特許第6732793号(P6732793)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6732793
(24)【登録日】2020年7月10日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】燃料電池において過電圧を求める方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20200716BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20200716BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20200716BHJP
【FI】
   H01M8/02
   H01M8/1004
   H01M8/10 101
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-554837(P2017-554837)
(86)(22)【出願日】2016年2月18日
(65)【公表番号】特表2018-517239(P2018-517239A)
(43)【公表日】2018年6月28日
(86)【国際出願番号】DE2016000062
(87)【国際公開番号】WO2016169539
(87)【国際公開日】20161027
【審査請求日】2018年12月21日
(31)【優先権主張番号】102015005220.9
(32)【優先日】2015年4月23日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】クリコフスキー・アンドレイ
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−114931(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/110970(WO,A1)
【文献】 特開2010−061887(JP,A)
【文献】 特開2011−040362(JP,A)
【文献】 特開2006−351404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/10
H01M 8/1004
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池において作用電極の過電圧を求めるための燃料電池装置であって、
− 作用電極、対電極及び参照電極を含み、
− 一方の面上には連続的な作用電極が、他方の面上には対電極が配置されている、層厚lを有するポリマー電解質膜を含み、
− この際、対電極が、少なくとも一つの側縁と、局所的半径Rを有する少なくとも一つの凸状に湾曲した先端とを有し、
− この際、対電極に隣接しかつ作用電極とは反対側の電解質膜表面が、電極不在領域を有し、
− この際、参照電極が、電解質膜表面上で、電極不在領域の範囲内にかつ対電極の凸状に湾曲した先端の直近に配置され、
− この際、参照電極が、対電極の凸状に湾曲した先端からLgap〜100Lgapの範囲の間隔で配置され、及び
− この際、参照電極と対電極の凸状に湾曲した縁領域との間の最小間隔Lgapが以下によって与えられ、
【数1】
ここで
σは、電解質膜のイオン伝導性(Ω−1cm−1)であり、
oxは、作用電極の電気化学的反応のための半電池のターフェル勾配(V)であり、
は、膜層厚(cm)であり、
oxは、電極単位面積当たりの作用電極の触媒の交換電流密度(Acm−2)であり、及び
は、参照電極に最も近い、対電極の凸状に湾曲した先端の局所的半径(cm)である、
前記燃料電池装置。
【請求項2】
参照電極が、対電極の凸状に湾曲した先端からLgap〜10Lgapとの間の範囲の間隔で配置されている、請求項1に記載の燃料電池装置。
【請求項3】
作用電極としてカソードを及び対電極としてアノードを備える、請求項1〜2のいずれか一つに記載の燃料電池装置。
【請求項4】
凸状に湾曲した先端が、0.01と1cmとの間の局所的半径Rを有する、請求項1〜3のいずれか一つに記載の燃料電池装置。
【請求項5】
連続的な作用電極の寸法が3λ超である、請求項1〜4のいずれか一つに記載の燃料電池装置。
【請求項6】
燃料電池において作用電極の過電圧を求めるための方法であって、
− 測定のために、請求項1〜5いずれか一つに記載の燃料電池が使用され、及び
− 参照電極と対電極の凸状に湾曲した先端との間の間隔が、Lgapと100Lgapとの間の範囲で選択され、
− この際、Lgapの最小間隔が以下によって与えられ、
【数2】
ここで
σは、電解質膜のイオン伝導性(Ω−1cm−1)であり、
oxは、作用電極の電気化学的反応のための半電池のターフェル勾配(V)であり、
は、膜層厚(cm)であり、
oxは、電極単位面積当たりの作用電極の触媒の交換電流密度(Acm−2)であり、及び
は、対電極の凸状に湾曲した先端の半径(cm)である、
前記方法。
【請求項7】
参照電極と対電極の凸状に湾曲した先端との間の間隔が、Lgap〜10Lgapの範囲で選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該方法の間に参照電極に水素が供給される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
対電極としてはアノードが、及び作用電極としてはカソードが使用される、請求項6〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
対電極の凸状に湾曲した先端の局所的曲率半径として、0.01と1cmとの間の値が選択される、請求項6〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
ポリマー−電解質膜燃料電池(PEM−FC)、直接メタノール燃料電池(DMFC)または高温−ポリマー−電解質膜燃料電池(HT−PEM−FC)が燃料電池として使用される、請求項6〜10のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過電圧を求めるための新規の燃料電池デザイン、特にポリマー−電解質膜燃料電池(PEM−FC=polymer electrolyte membrane fuel cell)のための新規の燃料電池デザインに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学的セルにおいては、関与する電極での電気化学的反応は、半電池過電圧によって決定的に影響を受ける。この際、これらの過電圧には、活性化による寄与だけでなく、対応する半電池の伝達損失による寄与も含まれる。それ故、これらの寄与を新しい電池コンセプトの枠内で最小化することは、優先の目的と見なされる。半電池過電圧を測定するためのこれまで一般的な方法の一つは、参照電極(RE)を用いた方法である。
【0003】
参照電極は、常に、二つの電極間の任意の点での電解質膜の電位Φを測定することを目的としている。この電位を知ることは、原則的にカソード過電圧及びアノード過電圧を分離することを可能とする。しかし、参照電極の適切な位置決めはまったく簡単でないことが判明している。
【0004】
参照電極を電気化学的セル内に配置する典型的な方法の一つは、作用電極の相並べて整列された縁に対して一定の間隔Lgapを空けて参照電極をセル側に配置する方法である。このためには、図1に従う構成が提案され、この構成では、両方の電極またはそれの側縁が相並んで整列されている。
【0005】
B.Adler et al.,J.Electrochem.Soc.149,E166(2002)(非特許文献1)は、この際、間隔Lgapが、膜層厚lの三倍よりも長くなければならないということをシミュレーションの枠内で示している。この間隔において、通常、作用電極の縁によって生じた不均一さ、及び水素−酸化反応(OOR)による電位損失を無視でき、そして参照電極で測定される電位が、通常、作用領域内のアノードとカソードとの間のz−軸に沿った任意の点での膜電位に一致するようになる。
【0006】
この時、膜電位Φ及び電極電位の測定が、アノード及びカソードでの過電圧の分離を可能とする。
【0007】
更に、参照電極を用いることによって、参照電極といずれの他のセル電極との間の電気化学的インピーダンス分光法を行うことが可能となる。この技術は、固体酸化物燃料電池(SOFC)の領域で既に使用されている。
【0008】
プロトンが電荷キャリアとして機能する電気化学的セルでは、水素が供給された参照電極の電位は、(水素−酸化/発電反応に基づいた電圧損失は無視して)一般的に、参照電極の箇所での膜電位Φに一致する。
【0009】
しかし、図1による燃料電池内の参照電極の配置のための形態では、二つの本質的な問題が生じる。他に記載がなければ、以下では、アノードは接地されており及びアノードに対する全ての電位が測定されるということを前提する。
【0010】
先ず、対電極に対する作用電極の縁の整列の非常に小さなズレ(δ)でさえ、参照電極での電位の大きな変化を既に引き起こすということを念頭に置くべきである。この効果は、固体酸化物燃料電池(SOFC)に関する文献中で既に十分に議論されている。そこでは、この効果を最小化するための幾つかの提案も既に記載されている。PEMFCへのこの解決策の類似の転用も同様に既に文献に提案されており、この文献では、レーザーアブレーションを用いて正確に配向された作用電極のシステムについて報告されている。
【0011】
作用電極の縁が正確に整列された(δ=0)電気化学的セルでさえ生じる更なる問題は、参照電極によって測定された電位Φの値が、作用電極間のz−軸上の正確に一つの点に相当するが、z−軸上のこの点の正確な位置が知られていないということである。そのため、このような場合にも、参照電極の測定された直流電圧信号は、明白には分析評価及び解釈することができない。半電池過電圧の分離は、この場合にも、インピーダンス分光法でしか行うことができない。
【0012】
しかし、A.A.Kulikovsky及びP.Berg(DE102015001572.9(特許文献1))の最も新しい説明では、接地された対電極に対する参照電極の電位を測定することによって燃料電池中の作用電極の過電圧を決定することが可能であることが示されている。このためには、図2に従う燃料電池が使用される。これは、大面積(エンドレス)の作用電極(この場合はカソード)と、少なくとも一つの側縁を有する対電極とを含む。この際、電極の寸法がパラメータlの少なくとも10倍である時、特に電極の寸法が膜層厚よりも複数桁長い時に、電極は本発明の枠内において大面積(エンドレス)と称される。対電極の縁によって、作用電極の反対側に、電極不在の領域が、対電極に隣接する電解質膜表面上に生じ、そこで参照電極が電解質膜表面上に配置されている。作用電極が作用領域付近では今や縁を持たないことによって、電極縁の整列の問題ももはや存在しなくなる。
【0013】
この際、参照電極と対電極の縁との間の最小の間隔Lgapが次の条件を満たす必要があることを示し得る:
【数1】
σ=電解質膜のイオン伝導性(Ω−1cm−1)、box=カソードの電気化学的反応のための半電池のターフェル勾配、I=膜層厚(cm)及びjox=単位電極表面積当たりのカソードの触媒の交換電流密度(Acm−2)。少なくとも最小間隔に相当する参照電極と対電極との間の間隔では、参照電極の電位の測定値が、作用電極、すなわちカソードの過電圧にほぼ一致することを保証できる。
【0014】
典型的なセルパラメータ(表1参照)を用いると、カソード側の過電圧を求めるためのアノード側の参照電極の場合には、最小間隔Lgapは数センチメータのオーダーとなる。しかし、この間隔は、通常10cm×10cmまたはそれ未満の試験用燃料電池では非常に大きな値である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】DE102015001572.9
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】B.Adler et al.,J.Electrochem.Soc.149,E166(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、燃料電池の作用電極の過電圧を求めるための方法であって、技術水準の従来の欠点、特に燃料電池装置における参照電極に対する上記の最小間隔の従来の欠点を克服する方法を提供することである。この方法は、特に、ポリマー−電解質膜燃料電池(PEM−FC)、直接メタノール燃料電池(DMFC)並びに高温固体酸化物燃料電池(SOFC)で使用可能であるべきである。
【0018】
更に、本発明の課題は、改良された燃料電池装置であって、それを用いることにより、上記の本発明の方法を実施できるようになる燃料電池装置を提供することである。
【0019】
本発明の上記課題は、主請求項に従う新規燃料電池装置によって、並びに副請求項に従う方法によって解消される。該装置及び方法の有利な形態は、それらを引用する請求項に記載される。
【0020】
本発明の枠内において、(同心的な小さなアノード並びに同心的な大表面積(エンドレス)のカソードを備えたポリマー−電解質膜燃料電池(PEM−FC)についての数値シミュレーションによって裏付けされて)A.A.Kulikovsky及びP.BergのDE 102015001572.9(特許文献1)に提案される燃料電池における参照電極の配置に基づきかつそれを継続させて、新規の配置が技術水準の従来の欠点を克服することが見出された。このために、参照電極を、対電極、特にアノードからこれまでよりもかなりより小さな間隔で配置することが可能であり、それにもかかわらず、対電極、特にカソードの過電圧を十分な精度を持って求めることができる燃料電池装置が提案される。加えて、燃料電池のこの新規配置は、通常は、十分な電気化学的転化を保証できる電極面を有する。
【0021】
燃料電池のアノード不在の領域におけるカソード過電圧η及び膜電位Φの半径分布のためのモデルが開発された。数学的には、この問題は、カソード過電圧ηのための軸対称ポアソン−ボルツマン方程式に通ずる。この問題の解は、|η|が半径に依存して0への急速な低下を示し、他方で|Φ|は、セルの作用領域中でカソード過電圧の|η|の値に急速に上昇するということを示す。同心的アノードの半径Rが小さくなるほど、膜電位Φが、作用領域内のカソード過電圧の値ηをより速く達成するようになる。
【0022】
その結果、(作用)電極間のカソード過電圧の測定のための参照セル(RE)を、湾曲したアノードの凸形に湾曲した縁領域の局所的半径Rが小さければ小さい程、この領域のより近くに配置できるようになる。
【0023】
以下には、過電圧を求めるべき燃料電池の電極を作用電極と称する。それに対して、対電極とは、必要な電流の導通に要求されるこの燃料電池の他の電極のことである。この際、作用電極ばかりでなく対電極も、電気化学的過程が制御された状態で進行する電極である。
【0024】
参照電極を備えた燃料電池の文献モデルコンセプトは、2Dシミレーションに基づいており、そこでは、膜電位Φは、作用電極及び参照電極に対して垂直な面に存在する(図1のx−z面)。しかし、数値計算は、このようなシステムで膜電位Φが変化する時の依存性及び特徴的な大きさの情報のいずれも示さない。
【0025】
本発明は、今や、局所的な小さな曲率半径Rを持つ少なくとも一つの凸状に湾曲した縁領域を備えかつ少なくともただ一つの縁によって画定された対電極と連続的(エンドレス)な作用電極とを有する、電解質膜を備えた燃料電池装置を提案することによって、燃料電池における大きな過電圧を参照電極を用いて測定できるようにするという課題を解決する。
【0026】
本発明の枠内において、連続的な作用電極とは、その縁が、作用領域から、すなわち対電極の縁から遠く離れた状態で配置されており、それによって対電極縁による作用領域の影響を一定して排除できる電極のことである。また、連続的な作用電極という概念は、それの延び及び寸法が、パラメータlよりも大きいことも意味する。
【0027】
対電極に隣接して、本発明による燃料電池は、電解質膜表面上に電極不含の領域を有する。この領域内で、参照電極は、対電極の縁から間隔Lgapで配置される。この間隔は、一般的に膜厚の複数倍に達する。電解質膜の反対側上には、作用電極が延在している。これは、対電極だけでなく参照電極に対して反対側にあり、そしてその点において連続的と見なすことができる。この際、参照電極としては、全ての通例の標準的な参照電極が考慮され、例えば可逆水素電極(RHE=reverse hydrogen electrode)や、またはダイナミック水素電極(DHE=dynamic hydrogen electrode)も考慮され、これらの電極で電解質電位が測定される。
【0028】
図3中に横断面図(a)及び平面図(b)として示したA.A.Kulikovsky及びP.Berg(DE102015001572.9(特許文献1))から知られる配置とは異なり、本発明の本発明による設計における対電極は、参照電極に対して直線状の縁のみを示すのではなく、上から見た場合に、少なくとも、参照電極に対し最も近くに配置されている縁領域中において、小さな曲率半径Rを持つ凸状湾曲領域を有する。これは、最初のアプローチとしては、アノード自体が、図4に見られるように同心的な円板の形で形成されるによって満たされる。
【0029】
曲率半径Rを持つ対電極の凸状に屈曲した領域は、図3に従う対電極のこれまで開示された縁と比べて、参照電極が対電極からその分だけ離れて配置される最小間隔Lgapが、今や、図4に従う配置における対応する間隔Lgapよりもかなり短くなる結果となるという利点及びそれでもなお、作用電極、特にカソードの過電圧を十分な精度で求めることができるという利点を有する。これは、特に小型の燃料電池では決定的な重要性を持つ。
【0030】
参照電極は、本発明による装置では、有利なことに非常に小型に形成することができる。それによって、対アノードの凸状に屈曲した領域の先端が、対電極の最も近い領域になることを保証できる。そうしないと、参照電極の位置での膜電位が、アノードの遠い領域の寄与によって影響を受けてしまう可能性がある。
【0031】
本発明の第一の設計(図5)では、対電極はほぼ凸状の縁を有し、この縁は、半径Rを持つ先端を持ち、そこの直ぐ近くに、参照電極が最小間隔Lgapで配置されている。
【0032】
対電極のこの配置では、間隔Lgapを遙かにかなりより狭く選択することができ、このことは、参照電極を持つ遙かにかなりよりコンパクトな構成を有利にもたらす。それにもかかわらず、このような配置によって、参照電池で測定される電位が、十分な精度をもってカソードの過電圧に一致することが有利に可能になる。
【0033】
過電圧確定のための実際の測定の間は、参照電極に水素を供給する。対電極及び作用電極には、アノードまたはカソードとしての接続に応じて燃料及び酸化剤がそれぞれ供給される。測定の間に、接地された対電極に対する参照セルの電位が測定される。
【0034】
この際、PEM燃料電池は、通常は、水素と空気もしくは酸素を用いて、DMFCはメタノールもしくはメタノール−水素混合物と空気もしくは酸素を用いて、そしてSOFC燃料電池は、水素と空気もしくは酸素を用いて稼働される。
【0035】
特に対電極がアノードとして及び作用電極がカソードとして接続される状況の場合には、参照セルの測定された電位は十分な精度でカソードの過電圧に一致する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明を更に明確に説明するために、加えて、幾つかの選択された図面が役立つが、これは、本発明の対象の限定を意味するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】(技術水準からの)参照電極を備えた例示的な図解的燃料電池装置
図2】(技術水準からの)参照電極を備えた例示的な図解的燃料電池装置
図3】側面図a)及び平面図b)としての(技術水準からの)参照電極を備えた例示的な図解的燃料電池装置
図4】同心的な対電極を備えた平面図としての図解的燃料電池装置
図5】参照電極に最も近い凸状に湾曲した縁領域を持つアノードを備えた燃料電池装置の本発明による設計の図解的平面図
図6】モデル計算のベースとしての、半径Rを有する同心的アノード及び半径Rを有する(無限の)同心的カソードを備えた例示的図解的燃料電池装置
図7】例7からのモデルに従う上記の正規化されたアノード半径R/Iについての、膜層厚lで正規化した半径位置に依存した酸素還元反応の電位の推移
図8】例えばPEM−FCを用いてアノードの縁(凸状に湾曲した縁領域)の正規化された半径間隔に対してそれぞれプロットされた、アノード縁の周りの領域中の膜電位Φ及びカソード側上の局所的過電圧η
図9】酸素還元反応の過電圧が正規化されたアノード半径の関数としてORRターフェル勾配boxの値まで低下する点までのアノード縁の正規化された間隔
【0038】
以下には、数値計算が本発明による燃料電池デザインのベースとして基づく燃料電池モデル及び基礎となる方程式を説明する。
【0039】
この際、以下の記号が使用される。
〜は無次元の変数を示す。
b アノードもしくはカソード反応のための半電池のターフェル勾配(V)
eq 半電池の平衡電位(V)
F ファラデー定数
J 作用領域中の平均電流密度(Acm−2
アノード側上での局所的プロトン−電流密度(Acm−2
カソード側上での局所的プロトン−電流密度(Acm−2
hy 水素交換電流密度(Acm−2
hy 作用領域中での水素交換電流密度(Acm−2
ox 酸素交換電流密度(Acm−2
ox 作用領域中での酸素交換電流密度(Acm−2
gap 対電極の縁と参照電極の縁との間の最小間隔
l,x 対電極の直線状縁とη=boxである点との間の間隔(cm)
1,r 対電極の縁とη=boxである点との間の半径間隔(cm)
膜層厚(cm)
r 半径位置
アノード半径
カソード半径
z 膜表面に対して垂直な座標(cm)
この際、以下の下付の添え字が使用される:
a アノード
c カソード
HOR 水素酸化反応(英語 hydrogen oxidation reaction)
hy 水素
m 膜
ORR 酸素還元反応(英語 oxygen reduction reaction)
ox 酸素
ref 参照電極
x 対電極(counter electrode)の直線状の縁を持つシステム
更に、以下の上付きの添え字が使用される:
+ 正側値
【数2】
∞ 無限半径
加えて、以下にリストするギリシア文字が使用される:
η 局所的過電圧(V)
η+,0 r=0での正側カソード過電圧(V)
σ 膜のイオン伝導性(Ω−1cm−1
Φ 膜電位(V)
Φ 正側膜電位(V)
Φ+,∞ γ→∞の場合の正側膜電位(V)
φ 炭素相の電位(V)
【表1】
【0040】
1.セルモデル及び基礎方程式
図6に示す様に形状及び座標系を有する同心的な電極を備えたPEM−FCを考察する。層厚lを有するポリマー電解質膜の両側に、電極として大表面積のカソード並びに小さなアノードが配置されている。電極と膜との間には、通常、(図7には図示されていない)然るべき触媒層、特にアノード触媒層(ACL=anode catalyst layer)並びにカソード触媒層(CCL=cathode catalyst layer)が存在する。
【0041】
この時、同心的アノードの中央はγ=0に相当し、そして凹みまでのアノードの凸面縁ではγ=Rとなる。このモデルでは同様に、カソードは、半径R(R→∞)を有する同心的な電極として見なすことができる。範囲R<γ≦Rもしくは∞は、アノード不在の領域(凹み部)と称され及び0≦γ≦Rは作用領域と称される。この配置は、図6に図解されている。
【0042】
燃料電池のアノード不在の領域におけるカソード過電圧η及び膜電位Φの分布のためのモデルが開発された。数学的には、この問題は、カソード過電圧ηcのための軸対称ポアソン−ボルツマン方程式に通ずる。この問題の解は、アノード不在領域|η|が半径に依存して0への急速な低下を示し、他方で|Φ|は、セルの作用領域中でカソード過電圧の|η|の値に急速に上昇するということを示す。同心的アノードの半径Rが小さくなるほど、膜電位Φが、作用領域内のカソード過電圧の値ηをより速く達成するようになる。
【0043】
その結果、作用電極間(または作用電極と対電極との間)のカソード過電圧の測定のための参照セル(RE)を、アノードの凸形に湾曲した縁領域の局所的半径Rが小さければ小さい程、この領域のより近くに配置できるようになる。
【0044】
作用電極としての半径Rを持つ同心的カソードが、膜の全領域にわたって延在し(エンドレス)、しかし対電極としてのアノードが膜の表面の一部とのみ接触しているケースが考慮される。アノードの中央はγ=0に相当する。アノードは、半径Raを有する同心的な形状を有し、ここでR<Rである。それ故、アノードと接触していない電解質膜の面上のアノード側に、或る種の空所またはアノード不在領域が生じる。
【0045】
類似して、アノードが作用電極であり、かつ対電極としての同心的カソードが存在するケースも当然に考慮できる。
【0046】
先ず、このシステムでの電流分布及び電位を理解することが目的である。この問題の主な可変値は膜電位Φであり、これはポアソン方程式に従う。
【数3】
【0047】
この際、無限に大きいカソードは、カソード半径が、膜層厚Iよりも数倍桁大きいことを意味している。この仮定は、方程式3におけるz−軸に沿った二次導関数を、膜中への及び膜からのプロトン電流密度の差異で置き換えることを可能とし、これは以下の方程式を与える。
【数4】
【0048】
この際、j及びjは、膜のアノード側及びカソード側の電流密度に相当する。加えて、j及びjがバトラー・モルマー速度論に従うことが推測される。
【数5】
【0049】
この場合、jhy及びjoxは、それぞれ、アノード触媒層(ACL)及びカソード触媒層(CCL)の対応する表面交換電流密度を意味し、η及びηは、アノード及びカソードでの対応する局所的電極過電圧であり、そしてbhy及びboxは、対応する半電池反応のそれに対応するターフェル勾配である。伝達損失が小さいことが仮定されるので、反応体濃度の依存性は既にjhy及びjoxに含まれている。
【0050】
半電池過電圧はそれぞれ次から得られる:
【数6】
【0051】
この際、φ及びφは電極電位を表し、そしてEHOReq=0V及びEORReq=1.23Vは、対応する半電池反応の平衡電位を表す。アノードが接地されており(φ)=0、それ故、φがセル電位を表すことが仮定される。
【0052】
方程式(3)〜方程式(6)を方程式(2)中に挿入しかつ次の無次元の変数を導入することによって
【数7】
次式が得られる。
【数8】
【数9】
【0053】
本発明の枠内において、ここでは、アノード不在領域における膜電位Φの分布が試験された。この領域では、アノード側上の電気発生が消失し、そして方程式(8)は以下に簡素化される。
【数10】
【0054】
ここでは、この方程式は、方程式(6)に従いカソード過電圧の関数として表すことができる。これは、無次元の方程式として次の方程式を与える。
【数11】
【0055】
これを方程式(9)に当てはめると、次式が得られる。
【数12】
正側過電圧を挿入することによって、
【数13】
2.境界条件
【数14】
【数15】
【数16】
【0056】
ここで、Ll,rは、方程式18によって与えられる。このような条件は、通常は、実験室規模の燃料電池とっては規定のものとして見なすことができる。
【0057】
3.様々なアノード半径R
図7では、様々なアノード半径Rについての方程式14の解を示す。この問題の特別な特徴は、アノード縁の非常に近くで、酸素還元反応(ORR)の電位ηの勾配が、アノード半径が小さくなるほど大きくなることである。これは、荷電した金属先端と平面との間のラプラス電位の挙動と質的に類似し;金属先端の半径が狭くなるほど、先端付近の電位が軸対称性に依存して大きく減少する。
【0058】
図7から誘導できる実際上の意義は、大表面積のカソード及び同心的なアノードを備えた燃料電池装置では、アノードの半径が小さくなる程、参照電極(RE)をアノードのより近くに配置できるようになることである。これは、この装置を用いた場合に、カソード過電圧を十分な精度をもって確定するべきこと及び確定できることを前提とする。
【0059】
4.参照電極の位置
【数17】
【数18】
【数19】
【数20】
そして図9では、白抜き円によって示されている。無次元の書き方では、これは以下の方程式となる。
【数21】
【0060】
図4及び5では、それぞれ一つの参照電極を持つ燃料電池の可能な配置を示している。図3は、従来技術による直線状アノード縁を持つ燃料電池における参照セルの配置を示している。この場合、最小間隔は次のようになる。
【数22】
【0061】
表1からのパラメータ及びアノード半径R=0.01cmを用いると、方程式18から間隔L1,γ=1.97cmが得られるであろう。対応して直線状のアノード縁を有する配置では、同じ膜電位は、間隔がL1,γ=3.83cmの時に始めて達成されるであろう。より小さなアノード半径Rでは、湾曲したアノード縁に基づいた利点は更にはるかにより大きくなるであろう。
本願は、特許請求の範囲に記載の発明に係るものであるが、本願の開示は以下も包含する:
1.
ポリマー−電解質膜を含む燃料電池における作用電極の過電圧を求める方法において、前記ポリマー−電解質膜の一方の面には連続的な作用電極を、そして他方の面には対電極が配置されており、かつ接地された対電極に対する参照電極の電位が測定される方法であって、
−前記測定のために、対電極が少なくとも一つの側縁を有しかつこの縁の少なくとも一つの領域において、局所的半径Rを有する凸状湾曲を有すること、
−対電極に隣接しかつ作用電極とは反対側の電解質膜表面が、電極不在領域を有すること、
−参照電極が、電解質膜表面上で、電極不在領域の範囲内にかつ対電極の凸状縁領域の直近に、間隔Lgapで配置されていること、
−この際、上記範囲中の参照電極と対電極の凸状に湾曲した縁領域との間のLgapの最小間隔が以下によって与えられること、
を特徴とする前記方法。
【数23】
ここで
【数24】
ここで
σ=電解質膜のイオン伝導性(Ω−1cm−1)、
ox=作用電極の電気化学的反応のための半電池のターフェル勾配(V)、
=膜層厚(cm)、
ox=電極単位面積当たりの作用電極の触媒の交換電流密度(Acm−2)、及び
=対電極の凸状に湾曲した縁領域の半径(cm)。
2.
参照電極と対電極の凸状に湾曲した縁領域との間の間隔が、対電極の凸状に湾曲した縁領域からLgap〜100Lgapの範囲、有利にはLgap〜10Lgapとの間の範囲、特に有利にはLgap〜3Lgapとの間の範囲で選択される、上記1に記載の方法。
3.
該方法の間に参照電極に水素が供給される、上記1または2に記載の方法。
4.
対電極としてはアノードが、及び作用電極としてはカソードが使用される、上記1〜3のいずれか一つに記載の方法。
5.
対電極の湾曲した縁領域の局所的曲率半径として、0.01と1cmとの間の値、特に0.1cm未満の値が選択される、上記1〜4のいずれか一つに記載の方法。
6.
ポリマー−電解質膜燃料電池(PEM−FC)、直接メタノール燃料電池(DMFC)または高温燃料電池(SOFCまたはHT−PEM−FC)が燃料電池として使用される、上記1〜5のいずれか一つに記載の方法。
7.
上記1〜6のいずれか一つに記載の方法を実施するための燃料電池装置であって、
− 一方の面上には連続的な作用電極が、他方の面上には対電極が配置されている、層厚lを有するポリマー電解質膜を含み、
− この際、前記対電極は、少なくとも一つの側縁を有し、及びこの縁の少なくとも一つの領域に、局所的半径Rを有する凸状湾曲を有し、
− この際、対電極に隣接しかつ作用電極とは反対側の電解質膜表面が、電極不在領域を有し、
− この際、参照電極が、電解質膜表面上で、電極不在領域の範囲内にかつ対電極の凸状縁領域の直近に配置され、
− この際、参照電極と対電極の凸状に湾曲した縁領域との間の最小間隔Lgapが以下によって与えられ、
【数25】
ここで
σ=電解質膜のイオン伝導性(Ω−1cm−1)、
ox=作用電極の電気化学的反応のための半電池のターフェル勾配(V)、
=膜層厚(cm)、
ox=電極単位面積当たりの作用電極の触媒の交換電流密度(Acm−2)、及び
=参照電極に最も近い、対電極の凸状に湾曲した縁領域の局所的半径(cm)、及び− この際、参照電極が、対電極の凸状に湾曲した縁領域からLgap〜100Lgapの範囲、有利にはLgap〜10Lgapとの間の範囲、特にLgap〜3Lgapの範囲の間隔で配置されている、
前記燃料電池装置。
8.
作用電極としてカソードを及び対電極としてアノードを備える、上記7に記載の燃料電池装置。
9.
凸状に湾曲した縁領域が、0.01と1cmとの間、特に0.1cm未満の局所的半径Rを有する、上記7〜8のいずれか一つに記載の燃料電池装置。
10.
連続的な作用電極の寸法が3λ超である、上記7〜9のいずれか一つに記載の燃料電池装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9