(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粉体塗料のFlynn−Wall−Ozawa法で算出される、250℃において残存重量が初期重量の95%となるまでの所要時間が10時間以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粉体塗料。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0009】
本発明の粉体塗料は、ナフタレン型エポキシ樹脂及びアラルキル樹脂を含有することを特徴とする。
以下に、本発明の粉体塗料の詳細について説明する。
【0010】
(1)エポキシ樹脂
本発明の粉体塗料では、主剤のエポキシ樹脂として、ナフタレン型エポキシ樹脂を用いる。剛直骨格を有するナフタレン型エポキシ樹脂は、高いガラス転移温度(Tg)を示す。また、平面構造のナフタレン骨格を有するナフタレン型エポキシ樹脂は、立体障害が小さいため、硬化剤の求核攻撃が阻害されにくい。このため、比較的短時間で硬化反応が進行する。ナフタレン型エポキシ樹脂は、縮合環構造を有するため、長期耐熱性を有する。本発明に用いられるナフタレン型エポキシ樹脂は、特に限定されず、式(1)、式(2)、式(3)等で表されるナフタレン型エポキシ樹脂及びそれらの混合物を用いることができる。市販品としては、EPICLON HP-4700、HP-4710、HP-4770、HP-6000(以上、DIC株式会社製)等が挙げられる。得られる塗膜の脆性を改善するためには、ナフタレン型エポキシ樹脂の官能基数は2〜4が好ましく、2とするのが特に好ましい。
【0014】
本発明に用いるナフタレン型エポキシ樹脂の軟化点は、60℃以上120℃以下であることが好ましい。60℃より低い場合には、粉体塗料とした後の保存安定性が悪くなる可能性があり、120℃を超える場合には、塗装表面の粗さの原因となることがある。上記範囲の軟化点を有するナフタレン型エポキシ樹脂を用いた粉体塗料では、外観の優れた塗膜が得られ、生産性が向上する。さらに、上記粉体塗料では、保管中に粉体が溶けて固まる等の問題が生じにくく、保存安定性が向上する。また、本発明の効果が損なわれない範囲で、所望により、ナフタレン型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を添加してもよい。その配合量は全エポキシ樹脂の40質量%以下であることが好ましい。
【0015】
(2)アラルキル樹脂
本発明の粉体塗料では、硬化剤として、アラルキル樹脂を用いる。ナフタレン型エポキシ樹脂の硬化剤として、アラルキル樹脂を用いることにより、硬化物である塗膜の長期安定性が向上し、高温環境で長時間保持後も塗膜の性能が保持される。これは、硬化物中に熱分解の原因となる構造が少ないためである。本発明の粉体塗料は、このように高耐熱構造を有し、且つ成膜性及び接着性が良好なため、塗装により、高耐熱性の良好な塗膜を容易に得ることができる。
アラルキル樹脂は、下記一般式(4)で表される。これらの中でも、入手が容易で、酸素バリア性に優れていることから、Ar
2がフェノールであるフェノールアラルキル樹脂が好ましい。
【0016】
【化4】
(式中Ar
1は、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基であり、Ar
2は、下記一般式(5−1)又は(5−2)で表される基である。)
【0017】
【化5】
(各式中、Rはそれぞれ水素原子、炭素数1〜15の炭化水素基、トリフルオロメチル基、アリル基またはアリール基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。
mは0〜3の整数を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。異なっている場合は任意の順で配列していてもよい。
nは1〜10の繰り返し数の平均値を表す。)
【0018】
本発明では、硬化剤が上記アラルキル骨格を有することが必要である。例えば、主剤にアラルキル樹脂のエポキシ変性体を添加しても、硬化剤としてアラルキル樹脂を使用しない場合には本発明の優れた効果は得られないことが確認された。もちろん、硬化剤として、上記アラルキル樹脂を用い、主剤のナフタレン型エポキシ樹脂に、アラルキル樹脂のエポキシ変性体を加えた構成では、本発明と同様の効果を得ることができる。
また、アラルキル樹脂の使用割合はナフタレン型エポキシ樹脂のエポキシ当量あたり、官能基の当量で、0.6〜1.2当量であることが好ましく、0.7〜1.0当量であることがより好ましい。ナフタレン型エポキシ樹脂とアラルキル樹脂の当量比を上記範囲とすることにより、粉体塗料の成膜性や接着性がさらに優れ、得られる塗膜の長期耐熱性がさらに向上する。
【0019】
(3)添加剤
本発明の粉体塗料には、発明の効果が損なわれない範囲で、必要に応じて各種添加剤を添加することができる。上記添加剤としては、充填剤、レベリング剤、着色剤、硬化促進剤、消泡剤、密着向上剤、衝撃緩和剤等が挙げられる。
充填剤としては、例えばシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、クレー、セルロース等を用いることができる。これらの充填剤を添加することにより、粉体塗料の流れをより好適に制御することができる。なお、これらの充填剤は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いても良い。
【0020】
(4)粉体塗料の製造方法
本発明の粉体塗料の製造方法は特に限定されないが、例えば以下の方法により製造することができる。粉体塗料に充填剤を添加する場合には、初めに、ナフタレン型エポキシ樹脂と充填剤を混合する。混合法としては、ニーダやエクストルーダを用いた溶融混合等が挙げられる。混合温度や混合時間は、特に限定されず、原料の種類や組成比等に応じて設定される。通常、混合温度は、70℃〜150℃が好ましく、100℃〜140℃がより好ましい。混合時間は、混合方法等にもよるが、ニーダの場合、15分〜60分が好ましく、30分〜50分がより好ましい。また、エクストルーダの場合、60秒以下が好ましく、30秒以下がより好ましい。
その後、得られた混合物を冷却固化し、粗粉砕する。上記粗粉砕物にアラルキル樹脂及び必要によりその他の添加剤を加えて、溶融混合した後、冷却固化する。その後、固化した混合物を微粉砕して、分級することにより粉体塗料が得られる。
【0021】
(5)粉体塗料
本発明の粉末塗料は、ナフタレン型エポキシ樹脂及びアラルキル樹脂を含有する。混合条件によっては、一部重合が進行し、ナフタレン型エポキシ樹脂に由来する構造単位及びアラルキル樹脂に由来する構造単位を含む重合体を含有する。
本発明の粉体塗料の粒子径は、特に限定されないが、レーザー回折・散乱法(JIS8825−1)による体積平均粒子径が30μm〜70μmの範囲であることが好ましい。なお、上記体積平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SYMPATEC社製、HELOS and PODOS 解析ソフト:WINDOX5)を用いて測定することができる。
体積平均粒子径が上記範囲の粉体塗料を用いることにより、より優れた成膜性が得られる。
【0022】
また、本発明の粉体塗料の水平流れ率は、1〜50%の範囲であることが好ましい。一般に水平流れ率が大きい粉体塗料は、溶融時に低粘度で塗料が流れやすく、一方、水平流れ率が小さい粉体塗料は、溶融時に高粘度で塗料が流れにくい。粉体塗料の水平流れ率を上記範囲にすることにより、ピンホール等の塗膜欠陥やタレが生じにくく、目的とする膜厚の良質な塗膜が得られやすい。粉体塗料の水平流れ率は、5%〜30%であることがより好ましい。
なお、水平流れ率は以下の方法により算出される。粉体塗料1gを内径16mmφの錠剤成形用金型に入れ、荷重90MPaで60秒加圧して得られる錠剤の直径(a)をノギスで測定する。上記錠剤をスライドガラスに載せ、熱風乾燥機中にて140℃で10分間加熱後、同様に錠剤の直径(b)を測定する。加熱による直径の増加値(b−a)を加熱前の直径(a)で除した値に100をかけて水平流れ率(%)とする。
【0023】
本発明の粉体塗料の軟化温度は、60℃以上120℃以下であることが好ましい。粉体塗料の軟化点を上記範囲とすることにより、塗膜の生産性が向上し、より優れた外観の塗膜が得られる。また、上記粉体塗料では、保管中に粉体が溶けて固まる等の問題が生じにくく、保存安定性が向上する。
また、本発明の粉体塗料は、250℃において残存重量が初期重量の95%となるまでの所要時間が、10時間以上であることが好ましい。この値は、後述するように、示差熱熱重量同時分析(TG/DTA)装置を用いて測定した粉体塗料の熱重量変化の結果を用いて、Flynn−Wall−Ozawa法により算出できる。上記値が、10時間以上であれば、250℃以上の使用においても長期にわたり十分な耐熱性を維持できる。なお、熱重量変化の挙動は、本発明の粉体塗料に用いられるナフタレン型エポキシ樹脂の種類や配合量などによって調整することができる。
【0024】
(6)粉体塗料の塗装方法
本発明の粉体塗料の塗装方法は、特に限定されず、公知の塗装方法が適用できる。具体的には、静電塗装、摩擦帯電塗装、無荷電塗装、流動浸漬等が挙げられる。上記方法により、被塗装体表面に粉体塗料を塗装した後、硬化することにより塗膜を得ることができる。必要に応じて被塗装体に予め表面処理を施すことにより、塗膜の密着性等を向上させることもできる。
本発明の粉体塗料から得られる塗膜の膜厚は特に限定されないが、50μm以上500μm以下が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中、特に記載がない場合には、「%」及び「部」は質量%及び質量部を示す。
【0026】
〈粉体塗料の構成成分〉
(A)主剤
(A1)ナフタレン型エポキシ樹脂:EPICLON HP-4770、DIC株式会社製
(A2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂:jER1004 三菱化学株式会社製
(A3)ビスフェノールF型エポキシ樹脂:YDF−2004 新日鉄住金化学株式会社製
(A4)クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:EPICLON N―670 DIC株式会社製
(A5)ビフェニルアラルキルフェノール型エポキシ樹脂:NC―3000−H 日本化薬株式会社製
(B)硬化剤
(B1−1)ビフェニルアラルキルフェノール:KAYAHARD GPH−65 日本化薬株式会社製(軟化点:65℃)
(B1−2)ビフェニルアラルキルフェノール:KAYAHARD GPH−103 日本化薬株式会社製(軟化点:102℃)
(B2)酸無水物:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
【0027】
(実施例1〜2、比較例1〜3)
表1に示す配合比(質量)で上記主剤及び硬化剤をレベリング剤、硬化促進剤とともにミキサーで混合後、エクストルーダにより溶融混合した。ここで、混合温度は、110℃、混合時間は、30秒以下とした。混合物を冷却固化した後、微粉砕することにより、各実施例及び比較例の粉体塗料を得た。なお、ここでは、無機フィラー等の充填剤は添加していない。また、硬化促進剤として、イミダゾールを主剤100質量部に対して、1質量部添加した。得られた粉体塗料の250℃で残存重量95%となるまでの推定時間を後述する方法で算出した結果を、表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
(実施例4、比較例4〜6、参考例1)
表2に示す配合比(質量)で上記主剤及びフィラ―をエクストルーダにより、溶融混合した後、冷却固化し、粗粉砕した。この粗粉砕物に表2に示す硬化剤をレベリング剤、硬化促進剤とともに加えてミキサーで混合後、エクストルーダにより溶融混合した。ここで、混合温度は、110℃、混合時間は、30秒以下とした。混合物を冷却固化した後、微粉砕することにより、各実施例、比較例及び参考例の粉体塗料を得た。なお、ここでは、フィラーとしてシリカを用いた。また、硬化促進剤として、イミダゾールを主剤100質量部に対して、1質量部添加した。得られた粉体塗料を短冊状に成型して引張り強さ測定用の試料を作製した。それぞれの試料の加熱前の引張り強さ及び250℃の電気炉中で、200時間及び1000時間保持後の引張り強さを測定した。なお、引張り強さは、JIS K 7161に基づいて測定した。加熱前の引張り強さに対する200時間及び1000時間加熱後の引張り強さの比(塗膜引張り強さ維持率)を算出した結果を表2に示す。
【0030】
(250℃で残量重量95%となるまでの時間の算出)
示差熱熱重量同時分析(TG/DTA)装置を用いて、実施例、比較例及び参考例の粉体塗料試料の熱重量変化を測定した。ここで、昇温速度は、5K/min、10K/min、20K/min及び30K/minでそれぞれ測定を行った。それぞれの結果から残存量が初期重量の95重量%となったときの温度を読み取り、等変化率法の1種であるFlynn−Wall−Ozawa法により250℃で残存量が初期重量の95%となるまでの推定時間を算出した。
【0031】
表1に示すように、主剤として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂をそれぞれ用い、硬化剤として、ビフェニルアラルキルフェノールを用いた比較例1及び2では、250℃で残存重量が95%となるまでの推定時間がそれぞれ、2.5時間及び2.0時間と極めて短いことがわかる。また、主剤として、ナフタレン型エポキシ樹脂を用い、硬化剤として、酸無水物を用いた比較例3でも、250℃で残存重量が95%となるまでの推定時間が、3時間と極めて短いことが確認された。
これに対して、主剤として、ナフタレン型エポキシ樹脂を用い、硬化剤として異なる種類のビフェニルアラルキルフェノールをそれぞれ用いた実施例1及び2では、250℃で残存重量が95%となるまでの推定時間が55時間及び73時間となり、比較例1、2及び3に比べて、耐熱性が大幅に向上することが確認された。
以上の結果より、ナフタレン型エポキシ樹脂とアラルキル樹脂を含有する本発明の粉体塗料の有効性が認められた。
【0032】
表2より、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と酸無水物から得られる参考例1では、250℃で200時間及び1000時間保持後の引張り強さ維持率は、それぞれ36%及び18%と低いことがわかる。また、参考例1では、200時間保持後の引張り強さ維持率に対する1000時間保持後の引張り強さ維持率の比(1000時間保持後の引張り強さ維持率/200時間保持後の引張り強さ維持率)は、0.5であり、200時間経過後も塗膜の物性の低下が続いていることが確認された。これに対して、ナフタレン型エポキシ樹脂とビフェニルアラルキルフェノールを用いた本発明の実施例4では、200時間保持後及び1000時間保持後の引張り強さ維持率がそれぞれ63%及び59%であった。長期耐熱性を維持するためには、200時間後及び1000時間後ともに塗膜引張強さ維持率は50%以上であることが求められており、実施例4では、上記要求が満たされることがわかった。なお、実施例4では、1000時間保持後の引張り強さ維持率/200時間保持後の引張り強さ維持率の値が0.94と高く、200時間保持後は、高温下における塗膜の物性変化が著しく抑制されることが確認された。実施例4と同じ組成で、当量比を0.7又は1とした場合にも、200時間保持後及び1000時間保持後の塗膜引張り強さ維持率は50%を超え、1000時間保持後の引張り強さ維持率/200時間保持後の引張り強さ維持率の値は0.9を超え、同様に優れた長期耐熱性が得られることが確認された。
主剤の構成を参考例1と変えた比較例4、5及び6では、250時間後及び1000時間後のいずれの引張り強さ維持率とも参考例より上昇することが確認された。ただし、比較例4、5及び6のいずれの試料でも1000時間後の維持率は50%未満であった。また、1000時間保持後の引張り強さ維持率/200時間保持後の引張り強さ維持率の値が0.83、0.83及び0.76と実施例4には及ばなかった。
比較例4及び5では、主剤として、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂を用いているが、十分な効果が得られなかった。このことから、本発明のように硬化剤として、アラルキル骨格を有する樹脂を用いることが有効と考えられる。
【0033】
【表2】