方向に向けて移行させるステップ。
(c1)成分Xの溶離体積<セクション4の積算流量
ここで、成分Xは、弱吸着性画分に回収する成分であり、且つ、下記式(d1)を満たす成分である。
また、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間がセクション4である。
(d1)[前記サブステップ(a−iv)の積算流量+前記サブステップ(a−v)の積算流量]<[前記成分Xの溶離体積]<[前記サブステップ(a−ii)の積算流量+前記サブステップ(a−iv)の積算流量]
【0027】
〔7〕
前記ステップ(a1)が、前記サブステップ(a−v)と前記ステップ(b1)との間に、下記サブステップ(a−vi)を実施するものである、〔6〕に記載のクロマト分離システム:
(a−vi)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ。
〔8〕
吸着剤が充填された複数の単位充填塔が配管を介して直列かつ無端状に連結された循環系を用いて、擬似移動層方式により原液中の成分を分離精製するクロマト分離システムであって、
前記循環系は、前記配管に、原液供給口F、弱吸着性画分抜出口A、溶離液供給口D、及び強吸着性画分抜出口Cを、流体の流通方向に向けてこの順に有し、かつ、前記原液供給口Fと前記弱吸着性画分抜出口Aとの間、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間、前記溶離液供給口Dと前記強吸着性画分抜出口Cとの間、及び前記強吸着性画分抜出口Cと前記原液供給口Fとの間には、少なくとも1つの前記単位充填塔が配設され、
下記ステップ(a2)及び(b2)を順に繰り返す手段を含み、且つ、前記ステップ(a2)を下記式(c2)及び(d2)を満たす条件で実施する手段を含む、クロマト分離システム:
(a2)下記サブステップ(b−i)〜(b−iv)をこの順に実施するステップ;
(b−i)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(b−ii)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b−iii)前記原液供給口Fから原液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b−iv)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記強吸着性画分抜出口Cから強吸着性画分を抜き出すサブステップ。
(b2)前記ステップ(a2)終了後、前記原液供給口F、前記弱吸着性画分抜出口A、前記溶離液供給口D及び前記強吸着性画分抜出口Cを、これらの相対的な位置関係を保ったまま流体の流通方向に向けて移行させるステップ;
(c2)成分Xの溶離体積<セクション4の積算流量
ここで、成分Xは、弱吸着性画分に回収する成分であり、且つ、下記(d2)を満たす成分である。
また、前記弱吸着性画分抜出口Aと前記溶離液供給口Dとの間がセクション4である。
(d2)[前記サブステップ(b−i)の積算流量+前記サブステップ(b−ii)の積算流量+前記サブステップ(b−iv)の積算流量]<[2×(前記成分Xの溶離体積)]<[前記サブステップ(b−i)の積算流量+2×(前記サブステップ(b−ii)の積算流量)+前記サブステップ(b−iv)の積算流量]
【0028】
〔9〕
前記ステップ(a2)が、前記サブステップ(b−iv)と前記ステップ(b2)との間に、下記サブステップ(b−v)を実施するものであり、且つ、前記ステップ(a2)が、前記式(d2)に代えて下記式(d2’)を満たす条件で実施されるものである、〔8〕に記載のクロマト分離方法:
(b−v)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ。
(d2’)[前記サブステップ(b−i)の積算流量+前記サブステップ(b−ii)の積算流量+前記サブステップ(b−iv)の積算流量+前記サブステップ(b−v)の積算流量]<[2×(前記成分Xの溶離体積)]<[前記サブステップ(b−i)の積算流量+2×(前記サブステップ(b−ii)の積算流量)+前記サブステップ(b−iv)の積算流量+前記サブステップ(b−v)の積算流量]
【0029】
本明細書において、「上流」、「下流」との用語は、循環系内の流体の流通方向に対して用いられる。すなわち、循環系のある部位に対して「上流側」とは、当該部位に向けて流体が流通してくる側を意味し、「下流側」とは、当該部位から流体が流れ出ていく側を意味する。
本明細書において、「強吸着性成分」とは、原液中に含まれる複数成分のうち、吸着剤に対する吸着力が強い成分を意味し、「弱吸着性成分」とは、上記強吸着性成分よりも吸着剤に対する吸着性の弱い成分を意味する。つまり「強吸着性」及び「弱吸着性」との用語は、原液中に含まれる各成分について、吸着剤に対する吸着力を相対的に比較した際の、当該吸着力の強さの度合を表すものである。
また、「強吸着性成分」及び「弱吸着性成分」は、それぞれ、単一成分からなってもよく、複数の成分からなってもよい。また、この複数の成分は吸着力が同じでも異なってもよい。精製対象成分は単一成分であることが多いため、強吸着性成分が精製対象成分である場合、当該強吸着性成分は通常は、原液中で、吸着剤に対する吸着力が最も強い成分となるが、本発明はこの態様に限定されるものではない。弱吸着性成分は、当該強吸着性成分よりも吸着剤に対する吸着性の弱い、1種又は2種以上の成分となる。同様に、弱吸着性成分が精製対象成分である場合、当該弱吸着性成分は通常は、原液中で、吸着剤に対する吸着力が最も弱い成分となるが、本発明はこの態様に限定されるものではない。強吸着性成分は、当該弱吸着性成分よりも吸着剤に対する吸着性の強い、1種又は2種以上の成分となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のクロマト分離方法によれば、原液使用量に対する溶離液の使用量を低減しながら、原液中の精製対象成分を優れた回収率で、高純度に分離精製することができる。また、本発明のクロマト分離システムは、上記本発明のクロマト分離方法の実施に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のクロマト分離方法(以下、単に「本発明の方法」ともいう。)の好ましい実施形態について説明する。
【0033】
本発明の方法は、吸着剤が充填された複数の単位充填塔が配管を介して直列かつ無端状に連結された循環系を用いて実施される。擬似移動層方式に用いられる循環系自体は公知であり、例えば、特開2009−36536号公報や、特公平7−46097号公報を参照することができる。
当該循環系について図面を用いて以下に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
なお、以下で言及する図面は本発明の理解を容易にするための説明図であり、各構成のサイズや相対的な大小関係は説明の便宜上大小を変えている場合があり、実際の関係をそのまま示すものではない。また、本発明で規定する事項以外はこれらの図面に示された形状、相対的な位置関係等に限定されるものでもない。
【0034】
本発明の方法に用いる循環系の好ましい一実施形態を
図1に示す。
図1に示される循環系100は、吸着剤Abが充填された単位充填塔(カラム)を4本(単位充填塔10a、10b、10c、10d)備え、各単位充填塔の出口は、隣接する単位充填塔の入口へと配管1を介して連結され、全体として各単位充填塔が直列に連結されている。
そして、最後部の単位充填塔(例えば単位充填塔10d)の出口は、最前部の単位充填塔(例えば単位充填塔10a)の入口へと配管1を介して連結され、全単位充填塔は無端状に(円環状に)連結されている。かかる構成により、循環系100内に、流体を循環させることが可能となる。単位充填塔10a〜10dは、内部の形、サイズ、吸着剤の充填量がいずれも等価なもの(好ましくは同じもの)を用いることが好ましい。
【0035】
上記循環系100内には、流体を矢印方向に流通させるための循環ポンプP1が配設されている。循環ポンプP1は定量ポンプであることが好ましい。また、循環系100内において、隣接する2つの単位充填塔の間の配管1には、その下流側の単位充填塔への流体の流通を遮断可能な遮断弁R1、R2、R3、R4が設けられている。
【0036】
各遮断弁R1〜R4と、その上流側に位置する各単位充填塔10a〜10dの出口との間には、それぞれ、吸着剤Abに対する弱吸着性成分を多く含む画分(本明細書において「吸着剤Abに対する弱吸着性画分」又は単に「弱吸着性画分」という。)を抜き出す弱吸着性画分抜出ライン2a、2b、2c、2dが分岐されている。各弱吸着性画分抜出ライン2a、2b、2c、2dには、それぞれ、各弱吸着性画分抜出ラインを開閉可能な弱吸着性画分抜出弁A1、A2、A3、A4が設けられている。各弱吸着性画分抜出ライン2a、2b、2c、2dは、合流されて一つの弱吸着性画分合流管3にまとめられる。
【0037】
また同様に、各遮断弁R1〜R4と、その上流側に位置する各単位充填塔10a〜10dの出口との間には、吸着剤Abに対する強吸着性成分を多く含む画分(本明細書において「吸着剤Abに対する強吸着性画分」又は単に「強吸着性画分」という。)を抜き出す強吸着性画分抜出ライン4a、4b、4c、4dが分岐されている。各強吸着性画分抜出ライン4a、4b、4c、4dには、それぞれ、各強吸着性画分抜出ラインを開閉可能な強吸着性画分抜出弁C1、C2、C3、C4が設けられている。各強吸着性画分抜出ライン4a、4b、4c、4dは、合流されて一つの強吸着性画分合流管5にまとめられる。
【0038】
後述するステップ(a1)及び(a2)の中で、上記弱吸着性画分抜出弁A1、A2、A3、A4のいずれかが開弁された状態となる。当該開弁された抜出弁が設置された弱吸着性画分抜出ラインと、配管1との連結部位が、当該ステップ(a1)及び(a2)における弱吸着性画分の抜出口Aとなる。また、ステップ(a1)及び(a2)においては、上記強吸着性画分抜出弁C1、C2、C3、C4のいずれかが開弁された状態となる。当該開弁された抜出弁の設置された強吸着性画分抜出ラインと、配管1との連結部位が、ステップ(a1)及び(a2)における強吸着性画分の抜出口Cとなる。
【0039】
循環系100には、循環系100の圧力が上昇し過ぎるのを防ぐために、適当な部位に図示していない安全弁(又はリリーフ弁)を設けることが好ましい。また、隣接する2つの単位充填塔の間には、逆流防止用の逆止弁T1、T2、T3、T4を設ける。
【0040】
循環系100内には、
図1に示されるように、原液タンク6に収容された原液7と、溶離液タンク8に収容された溶離液9が供給可能な構成となっている。原液7は、供給流量を制御可能な原液供給ポンプP2により、原液供給ライン11を介して供給される。原液供給ポンプP2は定量ポンプであることが好ましい。原液供給ライン11は、原液の供給中、供給圧が設定圧を超えた場合に、原液を原液タンク6に戻すリリーフ弁Uを備えることが好ましい。原液供給ライン11は、
図1に示すように4本の原液供給分岐ライン11a、11b、11c、11dに分岐され、各原液供給分岐ライン11a、11b、11c、11dを介して、原液を、それぞれ各単位充填塔10a、10b、10c、10dの入り口へと供給可能な構成となっている。各原液供給分岐ライン11a、11b、11c、11dには、開閉可能な原液供給弁F1、F2、F3、F4が設けられ、開弁された原液供給弁を有する原液供給分岐ラインを通って、その下流に連結する単位充填塔へと原液が供給される。
後述するステップ(a1)及び(a2)の中で、上記原液供給弁F1、F2、F3、F4のいずれかが開弁された状態となる。当該開弁された原液供給弁が設置された原液供給分岐ラインと、配管1との連結部位が、ステップ(a1)及び(a2)における原液供給口Fとなる。
【0041】
溶離液9は、供給流量の制御が可能な溶離液供給ポンプP3により、溶離液供給ライン12を介して供給される。溶離液供給ポンプP3は定量ポンプであることが好ましい。溶離液供給ライン12は、溶離液の供給中、供給圧が設定圧を超えた場合に、溶離液を溶離液タンク8に戻すリリーフ弁Vを備えることが好ましい。溶離液供給ライン12は、
図1に示すように4本の溶離液供給分岐ライン12a、12b、12c、12dに分岐され、各溶離液供給分岐ライン12a、12b、12c、12dを介して、溶離液を、各単位充填塔10a、10b、10c、10dの入り口へと供給可能な構成となっている。各溶離液供給分岐ライン12a、12b、12c、12dには、開閉可能な溶離液供給弁D1、D2、D3、D4が設けられ、開弁された溶離液供給弁を有する溶離液供給分岐ラインを通って、その下流に連結する単位充填塔へと溶離液が供給される。
後述するステップ(a1)及び(a2)の中で、上記溶離液供給弁D1、D2、D3、D4のいずれかが開弁された状態となる。当該開弁された溶離液供給弁が設置された溶離液供給分岐ラインと、配管1との連結部位が、ステップ(a1)及び(a2)における溶離液供給口Dとなる。
【0042】
続いて、上記循環系により本発明の方法を実施する際の、当該循環系の作動について説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外は、これらの実施態様に限定されるものではない。本発明の方法の一実施態様(以下、「実施態様−1」ともいう。)では、上記循環系を用いて、下記ステップ(a1)及び(b1)を順に繰り返す。
【0043】
(a1)下記サブステップ(a−i)〜(a−v)をこの順に実施するステップ;
(a−i)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(a−ii)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(a−iii)前記原液供給口Fから原液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(a−iv)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(a−v)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記強吸着性画分抜出口Cから強吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b1)前記ステップ(a1)終了後(すなわち上記サブステップ(a−v)終了後)、前記原液供給口F、前記弱吸着性画分抜出口A、前記溶離液供給口D及び前記強吸着性画分抜出口Cを、これらの相対的な位置関係を保ったまま流体の流通方向に向けて移行させるステップ;
【0044】
[ステップ(a1)]
上記ステップ(a1)は、5つのサブステップ(a−i)〜(a−v)を順次実行するステップである。各サブステップについて、
図1に示す循環系を参照して説明する。
【0045】
<サブステップ(a−i)>
サブステップ(a−i)では、原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環ポンプP1を作動させて循環系内の流体を単に循環させる。原液供給ポンプP2と溶離液供給ポンプP3が停止していれば、原液供給弁F1〜F4及び溶離液供給弁D1〜D4は開いていてもよいが、より高精度に流体を制御する観点から、原液供給弁F1〜F4及び溶離液供給弁D1〜D4は閉じていることが好ましい。抜出弁A1〜A4及び抜出弁C1〜C4はいずれも閉じており、遮断弁R1〜R4はいずれも開いている。
【0046】
サブステップ(a−i)において、系内の流体の循環流量は、1時間当たり、単位充填塔10aに充填された吸着剤Abの1リットル当たり、1〜20リットルとすることが好ましく、2〜10リットルとすることがより好ましい。
【0047】
<サブステップ(a−ii)>
サブステップ(a−ii)では、溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出す。このサブステップ(a−ii)において溶離液供給弁D3を開き、溶離液供給ポンプP3を作動させて、供給弁D3を有する溶離液供給分岐ライン12cと、配管1との連結部位を溶離液供給口Dとする場合には、抜出口A1を開き、弱吸着性画分抜出ライン2aと配管1との連結部位を弱吸着性画分抜出口Aとする。
【0048】
上記サブステップ(a−ii)では、溶離液供給弁D1、D2及びD4、弱吸着性画分抜出弁A3及びA4、強吸着性画分抜出弁C1、C3及びC4、及び遮断弁R1はいずれも閉じられている。吸着性画分抜出弁A2及び強吸着性画分抜出弁C2は閉じていることが好ましい。原液供給弁F1〜F4は、原液供給ポンプP2が停止していれば開弁していてもよいが、液の供給と抜き出しをより高精度に実施するためには、原液供給弁F1〜F4は閉じられていることが好ましい。遮断弁R2は開いていても閉じていてもよく、閉じていることが好ましい。遮断弁R3及びR4はいずれも開かれている。また、循環ポンプP1は作動させてもよいし、停止してもよい。
【0049】
上記サブステップ(a−ii)において、上記溶離液供給口Dから供給される溶離液の量に特に制限はないが、1時間当たり、単位充填塔10aに充填された吸着剤Abの1リットル当たり、1〜20リットルとすることが好ましく、2〜10リットルとすることがより好ましい。サブステップ(a−ii)における溶離液の総供給量は、すなわち、サブステップ(a−ii)において弱吸着性画分抜出口Aから抜き出される弱吸着性画分の総量と事実上同じ量となる。
なお、下記の各サブステップの説明は、サブステップ(a−ii)において上記のように溶離液供給弁D3を開く運転態様における説明である。
【0050】
<サブステップ(a−iii)>
サブステップ(a−iii)では、原液供給口Fから原液を供給しながら、弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出す。すなわち、上記サブステップ(a−ii)において作動させていた溶離液供給ポンプP3を停止し、あるいはさらに溶離液供給弁D3を閉じ、代わりに原液供給弁F1を開弁して原液供給ポンプP2を作動させる。そしてサブステップ(a−ii)と同様に、弱吸着性画分抜出弁A1を有する弱吸着性画分抜出ライン2aと配管1との連結部位を弱吸着性画分抜出口Aとして、当該抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出す。
【0051】
サブステップ(a−iii)では、原液供給弁F2〜F4、遮断弁R1及び強吸着性画分抜出弁C1はいずれも閉じられている。弱吸着性画分抜出弁A2〜A4、強吸着性画分抜出弁C2〜C4は閉じられていることが好ましい。なお、溶離液供給弁D1〜D4は、溶離液供給ポンプP3が停止していれば開弁していてもよいのであるが、液の供給と抜き出しをより高精度に実施するためには、溶離液供給弁D1〜D4は閉じられていることが好ましい。遮断弁R2〜4は開いていても閉じていてもよい。また、循環ポンプP1は停止させる。
【0052】
サブステップ(a−iii)において、上記原液供給口Fから供給される原液の量に特に制限はないが、1時間当たり、単位充填塔10aに充填された吸着剤Abの1リットル当たり、1〜20リットルとすることが好ましく、2〜10リットルとすることがより好ましい。サブステップ(a−iii)における原液の総供給量は、すなわち、サブステップ(a−iii)において弱吸着性画分抜出口Aから抜き出される弱吸着性画分の総量と事実上同じ量となる。
【0053】
<サブステップ(a−iv)>
サブステップ(a−iv)では、上述したサブステップ(a−i)と同様に、原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環ポンプP1を作動させて循環系内の流体を単に循環させる。
【0054】
サブステップ(a−iv)において、系内の流体の循環流量は、1時間当たり、単位充填塔10aに充填された吸着剤Abの1リットル当たり、1〜20リットルとすることが好ましく、2〜10リットルとすることがより好ましい。
【0055】
<サブステップ(a−v)>
サブステップ(a−v)では、溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、強吸着性画分抜出口Cから強吸着性画分を抜き出す。このサブステップ(a−v)では、溶離液供給弁D3を開き、溶離液供給ポンプP3を作動させて、供給弁D3を有する溶離液供給分岐ライン12cと、配管1との連結部位を溶離液供給口Dとして溶離液を供給する。また、強吸着性画分抜出弁C3を開き、強吸着性画分抜出ライン4cと配管1との連結部位を強吸着性画分抜出口Cとする。
【0056】
上記サブステップ(a−v)では、弱吸着性画分抜出弁A3は閉じられ、遮断弁R3も閉じられる。D1、D2、D4は閉じられる。原液供給弁F1〜F4は、原液供給ポンプP2が停止していれば開弁していてもよいが、液の供給と抜き出しをより高精度に実施するためには、原液供給弁F1〜F4は閉じられていることが好ましい。弱吸着性画分抜出弁A1、A2及びA4、強吸着性画分抜出弁C1、C2及びC4、遮断弁R1、R2及びR4はいずれも閉じられていることが好ましい。また、循環ポンプP1は停止させる。
【0057】
上記サブステップ(a−v)において、上記溶離液供給口Dから供給される溶離液の量に特に制限はないが、1時間当たり、単位充填塔10aに充填された吸着剤Abの1リットル当たり、1〜20リットルとすることが好ましく、2〜10リットルとすることがより好ましい。サブステップ(a−v)における溶離液の総供給量は、すなわち、サブステップ(a−v)において強吸着性画分抜出口Cから抜き出される強吸着性画分の総量と事実上同じ量となる。
【0058】
上記ステップ(a1)においてサブステップ(a−v)を実施した後、後述するステップ(b1)を実施する前に、下記サブステップ(a−vi)を実施してもよい。
【0059】
(a−vi)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ。
【0060】
つまり、サブステップ(a−i)の時間を短くして、この短縮したサブステップ(a−i)の時間を補う位置づけで、サブステップ(a−vi)を実施することができ、かかる形態も本発明の実施形態に包含される。
【0061】
上記ステップ(a1)における各サブステップの逐次的な実施について説明してきたが、これらをより単純な形で図示したものを
図3に示す。なお、
図3はサブステップ(a−vi)を実施する場合の説明図である。
【0062】
各サブステップにおける液の供給量ないし循環流量の関係は、後述する式(c1)及び(d1)を満たす範囲で、原液中の成分の種類等に応じて適宜に調節されるものである。
【0063】
本発明に用いる循環系において、単位充填塔1つに充填される吸着剤の充填量に特に制限はなく、目的に応じて適宜に選択すればよいが、通常は10mL〜150m
3であり、好ましくは150mL〜30m
3であり、より好ましくは300mL〜15m
3である。
また、循環系内のすべての単位充填塔に充填された吸着剤Abの総容量と、配管1の全容積(配管1の空洞内の全容積)との関係は、体積比で、[配管1の全容積]/[吸着剤Abの総容量]=0.01〜0.2が好ましい。
本発明において、使用する単位充填塔は、塔のサイズ、充填剤の種類や大きさがすべて同じであることが好ましい。
【0064】
ステップ(a1)を実施する温度は、循環系内の流体が液状であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜に選択される。通常は40〜80℃で実施される。
また、本発明の方法において、供給される液の流速ないし循環系内に循環する液の流速は、各サブステップ中において一定であってもよく、変動させてもよいが、通常は一定とする。また、各サブステップ間において、供給される液の流速ないし循環系内に循環する液の流速は一定であってもよく、変動させてもよいが、通常は一定とする。
【0065】
[ステップ(b1)]
上記ステップ(a1)が完了後(サブステップ(a−v)又は(a−vi)の完了後)、ステップ(b1)を実施する。上記ステップ(b1)は、上記原液供給口F、上記弱吸着性画分抜出口A、上記溶離液供給口D及び上記強吸着性画分抜出口Cを、これらの相対的な位置関係を保ったまま流体の流通方向に向けて移行させるステップである。
本明細書において「原液供給口F、弱吸着性画分抜出口A、溶離液供給口D及び強吸着性画分抜出口Cを、これらの相対的な位置関係を保ったまま流体の流通方向に向けて移行させる」とは、直前のステップ(a1)において流体の流通方向に向けて順に並んでいた原液供給口F、弱吸着性画分抜出口A、溶離液供給口D、強吸着性画分抜出口Cの並びを、それぞれ強吸着性画分抜出口C、原液供給口F、弱吸着性画分抜出口A、溶離液供給口Dの並びに切り替えることを意味する。
換言すれば、すべての単位充填塔の位置を固定したままの状態で、原液供給口F、弱吸着性画分抜出口A、溶離液供給口D及び強吸着性画分抜出口Cの位置を切り替えることにより、
1)直前のステップ(a1)における原液供給口Fと弱吸着性画分抜出口Aとの間の単位充填塔を、強吸着性画分抜出口Cと原液供給口Fとの間に、
2)直前のステップ(a1)における弱吸着性画分抜出口Aと溶離液供給口Dとの間の単位充填塔を、原液供給口Fと弱吸着性画分抜出口Aとの間に、
3)直前のステップ(a1)における溶離液供給口Dと強吸着性画分抜出口Cとの間の単位充填塔を、弱吸着性画分抜出口Aと溶離液供給口Dとの間に、
4)直前のステップ(a1)における強吸着性画分抜出口Cと原液供給口Fとの間の単位充填塔を、溶離液供給口Dと強吸着性画分抜出口Cとの間に
それぞれ配置された状態になるようにすることを意味する。
図1の循環系の形態においては、このステップ(b1)は、循環系の構造に物理的な変化を与えるステップではなく、このステップ(b1)に続くステップ(a1)を実施するための準備工程である。
【0066】
上記ステップ(b1)について、
図1を参照して具体的に説明する。
ステップ(b1)の直前のステップ(a1)において、供給弁F1を開いて原液を供給していた場合を想定する。この場合、サブステップ(a1)において
原液供給口Fは、原液供給分岐ライン11aと配管1との連結部位、
弱吸着性画分抜出口Aは、弱吸着性画分抜出ライン2aと配管1との連結部位、
溶離液供給口Dは、溶離液供給分岐ライン12cと配管1との連結部位、
強吸着性画分抜出口Cは、強吸着性画分抜出ライン4cと配管1との連結部位
となる。
ステップ(a1)における上記各口F、A,D、Cは、ステップ(b1)によって以下のように切り替わる。すなわち、
原液供給口Fが、原液供給分岐ライン11bと配管1との連結部位となり、
弱吸着性画分抜出口Aが、弱吸着性画分抜出ライン2bと配管1との連結部位となり、
溶離液供給口Dが、溶離液供給分岐ライン12dと配管1との連結部位となり、
強吸着性画分抜出口Cが、強吸着性画分抜出ライン4dと配管1との連結部位となる。
つまり、当該ステップ(b1)の直後に続くステップ(a1)においては、サブステップ(a−iii)における原液の供給が原液供給分岐ライン11bを通して行われ、サブステップ(a−ii)及び(a−v)における溶離液の供給が溶離液供給分岐ライン12dを通して行われ、サブステップ(a−v)における強吸着性画分の抜き出しが強吸着性画分抜出ライン4dを通して行われ、サブステップ(a−ii)及び(a−iii)における弱吸着性画分の抜き出しが弱吸着性画分抜出ライン2bを通して行われることになる。
【0067】
上記ステップ(a1)と(b1)を順に繰り返すことにより、擬似移動層方式による本発明の方法が実施されるのであるが、本発明における上記ステップ(a1)は、さらに下記式(c1)及び(d1)を満たす条件で実施することを要する。
【0068】
(c1)成分Xの溶離体積<セクション4の積算流量
ここで、成分Xは、弱吸着性画分に回収する成分であり、且つ、下記式(d1)を満たす成分である。
【0069】
本発明においてセクション4とは、
図2に示す通り、弱吸着性画分抜出口Aと溶離液供給口Dとの間に配設された単位充填塔を意味する。「セクション4の積算流量」とは、セクション4に液が流通するサブステップにおいて(すなわち、原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環ポンプP1を作動させて循環系内の流体を単に循環させるサブステップにおいて)流通する液量の合計である。例えば、かかる循環系内に流体をポンプの設定流量を1L/時間として1時間流通させた場合、セクション4の積算流量は1Lである。
本発明においてある成分の「溶離体積」とは、当該成分が単位充填塔(カラム)を通過するのに要する液量を意味する(なお、1つのセクションに単位充填塔が2つ以上直列されている場合には、1つの単位充填塔を通過するのに要する液量を意味する)。溶離体積と積算流量の単位はいずれもリットル(L)である。
【0070】
上記式(c1)を満たすことは、すなわちトライアングルセオリーに必要な上記式(6) V
4acc<V
Welution を満たさないこと、つまり、トライアングルセオリーを破っていることを意味する。上述の通り、擬似移動層方式において良好な分離を実現するにはトライアングルセオリーの成立に必要な条件を満たす必要がある、という当業者の技術常識の中で、本発明者らは上記トライアングルセオリーを破った場合でも、下記式(d1)を満たす場合には良好な分離精製が可能となることを見い出し、本発明を完成させるに至ったものである。
上記式(c1)と上記式(6)の比較から明らかなように、式(c1)を満たす場合には、上記式(6)を満たす場合に比べて、セクション4の積算流量を大きくすることができる。そして、
図2に示す通り、溶離液の積算流量は、セクション1の積算流量からセクション4の積算流量を減じた(引いた)量となるから、セクション4の積算流量を大きくできる本発明の方法により、溶離液の使用量を効果的に低減することが可能となる。
【0071】
(d1)[前記サブステップ(a−iv)の積算流量+前記サブステップ(a−v)の積算流量]<[前記成分Xの溶離体積]<[前記サブステップ(a−ii)の積算流量+前記サブステップ(a−iv)の積算流量]
【0072】
上記ステップ(a1)を、上記式(c1)及び(d1)を満たす運転とすることにより、精製対象成分を優れた回収率で、高純度に、所定の画分に得ることができることは、後述する実施例で実証されている。
【0073】
続いて本発明の方法に係る別の好ましい実施態様について説明する。かかる実施態様(以下、[実施態様−2]ともいう。)では、実施態様−1におけるステップ(a1)に代えて、下記ステップ(a2)を適用する。このステップ(a2)では、上述した実施態様−1における式(c1)を満たし、且つ、下記式(d2)を満たすように実施する。
【0074】
(a2)下記サブステップ(b−i)〜(b−iv)をこの順に実施するステップ;
(b−i)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ、
(b−ii)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b−iii)前記原液供給口Fから原液を供給すると共に、前記弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出すサブステップ、
(b−iv)前記溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、前記強吸着性画分抜出口Cから強吸着性画分を抜き出すサブステップ。
【0075】
[ステップ(a2)]
上記ステップ(a2)は、4つのサブステップ(b−i)〜(b−iv)を順次実行するステップである。各サブステップについて説明する。
【0076】
<サブステップ(b−i)>
サブステップ(b−i)では、原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環ポンプP1を作動させて循環系内の流体を単に循環させる。サブステップ(b−i)の好ましい実施形態は、上記サブステップ(a−i)の好ましい実施形態と同じである。
【0077】
<サブステップ(b−ii)>
サブステップ(b−ii)では、溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出す。このサブステップ(b−ii)の好ましい実施形態は、上記サブステップ(a−ii)の好ましい実施形態を同じである。
【0078】
<サブステップ(b−iii)>
サブステップ(b−iii)では、原液供給口Fから原液を供給しながら、弱吸着性画分抜出口Aから弱吸着性画分を抜き出す。このサブステップ(b−iii)の好ましい実施形態は、上記サブステップ(a−iii)の好ましい実施形態を同じである。
【0079】
<サブステップ(b−iv)>
サブステップ(b−iv)では、溶離液供給口Dから溶離液を供給すると共に、強吸着性画分抜出口Cから強吸着性画分を抜き出す。このサブステップ(b−iv)の好ましい実施形態は、上記サブステップ(a−v)の好ましい実施形態と同じである。
【0080】
上記ステップ(a2)は、上述した通り、実施態様−1における式(c1)を満たすように実施する(実施態様−2の説明においては、便宜上、上記式(c1)を式(c2)ともいうが、式(c2)は式(c1)と同じ式である)。つまり、トライアングルセオリーを破った条件でステップ(a2)を実施する。
一方、ステップ(a2)は、実施態様−1における上述した式(d1)に代えて、下記式(d2)の条件を満たすように実施する。式(d2)を満たすことにより、後述する実施例に示すように、目的の精製対象成分を、高純度に、且つ、少ない溶離液使用量で得ることが可能となる。
【0081】
(d2)[前記サブステップ(b−i)の積算流量+前記サブステップ(b−ii)の積算流量+前記サブステップ(b−iv)の積算流量]<[2×(前記成分Xの溶離体積)]<[前記サブステップ(b−i)の積算流量+2×(前記サブステップ(b−ii)の積算流量)+前記サブステップ(b−iv)の積算流量]
【0082】
上記実施態様−2において、上記ステップ(a2)が完了後(つまり、サブステップ(b−iv)の完了後)、実施態様−1と同様に、ステップ(b1)を実施する(実施態様−2の説明においては、便宜上、上記(b1)を(b2)ともいうが、(b2)は(b1)と同じステップである)。
【0083】
上記実施態様−2においては、上記ステップ(a2)において、前記サブステップ(b−iv)と前記ステップ(b2)との間に、下記サブステップ(b−v)を行い、且つ、上記ステップ(a2)を、前記式(d2)に代えて下記式(d2’)を満たすように実施することも好ましい。かかる形態も本発明の実施態様−2に含まれる。
【0084】
(b−v)原液及び溶離液の供給を行わず、かつ、強吸着性画分及び弱吸着性画分の抜き出しを行わずに、循環系内の流体を循環させるサブステップ。
【0085】
(d2’)[前記サブステップ(b−i)の積算流量+前記サブステップ(b−ii)の積算流量+前記サブステップ(b−iv)の積算流量+前記サブステップ(b−v)の積算流量]<[2×(前記成分Xの溶離体積)]<[前記サブステップ(b−i)の積算流量+2×(前記サブステップ(b−ii)の積算流量)+前記サブステップ(b−iv)の積算流量+前記サブステップ(b−v)の積算流量]
【0086】
上記ステップ(a2)における各サブステップの逐次的な実施をより単純な形で図示したものを
図4に示す。なお、
図4はサブステップ(b−v)を実施する場合の説明図である。
【0087】
上記ステップ(a1)及び(b1)、あるいは(a2)及び(b2)を順に繰り返すことにより、通常の擬似移動層方式によるクロマト分離に比べて、溶離液の使用量を効果的に低減することができる。つまり、本発明の方法により、強吸着性画分及び弱吸着性画分から選ばれる画分中に、目的の精製対象成分を、少ない溶離液使用量で、高純度に得ることができる。
本発明の方法において、精製対象成分は強吸着性成分であることが好ましい。
【0088】
本発明の方法には、上記で具体的に説明した形態の他、種々の変形例も包含される。例えば、原液供給口Fと弱吸着性画分抜出口Aとの間、弱吸着性画分抜出口Aと溶離液供給口Dとの間、溶離液供給口Dと強吸着性画分抜出口Cとの間、強吸着性画分抜出口Cと原液供給口Fとの間には、単位充填塔が1本ずつ配設された態様であってもよいし、2本以上配設されていてもよい。但し、溶離液供給口Dと強吸着性画分抜出口Cとの間に配設される単位充填塔は1つとする。すなわち、上記循環系は単位充填塔を少なくとも4塔有することが好ましく、単位充填塔を4塔有することがより好ましい。
【0089】
本発明の方法において、単位充填塔に充填される吸着剤は、精製対象成分に応じて適宜に選択されるものであり、種々の吸着剤を採用することができる。例えば、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂、強塩基性陰イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂、合成吸着剤、ゼオライト、シリカゲル、及び官能基修飾されたシリカゲル(好ましくはオクタデシルシリル修飾シリカゲル)を吸着剤として用いることができる。
【0090】
本発明のクロマト分離システムは、本発明の方法を実施するためのシステムである。すなわち、本発明のクロマト分離システムは、上述した循環系の構成を有し、当該循環系が、上述したステップ(a1)又は(a2)の作動とステップ(b1)又は(b2)の作動を順に繰り返すことができるシステムである。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0092】
[原液の調製]
アセトン(Ac)、ベンゼン(Ben)及びエチルベンゼン(EB)の3成分のメタノール溶液(Ac濃度:3.0g/L、Ben濃度:3.0g/L、EB濃度:4.0g/L)を調製し、原液とした。
【0093】
[溶離液の調製]
メタノールを溶離液とした。
【0094】
[クロマト分離システム]
図1に示す循環系を用いて、上記原液からEBの分離精製を行った。単位充填塔10a〜10dとして、内径:2cm、高さ1mの円筒型の充填塔を用いた。また、単位充填塔10a〜10d内には、吸着剤として、合成吸着剤 Amberlite(登録商標)XAD1200N(ダウ・ケミカル社製)0.57Lを充填した(空隙率:0.360)。各単位充填塔内は40℃に調節した。
上記原液中のAc、Ben及びEBの分配係数と溶離体積を下記表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
[実施例1]
上記循環系を、上述した実施態様−1(サブステップ(a−v)とステップ(b1)との間にサブステップ(a−vi)を含む態様)及び実施態様−2(サブステップ(b−iv)とステップ(b2)との間にサブステップ(b−v)を含む態様)の条件で、それぞれ運転した。この運転は、強吸着性画分にEBを純度97%以上(AcとBenとEBの合計質量に占めるEBの割合)の高純度で回収でき、且つ、強吸着性画分中に、原液に含まれていたEBの95質量%以上を回収できる条件として設定した。実施態様−1において、強吸着性画分における組成(AcとBenとEBの合計質量に占める各成分の割合)は、Ac:1.2%、Ben:0.1%、EB:98.8%であった。また実施態様−1において強吸着性画分における回収率(各成分について、強吸着成分と弱吸着成分に回収された合計質量に占める強吸着成分に回収された質量の割合)は、Ac:1.5%、Ben:0.1%、EB:95.0%であった。具体的な運転条件、すなわち、ステップ(a1)及び(a2)におけるサブステップの実施条件を下記表2に示す。下記表2に示された具体的条件下における実施態様−1の実施を「実施態様−1A」という。また、下記表2に示された具体的条件下における実施態様−2の実施を「実施態様−2A」という。
実施態様−1Aにおいては、下記サブステップの逐次実施からなるステップ(a1)とステップ(b1)とからなるサイクルを20サイクル実施した。また、実施態様−2Aにおいては、下記サブステップの逐次実施からなるステップ(a2)とステップ(b2)とからなるサイクルを20サイクル実施した。なお、本実施例、下記比較例のいずれにおいても、サイクル数はすべて20サイクルとして実施した。そして、その最終サイクル(20サイクル目)のものを各実施例、比較例における性能とした。
【0097】
【表2】
【0098】
上記実施態様−1Aの運転条件において、Ac(成分X)の溶離体積:0.260Lは、セクション4の積算流量(すなわち、サブステップ(a−i)の積算流量とサブステップ(a−iv)の積算流量とサブステップ(a−vi)の積算流量との合計):0.280Lよりも小さく、本発明で規定する式(c1)を満たす。つまり、上記実施態様−1Aの運転条件はトライアングルセオリーを破っている。
また、他のセクションに関するトライアングルセオリーについてみると、本件の分離対象においては、WF=Ac、WL=Ben、SF=EB、SL=EBであるので、V
SLelution=0.4474L、V
WLelution=0.391L、V
SFelution=0.4474L、V
WFelution=0.260Lとなる。そして、セクション1、2、3の各セクションの積算流量はそれぞれ、V
1acc=0.461L、V
2acc=0.392L、V
3acc=0.4471Lであるので、セクション1、2、3に関するトライアングルセオリーの式(5’)、式(1’)、式(4’)を満たしている。
また、サブステップ(a−iv)の積算流量とサブステップ(a−v)の積算流量の合計は0.222Lであり、サブステップ(a−ii)の積算流量とサブステップ(a−iv)の積算流量の合計は0.266Lであるから、本発明で規定する式(d1)を満たす。
【0099】
上記実施態様−2Aの運転において、Ac(成分X)の溶離体積:0.260Lは、セクション4の積算流量(すなわち、サブステップ(b−i)の積算流量とサブステップ(b−v)の積算流量との合計):0.286Lよりも小さく、本発明で規定する式(c2)を満たす。つまり、上記実施態様−1Bの運転条件はトライアングルセオリーを破っている。
また、サブステップ(b−i)の積算流量とサブステップ(b−ii)の積算流量とサブステップ(b−iv)の積算流量とサブステップ(b−v)の積算流量との合計は0.455Lであり、サブステップ(b−i)の積算流量とサブステップ(b−ii)の積算流量の2倍とサブステップ(b−iv)の積算流量とサブステップ(b−v)の積算流量との合計は0.560Lであるから、本発明で規定する式(d2’)も満たす。
【0100】
上記の運転条件では、原液の積算流量(V
Facc)に対する溶離液の積算流量(V
Dacc)の比は下記表3の通りであった。
【0101】
【表3】
【0102】
上記V
Dacc/V
Faccは、上記式(17)から導かれるV
Dacc/V
Facc=(V
EBelution−V
Acelution)/(V
EBelution−V
Benelution)=3.35よりも小さくなり、トライアングルセオリーから導かれる溶離液使用量の下限値をさらに下回っていることがわかる。
【0103】
[比較例1]
比較例1は、サブステップの実施順序を本発明で規定するサブステップの順序と同じとし、且つ、トライアングルセオリーに従った運転条件である。
具体的には、実施例1において、上記表2に示されたステップ(a1)の運転条件を下記表4に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして強吸着性画分にEBを回収した。下記表4に示す運転条件は、強吸着性画分にEBを純度97%以上の高純度で回収でき、且つ、強吸着性画分中に、原液に含まれていたEBの95質量%以上を回収できる条件である。
【0104】
【表4】
【0105】
上記比較態様−c1Aの運転において、Ac(成分X)の溶離体積:0.260Lは、セクション4の積算流量(すなわち、サブステップ(ca−i)の積算流量とサブステップ(ca−iv)の積算流量とサブステップ(ca−vi)の積算流量との合計):0.259Lよりも大きく、本発明で規定する式(c1)を満たさない。つまり、トライアングルセオリーを満たす条件である。
また、サブステップ(ca−iv)の積算流量とサブステップ(ca−v)の積算流量の合計は0.211Lであり、サブステップ(ca−ii)の積算流量とサブステップ(ca−iv)の積算流量の合計は0.275Lであるから、本発明で規定する式(d1)は満たす。
【0106】
上記比較態様−c2Aの運転において、Ac(成分X)の溶離体積:0.260Lは、セクション4の積算流量(すなわち、サブステップ(cb−i)の積算流量とサブステップ(cb−v)の積算流量との合計):0.259Lよりも大きく、本発明で規定する式(c2)を満たさない。つまり、トライアングルセオリーを満たす条件である。
また、サブステップ(cb−i)の積算流量とサブステップ(cb−ii)の積算流量とサブステップ(cb−iv)の積算流量とサブステップ(cb−v)の積算流量との合計は0.455Lであり、サブステップ(cb−i)の積算流量とサブステップ(cb−ii)の積算流量の2倍とサブステップ(cb−iv)の積算流量とサブステップ(cb−v)の積算流量との合計は0.587Lであるから、本発明で規定する式(d2’)は満たす。
【0107】
上記運転において、原液の積算流量(V
Facc)に対する溶離液の積算流量(V
Dacc)の比は下記表5の通りとなった。
【0108】
【表5】
【0109】
上記V
Dacc/V
Faccは、上記式(17)から導かれるV
Dacc/V
Facc=(V
EBelution−V
Acelution)/(V
EBelution−V
Benelution)=3.35よりも大きく、トライアングルセオリーに従った場合の溶離液使用量の下限値よりも多い溶離液使用量であることがわかる。
【0110】
[比較例2]
比較例2は、サブステップの実施順序を本発明で規定するサブステップの順序と同じとし、また、トライアングルセオリーを破った上で、さらに式(d1)ないし式(d2’)の条件を満たさないようにした運転条件である。
具体的には、実施例1において、上記表2に示されたステップ(a1)の運転条件を下記表6に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして強吸着性画分にEBを回収した。この比較例2の実施に際しては、強吸着性画分にEBを純度97%以上の高純度で回収することを目指したものであるが、強吸着性画分中のEBの純度は93.1%(比較態様−2A)と88.1%(比較態様−2B)となった。なお、強吸着性画分へのEBの回収率については、比較態様−2A及び2Bのいずれにおいても95質量%以上と良好であった。
【0111】
【表6】
【0112】
上記比較態様−c1Bの運転において、Ac(成分X)の溶離体積:0.260Lは、セクション4の積算流量(すなわち、サブステップ(c
2a−i)の積算流量とサブステップ(c
2a−iv)の積算流量とサブステップ(c
2a−vi)の積算流量との合計):0.280Lよりも小さく、本発明で規定する式(c1)を満たす。つまり、上記比較態様−c1Bの運転条件はトライアングルセオリーを破っている。
一方、サブステップ(c
2a−iv)の積算流量とサブステップ(c
2a−v)の積算流量の合計は0.152Lであり、サブステップ(c
2a−ii)の積算流量とサブステップ(c
2a−iv)の積算流量の合計は0.196Lであるから、本発明で規定する式(d1)は満たさない。
【0113】
上記比較態様−c2Bの運転において、Ac(成分X)の溶離体積:0.260Lは、セクション4の積算流量(サブステップ(c
2b−i)の積算流量とサブステップ(c
2b−v)の積算流量との合計):0.286Lよりも小さく、本発明で規定する式(c2)を満たす。つまり、上記実施態様−1Aの運転条件はトライアングルセオリーを破っている。
また、サブステップ(c
2b−i)の積算流量とサブステップ(c
2b−ii)の積算流量とサブステップ(c
2b−iv)の積算流量とサブステップ(c
2b−v)の積算流量の合計は0.549Lであり、サブステップ(c
2b−i)の積算流量とサブステップ(c
2b−ii)の積算流量の2倍とサブステップ(c
2b−iv)とサブステップ(c
2b−v)の積算流量との合計は0.654Lであるから、本発明で規定する式(d2’)は満たさない。
【0114】
上記運転において、原液の積算流量(V
Facc)に対する溶離液の積算流量(V
Dacc)の比は下記表7の通りとなった。
【0115】
【表7】
【0116】
上記比較態様−c1Bは、上記V
Dacc/V
Faccは、上記式(17)から導かれるV
Dacc/V
Facc=(V
EBelution−V
Acelution)/(V
EBelution−V
Benelution)=3.35よりも小さく、溶離液の使用量を削減できたのであるが、上述したように、そもそも強吸着性画分中のEBの純度が95%に満たず、精製対象成分を所望の純度で分離精製することができない。
また、上記比較態様−c2Bは、溶離液の削減が実現できていらず、また上述したように、強吸着性画分中のEBの純度が90%にも満たず、精製対象成分を所望の純度で分離精製することができない。
【0117】
[比較例3]
比較例3は、実施態様−1において、サブステップの実施順序を本発明で規定するサブステップの順序と同じとし、また、トライアングルセオリーを破った上で、さらに式(d1)の条件を満たさないようにした運転条件である。
具体的には、実施例1において、上記表2に示されたステップ(a1)の運転条件を下記表8に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして強吸着性画分にEBを回収した。この比較例3の実施に際しては、強吸着性画分にEBを純度97%以上の高純度で回収することを目指したものであるが、強吸着性画分中のEBの純度は95.0%(比較態様−c1C)となった。なお、強吸着性画分へのEBの回収率は95質量%以上と良好であった。
【0118】
【表8】
【0119】
上記比較態様−c1Cの運転において、Ac(成分X)の溶離体積:0.260Lは、セクション4の積算流量(すなわち、サブステップ(c
3a−i)の積算流量とサブステップ(c
3a−iv)の積算流量とサブステップ(c
3a−vi)の積算流量との合計):0.280Lよりも小さく、本発明で規定する式(c1)を満たす。つまり、上記実施態様−1Aの運転条件はトライアングルセオリーを破っている。
一方、サブステップ(c
3a−iv)の積算流量とサブステップ(c
3a−v)の積算流量の合計は0.305Lであり、サブステップ(c
3a−ii)の積算流量とサブステップ(c
3a−iv)の積算流量の合計は0.336Lであるから、本発明で規定する式(d1)は満たさない。
【0120】
上記運転において、原液の積算流量(V
Facc)に対する溶離液の積算流量(V
Dacc)の比、強吸着性画分抜出口Cから抜き出した強吸着性画分中のEB濃度は下記表9の通りとなった。
【0121】
【表9】
【0122】
上記比較態様−c1Cにおいては、上記V
Dacc/V
Faccは、上記式(17)から導かれるV
Dacc/V
Facc=(V
EBelution−V
Acelution)/(V
EBelution−V
Benelution)=3.35よりも大きく、溶離液の使用量を削減できていないことがわかる。
【0123】
なお、上記各実施例及び比較例では、ステップ(a1)及び(a2)に対応するサブステップにおいて、それらに続くステップ(b1)及び(b2)を実施する直前のサブステップとして、液循環工程(例えば、実施例1においてはサブステップ(a−vi)及び(b−v))を実施したものである。
一方、本発明者らは、ステップ(b1)及び(b2)を実施する直前において、上記液循環工程を実施しない形態(例えば、実施例1においてはステップ(a1)においてサブステップ(a−vi)を実施しない形態、及び、ステップ(a2)においてサブステップ(b−v)を実施しない形態)についても実験を実施した(これらの形態は、ステップ(b1)及び(b2)を実施する直前の液循環工程を、ステップ(a1)及び(a2)における最初のサブステップ(液循環工程)に吸収させた形態である)。その結果、ステップ(b1)及び(b2)を実施する直前において、上記液循環工程を実施しない形態においても、上記各実施例及び比較例と等価な結果が得られることが明らかとなった。
これらの実験における運転条件を以下に示す。
【0124】
実施例1と等価な結果が得られた運転条件は下記の通りである。
【0125】
【表10】
【0126】
比較例1と等価な結果が得られた運転条件は下記の通りである。
【0127】
【表11】
【0128】
比較例2と等価な結果が得られた運転条件は下記の通りである。
【0129】
【表12】
【0130】
比較例3と等価な結果が得られた運転条件は下記の通りである。
【0131】
【表13】